注意!

 

TV animation『テイルズ オブ ジ アビス』ドラマCD V
罪に降る雪

構成・脚本:面出明美/監修:実弥島巧/音響監督:木村絵理子/音楽:桜庭統/ランティス

 原作の《ネビリム》イベントをドラマ化したものです。導入の変更と多少のエピソード追加、一部設定の整理が行われていますが、大筋は原作に沿っています。「罪に降る雪」というサブタイトルがとてもカッコイイです。

 それはそうと、他の巻に比べて収録時間がぐっと少ない。なんと49分しかありません。CDの容量(最大80分)から30分も空いています。今まで収録時間をあまり気にしたことがなかったのですが、初めて、聴き終わって「え? 短い」と思いました。

 元々、アニメ版ドラマCDシリーズはゲーム版ドラマCDと比較してボリューム少なめで、『CDT』や『CDW』も50数分しかないのですが、今巻は流石に悲しかったです。おまけのキャストコメントを含めてさえ、50分にも足りないなんて……。値段は、むしろアニメ版の方が少し高価いのに。

(前巻の『CDU』は、ほぼ容量いっぱい、72分も詰めてくださっていて、嬉しかったのですが。)

 ともあれ、TVアニメならば丁度二話分のボリュームです。あと一話分くらい、何か別のエピソードを入れてもらえたらよかったなぁ。

 

 特筆すべき点が一点。このドラマCDは《アニメ版公式外伝》として2009/4/22に発売されましたが、その二日後に発売された少女漫画誌『月刊Asuka』六月号(角川書店)より、やはりネビリム編を扱った漫画『追憶のジェイド』が連載開始されています。

 そちらも《アニメ版公式外伝》を謳っているのですが、ストーリーが違います。また、ドラマCDは脚本をアニメシリーズ構成さん、監修を原作メインシナリオライターさんが担当していますが、漫画の方はシナリオを原作メインシナリオライターさんが担当しています。

 ほぼ同時発売で、どちらも《アニメ版公式外伝》なのにストーリーが違う。アニメ版の外伝を原作者が作っている。アニメ版ライターの書いた方が原作に近い形を保っていて、原作版ライターの書いた方は全く新しいエピソード&原作と異なる展開になっている。………何でしょうかこれは(苦笑)。

 ただ、両者は全く無関係と言う訳でもないようで、ドラマCD(アニメ)版で軽く触れたのみで詳細を語らなかった部分が、漫画版で補完されていたりもします。

 

01 謎の襲撃

 このパートは完全なオリジナルエピソードです。原作の《ネビリム》イベントの導入は、惑星譜術を得ようと触媒武器を集めていくエピソードでしたが、それはありません。

 マルクト領内の森の道なき場所を歩き、近くの村を目指していたルークたち。ところが村は焼かれ、ただ一人生きていた村人も「女が一人でやってきて、笑いながら譜術で村を焼いた」と言い遺すと息絶えてしまった。

 あらすじを書き出すとこれだけですが、実際はキャラクターたちの楽しげな雑談によるミニエピソードがたっぷり入っていました。

  • 先頭に立って藪を突っ切りつつ、仲間を気遣うガイ。
  • 枝にソーサラーリングが引っ掛かって身動きとれなくなったミュウをルークが助けると、ミュウは「やっぱりご主人様は、ボクの命の恩人ですの」「ボクは、いつもとっても感謝しているですの」と大感激。ルークの方は「そんな大げさなことじゃないだろ、これくらい」「はいはい」と落ち着いたもの。
    長髪時代みたいに照れ隠しのあまり逆切れすることはないけれど、いやにそっけないのは、やっぱ照れ隠しなのかな?
  • 枝にひっかかってジタバタしているミュウも可愛い♥」とうっとりするティア。
  • 道に迷ったのかもと少し心配したルークを、例によって軽い嘘でからかって憮然とさせるジェイド。
  • ナタリアの料理の腕が以前に比べると上がったという話題。少なくとも食べられると辛辣に言うアニスと、チーズを使った料理は特に美味しいから最近は楽しみだと褒めるガイ。
  • でも、ナタリアに料理をさせていると知られたら、インゴベルト陛下に何と言われるか…。俄かに不安になる王族外メンバー。
  • 自分が望んだことだし、きっと父も喜ぶ。いい経験になるはずだと言うナタリアと、共感するルーク。
    屋敷の中で想像してるだけじゃ、世界がこんなに広いなんて分からなかったからな」「辛いこともあるけど、それだけじゃない。ほんとに、みんなと会えて、一緒に旅が出来て、よかったって思うんだ。ありがとな
  • はうあ! ルークが天然タラシのガイみたいなこと言ってる〜」と茶化すアニス。ガイは不本意。ナタリアが「仕方ありませんわね。ガイは一番長い時間、ルークの傍にいるのですもの。影響を受けるのも当然ですわ」とフォロー(?)するが、「それって……。俺が天然タラシってことは否定してくれないんだな……」とガックリ。ちなみにジェイドは駄目押し肯定。ルークとティアはノーコメントでした。

 前巻に引き続き、ルークはガイの影響を多分に受けて育っている、というネタが入っています。

 

 それはそうと、ティアが枝に引っかかってもがくミュウを見て「可愛い♥」とうっとりするのは、あまり好きじゃないなぁと思いました。前巻にも、砂漠の暑さでクタクタになったミュウは可愛かったわ、などとティアが呟くシーンがあるんですけど……。

 洒落の解らない奴、なんて眉をひそめられそうですが、他人が苦しんでいる様子を見て「可愛い♥」とうっとりさせるのって、あまり気持ちよくないなぁと思うんですよ。本式のキャラ崩壊ギャグならともかく、シリアスストーリー内の一エピソードである限りは。

 ゲームの『レディアントマイソロジー2』にも、戦闘で高揚して獣人に変身すると理性を失って仲間を襲ってしまうかもしれないと深刻に悩んでいるカイウスに、獣姿が可愛いからという理由でティアが生き生きしながら戦闘を強いるというエピソードが入れられてたんですが。う〜むむむ……。

 可愛い物好きはティアの性格ですが、相手が苦しんでいようと悩んでいようと構わずにハートを飛ばすというアレンジは、何かが歪んでる気がするのです。「可愛い」と思う気持ちは悪意じゃないんだから、とか言う問題じゃないと思うのね。相手が普段は屈強な男で少し弱った時のギャップに萌えたとかならまだしも、普段から弱い小動物で子供なのに。遠くで「弱ってる・困ってる姿が可愛い♥」とニタニタする前に、気遣うのが当たり前なんじゃ…。

 普通に、ミュウがルークと懸命にお喋りしてる様子や仕草、ちっちゃい手足なんかが可愛くてきゅんきゅんするって程度でいいのになァ、リスナー的には。



 冒頭に、アニメ本編11話の回想シーンに相当する、ネビリムと幼いジェイドの会話が入っています。しかしアニメ本編にあったものより会話が長い。(「あなたは、私に似ているわ」以降が追加分です。)もしかしたら、アニメの脚本にはあったのに、実際の放映分では尺の関係で削られていた台詞なのかもしれません。

ネビリム『いい? ジェイド。強い力は人を不幸にすることもあるの。あなたは必要以上のことを求め過ぎる。それは、いつかあなたの身を滅ぼすかもしれない』
幼少ジェイド『でも、僕は全てを知りたい。第七音素セブンフォニムだって、扱えるようになるはずだ』
ネビリム(悲しげに)ジェイド。
 (フッと微苦笑して)……あなたは、私に似ているわ』
幼少ジェイド『ネビリム先生』
ネビリム(声音強めて)だからこそ心配なの。私のようには、ならないで。あなたは、道を間違えては駄目よ。ジェイド』
幼少ジェイド『……?』

ジェイド(独白)――そのとき私は、尊敬するネビリム先生にも苦悩や挫折があることなど想像もしていなかった。先生が何故、あんな悲しげな瞳をしていたのかも……。



02 真実を求めて

 ピオニー皇帝に報告に行き、力不足を詫びるルークたち。

 するとゼーゼマン参謀総長が、二十年ほど前にもよく似た襲撃事件があったと言い出した。「まさか、譜術士フォニマー連続死傷事件ですか」と驚くジェイド。彼自身も詳しいことは知らないが、やはり一人の女が襲撃を行い、当時現役だったマクガヴァン元帥率いた一個中隊を譜術で壊滅させたのだという。
 ゼーゼマンは、詳細はマグガヴァンに聞くように言い、ジェイドに「お前には辛い話になるかもしれん。覚悟して行け」と言うのだった。素直に「はい」と頷くジェイドを、ルークはいぶかしげに見つめる。

 セントビナーにマクガヴァン元元帥を訪ねると、彼は二十年前の経緯を語った。優秀な譜術士フォニマーが襲われ、その周囲にいた人々さえも殺し尽くされる事件が続いたこと。おとり捜査で誘い出した犯人は若く美しい女で、しかし強力過ぎる譜術を使ったこと。全力で戦ったが殺すことも捕まえることもできず、ある場所に追い詰めて封印するのが精いっぱいだったこと。この事件で多くの部下を失い、退役を決意したこと。

 あの女は普通の人間ではなかった。だから今も生きていて、封印を抜け出したのかもしれない。

 これ以上被害者を出すわけにはいかないと義憤に燃えるルークを先頭にして、仲間たちはロニール雪山にあるという封印の地を確認に行くことにする。

 そしてジェイドは語った。その女は恐らく、死にゆく師・ネビリムを蘇らせようとして子供の自分が初めて作ったレプリカだろうと。
過去の過ちは、自分の手で決着をつけます

 アニメ本編では崩落後のセントビナーがどのように復興したか語られていませんが、ここで補完しています。

 また、譜術士フォニマー連続死傷事件周りの設定が整理・変更されています。原作のジェイドは、この事件がネビリムに関わるものだとは全く認識しておらず、ネビリム・レプリカが出現して初めて気付くのですが、ドラマCDのジェイドは当時から薄々気づいていて、しかし知りたくなかったのであえて細かく聞かなかったことになっています。

 加えて、ゼーゼマンが譜術士連続死傷事件の犯人がジェイドに関わる存在だと半ば気付いていて、しかし思いやって言わなかったらしく語られていますが、原作にはそうしたエピソードやニュアンスはありません。

 

 アニメ本編では簡単な説明で済まされていたネビリム・レプリカの暴走と逃走の顛末が、しっかり語られていました。第11話とセットで聴きたいドラマですね。

ティア「大佐。心当たりがあるのですか」
ジェイド「ルークには、以前話したことがありましたね」
ルーク「え?」
ジェイド「私が、かつて犯した罪を」

#回想シーン。燃えるネビリム邸の近くで、雪の上で死にかけているネビリムを前にした、幼い頃のジェイドとディスト
サフィール(半泣きで)ねぇジェイド。このままじゃ先生が死んじゃうよ!』
幼少ジェイド『分かってる。これは僕の責任だ。先生は必ず助ける』
サフィール『どうやってぇ……?』
幼少ジェイド『フォミクリーだ。先生のレプリカを作成する』

ルーク「……! まさか」
ジェイド「その時、瀕死のネビリム先生を元に作った、生体レプリカ。それがその女の正体です」
ルーク「!」

#再び回想。
#譜術を用い、ネビリムのレプリカを作成するジェイド

サフィール『すごいよ、ジェイド! フォミクリーは成功だ!』
#ジェイド、疲労した様子ながら、満足げに
幼少ジェイド『……ああ』
ネビリム・レプリカ『……う……ううぅ……』
サフィール『……? どうしたの? 様子が変だよ、ジェイド』
ネビリム・レプリカ『う……うう…………うぁあああああッ!!』
#マルクト兵たちが駆けつけてくる
兵士『火事はそこだ!』『人がいるぞ。大丈夫か!』
#ネビリム・レプリカ、雄叫びをあげて兵士に襲いかかる。悲鳴を上げる兵士たち
兵士『なんだ、この女!?』『ぐうっ。抵抗するな!』
#ネビリム・レプリカ、獣のように叫びながら兵士たちを倒してしまう
サフィール『な、なんで!? 兵隊さんたちを……』
#理性の感じられない様子で吠え叫んでいるネビリム・レプリカ
サフィール(半泣きで)やめて、やめてよ先生ぇえ!』
#ネビリム・レプリカは聞く耳を持たずに叫びながら暴れ続けている
幼少ジェイド『無駄だ、サフィール』
サフィール『ジェイド?』
幼少ジェイド『失敗だ』
サフィール『ええ!?』
幼少ジェイド『このレプリカは、理性のない破壊衝動の塊。……完全な失敗作だ。こんなものが、ネビリム先生の筈がない』
サフィール『ジェイド……!』
幼少ジェイド『このまま、野放しにするわけにはいかない。始末しなければ』
#行こうとしたジェイドにすがりつき、止めるサフィール
サフィール『待って、ジェイド。待って。あれは、ネビリム先生なんだよ?』
幼少ジェイド『違う。あれはただの……。
 ――消すしかないんだ』
#ジェイド、譜を唱え始める
幼少ジェイド『――燃え盛れ。赤き猛威よ!』
#雄叫び、襲いかかってくるネビリム・レプリカ。サフィール、そしてジェイドが悲鳴をあげて倒れる。
#叫びながらどこかへ逃げていくネビリム・レプリカ。

幼少ジェイド(意識を失いかけながら)待て。……ネ、ネビリム、先生……』

ルーク「……っ」
ジェイド「その時、本物のネビリム先生は亡くなり、レプリカは姿を消しました。私とサフィール、……ディストは、運よく救助され、命を取り留めました」
ナタリア「そんなことが……。では、その場から逃げたレプリカが」
マクガヴァン元元帥「数年後、わしの部隊と戦って、ロニール雪山に、封印されることになったのか」

 命を取り留めた、か……。レプリカ・ネビリムによって、幼いジェイドとディストは瀕死の重傷を負わされていたんですね。



03 再会

#ロニール雪山を歩きながら。ルークにティアが話しかける
ティア「ルーク。どうかした? 難しい顔をして。何を考え込んでいるの?」
ルーク「えっ……。ああ、うん。ティアにはすぐにバレるな」
ティア(微笑って)私は、いつでもあなたを見ているって言ったでしょ」
ルーク(微笑って)そうだったな」
ティア「大佐の話――生体レプリカのことを、気にしているの?」
ルーク「うん。それもあるけど……。心配なのはジェイドなんだ」
ティア「大佐が?」
ルーク「ジェイドってさ。大人で頭良くて強くて――何でも出来る凄い奴だから、俺なんかが心配してる、なんて判ったら怒るだろうけど。ネビリムさんのこと、本当に尊敬してたんだと思う。……俺にも、その気持ちは解るから」
ティア「ルーク」
ルーク「だから、そのネビリムさんがあんなことになって、ずっと責任を感じて、自分を責めてる。今また、自分の作り出したレプリカが、酷いことしてるなんて。きっと凄く辛いと思うんだ」
ティア「そうね。どんなに強い人でも、傷つかないわけじゃないわ。でも、大佐は大丈夫だと私は思うの」
ルーク「えっ」
ティア「以前の大佐なら、こんな時、ご自分独りで対処しようとしたんじゃないかしら。でも、今は私たちも一緒に、ここにいる」
ルーク「……!」
ティア「一人では辛いことも、仲間がいれば乗り越えられることもあるわ」
ルーク「そう……だな。うん。(声音明るくなり)頼りないかもしれないけど、俺もジェイドの力になりたい」
ティア(微笑んで)きっと、ルークのその気持ちは、大佐も気づいていると思うわ」

 ロニール雪山奥地にある、ネビリム封印の洞窟前に到着したルークたち。すると中から、聞き覚えのある、けたたましい笑い声が聞こえてくるではないか。嫌な予感に半ばうんざりするアニスとガイ、「幽霊じゃ……ないよな?」「ち、違うと思うわ!」と少し不安げなルークとティア。

 洞窟に入ると、果たして、レムの塔で殺した筈のディストがいた。封印を解いたのは彼だったのだ。しかしまだまだ不安定で、ネビリム・レプリカ本人も自力で音素補給(譜術士襲撃)を行っていたようだが、効率が悪かった。が、ここに設置した音素フォニムを集積する音機関によって、ようやく完全復活できると言うのだ。

 ところが、復活したネビリム・レプリカはディストを一撃で殺して嗤った。そしてジェイドに言う。「あなた、私を殺そうとしたわね。私が不完全な失敗作だから」「でも、今はもう違うわ。足りなかった音素フォニムを得て、私は完全な存在となった。そうでしょう?」と。動揺するジェイドだったが、真っ直ぐな怒りを見せる仲間たちの声に落ち着きを取り戻し、「この際、あなたが完全かどうかはどうでもいい。譜術士連続死傷事件の犯人として、あなたを捕らえます」と返したのだった。

 激闘の末、ルークたちが勝利した。
 瀕死で「何故、こんな……。私は、完璧な存在なのに……」と呻くネビリム・レプリカに歩み寄り、ジェイドは言った。
確かにお前は強い。もしかしたら、被験者オリジナル以上かもしれません。だがそれだけだ
力に溺れる者は、いつかはその力によって滅びる」
 そう。かつて、師・ネビリムが忠告し、ジェイド自身が経験したように。

ジェイド「お前を生み出したのは、私の過ちだ。それを正すべき時が来たのです」
#声音を変えるネビリム・レプリカ
ネビリム・レプリカ「《また》……私を殺すの? ジェイド」
ジェイド「!」
ルーク「ジェイド?」
ネビリム・レプリカ「いい子ね、ジェイド。あなたは昔から、私の言うことを聞く、良い子だったわ。さあ、私を助けて。あの頃のように、一緒に、楽しく過ごしましょう?」
ルーク「ジェイド!」
#ジェイドへ向けて手を差し伸ばすネビリム・レプリカ
ネビリム・レプリカ「この手を取って。昔のように」
ジェイド「……」
#ジェイド、気合いと共に槍を一閃させる。飛び退いて険しく怒鳴るネビリム・レプリカ
ネビリム・レプリカ「くっ! 何をするの、ジェイド!」
ジェイド「下手な芝居はやめなさい。お前はネビリム先生とは似ても似つかない! ただの醜悪な魔物だ」
ネビリム・レプリカ「何を言うのジェイド。ほら、よく見て。私はネビリムよ」
ジェイド「――天光満つるところ我はあり」
ネビリム・レプリカ「あ!」
ジェイド「黄泉の門 開くところ汝あり」
ネビリム・レプリカ「あっ、……ああっ、!!」
ジェイド「出でよ、神の雷。……これで終わりです。――インディグネイション!」
ネビリム・レプリカ「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
#ネビリム・レプリカ、消滅する
#しばしの静けさ
ルーク「……ジェイド」
ジェイド「私は大丈夫ですよ。……あなたに気を遣われるなんて、私もやきが回ったようだ」
ルーク「ジェイド? ……へへっ。なんだよ、それ

 ティアが言った通り、ジェイドは心配しているルークの気持ちに気づいていた。
 一人では辛いことも、仲間がいれば乗り越えられる。

 ちなみに、ディストは死んでおらず、気を失っていただけだった。放置するわけにもいかないので逮捕し、グランコクマの牢に送還したのだった。

 

 ロニール雪山を歩く場面で、アニメ第17話でジェイドがわざと雪崩を起こしたエピソードに触れていました。そのとき雪崩に巻き込まれたことを思い出したルークはプンプン。ガイが笑って、あんまり大声出すとまた雪崩が起きるぞと注意。ミュウも「しぃー、ですの」と追従します。するとルークが、小さな子供みたいに自分の口をぱっと押さえて塞いだのが可愛かったです。やっぱ、雪崩に埋まったのは恐怖体験だったよね。(^_^;)

 

 惑星譜術復活という原作ルークたちの目的を、このドラマは採っていません。いかにもゲームイベント的ですから、ドラマには向いていませんものね。代わりに、《村を襲撃した謎の犯人を追う》というミステリアスな導入を新たに創作し、ネビリム復活に不可欠だった触媒武器はディスト作の音機関に変更。原作だと、封印はジェイドが解くのですが、ドラマではディストがとうに解いていたことになっています。

 が、ちょっとだけ変な感じになったかもしれません。ネビリム・レプリカは完全復活していない筈なのに、恐ろしい譜術の力で村を滅ぼしたことになっていますし、封印から解放されて自由だった筈なのに、遠い村を襲撃して、再び不便で寒いロニール雪山奥地に戻っている。封印の地から最も近いケテルブルクは襲っていない。

 

 それはそうと、ネビリム・レプリカが「いい子ね、ジェイド。あなたは昔から、私の言うことを聞く、良い子だったわ」と言いだすのは、ジェイドが言うとおり、全くの演技ですよね。幼いジェイドはネビリムの警告を頑なに聞かなかった。なにより、レプリカにオリジナルの記憶は継承されない筈ですから。

 しかし、記憶がなくて赤ん坊状態なら、逃げ出した後、どうやって潜伏したのか疑問が残るわけで。破壊衝動のおかげで走ったり歩いたりの運動能力は発揮できたとしても、言葉や正確な譜は学習しないと使えないでしょう。譜術士連続死傷事件を起こすようになるまでの数年間、誰かに保護されて、学習しながら暮らしていたのでしょうか。色んなドラマが妄想できますね。



04 思い出の中で

 最終パートは二つに分かれており、前半はジェイドとピオニー(とブウサギ達)、後半はルークたちです。

 ピオニーの私室で展開するジェイドのパートは、いつもながらの《可愛い方のジェイド》なブウサギトークから始まり、今回の件について幼なじみ二人きりで話します。濃厚な《雪国幼なじみ組》オチとなっています。

#鼻水を垂らしてズビズビ言っている、ブウサギのサフィール
ピオニー「お。なんだサフィール。(近づいて)お前また鼻水が出てるぞ」
#ブウサギのサフィール、ピオニーに抵抗する様子だが、構わずに
ピオニー「ん? お前も人間の方のサフィールが生きていて嬉しいのか」
#けれどブウサギのサフィール、逃げてしまう
ピオニー「はあ。あいつはいつまで経っても懐かんな。人間のサフィールと同じだ」
ジェイド「アレは昔からあなたが苦手ですからね」
ピオニー「どうしてだろうなぁ。俺は幼なじみとして仲良くやっていこうと思ってるんだが。まあいい。サフィール、――今は死神ディストか。ちゃんと身柄は預かっておく」
ジェイド「今度は逃がさないでくださいね面倒ですから。……はあ。レムの塔で片は付けたと思ったのですが。本当に大した生命力ですよ。あれは殺しても死にません」
ピオニー(可笑しそうに)とか言いながら。サフィールが生きていて、本当はホッとしてたんだろうが」
ジェイド「私が? 面白い冗談ですね、陛下」
ピオニー「ま、そういうことにしておこうか」

 ピオニーはマルクト軍の情報部にあったというネビリムの資料を出してきた。彼女はかつて神託の盾オラクル騎士団に所属し、導師エベノスの指示で、太古に失われた惑星譜術復活の研究を行っていたが、その資料をすべて処分して退役、還俗して、逃げるようにケテルブルクに移り住んだのだと言う。

ピオニー「ダアトで何があったのか。なぜ惑星譜術の研究を捨てたのか。今となっては、もう知りようもないな」

#ジェイドの脳裏に、幼い頃にネビリムから聞いた忠告が閃く
ネビリムだからこそ心配なの。私のようには、ならないで。あなたは、道を間違えては駄目よ。ジェイド』

ジェイド「……。
 ネビリム先生は、いい先生でした。私たちは、それだけを覚えていればいいと思いますよ」
ピオニー「そうだな。――よし。今日はとことんまで付き合うぞ。旨い酒が入ったんだ。特別に飲ませてやる」
ジェイド「おや〜、珍しいこともあるものですねぇ。では遠慮なく呑ませていただきましょうか?」
ピオニー「あぁ〜、いや、ちょっと待て。お前に本気で呑まれると、俺の自慢の酒蔵が空になる!」
ジェイド「マルクト皇帝ともあろうお方が、ケチ臭いですねぇ」
ピオニー「うるさい、このザルめ! ――フッ。だがまあ、たまには昔の思い出話を肴に呑むのもいいもんだ。あ、そうだ。なんならサフィールも混ぜてやるか?」
ジェイド「嫌ですよ」
ピオニー「ハハハハハ。お前たちも相変わらずだなぁ」

 ネビリムの過去に何があったのか。冒頭でジェイドが独白する挫折や苦悩の内容は、このドラマCDや原作では語られていません。

 しかし、漫画の『追憶のジェイド』では、それが説明されています。恐らく後付け――と言うと表現が悪いですが、原作時点ではイメージだけで明確ではなかった部分を、設定を整理して練り直し、補完したのだと思います。

 そちらで語られたことによれば、惑星譜術復活を命じられたネビリムは無数の実験用チーグルを犠牲にしつつ研究。三年かけてロニール雪山で実用実験を行いましたが、術が暴走して失敗、立ち会った教団兵たちの殆どを殺してしまったのだそうです。(『テイルズ オブ シンフォニア』の しいなみたいですね。)ネビリムは「強い力は人を不幸にすることもある――」と導師エベノスに訴え、研究資料を破棄して還俗しました。事故地であるロニール雪山が見えるケテルブルクに移り住んだのは、自分の罪を忘れないためらしいです。

 きっと、術が暴走した時に亡くなった中には、ネビリムの親しい、大切な人もいたのでしょうね。

 

 ジェイド達のパートが終わると、ルークたちのパートになります。これは殆どオマケ。

 翌朝、ジェイドがなかなか来ないので待ちくたびれているアニスやミュウ。昨夜はピオニー陛下と遅くまでお話されていたみたいだから。きっと重要な会議でしたのねと、真面目な解釈のティアとナタリア。けれどガイだけは意見が違う模様。

ガイ(苦笑して)いや。多分、違うと思う」
ルーク「ん? なんだよガイ。ジェイド達が何してたか、知ってるのか?」
ガイ「俺もマルクトに帰って、陛下のところに出入りするようになってたから、大体の想像はつくようになったって言うか……」
ガイ(またあのオッサンたちは歳も考えずに飲み明かして)
ルーク「ん?」
ガイ「え、いやぁ、何でも。――お。来たみたいだ」
#歩いてくるジェイド。全く普段通りの様子
ジェイド「お待たせしました。すみません、後始末に時間がかかりまして」
ルーク「え?」
ガイ「やっぱり……」
ナタリア「どういうことですの?」
ガイ「ああ、その……」
ジェイド(にこやかに)ガイ。あなたもガルディオス伯爵家の者なら、口にしていいことと悪いことはわきまえていますね?」
ガイ「分かってるって」
ルーク「なんだよ、教えろよ!」
ジェイド「マルクトの威信にかかわる機密事項ですから。――さ。出発しましょう」
ルーク「おい、ジェイド!」
ジェイド「早く来ないと置いていきますよ」

 訳が分からずにむくれるルークを尻目に、ジェイドは飄々として出発していく。急いで付いていくアニスやミュウ、待っていたのはわたくしたちの方ですのにと少しむくれたナタリアに、笑顔のティア。大声で呼びかけながら追いかけるルーク。落ち着いて同行するガイ。《仲間》たちがジェイドの後に続くのだった。おしまい。

 ジェイドはザルだったんですね。意外なような、イメージ通りのような…? 二日酔いもなしかぁ。しかしピオニーの方は常人並み? 後始末、というのは、二日酔いでダウンしてるピオニーの世話を宮殿の人々に任せてきたってことなんでしょうし。

 まだ一ヶ月しか仕えてなかったガイが「また」と言ってますので、飲み明かしてピオニーが二日酔いでダウン……という事態、しょっちゅう起こっているっぽい。(^_^;) あるいは、ガイの歓迎会と称して呑んだのか。今回はともかく普段は、ジェイドが止めずに一緒にトコトンまで呑むのは意外な気もしますが、結局、ジェイド自身が呑むの好きだってことなのかな。

 

 ともあれ、前パートのジェイドを心配するルークや、ネビリム先生を想うしんみりした雰囲気が、良くも悪くも、このオチ(と、生きてたディスト)で吹っ飛んでしまったのは事実でした(笑)。人生酸いも甘いも噛み分けた雪国組は半端ない?



キャストコメント

 再び雑談ノリですが、『CDT』ほど騒々しくはありませんでした。比較的真面目に、一人ずつシナリオの感想。

 ジェイド役の声優さんが、「僕たち雪国の話」と言ったのが印象的でした。実際どうなのか知らないのですけど個人的な印象として、ケテルブルク出身のジェイドと幼なじみたちを《雪国》と称するのは、二次創作畑のファンが独自に使う言葉のように思っていたからです。

 尤も、誰でも思いつきそうな言葉です。或いは製作スタッフが使っていたのかもしれませんし、ファンレターに書いてあったのを覚えただけかもしれません。けれどなんとなく、この声優さんはファンに近い目線でも『アビス』に親しんでおられるのかな、なんて感じたものでした。


 



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