# 15 それぞれの決意脚本:岸本みゆき、面出明美/コンテ:小倉宏文/演出:小倉宏文/作画監督:樋口聡美、橘佳良 今回は面白かったです♥ なんと言っても絵が綺麗でした。 ただ、第12話のガイが(精神的に)原作より《白い》感じだったのに対し、今回は「あれ?」と思うレベルで《黒い》感じでした。そして加速装置で移動してた。
アニメ版は『マ王』漫画版のストーリーアレンジや演出を取り込んでいることが多くありましたが、今回Aパートをもって漫画版を追い抜きました。ユリアの大いなる庇護の手を離れ、自らの足で歩きだすことに……ってことのほどでもないけど(笑)。 代わりと言っていいのか、Bパートのナタリアとインゴベルトの和解シーンの演出が、ファミ通文庫とスーパーダッシュ文庫、二種の小説版のオリジナル演出と似通っていたのが、なかなか面白く感じられました。ただの偶然の可能性も高いのですが。
以下は重箱の隅ツッコミです。読みたい方だけどうぞ。 アバンは《前回のハイライト》で最短。ガイのエピソードがまとめてありました。今回も後半はガイのターンになりますので、なんとなく、ガイの物語がずっとメインで続いているような錯覚を覚えます。
Aパート。タタル渓谷からシェリダンに戻ってきたルークたち。 ……はァ? なんでシェリダン?? 前回まではシェリダンに行くなんて話、全然してなかったですよね。 何の説明もなしにシェリダン。そもそも《職人の町シェリダン》の字幕も出ません。あれ? じゃあここはシェリダンじゃなくてベルケンドなのか? と思いましたが、景色は確かにシェリダンの集会所前です。
原作では、この辺りのストーリーはこう流れています。
つまり、ベルケンド《い組》が、ライバルたる《め組》の本拠地シェリダンにいるのは、身の危険が迫ったが故の緊急避難でした。 着の身着のままで逃げた《い組》は、測定器を作るための道具を《め組》に借りなければならなかった。ヘンケンは屈辱に震え、イエモンとアストンは揶揄する。そんな訳で、シェリダンに入ったルークたちは、老人たちが子供のように喧嘩している場面に出くわすことになるのです。
ところがアニメ版にはこのくだりがありません。ですから、どうして《い組》がシェリダンにいるのか、どうしてライバルの《め組》と一緒に振動静止装置を作るのか訳が分かりません。少なくとも前回、《い組》と《め組》の協力なんて話は全く出ていませんでした。ブツッと切れている感じです。 アニメオリジナル台詞で、ギンジがイエモンとヘンケンの喧嘩を指して「いつものだ」と苦笑してましたので、アニメ版では《い組》と《め組》は普段からいつも、喧嘩しつつも《一緒に》作業している、ということなのかもしれません。 でもそうなると、前回キャシーが「冗談じゃないわ! またタマラたちが創世暦時代の音機関を横取りするの!?」「これで勝負は99勝99敗。100勝目は何としても私たちがいただくのよ!」 と言っていたのが、おかしくなってしまいます。イエモン達に負けたくないから協力を決めたはずなのに、理由なく《イエモンを中心にして》振動静止装置を作っている。筋が通ってません。
さて。アニメ版でギンジが初登場。ノエルと同じく、すごく幼く見えますね。今回はまだ一人称《おいら》が出ませんでした。 タマラも初登場。非常に驚いたのですが、イエモンの助手だそうです。えええ? 確かに《め組》のリーダーはイエモンですが、タマラだって対等の技師じゃないんですか? だってタマラはキムラスカ王立大学院でイエモン達と同じ青春を過ごした仲間。原作ではT定規でトントン肩を叩きながら、堂々たる立ち居振る舞いで熟練技師として喋り、一度も助手だなんて紹介されてなかったですよ。
計測してきた地核の振動周波数を見たヘンケンが、振動が激しく、全セフィロトツリーが弱っていて、このままでは全外殻大地が崩落すると言い出します。 上手いまとめ方なんですが、引き換えにヘンケンが超天才化。世界がセフィロトツリーに支えられた空中大地だということを、ほんの数日前まで知りさえしなかったはずなのに、チラッとデータを見ただけで長年の研究者のように結論。仕方ないことですが、やっぱ無理に話を短くすると、ご都合展開感が強くなっちゃいますね。原作では、ジェイドがパッセージリングの操作盤に出た警告文字を読み、実際にセフィロトツリーを ジェイドが原作で《外殻降下と同時に障気を封じる》というアイディアを出すのはまだ先、スピノザ捕獲直前ですが、ここで早くも言わせています。ということは、スピノザを仲間にするエピソードがないか、簡略化されてるんですね。ちなみに、ディバィディングラインの浮力を利用して地核に障気を押し込める、という詳細な説明はカットされていました。
ジェイドが、地核振動静止装置はタルタロスごと地核に沈めればいいと提案。 「グランコクマからこちらに運び込むよう、軍に手配しておきましょう」 あの。今はキムラスカとマルクトは戦争中で、シェリダンはキムラスカの都市なんですよ。アニメ版ではルグニカ平野を降下させてないので停戦すらしてないです。戦争中に、マルクト軍が陸艦をキムラスカの都市に運び込むの? そんなリスクを負ってまでタルタロスを使う意義は何ですか大佐。到着前にタルタロスがキムラスカ軍と交戦になって破壊される可能性だって少なくないですよ。アルビオールにイエモン達を乗せてグランコクマへ連れて行った方がまだマシなくらいだ…。 『マ王』漫画版では、イオンが導師の権力でダアトからシェリダンにタルタロスを運び込ませるという展開でしたっけ。漫画版ではタルタロスは ちなみに原作では、ルークたちがタルタロスでシェリダンに入港したのは開戦直前。そのままアルビオール2号機用の部品として提供しました。キムラスカ軍が「おまえたちか! マルクト船籍の陸艦で海を渡って来た非常識な奴らは!」と逮捕しにやってきたので、完成したアルビオール2号機で脱出して、崩落しかかっているセントビナーへ向かったのです。それ以来、タルタロスはずっと半壊状態でシェリダンに置いてありましたので、ここでタマラ達が振動静止装置の殻に使うと言い出しても何らおかしくありませんでした。
アニメ版や漫画版のアレンジは、原作と展開を変えつつタルタロスを使うための苦肉の策だということは分かります。でもアニメ版のは流石に変では。アルビオールをマルクト皇帝が呼ぶのと同じくらい変です。 うーん…。他に何か方法はなかったんでしょうか。陸艦(戦艦)が使えればいいだけなんですから、タルタロスの同型艦とかでも良かったんじゃないかなー。シェリダンは陸艦の製造元ですので、戦争に合わせて製造中の陸艦があったとか、修理に回されてきたキムラスカの陸艦があったとかいうことにして、それを使うんじゃ駄目だったのかな。タルタロスはダアトを介して輸出されたシェリダン製で、同型艦がキムラスカとマルクト双方に七隻ずつ配備されているという設定ですもんね。 あるいは、シェリダンでの作戦会議のシーンでは「地核の圧力に装置を耐えさせなければならないが、方法が見つからない」と保留にしておいて、平和条約締結後のラスト直前に、ジ「タルタロスをシェリダンに運びこませましょう。軍に手配しておきます」ル「タルタロスを? なんでだ?」ジ「振動静止装置を取り付けて地核に沈めるんです。魔界に落ちても壊れなかったくらい頑丈な船ですからね」ガ「そうか。地核の圧力から守る殻にするんだな」みたいな会話を入れる、というのはどうでしょう。足りなくなった尺の方は、ラストシーンの《ユリアシティから発進するアルビオール》をカットして、ルークの「行こう、みんな!」で止め絵にして終わらせれば、なんとか稼ぎ出せるんじゃないでしょうか。 …なんて、モヤモヤといつもの脳内補完遊びをしてみたり。
準備ができるまで宿で休もうということになりますが、そこでルークが仲間たちを呼びとめて、世界のことなんだから、外殻降下を自分たちだけで勝手に進めるわけにはいかない、ちゃんと両国の代表者に話を通し、平和条約も結ばせてからにするべきだと提案します。 会話のアレンジが、『マ王』漫画版と同方向でした。ルークの真面目な提案に仲間たちが驚き、多少呆れたり引いたりする。話を茶化してしまいます。その後でティアが褒め称える、という。 (アニメ版) (原作) 後半の、ナタリアの演出はアニメ版の方がドラマチックでイイですね。
前半の、ルークの提案を茶化すアレンジのこと。 漫画版の時、私はそのアレンジが好きではありませんでした。原作ではごく真面目なシーンなのに、茶化してギャグにしちゃって、ルークの真剣な気持ちを軽んじられたような気分になったのです。で、アニメ版では茶化しの度合いが漫画版より強い。 茶化すことで《駄目っ子だったルークがとても立派なことを言う違和感》を軽減しようとしてるんだろーなとは思うんですが。あと、アニスとジェイドに「へぇ〜、あのルークがねぇ」「ま、彼なりに色々と考えていたということですか」と言わせているのは、第11話で「あなたなりに、色々と思うところがあったのかもしれませんね。まあ、今更という気もしますが」「人の性格なんて、一朝一夕には変わらないもんねぇ」とキツいことを言っていた二人が、とうとうルークの成長を認めた、という対比で入れたのかなとも思うのですが。 ……悪いけど、遅いよぅ。12話か13話なら良かったのに。どうして今頃なの。 原作だと、茶化して違和感を軽減、という手法はルークの断髪直後に入れられています。ルークが仲間に「ありがとう」と言う度、ガイもアニスもジェイドも、驚いたり薄気味悪がったり苦笑したりする。ルークはとうとう「ど、どうしてみんないちいち驚くんだっ!」と怒ってしまうのですが、ガイが「それが日頃の行いってもんだ」と笑い、ミュウは無邪気に「行いですの」と反復する。むくれたルークはミュウに「……うー……。黙れ、ブタザル」と言っちゃう。 根っ子は長髪時代から変わらない。けれど、性根を改めようと努力している。テオドーロ市長やピオニー皇帝にセントビナーを救いたいと訴える時も、ついつい汚い素の口調になっちゃって、ぎこちなく丁寧に言い直したり。実は原作は、案外細かくそういう描写を入れています。そしてセントビナー救出〜シュレーの丘のパッセージリング操作の頃から主人公らしい言動も板についてきて、実績も出来、誰も茶化したりしなくなる。 そんな長い積み重ねの果てに、今回のルークの発言があります。私はティアのように、ああルークはこんなにも成長したんだと感動したものでした。だから茶化すアレンジを見て、微妙に釈然としない気分になったのです。 しかもアニメ版は今まで、ルークを完璧な好青年に描き直してきましたよね。ピオニー皇帝の前での演説も、崩落していくセントビナーでの救助活動も、これ以上ないってくらい立派でした。それを仲間の誰も茶化しもしなければ褒めもしなかった。 なのにどうして《今頃になって》、ルークが立派なことを言ったからって、「おいおい、ルーク……」「大丈夫? 熱ない?」なんて心配され、茶化されなくちゃならないの?
原作では、この会話の後の自由行動時にジェイドに話しかけると、以下のような会話が起きます。 ジェイド「いずれ地核静止の準備が完了したら、私から両国へ働きかけることを提案しようと思っていたのですが。……正直言って驚きました。あなたも成長していたんですね。それなりに」 どうせ茶化すなら、折角ですし、この台詞を使ってほしかったです。自由行動時の会話のうち、ナタリアの「……一晩考えさせて下さい。私……臆病者ですわね(駆け去る)」という奴は会話の最後に取り込んでいるのになぁ。 個人的には、ここの自由行動時の会話から、アニスの台詞「パパの子供じゃないって言われたら辛いもん。気持ち、分かっちゃうなぁ」も取り込んでほしかったです。このたった一言で、親身にナタリアの心配をしていることは勿論、アニスが親大好きってことが分かる…スパイイベントの伏線的意味すら持たせることができちゃう(?)優れモノ、だった気がするので。
場面は夜の宿屋に。ルークとガイとミュウが同室で眠っています。ということは、ジェイドとイオンが同室なのかな。 ガイの寝相がえらく悪かったのでビックリしました(笑)。掛け布団は蹴散らかして膝から下にしか掛かってない状態。枕は左腕の下。どうやったらそんなことに。いびきこそかいてませんでしたが、平和そうに大口開けてました。っつーか、ベスト着たままだし剣帯も着けたまま。ええええ。寝辛そうだし、何より、ベストが寝皺だらけになるよ? もしかしなくても掛け布団の下にはブーツを履いたままの足が隠れてるんじゃ。24時間ブーツを履いたままだと水虫になりそうです。 ガイは品があると作中で言われてましたし、また勤勉な使用人としてルークの生活の面倒をまめに見ていた印象があり、わりと身じまいがキチッとしてる気がしていたので、上着も脱がずにダイナミックな寝方をしていたのは、すごく意外でしたー。 ああいや。宿に向かう途中で伸びをしてましたし、実はすんごく疲れてて、着替える間もなくベッドにばたんきゅーしたのかも(笑)。膝までの掛け布団と腕の下の枕は、ルークとミュウの辛うじての心遣いです。とか。変な妄想。 んで。反対に、寝相が悪そうだと思っていたルークが、きっちり布団をかぶって上着もちゃんと脱いで、可愛い感じに眠ってた(笑)。その枕元にはミュウがすやすや眠ってます。ふぉおぉ。
扉の開く音で目を覚ましたルークが窓から外を見ると、まだ暗い中、ナタリアが出かけて行くのが見えます。思わず(ちゃんと上着を着て)後をつけるルーク。 朝日の中でのアッシュとナタリアの《約束の言葉》、続くルークとティアの《あなたはここにいるのよ》のエピソードは、《間》も映像も文句なしでした。 台詞はほぼ原作どおり。「お前には何万というバチカルの市民が味方に付いているのに?」を「お前にはキムラスカの国民という味方が付いているのに?」に修正していたのと、《約束》の「死ぬまで一緒にいて、この国を変えよう」の部分をナタリアが言っていたのが幼少アッシュの回想に代えられていた点が異なるくらい。 あと、アニメ版にはアッシュがスピノザを追うエピソードがないので、「どうしてここに……」と問われたアッシュが「ちょっとな」としか答えず、ナタリアのストーキングでもしてたんじゃなかろーかという疑念が湧きます(笑)。 また、言い終わったアッシュが静かに立ち去り、ナタリアも見送ることなくじっと海を見つめたままでいるという、切ない別れのシーンはカットされていました。 ルークとティアの会話部分は、ルークの台詞「声、かけにくい雰囲気だったし」がカット。口ごもって俯く演技に代えられていました。それを受けたティアの台詞「そう」が「どうしたの?」に変更。その後も「俺が生まれなかったら、ナタリアはアッシュと……」とルークが言うだけだった部分が「もし、俺が生まれてなかったらって」「ルーク……!」「そしたら、ナタリアはアッシュと……」と細かく分けられています。つまり、原作より尺を増やしている。 「あなたが生まれなかったら、アッシュはルークとしてアクゼリュスで死んでいたわね」という台詞が、原作ではやや厳しい声音で言って、つかつかルークに歩み寄って言っている……ルークの卑屈な態度に少し腹を立ててたしなめる響きがあるんですが、アニメ版ではもう少し柔らかい声音でマイルド化。私個人は原作の演技の方が好きというか、共感できる感じですけど。 また、ティアの例の台詞は修正が入っていました。 (原作) (アニメ版) 《体験、感情》を《記憶、思い出》に変更しているのは、この後の《インゴベルト説得》時に「ここにいるナタリアがあなたの娘だ! あなたの中の十八年の記憶が、それを否定できるはずがない!」とルークが訴えて「……へ。お前の受け売りだけどな」とティアに言う場面に、よりスムーズに繋ぐためかと思いますが。なんとなく、アッシュに記憶を、ティアと仲間たちに思い出を残して消えるルークの結末にも、より深く引っかけた台詞回しのように思えました。 このシーンは絵も綺麗でした。原作のポリゴンだと冷たく見えるティアが、ほんのりと優しい表情をしていて良かったです。手を包み込む…《触れる》演技が加えられていたのも素敵でした。
翌朝、仲間たちにバチカルへ行く決心がついたと語るナタリア。みんながそれぞれ笑顔になり、特に、ナタリアとアニスが明るい顔を見交わすのが良かったです。 Aパートラスト。ナタリアが、原作では声に出して「行きましょう、バチカルへ。お父様を説得してみせますわ」と言ってましたが、アニメ版では心の中で(お父様。わたくし……きっとお父様を説得してみせますわ)と決意します。
Bパート。 イオンの権威を用いて、無血でバチカル城内に入ります。細かい言葉の修正と、ルークの台詞が一つカットされていた以外は原作どおり。 原作では、インゴベルト王は私室で執務中でした。ジェイドがまとめた外殻降下案の書状を渡して一旦立ち去り、翌日に謁見の間で再度対面。ついに和解することになります。 それをアニメ版は圧縮。インゴベルト王が謁見の間にいるところに押し入って、その場ですぐに和解を成し遂げていました。 ナタリアは十八歳という設定なのですが、作中で語られている誕生日で計算すると物語中では十九歳でなければおかしい。更に、この辺りのシーンでルークやナタリアが「十七年の記憶」「お父様のお傍で十七年間育てられました」と言う。トコトン辻褄が合っていなかったです。それを、アニメ版では「十八年の記憶」「陛下のお傍で十八年間育てられました」に修正して、補完してありました。…レプリカ編に入ったら、誕生年も修正するのかなぁ。
ナタリアがインゴベルトに「お父様……いえ、陛下」と呼びかける時、ひざまずいて臣下の礼を取る演出が追加。うんうん。 ただ、原作ではここで一旦、場が閉じられて仕切り直しになります。 その夜、ナタリアは宿屋で仲間たちにこう述べるのです。「私が城に残り説得します。命をかけて」「愚かでしたわ、私。アクゼリュスや戦争の前線へ行き、苦しんでいる人々を助けることが私の仕事だと思っていました。でも、違いましたのね。お父様のお傍で、お父様が誤った道に進むのを諌めることが、私のなすべきことだったのですわ」。そして「やっぱりあなたはこの国の王女なのね」と感動したティアに「そうありたい……と思いますわ。心から。私は、この国が大好きですから」と返す。《王族として》インゴベルト王に相対する決意を述べています。 そう。ナタリアは《インゴベルトの子》として父に対面しようと、命を懸ける決意で帰って来たんですもんね。そして《インゴベルトの子》であるためには、《王族の中の王族》でなければならない。それがナタリアのアイデンティティの根っ子。 ですので、翌日に謁見の間で再び王と対面した時には「お父様!」と呼びかけ、「今こそ国を治める者の手腕が問われる時です。この時の為に、わたくしたち王族がいるのではありませんか?」と訴えるわけです。 アニメ版では「わたくしたち王族」の語句を残してましたが、呼びかけは「陛下!」に修正してました。
ナタリアが王族としてあるべき姿を父王に説き、マルクトとの和平を訴えますと、原作では内務大臣アルバインが「マルクト帝国は長年の敵国。そのようなことを申すとは、やはり売国奴どもよ」と怒り、その尻馬に乗ってモースが「騙されてはなりませんぞ、陛下。貴奴ら、マルクトに鼻薬でも嗅がされたのでしょう。所詮は王家の血を引かぬ偽者の
ナタリアが父王に訴えるキメ台詞が簡略化。 (原作) (アニメ版) うーん。アニメ版は私情を削っちゃったんですね。ずっと《陛下》呼びを続ける形に台詞を全修正してますし、《インゴベルトの子》としてではなく、《キムラスカの民の一人》という立場で喋らせようとしている、のか。 でもこの訴えを聞いたインゴベルト王は、原作どおりに「我が娘」とナタリアを呼び、聞き入れるのでした。
《インゴベルトの子》として認められたナタリアが、「お父様、わたくしは……。王女でなかったことより、お父様の娘でないことの方が……つらかった」と告白するシーン。「お父様の娘でないことの方が……」でカットをナタリアのアップに切り替え、彼女が目を伏せて涙を流す絵を見せてから「つらかった」と言わせています。原作にはない演出なんですが、これって、ファミ通文庫小説版『 「お父様…… 偶然なのかな? この文章は強く頭に残っていたので、アニメ版が同じ演出になっていて嬉しかったです。
和解すると、原作、そしてファミ通文庫小説版では、ナタリアが壇を駆け上がって、玉座に座る父の膝に抱きつきます。古い演劇のような演出です。個人的に好きだったんですが、アニメ版は、SD文庫小説版や『マ王』漫画版と同方向のアレンジで、インゴベルト王の方が玉座を立って壇を下り、ナタリアと抱き合っていました。少し残念。でも玉座の父に抱きつく演出ってあまり普遍的な感じじゃないから仕方がないのかな。
こちらのシーンの演出は、SD文庫小説版によく似ていました。 堪えていた涙がついに溢れ、ナタリアの頬を濡らす。王はそれを見てゆっくりと玉座を立つと、階段を降りてきた。それは、王という立場を後ろに残し、一人の父親として娘と同じ場所に立つ、ということだ、とルークには思えた。 アニメ版は《頬に触れる》のが《頬に触れる感じで手を伸ばして頭を抱きしめる》のに変わっている以外、全く同じです。 ただの偶然かもしれません。でも、『マ王』漫画版に追い付いて参考に出来なくなったから、小説版を演出資料に使った可能性もあるのかな、と思いました。こうして作られたアニメ版が、今度は『ToM』漫画版で更にアレンジされていくわけですから、伝承の面白さを感じます。
ところでSD文庫小説版では、王が玉座を立ったのを「王という立場を後ろに残し、一人の父親として娘と同じ場所に立つ」と説明してた訳ですが。じゃあ壇を駆け上った原作ナタリアは、王の高みに自ら上ったってことになるんでしょうか?
原作ではこの後、アニスが「……モース様はどうしたのかな」と気にして、ダアトに帰ったんだろうと言われると、「ダアトに……」と呟きます。明るく何気ない風に言ってますが、アニスのスパイイベントの伏線かと思われます。怒ったモースが両親に何かしないか不安になったんでしょう。でも例によってカット。また、これでキムラスカも安心だと思うわとティアが言うと、ガイが暗く「そうだと、いいんだがな……」と呟く、和平会議での抜剣の伏線が出てくるんですが、これもカット。
マルクト帝国に移動し、ピオニーにキムラスカからの和平の意を伝える。 以下の会話はカット。 ナタリア「キムラスカ・ランバルディア王国を代表してお願いします。我が国の狼藉をお許し下さい。そしてどうか改めて平和条約の……」
和平会議をどこで行うかという話になり、ルークがユリアシティを推薦します。 原作では、 ここのルークの台詞は、珍しく、原作より長く水増ししてありました。 んで。魔界へ行くことになったピオニーの台詞。最後に「なあジェイド」とニヤッと笑いかける描写が追加されてました。ファンサービスかな?
原作では、偽姫事件でモースとディストに捕らえられた時、アルビオールから飛行譜石を奪われて飛行不能になっていました。けれどもユリアシティに各国首脳陣をアルビオールで連れて行きたいと考え、ダアトに飛行譜石を奪い返しに行きます。ディストの部下の真面目な青年・ライナーを眠らせて飛行譜石を盗むという、ちょっとコミカルなエピソードでしたが、アニメ版には飛行譜石を奪われるエピソード自体がなかったので、丸々カットでした。 原作では続けて、国家ではないものの自治権をもつ自由交易都市ケセドニアの長・アスターにも和平会議に立ち会ってもらおうとイオンが言い出し、ケセドニアに移動します。そしてノエルが首脳陣をユリアシティに運んでいる間、ルークたちはアスターと交渉してから宿に一泊。障気に覆われたケセドニアを見て落ち込むルークを、ティアが「しっかりして。出来ることから始めるって、あなたは言ったでしょう? 一人の人間ができることって、きっと些細なことだわ。でも人はお互いに協力しあえる。私……私たちがいるわ」と励ますドキドキのイベントが発生します。でもアニメ版ではカットでした。
アニメ版ではグランコクマの謁見の間からすぐに、ユリアシティでの和平会議に場面が移ります。 和平会議の参加者やルークたちの立ち位置が、原作とは異なっていました。 原作では、キムラスカ側がインゴベルト王、ナタリア王女、ファブレ元帥(ファブレ公爵)、アルバイン内務大臣。マルクト側がピオニー皇帝、ジェイド大佐、ゼーゼマン参謀総長。中立者としてユリアシティのテオドーロ市長(詠師テオドーロ)。市長の左右に導師イオンとケセドニアのアスターが立ち、その後ろにティアとアニス。ルークとガイはキムラスカ側の席の背後に立っていました。つまりルークたちもそれぞれの所属陣営に分かれていた。(ガイはマルクト人ですが、この時点ではキムラスカ側にそれを知られていなかったので、ファブレ家の使用人という立場でキムラスカ側に立っていたのだと思います。) 対してアニメ版では、ルークとその仲間たちは(着席しているナタリアとジェイドを除いて)全員、ひとかたまりになって入口近くの離れた場所に立っていました。また、キムラスカ側の参加者にゴールドバーグ将軍、マルクト側の参加者にノルドハイム将軍とフリングス将軍が加わって、ゴールドバーグとフリングスが、それぞれの元首に書類を運ぶ秘書のような仕事をしていました。 …うぅーん。大佐のジェイドが皇帝の隣にでんと座っていて、少将のフリングスが書類運びなのか……。キムラスカ側は、正式参加者の中ではゴールドバーグが一番身分・階級が低いから納得出来るんですけど。ジェイドは階級こそ高くないけど、実質の権勢が絶大なんですね。
書類へのサインが終わり、テオドーロが平和条約締結を宣言。……した直後に、ガイが険しい声音で待ったをかけて、戸惑うルークに「悪いな、ルーク。大事なことなんだ。少し黙ってろ」と言い放つとずかずかと進み出る。テオドーロの手元からキムラスカのサインを掴みあげて一瞥し、「同じような取り決めがホド戦争の直後にもあったよな。今度は守れるのか」と不遜に尋ねます。インゴベルト王が「ホドの時とは違う。あれは テオドーロの席からインゴベルト王の席までは軽く三メートル以上は離れてたように見えるんですが。すげーなシグムント流。某サイボーグ戦士の加速装置なみの瞬間移動でした。 原作のガイはキムラスカ側の席の後ろに立っていましたので、待ったをかけてインゴベルト王の隣に真っ直ぐ進み出る。そこで剣を抜きます。移動は一度しかしてません。アニメ版は、ちょっと まだるっこしい演出かも。(^_^;)
驚いたナタリアが父を庇うようにしがみつく演出の追加あり。(原作では席を立っていただけ。)更に、ガイの出自を聞いたインゴベルト王が「なんと! では、お前は……」と驚く様子も追加。また、ガイの背後でゴールドバーグが剣に手をかけている描写も追加されていました。 そして、以下の《和平の花嫁》の陰謀に関する会話はカット。 #ファブレ公爵がガイに向かい、復讐したいなら私を刺しなさい、ガルディオス伯爵夫人を手にかけたのは私だからと言って
以降の、ピオニーとジェイドの語るホド崩落の真相は、細かい語句のカットや追加、台詞の順番の入れ替えがあるものの、概ね原作のままです。 ガイが「それで……ホドは消滅したのか……」と言う時の表情、彼の受けた衝撃がよく表れていて、すごく良かった。
ホド崩落を引き起こした擬似超振動を起こさせられた被験者が、ガルディオス伯爵家に仕えていた騎士の息子だという話題になる。原作ジェイドは「ガイ、あなたも顔を合わせているかもしれません」と断定を避けた物の言い方をしていますが、アニメジェイドは「ガイ、あなたも顔を合わせている人物ですよ」と断言。 この被験者、ヴァンデスデルカ・ムスト・フェンデこそがヴァン・グランツだと判明。ルークの驚きの演出が凄かったです(笑)。衝撃を受けたルークの背景が黒一色になり、そのまま絵がぐるぐるっと天地回転しつつカメラが引く。 加えて、会議場が騒然となる様子もしっかり描写。
その後、イオンが《ヴァンデスデルカ》の意味をルークに説明するエピソードが追加されていました。 イオン「ヴァンデスデルカは、古代イスパニア語で《栄光を掴む者》の意味です。(ルークに向かって)覚えていますか? 《ND2002、栄光を掴む者、自らの生まれた島を滅ぼす。名を、ホドと称す》」 原作のこの時点では、この説明は行われません。と言うのも、「栄光を掴む者が私を捕らえようとする」というローレライの声をルークが聞いたのに、《栄光を掴む者=ヴァン》だと気付けずに事態解決の後手に回ってしまうという展開が、この先にあるからです。 つまり、アニメ版にはレプリカ編冒頭の空白の一ヶ月間が存在しないか、ローレライが助けを求めて通信してくるエピソード自体が存在しないか、どちらかになるのかと思われます。
それはそうと。アニメ版のジェイドは、ホドを崩落させた被験者がヴァンであることを、とうの昔に知っていたんですね。それで「ガイ、あなたも顔を合わせている人物ですよ」と断言していた、と。原作ジェイドはここで初めて気づいて「そうか、だから封印した生物レプリカをヴァンは知っていたのか……」なんて言うんですけど。何の意図で、こういう変更をしたんでしょうか。 考え過ぎかもしれませんが、アニメ版スタッフさんは、ジェイドのことを完璧人間みたいに思ってるのかな、と感じました。情報は既に出揃っていた。だからジェイドが気付かないのはおかしい、と思ってこういう書き換えをしてる? 私はそう思わないので、あまり好きなアレンジではなかったです。変える必要ないと思うなー。
島を直接訪れることこそなかったものの、ホド島のフォミクリー実験の指示を出していたのは若き日のジェイドです。原作では、ワイヨン鏡窟の演算機でホドのレプリカ情報を見たとき、そのことをジェイド自身が口にしています。が、アニメ版ではカットしていましたよね。 今回のこのシーンで、てっきりその辺の補完をするんだろうと思っていたのに、まるで無かったのは残念でした。最後まで説明しないままにするのかなぁ。
最後にイオンが「ガイ。ひとまず剣を収めてはいかがですか? この調子では、ここにいる殆どの人間を殺さなくてはあなたの復讐は終わらない」と言い、ガイは剣を収めると、フッと自嘲の息を漏らし、呟く。 「……そんな気は、もうとっくの昔に失せちまったよ」 この言い回しだと、ニュアンスが違って感じられちゃうかも。原作では「……とうに復讐する気は失せてたんだがね」でした。個人的には、変えないでほしかったです。
驚いたのですが。 原作ではここで会議そのものが一旦終了して解散し(後で、首脳陣たちだけで会議が再開された模様)、ティアの家での休憩になるんですけど、アニメ版では、ガイ、ティア、ルーク(とミュウ)の三人だけが会議場を出た…追い出された? ようでした。彼ら三人だけがいるところに後で他の仲間たちが来て、ルークが「で、会議はどうなったんだ」と急いで訊いてましたから。名目上、ガイ謹慎、ティア監視、ルーク付き添い、ってことだったのかなー、なんて妄想もできる感じ。 ティアの家のリビングで、暗い様子で黙り込んでいる三人。原作フェイスチャット『ガイの復讐』からエッセンスを抜き出したオリジナルエピソードです。ガイの態度が原作とはまるで異なります。 (アニメ版) ガイの態度に、皮肉で不遜なニュアンスがとても強く出ています。それと、ガイとジェイドの友情が強調されてます。 ちなみに原作の該当エピソードは、以下のような感じ。 (原作・フェイスチャット『ガイの復讐』) 原作で「けじめを付けたかった」と言っていたのを「事の真相が知りたかった」に修正してあるのは、カースロットイベント後のガイの台詞「お前が俺に付いてこられるのが嫌だってんなら、すっぱり離れるさ。そうでないなら、もう少し一緒にいさせてもらえないか? 確認したいことがあるんだ」に繋ぐための補完なのでしょうか? もしそうなら、私も同解釈なんでホッと出来ます。 でも、アニメ版ガイはカースロットの時、ニコニコ笑いながらその台詞を言ってましたよね。一片の暗い感情すら無いかのように。なのに和平会議でしっかり抜剣。イオンに諌められて剣を収めつつ「……そんな気は、もうとっくの昔に失せちまったよ」と言った。 この流れと言い回しだと、アニメ版ガイは、ニコニコ笑って「もう少し一緒にいさせてもらえないか?」と言いながら、内心ではずっと復讐心をたぎらせていたかのようにも解釈出来そうです。復讐する気満々だったけれど思いがけないホド崩落の真相が明かされたので、気が削がれて「そんな気は、もうとっくの昔に失せちまったよ」と剣を収めた、とか。 つまり、アニメ版ガイはとんでもない嘘つきで、カースロット後もルークを笑いながら騙していた、とも解釈できる余地が発生してしまっている。そして追い打ちのように「今までもこれからも、俺に嘘はないはずだぜ? ジェイド」と言ってニヤリと笑う。黒い。黒過ぎます。
うー。どーして原作どおりにやってくれないんだろ。 カースロットの時は苦しそうに「確認したいことがあるんだ」と言わせて、剣を収める時には「とうに復讐する気は失せてたんだがね」と言わせて、ちゃんと仲間たちに誠実に謝らせて。今更ルークにガイを責めさせたりジェイドに《審判者》の役を振ったり、大事件を起こしておきながら「俺に嘘はないはずだぜ?」とニヤリ笑いさせたりなんてしない。それじゃ駄目なのかなぁ。 ストーリーの流れが変わるのは仕方ないけど、根底設定や感情の流れはあまり変えてほしくないです。…んん、でも人によって、どこまで《縛る》かの基準は違うから、アニメ製作スタッフさんたちにとっては原作から全然逸脱してないってことなんでしょうね。
会議の結果、外殻降下が正式に承認され、障気問題は両国で研究し合っていくことが決定。 …むぅ。アニメ版はエピソードの順番を入れ替えて、既にジェイドが障気封印案を出しちゃってますんで、別に矛盾はしないけど、障気の共同研究を今後していくと言われると、ちょっと不思議な感じがします。
ルーク「キムラスカとマルクトが、いよいよ本気で手を取り合うってわけだ。(ナタリアを返り見て)良かったな、ナタリア!」 ここでルークが「良かったな、ナタリア!」と声をかけたのが、凄く嬉しかったです。 にしても前回の、
こうして、ユリアシティを飛び立っていくアルビオールのスピード感ある止め絵で劇終。ルークが主人公らしく出発の音頭取ってて嬉しかったです。誰も茶化さないし。よしよし、調子出てきたぞ。
今回の総論。
アニメ雑誌(『Newtype』'09年2月号)掲載のシリーズ構成さんのコメントによれば、今回のガイの事件の解決によって、やっと仲間たちの心が一つにまとまったのだそうです。 そ、そうなのか…。なら、その意図で今回ラスト、ルークに「行こうみんな!」と主人公らしく音頭を取らせたのかな。アニメ版では今まで、原作ではルークが決断したり指揮を執ったりしていた場面でも、あえてジェイドに代えるなどしてましたし。仲間がまとまったのでルークが指揮を執るようになった? ああそのために、ルークが平和条約締結を提案する場面で、アニスが茶化すと同時に感心する、というアレンジを加えたんでしょうか。嫌味を言ってたアニスもルークを認め、みんなの心が一つになったよ、と。 私としては、仲間たちがまとまる描写は、セントビナー救出作戦の辺りが希望でした。主人公はルークだから、ルークの頑張りによってルーク中心にまとまるのが良かったな。なので、どうにも《遅いなぁ》という印象はあります。だってもう物語の折り返しを過ぎたくらいですよ。 ともあれ、ここからは安心して、ルークを中心にした仲間たちとの活躍が見られるんですね。この先の展開の再構成はいよいよ激しくなっているようですが、どのエッセンスを残してどんな形に組み直してくれるのか、ワクワクです。
ではまた次回。 |