注意!

 

# 14 閉ざされた過去

脚本:根元歳三/コンテ:西森 章/演出:鳥羽 聡/作画監督:中島里恵

 怒涛の再構成展開が続きます。そして相変わらず、再構成部分に引っ掛かってモヤモヤしている私です。なにしろ基本的な辻褄があちこち狂ってる。なのに強引に推し進めてある。酷いとまでは言いませんが、マズいと思います。

 

 以下は重箱の隅ツッコミです。相当にグダグダ言ってますので、読みたい方だけどうぞ。





 アバンは《前回のハイライト》で最短。

 

 Aパート。バチカルから走って脱出したルークたちは、荒野のようなところに立ち止まって、追手はいないようだと息をつく。

 

 一方、アッシュも漆黒の翼らと共にバチカル脱出して、彼らの専用自動車に駆け寄っていた……のですが、そこで急に頭痛に苦しみ始め、悔しげに呟きます。

「もう……時間がねぇってのか」

 アニメのアッシュさんは、既に大爆発ビッグ・バン現象について知っているようです。

 原作では、恐らく地核振動停止作戦について盗み聞きしたスピノザがベルケンドから逃走、アッシュが追って捕らえた時に、彼から初めてこの話を聞いたんだと推察出来るんですが。アニメ版ではまだそこまで話が進んでませんので、違う流れになっているのは確実です。一体誰に、いつ教えられたのか?

 考えられる可能性としては、

  1. ジェイド達と別れてすぐ、一人でベルケンドに戻り、スピノザから大爆発現象について教えられた
  2. ディストに教えられた

ってところでしょうか?

 

 再び場面はルーク達側へ。突如飛来するアルビオール。ジェイド達と合流です。

 が、何故かアルビオールに乗り込むことはせず、その場で(?)全員で近況報告会を開いてました。バチカルからそう離れてないんだろうにいいのかな。そしてイニスタ湿原は出ないんですね。

 

 ガイがナタリアを天然タラシ台詞で慰めます。なんとなく原作の該当シーンと比較。

(アニメ版)
#岩に腰かけて悄然と俯いているナタリア。隣に腰かけて心配そうに見つめているイオン。ガイ、ナタリアを見やって一瞬表情を曇らせながらも、笑って覗き込む仕草をして
ガイ「元気出せよ。キミがそんな顔していると、助けてくれたみんなが悲しむぜ」
#目を見開くナタリア
ナタリア「え……」
#優しく微笑んでいるルークとティア
ティア「本当に国の人々から愛されているのね。驚いたわ」
ガイ「バチカルのみんなは、キムラスカの王女じゃなくて、キミが、ナタリアが好きなんだ」
#ガイを見上げて
ナタリア「でも、お父様は……」
ルーク「伯父上だって、あんまりいきなりだったから混乱してるだけだって」
ガイ「陛下も苦しんでいるはずだ。もう一度、話をすることが出来れば、きっと!」
#ルークとガイを交互に見やったナタリア、耐えきれなくなったように両手で顔を覆って泣き始める。
#気の毒そうに見つめる仲間たち。
#ナタリア、やがて涙を拭うと笑顔を作り

ナタリア「……ごめんなさい、みんな。もう大丈夫ですわ」
#ホッとして表情を明るくするアニスとルーク
#ナタリア、立ちあがって

ナタリア「ガイも……ありがとう」
ガイ「ナタリアの笑顔を取り戻すことが出来て、嬉しいよ」
ナタリア「!」
#ジト目の呆れ顔になるルークとアニス
ルーク「……真顔でよくもまあ」
アニス「天然タラシだ」
ナタリア「ふふ。なんだか照れてしまいますわ。でも、本当に――」
#ナタリア、ガイに近づいて握手しようと片手を伸ばす。が、ガイは悲鳴をあげて飛び退いた
ナタリア「……ご、ごめんなさい。忘れてました」
#恥ずかしそうに赤面して目線をそらすナタリア
#ナタリアは勿論、その後ろに見えるルークとアニスの「うへー」って感じの呆れ顔が、むっちゃ可愛いです

(原作)
#湿原を進む一行。最後尾のナタリア、立ち止まってぼんやりしている
ガイ「どうした、ナタリア」
ナタリア「あ……いえ。何でもありませんわ」
ティア「体調でもよくないの?」
ガイ「ジェイド。休憩!」
ジェイド「やれやれ。あなたもお人好しですね。さっきのこともありますから周りには気をつけて下さいよ」←ついさっき、ベヒモスという得体のしれない魔物に遭遇したばかりなのです。
#ガイ、笑って
ガイ「ああ。こんなところでナタリアが怪我でもしたら、バチカルのみんなが泣くからな」
アニス「そうだよねぇ。ナタリアって愛されてたんだぁってビックリしたもん」
ルーク「ナタリアは公共事業を取り仕切ってるんだ。その収益を病気の人とかに施したりとか……。尊敬されてんだよ」
ガイ「ルークが王子だったら、ただ王室で贅沢三昧だな」
#からかわれて憮然とするルーク。ティアはガイの意図を悟って明るく話に乗る
ティア「為政者も個人の資質が重要ってことね」
ガイ「そう。バチカルのみんなは、キムラスカの王女じゃなくてナタリアが好きなんだよな」
ナタリア「でもお父様は……」
ガイ「陛下がどうしてもキミを拒絶するなら、マルクトにおいで。キミなら大歓迎さ」
ナタリア「……あなた、よく真顔でそんなことを言えますのね」
#ナタリアは赤面。ルークは呆れ気味
ルーク「おーい。ガイにたぶらかされて、マルクトに亡命するなよ!」
#おどけた調子で冗談を繋ぐアニス
アニス「それより、インゴベルト陛下に退位してもらって、ナタリアが女王様になれば?」
ナタリア「……ふふ」
#ナタリア笑うが、涙が零れ落ちてしまう
ナタリア「……ごめん……なさい……。いやですわ、泣くつもりでは……」
ガイ「いいんだよ。色々あって、びっくりしたよな」
ナタリア「……ごめんなさい、みんな。もう大丈夫ですわ。ガイも……ありがとう」
ガイ「ナタリアの笑顔を取り戻す手伝いが出来て嬉しいよ」
ナタリア「なんだか照れてしまいますわ」
#ナタリア、両腕を広げてガイに近づこうとする。が、ガイはすごい勢いで飛びのいて、みっともなく震え始めた
ナタリア「……忘れてましたわ。ごめんなさい」

 原作では、ガイに慰められたナタリアは、両腕を広げて彼に近づこうとします。多分、抱擁か頬に親愛のキスをしようとしたかじゃないかなと思いました。西洋文化圏だと、そのくらいなら普通ですしね。でもアニメ版では、より日本人の感覚に合わせたのか(笑)、握手しようとしただけに修正。

 

 おどけた調子で励まされたナタリアが思わず笑って、同時に、今までこらえていた涙がこぼれ落ちてしまうくだりはとても好きだったので、ただワッと泣き伏せた形に変更されていて残念でした。

 

 アニメ版のルークとガイが、口々に《インゴベルト王は混乱していただけ、もう一度話せれば仲直りできる》とナタリアを慰めたので、少し驚きました。

 確かに物語上は、この後もう一度ナタリアがインゴベルトと話すと和解することができます。インゴベルト王が混乱していたのも本当のことでしょう。

 ですが、毒ワインでの自決を強要され、逃げずに熱心に説得したにも拘わらず目の前で《処刑》を宣告された直後なんですよ。命からがら逃げ出したばかりなのに、もう《話し合えばきっと仲直りできるよ》みたいなこと言ってる。彼ら自身も殺されかけたのに、幾らなんでも切り替えが早すぎると思いますし、また、無責任すぎると思いました。そんな単純な親子喧嘩じゃないよ。ナタリアが偽姫であったことは事実で、《繁栄の預言スコア》という背後事情もあるのに。

 

 アニメ版は、キツい台詞はカットしかどを削るのが基本です。今回も「陛下がどうしてもキミを拒絶するなら、マルクトにおいで」「インゴベルト陛下に退位してもらって、ナタリアが女王様になれば?」という台詞を避けて、楽観的かつ無難な慰めを言わせています。ゆるゆると柔らかい。人間の純粋な善性が約束された世界なんですね。

 実は原作も性善説の世界なんですけど、あちらは外側をあえて硬く鋭く覆っている感じがします。まず厳しい現実を見せ、容赦なく突き放し叩き落とす。過酷な情況であればある程、周囲も励まし支えはしても楽観的なことは言いません。それでも諦めずに自力で這い登ると、最後にもう一度天地逆転させて《優しい真実の世界》を見せ、大きなカタルシスを与えると言うか。原作メインシナリオライターさんの他作品にも見られる傾向なので、作風というものなんだろうなと思います。

 余談。原作には、元気のないナタリアをジェイドとアニスが心配するフェイスチャット『ナタリアの今後』があります。ジェイドは、ナタリアはもう自分たちと共に行動しない方がいいかもしれない、自分たちはいずれ再びインゴベルト王と話し合わなければならないが、その時ナタリアがまたも否定されたら、もっと深く傷つくかもしれないからと言う。それでも最後はこう締めくくるのでした。「まぁ、ナタリア自身が決めるしかないのですけどね」。原作キャラ達は、優しいけれど甘くはない感じです。

 

 ガイがナタリアを優しく励ますとアニスとルークが呆れ顔で突っ込みを入れる辺りは、『マ王』漫画版の影響ぽい。原作の該当エピソードは、ナタリアを気遣うガイの優しさをティアが褒めるのでルークが「天然だけどな」と突っ込み、ガイに「お前に天然って言われるとはなぁ」と苦笑されるフェイスチャット『ナタリアの為にできる事』と、ナタリア自身の台詞「あなた、よく真顔でそんなことを言えますのね」かと思われます。

 

 ナタリアが立ち直ったので、話題は今後の方策に移り変わります。崩壊セントビナーの泥海への沈下を阻止せねばなりません。行く先の提案をしたのはイオンでした。

「ベルケンドに行きましょう。ベルケンドの音機関研究所には、創世暦時代、つまり、ユリアの時代からの譜術や音機関に関する資料が、集められているはずです」

 こうして音機関研究所へ行って沢山の資料を調べた結果、ジェイドが《魔界クリフォトの液状化の原因は地核の振動で、その原因はプラネットストームらしい》と結論、《プラネットストームを維持したまま地核を静止させる方法がこの資料に載っていた、ある音機関を作ることができれば可能なはず》と一冊の本を示します。

 

 前回の感想にも書きましたが、セントビナー崩落以降はエピソードの順番がシャッフルされ再構成されており、意味も色々と変わってきています。

 原作では、

 セントビナー崩落直後にユリアシティへ行ってテオドーロに相談シュレーの丘のパッセージリングを操作

という手順で、セントビナー沈下阻止は既に成功させています。その後で

  1. 外殻大地に戻って開戦を知る
  2. ナタリアは偽姫だとモースが暴露(逮捕はしない)、イオンが離脱してダアトに帰還
  3. ザオ遺跡のリングを操作して戦場とケセドニアを降下させる。一時停戦
  4. 全パッセージリングが停止寸前であることが判明し、イオンに秘預言クローズドスコアに対処法が詠まれていないか教えてもらうためダアトへ
  5. 聖なる焔の光ルークに関する秘預言の詳細を知る
  6. モースとディストに逮捕されバチカルに護送、ナタリアとルークが処刑されかけるが脱出
  7. 逃げのびたベルケンドで、ルークをアッシュと間違えた神託の盾オラクル騎士団に捕らえられ、ヴァンと再会する
  8. 合流したアッシュが、イオンから託された禁書を渡す

という展開になります。

 

 原作では《地核静止計画の草案が書かれていた本》は《禁書》と呼ばれています。ダアトの教会の奥深くに収蔵されていた創世暦時代の歴史書。教団が有害指定して回収していたものです。禁書とされた理由は《ユリアの預言と反する》からだろうと原作中では説明されています。

 けれどアニメ版では、キムラスカ王国の音機関研究所に、普通に置いてあったようでした。

 …い、いいのかなぁ。だって、《魔界クリフォトの液状化》の解決案の書かれたこの本は、《セフィロトツリーに支えられた外殻大地》という、ローレライ教団の最高機密に抵触しているのでは? そんな資料がキムラスカ王国の平民が閲覧できる場所にあっていいのでしょうか。

 いや、この本に書いてあったのは《プラネットストームの影響で地核が振動している。静止法はこう》ってことだけで、天才ジェイドだからこそ魔界の液状化と関連付け得た、ってことかもしれませんが…。

 

 振動静止装置を作るため、ガイの先導で音機関研究所員のヘンケンとキャシーを訪ねます。

 キャシーが顔を歪めてガンガン喚く、頭の固いインテリ老女って感じのパワフルな婆さんになっていて、しょんぼりでした。原作でヘンケンの台詞だった部分まで、彼女が憎々しげに喚くことになってて。

『マ王』漫画版でもアニメ版と同じ感じでしたし、私の認識がおかしいのかなとも思うんですが、私、キャシーには《上品なお婆さん》という印象を持っているのです。

 原作だと声優さんも違う人で、可愛い声で。《!》のついた台詞でもヒステリックにがなり立てはしません。また、作中で語られるキャラクター設定も、《昔から優しくて大学院のマドンナだった。ヘンケンとイエモンが彼女を巡って争ったが、どちらとも付き合わなかった》となってます。ちなみにシェリダンめ組のタマラの方は《明るくて男の人ともすぐ打ち解けて、料理上手》で、キャシーとタマラは互いを羨ましく思っていたそうです。つまり若い頃のキャシーは、温和で美人だけれど人見知りをする(男性慣れしていない)タイプだったのだろうと推察できます。

 勿論、年経た現在は、ガイに声を掛けられて「こんないい男に心配されるなんて……」と照れながらも言えるくらい年の功がありますけど、やっぱりキャシーお婆ちゃんは上品で可愛い人だという印象が、私の中では根強いのです。

 

 ガイがシェリダン《め組》を引き合いに出して煽ったので、ヘンケンたちベルケンド《い組》は振動静止装置の作製を承諾します。ここでアルビオールの開発者の名がイエモンで、ノエルの祖父であることが判明。

 

 原作では、音機関研究所の責任者が六神将のディストなので、密かに行動するため知事を抱き込もうということになり、ベルケンド知事邸へ。振動静止装置を作るには未降下のセフィロトで地核の振動周波数を計測せねばならない。位置を知っているセフィロトはみんな崩落・降下しているので別のセフィロトへ行かねばならないが正確な場所が分からない。だから《い組》が測定器を作っている間に、セフィロトの位置を知っていそうでダアト式封咒を解けるイオンを、ダアトに迎えに行こうと決まります。で、知事邸を出たところで逃走していくスピノザを目撃。……という展開になりますが、アニメ版では知事は登場せず、振動周波数測定器はその場ですぐ完成。それを持って音機関研究所を出たところで逃走していくスピノザを見る展開になっていました。

 原作では、その時点で合流していたアッシュがルークたちと別れてスピノザを追ってくれ、一度は捕らえたものの、結局六神将に奪われてしまったと、後にルークに便利連絡網で通信してきます。

 が、アニメ版ではこのエピソードはカット。逃げていくスピノザをルークが追おうとすると、わざわざジェイドがルークの肩を掴んで引き止め、「やめておきなさい」「聞かれていたとしても、大した情報は持っていませんよ。それに、雑魚に構っている暇はありません」と言うのでした。

 あ、あれ? ジェイドがバカっぽい……。(暴言?)

 原作ジェイドは、うかつにも逃げるスピノザをルークたちと一緒にポカーンと見送ってしまいましたが、追跡自体はアッシュに任せます。後にアッシュからの便利連絡網で、スピノザを奪還された、地核振動静止計画がヴァンに漏れたと報告されると、「しくじりました。私の責任だ……」「立ち聞きに気付かなかったのは気を抜いていたからです」と懺悔します。果たして、この情報漏洩が後に《シェリダンの惨劇》を呼んだのです。

 ところがアニメ版は、ジェイドが強いてスピノザを見逃す。スピノザがヴァンと繋がってるのを知っているのに。わざわざ追跡を止めさせて雑魚に構っている暇はありません」って……。なんじゃこりゃ。雑魚がどうこうって問題じゃないでしょー。

 スピノザを無視するのも変だけど、物語進行上、追う訳にいかなかったが故のアレンジかと思いますが、不自然にジェイドに止めさせるくらいなら、《ルークが追ったがスピノザは素早く馬車に乗って逃げた》とか、あるいは『マ王』漫画版のように、スピノザの逃走を《ルークたちが》見るシーン自体をカットするのでも良かった気がします。《盗み聞きしたスピノザが密かに何処かへ向かう》様子を《視聴者に》見せるだけで繋げられたんじゃないかなぁ、とか。

 これでアニメジェイドが、シェリダン襲撃後に「しくじりました。私の責任だ……」と項垂れたりしたら、失笑するしかありません。襲撃されたらあんたのせいだよマジに。ドラマCD版の一万人の命使って無為な障気中和させたジェイドと並んで、アニメジェイドもアレな人になってしまうのでしょうか。

 って言うか。

 アニメ版では、情報はその日のうちにヴァンに伝わり、それを、やはりその日のうちにガイとジェイドが知る(ガイはヴァンと密会し、ジェイドが覗き見る)のですが、二人とも何も手を打ちませんでしたし、仲間に相談すらしませんでした。えええええ。まさかアニメ版では、この情報漏洩はシェリダン襲撃には繋がらないんでしょうか?

 

 地核振動周波数測定器を作ってもらったので、計測のためにセフィロトへ行かねばなりませんが、それがどこなのか分からないという話になります。

#全員で音機関研究所の通路を歩きながら
ジェイド「パッセージリングからセフィロトツリーへ計測装置を入れれば分かると思います。まだ降下していない外殻大地のセフィロトに行く必要がありますね」
ルーク「でも、セフィロトの場所って分かってないんだろ?」
イオン「ダアトに行きましょう。教会に行けば、何か分かるかもしれません」

 あーあ。

 ドラマCD版が物語の大規模な再構成を行い、なのに台詞や展開を修正し忘れて、部分的に辻褄を狂わせてしまっていたものでしたが、アニメ版にも同様の症状が出てきちゃいました。

 確かに原作の該当シーンでも、セフィロトの場所がよく分からない、もしかしたらイオンが知っているかもしれないし封咒の扉を開けるには彼の力が必要だ、と《ダアトへ行く》展開になります。

 でも、アニメ版は原作とエピソードの順番や状況を入れ替えていますので、これだと矛盾が出てしまうんですよ。

 アニメ版では未だルグニカ大陸降下を行っていません。なので、《まだ降下していない外殻大地のセフィロト》へ行きたいなら、ザオ遺跡へ行けばいいのです。

 シュレーの丘やザオ遺跡がセフィロトであることは仲間たち全員が知っています。アニメ版でも。ザオ遺跡から出た後で、それについて話し合っていましたからね。

 ところが誰もザオ遺跡へ行こうと言いません。何故。特に、頭脳派のはずのジェイドが何も言わないのは謎。さっきの「雑魚に構っている暇はありません」といい、今回はジェイドが馬鹿になってる

 ……はっ。まさかアニメ版でも『マ王』漫画版と同様に、ルークたちが戦闘したせいでザオ遺跡は崩壊したってことになってるのかなぁ(汗)。一応、第7話見る限りでは、崩れそうになっただけで、崩れてなかったみたいでしたけど。

 

 原作でダアトにイオンを訪ねると、他に知っている、既にダアト式封咒を解放させられたセフィロトはアブソーブゲートとラジエイトゲートだと教えてくれます。けれどもジェイドは「プラネットストームの発生地点と収束地点ですから、計測には適さないでしょう」と、分かるような分からないような理由で却下しました。そこでイオンは、以前タルタロスで捕まった時に耳にしたリグレットの言葉を思い出し、恐らくタタル渓谷にセフィロトがあると推測して、全員でそこに向かうことになります。

 ところがアニメ版のイオンは、セフィロトの場所について全く心当たりがありません。つまり、アニメ版では未だにアブソーブゲートとラジエイトゲートのダアト式封咒が解かれていないと考えねばならなくなります。

 これは今後の物語の根幹を揺るがす大問題です。ダアト式封咒が開かれていなければ、ヴァンもアッシュも両ゲートの中に入れないからです。

 原作ではこの後、ヴァンがアブソーブゲートを拠点にしてエネルギーの逆流を起こし、全外殻崩落を目論みます。ルークたちはアブソーブゲートの最深部でヴァンと戦うことになる。そして戦いの後、ラジエイトゲートに入ったアッシュが力を送ってくれ、ルークと共に全外殻の安全な降下を成し遂げます。

 アニメ版の現状では上記の展開が不可能です。すると今後は…?

  1. 少し話が進むと「既に両ゲートの封咒は解放させられています」と普通にイオンが言いだして原作通り進行。どうして今回は両ゲートのことを言わなかったのかは謎のまま終わる
  2. イオンが再び六神将に誘拐され封咒を解かされるオリジナル展開を入れる
  3. ルークたちが両ゲートにイオンを連れて行って封咒を解いておくオリジナル展開を入れる
  4. アブソーブゲートで戦わないしアッシュのラジエイトゲートからの手助けもない、完全オリジナル展開になる
  5. 基本設定破壊し、イオン以外のイオンレプリカもダアト式封咒を解けることにする
  6. 基本設定破壊し、封咒を解かずとも壁を壊すなどすればセフィロトに入れることにする

 個人的には《A》になるんじゃないかなーと思っています。今回の終盤にも同系統の矛盾が出てますし、どうも、深く設定を考えてないんじゃないかって気がするんですけど…。

 なんて言ってて、すごい緻密に組み替えられたオリジナル展開が来たらすみません。

 

 ベルケンドの街に落ちる日はそろそろ傾き始めています。ガイがキラキラする目で測定器を眺めながら最後尾を歩いていると、二人の子供が駆けてきてメモを一枚渡しました。不思議そうに一読して、ガイはハッと表情を強張らせます。

#先へ進む仲間たちの中から、ルークだけが気づいて歩み寄ってくる
ルーク「どうした、ガイ」
#駆け去っていく子供たち。ガイ、朗らかに
ガイ「悪い。先に行っててくれ」
ルーク「は? ちょ、何だよ」
ガイ「この街にしかない、珍しい音機関があるんだ。(ルークに測定器を持たせて)折角だから見ておきたくって」
ルーク「はぁ? こんな時に?」
#ガイ、笑顔で片手を振って逆方向に駆けて行ってしまう
ガイ「じゃあ、そういうことで」
ルーク「あっ。ガイ! ……ったく。(ガックリし、受け取った測定器を見ながら)困った奴だぜ」
#他の仲間たちもやっと立ち止まって見ている

#日が更に落ち、夕暮れ。倉庫街のようなところで独り、誰かを待っているガイ。キョロキョロしていたが、足音にハッとする
#夕日を背にして歩いてくるヴァン

ヴァン「なにやら動き回っているようだな」
ガイ「もう聞いたのか。いい子分を持ったな」
ヴァン「私を止めることは、出来ない」
ガイ「……」
#不機嫌そうに、僅かに顔を歪めるガイ
ヴァン「私のもとに来い」
ガイ「もう俺は付き合う気はないね」
#右手を差し出すヴァン
ヴァン「一度は、共に進むと誓いあったはずだ」
#ガイは顔を背ける
ガイ「あんたのやり方には付いていけない」
ヴァン(手を下ろして)私のやり方なら、ホドは甦るぞ」
ガイレプリカでな。(鋭い目を向けて)ホドは滅んだ。俺たちの故郷は、もう消えてしまったんだ」
ヴァン「忌まわしい記憶と共にか」
#ガイ、パッと不思議そうに顔を上げて
ガイ「?」
ヴァン「まだ思い出せぬのだろう? 記憶と共に、怨念までも忘れ去ってしまったか。貴公は、私が剣を捧げたあるじ。共に来ていただきたい」
ガイ(僅かに目線をそらして)……俺を主だと思ってくれているんなら、言うことを聞いてほしいね。(ヴァンを見上げて)――ヴァンデスデルカ、今すぐ馬鹿な真似はやめるんだ。それが聞けないのなら、剣を返す」
ヴァン「……聞けません。ガイラルディア様」
ガイ「ならばもう、お前とこうして会うことはない」
#目線を外し右手を握りしめるガイを、じっと見つめるヴァン。やがて顔を上げて
ヴァン「……分かった。さらばだ」
#躊躇なく歩き去っていく。ここのカットは絵が斜めになってて、凝ってました。
#遠ざかる背に視線を送るガイ。脳裏に浮かぶのは、平和なホドでの幼少時代、ヴァンと兄弟のように過ごした日々。
#そんなガイから少し離れた倉庫の陰にジェイドが佇み、光る眼鏡のブリッジをチャッと音を立てて押し上げる。
#どーでもいいけど、大佐が隠れてる倉庫と倉庫の間が、どうも五十センチ幅くらいにしか見えなかったので、岩の隙間に潜むカニを思い出しました

 原作でガイとヴァンの会話を盗み聞きするのはルークでした。なんでまたジェイドに変更……?(汗)

 このエピソードは、原作の期間限定のサブイベント『ガイとヴァン』をアレンジしたものです。これはルークとガイが関わる二つのメインシナリオイベントの後に起こります。

 偽姫事件後に逃げ込んだベルケンドで、神託の盾オラクル騎士団にアッシュと間違えられたルークは、仲間たちと共に音機関研究所のヴァンの部屋へ連行されます。けれどヴァンは冷たく「雑魚に用はない。あれは劣化品だ」と言い放つ。ショックを受けたルークに追い打ちをかけるように、ヴァンはガイが本来は自分の主人であり、ファブレ家で再会した時から、共にホド消滅の復讐を誓った同志だと暴露するのでした。これが第一のイベント。

 音機関研究所を出てから、ルークがガイにヴァンとの関係を尋ねる第二のイベントが起こります。この二つが終わると、やっとサブイベント『ガイとヴァン』が起こせるようになるわけです。

 

 ところがアニメ版では、第一のイベントは(一部の会話文を除いて)現時点ではカット。第二のイベントは順番を入れ替え、今回Bパートのガイの記憶回復後にアレンジ挿入しています。

 個人的な思いを言えば、この再構成は至極残念でした。これに関しては後述します。

 ここでAパート終了。

 

 Bパート。ダアトに着いた一行。

 ベルケンドではノエルも一緒に街を歩いてましたが、今回は飛晃艇にお留守番みたいです。ノエルの台詞がないからかな。

 

 あ。前にダアトに来た時、賑やかな市場を馬車が走ってて、危なくないのかなと気になってたんですが、ちゃんと歩行者道と車道が別れてるんですね。なるほど。

 

 市街地を歩くイオンに、街の人々が親しげに挨拶をします。「イオン様、お友達いっぱいいるですの」というミュウの声を聞いて「駄目だって言ってるのに、す〜ぐあちこちお散歩に行っちゃうからぁ」と不満げなアニス。第6話で朝のお散歩してて漆黒の翼に誘拐されてましたが、無断の散歩はアニメイオンの悪癖なのでしょうか。

 街を歩き回って人々と親しく接するイオンの姿は、多分、『マ王』漫画版外伝5から採ったエッセンスだと思いました。いつ頃 絵コンテ描いてたのか分かる感じ。

 

 街なかで、アニスの母・パメラと出会う。ちゃんとおっとりした性格に演出されていて安心しました。生活力が無かったり預言スコアに依存しきっている駄目なところは勿論、登場するなりアニスに駆け寄って抱きつかせたことで、愛情深いところも自然に表現されていましたし。でも、「あら あら あら」という口癖が消されてたのは残念……。そう言えばドラマCD版でも『マ王』漫画版外伝でも、パメラのこの口癖は採られてなかったですね。何故なんでしょう。

 

 原作だと、パメラの初登場はダアト初訪問時、つまり軟禁されたイオンとナタリアの救出時になります。アニメ版ではそれをここに回したため、原作のこの時点で出ていた伏線を入れる余地がなくなってしまいました。ダアトの教会を訪れたアニスが、暗く「……ごめん。パパ、ママ」と呟く奴。

 これはレプリカ編の、アニスがスパイだと判明するエピソードの伏線です。原作では、この辺りからアニス関連の伏線が色々と張られ始めるのですが、アニメ版では今のところ皆無と言っていいと思います。ガイの伏線は原作より多く執拗なまでに張られていたことを思うと、少し不満です。

 

 屋根の上にライガとライガルを連れたアリエッタが現れ、唐突に攻撃。いち早く気づいたジェイドが「危ない!」とイオンとパメラを両脇に抱えて退避。アニスの「根暗ッタ」という呼びかけに怒っての原作アリエッタの台詞「アニスなんか大嫌いッ! ママたちの仇、取るんだから! 行けぇっ!」が、「行けぇっ!」だけに短縮。「イオン様は渡さないんだからっ!」はカットでした。

 久しぶりの戦闘シーン。原作アリエッタが魔物を指揮したリ譜術を使う時の動作パターン、ヌイグルミを両手で持ってぐっと前に差し出すポーズは、やっぱり再現されず。

 

 原作では、ダアトから急ぎ出ようとしていたルークたちを、アリエッタとライガたちが道を走って追ってきます。ルークとガイ、ティアとナタリアが前に駆け出して戦闘開始、しかしライガたちが前衛のルークとガイを突き倒して後衛側へ入り、イオンを背に庇っていたアニスに雷の息を吐きかける。結果的にイオンまで雷に打たれそうになり、パメラが「イオン様! 危ない!」と飛び出して庇う、という展開でした。直後にジェイドがアリエッタを背後から拘束し、魔物を退くよう要求。イオンに「アリエッタ! パメラを巻き込むのは筋違いでしょう!」と厳しく言われ、泣きそうになって要求を呑む。倒れて治療されているパメラにイオンが呼びかけると、彼女は「イオン様を護れたなら、本望です……」と苦しい息の下から微笑む。その様子を見たガイの脳裏に過去の情景がフラッシュバックし、「……思い……出したっ!」 と膝をつく。

 対してアニメ版は混戦。アニスは最後衛でイオン、パメラ、ミュウを守って立っていましたが、イオンが逃げ遅れて震えている子供を発見、アニスの背から離れて駆け寄ってしまう。そこにちょうど、ガイが避けたライガの雷の息が。流れ弾ならぬ流れ息。パメラが無言で駆け込み、子供を守るイオンを庇っていました。彼女が倒れる様子を見たガイの脳裏に過去の情景がフラッシュバック。アリエッタは拘束されることなく屋根の上にいて、「ママ、ママ!」と悲痛な声をあげているアニスを動揺しつつ見下ろしています。原作より《良い子》に演出されてますね。イオンが「アリエッタ! もうやめなさい!」と厳しく言うと、悲しそうな顔でライガたちを退かせ、その背に乗って屋根の上を駆け去るのでした。そしてガイが「……思い……出したっ!」 と膝をつく。

 

 正直、パメラがイオンを庇うシーン、変でした……。どうしてパメラが雷に打たれる瞬間を描写しないんでしょうか。おかげで何が起こったのか分かりにくいです。また、パメラの「イオン様を護れたなら、本望です……」という台詞をどうしてカットしたんでしょうか。

 女性が誰かを庇って傷つき倒れる情景は、第3話のラストシーンでも成立しています。ティアがルークを庇って神託の盾オラクル兵に腕を斬られ、倒れていました。なのに、どうしてその時はガイの記憶は甦らなかったのでしょうか?

 それは、パメラの「イオン様! 危ない!」「イオン様を護れたなら、本望です……」という台詞がキーワードになっていたからです。マリィベル・ラダンが「ガイ! 危ない!」とガイを庇って殺された時、死の間際に「ガルディオス家の跡取りを護れたなら本望だわ……」と言った。だから原作のガイは、パメラが倒れた瞬間ではなく、治療されながら苦しげに「イオン様を護れたなら、本望です……」と言った瞬間に記憶をフラッシュバックさせるのです。

 なのにアニメ版は、パメラの台詞もマリィベルの最期の言葉もカットして、パメラがイオンを庇った瞬間に記憶がフラッシュバックした形に描き直していました。

 なんでわざわざ辻褄が合わない形に変えてしまうのでしょうか…。ガッカリです。

 

 教会の礼拝堂で、家族が殺された時の記憶が戻ったことを、ガイが告白します。

 十六年前の回想。綺麗に何もない暖炉の中に入っている五歳のガイと、「お前はガルディオス家の跡取りとして生き残らなければなりません」と言い聞かせている姉、マリィベル・ラダン。

 ところでアニメ版の暖炉。どこからどう見ても隠れられる場所が全くないんですが、どうやって身を隠せと(^_^;)。バイブル小説のように煙突の中によじ登ろうともしてないし。融通きかせて子供一人なら隠れられそうなデザインにしてくれればいいのになぁ。

 …と思ったんですが、原作で「ここに隠れて。物音一つたてては駄目ですよ」と言っていたのを「ここから出てはいけませんよ」に修正してましたので、暖炉に隠そうとしたんじゃなく、暖炉に避難させて自分やメイドたちで戦うつもりだったのでしょうか? アニメ版のマリィベルは。

 

 ホドに攻め入ったのはファブレ公爵ですが、原作のこのシーンでは、部屋に乱入してきたのはキムラスカ王国軍の下級兵士(キムラスカボーン)で、ファブレ家私設軍の白光騎士団ではありませんでした。でもアニメ版では白光騎士団に修正してありました。

 また、マリィベルが背を斬り裂かれながら幼いガイを胸に抱いて倒れ込む様子がはっきりと描かれていました、が……。確かに原作でも、

《悲鳴を上げる幼いガイの正面アップ→背を斬り裂かれながら倒れ込んで来るマリィベルの姿》

という映像なんですが、テキストの方を注意していると、ガイは多分、背中からマリィベルに抱きしめられたんだと思うんですよね。だからコーラル城でアニスに背中からしがみつかれた時、いつにないほど取り乱して怯えたんだと思うんですよ。アニメ版ではカットされてますが、原作のコーラル城後のフェイスチャット『女性恐怖症を治そう』で、ガイは背中から女性に触れられると異常なほど反応するようだとジェイドが語ってますし、レプリカ編でのサブイベント『克己』でも、足をくじいた女性を運ばねばならなかったとき、背負うのは無理だと言って前に横抱きして運んでました。女性に背中から抱きつかれるのが最大のトラウマなのだと思います。

 てっきりアニメ版ではここを補完して、ちゃんとガイが背中から姉に庇われる映像を見せてくれると思っていたので、結構ガッカリしました。

 それに、原作のマリィベルは自他に厳しくて凛として、最期も「ガルディオス家の跡取りを護れたなら本望だわ……」と言うなど、武家の娘と言うか、誇り高さを感じるキャラだったのに、アニメではしくしく泣きながら死んでいったので、イメージ違うなぁと思いました。ヴァンですらマリィベルの気性には敵わなかったという設定なのに。

 

 回想が終わり、全員での会話。

(アニメ版)
イオン「では、あなたの女性恐怖症は……」
ガイ(頭を無造作に掻いて)情けないねぇ。命をかけて守ってくれた姉上たちのことを、忘れちまって。おまけに怖がっていたなんて」
ティア「情けないだなんて、そんな!」
ルーク「……その。指揮を執っていたのが、(苦しそうに目線を下げて)親父なのか」
#ガイ、頭を左右に振り、ルークを穏やかに返り見て
ガイ「お前には関係ない話だ。気にするな」
ジェイド「ヴァンとは、その頃一緒だったのですか?」
ルーク/ティア「!?」
ジェイド「ベルケンドで、ヴァンと会っていましたね」
ガイ「気付いていたのか。流石だな」
ティア「兄さんと!?」
#ガイ、ルークとティアの方を見て
ガイ「ヴァンは俺の守り役だった。(微笑んで)ルーク。俺とお前みたいなもんかな」
ルーク師匠せんせいと……ガイが?」
ジェイド「何を話していたのですか?」
ナタリア「大佐! ガイを疑っていますの? そのようなこと……」
ガイ「奴とはファブレ公爵の屋敷で再会した時から、復讐を誓いあった仲だ。(ルークたちの方に身体を向けて)だが、今は違う。(左手握りしめて)信じてくれとは言わない。だが……」←第12話のカースロットイベントの時は似たような台詞をニコニコ笑って言ってたのに、今回は必死に言っている。製作スタッフによってニュアンスが全然変わっちゃうんですねぇ
ルーク「信じる!」
#ルークの強い声に、ハッとして注目するガイや仲間たち。ルーク、強く揺るがぬ表情で
ルーク「俺は、ガイを信じる!」
#ナタリア、真剣な顔で頷いて
ナタリア「わたくしも信じます」
ティア「ええ」
イオン「当然です」
ミュウ「はいですの」
#アニスだけ、胡乱げな顔になって
アニス「みんな甘いなぁ。どうなっても知らないよ?」
#ジェイド、背中を合わせたガイを返り見ながら
ジェイド「ヴァンのことです。スパイを送り込むつもりなら、もっと巧くやるでしょう。儀礼的に疑ってみました。(笑って)一応ね」
#ジェイドに向かってフッと微笑むガイ

 前述したように、これは原作の二つのエピソードを合成したものです。

(原作・記憶回復後のガイ)
ジェイド「あなたの女性恐怖症は、その時の精神的外傷ですね」
ガイ「情けないねぇ。命をかけて守ってくれた姉上の記憶を『怖い』なんて思っちまうとは……」
ルーク「そんなことねぇよ。おまえ、子供だったんだろ? 軍人が攻め込んできて目の前でたくさんの人を殺されて。怖いって思うの当たり前だ」
ナタリア「そうですわ。それなのに私、あなたが女性を怖がるの面白がっていましたわ……。(俯いて)ごめんなさい」
#辛そうなアニスと申し訳なさそうなティア
アニス「……ごめんなさい」
ティア「私も謝らないといけないわ。本当にごめんなさい」
#ガイ、笑いながら無造作に頭を掻いて
ガイ「……ははっ、何言ってるんだよ。そんなの俺だって忘れてたんだ。キミたちが謝ることじゃないだろ。気にしないでくれ」
ジェイド「ガイ、気分は? もう動けますか?」
#ガイ、殊更に明るく
ガイ「もちろん」
ジェイド「なら、そろそろダアトを離れましょう。また六神将と鉢合わせては具合が悪い」
イオン「そうですね。確かシェリダンへ向かうんでしたよね」
ガイ「ああ。俺のことよりヘンケンたちが心配だ」
ルーク「ガイ、無理するなよ」
ガイ「全然してねぇよ。行くぞ」

(原作・ベルケンドでのヴァンとの再会後)
#第一音機関研究所から宿屋へ向かう道中で
ルーク「なぁ、ガイ。あの、さっきの師匠せんせいとおまえの話だけど……」
ガイ「ん? ああ、あれか……」
ルーク「おまえがカースロットで俺を襲ったのって……」
ガイ「……そうだな。ヴァンがいったことは本当だ。あいつと俺は同志だった。だが……今は違う。あいつと俺の目的は違ってしまったからな」
ティア「それを私たちに信じろと?」
ジェイド「こちらが疑り深いことはご存じですよねぇ」
アニス「そうそう」
ナタリア「おやめなさい! 私たちの誰もがルークを見捨てた時、ガイだけはルークを迎えに行きましたわ。そのことまで否定なさいますの?」
ジェイド「作戦かもしれませんよ」
ルーク「!」
ガイ「信じろとは言わないよ。俺をヴァンの回し者スパイだと思うなら、俺はキミたちと離れる。それだけだ」
ルーク「……俺は……ガイを信じる」
ガイ「いいのか?」
ルーク「……だって、俺はガイに信じて欲しいからさ。俺が変わるってこと。それを見てて欲しい」
ガイ「……そうか」
ナタリア「ガイは敵国の人間でありながら私を力付けてくれましたわ。あれが私たちを欺く演技だとは私には思えません!」
ティア「私はガイを疑ってはいないわ。兄さんがガイを回し者スパイとして使うつもりなら、もっと巧妙に隠す筈だもの」
ジェイド「ええ、それは同感です。儀礼的に疑ってみました。一応ね」
アニス「……そうやって甘くしてると、いつか凄いしっぺ返し食らうよ。ま、私はいいんだけどね。忠告したし」
ガイ「はは。まあなんでもいいさ。これからも頼むよ」
ルーク「こっちの台詞だよ。ガイ……俺、おまえを信じてるから」
ガイ「……ああ。わかってるよ」

 比較すればお分かりかと思いますが、原作では《ルークとガイ》の友情の話なんですよね。ところがアニメ版では、最終的に《ジェイドとガイ》の友情で終わっているよーな。(^_^;) 何故に。

 原作の『ガイとヴァン』イベントでのガイの台詞、

「……ルーク。俺は過去と決別してきた。もうヴァンに惑わされることはない。
 俺を信じてくれて、ありがとう」

が好きだったので、この台詞やシチュエーションが採られず、ニュアンスも消えてしまったのは残念でした。

 

 第10話のルークは、原作よりもうじうじして《可哀想オーラ》を強く発散していたものですが、今回のルークは、原作よりも強くて男気に溢れています。全く何の揺らぎもなく「信じる! 俺は、ガイを信じる!」と言い切りますからね。

 原作の、ヴァンと再会した直後のルークは、多分崩落編で一番凹んでます。大好きだったヴァンに存在否定され、兄のように思うガイもヴァンの同志だったと分かる。復讐者だということはもう知っていたけれど、まさか二人で共謀していたなんて。「……俺は……ガイを信じる」と言いながらも、 「ガイ……俺、おまえを信じてるから」と念を押すあたり、相当にこの現実が辛かったし不安なんだなと感じます。《ルークの日記》の方には

「俺は最初からアッシュの代わりだったんだ。それに、ガイの奴も、ヴァン師匠の同志だったらしい。……もちろん今は違うんだろうけど。だけど、俺は最初から、ずっと一人だったんだなってわかった。」
「駄目だ駄目だ! 落ち込んでどうする。こんなことわかってたことじゃないか! ガイのことも師匠のこともつらいけど、でも現実なんだから。それにガイのことは俺が信じなくてどうするんだよ。」

と書いてあります。

 私はこの辺のルークの可哀想っぷりに、どっぷり感情移入したクチだったので、消されちゃってしょんぼりでした。コンパクトにまとめながらしっかりした友情の絆が見えるから、これでいいんだなと思いつつ。

 強く描いてほしかった場面はひ弱に描かれ、苦しみを描いてほしかった場面は骨太に描かれてしまう。ままならないものですね。

 

 なお、アニメ版では例によってティアにヒロイン補正がかかって、ガイを疑う言動はカットされ、綺麗で優しいことしか言わない少女にアレンジされています。そしてやはり例によって、その分のしわ寄せがアニスに行ってしまっている感じです。アニスだけプラス補正を一切されません。

 

 ところで私個人の妄言なんですが、ジェイドがガイとヴァンの密会の盗み聞きをするというシチュエーションが、どうにも納得できないです。

 あの状況で盗み聞きするということは、ルークやティアたちを誤魔化して、ガイの後を一人ですぐに追ったということですよね。ジェイドはそんな面倒くさいことはしないと思うのです。つか、スピノザを追おうとするルークを止めてたのに、自分はガイを追うのか。

 ガイが不自然に立ち去った時、ヴァンと繋がりがあるのではと推理するまではアリとして、独りで追って盗み聞きするのはジェイドっぽくないような。だって必要ないじゃないですか。カースロット後の様子を見る限り、ガイが今更ルークを裏切るとも思えない。泳がせておいて、帰ってきたら言動の様子を見て、気になるなら「ところでヴァン謡将とのお話はどうでしたか?」なんてカマかけて、内容をゲロさせれば充分です。

 絵面のインパクトは減るかもしれませんが、ジェイドに覗き見はさせず、ただ、カマをかけてヴァンと密会したことを話させて、それでルークが「俺はガイを信じる」と言う、みたいな感じの方が良かったなぁ。話の中心にいるのはあくまでルークで。

 覗き見役をジェイドにしたせいで、話の軸がずれちゃったと思うのです。例えて言うなら、ナタリアとアッシュが夜明けに約束の言葉を語り合っているのを目撃するのが、ルークじゃなくてティアになってるよ―な感じ。或いは、ケテルブルクでネフリーからジェイドの過去について教えられるのが、ルークじゃなくてイオンになってる感じ。

 話は通じるけど、なんか変。だと思う。

 主人公はルークなので、その辺宜しくお願いします……。

 

 場面切り替わり、譜石が幾つも置いてある暗い部屋になります。原作では礼拝堂の講壇(祭壇?)そのものが《第一から第六までのユリアの譜石を結合させ加工した譜石》なんですが、『マ王』漫画版では祭壇の後ろに地下への入口が隠されていて、そこに加工譜石が安置されているアレンジになっていました。アニメ版はそれを更にアレンジした感じです。

 導師は譜石の欠片から全てを詠み取ることができるという設定は説明せず。イオンは言います。

秘預言クローズドスコアを調べてみれば、セフィロトの場所が分かるかもしれません」

 何故。

 温泉宿の住所を知りたくて図書館で百科事典を調べるくらい謎行動です。

 

 この後、ユリアの預言スコアにはレプリカルークの存在が詠まれていない、預言は狂っているのではという話題になりますが。原作とは意味が全く違うことになっています。まずは原作版をご覧ください。

(原作)
ティア「――ローレライの力を継ぐ者って誰のことかしら」
ナタリア「ルークに決まっているではありませんか」
ティア「だってルークが生まれたのは七年前よ」
ジェイド「今は新暦2018年です。2000年と限定しているのだから、これはアッシュでしょう」
ティア「でも、アクゼリュスと一緒に消滅する筈のアッシュは生きています」
アニス「それ以前に、アクゼリュスへ行ったのはルークでしょ。この預言スコア、おかしいよ」
ガイ「確かにアッシュも後から来たが、奴はあの時点で聖なる焔の光ルークと呼ばれてた訳じゃないしな」
ティア「ユリアの預言にはルークが――レプリカという存在が抜けているのよ」
ルーク「それってつまり、俺が生まれたから預言が狂ったっていいたいのか?」
ティア「……ルーク?」
#神託の盾オラクル兵が駆け込んできて、会話は中断される
 
#モースとディストに逮捕され、バチカルに護送される。
#護送船の船室で会話

ガイ「俺たちはどうなるんだ?」
ジェイド「ルークは処刑されるのでしょうね。預言通りにするために」
ルーク「……その方がいいのかもな」
#ティア、驚いて椅子から立ち上がってしまう
ティア「ルーク! 何を言っているの!」
ルーク「だってそうだろ。俺が生まれたからこの世界は繁栄の預言から外れたんだ。だから預言にないセフィロトの暴走も起きたんじゃないか」
#ガイ、不機嫌をあらわにして
ガイ「おまえ、何言ってんだ」
ルーク「そうとしか思えないよ。それにティアだって言っただろ。ユリアの預言には俺が存在しないって」
ティア「馬鹿!」
ルーク「ば……馬鹿とはなんだよ!」
ティア「私はただ、あなたがユリアの預言に支配されていないのなら、預言とは違う未来も創れるって言いたかっただけよ!」
ルーク「……ティア……」
ティア「あなた、変わるんじゃなかったの!? そんな風にすぐ拗ねて! もう勝手にしたらいいわ!」
ルーク「ティア……ごめん……」
#背を向けて返事をしないティア
ティア「………」
ルーク「……ごめん……」
 
#バチカル城で、ルークとナタリアは毒ワインでの自決を強要される。
#が、そこにティアの眠りの譜歌が響き、仲間たちが救助にやってくる。
#ナタリアとルークの希望で逃げる前にインゴベルト王と話をすることになり、謁見の間に向かうことに

ルーク「ティア」
#仲間たちを追って部屋を出ようとしたティアを呼びとめるルーク
ルーク「……船で馬鹿なこと言ったから、見捨てられたと思ってた。(嬉しそうに)来てくれてありがとう」
#ティア、ルークに背を向けて頬を染める
ティア「……ば、ばか」

 というわけで、《預言に詠まれぬレプリカという存在》という物語要素に加え、《ルークとティアの絆が深まる》萌え要素をも持つエピソードです。

 ところがアニメ版は、萌え要素の方を完全削除しただけでなく、わざわざオリジナルのギスギス要素を付け加えているのでした。

(アニメ版)
#ナタリア、真剣な表情で
ナタリア「ローレライの力を継ぐ者の名前は、《聖なる焔の光》。古代イスパニア語で、ルーク」
アニス「やっぱり、ルークのことなのかな」
ガイ「いや。アッシュだろう。だがローレライの力を継ぐ者は、鉱山の街と共に消滅するとあった」
アニス「でも、アッシュは生きてるよね。そもそも、アクゼリュスへ行ったのはルークの方だし。この預言スコア、なんか変」
#ナタリア、ハッとしたように顔をあげて
ナタリア「レプリカです! この預言にはルークが――レプリカという存在が抜けているのです」
#真剣な目でナタリアに言うルーク
ルーク「それって、俺が、レプリカが生まれたから、預言が狂っちまったってことなのか?」
ナタリア「………」
#気まずげに目を伏せて両手を握り合わせ、何も言わないナタリア
ティア「今は、セフィロトの位置を確認することの方が先決よ」

 どうして預言にレプリカが欠けていることを指摘する役をナタリアに変えて、しかも気まずげに沈黙する描写を付け加えたのでしょうか? 「そんなこと言っていませんわ」と驚いて否定するとか、そういう展開ではいけなかったのでしょうか?

 これでは、アニメ版のナタリアが《レプリカルークが生まれたせいで預言が狂った。それは悪いことである》と本気で考えていることになってしまいます。

 ルークがレプリカだと判明した直後の時期なら、そういう反応でも納得できました。でももう、ルークに向かって「本当に変わりましたのね」と微笑みかけ、偽姫として処刑されかけた時はルークに何度も背に庇ってもらい、バチカル脱出の際には手を引いてもらった。励ましてもらった。大切な幼なじみで友達でしょう。なのにこの態度。

 ここでナタリアを悪役にする意味が本気で分かりません。まさか《偽ヒロインのナタリアに存在否定されて傷ついたルークを、真ヒロインのティアが存在肯定して励ます》という対比展開にしたいのでしょうか。

 このアレンジには非常に腹が立ちました。原作にない言動を捏造してまでナタリアを貶めただけでなく、同時にティアを一切の罪穢れのない傍観者、調停役にしている。ナタリアを当て馬化しています。

 

 聖女ティアたんが、ギスギスしているルークとナタリアを「今は、セフィロトの位置を確認することの方が先決よ」と調停しますと、それまで苦しそうに座り込んでいたイオンが顔を上げ、こう言います。

「セフィロトの一つは、タタル渓谷にあります」

 何故。

 あなたがさっき詠んだ預言のどこにも、一言だってタタル渓谷なんて出てなかったじゃないですか。

 

 かくして、筋の通らないまま強引に物語は押し流されていきます。

 

 タタル渓谷へ。そこがかつて疑似超振動でルークとティアが飛ばされた場所だということを説明しませんでした。

 原作で、ティアがルークとの仲をからかわれて「ありえないから」と冷たく言うエピソードがあまり好きではないので、それがカットされたのはホッとしたんですが、セレニアの花畑でティアと並んで「俺の旅は……ここから始まったんだ」と言う、フェイスチャット『始まりの場所』ネタはあった方が嬉しかったなぁ。その花畑で青色ゴルゴンホド揚羽を見つけることにして、そのまま地震が起きてアニスが落ちそうになる展開に繋ぐとかでもよかったのに。尺的に無理ならヴァンとガイの密会をカットで。(オイ)

 

 アルビオールでタタル渓谷に降りた一行が狭い崖道を歩いていると、青い蝶が飛んでいるのを発見。アニスが「あ〜〜〜〜っ!? あれは、幻の《青色ゴルゴンホド揚羽》! 捕まえたら、一匹辺り400万ガルド!!」 と叫んで、追って走り出す。そこに突如起きる地震。崖に落ちかけたアニスの手を、一番近くにいたガイが手を伸ばして掴み、引き上げる。

 原作では最初にアニスの手を掴んだのはティアで、次に駆け付けたガイがティアの手ごとアニスの手を掴んで引き上げるんですけど、簡略化されていました。

 ナタリアの台詞「偉いですわ。いくら過去のことがあっても、あそこでアニスを助けなければ見損なっていました」がカットされていたのはホッとしました。

#崖から引き上げられ、緊張のあまりはあはあと息をついているアニスと、その前に座り込んでいるガイ。仲間たちが駆け寄る
ナタリア「大丈夫ですか?」
アニス「う、うん……私は大丈夫。だけど……」
#アニス、顔をあげてガイを見つめる。他の仲間たちやルークもガイを見、ハッとしたように
ルーク「ガイ。お前……」
#呆然と、先程アニスの手を掴んだ自分の手を見つめるガイ
ガイ「……さわれた……」
#傍らのルークを見上げて
ガイ「俺も、少しは前へ進めているのかな」
#ガイを覗き込んだ姿勢のまま、優しい微笑みを返すルーク

 ルークとガイの立場がいつもと逆転しているみたいに見えて、印象深かったです。支えあえる友人関係っていいですね。

 原作ではこの後、

アニス「や〜ん、アニスちょっと感動♥」
ジェイド「ガイはマルクトの貴族でしたねぇ。きっと国庫に資産が保管されていますよ」
アニス「ガイ♥ いつでも私をお嫁さんにしていいからねv
ガイ「……遠慮しとくわ」

 というコミカルな会話が続くんですが、カットでした。第12話の、ピオニーの私室での会話にエッセンスを使っちゃってるからでしょうね。

 

 ところで原作未見の方々の感想を見ると、ほぼ全ての方が、これでガイの女性恐怖症が完全に治ったと思っておいででした。原作だとこの直後に、女性陣に触られまくったガイが悲鳴を上げるフェイスチャットが発生するので、まだまだ完治していないと分かるんですが。……もしかしてアニメ版では、マジにこれで完治なのでしょうか?

 

ティア「それにしても、今の地震……」
イオン「ええ。セフィロトの暴走によるものかもしれません。急がないと」

 いつの間にかセフィロトが暴走していることになっています。

 確かに、原作のこの時点ではセフィロトが暴走しパッセージリングの耐用限界が近づいて、地震が頻発し全外殻大地崩落が近づいています。ルークたちが地核振動静止して魔界の液状化を収めようとしているのは、崩落の近い全外殻大地を安全に魔界に降下させ、リング停止後も泥海に呑まれないようにするためです。

 しかしアニメ版では未だに、

  • ルークがアクゼリュスのセフィロトツリーを消したので、同じツリーに支えられていたセントビナーも崩落した

というだけの状況です。アニメルークたちが地核振動静止をする理由は、崩落セントビナーを泥海に呑ませないためです。全セフィロトツリー消滅に備えてのことではありません。

 一体どこから「セフィロトの暴走」なんて話が出てきたのやら。これがイオンの預言かしら。

 

 ユニセロスのエピソードはカット。アニメのティアはまだ一箇所のパッセージリングすら起動させてませんから、障気汚染の伏線が張れず、無意味ですしね。

 

 タタル渓谷のセフィロトへ。

ガイ「これは……!」
ルーク「パッセージリング。(俯いて)同じだ。アクゼリュスと……」
アニス「でも、動いてないよ?」
イオン「ヴァンが、セフィロトツリーを消すために、停止させてしまったのでしょう」
ジェイド「これでは、計測ができません」

 は??

 ヴァンがパッセージリングを停止させた? どうやって!

 確かに原作で、アクゼリュス後に初めて入ったシュレーの丘のセフィロトでは、ヴァンがパッセージリングを停止させていましたよ。でもそれは、ダアト式封咒の扉が既に解咒されていたから可能だったんですよ。タルタロスが拿捕された時、イオンがリグレットに連れていかれて解咒していましたからね。

 でも、タタル渓谷のダアト式封咒は解咒されていなかったんですよ。だから原作でここを訪れた時は、ヴァンの手は一切入っていませんでした。扉が開かれていなければ、いかなヴァンでも入ることはできないのです。だからイオンをバチカル城から誘拐してまで、ザオ遺跡の封咒を解かせてたんじゃないですか。

 アニメ版でも、解咒のシーンそのものはありませんでしたが、タタル渓谷の封印の扉はしっかり映していました。解咒されると扉は消えてしまうので、つまりアニメ版でも、イオンが解咒して中に入ったということです。なのにどうしてヴァンが停止させたことになるんですか。ヴァンはゴーストみたいに壁抜けして中に入ったとでも言うのか、こら!

 

 しかも。パッセージリングが停止しているということは、セフィロトツリーが消えているということ。今すぐ大地が崩落してもおかしくありません。アニメ版だとディバィディングラインは外殻を数十秒しか支えないらしいですし、マジヤバい。

 なのにジェイドの言うことは。「これでは、計測ができません」。だけ。

 計測どころじゃねーだろー!! 目の前三十センチの目標しか見えないわけでもあるまいし、もっと他に緊急に考えるべきことがあるでしょう! どうして今回のアニメジェイドさんは、こんなに馬鹿なんですかーーー!!!

 いい加減イライラが募り過ぎました。

 

 途方に暮れる仲間たちから離れて、一人、パッセージリングの周囲を見て回っていたティアは、突然、身体の変調を感じて立ち止まる。彼女の身を紫の禍々しい輝きが覆い、思わずうずくまってしまう。

 同時にパッセージリングが起動。ジェイドの命令に従ってガイが慌てて地核の振動周波数の計測。

ジェイド「ガイ、計測を!」
ガイ「――ああ!」

 原作のこの辺りは、色んな場所へ行って色んな人の協力を仰がねばならず、何度も事情説明をしなければなりませんでした。そこで、説明が必要になるとジェイドが「ガイ、説明を!」と命じ、「また俺かよ」とぼやきつつガイが説明するという、愉快な会話パターンが生まれました。

 しかしアニメ版では移動を最低限にしたこともあり、この会話パターンは未だ発生していません。代わりと言うわけでもないでしょうが、このシーンのジェイドの台詞が、そのパターンを意識したものであるようにも感じられたり。どーなんでしょ。

 ちなみに原作では以下のような会話でした。

ジェイド「簡単ですよ。計測器を中央の譜石に当てて下さい」
ガイ「俺がやろう」

 

 計測方法が原作、『マ王』漫画版、アニメ版と、みんな違いますね。原作は(セフィロトの流れの中に浮かぶ)パッセージリングの譜石に測定器を押し当てて。漫画版は測定器をリング前にある制御板に置いてで。そしてアニメ版はやや離れた位置に立ったまま、測定器をピコピコ操作して、でした。アレンジが進むにつれ、だんだんパッセージリング(セフィロト)から離れていくのが可笑しいです。

 つか、アニメ版でもジェイドに「パッセージリングからセフィロトツリーへ計測装置を入れれば(振動周波数が)分かると思います」と原作と同じ台詞を言わせてたのに、少しも測定器をセフィロトに入れようとしないのであった。同じ回の中でくらい辻褄を合わせてくださいよぅ。

 

 なお、原作ではパッセージリングには制御板があり、閉じている状態のそれがティアが近付くと(ユリア式封咒が解咒されると)本のように開くんですが、アニメ版では制御板そのものが存在していませんでした。ただ、ユリアの遺伝子を持つ者が近付くとオン・オフされ、オンすると自動的にセフィロトツリーが作られるだけの単純構造みたいです。つまりアニメ版では、一切リングの精密な操作をしないってことなんでしょうね。

 実際、ヴァンがプロテクトを掛けているだの、ルークの超振動で直接プログラムを削るだののエピソードは全カットでした。

 

 以前の感想で、アニメ版のティアは自然体で優しい少女なので、意地張って無理して、心配するルークと時に喧嘩になってしまうエピソードはどうするんだろうと書きましたが。今回は以下のようにアレンジされていました。

(アニメ版)
#苦しそうな表情で座り込んで我が身を抱いているティアに気付いて、ルークが駆け寄って傍らに座り、覗き込む
ルーク「……どうした?」
ティア「なんでもない」
ルーク「そうか? 顔色悪いぜ」
#表情を翳らせたまま俯くティア。ルーク、笑って
ルーク「腹でも減ったのか?」
#ティア、俯いたままボソッと
ティア「うるさい」
#ルーク軽く目を見開くが、すぐに「フフッ」と笑う

 ティアの意地の張り方がつたない。なによりルークの対応が全く違う。ガイへの対応といい、今回のアニメルークくんは男気があって気持ちに余裕がある?

 ちなみに、原型となったと思われる原作のエピソードは以下の通り。ルークとティア、二人とも不器用で会話下手なんです。

(原作・シュレーの丘のパッセージリング起動後、メインシナリオ)
ルーク「……ティア。どうかしたか?」
ティア「少し疲れたみたい……。でも平気よ」

(原作・フェイスチャット『ティアが心配』)
ルーク「おい、ティア。大丈夫か?」
ティア「何のこと?」
ルーク「何のことって……さっき疲れたって言ってたろ」
ティア「ああ……。少しめまいがしただけよ。平気」
ルーク「ホントかよ? おまえ、結構無理するから、イマイチ信用できないっつーか……」
ティア「信用できなくて悪かったわね」
ルーク「……そ、そんな言い方ないだろ! 俺はただ……」
ティア「……ごめんなさい。確かに、私がおかしかったわ。(恥ずかしそうに微笑んで)心配してくれてありがとう」
ルーク(照れて)う……うん。いや、平気なら……い、いいんだけどさ」

 アニメ版のルークとティアは、原作とは違う形で結びついているんですね。

 

 ティアの可愛い悪態に安心したルークは、起動したパッセージリングの方に気を取られてそちらを見上げる。一方ティアは自身の身を押さえ、変調への不安に瞳を曇らせる……。

 というところで、今回は終了でした。

 

 

 今回の再構成が、アニメのシリーズ構成さんがインタビューで仰っていた、《簡単に行き来できては世界が狭く感じられるので、あまり国をまたがせないようにした》って奴なんだと思うんですけど。それならそれで、例えば

  1. バチカル脱出してジェイド組と合流
  2. イオンの提案で秘預言クローズドスコアに解決策を求めダアトへ。第六譜石の預言を詠んだ後、譜石部屋に置いてあった禁書を入手
  3. 帰途、アリエッタの襲撃からパメラがイオンを庇い、ガイの記憶が戻る
  4. (余裕があれば、ここにガイとヴァンの過去についてのエピソード)
  5. 振動静止装置を作るためベルケンドへ。い組に協力要請。
  6. タタル渓谷のセフィロトで振動周波数計測。(パッセージリングにヴァンの手は入っていない)

って感じなんかでも問題はなかったんじゃないでしょうか。尺がないならヴァンとガイのエピソードはスッパリ削っていいし。

 禁書(世界の真の構造に抵触する知識)がローレライ教団以外の公的機関にあるのは、やはりおかしいと思ってしまいます。

 まぁ、音機関研究所はキムラスカ(ファブレ公爵)の施設ではあるけどダアトの出資も受けていて半ばヴァンに支配されている、というのが原作時点での設定ですから、その縁で禁書が置いてあり、通常なら研究員さえ読めないそれをイオンが権力で閲覧可能にした……と考えればいいのかなぁ。

 

 それはともかく。

 再構成するならするで、辻褄はきちんと合わせてほしい。今回、矛盾が多すぎました。特に、タタル渓谷のパッセージリングをヴァンが既に操作しているというオリジナル(っつーか、安易に《似たエピソードをまとめた》)展開は、致命的なミスだと思うのですが。ちょっといい加減過ぎませんか〜。



今回の総論。

  • 《TVA版アビス》……。あまり幻滅させないでくれ……。
  • いいところもあるって思ってたのに……。私が馬鹿だった……。

「観ているわ、あなたのこと」と笑顔で言える日は、再び訪れるのかっ。

 

 ではまた次回。

 



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