注意!

 

# 19 最期の預言スコア

脚本:岸本みゆき、面出明美/コンテ:青木康直/演出:鳥羽 聡/作画監督:中島里恵

 WEB上のどの感想を見ても、泣いた・感動したと書かれてあった回です。勿論、私もラスト四分で泣きました。

 

 話の圧縮がよくされてありました。特にBパートは、幾分駆け足ではあるものの、原作の間延びしていた部分を緊迫感ある形にまとめ直していて、良かったと思います。

 ただし、ルークがイオンに存在の悩みを相談するくだりや、以前は堂々と会話していたピオニーやインゴベルトの前でおどおどしてしまう描写など、生き方に悩み、誰かに《この世界で生きること》を許して欲しくてたまらず、劣化レプリカだという現実に極度に自信を失い卑屈になっている様子は、例によって全カットでした。

 

 そういえば、ふと思い出したんですが、アニメのジェイドって封印術アンチフォンスロットかかったままなんでしょうか。

 

 以下は重箱の隅ツッコミです。読みたい方だけどうぞ。





 アバンは本編のはみ出し。

 ダアトの街に着いたルークとティアは、石碑巡りのアルバイトをしているアニスを発見。教団の施設外でお布施をもらうのは禁じられているとティアが叱り、アニスが見逃してと懇願しても融通をきかせない。仕方なくお金を返しに行ったアニスは、口の中で「何も知らないくせに……」と呟く。原作ママです。

 ティアは自分にも他人にも厳しい。情に流されることを忌避し、常に公正であろうとしていて、言動には筋が通っています。その厳格さがあるからこそ救える多くがある。でも堅すぎるという見方もできる。正論だけではどうにもならないこともあるから…。ティアは、まだそういうものが見えてないっぽい。そういうもどかしさを上手く表したエピソードですよね。

 

 Aパート。

 イオンの私室に通されたところからスタート。部屋に入るとジェイドとガイがいるという、初っ端からの圧縮展開です。

 原作では、

  1. イオン&アニスと再会した後、教会を辞去しようとしたところで、マルクト貴族院の使者としてイオンを訪ねてきたガイと再会
  2. ルーク、ティア、ガイ、アニスでアッシュを追って行動しているうち、セントビナーで軍務中のジェイドと再会
  3. マルクト軍がキムラスカ軍らしき集団に襲われたので、ピオニー皇帝からの要請でインゴベルト王に話を聞きに行き、城の前で、ケセドニアでの公務から帰って来たナタリアに再会

という風に、それぞれの仕事をしていた仲間たちと時間をかけて遭遇し、それぞれの目的から行動を共にすることになりますが、アニメ版は仲間たち全員が自ら集まってくる。展開の圧縮という視点から見て、上手いまとめ方だと思いました。

 

 部屋の中に二人がいるのをすぐには見せないためか、アニスがドアをノックして呼びかけると、イオン自らが扉を開けて出てきて、戸口に立って挨拶する形になってました。(^_^;) 気さく過ぎです導師様。

 イオンの執務室は、アニメで見るといやに狭く見えました。大の男が二人もいたせいかしら。尋問室みたいな狭さと殺風景さ。窓ないし。こういう部屋でお仕事してるのかイオン……。あまり精神衛生に良い部屋と思えませんね。

 

 前回、アニメ版では《プラネットストームの再活性化》の要素は扱わないのねと思っていたらば、今回ティアが唐突にそれを言い出して、原作どおり報告書をイオンに渡していました。あれ? (つまり前回でも脚本段階ではその話題があったけど、絵コンテ化の時点でカットされていたのかな。)

 

 ジェイドたちはルークたちのほんの直前に部屋に通されたということなのでしょうか。ルークとティアが《アッシュが何か調べている、ヴァンの計画がまだ動いているのかも》と言い終わってから「実は我々も、導師イオンにご報告があってここに来たんです」と言い出し、イオンと、ついでにルークたちに《ディストが脱獄し、護送中のモースを助け出した》と報告していました。

 原作ではガイが貴族院の代表として報告に来たのに、ジェイドが殆ど報告しちゃってました。原作だとむしろ説明役をガイに回すのに、アニメジェイドは勤勉だ(笑)。

 それはそうと、「巡回中のマルクト海軍が見つけた時」という説明を省略していたので、パッと聞いた時、宗教自治区ダアトの元大詠師の査問をマルクト帝国が行っていたみたいで、少し変な感じでした。(ディストがマルクトに逮捕されていたのは、彼がマルクト人で皇帝の幼なじみで元マルクト軍人でありながらマルクトの都市を襲撃したからでしょうが。しかしモースをマルクトが逮捕・査問したら、流石に越権行為ですよね。)

 

 続けてジェイドが「それともう一つ。演習中の我が軍が謎の部隊に襲われました」と言い出し、フリングス将軍の死の場面を回想。彼は、襲撃者はキムラスカではないと思う、奴らは死人のような目をしていたと言い遺したと。

 回想シーンのフリングス将軍は、瀕死なのにベッドではなく椅子に座っていて、しかも場所は教会で、ジェイド以外の誰もいないのでした。アニメだけ見ると奇妙かもですが、原作を知っていると、どういう状況なのかが分かる奥深さってヤツですね。

 

 何者かがキムラスカに濡れ衣を着せようとしているのだろう、けれど襲撃者がキムラスカ国旗を掲げていた以上は国際問題だとジェイドとガイが言い、ティアがインゴベルト陛下に確かめようと提案。

 ……話をまとめたせいで、理屈を言えばちょっと変ではあります。どうしてピオニー皇帝はキムラスカへすぐに連絡を取らず、ジェイドとガイを二人揃ってダアトに行かせたんだろ? マルクトとキムラスカは平和条約を結んだ。王族のナタリアやルークとは個人的なツテもある。今更、ダアトを通さなければ話も出来ないわけではないはずなのに。既に警告以上の事件が起こっているのにね。

 

 イオンが、自分も一緒にバチカルへ行く、教団の仕事よりもそっちの方が大事だと言い出し、アニスが仕事をして貰わないと困ると渋る。するとジェイドが言います。

ジェイド「何か不都合でも?」
アニス「え!? ――あは、えーっとぉ……」
#虚を突かれた様子のアニス、不自然に作り笑いをしながらそわそわして、後ろ向きに戸口に下がり
アニス「あ、私ちょっと、パパとママに用事があるので。皆さんは先に行ってて下さ〜い。では」
#パッと部屋から出て行ってしまう
イオン「アニス?」
ルーク「なんだあいつ?」
#アニスの去った戸口をじっと見ているジェイド

 原作とは異なる展開です。

 原作ではイオンはルークたちに同行しません。教団の再編が始まったばかりで、トップの自分が席を空ける訳にはいかなかったからです。

 するとアニスが自ら願って、珍しくもイオンから離れ、ルークたちに同行します。その後、マルクトとキムラスカの首脳と話を終え、イオンに国際預言スコア会議の提言をするべくダアトに戻ることになると、何故か嫌がる様子を見せる。

 つまり原作アニスは、ルークたちが現れたら動向を監視せよという密命をモースに受けていたので同行を願い、ダアトに戻るといよいよ真相が明かされそうだと予感して嫌がっていたという感じでしょうか。

 対してアニメ版アニスは、相変わらずイオン監視の命だけを受けていた? いや、イオンがルークに同行するとなると自分も一緒に行くことになって、ルークたちの動向をモースに報告しなければならなくなるから、それが嫌だったのかな? それとも単に、イオンがダアトを離れるとモースに怒られるから?

 

 ジェイドの怪しみ方が、イマイチ かちっとハマってない感じがします…。だって導師守護役フォンマスターガーディアンのアニスが、導師が仕事を放って謎の襲撃絡みの危険そうな旅に出るのを止めたがるのは、大して怪しむべきことじゃない気がするから。アクゼリュスへ行く時だって、イオンが行くと言うとアニスはかなり渋っていました。その時は笑顔で仲裁していたというのに、今回はいやに突っかかってます。

 反対に、アニスがイオンの同行をやたらと勧めて、モースがいなくて安全なはずのダアトから離したがるので怪しむ、みたいにした方が良かったんじゃないかなー。その方が、いかにも不自然だし。

 

 アニス抜きで教会を出て歩きだした途端、二人の兵を従えたナタリアと遭遇。キムラスカ軍がマルクト軍に襲撃されたので、導師イオンを仲介者にしてマルクトに抗議するために来たのだと。

 原作では襲撃されたのはマルクトだけでしたが、アニメ版では公平にキムラスカも襲撃させたんですね。

 原作のナタリアは、視察先のケセドニアでマルクト軍が襲撃された件を聞き、キムラスカの仕業だとケセドニアの人々から白い目で見られたことに憤っていたのですが、アニメナタリアは、キムラスカ軍をマルクト軍が襲撃したと頭から思いこんで憤っていました。わざわざダアトまでやって来て正式に抗議しようとしたほどの、本気の怒りっぷり。

「どういうことですの? 無抵抗の我が軍をいきなり襲うなど、それがマルクトのやり方ですか!」

 ……アニメのナタリアは、一緒に旅をしたジェイドや面識を持ったピオニー皇帝、今はマルクト貴族院に所属する幼なじみのガイを、カケラも信じてなかったのね。ジェイドですら、襲撃者はキムラスカを装った何者かだろう(キムラスカのはずがない)と言い切っていたのに。なんたる短絡者。がっかりだ。なんでこんな脚色したんだろう…って、話を短縮するためですけど。

 話を短く早く進める副作用として、キャラクターの言動が単純化され、結果として馬鹿になるってことなのかなー。しょんぼり。(T_T)

 

 原作ナタリアはつかつかとジェイドに歩み寄ると、両手でぐっと彼の襟首を掴みます。でも身長差があるので、背伸びして引き下ろしてるみたいになってて、ナタリアは本気で怒ってるのですけど、とっても可愛い。ジェイドはジェイドで襟首を掴まれながら面白そうにニコニコしてるし。萌えさえ感じる場面です。でもアニメ版はその演出が変更され、ただ前まで行って睨むだけになってました。

 

 教会の前に立ったまま、襲撃者は何者か、とアニス抜きのまま話し合います。ジェイドが、死人のような目をしていたという話が気になる、襲撃者はレプリカではないかと発言。

 原作のインゴベルト王の私室でのエピソードに相当しますが、ナタリアが《国際預言スコア会議を開きたい》と言い出すくだりはありませんでした。

 ここからすぐに、原作だとダアトに戻ってきた時の場面に繋ぐ。つまりルークたちはどこへも出発しないまま、また教会内に戻ります。なるほど。

 ティアが障気蝕害インテルナルオーガンで倒れたところでAパート終了でした。

 

 Bパートは、イオンの部屋のベッドでティアが意識を取り戻したところから。

 原作では、ティアの障気蝕害が悪化したのは、まさに《障気が復活し始めていたから》でした。けれどアニメ版ではわざわざ会話を修正して、それを否定してしまいます。

ルーク「やっぱ、前よりひどくなってるのか」
イオン「しかし、新たに障気を吸わない限りは、ここまで消耗するとは思えないのですが」
ルーク「まさか、プラネットストームの活性化で……また障気が発生してる、とか」
#例によって壁に寄り掛かって両腕を組んでいるガイ、
ガイ「それなら、俺たちだってヤバいぜ?」
ルーク「あ。そっか」
ナタリア「やはり、ティアの体に蓄積した障気の除去を考えた方がいいのではなくて?」

 障気が再発生しかけているせいではなく、あくまでティアの体内に蓄積した障気のせいだという語り口。…えー。じゃ、アニメ版には世界が障気に覆われる展開がないのか。でもそうしたら障気中和エピソードに持ってけないじゃん。

 ……と思ったら、直後のシーンは原作ママに展開。イオンが、ティアの体の障気を消す心当たりがあると言いかけたところでアニスが大騒ぎで駆け込んできて、障気が出てマジヤバですよ来て下さいと、イオンを強引に連れて行ってしまう。

 あ。なんだ。原作どおり、ちゃんと障気が湧いたんじゃん。……と思ったら、その後アルビオールに乗ってザレッホ火山の火口へ向かうシーンでは、空は見事に青く晴れ渡っていて、障気なんて全然湧いてませんでした。

 ……えーと。障気が湧いたってのはアニスの嘘だったのか。

 障気中和エピソードがあるのは確実ですから、この後、障気中和の回になってから改めて湧くのかね。問題を並行させずに一つ一つ片付けて先に進むのか…。物語を可能な限り易しくするためかな。

 しかし、してみるとやはり、ティアの障気蝕害エピソード、アニメ版では蛇足だったかも。

 

 アニスがイオンを連れ出した後、ティアが私たちも行きましょうとベッドから降りる。原作ではここでティアは残りなさい平気よと少しもめるのですが、そこはカットしてスッキリさせていました。

 

 リグレットが待ち伏せているエピソードを消滅させ、アリエッタがイオンの部屋の前までやって来て、ルークに助けを求める短縮展開でした。今まで敵だったアリエッタが、ライガの背から降りてルークの手を掴んで、イオン様を助けてと懇願したのは、胸に響きました。

 イオンを連れていくモースとアニスに、アリエッタと共に追いつく。どういうことだと問い詰められたアニスは、自分は元々スパイだったと怒鳴って、背負っていたヌイグルミを投げつけて逃げる。アニスの投げ方がダイナミックでした。原作どおりガイが受け取っていてニヤリ。

 でも原作だと、投げつけられてガイは咄嗟に受け止め、その隙を突いてアニスが逃げたという感じでしたが、アニメ版ではヌイグルミは放物線を描いてゆっくり落ちてきて、ガイが両手を差し伸ばして「オーライオーライ」な感じで受け取っていて、ちょっとニュアンスが違ってましたです(苦笑)。《渡す→受け取る》こと前提で絵を描いちゃってるからですね。

 ちなみに原作のこのシーン、アニスが背中のヌイグルミの中から、よく似た青いヌイグルミを取り出して投げたように見えます。多分ポリゴンキャラの演技の制限でそうなっていて、脚本的には背負っていたヌイグルミそのものを投げたんだろうなと思ってたんですが。アニメではちゃんと、背負っていた奴を外して投げました。やっぱ元の脚本はそうなってるのかな。

 逃げたアニスをライガに乗ったアリエッタが追い、その後をルークたちも追う。

 原作では本棚が隠し扉になっていて、その奥に転送の譜陣があり、アニスが転移して消えた後、譜陣が作動しなくなります。対してアニメ版では、アニスは書庫を駆け抜けて廊下の奥の扉の中に消える。ルークたちは間に合わずに閉め出されます。ジェイドが閉じた扉の前で原作ママに「駄目ですね。反応しません」と言ってましたが、自動扉ってことなんでしょうか?

 このシーン、アリエッタだけは間に合って扉の奥に消えたってことが分かりにくかったです。アリエッタがいつの間にかいなくなった感じでした。

 

 閉じた扉の前で悔しがる場面から、直接、原作だとザレッホ火山を目指しダアトの街を出ようとした時のエピソードに繋げていました。レプリカたちがゾロゾロと現れ、ルークたちを殺そうとする。ガイはその中に亡き姉の姿を見て動揺。ティアがやまいをおして第一音素譜歌ナイトメアを詠い、レプリカたちを眠らせて無血で切り抜ける。

 レプリカたちの動き方がゾンビみたいでした。

 あと、原作だとガイの姉のレプリカは、回想に登場した姿と比べて髪がずっと短い。死亡時期よりかなり前にレプリカ情報を抜かれていたことが窺えるんですが、アニメ版では髪が長かったです。

 

 一方、アニスを追うアリエッタは、転送の譜陣でザレッホ火山のセフィロトに出現。アニスの直後に譜陣に入ったのでしょうに、全然違うところに転移させられたようで、駆け付けた神託の盾オラクル兵と戦闘開始。ヌイグルミを掲げて魔物を指揮する動作パターンが、今回もちゃんと再現されてました。崩落編は戦闘の原作踏襲を放棄したように見えてましたが、レプリカ編は再び踏襲の流れに戻った?

 原作のアリエッタは、ルークたちに代わってリグレットと戦闘して、大怪我をして、イオンを助けに行けなかったのですが、アニメのアリエッタは勇ましい。……でも、だからこそ辿りつけなかったのが何とも悲しいです。こんなに頑張ったのに、彼の姿さえ見ることができなかったなんて。

 

 ジェイドは血路を開くためにレプリカを始末しようとしますが、ガイは姉上がいるんだ、レプリカだとは分かってる、だが…と止める。

 ここで、原作では仲間内で微妙にもめます。感情が薄めでいざという時に判断を鈍らせることのないジェイドと、情が深く惑ってしまうガイやルークの対比。

(原作・ダアト第一自治区出口)
ガイ「待ってくれ! そこには俺の姉上が……マリィ姉さんがいる!」
ジェイド「レプリカですよ!」
ガイ「わかってる! だが……」
#ルーク、ジェイドを僅かに非難するように口を挟む
ルーク「レプリカだってわかってても、イエモンさんたちを殺せる訳ないだろ」
#少し苛立ったようなジェイド
ジェイド「それではモースの思うつぼですよ」

 でもアニメではカットでした。妥当ですが、この枝葉は好きだったのでちょっと残念。

 

 久々に譜歌を詠ったティアは美しかったです。変だと言われそうですが、彼女が倒れるシーンではいつも、取り落とされた杖がカランと音を立てるのが、何か好き。

 ティアを抱き起こし、覗き込んで優しく心配するルークと、微笑んでお礼を言うティア。このラブラブカップルめ!

 ティアの障気蝕害インテルナルオーガンエピソードに何の意味があるかと言えば、ルクティアカップルの萌えエピソードってことですよね。

 

 アニスのヌイグルミに手紙が挟んであったことに気づき、そのメッセージに従ってアルビオールでザレッホ火山の火口へ。

 前述したように、空は青く晴れ渡っていて障気は全く出ていません。

 

 イオンが惑星預言プラネットスコアを詠まされている現場に駆け込む。そこまでの道中、例えば炎の竜フィアブロンクとの戦闘等はカットでした。

 原作では、その場にはイオンとモースとアニスと、檻に入れられたアニスの両親しかいなかった。(モースが呼ぶとレプリカ軍が出てくる。)対してアニメ版は、神託の盾オラクル騎士団の一隊がいてモースを護衛し、両親を見張ってアニスを牽制していました。

 おぉー! そうですよね。原作のままだと、どうしてアニスがモース一人にせめて反撃しなかったのか、やはり不自然な感じでした。こうでなくちゃ!

 ルークたちが駆け込んできて立ち塞がる神託の盾兵たちと戦闘を始めると、アニスは居ても立ってもいられない様子でおろおろするのですが、チラリとモースを見れば彼にギロリと睨まれる。怯えるアニスは両親の閉じ込められた檻に視線を巡らせ、結局しょんぼりして何も出来ない。うんうん。

 

 戦闘するルークたちはカッコ良かったです。相変わらずガイは軽業師のように動きが派手です。ティアは例によって杖を槍のように振るって戦っていましたが、ずんばらりんと一刀両断はしてませんでした。体調のせいかしら。モースが逃げた後に、やっと杖で殺していたけど。

 

 イオンはルークたちが駆け付けたことにも気付かず、トランス状態で惑星預言プラネットスコアを詠み続けています。

 原作ゲームのミスをちゃんと修正して、(元からそこにあった古い譜石を詠んでいるのではなく、)預言スコアを詠む彼の前、空中に、新たな譜石が生成されているという画面になってました。うんうん。ここ、アニメでどうなるのか気になっていたので、ホッとしました。

 イオンが預言を詠むのを中断したら、何故かその譜石は粉々に砕け散りました。イオン自身の命が砕けた、という暗示なんでしょうか。

 ルークがイオンを止めると譜石が砕けるのは、ちょっとSD文庫小説版のアレンジに近いです。(あちらは、ルークがイオンを抱いて譜石から飛び降りたら粉々に砕けたんですが。)

 

 原作モースがここで言う台詞、「人類が存続するためには預言スコアが必要なのだ!」「預言スコアの通りに生きれば繁栄が約束されているのだ! それを無視する必要があるのか!」「私は監視者だ! 人類を護り導く義務があるのだ! 私はこのレプリカ共を使って、ユリアの預言スコア通り必ず戦争を引き起こしてみせる。それこそがただ一つの救済の道だ」はかなり印象的でした。卑俗な小悪党のように思えていた彼も、彼自身の信念で動いているのだと分かったから。

 でもアニメのモースは「くそぅ。失敗したか。覚えていろ!」とだけ言ってサッと譜陣で逃げてしまいました。ただの小悪党としてしか描かないんですね。尺が無いから当然ですけども。

 

 イオンの死。

 台詞もキャラクターの動作も、細部に至るまでほぼ原作どおりでした。ティアの「イオン様」という台詞が一つ加えられていた程度。

 ただ、イオンが死んだ時、原作ではアニスが「……イオン様っ!」と叫び、ルークは無言で消えゆくイオンを抱きしめるのですが、アニメ版ではアニスはハッと息を呑んだだけで無言で、ルークが「……イオンっ!」と叫んで抱きしめてました。

 光の粒となってイオンが消える特殊効果は美しかったです。

 ナタリア、ジェイド、ミュウ、ガイとアニスの両親が悲しむ様子も描かれていましたが、ミュウの泣き方を涙がぽろぽろ飛ぶギャグ表現にしてたのは、ちょっといただけなかったです…。空気合ってヌェー。耳下げて悄然としてるだけでよかったのに。

 ところで、原作ではアニスの両親を檻から出したのはナタリアとジェイドでしたが、アニメ版ではガイでした。そんだけ。

 

 その頃、セフィロトのどこかで未だに戦い続けていたアリエッタは、何かを感じて動きを止め、通路の奥の闇を返り見る。

「イオン様……?」

 このとき亡くなったのはアリエッタのイオンではなかったけれど、それでもやはり、何かを感じさせる繋がりがあったのでしょうか。

 

 その後のエピソードはゴソッとカット。ティアの罪悪感は、今回は描きません。礼拝堂に座り込んでいるアニスの元にルークが歩み寄る場面から始まります。

 会話はかなりカットされ、スッキリしていました。

(原作)
#礼拝堂で、両膝を抱えて座り込んでいるアニス。
ルーク「こんなところにいたのか。みんな心配してるぜ。オリバーさんたちも……」
アニス「パパとママのことは言わないで!」
ルーク「……なぁ、アニス。今回のことは仕方なかったんだ。オリバーさんたちを人質に取られてたんだから」
アニス「違うの! 私、最初からイオン様を騙してた。モースにイオン様のすること全部連絡しろって言われて……。ずっと全部報告してたの。戦争を止めようとしてたことも、ルークたちと一緒にいたことも……全部!」
ルーク「アニス……。それは……」
アニス「だからっ! タルタロスが襲われたのも、六神将が待ち伏せしてたのも私のせいなんだよ!」
ルーク「それもオリバーさんたちを盾にされてたんじゃないのか」
#僅かな沈黙
アニス「……パパたち、人がいいでしょ? 私がうんと小さい頃、騙されて、ものすごい借金作っちゃったんだ。それをモースが肩代わりしたの。だからパパたちは教会でただ働き同然で暮らしてたし、私も……モースの命令に逆らえなかった……」
ルーク「……うん」
アニス「ずっと嫌だったよ……。イオン様ってちょっと天然って感じで、騙すのつらかった……」
ルーク「うん……」
アニス「だけど私……パパもママも大好きだったから……だから……」
ルーク「アニス……。偉かったな」
アニス「偉くない! 全然偉くない! 私……私……イオン様を殺しちゃった……! イオン様……私のせいで……死んじゃった……!」
#アニス、立ちあがってルークの胸にしがみつく。
#泣くアニスの頭をそっと撫でるルーク

ルーク「……アニス。これ……やるよ。(ポケットから取り出してアニスに渡す)ザレッホ火山で拾っておいたんだ。イオンが詠んだ預言スコアの譜石……」
アニス「イオン様の……」
#それを両手で握って頬に押し当てるようにするアニス
ルーク「……これからどうする? ダアトに残るか?」
アニス「……ううん。一緒に行く。イオン様が生きていたら、ルークたちに協力してたと思うから」
ルーク「わかった。じゃあ、みんなの所へ行こう」

(アニメ版)
#礼拝堂で、両膝を抱えて座り込んでいるアニス。ルークがゆっくり歩み寄る。
#アニス、独り言のように喋り始める
アニス「私……最初からイオン様を騙してた。モースにイオン様のすること全部報告しろって言われて……。戦争を止めようとしてたことも、ルークたちと一緒にいたことも知らせてた……」
ルーク「……アニス」
アニス「だからっ! タルタロスが襲われたのも、六神将が待ち伏せしてたのも私のせいなんだよ!」
#ルーク、アニスの隣にしゃがんで
ルーク「でも、それもパメラさんたちを盾にされてたからなんだろ?」
#アニス、首を大きく左右に振る
アニス「……ママたち、人がいいでしょ? 私がうんと小さい頃、騙されて、すっごい借金作っちゃったんだ。そして、それをモースが肩代わりしたの。だからモースの命令には逆らえなかった」
ルーク「……うん」
#懺悔するアニスに重なって次々浮かぶ、在りし日々のイオンのイメージカット
アニス「ずっと嫌だったよ……。イオン様ってちょっと天然って感じで、騙すのつらかった……。(両膝を抱えるアニスの手に力がこもり、震える)私……イオン様を殺しちゃった……! イオン様……私のせいで……死んじゃった……!」
#憐憫のこもった目でじっとアニスを見つめるルーク。手を伸ばし、アニスの肩に触れる
ルーク「……アニス」
#アニス、こらえきれなくなったように大きな泣き声をあげて、そのままルークにしがみつく。
#黙って、声をあげて泣き続けるアニスをそっと抱きしめているルーク

 アニメ版ではアニスの父・オリバーの喋るエピソードがカットされていたので、それに合わせて台詞の修正がなされています。

 また、ルークが立ったままアニスの話を聞くのではなく、隣にしゃがむという演出の強化あり。こらえきらなくなったアニスが、のけぞるようにして泣き声をあげた瞬間の絵と動きが、とても良かったです。

 

アニス……。偉かったな」「偉くない! 全然偉くない!」のやり取りのカットについて。

 少なくともルークにそう言わせるだけの尺は充分にあったので、意図的な削除なのでしょう。

 カットされたのを見て、初めて、ああ、この台詞は角が立ち易いからこそ効果的だったんだなと思いました。

 聞く側もハッとさせられるじゃないですか。「イオンを死に追いやってしまったアニスが偉い?」って。で、ルークにそう言われることで、そうだ、アニスは子供なんだ。子供の小さな容量の限界いっぱいで悩んで耐えて頑張っていたんだと改めて気付かされる。そしてまた、ルーク自身の成長にも気づきます。ここでは、ルークはアニスに対して《大人》の立ち位置にいる。

 長髪時代のままのルークなら、きっとアニスを悪し様に罵っていたでしょう。イオンを失った悲しみや憤りをそのままぶつけて、そうだお前がイオンを殺したんだと罵倒したに違いないと思います。

 でも、今のルークは静かにアニスの話を聞いて、彼女の境遇を理解し、充分過ぎるほど共感して、「偉かったな」と優しく撫でるのでした。

 この台詞が無くともルークの優しさは普通に伝わる。けれど西瓜やキャラメルに塩を入れると味が引き立つように、逆説的に効果をもたらしていた台詞回しだったんだなぁと。

 

 泣くアニスをしゃがんだまま抱きしめるルークを俯瞰で映しつつ、今回は終了です。




 原作のレプリカ編前半は、《不安》が非常に色濃く描かれています。

 大地は魔界クリフォトに降り、預言スコアは禁止され。世界のあり方が変わり、人々はみんな不安におののいている。突然、全てを自分で考えることを強制され、大きな庇護の手を失ってしまった。

 ティアは障気に身体を蝕まれ、薬で症状を抑えるくらいで回復することはない。近い将来に死ぬかもしれない。

 そしてルークは、自分自身の存在意義について深く悩み、傍から見てもはっきり分かるほどに苦しそうです。とても重い。

 

 今回カットされた大量のルークの悩み関連のエピソードのうち、一つ二つくらいは次回に回されているようです。要点を押さえて、各話ごとにエピソードはまとめて、出来る限りシンプルに進めるということなのでしょう。話数の限られたアニメ版としては、きっとそれが最良なんですよね。

 でもやはり、アニメ版はあっさり・簡単・軽いという感想を拭い去れません。

 

 この先、アニメ版を入口に原作をプレイして、本当のレプリカルークを知ってくれる人が一人でも増えたらいいなと思いました。

 本当はこんなものではないから。




今回の総論。

  • イオンの死には泣きました。

 

 ではまた次回。

 



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