注意!

 

テイルズ オブ ファンダム Vol.2

PS2ゲーム/バンダイナムコゲームス

『テイルズ オブ ジ アビス』から一年半後に発売された、『テイルズ オブ ファンタジア』『テイルズ オブ シンフォニア』との合同のファンディスクです。

『ファンタジア』一本、『シンフォニア』一本、『アビス』二本の、計四本の外伝シナリオと、キャラクターたちと対戦できる各種ミニゲーム、それらで条件クリアしていくことで見られるおしゃべりチャット、そして三つの異なる物語世界を繋ぐための大枠シナリオ一本で構成されています。

ミニゲームではお金を稼ぐことができ、そのお金でカジノで更に遊んだり、お店でミニゲーム用の補助アイテムや衣装称号等を購入できます。条件をクリアしていくと、フィールドマップ上に宝箱が出現してアイテム取得できることもあります。

 

 ゲームを開始すると、まず三タイトルそれぞれのラストダンジョン突入前辺りから物語が始まり、それぞれのパーティーが不思議な光に導かれて見知らぬ場所に飛ばされ、その異世界の探索を開始する、というプロローグが語られます。

 これが終わるとようやくフィールド画面が出現し、フィールドマップ上に点在するポイントをクリックすることで、外伝シナリオやミニゲームを任意で楽しめるようになります。

 四つの外伝シナリオをクリアすると、プロローグに続いた大枠の最終シナリオが出現し、三タイトルのキャラたちが全員集合して問題解決し、それぞれの世界に帰るという結末が語られます。このシナリオを終えるとゲームクリアという扱いになりますが、ミニゲーム等は引き続き楽しめ、称号やアイテム、おしゃべりチャットなどを集めることができます。



 総合的な感想をまず述べれば、とても面白かったです。外伝シナリオ目当てで買いましたが、ミニゲームも楽しかった。ゲームそのものも楽しめますが、キャラたちのやり取りや声、勝利コメントがかなり細かく設定されていて、その点で痒いところに手が届く感じでした。ファンディスクとしては十二分だと思います。

#ナタリアVS.アッシュのバカラでのセリフは笑えました。アッシュは自分がナタリアと対戦しているのに、ナタリアの応援をして、ナタリアに負かされると喜び、ナタリアに勝つと謝っちゃうんです。
「ナタリアの強さを信じて、ベットしろ!」「勝ってしまった…!」「ナタリア、すまん!」 「俺の負けだ」(嬉しそう)「ナタリアに負けたぞ!」(すげー嬉しそう)
あんたもうナタリーにメロメロだな! と可笑しかった。ナタリアの方は自然体で対戦しているのがまた可笑しい。

#カジノでは、十数分以上プレイした時、すごく負けていた場合と、すごく勝っていた場合とで、対戦キャラが専用セリフを喋るデモがあるみたいです。私はまだ、ブラックジャック負け時のジーニアスと、バカラ勝利時のジェイド&ディストしか聞いたことありませんが。ジェイドとディストは、ヤレヤレ(笑)って感じですよね。そっけない態度で引こうとするジェイドと、慌てて縋り、「逃がしませんよ」と喚くディスト。この二人は、なんだかんだで一生こういう関係なんだろーなぁ。

#それから、ドンジャラやる時の面子にガイとピオニー陛下がいると、勝利コメントでマルクト主従関係が垣間見えて楽しいです。ピオニーが特技「皇帝勅命」を使うと、必ずガックリしているジェイドとガイのカットインも入りますし。

#スナイパーは、なんといっても「ミュウを魔物から守る」という設定に燃えました。ドラマCDではミュウは存在そのものを抹消されてて悲しかったのですが、今回ちゃんと登場して話に絡むし、こうしてミニゲームのいわば主役として活躍してくれたので。
ルークでクリアした時のミュウとルークのやり取りは、聞いているとニヤニヤしてしまいます。
ミュウ「もう終わりですの? ご主人様、信じてたですの」
ルーク「ばっ…! 何言ってんだよ。おら、行くぞ!」
でも私は鈍くてシューティングはドヘタなので(ハードクリアは目が回った)、プレイしていると悲しくなります。何度ミュウを誤射し、守りきれずにばたんきゅーさせてしまったことか。「いたいですのー」「撃たないでですの!」「もう、ダメですの〜…」 ああああ。ミュウ、ミュウ〜〜!!(涙)

 

 それでも、ファンディスクで税込6,090円という値段設定は高価過ぎると感じますが、外伝シナリオのボリュームがそれぞれ一時間半程度ありましたので、ドラマCDを数本買ったと思えば安いもの……なのでしょうか。



 ただ、発売前から気になっていたキャラクター関係のグラフィックは、大抵は普通に綺麗だったものの、やはり気になったものがあったのは確かです。ルークの基本立ち絵は襟の形のせいで首が埋もれて見えて不恰好ですし、ガイの基本立ち絵は顎が……ぷっくりした顎のラインがひたすら気になるうぅう。ロイドは目が大きい気が。チェスターは一人だけクニャクニャしたデフォルメ顔になっていたと思いました。ミントは基本立ち絵で口パクすると、口の位置のせいか顔が歪んで見える。また、ディストの立ち絵はちょっとデフォルメが強いんじゃないかなと思います。可愛い感じにしたくて、あえてああしたんでしょうか?

 それと、音楽が各ゲームのものの流用だったのは、とてもよかったです。ドラマCDやOVAだと違う音楽になっちゃいますし、この辺はさすが本家です。音楽を聴くと、そのゲームをプレイしていた頃のことを思い出しますね。



 さて。総合的な感想を述べたところで、物語内容の重箱の隅つつき感想に行きたいと思います。例によって独りよがりなうえにネタバレですので、見たくない人はご注意ください。

 なお、この文章は『アビス』ファンサイトに掲載するためのものなので、全てにおいて『アビス』に重点を置くことを予めご了承願います。




テイルズ オブ ファンタジア 大切な場所

 原作は、現代→百年前→現代→五十年後と時空を移動していきます。最初期パーティーメンバーのチェスターは「百年前世界」には全く登場しないので、「五十年後世界」で再びパーティーメンバーに加えられるようになった頃には、他キャラとのレベル差が凄いことになっています。

 最初のリメイクであるPS版『ファンタジア』からは、これを救済するイベントが用意されていて、夜中に黙々と弓の修行をするチェスターの姿、それを目撃して、チェスターを弱いと小馬鹿にしていたアーチェが態度を改める様子が見られます。(これらのイベントを見るとチェスターのレベルが上がる。)

 この話は、そのイベントのストーリーを膨らませたもののようです。



 本編の隙間に「あったかもしれない」と思わせられる、素直で構成のしっかりした外伝です。しかし、それが弱点であるとも言えます。シンプルな作りなので、序盤の時点で展開やオチがほぼ読めてしまうからです。でも、クライマックスでチェスターの語る自身の信念、アーチェが考える「みんなといたい理由」の結論の辺りは、なかなか心に響いて素敵でした。アーチェの弟子入り各エピソードも楽しかったですし、明るい濁りない色が見えてよいと思います。

 戦闘で役に立たなくても、強い信念がなくても、みんなが好きで一緒にいたいならそれでいい。下手であっても料理番などすればいい。…あくまで有志の集まりである『ファンタジア』のパーティーと、社会的立場を持ち責任を負った『アビス』のパーティーとの差を強く感じました。

 ただ、ミントが「アーチェはクレスに恋愛感情を持っているのか」を問題にして、人が変わったようになってアーチェに詰め寄り、大怪我をして治療を求めてきたクレスやクラースに治療拒否してしまうのは、いただけないと思いました。そのキャラクターが絶対に取りそうにない言動を取らせる、いわゆるキャラクター崩壊ギャグのつもりなのでしょうが、違和感が強くて笑えませんでした。

 また、魔術が使えなくなる病気のタネ明かしの部分で、すずが「それはクレスさんの勝手な解釈です。私はそんなことは一言もいっていません」と言いますが、「勝手な」という言葉は入れなくてもよかったんじゃないでしょうか。すずがクレスを非難しているかのようです。個人的には、「それはクレスさんの勘違いです」くらいの台詞回しがよかったかなと思いました。



 その他、ラスト辺りのシチュエーションには少し首を捻らされました。

#魔術が使えなくなったことを暴露し、仲間に八つ当たりしたアーチェ、その態度を責めたチェスターを叩いて逃げ去る→夜の森で特訓中のチェスターに会う→チェスターが「みんなお前を探しているぞ」と言う→魔物を発見。野営しているクレスたちが危険だと判断、二人で協力して戦闘→チェスターがアーチェに弓を教える約束をする→翌朝、クレスたちがトレントの森まで行ってもらってきたと、魔術不能病の特効薬をアーチェに渡す→チェスターが起きてきて、徹夜で作った弓を渡そうとするが、無駄になったと知って怒る

 ある意味自分のせいで飛び出していって行方不明になったアーチェを、チェスターが捜しもしないで自分の特訓していたのは何故? ちょっと身勝手じゃないか?

 みんなアーチェを捜していると言ったのに、「野営しているクレスたちが危険」ってことになるのは何故? 捜索を諦めてみんな寝てたってことか?

 たった一晩でトレントの森まで行って薬を調合してもらうなんて出来るの? アーチェを捜すか野営するかしてたんじゃないのか。手分けしたのかもしれないが、それをチェスターも知らないし。移動時間はレアバード(小型飛行機)で何とかなるとしても、処方してくれたエルフの長に対して失礼ではないか。(夜中に押しかけて大急ぎで処方させたことになる。命に関わる病気ではないのに。)

 話の根幹を崩すわけではない、どーでもいいことですし、適当に理屈を見つくろえるレベルのことなんですが、気になりました。


テイルズ オブ シンフォニア もうひとつの交響曲

 途中でスパイであったことを明かして裏切り、しかしその後も影でロイドを助け続け、最後には仲間に戻ってくる、ロイドの実の父でもあるクラトス。この話は、そんな彼がいかにして影からロイドたちを助けていたかを、クラトス自身の視点で補完する話です。

 本編のメインシナリオライターさんがシナリオを手がけていることもあり、外伝として安心して楽しめます。実際、クラトスの心情の掘り下げ(解説)がとても深かったですし、一方でパーティーメンバーの「いつもの楽しいやり取り」もしっかり入っていて、嬉しい話でした。

 それに、四千年前の勇者パーティーのエピソードも語られていて、ユアンやミトスに対するイメージが少し変わりました。特にユアンは、本編ではあまり深い印象を持っていなかったんですが、人間味を感じて愛着が湧きました。

 四千年前の勇者たちについては本編で詳しく語られていなかったので、商業アンソロジー等見ていると、ファンの中で独自に育った共有イメージのようなものがあったと思うんですが(ユアンは「ドジっ子」、ミトスは四千年前から二重人格に近い「超シスコン腹黒少年」で姉と恋仲のユアンを虐待していたなど)、当たり前ですがそんなことなかったですね(笑)。ユアンがやや偏屈な人間(ハーフエルフですが)で、ミトスは彼をからかいつつ、姉との仲を静観していました。そして最強は天然マーテル(笑)。既にユアンを静かに尻にしいています。



 面白かったので文句はないんですが、強いて難を挙げるなら、クラトスの心情解説がやや理屈過多である点(プレイヤーの年齢層を考えれば、もう少し明快にしてもよかったんではないかなとか)、本編では目立たない端役であるケイトが影でクラトスを手助けして大活躍していたと語られたのが少し不自然で、「辻褄合わせの言い訳」っぽくも感じられてしまう点でしょうか。でも、殆ど気にすることではないと思います。

 ただ、一点。文句ではないのですが、とても驚いたことがあります。

 クラトスが長々と自分の心情を語り、自分は常に他者に理想や希望を見て依存していた、今もロイドに全てを託してしまっていると反省すると、ロイドが「世界には嬉しいことも悲しいこともあるだろ。だから誰かが誰かの希望になるって、ちっともおかしくないし、クラトスの中の希望を補助する希望が俺でもいいじゃん」「俺がクラトスの力になれたなら嬉しいよ」と笑う。更に、クラトスが自分はミトスを止める事も討つ事も出来ず、どっちつかずのまま四千年を過ごしてロイドが事態を動かすまで傍観し、そんな自分への慙愧と後悔をロイドに自分を討たせることで弁済しようとしたと懺悔すると「四千年って、普通の人間なら生きられない時間だろ。背負う後悔ってのも、きっと一人の人間には重すぎると思うんだ。なら、俺が協力するのもおかしくないよな?」とやはり笑う点です。

 ロイド懐広ぇ〜!!

 何この人。聖人じゃん。肉体も胎児の時からハイエクスフィアで強化されてるんですから、文句なしに超人ですね。

 本編の段階で、ロイドは差別心を全く持たない、他人のために懸命になれる良い子だったんですが、人が、いわば自分の人生も目標も全部あなたに預けてました、支えてくださいと言ってるも同然な時に屈託なく「いいよ」って…。若さゆえの無責任さで深く考えてないだけとも取れましたが、あまりに眩すぎました。(いやまあ、クラトスは父親なんですから、息子として父を支えるというのはなんらおかしくないのか。)そして仲間たちが「ロイドは素晴らしい人だ」と褒め称えて終わるし。(一応、最後にロイドの欠点の一つである「勉強が全く出来ない」点を強調してコメディぽく調整はしてましたが。)ははは。なんじゃこれ。



 昔、本編をプレイした時点でロイドがこういうキャラで仲間たちみんなに賞賛されていたことは知っていて、その頃は何とも思わず普通に主人公として好ましく思っていただけだったのに、何故だか今回は心底驚いてしまいました。ここ最近ずっと「ルーク」を見ていたせいなんでしょうか。

 ルークも仲間たちに認められた良い子ですが、彼は悩んで迷って、一時は仲間たちにも嫌われまくって、長い迷走の果てに突き抜けてその域に達した。でもロイドは最初からそういうキャラなんですよね。良い意味でも悪い意味でも「飽きっぽい」ので人を恨まないし、悩みにぶつかっても殆ど迷わないで突き進みますし。健全で強くてゆるぎなくて、自然体の博愛の使徒と言うか、愛し愛されることの天才と言うか。ラスボスのミトスですら、最後にはロイドに力を貸しちゃいますもん。

 なので分かりきってたはずのことだったのに。いやー驚いた…。そんな自分にも驚いた。



 外伝の次の機会があるなら、今度はシルヴァラントの初代神子スピリチュアの物語が見たいです。天使化し恐らくは世界の真実に到達して双つの世界それぞれの歴史に名を残した彼女が、結局世界再生に失敗したのは何故だったのか。テセアラの神子やクラトスたち四大天使とはどう関わったのか。彼女は本当にマーテルの生贄として死んだのか。本編をプレイした時からとても気になっていたので。(それとも、攻略本なんかでは既に情報が明かされてるんでしょうか。『シンフォニア』はゲーム本編と画集くらいしかチェックしたことないので分かりません。)

 

テイルズ オブ ジ アビス ティア編  遺言 ― メシュティアリカ ―

 ティアが実兄ヴァンを討つ決意をするまでの話。ラストが直接本編冒頭に繋がっていますし、本編中の断片的な回想から直接繋げたシーンがクライマックスになっていたり、本編との連絡が非常に密な内容になっています。

 しかし、私はこの話、どうも好きになれませんでした。正確には、メイン登場キャラたちが好きになれませんでした。理屈的にも「なんで?」と思う部分が多く、納得できずに引っかかってばかりいました。

 本編をプレイしたばかりの頃、私はティアが理解できず苦手に思っていました。その後、本編をじっくり読み込んでいくことで理解できたように思い、最近はかなり好きになっていたんですが、今回のこの外伝で、危うくまた苦手になりそうな気がしたりしました。どうしてくれる。

 一つ一つのエピソードは問題ないのですが、組み合わせ方が腑に落ちないと言うのか……。ゲストキャラのカンタビレのせいで話が少し違う方向にずれてるような気もしますし。

 結局のところ、本編を見て私が想像していたものと微妙に、しかし不満な方向にずれていたため、そう感じただけなのかと思います。シナリオを書いた方が本編のライターさんではないことも、うがった目になってしまった一因でしょう。(尤も、雑誌のプロデューサーインタビューによれば、設定やキャラの口調など、本編のメインシナリオライターさんの監修がしっかり入っているそうなのですが。)ですので、以下の感想は一プレイヤーのたわごととして軽く読み流して下さい。




 第一に不満に感じたのは、「ティアのヴァンへの思慕」が大して感じられないという点でした。それが具体的なエピソードとして語られているのは、五歳のティアが「私もいつか、お兄ちゃんみたいに、おらくるに入るの。それで、ずっとお兄ちゃんのそばにいて、お兄ちゃんを助けてあげるの。いいでしょ?」とセレニアの中庭で無邪気に約束するシーンだけ。そのすぐ後に、「私はそんな兄が好きだった。兄の内に宿る激しい衝動、世界に対する憎しみといったものを、目の当たりにするまでは……。」と独白が入って、五歳ティアが世界への恨みを口にするヴァンを理解できずに怯えるシーンが描かれているので、ティアが兄を好きだったのはとても幼かった頃の一時期だけで、それ以降はずっと、幼女の頃からヴァンの異常性に強い不安を持っていたという印象になってしまう。

 それに、ティアの独白で「早くに離れてしまったせいで、私の中に残る兄の記憶は乏しい。覚えているのは時折届く手紙と、ごくまれに帰ってきたときの兄の姿。」と言っているのも、少し引っかかってしまいました。

 本編ではティアはヴァンに料理を習った設定になっていますし、ティアの細かい部分にまで強烈に影響を与えている。本編ではティア自身が「兄さんはずっと私の親代わりだったの。外殻大地へ行ってしまってからも、私のところに顔を見せてくれたわ」と言っています。微妙な言い回しの問題なのですが、「兄の記憶は乏しい」と言わせてしまうと、兄妹の絆が細く感じられてしまう。



 私は、ティアは本編開始の直前辺りまでヴァンが大好きで、だから兄の役に立つために神託の盾オラクル騎士団に入ったのだと思っていました。この外伝でも十四歳のティアは「兄さんが待っているから」神託の盾騎士団に入りたいと言っていますが、例の「幼女のティアが兄の異常性に怯えていた」エピソードがあるために、ティアが幼女の頃から兄を半ば胡散臭く思っていて、監視するために近くへ行こうとしたという印象の方が強いのです。

 実際、独白で「兄が自分の理想を実現するために、何をやろうとしているのか……。漠然とした不安が、このころから、私の中に常にあったように思う。その不安をぬぐうためにも、私は兄の本心が知りたかった。なぜあんな恐ろしい顔をして、恐ろしいことを思いつめるようになったのかを、知りたかった。」と語られ、そのためにダアトの士官学校に入って兄の側に行きたかったのだ、と結論付けられています。とうに「兄は変わってしまった」と思っており、それを信じたくない故の行動だったと。



 帰省したヴァンがよくホド崩落への憎しみを口にしていたことは、本編の時点で語られていましたから、十代のヴァンが恨みを述べるシーンを入れるのは問題ないのですが、幼女ティアがそれに怯える描写を入れて、その頃から兄に疑念を抱いていたと独白するのは、やめて欲しかったです。ティアが兄に疑念を抱いたのは、彼の憎しみを目にしたからではなく、外殻の住人を消す計画を立てていることを知ったからではないのでしょうか。

 ヴァンが心の内に大きな闇を抱えていることは、ティアにとって漠然とした不安にはなっていても、本編開始直前まで、兄への信愛を揺るがすまでのものではなかったと、本編を見た時は感じていたのです。でも、この外伝の語り口では、ティアは最初からずっと、兄を「不安」の域を超えた「疑念」の目で見ていたように感じられます。



 全くの個人的希望ですが、前半部ではティアとヴァンとの兄妹愛、ティアがいかにヴァンを好きだったか、そしてヴァンがそう思われるに相応しい、どんなに素敵な兄だったかということを存分に語って欲しかったです。たとえば、ティアが兄に料理を習うエピソードを入れて、選択肢によってティアやヴァンの色んな反応が見られたら楽しかったのになぁ、とか。

 そうして、この兄妹の「フェンデ家たった二人の生き残り」という孤立性、親子のようでもある特殊性を見せ、ティアが兄さん大好きだということを強調してこそ、その間に立ち塞がったかに見えたリグレットに反発するエピソードや、兄が外殻の住人を消そうとしていると知ってショックを受けるくだりも、もっとくっきりと際立ったのではないでしょうか。と思ってみたり。すんません素人の安易な妄言です…。



 ですが、ユリアシティでのリグレットとのエピソードは、かなり良かったです。リグレットがどんな人間か、そして本編のティアは彼女の模倣そのままなのだということがよく分かりました。

 ND2016、十四歳のティアは士官学校入学を希望しますが兄と養祖父に反対されます。それでも養祖父に頼み込んで兄を説得してもらいましたが、ダアトへ行くことは許されず、ユリアシティに教官であるリグレットが派遣されてくる形でした。この人は兄の側へ行きたい自分の邪魔をする障害だ、とティアは認識し、ささやかな抵抗として、初日の訓練をわざとすっぽかします。ところが、リグレットは遅くなってもまだ待っていました。

『この人は一体、なんなのだろう』
それがこの時、私が教官に抱いた印象だった。
私が仮病を使ったことは、おそらく見抜かれていたはずだ。そこに込められた意味……。私が彼女を拒んだということも。
これまで私が接してきた他人なら、こうすることで確実に私の下を離れていったはずだった。それでよかった。他人なんてそんなもの。私はずっとそう思ってきた。
だが彼女は、私の前にいた。立ち去ることなく、私を待っていた。
そんな彼女の振る舞いに、私は戸惑いを感じた。
『この人は一体、なんなのだろう』
『この人は一体……』

 リグレットと出会う以前は、ティアはあまり他人と関わろうとしない、それでいて心の底で「自分を理解してくれる人が欲しい」という飢えを感じている人間だったようです。

 関わりたくない他人との距離を開けるため、自分を下げる行動を取っていたティア。それでいいと思っていた。もしかしなくても、あまり友達もいなかったんじゃないのかな? ティアにとって、旅の仲間たちは、初めて出来た本当に親しい友人だったのかも。



 よそ者のティアはシティの一部の人間にあまりよく思われていない。普段は養祖父のテオドーロが守ってくれているのだけれど、抑えきれない時もある。

 共有家畜庫のブウサギ全てが殺される事件が起こり、遺留品のナイフからティアが疑われます。テオドーロはティアが犯人だとは思っていませんが、場を収める為にティアに一緒に頭を下げてくれと求める。理不尽に思いますが、ティアは養祖父の苦しみを慮り、仕方なく謝ろうとします。が、それをリグレットが「自分にやましいことがないのなら、堂々としていればいいでしょう。やってもいないことを、やったというのは無意味よ」と止めます。彼女に従ったものの、ティアは養祖父の立場を考えて不安で仕方がない。嘘でも私が謝った方がいいのかな……。ところが、リグレットが密かに動いて真犯人を捕らえてくれていたのです。ティアはリグレットのもとへ走って感謝します。

ティア「教官! あの……お祖父様から話を聞いたんですけど……。教官が、共有家畜庫を襲った犯人を見つけてくれたんですね。何でも私と同じ、士官候補生だったとか……」
リグレット「…………」
#笑うティア
ティア「教官……私のために、ありがとうございました」
#冷たい目のリグレット
リグレット「……いいたいことはそれだけ?」
ティア「え? あ、はい。そうですが……」
リグレット「私はダアトの士官学校でも教官を務めているわ。士官候補生は、いうなれば私の部下のようなもの。私は部下の不始末の責任を、取っただけに過ぎないわ」
ティア「教官……」
リグレット「あなたはあの件とは無関係でしょう? 礼を言われる筋合いはないはずよ」
#しょげるティア
ティア「そ、そうですか……」
#黙りこむリグレット
リグレット「……ティア」
ティア「はい?」
リグレット「あなたが特別扱いを受けているのは事実よ。でも、それをどう活かすかは、あくまでもあなた自身の問題。そのことを、忘れないようにね」
ティア「……!」
#ハッとし、嬉しそうに笑うティア
ティア「は、はい!」
このとき教官は、自分の責任を果たしただけだといった。しかしこの一件は、私にとって、極めて大きな影響を及ぼす出来事となった。
『この人は私を信用してくれた。最後までかばってくれた』
他人に対してそんな気持ちを抱いたのは、生まれて初めてだったからだ。
嬉しかった……のだと思う。
しかも彼女は、自分のしたことを恩に着せたりしなかった。そればかりか、さりげない言葉で微妙な立場にある私をいたわってくれた。特別扱いを受けていることに対して私が複雑な思いを抱いていることも、お見通しだったのだ。
そんな彼女の言動が、私にはとても洗練されたものとして映った。
『自分もこの人のようになりたい』
訓練の初日、彼女に対して感じた戸惑いは、いまやはっきりとした目標、理想の姿となった。
私は彼女の指導を受けることに、自分の中で答えを出したのだった。

 さて。初めてユリアシティへ行った時の、ルークに対するティアの態度を思い返してください。殆ど、今回のリグレットのもの そのままですよね。

 ホントはルークの世話のためもあったと思うんですが、いざ、ルークに「俺のためにシティに残っててくれたのか」みたいに訊ねられると、冷たく「自分のすべきことを祖父に相談しようとしていただけ」と跳ね除ける。でもそれでルークがしょんぼりすると後悔して、ちょっとだけ優しい励ましの声を掛けちゃう。

 ティアは本当に、リグレットの行動パターンそのままを真似ていたんだなーと分かってニヤッとしました。



 人にお礼を言われても「感謝されることじゃない、そんなつもりじゃない」と跳ね除け、他人を気遣う時は恩を着せないように影で骨を折って遠まわし。ティアはその態度を、ストイックでさりげなくて洗練されている、素敵だ、こんな人になりたいと思ったようです。でも実は、不器用で頑ななだけなんじゃないかという気がしますが…。損するよね、こういう生き方の人は。誤解され易いですし。(実際、長髪時のルークは全然分かってなくて、ティアをただの冷血女だと思っていた。)とことん茨の道に踏み込む子だなぁ、ティアは。

 本編では、リグレットはティアに宛てた遺書の中で「私はあなたが私を何の疑いも無く理想化していることに不安を感じていた。私はただの人間だ。あなたは私の後を追うのではなく、あなたの理想を追いなさい。」と書き遺しています。



 リグレットとの訓練は半年ほど続き、翌年のND2017、ティアは実地訓練のため念願のダアトの士官学校に入ります。そこで実地訓練総括役の教官だったのが、リグレットと同じく神託の盾騎士団師団長のカンタビレでした。


 第二の不満は、カンタビレの存在です。

 カンタビレは、本編中では神託の盾騎士団の組織図の中にのみ見られる、恐らく組織の数合わせのため名前だけ設定された人物で、物語には全く登場しませんし、噂にのぼることすらありません。ゲームから三ヶ月後に発売されたファミ通攻略本に「強固な導師派であるため ヴァンやモースに反発したため、疎まれてつねに地方に派遣されている。」と、ちょっとギャグのような、身も蓋も無い解説が書かれているだけです。男なのか女なのかさえ分かりませんでした。

 それが、この外伝で登場。隻眼で刀を装備した、いかにも叩き上げの軍人的な性格の女将校でした。

 登場するなり、彼女はこう言います。

「近ごろは教団も世知辛くてね。やれ誰が導師派だの、大詠師派だの、そんな話ばっかりだ。ま、かくいうあたしも、導師派ってことになってるらしいけど。あんたたちにあらかじめ断っておくが、そんなのは、一切関係ないからね」

 ……そ、そうですか……。なんかイキナリ、攻略本情報を(完全にじゃないですが)否定されたよーな……。「導師派ってことになってるらしい」って。「強固な導師派」って感じじゃないですね。攻略本に載ってたのは、どうせ今後カンタビレが出ることなんてないからとテキトーに作られた設定で、シナリオ作製側が、それにちょっと意趣返ししてるのだろーかと思いました。



 カンタビレは、ティアが外の世界に出て初めて出会った、「理不尽な他人」です。実力主義を謳い、能力の高い者は派閥に関わらずどんどん取り立てると豪語する彼女の言葉に最初は高揚し、自分の実力ならば望みどおり兄の下の部署ですぐに働けるかもしれないと期待しますが、彼女は何かと理屈をつけてティアを高く評価しません。それに苛立ったティアは彼女に強く反発しますが、カンタビレもティアにいい顔をしないのです。

 彼女はヴァンやリグレットとは折り合いが悪く、ヴァンの妹でリグレットの特別指導を受けたティアを色眼鏡で見ていたのでした。無論、彼女なりに真摯に指導している部分もあるのですが、真面目で仕事上では公平にしようとするリグレットとは違い、総長の妹だけあって生意気だと怒鳴りつけ、リグレットの特別指導を受けたことに関して嫌味を言い、わざと正解とは違う指導をして惑わすなど理不尽なことも多々する。彼女のそういう面を生真面目なティアは理解できず、正面から何度も噛み付きます。

カンタビレ「あんた、自分が総長の妹だってことを、鼻にかけてないかい?」
ティア「……そんなつもりはありません」
カンタビレ「……。これは前から一度、聞こうと思っていたんだが……」
ティア「?」
カンタビレ「あんた、なんで神託の盾に入りたいんだい?」
ティア「それは……」
カンタビレ「総長の血縁者だったら、すぐに偉くなれるとでもふんだのかい?」
ティア「そんなこと、考えたこともありません! 私はただ……兄のそばで、働きたいと思っただけです」
カンタビレ「……ぷっ。あはははは! こいつはいい! 総長閣下はかわいい妹をお持ちだね! 『兄のそばで働きたい』か。なんとも傑作だ! あはははははは!」
#ムッとするティア
ティア「…………」
カンタビレ「なるほどねえ……そうかいそうかい」
#カンタビレ、笑みを消す
カンタビレ「今まであんたを見ていて、中途半端だと感じた理由が、ようやくわかったよ」
#驚くティア
ティア「私が……中途半端……ですか……?」
カンタビレ「そうさ」
ティア「教官のお言葉とはいえ、捨て置けません。私のどこが中途半端なんですか?」
(中略)
カンタビレ「……。あんたには技術がある。兵士としての心構えもわかってる。そういう意味じゃ、優秀は優秀だよ。リグレットの指導は確かだったってことだ。だけどねえ……あんた自身の覚悟が、なっちゃいないのさ」
ティア「覚悟……?」
カンタビレ「そうさ。あんたの場合、何をやらせても、常にどこかに甘さが残ってるんだよ。それが抜けない限り、あたしがあんたを高く評価することはないね」
ティア「そんな……」
カンタビレ「……。ティア、悪いことはいわない。総長に思い入れを持つのは、やめな」
#カチンとくるティア
ティア「どういう意味ですか?」
カンタビレ「言葉通りの意味さ。あの男は、あんたの理解できる域を超えている。あんたがいくらあがこうと、近づくことはできないよ。自分の無力さを思い知らされるだけだ」
ティア「そんな……」
(中略)
ティア「…………」
カンタビレ「あたしがこんなことをいっても、聞く耳は持たないか?」
ティア「そんなことは……」
カンタビレ「仕方ない。ちょっと待ってな」
#カンタビレ席を外し、地図を持ってくる
カンタビレ「この地図に書かれた場所へ、行ってみるといい」
ティア「ここは……?」
カンタビレ「そこに行けば、あの男に会えるよ」
ティア「カンタビレ教官!?」
カンタビレ「その気があるなら、自分の目で確かめな。そうでもしない限り、あんたも納得なんかできないだろう」
ティア「…………」
カンタビレ教官は決して善意だけで、私に兄の居場所を教えてくれたわけではない。今の私ならそれがはっきりとわかるが、このときはそこまで考えが及ばなかった。兄に会えるかもしれないという期待で、頭の中がいっぱいになってしまったのだ。

 疑問なのですが、この語り口だと、カンタビレはヴァンが何をやろうとしていたか知っていて、それを諫めようとしたこともあったけど徒労に終わったってことになっちゃいますが……。

 ともあれ、カンタビレにもらった地図の場所は実験場で、そこでヴァンが悪役ぽいセリフを吐きながら擬似超振動の実験をしている様子をティアは見てしまいます。無防備だったようなのに、どうして誰にも咎められずにそこまで入れたのか疑問です。その場で「どういうつもりなの」と詰め寄りましたが、前導師の指示で平和利用のために実験していると誤魔化されてしまうのでした。


 不安に苛まされたティアは、遠くへ行こうとする兄を刺す悪夢ばかりを見るようになり、情緒不安のために実地訓練の成績が落ちてしまいます。悩んだティアは訓練を抜け出してユリアシティにこっそりと帰りました。兄との関わりの原点であるセレニアの中庭に行けば、心の整理がつけられるかもしれないと思ったのです。

 ところがそこで、ヴァンが後から帰省してきたことを養祖父に知らされます。もしかしたら兄は自分を元気付けるために来てくれたのかもしれない。話せば不安はなくなる。そう期待したティアは、ヴァンがいるというセレニアの中庭へ走り、そこでヴァンとリグレットが外殻大地の住人を消す計画について話しているのを聞いてしまいます。

 このシーンは、本編でも見られるものです。この外伝ではそれに直接繋げて新しいエピソードが語られ、それがクライマックスになっています。

 ティアはその場で二人に詰め寄りましたが、リグレットは「閣下のなさることに間違いはない。私はただ、命令に従うのみ」と言って立ち去り、ヴァンは「私を止めたいと思うなら、止めてみるがいい。だがそのためには、私を討たなければならんぞ。おまえにそれができるか、ティア?」と、ティアに自分の剣を渡します。

ヴァン「その剣を取れ、ティア」
ティア「え……?」
ヴァン「取れ!」
ティア「…………!」
#剣を取るティア
ヴァン「さあ、やってみろ。おまえに本当に、私を止める覚悟があるのなら」
ティア(覚悟……!?)
ヴァン「それを私に見せてみろ。おまえが手にしたその剣で」
ティア(できない……)
ヴァン「どうした、メシュティアリカ」
ティア(できないよ……)
ヴァン「さあ!」
ティア「できるわけないじゃない、そんなこと!」
ヴァン「…………」
ティア「…………」
#すすり泣くティア
ヴァン「…………」
ティア「…………」
#ティアの側に近付いて優しく語りかけるヴァン
ヴァン「……どうした、ティア。泣いているだけではわからないぞ。いいたいことがあるのだろう? ちゃんと話してみるんだ」
ティア「…………」
#泣きじゃくっているティア
ヴァン「ティア、おまえは考えすぎなのだ。もう少し気持ちが落ち着いたら、また話そう。本当はゆっくり話を聞いてやりたいが、今はあいにく、やることがたくさんある。すまないな。だが、私はけっして人類を消滅させたいと願っているわけではない。これだけはわかってくれ。ではな」
#立ち去ろうとするヴァン。その背中を見て叫ぶティア
ティア「……待って、兄さん! 兄さん、行かないで!」
ティア(この光景は……)
ティア「二度と戻ってこられなくなるわ!」
ティア(何度も夢で見た……)
ティア「お願い、行かないで!」
ティア(そうでないと……)
ティア「そうでないと私は……!」
#自分のナイフを取り出して構えるティア
ティア「だめ、兄さん!」
ヴァン「む……?」
#ティア、振り向いたヴァンの腹部を刺す
ヴァン「ティア……」
ティア「ああ……あああ……!」
#腹部を押さえてうずくまり、苦しげなヴァン
ヴァン「…………」
#泣きじゃくるティア
ティア「ごめんなさい……ごめんなさい……! ごめんなさい……兄さん……! 私、どうしてこんなこと……。ごめんなさい……! すぐに治すから……!」
ヴァン「ティア……」
ティア「……!」
ヴァン「誰がおまえを……そんなに悲しませるんだ?」
ティア「え……?」
ヴァン「任せておけ……すぐに私が、おまえをあらゆる悲しみから解放してやる。いや……おまえだけではない。全ての人類を、だ」
ティア「兄さん……」
ヴァン「そうとも……私はやらねばならん。やらねばならんのだ……!」
兄は私のことを、まったく見ていなかった。こちらに顔を向けていたにも拘わらず、まるで視界に入っていないかのようだった。そう、まるで……。
#黙って立ち去るヴァン
去り行く兄を、見つめるだけだった。
どうしてこうなってしまったのだろう。
私はただ、呆然とするのみだった。
ティア(どうして……)
ティア(どうして……)
ティア(どうして……!)
ティア「……っ……!」
#うずくまって頭を抱え、声無き叫びをあげるティア
ティア「…………。
……………………。
………………………………。
…………………………………………!」

 えーとアレですね。ティアが苦手な方の感想など読むと、ティアが兄の計画をろくに知らないまま、怪しいと思っただけで即殺そうとしていて変、と書かれてること結構あるんですが、それをフォローしているように感じました。決定的な情報が既にあって、ヴァンはあからさまに狂人で、その上でヴァンの方から「私を止めたいと思うなら、止めてみるがいい。だがそのためには、私を討たなければならんぞ」と誘ったと。(素直だなティア)

 ここでヴァンがカンタビレも言っていた「覚悟」を口にします。つまり、それがこの話のテーマなんですね。本編中のティアは、ルークに対して何度も「やるべきことをやりぬくための覚悟」みたいなことを口にしたり体現したりしてますが、それは本編開始直前のこの事件で、やっと培われたものでした……ってことで。


 でも、私としては、本編中のティアは兄に対してもリグレットに対しても、かなり後半まで迷って揺れまくっているので、本編開始前の段階で「覚悟がしっかり定まりました」みたいにあまり語ってほしくなかったし、なにより、ヴァンを「ティアを見ずに辻褄の合わないことを話す」分かり易い狂人として描いてほしくなかったです。

 ヴァンが人間としての大切な根本の部分で歪んでいる、一種狂っている、レプリカ世界を作った後でティアやガイと共に安らかに死ぬ(あらゆる悲しみから解放される)つもりだったことは、既にメインシナリオライターさんがインタビューで明言していましたし、それはいいんですが、なんかこう……微妙なさじ加減なのですが。

 ヴァンにも、狂人のたわごとと看過できない正義が、理屈があったこと。大勢の人間を魅了しただけの理想があったことを、もっと明確に語って欲しかったのです。これではヴァンが酷く矮小に見えます。誰が正義ともいえない、それぞれの勢力にそれぞれの正義が…「信念」がある。それが『アビス』のテーマの一つだったと思っていて、私はそれをかなり気に入っていましたので、ヴァンをただの「奇妙なことを言ってる頭のおかしい奴」にしてほしくなかった。ティアに、「兄は狂ってるんだと理解」してほしくなかった。これが、この外伝への最大の不満です。


 もっとも、この物語は本編へ直接繋がっているわけで、私の感じた不満は本編で消化されるだけのものかもしれません。

 本編では、ティアは最初は兄が理解できず、追い詰められた獣のようになって闇雲に立ち向かっていました。しかしルークの成長する姿を見たり仲間たちと接するうちに視野が広くなっていき、最終決戦前には「私たちは兄さんのやろうとしていることを理解し、その上で、認めてはいけないと思っている」と明言します。五歳の頃も十五歳の頃も「分からない」としか思えなかったティアも、最後の戦いに挑む時には、兄の悲しみや苦しみ、憎しみを理解できたのでしょう。兄がただの狂人ではないと知って、その上で自分の信念とは違うことを示して戦ったのだと思っています。

 そう思えば、この外伝はこれでいいのでしょう。



 そうは思うものの、感情的にスッキリしないことは確かです。ティアの言動が本編と比較して幼稚に見える点も大きいです。(ついでに言えば、声優さんの声がキンキンして癇に障ったりもします。)外伝のラスト、本編開始直前でもこう。なのに、本編ではアレだけ偉そうに、人格者ぶってルークに説教していたのかと。軍人養成機関にいながら、ヴァンに依存して、周囲に散々「覚悟が足りない」と言われていた。そんなティアが、殆ど直後の本編ではヴァンに依存し人殺しに怯える民間人のルークに、キツい口調で自立や覚悟を説いていたのか。

 まあ、つい最近自分が通った道だからこそ、ルークのヴァンへの傾倒や覚悟の甘さが癇に障って仕方なかったんだろうなと理解できますが…その後ちゃんと謝ってたし。でも感情的にはムカムカッとするなぁ〜。見ていて可愛げが少ないですし。

 いやうん、ティアはやっぱり発展途上の人なんだなというのはよく分かりました。



 兄を刺した事件の後、ティアはダアトへ戻り、カンタビレに大詠師直属に推薦してくれと頼みます。カンタビレの嫌味にももはや反応せず、淡々と、強く交渉します。

カンタビレ「大詠師直属だ? 大きく出たね。理由を聞かせてもらおうか」
ティア「果たさなければならない使命があるからです」
カンタビレ「使命……」
ティア「お願いします、教官。私にはどうしても、教官のお力添えが必要なんです」
カンタビレ「…………。……ふん、少し見ないうちに、いい目をするようになったじゃないか。どうやら覚悟を決めたようだね」
ティア「…………」
カンタビレ「よーし、いいだろう。あたしに任せておきな! あんたの願い、かなえてやるよ。あの親父はあたしを煙たがって、どこかへ飛ばそうとしているからね。言う事を聞いてやる交換条件にでもするさ。無言で従うだけじゃ、面白くないからね」
ティア「……ありがとうございます、教官」
……ユリアシティから戻った私は、ある計画を実行する決意を固めた。そのためにはどうしても、大詠師モースの下に行く必要があった。
彼女がいなければ、今私が、ここにこうしていることもなかっただろう。そういった意味では、恩人ということになるのかもしれない。
カンタビレ教官がなぜ私の願いをかなえてくれたのか、正確なところはわからない。その理由を問うこともないまま、彼女は遠方の守備隊に転属となったからだ。
もし私が普通の士官候補生だったら、私たちは違った関係になれたのだろうか? ……お互いを理解しあえるような。
……よそう。もう考えても仕方のないことだ。
……その後、実地訓練を終えた私は、大詠師モース直属の情報部将校となった。無論、カンタビレ教官の強力な推薦を受けてのことだ。
それから半年がたった、ある日。私は大詠師から、ひとつの任務を授かった。それこそが、私の抱いていた計画を実現する、唯一無二の機会だった。
#ユリアロードの転送室に立つティア
私は間もなく、ここから旅立つ。
見慣れたこの場所へ戻ることは、二度とないかもしれない。
私にとって、これが生涯最後の旅立ちとなるかもしれない。
それでもいい。もはやためらいはない。自分のやるべきことに何の迷いもない。
私はこれから、ひとりの男を討ちに行く。
ヴァンデスデルカ・ムスト・フェンデ。
神託の盾騎士団主席総長。
そして……私のたった一人の兄。
私はこれから、私の兄を討ちに行く。
それが私の使命。命に代えても果たすべき、私の責務……。

「さあ……いよいよだわ」
#ティア、ユリアロードの譜陣の光に包まれる
「……行きます」

…To be continued 'TALES OF THE ABYSS'

 こうして本編へ繋がるのでしたー、という流れは音楽も合っていてカッコよかったのですが、とても気になったことがあって気が散っていました。

 あの。ヴァンを討つためにどうして大詠師の部下にならなきゃならないんですか? さっぱり分からないのですが。説明されないし。

 確かに本編でもティアは「私は兄さんを止めるために……外殻での任務を引き受けたんだから」と言っています。でもそれは、ユリアシティから自由に出られなかったティアが、第七譜石探索の任務を利用して外殻にいる兄のもとへ向かったんだと思ってたんですが…。

 この外伝のティアは、既に自由にダアトとユリアシティを行き来している。ヴァンはダアトやユリアシティに現れる。カンタビレの協力があれば居場所を知ることも出来るでしょう。無理に情報部に所属しなければならない必要は全くないと思うのですが、なのに、何故「どうしても」モース配下にならなければならず、それが「唯一無二の」機会なのか?

 そもそもヴァンは世間一般的に大詠師派だと言われていました。なのにわざわざ大詠師モース配下にならなきゃならないのですか? ヴァンとモースが結託して監視されたら終わりじゃないですか。それに、導師派とされるカンタビレに大詠師モース配下にしてくれと頼むってどんな状況。(カンタビレ配下になった方が色々と確実だったんじゃないですか?)

 ついでに。本編ではティアはモースを宗教の師としてとても慕っている。なのに外伝では全くそれに触れられていませんし、ティアに大きな影響を与えたと本編ではっきり語られている人物なのに、この外伝にモースが登場しない(ティアが彼への評価を全く語らない)のが、そもそも謎。「モース様は兄さんと違って本当に世界平和を望んでいるんだわ」などと傾倒するエピソードが入っていたなら、モース配下を望むのも分かるんですが。



 ティア編のシナリオでは過去話はこれで終了ですが、最後のシナリオ「テイルズ オブ 異聞録」のエンディングに関連エピソード(真のエピローグ?)が出てきます。

ティア「カンタビレ教官。遠方の守備隊へ転属されるという話、本当なんですか?」
カンタビレ「本当さ。まあ遅かれ早かれ、こうなるだろうと思ってたけどね」
ティア「まさか、私のせいで……?」
カンタビレ「関係ないよ。そんなことよりティア」
ティア「はい?」
カンタビレ「せっかくあんたの頼みを聞いて、大詠師の下にねじ込んでやったんだ。あたしを失望させるんじゃないよ。あんたの覚悟がどんな結果を生み出すのか、楽しみにさせてもらうからね」
ティア「……はい。わかりました」

ティア(……結局私は、今に至っても、結果を出していない)
ティア(カンタビレ教官はこんな私を……どう思っているだろうか)

まさか、私のせいで……?」ってアンタ。頼んだ時にカンタビレ自身が「あの親父はあたしを煙たがって、どこかへ飛ばそうとしているからね。言う事を聞いてやる交換条件にでもするさ」と言ってるじゃん。なんなんですかこのズレは。せめて同じゲームの中でくらい辻褄はキッチリ合わせてくださいよ…。

 それにカンタビレ。「あたしを失望させるんじゃないよ。あんたの覚悟がどんな結果を生み出すのか、楽しみにさせてもらうからね」って……。

 一見して心温まる恩師からの言葉のようなんですが。カンタビレって、ヴァンが危険な人間だと知っていて、ティアをヴァンから離そうとしてたでしょう。カンタビレの指示でティアはヴァンに会いに行き、その後様子がおかしくなって、やがて据わった目でやってきて「果たさなければならない使命があるからです」。ティアが何をしようとしているのか分かりそうなものですが、「楽しみにさせてもらうからね」ですか。

 私は、ものすごく無責任だと思いました。カンタビレがどの程度ヴァンの異常性に気付いていたかは分からないんですが、それほど深く気付いてなかったんならティアに忠告するのは大きなお世話ですし、深く気付いていたなら、世界の存亡(もしくは国家間の陰謀)に関わる事なのに、たった十四、五歳の少女に全て丸投げして、兄に傾倒していた時には「覚悟が足りない」、兄を討つ決意をすると「覚悟を決めたようだね」と言って、その後の騒動には全く関与しないって、あんまりです。

 これは結局、カンタビレが本来物語の中にはいなかったキャラで、なのに無理に大きな役を与えた結果、生じた歪みなのだと思うのですが。ティアには偉そうに覚悟を問いながら、自分は世界の危機にも教団の危機にも何もしない。噂すら聞こえない。自ら左遷されて姿を消し、ティアの恩人扱い。気分がよくありません。


 そもそも、カンタビレはこの物語に必要な人物なのか、という疑問があります。商業的には、「話題の新キャラ」として必要はあったでしょうが、彼女が出張ったことは、物語的にはあまりよくなかったと思います。何故なら「女軍人でティアの教官」という点でリグレットとかぶっており、最終的に「カンタビレこそ真の恩師だった」というニュアンスで終わってしまうので。(ティアの称号「カンタビレの弟子」の説明文には「あの時のこと、今でも感謝しています。私の覚悟、見ていてください。」と書いてある。)おかげで、リグレットの印象がとても薄くなってしまうからです。

 リグレットに関しては、物語中盤で「私はあるいは……彼女の手にかかって、果てることになるかもしれない。仕方のないことだ。たとえそうなっても、私は彼女を恨んだりしない。私の中の、彼女に対する恩義の気持ちにも変わりはない。だから今、ここで礼を述べておこうと思う。ありがとうございました、教官。」と言わせてるんですが、終盤でリグレットに失望した様子が描かれ、結末ではカンタビレのことばかりでリグレットのことは全く語らない。彼女の印象がカンタビレにかき消されてしまいます。

 本編に出てこないキャラとティアの絆なんてどうでもいいです。ティアとリグレットの因縁を強く感じさせるようにしてほしかった。



 それにやはり、完全な第三者・傍観者のカンタビレが「兄を殺す覚悟を決める」ことを「正しいこと」としてティアに強いるような形になってしまっていて、よくないと思います。カンタビレ自身がヴァンを止めようと全力を尽くして今後戦闘が出来なくなるようなダメージを負っていたり、ヴァンに左遷された後で生死不明になったなどならともかく。彼女に課せられた「遠方の守備隊に転属」というペナルティは、兄殺しや世界の存亡をかけた戦いに比べれば軽くしか見えません。



 最後に、細かいツッコミを幾つか。

  • 冒頭、セレニアによく似た花を見つけたとき、ルークが「この花って、確か……。師匠せんせいがユリアシティで育ててた花だよな?」と言い、ティアも肯定します。確かに裏設定では、セレニアの花をティアのために中庭に最初に植えたのはヴァンらしいんですが、ルークはそのことを知らないはずですし、現在育てているのはティアですよね?
  • ヴァンが五歳ティアに「僕たちの故郷、ホドが消滅したのは、預言スコアと、超振動のせいだ」「今の人類は預言に囚われすぎている。預言がなければ何ひとつ出来もしない、そんな生き様に何の意味があると言うんだ? 人類は預言から解放されるべきなんだ。こんな状態を続けるのは間違ってる」と語りますし、十四歳ティアは擬似超振動実験をしていたヴァンに「外殻大地全体に影響を及ぼすとか、いってるのが聞こえたけれど……。本当に、平和利用のための実験なのね? ホドの時と同じようなことをするわけじゃないのね?」と問いますが、本編開始時点でティアはホドが超振動で崩落した(マルクト軍の仕業だった)ことも、ヴァンやリグレットの望みが預言からの解放であったことも知らなかったはずでは。また、それが預言に詠まれていたことは知っていても、預言成就のため教団が意図的にホドを見捨てた(崩落は預言のせいだった)ことは教えられていなかったはず。
    それに、「許さないのは、預言を成就するために使われた、忌まわしい超振動も一緒だ」ともヴァンが言ってますが、これだと、マルクト側が秘預言を知っていて、預言に合わせるためにホドを崩落させたみたいに取れちゃいますが、マルクトは自国が滅ぶ系統の秘預言は知らされていなかったのでは。(崩落は、フォミクリー実験のデータ隠滅のために起こした擬似超振動により偶然起こった。)
    本編でやっと明らかにされる類の情報が全開になっていておかしいです。
  • 擬似超振動実験を一年前の段階で完全な超振動の威力七割まで進めていたなら、どうして本編で全くそれを使っていないのか?
  • 本編では、ヴァンとリグレットのセレニアの中庭での密談の状況は「私が外殻大地へ行く前だったわ。兄さんが珍しくこの街へ帰ってきたことがあったの」と説明されています。普通に読み取れば、ティアはずっとユリアシティにいて、そこにヴァンが帰省してきたように思えるのですが。
    今回の外伝では「ダアトにいたティアがこっそり帰省したら直後にヴァンも偶然帰省してきた」となっています。本編での説明に何とか辻褄合わせはしているものの、少し不自然ではないかと感じます。
    カンタビレとの交流を話の中心に据えたためティアがずっとダアトにいることになり、シチュエーションが歪んだのではないかと邪推してしまいます。
  • 本編には二年前のティアとリグレットの訓練の様子が出てきますが、その時の髪型や服装と、今回の外伝のティアのそれが全く違います。どうして違うデザインにしたのでしょうか。
  • 本編開始半年前までは「十四歳ティア」の絵を使っており、本編開始直前になると現在のティアの絵に切り替わるので、半年間で突然ティアの胸が大増量、顔が老けたように見えます。贅沢を言えばあともう一種、「ティア十五歳」の絵がほしかったかも。

 そして最後に一つ。とても気になっていたことを言わせて下さい。一体何が「遺言」なんですか?

 ……もしかしてこの話全体がティアの「これからの戦いで私は死ぬかも」という遺言だとか言うつもりなのかなぁ…。そうだとしたら、プレイヤーはみんなティアが生き残ることを知ってますので、色々間が抜けていますが。(話自体、『決戦直前のティアが過去を回想する』形になっているため、「ティアが死を覚悟してユリアシティを出発した」ことを強調されても、「遺言」と言うタイトルはピンとこない。)




 長くなったので、残り二本のシナリオの感想は次ページに続きます。

 



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