注意!

 

# 18 アブソーブゲート

脚本:面出明美/コンテ:佐藤真人/演出:佐藤真人/作画監督:杉本幸子、石田可奈

 物語を短くすること自体はそう難しくはなく、切り口を変えたり換骨奪胎したリ、方法は幾通りもあるのだと思います。しかしTVアニメ版『アビス』が選んだのは、原作の形を可能な限り壊さないという道でした。

 原作ファンの一人としてそれがとても嬉しかったですし、そうしてアニメ化された様々な原作エピソードを楽しませていただきました。しかも原作をなぞるだけではなく、要素の強化や周辺媒体で追加された情報の補完も行われていて、完全版を目指した趣もあり、そこにも心躍らされたものです。

 けれど。《原作どおりがいい! 原作を壊さないで!》と無責任に要求し続けた結果が、しわ寄せを重ねさせ、この惨状を生んでしまったのでしょうか。

 今回分を観終わって抱いたのは、無理を望んだことが申し訳ないような、無理だったと思い知らされて夢破れたような。そんな、なんともうら寂しい気持ちでした。

 

 部分を見れば、今回も萌え燃えできるシーンは幾つもありました。ですが一話全体を通して見れば、あまりにも詰め込みが過ぎていた。どう言い繕おうとも、原作を知らない第三者に名作としてすすめ難い作品になってしまったことは、客観的事実だと思います。

 

 作画。人によっては小躍りして喜んだのだろうなと思いましたが、私はちょびっとだけ気になったところがあったデス。

 今回は作監さん二人。多分ヴァンとの決戦辺りは、作監としては初参加の方が担当しておられるのかなと思うんですが。何故なら、今までにない、キャラ表と違う絵柄で描いてありました。ぶっちゃけて言いますと、ちょっと『コードギアス 反逆のルルーシュR2』っぽかった(苦笑)。

 私はすんごい笑ったんですけど、指摘してる感想を他で見かけないなぁ。ということは、誰も気にならなかったんですかね。

『アビス』で『ギアス』……。ネタとしては面白いけど、なんでまた。気になったので調べてみましたら、今回新参入の作監さんは『ギアスR2』の作監を何本も担当した方だったんですね。そっかー。

 記憶だけなので全くの勘違いの可能性が高いんですが、この作監さん、以前一度『アニメディア』で、ルーク&アッシュの記事イラスト描いておられませんでしたっけ? その時もキャラ表と全然違う絵柄で、ただし耽美入った今ドキオタク系少女漫画絵だったよーな。自分なりのこだわりを持っておられるのかなぁ。

 ヴァンと戦う辺りのルークは、やや頭でっかちで肩幅が狭い華奢な体型で目が大きく描かれていまして、女の子ぽかったです。ティアも目が大きくてやや童顔。ガイもジェイドも、線が細く華奢な感じでした。

 尤も、そうなっていたのは僅かなシーンだけで、その他はちゃんと《いつものTVA『アビス』絵》の範囲内だったので、全体としては良かったです。

 

 以下は重箱の隅ツッコミです。どーでもいいことに埒もなく絡んでいます。大丈夫な方だけどうぞ。





 アバンは、前半が第3話アバンをそのまま使った《ユリアの独白》。曲が始まってからの後半は《前回のハイライト》で、アッシュの「俺には……時間がないんだ」という発言を印象付けていました。今回は尺が詰まり過ぎてたし、ここでケテルブルクに一泊するという状況説明くらいまで消化してもよかったのに…。

 

 Aパートは、夜のケテルブルクホテルのラウンジからスタート。吹雪のせいでアルビオールを飛ばせないので、一晩ここに宿泊すると、ジェイドの長台詞&パーティメンバー全員の会話で説明していました。

 うーん。今回は尺が本当に詰まってましたので、ここは簡略化して他に尺を回してくれた方が良かったです。例えば、ホテルの廊下でナタリアが窓から雪を見ているとルークが通りかかるところから始めて、「この吹雪じゃアルビオールも飛ばせないからな」とか言うだけでも充分だったよーな。

 

 珍しくもティアが「でも、こうしている間にも、記憶粒子セルパーティクルの逆流は続いているのに」と焦る役でした。原作では、焦るルークを「この時間を利用して明日の準備を整えましょう」とガイと一緒になだめてたんですが。アニメ版では、焦る彼女をジェイドが「ヴァンの計略を確実に止めるために、我々が今すべきことは、体調を万全に整えることです。軍人の基本でしょ?」と優しくなだめていました。原作ティアは倒れて周囲に心配されると「体調管理も出来ないなんて、兵士として失格ね」なんて自嘲気味に言うんですが、それを裏返したみたいな会話。

 

 ミュウを連れてホテルの廊下を歩いていたルークは、眠れないと窓辺に佇むナタリアを見つけ、その隣に並びます。そしてすぐに「ごめんな」と言い出す。

 原作アブソーブゲート決戦前夜のナタリアイベントのアニメ化でした。おお!

 会話自体は、微修正があるものの原作どおり。しかし尺の詰まったチャカチャカ会話で、入れたら情感が出て泣けさえしただろう過去の回想も入らないし、それはかなり残念ではありました。ですが、このエピソードを削らずに選んでくれたことは、とても嬉しかったです。

 それに《間》は詰まっていても、作画の演技付けはかなり細かくしてあって凝っていました。「聞いていましたでしょう、あの時。シェリダンで」とナタリアに言われたルークの瞳が、一瞬、気まずげにさまよったり、それを見たナタリアの瞳が細かく震えて(!)、それからちょっと悲しげに目線を落としたり。おおお…!

《ナタリアとの約束》はアニメ版でも第1話からかなり大きく取り扱っていましたし、ちゃんと糸の端を結んでもらえた気分。ほくほく。

 ただ、第13話でジェイドが叱るのは見込んでいるからこそだと語られた際、原作ルークは嬉しそうにするのにアニメルークが完璧に無反応で肩透かしを食らったことがあったんですが、今回も「あなたも、わたくしの大切な幼なじみですわ」とナタリアに言われたルークが「……ありがとう」と言う描写がカットでした。そこまで語らずともルークがどう感じたかは想像できるでしょ、ということなんでしょうけど、絵でもルークが嬉しそうにする様子は描かず、ごく静かな表情にしてありましたし。

 ここでルークが嬉しそうな、ジーンとした顔をしてたら、彼がナタリアに認めてもらえてどんなに安堵したか、つまり自分の存在に引け目や罪悪感を感じてるってことまでをも視聴者に伝えられたと思うけど。この後のレプリカ編冒頭の描写を見ても、アニメのルークはそういうこと大して感じてないんですね。フルコースにデザートがついてなかった気分。

 

 ルークが暗唱した《約束の言葉》はチョー早口でした。(^_^;) 七年目の言葉なんだから、もっと思い入れ込めて言ってやれよルーク。いや実写ドラマ的に言うなら、画面外で撮影スタッフさんが「巻いて巻いて!」とサイン送ってたんだろーけど。

 それにしても、一度盗み聞きしただけなのに完璧に暗記しているのは、やっぱ色々と想像を掻き立てられる部分があるなぁと、改めて思いました。アッシュやナタリアがその言葉を忘れられないのは、それが二人にとって大切な思い出だから。では、レプリカルークにとっては…?

 興味のないふりをしながら、その言葉を思い出せない・記憶のない自分へのもどかしさや罪悪感は、ずっと感じていたんじゃないかな。どんな言葉だったのかルーク自身が知りたくてたまらなかったんじゃないでしょうか。だから自分の言ったことではなかった、自分が言ってやれる言葉ではなかったんだと本当に思い知らされても、脳に焼きついちゃったのかもしれない。とか。

 

 それはともかく。このルークとナタリアの会話のシーン、「約束、果たせなかった」以降しばらく、口パクと声が微妙にずれてませんでした? 絵と音が乖離して上滑りしているような妙な違和感がありました。ルークが「げ……ばれてたのか」と言う時なんか、口パク自体してませんよ。DVD化の時には直されるのかな。

 

 場面変わり、ホテルの部屋で一人、ベッドに腰かけてじっと俯いている様子のティア。その部屋の前まで行ったルークは、扉をノックしかけますが、結局手を下ろし、黙って立ち去ったのでした。ミュウも珍しく黙って従う。

 これは凄く上手いアレンジだなぁと思いました。ティアとルークが話をするエピソードはこのすぐ後、アブソーブゲートにもある。そして似たようなことしか話しません。だとすれば決戦前夜の方をカットでいいんですけど、主人公が決戦前夜にメインヒロインを気にかけないのは不自然です。で。わざわざ部屋まで行ったのに気を遣いすぎて話せずに戻ったというのは、切なさもあり、ルークらしい不器用さも感じられて、何より自然な形のエピソード短縮で、なんだか良かった。

 そっか。このための布石として、珍しく《ティアが焦ってなだめられる》エピソードを作ってたのかな。余裕のないほど辛そうなティア、みたいな意図で。

 

 再び場面変わり、ホテルの部屋で窓際のベッドに腰かけて剣の手入れをしているガイ。少し深刻な表情でじっと刃を見ています。――と。扉が開いたので見やれば、ルークがミュウを連れて入ってきました。

ガイ「なんだ? ティアの所に行ったのかと思ったんけどな」
#二つあるベッドのうち、壁側へ向かっていたルーク、ぎょっと顔を上げてうろたえる
ルーク「な、なんでそれを……」
#ガイ、ルークに背を向けた姿勢のままニッと笑い、澄まして剣の手入れをしつつ
ガイ「彼女、相当辛そうだっただろ。お前ならほっとけないだろうと思ってさ」
ルーク「……俺、ティアになんて言ったらいいか分かんなくて……」
#自分のベッドに腰かけるルーク。ガイとは部屋の端と端で背中合わせという形になる
ガイ「そうか……」
ルーク「アブソーブゲートにはきっと、ヴァン師匠せんせいもいるよな。(俯いて)ティア、大丈夫かな」
ガイ「お前だって辛いだろう」
ルーク「え?」
#驚いて肩越しにガイを見るルーク。背中を向けて剣の手入れを続ける彼の表情はルークには見えない
ガイ「俺もその気持ちは分かる」
ルーク「ガイ。――(ハッとして)そうか。ガイにとっても師匠は幼なじみなんだよな」
#複雑な笑みを浮かべて話を続けるガイ
ガイ「ああ。俺はガキの頃、恐がりでね。よく姉上に男らしくないって叱られたよ。そんな時いつも庇ってくれたのは、ヴァンだった。
 (笑みを消して)どこかで違う道を選んでいたら、俺も六神将のように、ヴァンに協力していたかもしれない」
ルーク「ガイ!」
ガイ「それでホドが復活するなら……。例えレプリカでも……仲間や家族が復活するなら、それでもいい」
#ガイ、手入れの終わった剣をパチリと鞘に収める
ルーク「……!」
ガイ「……と、考えていたかもしれない」
#ガイ、刃を収めた剣を脇に置く。静かに笑って肩越しにルークに目をやり
ガイ「だけど俺は、お前と同じ道を選んだ。だからやれるだけのことはやるさ」
ルーク「ガイ……。(笑って)そうだな」
#ルーク、すぐに笑みを消し、己の両手を見つめてから、決意の表情でぐっと握りしめて両膝に下ろす

 原作・初回ロニール雪山復路でのイベントと、アブソーブゲート決戦前夜のガイイベントから、それぞれ少しずつ要素を拾っていますが、全体としてはオリジナルの会話です。ガイの表情がいちいちよかったなぁ。

 ティアは一人部屋だったようなのに、ガイとルークは相変わらず二人部屋。二人の会話を自然に入れるための物語上の方便なんでしょうけど。この擬似兄弟コンビの仲良しぶりが好きな私としては、これだけで嬉しくなってニヤニヤしてました。我ながらお手軽ですね。

 個人的に、背中合わせで互いの顔を見ずに、でも結構心情の深いところに触れる会話をしてるのも萌えでした。同性の親友同士なのに、同じ部屋の中で顔見ずに離れて会話してるのってのも考えてみれば変な感じなんですけど、ヴァンのこと、ホドのことは、やっぱ互いに、どこか微妙な、未だ痛みを覚える部分があるのかなぁ、とか。いや妄想は自由ですから。

 更に妄想をたくましくするなら、ティアが一人部屋なのは、ジェイド以下の仲間たちが彼女の心情を慮ったからなのかも。

 

 ナタリアとの会話では、ルークが彼女の言葉で何を思ったのかを描きませんでしたが、ガイとの会話ではちゃんと、嬉しく思ったこと、それが師と戦うという彼自身の決意に繋がったことまで表情や動作で表現されてあったんで、溜飲が下がる思いでした。

 それから。オリジナル台詞で、ガイが「お前だって辛いだろう」「俺もその気持ちは分かる」と言ってくれたのが嬉しかったです。原作のこの辺りのエピソードでは、誰もヴァンと戦うルークやガイの辛さを斟酌しんしゃくしなかったから。誰かが、ルークだって辛いでしょうと言ってくれたらいいのにとずっと思っていたので、報われた気分でした。ありがとうございます。

 

 このルークとガイの会話シーンは、今回分で私が一番好きなところです。ここだけ見るなら大満足♥ です。でも、この後のリング操作〜レプリカ編冒頭の辺りの、度を超えて尺が足りていない無惨さをかんがみますと、このエピソードはカットすべきだったんじゃないかとも思いました。ここと冒頭のラウンジのシーンならカットしても物語に影響しないから。大体二分半強くらいの余裕になるし。

 尤も、本当にそうなっていたら、きっと私は「ガイのイベントがなかったよぅ」とぶーぶー不満を垂れてたんだろうなとも思います。(^_^;)

 部分の萌えを取るか、全体の完成度を取るかですね……。難しいです。部分が良くても全体として駄目だったら、やっぱりその作品は評価し難いと思うのですが、最初から固定されている視聴者(原作ファンとか声優ファンとか)なら、部分に好きなところがあれば充足する気もします。TVA『アビス』は後者狙い、なのかな。

 

 アブソーブゲート決戦前夜イベントは、どのキャラのものも捨てがたいのですが、結局、丸々採られたのはナタリアイベントと、前回消化されたイオンイベントだけでしたね。ガイ、ティアは変形したものの満足な形。ミュウ、アニスは完全カット。ジェイドは、多分、最終回のヴァン戦直前辺りに変形して入るだろうと踏んでるんですが。このイベントで語られる彼のコンプレックスはラストシーンに繋がるだろうと思うから。完全消滅だったら残念です。

 それにしても、アニメ版はアニスが不遇ですよね。腹黒なところとイオン大事なところしか描かれてません。優先順位が低くみなされてる気がします。それでも本編ドラマCD版よりはまだ扱いがいいとは思いますが。

 

 一晩過ぎて翌朝。眠っていたルークが頭痛で目を覚ます。

 今回もガイの寝相は普通でした。15話のアレ以来、ガイの寝相チェッカーになっている私(笑)。流石に雪国だからなのか、肩までしっかり布団をかけて眠っておりましたです。で、今回はガイもルークも、上着を脱がないまま寝てました。作監さんによって、ちゃんと上着脱いで普通に寝てたり、布団かぶってるけど上着を着たまま寝てたり、はたまた完全装備で靴も履いて布団もかけずにベッドに転がって寝てたり。この人たちの寝方はいちいち面白過ぎます。これから最終回まで、ガイの寝姿は何回拝めるのかしら。

 15話ではミュウはルークの枕元に丸まって眠っていて、猫みたいなイメージでしたが、今回は前回でアニスと寝ていた時と同じ、一人前にルークと並んで布団に入って、お人形さんみたいに眠ってました。か、可愛……っ♥

 ガイとミュウがまだよく眠っているのを確認してから、ルークはそっとベッドを抜け出します。

 

 朝のケテルブルク広場でアッシュを発見する。アッシュがノエルと話していたシーンが丸々カットされてました。つまり、彼が何の目的でここに現れたのかが不明瞭になってます。(原作では、ノエルにルークたちの行動予定を聞きに来ていました。ラジエイトゲートに行く余裕がなくなったことを聞き出して、ルークたちに代わってアルビオール3号機でそちらへ向かってくれたんですよね。)

 それと、アッシュが「……期限が近付いてるってことか」と言った後、ルークが不思議そうに《間》を置いてから「それよりお前、師匠せんせいに斬られた傷は……」と言っていたので、意図的に話を逸らした感じでちょっと不自然でした。ルークにはアッシュのその言葉はよく聞こえていなかった、という感じの方が良かったなぁ。

 会話は原作沿いでしたが、以下のようにアレンジされていました。

(原作)
アッシュ「なんだ! 言いたいことがあるならはっきり言え!」
ルーク「……ありがとう。おまえ、俺のこと憎んでるのに色々協力してくれて……」
#アッシュ、ルークの胸倉を掴んで睨みつけ
アッシュ「勘違いするな! 俺の目的のためにおまえを利用しているだけだ! おまえのためなんかじゃねぇ! 二度とそんなことを言ってみろ。殺してやる!」
#アッシュ、ルークを地面に突き転がすと、さっさと身をひるがえして去っていく
ルーク「……なあ、アッシュ! 一緒に師匠せんせいを止めに行かないか? お前と俺で師匠を……」
#アッシュ、立ち止まったものの
アッシュ「……断る!」
ルーク「どうして!」
#ルーク走り、アッシュの肩を掴もうとしたが、彼ががくりと膝をついたので驚く
ルーク「アッシュ! ……おい、腹から血が……!?」
アッシュ「……くそっ! こんな体でなければ、とっくに俺がアブソーブゲートへ向かっているっ! ……おまえがヴァンを討ち損じたときは、俺が這ってでも奴を殺すがな」
#ルーク、アッシュの背後に立ったまま、目を伏せて
ルーク「……わかった。俺、必ず、師匠せんせいを止める」
アッシュ「止めるんじゃねぇ! 倒すんだよっ!」
#ルーク、目を伏せたまま
ルーク「わかった……」

(アニメ版)
アッシュ「なんだ! 言いたいことがあるんなら、はっきり言え!」
#ルーク、アッシュに歩み寄りながら
ルーク「……なあ、アッシュ。一緒に師匠せんせいを止めに行かないか? お前と俺で師匠を!」
アッシュ「……断る!」
ルーク「どうして! お前だって!」
#ルーク、アッシュの肩を掴もうとしたが、彼ががくりと膝をついたので驚く
ルーク「アッシュ! お前、やっぱり怪我を」
アッシュ「……くそっ! こんな体でなければ、とっくに俺が、アブソーブゲートに向かっているっ!」
#アッシュ手を伸ばし、ルークの胸倉を掴み上げて睨む
アッシュ「お前がヴァンを討ち損じた時は、俺が這ってでも奴を殺す!」
#ルーク、掴み上げられたままアッシュの顔をじっと見つめて、早口に
ルーク「分かった。俺が必ず、師匠せんせいを止める」
#ルークを掴み上げる手に力を込めるアッシュ
アッシュ「止めるんじゃねぇ! 倒すんだよっ!」
ルーク「分かった……」
#アッシュ、やっと手を離すと足早に歩き去る。無言で見送るルーク

 アニメ版の方が、アッシュを よりカッコ良く描いてるかな。

 原作はアッシュが怪我で凄く弱っていて、それでも虚勢を張る彼の意をルークが酌んだ、という感じでしたけど、アニメ版は脅されて「師匠を倒します」と言わされたニュアンスがあるかも(笑)。あと、アニメ版はアッシュに「ルークを殺す」と言わせない。

 

 発進していくアルビオール2号機を、街の外からアッシュがじっと見ているオリジナルシーンが追加されていました。つまり、アニメ版のアッシュはラジエイトゲートには行かなかったんですね。ケテルブルクからだと、ラジエイトゲートはアブソーブゲートより遠い。ダンジョンの短さを加味しても、ルークたちより早く向かわなければ間に合いそうにありませんから。

 

 度重なるダアト式封咒の解咒作業のため、この時点の原作イオンは疲労の極に達してケテルブルクのネフリー宅に残留、アニスに全ての見届けを託すのですが、アニメ版にはそれらのエピソードの一切はなく、アブソーブゲート入口まで同行して、ノエルやミュウと共にアルビオールに残留することになっていました。

 

 アブソーブゲートは、原作版の遠目にも音素フォニムが光り輝きながらごうごう吸い込まれてるのが分かる背景美術の印象が強かったので、アニメ版は地味で残念でした。アブソーブゲート内も透明感が薄くて、もっさり見えて残念。アニメ版は宮殿や街などの通常風景が圧倒的な美しさで素晴らしいですが、地核やパッセージリングなど、神秘的な背景は原作の方が優れている感じがします。3DCGだと背景そのものをアニメーションさせたりグラデーション入れたり半透明にしたりするのも容易なんでしょうし。

ルーク「ここがアブソーブゲート」
ガイ「これが記憶粒子セルパーティクルか……」
ナタリア「これを止めるのですわね」

 ……あ、あれ? 17話でメジオラ高原やザオ遺跡のパッセージリングを起動させた時、光の粒が立ち昇ったのを見たでしょーに。アレも記憶粒子では。あと、ナタリアの台詞が省略し過ぎなような。記憶粒子を止めるんじゃなくて、その逆流を止めにきたはず。記憶粒子そのものを止めたらプラネットストームが動かなくなって、これと音素フォニムの化合によって作り出される惑星燃料(譜術や譜業のエネルギー)が供給されなくなっちゃいます。

 

 そういえば、アニメを見ていて初めて「あれっ?」と気付いたことがありました。アブソーブゲートはエネルギーが吸い込まれています。だから記憶粒子セルパーティクルが雪のように降り注いでいて、それがとても綺麗です。でも考えてみたら、初訪問時はヴァンがエネルギーを逆流させてたんですよね。ならば、記憶粒子が吹き上げていないとおかしかった…?

 アニメ版では、ヴァンを倒した後にルークがリング操作をすると、それまで吸い込まれていた記憶粒子が逆流して、吹き上げていました。そしてこんな会話がなされる。

アニス記憶粒子セルパーティクルが……!」
ジェイド「正常に戻りましたね」

 アブソーブゲート(英語でabsorb gate 、即ち《吸い込み口》)から記憶粒子が吹き上げるのは異常です。原作が間違っていて(もしくは、逆流は一時的だったなどの説明が欠けていて)、アニメ版はそれに引きずられてる…? 間違い修正して補完すべきところを、逆に間違い増幅しちゃってる、のでは。…DVD化の時に修正されてるといいなぁ。

 

 アブソーブゲート内を少し進むと地震が起こり、床の端が崩れてティアが落下。救おうとしたルークも一緒に遥か下に落ちる……。

 原作では落下したのは仲間たちの方で、ルーク、ティア、ミュウがその場に残ります。アニメ版がそれを逆にしたのは、ルークとティアだけが先にヴァンの居場所に辿り着いて、二対一で戦い始める展開にしたかったから、なんでしょうね。

 ゲームは、一人の敵に複数の仲間で立ち向かうことが多い。でもそれを卑怯だと気にする人もいるみたいですし、何より、絵的に描きづらいのかも。各キャラがそれぞれ口上を述べたら尺も取っちゃうし?

 

 原作では《ルークとティアとミュウ》《ガイとナタリア》《ジェイドとアニス》の三チームに分断され、それぞれの物語が展開しますが、アニメ版ではルークチームのみの扱い。

 ジェイドがアニスに「大佐はみんなのことがどうでもいい訳じゃなくて、ちゃんと信じてるんですねぇ♥」と言われ、急に笑いだして「そうですね。そういう見方もありますね。確かにそうでもないと、いつまでも一緒に行動できないか」と自分で納得してた……大人が子供に指摘されてやっと己を知るエピソードは好きだったので、カットは妥当だけどちょっとだけ残念。

 

 仲間との合流を信じて奥へ進むルークとティア。

 仲間の安否を心配するルークへの「一番心配な人がこうして元気なんですもの。平気よ」というティアの茶目っ気ある励ましや、ティアがルークの小さな傷を治そうと無造作に手をとったらルークが真っ赤になって「いいよ、こんなもん! 舐めときゃ治る!」と慌てちゃうエピソードはカット。尺がないので妥当だと思いますが、ルーク×ティアの萌えエピソード好きな人はガッカリしたのかも。

 ここでルークとティアが交わした会話は、アブソーブゲート決戦前夜・ティアイベントから採ったエッセンスに、フェイスチャット『ティアの決心』を加え、更に初回ユリアシティで語られた設定を混ぜて再構成したものでした。原作をよく咀嚼・消化してあり、分かり易くて納得で、ヴァン関連の補完もあって、すんごく良かったです! おぉー!

#先を歩くティアと、その後ろを歩くルーク
ティア「静かね。ここに兄さんがいるのかしら」
ルーク「ティア。本当にいいのか? 師匠せんせいと戦うことになっても」
#ティア、ちらりとルークに視線を送って苦笑して
ティア「……辛くない……と言えば嘘ね」
#ぐっと勢い込むルーク
ルーク「だったら! ティアは戻って……」
#ティア、振り向かず立ち止まらずに毅然と
ティア「いいえ。これは、私が決めたことだもの。
 (目を伏せて)私はね。故郷であるホドを知らないの」
ルーク「え……」
ティア「私が母のお腹の中にいる時に、ホドは崩落したのよ」
#十六年前、ホド崩落の日のイメージ。
#瓦礫の中で、身重の母を庇うように抱きしめて倒れている十一歳のヴァン。
#母子を発見して近づくユリアシティの人々

ティア「兄さんは母と共に魔界クリフォトに落ちて、運よくユリアシティの人たちに助けられたの」
#十年ほど前のユリアシティのイメージ。セレニアの花咲く中庭に繋がる部屋で、十六歳頃の兄から勉強を教えられている様子の五歳頃のティア
ティア「母は亡くなったけれど、私は兄さんに大切に育てられたわ。何でも教えてくれた。譜歌も、故郷のホドのことも」
#現在の映像。歩きながら語り続けるティアの横顔を見つめているルーク
ティア「私は優しい兄さんが大好きだった。でも……」
#十六年前、ホド崩落直前のイメージ。
#人々が逃げ惑う中、瓦礫の中から這い出して立ち上がる、十一歳のヴァン

ティア「その笑顔の下で、兄さんはこの世界の何もかもを憎んでいたのかもしれない。自分の力を利用して、故郷と大切な人たちを破壊させられた日から」
#幼いヴァン、崩壊していく大地を呆然と見つめている。
#現在の映像。歩きながら話を続けるティアとルーク

ティア「それが預言スコアに全て詠まれていて、止めることができなかったことも許せなかったのね。
 でも兄さんのやり方は間違ってる。私が止めてみせるわ」

 アニメのティアさんは本当に男前で、揺らがなくて角の立つこと言わなくて、非の打ちどころがありません。

 原作ティアはもっと弱さが垣間かいま見えていて、ルークに優しく促されて「本当は……戦いたくない」と本音を漏らしたり、それを聞いたルークがもう一度説得しようと言うと「無駄よ! 兄さんが聞いてくれる訳ないもの」と子供のように言ったりしますが。

 それはともかく。アニメ版のティアとガイ、かなり似た台詞を喋ってますね。第15話のガイは「どんな事情があれ、ヴァンのやり方は間違ってる。止めなくちゃいけないんだ。俺たちの手で!」と言ってましたが、今回のティアも「でも兄さんのやり方は間違ってる。私が止めてみせるわ」と言っています。思考回路や語彙がそっくり。気が合う二人です。(脚本が同じ人だから?)

 ここでAパート終了。

 

 なお、この辺りの会話では、

ルーク「ティア……辛いなら戦いから外れていいんだぜ」
ティア「馬鹿ね。あなたのことを見ているって、約束したじゃない」

もカットでした。折角のキーワード入り萌え会話でしたが。これも、ルクティア好きの人は悲しみそうです。

 

 それからもう一つ。原作では決戦前夜イベントでもアブソーブゲートでのメインシナリオでも、ティアがルークを「あなたは変わった、成長した」と認めて褒めるんですけど、アニメではその要素が完全にカットされています。恐らく意図的なものだと思います。これに関しては後述。

 

 Bパート。

 いきなり、ヴァンがいる場所に到達しています。ルークとティアは仲間を待たずにさっさと突入した模様。ヴァン師匠はしっかりオルガン演奏をサービス。

 原作では主人公たるルークが仲間たちの先頭に立ち、その背後の左右に補佐するようにガイとティア、その後ろにアニス、ナタリア、ジェイドという布陣で対峙しますが、アニメ版では仲間たちと分断されて以降、ずっとティアが前にいて、ここでもルークはティアの後ろに下がっています。これも意図的なのかな。

 

 ルークとヴァンの会話は、前半は原作どおり。しかし後半はオリジナル会話になっていました。ヴァンの行動理論を分かり易く説明しようとしてる感じ?

 個人的に、演出が不満でした。

 ここでヴァンが例によってルークをアッシュと比較して侮蔑し、存在否定する。「だったら……なんで俺を作った! 俺は誰で、何の為に生まれたっていうんだ!」とルークが原作どおり訴えたのはいいんですが、ヴァンの顔ばかりアップで映して、肝心のルークを凄く小さくしか映さない。表情が見えません。彼の心が見えにくい。

 折角、《パイプオルガン》《壇上のヴァンを見上げるルーク》という暗示的なシチュエーションが揃えられているのに、ヴァンが(ルークにとって)神のごとき絶対者、という感じに見えないし。ルークが何度否定されてもヴァンに認められたくて仕方がない…《神なる父》にすがりたがっている様子が感じられませんでした。

 否定されて心折られる要素の方は、この後のシーンで「捨てゴマ」と言われてしゅんと俯く姿で表現されてましたけども。

#背を向けたまま淡々と語るヴァン
ヴァン「……何故お前がここにいる? レプリカ。 ここに来るのは私と共に秩序を生み出すべきアッシュ……ルーク・被験者オリジナルだ! 私の邪魔をするな、愚かなレプリカ」
ルーク「だったら……なんで俺を作った! 俺は誰で、何の為に生まれたっていうんだ!」
ヴァン「何かの為に生まれなければ生きられないと言うのか? 哀れなレプリカに教えてやろう。お前はユリアの預言スコアを覆す捨てゴマとして生まれた代用品。ただ、それだけだ」
#目を見開き、悄然と俯くルーク。ティア、非難するように
ティア「兄さん!」
ヴァン「だが、お前如き歪みではユリアの預言スコアは変わらない」
ルーク「え……」
ティア「どういうこと? 既に預言は変わり始めているでしょう」
ヴァン「枝葉が変わろうが樹の本質は変わらぬ。ユリアの預言は、あるべき未来へと確実に進んでいる。やはり、一度全てを無に帰し、預言に支配されない、新しい世界を作るしかないのだ」
ティア「何を言ってるの兄さん」
ルーク「ヴァン師匠。(一歩踏み出して)でも、そのために今いる人たちを見捨てるなんて! そんなの間違ってる!」←原作レプリカ編・アブソーブゲートでラルゴに言った台詞の前倒し?
#ヴァン、振り向かぬまま視線だけジロリと向けて
ヴァン「レプリカのお前がそれを言うのか」
#ルーク、一度は怯むが
ルーク「それでも、俺はこれ以上、人が悲しむのは見たくない。守りたいんだ!」
ヴァン「では……(ヴァン、腰の剣を抜く)私を、(ついにルークに正面向く)止めてみるがよい!」←この辺のヴァンの表情がうつろな感じで、妙な《間》があって、いかにも狂人めいてました。
#黙って杖を構えるティア。ルークも遅れて剣を抜く。
#ゆっくりと壇を降りてくるヴァン。かなり長く、無言で睨み合う。
#ついにルークが雄叫んで斬りかかって、戦闘開始

 ヴァンが壇を駆け下りるのではなく、ルークが壇を駆け上るのでもなく、ヴァンがゆっくり壇を下りて、両者睨みあって緊張を高めてから破って戦闘開始、というのはスゴク良かったです! 流石です。

 

 ルークの「俺はこれ以上、人が悲しむのは見たくない。守りたいんだ!」というアニメオリジナル台詞。ジュヴナイルでは珍しくない主張ですが、なんだか照れてしまいました。

 お仕着せの綺麗事よりは、こう……。「俺は、アクゼリュスやイエモンさんたちや、数え切れないほどの人たちの命を奪って、犠牲にしてきた。だから、これ以上誰も苦しめたくない。守りたいんだ!」とか。ルークの罪悪感や業を滲み出させた、ドスンと重い台詞の方が、自分的にはシックリきたかなぁ。

 

 でも本当のところは、このヴァンとの最初の決戦では、ルークにはひたすら「師匠、俺の存在を、俺のやり方を認めてよ!」的な意味の台詞を言っててほしかった。原作みたいに。

 

 ヴァンとの戦闘。ルークが弱かったです、あらゆる意味で。

 まずはルークの剣での猛襲から。でもヴァンは軽く受け止め、跳ねのけてしまう。ルークが危ないと見たティアがナイフを投げ、ヴァンは剣で弾いて「本気なのだな。メシュティアリカ」「あなたを止めるわ。ヴァンデスデルカ!」と宿命兄妹会話。次いでティアはバニシング・ソロゥを放つ。杖の先に発生させた攻撃力場を、遠距離にまで投げつけるアレンジ。この技好きなので嬉しかったです♥ その隙をついてルークが斬りかかるが、いざとなると師に剣を振り下ろすことをためらってしまう。好機を逃して反撃され、地に叩きつけられ剣を突き付けられる。

ヴァン「だからお前は愚かだと言うのだ。剣を向けた敵を前に、迷うなど」
#何とか半身を起こすルーク。だがそれまで。睨むしか出来ない
ルーク「ヴァン師匠せんせい……!」
#更に剣先を近くされて、ぐっと身を強張らせる
ヴァン「お前はもう用なしだ。せめて私の手で消してやろう」
#ヴァン、嗤って剣を振り上げる。せめて睨むルーク。ティアも手が出せない。
#ガイが駆け込んでくる。腰の剣に手を添え

ガイ「真空……破斬!」
ヴァン/ルーク/ティア「!」
#刃を一気に抜き放つ。居合いの極意
ガイ「せぇええいっ!」
#斬られ、退がるヴァン
ヴァン「くっ……!」
ジェイド「唸れ烈風! タービュランス!」←省略譜。テンポよくてかっこいい♪ 正確には「唸れ烈風! 大気の刃よ、切り刻め! タービュランス」
ヴァン「ぐぁあああーっ」
#その隙に立ち上がったルーク、剣を取って斬りかかる
ルーク「わぁあああーっ!」
#一刀に斬られたヴァン、後ろによろめくと、剣を突き立てて支えとする
ヴァン「く……」
#ルークの後ろに勢揃いした仲間たち
ジェイド「あなたの勝手な妄想は、これで終わりです」
ガイ「悪いなヴァン。俺はこの世界が結構好きなんだよ」
#ヴァン、苦しそうに顔を上げて皮肉に笑い
ヴァン「……失敗作に倒されるとはな。フフフフ……ハハハハ……! 面白いではないか」
#剣を離して、笑いながら後ろに下がっていく。そのまま床の端から落下。
#思わず剣の構えを解いてしまうルーク

ルーク「師匠!」
ティア「兄さん!」
#地の底へ消えるヴァン。ガイとティア、ヴァンの消えた床の端まで走りだす。それを見たルーク、アニス、ナタリアも走る。
#地の底を覗き込んでいるガイ、ティア、ルーク。その後ろから立ったまま覗き込むアニス。ガイは硬い表情。ティアは悲しげにへたり込んでいる

 ガイが、もーすっげぇカッコよかったです! 主人公のピンチに駆け付けるっ。一閃で戦況逆転! ガイ兄さん美味しいトコ取りだねぇ。真空破斬を使うところもイイ、と言うか、通だ。

※設定上、ガイは居合いの達人ということになっていて、ガイの技の中では真空破斬が居合い斬りだということになってるのです。…アニメーションは、居合いにしては姿勢が高くて回り過ぎてましたけど(笑)。

 譜術を使うカットのジェイドは、思いっきり女顔でした(笑)。誰コレってくらい、いつもとは違う絵柄。華奢だし。こっち系の絵柄が好きな人は大喜びしたんだろうなぁ。

 

 ヴァンが地核に落下する辺りは、原作のアニメーションパートそっくりに作ってありました。でも落下後は全く違います。

 原作ルークとティアは、ヴァンが落下しても声を上げませんでしたし、誰も落下先を覗きに行きませんでした。ティアは無表情に立っている。でもそれは何も感じていないからではなく、衝撃のあまり自失していたから。仲間たちはティアの様子を気遣わしげに見るものの、あえて何も言わずに次の作業へ向かう。取り残されたティアの肩を優しく叩くのはルークです。でも、彼も言葉は出さずに微笑みだけで先へ行く。そして、やっとティアの顔に人間らしい悲しみが浮かぶのでした。

 尺がないから仕方ないけれど、この辺は原作の方が好きだったかな。でも、ティアだけでなくガイの心理的衝撃も描いていた点は、アニメ版の好きなところです。ヴァンが落下した後、真っ先に駆け出して下を覗いたのはガイでした。……いや、自分のことよりティアを気遣って真っ先に声を掛けて近づこうとした(でもナタリアに手だけで止められた)原作のガイも大好きですけど。

 にしてもアニメ版、ルークがすぐには覗きに行かなかったのは、少し驚きでした。確かにガイやティアに比べれば、ルークはヴァンと大した付き合いはないんだけど。でも原作の、ヴァンに凄まじく傾倒していた、世界の中心がヴァンだったルークのイメージがあるものだから。

 

 閑話休題。

 アニメとは全〜然関係ない話で恐縮ですが、今回のヴァン戦を見たら、自分が二年……いや、もう三年? 前にサイトの同人二次創作で『アビス』のこのシーンのノベライズを書いた時に考えていた諸々のことが、なんだか思い出されて仕方なかったです。

 例えば、「あ、オルガンと床の破壊を省略したんだ」とか。

 原作でルークたちがヴァンのところに来ると、彼は檀上でパイプオルガンのようなものを演奏している。ところが、戦いが終わるとパイプオルガンは消えています。それがあった壇や周囲の床ごと。床は大きく割れて欠けている。そしてアニメーションパートを見ると、ヴァンが地核に身を投げた場所は、床のデコボコの断面が見えて、どうやら割れてるんですよね。

 何のイベントも説明もありませんが、つまり戦闘中に床ごとオルガンがあったところが破壊され、ヴァンはそこから身を投げたんだなと判断しました。んで、順当に考えるなら戦闘に使われた譜術で床が壊れたんでしょうけど、ここはルークの未熟な超振動の暴走で…みたいにしよう、なんて勝手に筋付けてノベライズしたり、楽しかったです。

 そんな思い出があったので、アニメ版ではバッチリ補完で、譜術の応酬なんかでド派手に崩れるのかしらと興味津々だっただけに、省略で肩透かし。まあ、そりゃそうか。床が壊れてないのにヴァンはどこから地核まで落ちるんだろうと思ったら、単に床の端から落ちて行きました。

 

 あと、ヴァンと戦うルークがピンチに陥ると、ティアはナイフを投げて妨害(ヴァンが剣で弾く)、ガイが素早く駆け込んでヴァンを斬って、よろめいたところにルークが通常攻撃でトドメ、という流れ。

 ヴァンと最も近しい間柄であるティアやガイが、ルークを助けてヴァンを攻撃する。ヴァンよりルークを選んだという象徴的展開! とか。最後はやっぱりルークにトドメを刺させなきゃ、それも必殺技なんかじゃなく普通に剣で斬って、その手応えを生々しく記憶に残してもらわないととか。そういうのを考えて書いたっけなぁと。

 アニメではジェイドの助太刀も入りますし、単に《ピンチを仲間が救う》って王道展開なだけなんでしょうが、そんなこんなで、アニメのティアやガイも、きっとルークを選んだからこそ ためらわずヴァンを攻撃してくれたんだよね、なんて思いました。ルーク自身は迷ったのに、二人は世界だけでなくルークのことも守ってくれた。ルークは仲間には恵まれたと思います。

 

 さて、アニメのストーリーの続き。

 ヴァンが消えた地核をそれぞれの表情で覗き込むティア、ガイ、ルークに、容赦なくジェイドが声をかけます。

ジェイドほうけている場合ではありませんよ。アブソーブゲートの逆流を止めなければ。あなたの超振動が必要です、ルーク」
ルーク「俺が?」
アニス「え!? ルーク、超振動を使えるの?」
#ガイが笑いかける
ガイ「こっそり訓練はしてたんだよな?」
ルーク「あ。うん。でも……」
#ルーク、自信なさげに目線を下げてしまう。←これも意図的な演出なんだろうなぁ。
#ジェイドが優しく微笑って←アニメのジェイドは異様に優しいですよね。
ジェイド「時間がありません。やるしかないんです」
#真剣な顔でうなずくルーク
ルーク「分かった」

 もう破れかぶれになってるよなーという感じです。

 アブソーブゲートの逆流を止めるのに、どーしてルークの超振動が必要なのか。しかも、なんでこんな土壇場になって言い出すのか。説明ないし意味不明ですし唐突ですが、もーしょーがないじゃん! って感じでとにかく話を繋げ繋げ。

 前回イオン様が散々、最後のパッセージリングはロニール雪山ですと言っていたので、アニメ版のアブソーブゲートにはリングはないのかと思ってたのに、予想を裏切って普通にありました。設定の整合性はズタボロです。満身創痍ですが話は繋げなければなりません。

#パッセージリングの前に立ち、両手をかざして超振動を発するルーク。天井にセフィロト図が浮かぶ
ルーク「うっ……くそ……、力が足りない……」
ティア「ルーク」
#吸い込まれていた記憶粒子がピタリと止まる
ルーク(この超振動は、まさか)
#ルークの頭の中に響く(?)アッシュの声
アッシュ『この屑! 俺の力を貸してやる』
#ルークの両手から発される超振動が強まる
ルーク(アッシュ!)←アッシュの声を聞いてる(?)のに、何故か頭痛は全然起きてません。
#記憶粒子が吹き上げ始める。←ここの疑問点に関しては前述
アニス記憶粒子セルパーティクルが……!」
ジェイド「正常に戻りましたね。これで外殻大地は崩落することなく、ゆっくり降下できます」

 タイミングよくルークに語りかけてきて(つまりずっと覗き見してたんデスね)、ルーク自身のパワーを一時アップしてくれたらしい、神様みたいなアニメ版アッシュさんなのでした。

 これはローレライが連絡船でルークを操った時と同じで、ルークを通してアッシュが力を使ったってことになるのかなぁ。

 

 原作の目的は《全世界のパッセージリング連動、外殻一斉降下》で、準備が不完全で困難な作業でした。ところがアッシュが、ルークたちが時間切れで行けなかったラジエイトゲートのリングを起動してくれ、第七音素セブンスフォニムの力を送ってくれた。リングを動かせるのルークの力だけ。けれど同位体のアッシュは同じ力を持つ。全ては偶然であり必然。ルークはアッシュの声を聞いたわけではないけれど、ラジエイトゲートから送られる自分と同じ《力》に触れて、彼が協力してくれたことを悟る。

 一方、アニメ版は目的を《アブソーブゲート逆流の解除》に変更しました。だからアッシュはラジエイトゲートに行く必要がない。回線繋いでルークの行動をコソコソ覗き見してたことにするしかないし、リングに力を送るシチュエーションじゃないから、ルーク本人に力を送ったことにするしかない。そして、《力を送るアッシュ》の映像を出す尺が足りないから、『力を貸してやる』(アッシュ!)と台詞で説明するしかない。

 結果、一気に陳腐化した気がします。

 

 作業が終わってルークたちがホッとして、ティアがフッと俯いていると、急にルークにローレライが呼びかけてきます。

『アッシュ、ルーク! 鍵を送る! その鍵で私を解放してほしい! ……栄光を掴む者……私を捕らえようと……私を……』

 先刻アッシュの声を聞いた時は平気そうでしたが、今度は頭痛に苦しむルークです。とうとう気を失って倒れた彼に、仲間たちが駆け寄る。

 

 ……と、思ったら、もう次の場面はバチカルで一ヵ月後でした。早っ! 余韻もヘッタクレもありゃしません。

#ファブレ邸の自室で、ベッドに寝転がってぼんやり天井を見つめているルーク。やっぱり靴は履いたまま。
#ミュウが飛んでくる

ミュウ「ご主人様、起きるですの!」
ルーク「嫌だ……」
#ルーク、ごろりと寝がえりを打って背を向ける
ミュウ「みゅうぅぅ。ご主人様、帰ってきてからずっと、寝てばかりですの。もう一ヶ月もですの」←原作だと「溜め息ばかりですの」だったんですけどね
ルーク「いいだろ。もう全部終わったんだ。外殻大地は無事、魔界クリフォトへ降下して、障気も止められたし。マルクトとの戦争は停戦。ガイとペールは、マルクトへ帰っちまったし。ナタリアは公務に飛び回ってるし。ティア達も、みんな故郷に帰った。俺もここにいるしかないんだから」
ミュウ「みゅぅう……」
#悲しそうに耳を下げるミュウ。
#ドアがノックされ、母・シュザンヌが入ってくる。慌ててベッドから跳ね起き、直立不動になるルーク

シュザンヌ「ルーク。また閉じこもっているのですか? 身体によくありませんよ」
ルーク「あ、はい。――!」
#母が頬に触れようとすると、ビクリと身を引く
シュザンヌ「まあ。どうして逃げるのですか?」
ルーク「……あの、俺、母上の本当の息子じゃ……」
シュザンヌ「やはりそれを気にしているのですね。(ルークの頬に優しく触れる)たとえレプリカでも、あなたは私の息子。それに変わりはありません」
ルーク「母上……」
シュザンヌ「必ず帰ってくると、約束さえしてくれるのなら、気晴らしに行くのもいいと思いますよ。迎えを呼んでおいたから、お友達に会いに行ってらっしゃい。ルーク」
#母、部屋から出ていく。ぼんやりと見送るルーク

 

 ルークと父親関連のエピソードは完全カットしていますね。その流れ上にある《宝刀ガルディオス》のエピソードが、初期の雑誌インタビューではアニメ内で全部描くと宣言されていたのに、結局アニメドラマCD2で始末されていましたし、尺不足でやむなく、父親関連のエピソードは捨てたってことなのかな。

 

 原作のこの時点のルークには、驚きと哀れみを感じたものでした。今まで好意的だった屋敷の使用人たちが殆どルークに戸惑い怯え、敬遠している。彼が偽者レプリカで、人間ではなかったからです。両親は変わらずルークを嫡男として扱っていますが、ルークはそれを信じきれない。本物が帰ってきたら棄てられる、必要とされなくなると怯えています。また、自分は偽物だから本物に譲らねばならないとも思っている。でも《ルークでいたい》。公爵家の跡取りとして生活することを期待されているけど、自分は本物じゃない。本物のアッシュが帰ってくるまでの代わりで、明日にはお払い箱かもしれない。将来を考えるのが怖くて何もしていない。そんな自分を自己嫌悪して、俺は何も出来ない駄目人間だと落ち込む。加えて、今までなら相談相手になってくれただろうガイは、もう屋敷にいない…。

 迷いに迷っていて、とても苦しそうで。

 でもアニメ版のルークに、そんな同情心は全く抱けませんでした。使用人たちに敬遠されている様子を描いてませんし、「本当の跡取りは俺じゃなくてアッシュだって、お前も知ってるだろ!」と執事に怒鳴ったエピソードもカットですし。ボーっとしてるだけで悩みなさそうで。ただの怠け者にしか見えません。むしろ「コイツ第1話と全然変わってないじゃん」と苛立ちと呆れを覚えさせられる感じで。

俺もここにいるしかないんだから」なんて、周囲が求めるから仕方なく居てやってるみたいな言い草です。ここの辺りは、SD文庫小説版と同方向の解釈だと感じました。ルークの存在不安の苦しみが、アニメ版は非常に希薄です。

 

 と言いますか、今回分を見る限りでは、そもそもアニメ版では、ルークが存在意義喪失の不安を抱えていない…?

 シュザンヌもこの時点で「たとえレプリカでも、あなたは私の息子。それに変わりはありません」と噛んで含めるように言っちゃってますし。これじゃ「本物が帰ってきたら俺なんて…」と悩む余地がないです。

 そして実際、ルークは母に「……俺、帰ってきていいんですか?」と卑屈な物言いをしませんし、ティアにも「理屈じゃ分かってるんだ! 俺は俺だって! だけど……俺って何だ?」「師匠せんせいが言ってただろ。『何かの為に生まれなければ生きられないのか?』って。少なくとも俺はそうだよ。不安なんだ。俺は、何の為に生まれたのかって」「変わりたかった。でも変わるにはまず『俺』が必要だ。だけど俺にはそもそも『俺』が無いんだよ。だから俺……『俺自身』を探さないといけないんだと思う」と悩みを打ち明けることをしませんでした。

 え……? でも、これって『アビス』の最大テーマですよね。《生まれた意味を知る》。それにこの要素がなかったら、ルークが命を捨てて障気中和しようとした動機が無くなってしまいます。……まさか、《真の英雄に成長したルークは、世界のため愛する人たちのため、犠牲になることを自己意思で決めた。立派な主人公になったネ》なんて展開になるのでしょうか(汗)。

 もしそうなったら、ガッカリです。自己を見失ってどん底に落ちて、埒もなくぐるぐる迷走して、そこから劇的に這い上がって《生きる》強さを見せつけたところが、私にとってはルーク最大の見せ場で魅力だったから。

 

 シュザンヌが呼んだ《迎え》とはアルビオール2号機で、ユリアシティへ向かう艇内でルークはノエルと会話。シェリダンでアルビオールを借りるエピソードを上手に圧縮していました。

 ちょっと引っかかったのは、ノエルが「シェリダンもかなり復興してきましたよ。亡くなった祖父たちのためにも、もう一度、以前のような活気のある街にしようって。みんな頑張ってるんです」と言う点。復興…? アニメ版ではシェリダン襲撃の際に殺されたのは老人四人だけ。建物が破壊されたり焼き打ちされたわけでもない。表現が合ってないよーな。

 もしかして、脚本段階では原作通りに街の人々も殺されていて、絵コンテ化の時点で作画の手間や尺の関係で削られた…? その名残とか。

 アッシュがアルビオール3号機を借りに来たと聞いて、意気込んだルークが顔を近づけるとノエルが頬を染めたのには、ニヤリとしました。単に照れただけにも見えますが、ノエルのルークへの淡い恋心を、アニメ版でも拾ってくれたと思っていいですよね。にやにや。

 原作のアッシュがアルビオール3号機を借りに来たのは一ヶ月前、アブソーブゲート決戦時でしたが、アニメ版では《このあいだ》借りに来たそうです。アニメアッシュが決戦時にラジエイトゲートに行っていないのは確定ですね。

 んじゃ、アニメアッシュが決戦の朝にケテルブルクに現れたのは、ルークたち(ナタリア?)を陰からこっそり見送るためだったと考えるしかないよなぁ。可愛いですね。

 

 アルビオールの窓から地上を見下ろし、青い海の中のユリアシティを見せる。外殻降下のアニメーションがなかった分、ここで外殻が本当に降りたことを見せたわけか。

 なお、街の人々の声を聞く描写が全くないので、外殻降下後の一般の人々がどんなに不安がっているかが分かりません。仕方ないことですが、狭い範囲の情報で物語は進みます。

 

 日の光の中のセレニアの中庭。でもセレニアの花は全開していて、閉じてません。設定無視。

 花畑の中央に建てられたヴァンの墓碑に祈るティアの傍に近寄って、ルークも祈りを捧げる。気付いたティアが顔を上げてルークにお礼を言う。ここはタイミングが不思議な感じでした。カメラが座って祈るティアから立っているルークまでパンして、ルークの手や顔が見えて視聴者が《ルークも祈っている》と理解する前に、ティアが「ありがとう」と言っちゃうので。せっかちな感じ。

 細かいことですが、ヴァンの墓碑の形が原作とは変えてありますね。パッと見でお墓だということが解り易い形にしてあります。

 

 前述したように、ルークが自分の悩みを話しません。ケロリとしたものです。アッシュが訪ねて来なかったかとティアに訊いて、何か調べているようだと伝える。脳裏に浮かぶのはアブソーブゲートで聞いたローレライの声……。

 ところでアニメのルークは《栄光を掴む者》がヴァンのことだと既に知っている筈ですよね。第15話でイオンに説明受けてましたから。でもヴァン復活の疑念は全く抱かない模様。……と…、トリ頭?

 アッシュが動いているという話を聞いて、そう言えばアブソーブゲートに残してきた兄の剣が無くなっていたそうだとティアが言い出します。原作ではこの情報はキムラスカの調査団が掴んだもので、父を通してルークが知り、ティアに伝えるんですが。短縮の都合で、アニメのルーク(キムラスカ)はどこまでもボンクラです。

 なお、原作のこの時点でもたらされた情報はもう一つ、《地核の再振動とプラネットストームの活性化》もありましたが、アニメ版では触れない模様。

 それはそうと、原作ではミュウもこの場にいて色々話すのに、アニメではいません。ノエルが気を遣って一緒にアルビオールに留守番したのかなーなんて妄想。

 

 六神将の誰かが生きていて剣を持ち出したのかもしれない。俄かにティアがそう言い出して、二人はイオンの知恵を借りようとダアトへ走るのでした。これで今回は終了です。






 寂しさを感じています。

 原作未見の方の感想を拝読していたら、こんな意味のことが書いてありました。

「ルークはまだ自分で考えて行動することができないのかもしれない。だからヴァンを前にすると攻撃を躊躇して、ヴァンと戦う確固たる意志を持つ仲間たちが来ると戦意を取り戻す。戦いが終わって一人になると することを見つけられず、《消えた剣》という謎をもらって、やっと動くことができた。」

 この感想を読んで、『アニメディア』'09年3月号掲載の、アニメ監督さんのコメントを思い出しました。曰く、「ルークは平和条約締結を提案した時くらいしか、自発的に行動したことがない」と。

 アニメ第10話に、イオンとナタリアの救助に参加したいと自分からは言い出せず俯いてしまうルーク、というオリジナルエピソードがありました。その後も、原作だとルークが指揮したり発案したりする場面がアニメでは15話(平和条約を提案した回)の一回を除いて全て違う形に変えられていて、これは一体何なのかと不思議に思っていました。……わざとだったんですね。

 今回分でも、ティアが「ルークは変わった、成長した」と褒める二つのエピソードを削除している。原作では先頭に立ってヴァンと対峙・会話するルークがティアの後ろに下がっている。セフィロトの操作にあなたの超振動が必要ですと言われると自信なさげに目線を下げる。優しく促されるまで「やる」と言えない。

 原作のルークは、シュレーの丘のセフィロトへ行った時、プロテクトを超振動で削除してみると自ら言いだし、ティアに強く反対されても「訓練はずっとしてる! それに、ここで失敗しても、何もしないのと結果は同じだ」と言って、見事にやり抜いたというのに。

 アニメ版ルークが自信なさげだったのは、ヴァンに散々劣化呼ばわりされた直後だったからではあるんでしょうけど。

 原作と構成が変わるのは当然のこと。キャラクターが変わってしまうのも、ある程度は仕方のないこと。でも。寂しいなぁと思えて仕方なくなりました。

 ルークが、髪を切って変わると誓ったこと。セントビナーを救うために外殻へ戻ったこと。救助に邁進まいしんしたこと。…外殻大地を下ろしたこと。アニメ版は。アニメ版のスタッフさんたちにとっては。その全てにおいてルークの意思がなかったんだ。その場の空気に流されて動いていただけで。

 アニメのルークは、日和見のお人形さん。

 監督さんが続けて仰るには、そんな自主性に乏しいルークが、21話では自分の居場所がなくなるかもしれないのにある決断をし、その後世界を救うために自ら行動するのだそうで。恐らく、アッシュを両親に会わせたことと障気中和のことだと思いますが。この言い方だと、それらを《賞賛すべき自主的行動》とみなしてる感じです。

 そりゃ、悪いことじゃない。立派な行為であるのは確かです。でもこれ、賞賛すべき自主性でしょうか。卑屈を極めて(二重の意味で)自分を殺した行動でしょう。障気中和エピソード(卑屈)は、アクゼリュス崩落(傲慢)の鏡映しという位置づけじゃないのかな。

 もしかしたらアニメ版は、《オリジナルに居場所を譲り、世界のために身を犠牲にする》ことを英雄行為として褒め称える結論になるのかと、不安になりました。

 もしも本当にそんな結末になったら、とても寂しいだろうと思いました。

 

今回の総論。

  • 忌憚なく言えば、初見時の最初の感想は「ダメだこりゃ」でした。
  • 部分を見れば面白かったです。
  • 次回からは素晴らしい出来で、泣かせる展開の連続だという話なので、これから名作になるのでしょう。

 

 ではまた次回。














 今回あまりに詰め込み過ぎだったので、何とかする方法はないんかな〜とアレコレ空想していました。折角なのでちょっと書いてみます。

 実際はこんな風にできるわけないし、噴飯ものの机上の空論ですけど、そこはまあ、視聴者の空想アソビということで。(^ ^;)

 

  • 14話以降の構成を変え、設定を大幅に整理する。
    • イオンが秘預言クローズドスコアを詠むエピソードを廃し、ルークたちが秘預言の内容を知るのは、レプリカ編のイオン死亡時のエピソードに兼ねる。
    • ガイとヴァンの密会、青色ゴルゴンホド揚羽のエピソードを削除。
    • ベルケンド《い組》の存在を抹消し、スピノザとイエモンが学生時代からのライバル、ということにする。
    • スピノザはアッシュたちに詰め寄られて逃げて以降、行方が知れないことにする。
    • 地核の振動周波数測定に行くセフィロトを、ザオ遺跡に変更。
    • パッセージリング巡りを廃し、振動周波数測定(ザオ遺跡)と外殻一斉降下(アブソーブゲート)の二箇所にしか行かないことにする。
    • ティアが障気に侵されるエピソードを削除。単に、ティアが近付くとリングが起動する→実はユリアの子孫だったから、というだけの意味付けにする。
    • ヴァンがローレライ消滅を最終目的とする理由を、レプリカ世界乖離阻止のためではなく、預言をもたらすのがローレライだから、ということにする。
    • ロニール雪山のエピソードは削除する。

 以上を前提とし、少しずつエピソードを圧縮します。

 

第14話

  1. バチカル脱出し、励まされてナタリアが立ち直る。
  2. イオンの提案で、崩落セントビナーを救う方法を求めてダアトへ。禁書を入手。
  3. ガイの発案でシェリダンへ向かいかけるが、アリエッタに襲撃されガイの記憶が回復。
  4. シェリダンへ。イエモンたちに振動静止装置の作製を依頼。
    イエモンは測定器を作ってすぐに渡す。
  5. この様子をスピノザが盗み聞きしていて、どこかへ消えるが、ルークたちは気付かない。
  6. ザオ遺跡に振動周波数測定に行く。
    ここのダアト式封咒は7話でイオンが開放させられていたので、ヴァンが内部に入ってリングを停止させていた。しかしティアが近付くと何故か起動。
    ジェイドは操作盤に警告文字を見る。
  7. シェリダンに戻り、イエモンの意見を聞く。セフィロトが暴走しパッセージリングが壊れかかっていることが判明。全外殻降下計画が提案される。
    しかし振動静止装置を地核で保持し続ける方法と、降下後の障気問題には解決策がない。
  8. とりあえず振動静止装置完成を待つことになるが、ルークが平和条約締結を提案。
  9. ナタリアとアッシュの約束、ルークとティアの会話。
  10. ナタリアがバチカルに戻る決意をする。

第15話

  1. Aパートまでで、インゴベルト説得と平和条約締結。
    ジェイドがタルタロスを振動静止装置の殻にすることを思いつく。軍に手配してシェリダンにタルタロスを送る。
  2. Bパートで、シェリダン襲撃〜タルタロスで出港まで。
    ヴァンは登場させず、リグレットがスピノザを伴って現れる形にする。
    甲板での「ティアだって本当は泣きたいはずだよ」のやり取りで終了。

第16話

  1. 大体Aパートまでで、地核突入〜脱出。
    ローレライに乗り移られて気を失ったティアをベルケンドの医療施設へ運ぶ。
  2. Bパート。ティアの健康は問題ないと話していると、スピノザが現れる。
    ジェイドが外殻降下による障気封印案を提案。しかし全外殻を一度に降下できねば意味がない。
    イオンが、パッセージリングは連動していて、ラジエイトゲートからなら一斉操作できると聞いたことがあるが、それには大量の第七音素の照射が必要だと話す。
    ルークの超振動を使うことになる。
    (両ゲートの封咒は以前開放させられている、とイオンが説明。)
    ジェイドは、計画の検証をスピノザに任せる。
  3. ティアが誰かからの密かなメッセージを受け取る描写。仲間たちは気付かない。
  4. 眠っていたルーク、ティアがいなくなったと起こされる。
  5. ヴァンとティアの密会場所を、すぐにルークたちは見つける。
    ヴァン、レプリカ大地計画を説明。地核静止を阻止しようとしたのはレプリカ世界を作るための第七音素セブンスフォニムが必要だったためだと。
    今のままの世界で何が悪いんだと問われて、ユリアの預言スコアから逃れるためだと語る。このままでは人類は死滅するのだと。
    まるで未来を…ユリアの第七譜石の内容を知っているかのようですとイオンが言い、ガイがハッとした様子を見せる。
  6. アッシュが駆け込んできてヴァンに斬りかかり、逆に斬られたところで終了。

第17話

  1. 斬られたアッシュにナタリアが駆け寄る。
    ヴァン、レプリカ世界で預言が詠めないようローレライを消滅させるにはお前の力が必要だと誘う。アッシュはそこのレプリカを使えと吐き捨てるが、アレは劣化品だと嗤う。ルークはショックを受ける。
  2. ヴァンはアブソーブゲートで待つと言って去り、アッシュも「俺には時間がない」と言って立ち去る。
  3. ベルケンドの宿に戻り、もう一度だけ兄を説得したかった、とティアの懺悔。
    ティアとヴァンがユリアの子孫であり、かつてホドに第七譜石が隠されていたことが明かされる。
    ティアは兄と戦う決意をする。
    ジェイドはスピノザの検証の結果、障気封印が可能だと語る。
    ラジエイトゲートから一斉操作を行う予定だったが、ヴァンがユリアの子孫ならアブソーブゲートのリングを操作する可能性がある、だからアブソーブゲートへ行ってヴァンを倒し、そこから操作しよう、不可能ではないはずだと決まる。
  4. 極地のアブソーブゲートへ向かうが、吹雪による視界不良でケテルブルクへ。
    他の六神将に取り残されて憤っていたディストを発見、逮捕する。
    ヴァンが記憶粒子の逆流を起こして、アブソーブゲートのある諸島以外のすべての外殻を落とすつもりだという情報を得る。
  5. 決戦前夜。ナタリアとの会話、ティアに声をかけられない、ガイとの会話。
  6. 翌朝、頭痛に呼ばれて、ノエルと話しているアッシュ発見。必ずヴァンを倒すと約束する。
  7. アルビオール内で会話。イオンは、ルークがヴァンから自立すればどうしたいのか分かると言う。
  8. アブソーブゲート内でリグレットたちの待ち伏せを受けるが、戦闘中に地震が起こって通路が崩壊、全員がバラバラに落下したところで終了。

第18話

  1. ティアとルーク目覚め、他の仲間を心配しつつ先へ進む。
    ルーク、ティアに辛いなら戦いから外れても良いと言うが、兄を討つのは妹の役目だと言う。
    ティアの出生とヴァンの過去の話。
  2. ヴァンとの決戦。土壇場で、はぐれていた仲間が合流し、ヴァンを倒す。
    ヴァンは地核に消える。
  3. ルーク、リングの操作を始めるが力が足りない。
    その時、遠くラジエイトゲートからアッシュが力を送ってくれる。
    障気封印と外殻降下が完了。
    ルークの脳裏にローレライの声が聞こえ、頭痛で昏倒する。ここまでAパート。
  4. Bパートからレプリカ編。
    父親にだらしない生活態度を叱られている辺りからスタート。ルークと目が合ったメイドが怯えた顔をする描写など入れる。
    アブソーブゲートに残してきたヴァンの剣が無くなっていることを父に聞かされる。
  5. 心配した母が迎えを手配しているので気晴らしに行きなさいと言ってくれる。
  6. 港へ向かうまでの道中、ミュウとの会話で、仲間たちの現況を説明。
    余裕があれば、街の人々が降下後の預言のない生活に不安がっている様子を描写。
  7. 迎えに来たアルビオールでユリアシティへ。
    艇内でノエルから、アッシュが一ヶ月前にアルビオール3号機を借りに来たこと、少し前にシェリダンに戻ったとき、何かを探して世界中を巡っていると操縦士の兄が言っていたと聞く。
    アッシュはヴァンの消えた剣についても何か知っているのではないか。だから帰ってこない? と彼の屋敷への帰還を非常に気にしている描写。
  8. ユリアシティ。ティアとの会話。
    まずは消えた剣の報告→ティアが、兄が何を考えていたのか考えてばかりいたと自嘲→ルーク、自分も悩んでばかりだったと語る。
    不自然な存在である自分が生まれた意味は何なのか、それが分からないと不安でたまらない。自分には自分自身がない。だから探さないといけない。
    ティア、一緒に他の仲間たちの所へ行って、本当にルークに自分自身がないのか聞いてみればいい、それに兄さんの剣のこともある、六神将が生きているのかもしれないと言う。
    イオンに相談するべくダアトへ出発して終了。

 こんな感じで。第14話がかなりキツキツ・チャカチャカになりそうですね(苦笑)。






 それはそうと、アニメを見ていて設定がこんぐらかったので、改めて原作を見たんですが。やっぱり、原作の時点でも色々おかしい点がありますよね。

 精緻な設定なのかもしれませんが、私にはよく分かりません…。

 例えば、崩落編でヴァンが語ったことには、地核を振動させればプラネットストームが強まって第七音素セブンスフォニムを多量に生産する。それを使ってレプリカ製造した後ローレライを消せば、余剰の第七音素がなくなり、レプリカの消えない安定した世界になるそうで。

 でもレプリカ編でアッシュが語ったことには。ローレライをヴァンが封印した。ローレライが封印されるとプラネットストームがその分の第七音素を補充しようと激しく振動し、地核は液状化し障気が発生して世界は滅ぶ、と。

 主客逆転してます…。プラネットストームが振動するから第七音素ができるのか? 第七音素を作るためにプラネットストームが振動するのか?

 個人的には、アッシュの言うことの方がおかしい気がします。プラネットストームは元々第七音素製造機構ではないし、プラネットストームも第七音素も自然物ではない。第七音素が足りなくなったからって、プラネットストームがそれを生み出そうと激しく動くなんて理屈が合わない。

 

 アッシュの言うことが正しいなら、ローレライを消滅させても新たに第七音素が大量生産されるだけ。結局、レプリカ世界は消えてしまう。プラネットストームを停止させれば第七音素の生産は止まるでしょうが、障気問題が未解決のまま残ってしまいます。

 うぅーん……。こじつけるなら、ヴァンはローレライのみならず、障気すらもアッシュに中和させようと最初から考えていた、とか……。だからレムの塔の障気中和の時は全然妨害してこなかったとか?

 難しいですね。

 



inserted by FC2 system