注意!

 

# 8 崩落

脚本:根元歳三/コンテ:佐藤照雄/演出:佐藤照雄/作画監督:佐久間信一

 今回も面白かったです。でも、久々に「尺が足りないよー」という印象を受けました。

 

 以下は重箱の隅ツッコミです。読みたい方だけどうぞ。





 アバンは、アクゼリュスに到着して愕然とする一行。

 ここは、完全に『マ王』漫画版のアニメ化でした。最初に崖の上から街の全景を見て、街に入ると男女がゴロゴロ転がって呻いていて子供が泣いている。ナタリアが「ひどい…」と呟き、若い母親に子供がすがりついて泣いているのを見て駆け寄って声をかけていると(ここの構図も漫画版のまま)、ルークが「おい、よせよナタリア。汚ねぇし伝染るかもしれねぇぜ」と言い放つ。

#漫画版では「お…おいナタリア…。よせよ…汚ねぇな!! おまえにも伝染るかもしれねぇぞ!?」で、ナタリアを心配しているニュアンスが強められてましたが。ちなみに原作では「お、おい、ナタリア。汚ねぇからやめろよ。伝染るかもしれないぞ」。

 その言葉にショックを受けるナタリアの横顔のアップ、次いで振り向いてルークに怒鳴るというカット割りまで同じです。でもナタリアの怒鳴り台詞は原作バージョン。

 

 個人的に漫画版のアクゼリュス描写に少し異論ある点があったので、それが採られていたのは「あー…」と思いました。

 アクゼリュスは八千人ほどが暮らしている街ですが、原作で見る限り鉱夫しかいません。例外として看護士の女性とジョンという子供が登場しますが、看護士はたまたま定期診察で訪れていたマルクト軍属で、ジョンは出稼ぎの父親のところにたまたま遊びにきていたエンゲーブ住民です。障気蝕害インテルナルオーガンに侵されて横たわる鉱夫は、しばらく家に帰っていない、子供たちの誕生日を今年も祝ってやれないかもしれないとうわ言の様に呟いていて、彼もまた出稼ぎでこの街に単身赴任していて、家族は別の街に住んでいるように感じられます。

 鉱山街に鉱夫の家族が一緒に暮らしていたって何も奇妙なことはない。むしろいないと考える方がおかしいかもしれない。でも、原作をプレイして「ああ、この街は出稼ぎ者中心で、女子供老人は基本的にいないんだな」と認識していたので、『マ王』漫画版のアクゼリュスに若い女性が沢山いて、その幼い子供もいるのに違和感を感じてたんだったり。そしてアニメ版は漫画版と同解釈に。やっぱそうなっちゃうのかァ…。

 

 物語が進行している背景に、アニスが巨大化させたトクナガで病人を運ぶ様子を描くのも、『マ王』漫画版から採ったもの。

 

 Aパート。もう、ヴァンがいるという第14坑道に入るところです。展開速い。ここでのルークとジェイドの台詞「なぁ、俺たちは大丈夫なのか? 障気ってヤツが充満してるんだろ?」「長時間大量に吸い込まなければ大丈夫のはずです。もっとも、坑道の奥のほうは酷いようですが」も、『マ王』漫画版オリジナルを、ほぼそのまま採っています。(漫画では街に入ったときの会話ですが。)

 障気蝕害インテルナルオーガンの説明はカット。と言って、ティアの障気蝕害を取り扱わないとは思えませんから、きっと彼女が倒れた時に説明するんでしょうね。一応、アクゼリュス住民の男性がゴホゴホ咳き込んでいる描写はアリ。

 

 原作のこの時点のルークの心理は、相変わらず二つの柱に別れているように思います。一つは、アクゼリュスの予想外の惨状に衝撃を受け、嫌悪し怯んでいる気持ち。(あの傲岸奔放なルークが、街の代表者のパイロープに名乗りすら上げられなかったくらい。その後もずっとぼうっとして、しまいにガイに「俺たちまで元気がなくなっちまったら、街のみんなが不安になるぜ」と言われた。)気持ち悪くて怖いから病人に触ったりしたくないし、だからどうしたらいいか分からない。もう一つは、ヴァン師匠の言うとおりに障気中和すれば全て解決なんだ、ちまちま救助や看護なんてやってられるか。俺は親善大使様で選ばれた英雄なんだぞという、思い上がった傲慢な気持ち。

 アニメ版では傲慢な気持ちの方を強調し、物語をスッキリさせています。原作で垣間見せていたプリミティヴな繊細さを、アニメのルークは見せません。普段と変わらない態度でケロッとしているようでした。原作以上に、非常に感じが悪いです。

 そして仲間たちのルークへの対応も整理されています。崩落後に一時ルークに背を向ける展開がいっそう納得できる感じにしてある。つまり、仲間たちがルークの態度に呆れ怒っている描写が強調され、原作にあった、ルークを気遣い想っている描写が(イオンを除いて)全カットされていたのでした。

 原作のナタリアは、ルークが救助活動に参加せず棒立ちしているのを見ても「ルークもきっと数日すれば、王族として親善大使として、その役を果たしてくれるでしょう。それまでは私たちだけでも頑張りましょう。苦しんでいる民のために」と笑って、自分は働きながらルークが自ら動き出すのを信じてくれています。ガイは何も出来ないでいるルークを励まし、ルークの「親善大使の俺がここでやることなんて何もねーじゃん」「どうして俺がそんなことしなきゃいけねーんだよ」という言葉に怒りつつ「おまえ……、本当に、本当にそう思うのか? ……もう少し、ちゃんと考えてみろ」と諌めてもくれる。ティアは、救助活動の方針についてみんなで話し合う際、ルーク自身は気もそぞろでろくに話を聞いていないのですが、必ず最後に彼に確認を取るようにして、ルークを責任者として立てる配慮をしてくれています。

 でもナタリアとティアのその描写はカット。ナタリアとジェイドがルークの頭越しに今後の方針を相談し合って、無視された形になったルークが「決めんのは親善大使の俺だろ」と、ギャグ調の表情でむくれる新エピソードが追加されてました。既に社会人として見限られてるよルーク。

 ガイも「お前……、本気でそう思っているのか」と怒っただけで諌めてこない。僅かにたじろいだもののそっぽを向いて立ち去ったルークを厳しい目で睨む描写まで追加。流石のガイも、ついにルークにマジギレしたってこと? 亀裂をどんどん大きくする脚色です。

 ついでに言うとガイに向かってのルークの台詞も「あぁ!? なんで俺が。病人の世話なんて、親善大使のやることじゃないね」で、原作より一割り増しくらい酷くなっています。しかも原作と違って、瀕死の人たちを発見して一刻も早く救出せねばならない場面ででしたから。なんつー人非人か。ギスギス感大幅アップ。

 前回のザオ遺跡出口で、態度の悪いルークの背をじっと見つめるガイの描写がありました。今回ガイにルークの背を睨ませたのはその延長で、ルークの保護者ガイが一時的にでも離れることになる展開に説得力を持たせる意図…なのかな?

 

 第14坑道に入る前に、神託の盾オラクル兵が一人近寄って来て、ティアに「モース様より、第七譜石と思われる譜石にご案内するよう仰せつかっております」とハッキリした声で告げる。

 ここ、なんか話がおかしくなってたよ―な。

 ティアが当初からモースの密命を受けていて、それが第七譜石の探索であることは、カイツールの宿泊施設でヴァンと話した時点で(アニメ版でも)明かされています。ティア自身は明言しなかったけど否定しなかった。事実上の肯定でしたよね。なのに、ジェイドに「教団の任務ですか?」と問われて気まずそうに目を伏せて沈黙するのです。なんで? 神託の盾兵が何憚らず「第七譜石」と発言してるのに、今更守秘義務なのかしら。そしてイオンが「そのようです。僕にも詳しいことは分かりませんが」とフォローして、やっと別行動をジェイドが許す。どうしてジェイドが許可出してるんだろ。原作では導師イオンが許可を出してるのに。

 

 で、ティアが神託の盾兵に呼ばれて近づく時と、彼と共に立ち去る時の二回、ルークがかなりうろたえて大声で「お、おい」「どこ行くんだよ!」と呼び止めようとする描写が入ります。なんで? アニメのルークはこの時点で、少しでも離れるのが嫌なくらいティアにベタ惚れてたんでしょうか。確かに初回セントビナーで萌え萌えラブコメをこなした仲だけど。それとも「親善大使の俺の許可なくどこへ行くんだよ」という意味なのかな。

 もし、ティアがヒロインだからという理由でルークに呼び止めさせたんなら、個人的には『マ王』漫画版でやってた、立ち去るティアをチラッと振り返って気にしている様子を見せる、くらいのさりげない描写の方がツボだったかな。

#ちなみに原作では、この時点のルークはティアに恋愛的執着してません。彼女と別れるなり スタスタ坑道に入っていきますし、《ルークの日記》には「あの不愛想な女がいなくてせいせいする。さあ、それよりも、早くヴァン師匠に追いつこう!」と書いてあります。

 

 あと贅沢を言えば、ルークが神託の盾兵が近寄って来たのを見て少しギクッとする演技があるのを期待してたので、なくて残念だったナリ。

 何故かっつーと、ついこないだまで神託の盾兵と殺し合いをしていたからです。甲冑を着ていると殆ど見分けつきませんし。原作でも画面では平然としてるんですが、《ルークの日記》の方には「神託の盾って、敵と味方とごちゃごちゃで混乱するっつーの」なんて書いてある。折角だから本編にフィードバックして補完してくれてたらよかったなぁ、と。……ティアが神託の盾兵に呼ばれて近寄って行った時うろたえて呼び止めようとしたのが、その意味だったって可能性もあるのかもしれませんが。そういう感じに見えなかったので。

 

 坑道に入る。原作のルークは無口になっていて、皆が障気の発生源について話し合っているのを聞きながら、(発生源……。ヴァン師匠せんせいが言ったように、俺がそれを消せれば、みんな俺のこと見直すかもしれない……)なんて考えています。プライドを満たすことばかり望む身勝手さと同時に、自分が反感を買って孤立してることを自覚してて、挽回したいと思っていることも分かる。無口なのが寂しそうでもあり。ちょっと同情を誘われた独白でしたが、アニメではヴァンに会うため一人で坑道の奥へ行くシーンに再構成されていまして、ニュアンスがよりキツくなっていました。

(みんな俺のこと馬鹿にしやがって。アクゼリュスを助けて、みんなを見返してやるんだ!)

 イオンが心配して色々話しかけてるのに無視して、一人で勝手に腹を立てて。救いようがないなぁ。と言うか、原作のチーグルの森へ行く時のルークみたいですね(笑)。あれはまだ、状況がのんびりしてましたので、同じこと言ってても可愛げはあったけど。

 

 第14坑道に沢山の鉱夫が取り残されていたのは、地震のせいで足場が崩れたり、魔物まで徘徊するようになって救助に行けなかったから…という説明が、一応原作ではされています。それにしたって、マルクトからの親書がキムラスカに届くまで二ヶ月半。その間ずっと、街の人々は猛毒の障気の中にただじっとしていたのかと疑問は感じますが、とは言えゲームですからさほど気にしてませんでした。障気に誘われて増えた魔物が恐ろしくて街の外には出られなかったとか、理屈を付けようと思うなら幾らでも付けられますし。

 でもアニメで、細かいフォロー説明をカットして情景だけ見せられちゃうと、改めて疑問を喚起されはしますね。(^_^;) 昨日今日障気が湧いた訳じゃないのに、なんで坑道の奥に人がゴロゴロしてるのか。ずっと前からここに倒れてたなら、どうして亡くなっていないのかとか。

 ミュウの火事に関しては見事に原作の矛盾を修正して補完してましたが、ここにはありませんでした。うーん、もし補完するとしたら……。ルークたちが街に入る直前に小さな地震があって(その地震のせいでリグレットとの対峙が水入りになるなんてのもいい)、中に入るとパイロープに「地震のせいで障気が新たに噴出して被害が酷くなり、第14坑道に取り残された人々も出た、先遣隊とヴァン謡将は既にそこに向かった」なんて聞かされ、それでルークたちも後を追って坑道に急行する。…なんて感じの流れだとどうでしょう。などとモワモワ妄想。

 

 坑道の奥に倒れている人々を発見し、仲間たちはすぐに救助を開始。なんとミュウまで参加してました。けれどルークは相変わらずダラッと突っ立っていて、ガイに助力を求められても口汚く拒否。原作よりずっとふてぶてしく、苦しんでいる人たちを前にして苛立ち以外の感情の一切を抱いていない様子が明らかでした。死への恐れや嫌悪すら見えなかった。こいつ最低だ。

 それはそうと、原作でアクゼリュスに入った時と第14坑道の奥に至ったとき、被災者たちの呻きや呼びかけの声が背景効果音としてループして流れていまして。「うぅーっ!」「う・う・う…」「た、助け…」「しっかりしろ!」「手を貸してくれ!」って感じのヤツ。で、アニメのこのシーン、被災者たちは死んだように静かでしたが、ガイがオリジナル台詞として「ルーク、手を貸してくれ!」と言ったのでお茶吹きました。偶然でしょうけども。

 奥へ進もうと主張してもジェイドが救助が先だと承知しないので、苛立つルークは単独でヴァンを探して奥へ。それに気付いたイオンが後について行く。

 イオンが被災者に治癒術らしきものを使っていたのが目を引きました。導師で第七音譜術士セブンスフォニマーですからそういうイメージありますけど、原作では使ってたことがなかったので。つーか、譜術使って大丈夫なの? ダアト式じゃない普通の譜術なら消耗しないのかな。

 原作のミュウは、どんなに罵られようと、ウザいくらいルークを慕い心配して、決して離れなかったんですが、アニメのミュウは怒鳴られるとすごすご離れて、な・なんと、パッセージリングに同行しませんでした。えええ…!(゜゜) ショックです。

 

 この辺りから暫く、場面が《ティア》と《ルーク》の並列進行になって、交互に切り替わって進んでいきます。

 ティアのパートは、《原作では言葉のみで語られていた部分のアニメ化》。

 ティアは第七譜石らしき譜石の発掘現場に案内されましたが、詠んでみたところ、譜石ですらない真っ赤な偽物でした。それを報告したティアに神託の盾兵たちが剣を突き付け、「大人しく付いてきていただきます」と告げる。「ティア様」なんて呼んでました。そして障気に満ちた大地の中をこちらへ向かって疾走してくる、六神将に拿捕されたはずの陸上装甲艦タルタロス。

 ってところでアッシュが出現。神託の盾兵が五十人前後はいたと思うんですけど(ティアを連れていくだけの目的にしては凄い人数。彼女がそれだけ強いってこと?)、一人で飛び込んできて次々と倒してしまう。しかも戦いながら同調フォンスロット開いてレプリカルークに便利連絡してます。通話しながら片手間に大量殺人するのって、色んな意味でヤバいと思うんだ。

 にしても偽物の譜石がすごく巨大でした。ティアを誘い出すためだけに、アレを運んできて地面に半ば埋めるまでして偽装工作したんだ…。ティア誘拐班の担当者が凝り性だったのかしら。頭が下がります。

 

 アッシュに通信で「よせっ! 奥に行くんじゃねぇ!」と呼びかけられたルークでしたが、ますます意固地になって先へ進んでいく。ここは、流石アニメの演出力でした。原作だと、頭痛で苦しみ喚くルークをイオンが無表情でぼうっと見ていて不気味なんですけど、ルークのただならない様子を驚き怪しむイオンの姿が描写されました。

 しかしやっぱり、通信を受けて一人でもがき喚いてるルークは傍からだと不審人物にしか見えないなぁ…。(^_^;) ルークには申し訳ないけど。

 

 ついにヴァンのもとへ辿り着いたルーク。ヴァンにダアト式封咒の扉を開くように言われたイオンは戸惑うものの、ルークにも頼まれて承知してしまう。原作ではルークに「頼むよ。師匠せんせいの言う通りにしてれば大丈夫だからさ」と一度頼まれただけで応じていましたが、アニメでは更に「お願いだよイオン!」「頼む!」と熱心に頼まれていて、《扉を開けたイオンに落ち度がある。ルークはイオンより悪くヌェー》という逃げ道を塞いである感じです。ルークが七歳児ならイオンは二歳児ですしね。

 封じられていた奥へ入ろうとした時、再びアッシュが、神託の盾兵を斬り捨てながら通信で止める。「お前は騙されてるんだ!」と、決定的な言葉まで追加されていました。でもルークは振り切って奥へ進みます。

 

 その頃、鉱夫の一人の報せを受けて、ジェイドは地上で神託の盾兵たちが争っていることを知る。原作ではジェイド自身が騒音に気付いて「……上の様子がおかしい。見てきます」と地上に向かってましたが、坑道の奥に地上の騒音が聞こえるのは変だから、って脚色なのかな。

 

 しかしヴァンに導かれるルークは既にパッセージリングの前に到達しており、今しも力を放とうとしていました。イオンがヴァンに「本当に大丈夫なのですか」と確認したり、超振動が発され始めると「何かがおかしい。危険です。やめさせましょう、ヴァン!」と止めたりする描写が追加。

 アッシュの台詞「お前は騙されてるんだ!」追加もそうですが、ルーク以外の人達の落ち度のなさが強調されている感じ。

 

 坑道の外(に、見えるんですが、原作どおりに坑道の中なんでしょうか?)に出たジェイドは、ティアが神託の盾兵を杖でずんばらりんと斬り捨てている場面を目の当たりにします。それが最後の敵だったらしい。彼女は、神託の盾が待ち伏せしていてキムラスカの先遣隊を殺していた、それは自分を巻き込まないためで、兄は恐ろしいことをしようとしていると報告。その傍らを「おい! 喋ってる暇があったら、あの屑をなんとかしろ! みんな死ぬぞ!」と叫んでアッシュが駆け抜けていく。原作では二頭のグリフィン(崩落後にヴァンが乗りアッシュを連れ去った飛行魔物)に追われていますが、その描写はなし。

 

 前述したように、原作では台詞だけで説明されていたシーンを映像化した訳ですが、そのために不自然さが生じているような気がします。

 ティアを救ってからアッシュがその場で彼女に説明しただろうことは、最低限でも

  • ルークがアッシュのレプリカであること
  • ヴァンがルークの超振動を使ってアクゼリュスを崩落させようとしていること

の二つ。ですがアニメでは、アッシュとティアは延々と数十人の神託の盾兵と戦い続けていて、秘密を話す余裕があったように見えません。いつ説明したんでしょう?

 また、ティアが拉致されそうになるシーンを映像化するなら、同時に《先遣隊の死体を見つける》映像を入れてくれてた方が親切でした…。『マ王』漫画版だってそうしてたのに。さもなきゃアッシュが「先遣隊はみんな殺されていた」とティアに告げるとか。延々戦闘描写をするより、そっちを優先してほしかったなぁ。

 

 パッセージリングの前で超振動を放とうと集中するルークを見守り、ニヤッと嗤うヴァン。そして地上ではティアがジェイドに告げている。

「彼が教えてくれました。兄は、兄は……アクゼリュスを消滅させるつもりなんです!!」

 ここでAパート終了。

 

 Bパートは、様子がおかしいことに気付いて作業の中断を訴えるイオンを無視し、ルークに続行を命じるヴァンの姿から。

「『愚かなレプリカルーク』。力を解放させるのだ!」

 ルークの力が膨れ上がり、一瞬でパッセージリングの音叉部分が光の粒になって粉砕消失。不謹慎ですけど綺麗でした。

 

 個人的には、ここの構成は原作の方が好きだったかも。ヴァンが合言葉でルークの力を解放したシーンの次に、ティアが「兄さんは……アクゼリュスを消滅させるつもりなんです!!」と言うシーンを繋げる。ロード時間が長いせいで折角のテンポが死んじゃってるんですが、構成はこっちの方が緊迫感があると思います。ルークがセフィロトツリーを消失させた直後から崩落が始まりますし。でも演出の派手さは圧倒的にアニメの勝利でした。原作はパッセージリングが消えたように見えない地味さです。

 

 ルークが気を失ったところにアッシュが駆け込んできて、ヴァンは指笛で呼んだグリフィンに彼を連れさらわせ、もう一頭に飛び乗る。アッシュが自分を銜えるグリフィンを殴りつけて「俺もここで朽ちる!」と自暴自棄に喚くくだりはカット。ティアを先頭にした仲間たちが駆け込んできてヴァンと対峙。

 原作では、アニスとジェイドはヴァンを無視して下の通路に飛び降りてイオンを助けに行き、ガイとナタリアはヴァンが去ってから下に飛び降りて、それぞれルークとミュウを助けに行くんですが、アニメではヴァンを無視してアニスとナタリアがイオンを、ガイとミュウがルークを助けに行ってました。飛び降りずに通路を走って。ジェイドは残ってティアと共にヴァンと対峙し、ティアが言った「外殻大地」という言葉に疑問を投げかける。

 ヴァンが飛び去ってからようやく崩落が始まり、坑道への退路が落石で潰れてしまう。ティアが第二音素譜歌[(フォースフィールドで結界を展開。

 原作のティアは自分も下の通路まで飛び降りてから譜歌を歌ったんですが、アニメのティアはその場で歌ってましたので、ガイたちはルークやイオンを抱えて通路を駆け登ったみたいです。ひー。

 ガイ兄さん、気を失ったルークをおんぶして凄く必死に走ってました。ついさっきルークに本気で怒ってたばかりですけど、そりゃ放っておけないよね。アニスはナタリアと一緒に気絶したイオンの肩を支えて走る。ちゃんと法杖も忘れてないのが気遣い細やか。ナタリアはいつも背負っていた弓を片手に握ってました。

 結界に覆い守られた一行は、砕けたアクゼリュスと共に魔界クリフォトに落下。原作のOPアニメ・劇中CGムービーを踏襲した画面ですが、沢山の人間が巻き込まれていく様子がしっかり描写されていました。

 

 次のシーンは、気を失っていたティアがジェイドに呼びかけられて目を覚ますところから。

 えええ。崩落の際にティアが気を失っていたことにするのはマズいんじゃ…。だって彼女の譜歌がないと皆を守れないのに。術者が気を失っても術効果って消えないのかな。着地した瞬間に疲労から気を失って、それからすぐに目覚めたということ?

 ティアが目覚めると周囲には鉱夫たちの死体がゴロゴロ転がっている。ルークとイオンは気を失ったままで、ジェイドは右腕を押さえてやや前かがみになってるんですが、怪我したのかな。

 すんごく細かいことですけど、イオンを支えるアニスとナタリアの位置が落下前と左右反対になってます。なんとなく手品ショーを連想した。

 ジェイドの指示でタルタロスに移動。

 

 タルタロスの船室で、ベッドに寝かされていたルークがやっと目覚める。個人的に、ミュウがルークの枕元に付き添っていないのが残念かつ疑問でした。事態を全然把握してないまま甲板に出ると、神託の盾兵たちの死体がゴロゴロしていて衝撃を受ける。それでも割と平然として仲間たちが集まっているところへ。ティアが魔界クリフォトとセフィロトツリーの説明をし、いよいよ親善大使ルーク最高潮のあのエピソードの開始です。

 原作のルークは、崩落後、タルタロスに移動する前に目を覚まします。ですからアクゼリュスの人々の死体も、それらに仲間たちがショックを受けている様子も見ています。加えて、アクゼリュスに入って最初に話した人…街の責任者のパイロープの死体と、その息子のジョンが助けを求めながら猛毒の泥の海の中に沈む様子も見てしまう。《知人》《幼い子供》の死を目撃した訳です。

 でもアニメのルークは、敵対して殺し合ったこともある、《顔も知らない神託の盾オラクルの連中》の死体しか見ていません。

 原作のルークは、混乱しつつも薄々何が起こったのか理解し始めていて、あえて思考停止しているらしき様子が見えるんですが(《ルークの日記》にも「今は考えるのをやめよう……」と書いてあります)、アニメのルークは本気で全然分かってない感じ。自分から大声で説明を求める。

 ここ以降の会話はほぼ原作どおり。例の台詞はちょっと短縮修正。

(原作)#涙目で
「……お、俺が悪いってのか……? ……俺は……俺は悪くねぇぞ。だって、師匠せんせいが言ったんだ……。そうだ、師匠がやれって! こんなことになるなんて知らなかった! 誰も教えてくんなかっただろっ! 俺は悪くねぇっ! 俺は悪くねぇっ!!」

(アニメ版)#半笑いで
「……お、俺が悪いってのか……? だって、師匠せんせいが言ったんだ。そうすれば俺は英雄になれるって。そうだ、師匠がやれって。俺は悪くねぇっ!!」

 原作どおりに仲間たちが一人、また一人と離れていく。《お兄ちゃん》のガイに去られた時にはショックを受けたルークの顔をアップに。…が、最後にティアに去られた時は、衝撃の桁が違ってました。ショックを受けた顔のアップに加えて、画面の色変えと《ピシャーン!》的な効果音まで付加。更に、彼女とすれ違う場面はスローモーションで《ゴオォオオ…》という効果音付き。

(人間では)最後の一人だから…ということを差し引いても、かなりの強調ぶりです。やっぱ、ティアがヒロインだからなんでしょうね、この演出。アニメのルークは初期時点からティアのことが好き過ぎます。

 最後に残ったミュウがルークにかける共感の言葉。原作は「ボクも……ボクのせいで、仲間たくさん死んでしまったから……」だったのが「ボクも森の仲間に迷惑かけてしまったですの」にマイルド修正。「沢山死んだ」が「迷惑かけた」レベルになっちゃいました。商業作品の表現自粛の基準点って難しいですね。ミュウがやけに早口になってましたが、尺の問題なんだろうなぁ。カエルピョコピョコミピョコピョコ。

 

 自分的には、ルークがジョンの死を目撃するエピソードをカットしたのは嬉しくありませんでした。オーソドックスに、アクゼリュスの街でジョンと一言二言でも話すエピソードを入れても欲しかったです。名も知らぬ人たち十人の死体を見るより、一人の知人、増して子供の死の現場を見る方が、ずっと物語上の衝撃的効果が高いと思うからです。尺が足りなかったと言うなら、アッシュがティアを助けるエピソードの映像化は要りませんでした。神託の盾兵を何人もカッコよく斬殺していく映像より、こっちの方がずっと重要度が高いと思うのです。妄言失礼。

 

 関係ないけど、キャラクターたちが話している背景の魔界の空、ちゃんと紫の雷光がチラチラ輝くところまで再現されていて、手を抜かずに凝っているなぁと思いました。ガイの立ちポーズも原作パターンを再現。こういうので嬉しくなる私はお手軽でアル。

 

 ユリアシティに到達。チーグルの木が切り株になっていたのと同じく、明らかに原作とは立地設定が変更されていました。原作では外殻の穴から降り注ぐ海水が瀑布となってシティを覆い、しかし海面に近い辺りは気化して霧になっているという設定ですが、アニメではもっと低い滝…と言うか、水のカーテンみたいなものがシティの手前にありました。どういう設定なんじゃろこれ?

 アニメでもユリアシティの港は出てこないんでしょうか。見たいよぅ。

 

 シティに入り、ふてくされて立ち止まっているルークにティアが話しかけていたところにアッシュ出現。「とことん屑だな! 出来損ない!」という台詞が早口一気です尺が足りない信号点灯中トウキョウトッキョキョカキョク。「アッシュ!? どうして。兄さんに連れていかれたんじゃ」と驚くティアに「グリフィン一匹、どうということもない」と返す。微妙に返答になってないよ(^_^;)。グリフィン一匹どうということはないから自在に乗りこなすことに成功してここまで飛んで来れたとか? ロデオ王アッシュ。

 アッシュがルークの正体を暴露する。回想を挟んで、連絡船キャツベルトでのフォミクリーの説明をおさらいしたのは親切構成。原作「お前は俺の劣化複写人間だ」を「お前は俺の模造品だ」に短縮修正。スッキリ。

 

 この後のルークの狂乱ぶりは、アニメならではの大迫力で本当に凄かったです。素晴らしかった。声優さんの演技も、原作の時よりずっとずっと凄味がありました。ルークが喚きながらアッシュに斬りかかっていくバックグラウンドで、ティアが「ルーク! やめなさい、ルーク!」と叫んでる声が聞こえるのもよかった。

 ザオ遺跡では力を拮抗させていたのに、ここでは取り乱し切ったルークの剣は全くアッシュに当たらない。アッシュは剣も抜かずに涼しい顔で大振りの剣筋を避け続ける。

(こんな屑が、俺のレプリカだと。こんな屑に俺は、家族も居場所も奪われたのか!)

 そう内心で吐き捨てるアッシュ。対してルークの脳裏に浮かんでいたのは二つの光景。

#ファブレ邸の庭で微笑むナタリア
ナタリア「あの約束、いつか思い出して下さいませね」

#デオ峠で厳しく言い放つリグレットと、苦しげに俯いているティア
リグレット「ティア! 閣下よりもその出来そこないを選ぶと言うのか!」

 ルークが、邪険にしながらもナタリアとの約束を気にしていたってことを提示してくれて嬉しかったです。しかしリグレットの台詞の方は何なんだろう。あの時リグレットが《出来損ない》と言ってたのはレプリカだったからなんですヨ―、という伏線回収だけの意味? …ってより、ヒロインはティアなんだからナタリアだけを目立たせちゃ不味い、ナタリアの回想を出すならティア関連の良さげな回想を出さなきゃ、と苦慮した結果のようにも思えます。けれど、イマイチぴったりはまらないと言うか。何故ここでこのシーンが回想されるんだか。

 …まさか、ナタリアは本当はレプリカルークを見ていなかったけど、ティアは出来損ないのレプリカでも選んでくれたんだよ、みたいに対比しようとしているんでしょうか。だったらちょっと厭。

 まだティアとは付き合いが浅いし、彼女はルークの今までの偽り人生には、ほぼ関わっていない。無理にティア関連の回想を出すよりは、潔く、ガイや母上や父上の断片的イメージカットでもパパパッと出した方が、しっくりきたんじゃないかな。んで最後にヴァンのカット出すとか。

 

 苛立つアッシュはついに剣を抜き、一払いでルークを弾き飛ばして床に転がす。感情のままに両手で剣を握り、「死ねぇっ!」と振り上げる!

「ルーク!」

…と、ティアが叫んだところで次回へ続く、でした。

 次回、誰かがルークを救ってくれるのかなぁ。

 

今回の総論。

  • アクゼリュスの親善大使様は原作よりスパイシー&ハード
  • ルークの狂乱は見事。ここだけでもアニメ化された甲斐がありました

 

 今回と前回、感想未見の方々の感想ブログを見て回った結果、私の見た範囲では全ての方が、ルークの横暴さに呆れ、腹を立てていました。原作既知の方々がルークに同情していたのと対照的です。それでも皆さん、どん底に落ちたのだから次回から反省して変わっていくはず、とルークに期待しておられて。つまるところ、制作意図通りの反応。アニメ版は大成功ということですよね。

 原作を知っていると、もう少しルークの繊細さも描写してくれても…なんて思っちゃいますが、無くても良い枝葉だったんだなぁ…と、改めて認識させられます。

※もっとも、原作のルークとアニメのルーク、キャラクターとしてどちらが好きかと問われれば、私は原作のルークの方を選びたいです。

 

 ではまた次回。

 



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