注意!

 

前ページへ


>>批判的な感想・あらすじを消す
>>全て読む

※クッキー可なら前ページで選んだ設定が適用されています。

 

第6話

死神と死霊使いネクロマンサー――
近いようで遠い二人。
注:ディストとジェイドの扉絵

 駆けつけたルークたちが見たものは、自律式譜業兵器カイザーディストβで逃げ惑う市民たちを攻撃しているディストの姿だった。市民の一人から見覚えのある書類袋を奪い、これさえ手に入ればあなたたちに用はないと高笑いしている。
 そう、それはネフリーから奪い取られたディストの遺品、《ネビリムのレプリカ情報》だった。欲しいのは「ネビリム先生に欠けている音素フォニム」の情報だと嗤い、逃げ去るディスト。足止めとして残されたカイザーディストβを、ルークたちは打ち倒した。

 ディストの遺品を奪った覆面の賊たちの正体は、ユリアシティに属する一部の若者であった。彼らは新生ローレライ教団に武力で立ち向かおうとする神託の盾オラクル騎士団の一派であり、惑星譜術を復活させるためにネビリムのレプリカを捜していたと言う。
 オリジナルのネビリムは、惑星譜術の情報を己の体内に封印していた。よって、レプリカにもそれが封じられているはずだと。そしてディストは、《ネビリムのレプリカ情報》と引き換えに《レプリカネビリム》の居場所を教えると持ちかけてきて、いざとなると《情報》を奪ったうえに無関係の市民まで襲ったのだった。

 居場所を教える? レプリカネビリムは既に存在していると言うのか? 疑問を口にした仲間たちに向かい、ジェイドはようやく打ち明けた。幼い自分がネビリムを事故死させ、その罪を認めたくないあまりにレプリカを作ってしまったことを。

 行方不明になっていたそのレプリカを、恐らくディストは見つけたのだ。
 しかし、既にレプリカがいるなら、どうしてレプリカ情報が必要なのか?

 その疑問に至った時、ジェイドが顔色を変えた。彼は声高にレムの塔周辺の海流や気象のデータを要求し、塔から落ちたディストの流れ着き得る地点の特定を始める。一刻も早くディストを止めねば、この世界に制御不能の怪物を解き放つことになると。

 ジェイドは更に打ち明けた。幼い自分が作った最初のレプリカネビリム。彼女は精神に異常をきたし肥大した戦闘能力を持った怪物だったと。

 ディストは恐らく、手に入れたレプリカ情報を元に、《最初のレプリカネビリム》の先天的に欠けた音素フォニムを補充しようとしている。だが、補充すれば精神の異常が改善されるわけではないのだ。

 解析の結果、ディストが流れ着いたのだろう場所はシルバーナ大陸――ケテルブルクやロニール雪山のある、ジェイド達の故郷だと判明する。

※複雑な想いを胸に、一路北へ――!!

 物語も終盤。風呂敷畳みが始まって、ディストの遺品を奪った賊の正体や目的などが明かされます。

 が。正直言いますと、あまり感心はしなかったです。ごちゃごちゃしていて解り難く、取って付けたような設定を重ねて理屈を通してあり、いまひとつ説得力に弱い。おまけにジェイドの《推測》が、やや飛躍的です。読者としては、今の地面も確かめられていないまま、無理矢理 終幕方向に引きずられている感じです。


★チェックポイント24〜カイザーディストβ

 なんと、漫画オリジナルバージョンのカイザーディストが登場! そして戦う!

 近年、角川系の少女誌でロボットアニメがコミカライズされると、ロボットが登場しないよう設定自体が変更されてたりしたので、ちゃんとメカが活躍していてすごく感心したのでした。

 見た感じ、カイザーディストXX(レムの塔で爆破された奴)の簡易改修版? プロペラがなくなって、ボディの側面に鉄板をビス打ち、中央の開閉部をU字ビスで止めてありました。あと、完全自律式で、ディストが側にいなくても戦ってました。すぐに壊されちゃいましたが。

 ディスト自身「足止めしておきなさい」と言ってましたから、ルークたちを倒せるほどの戦闘力があると考えてなかったってことですかね。


★チェックポイント25〜惑星譜術でヴァンを倒すのは「研究の悪用」なの?

 新生ローレライ教団に惑星譜術で武力制裁を加えようとした神託の盾オラクル騎士団の一部を逮捕した。そうテオドーロから聞いて、今一つ釈然としませんでした。

 何故って、障気中和前の会議でローレライ教団含む全世界が三国同盟を結び、新生ローレライ教団への武力制裁を行おうとしているところだからです。

 多分、「独断で」加えようとした点が悪いのでしょうが……。世界が消えるかどうかの瀬戸際で、「武力制裁の仕方」で揉めるとは。もしや、この後のエルドラント突入の際、連合軍に神託の盾騎士団がいなかったのは、内部でもめていたからなんでしょうか? 人間って悲しいですね。

 

 もう一つ。《惑星譜術を用いて新生ローレライ教団を倒す》ことを、「悪用」として頭から一刀両断していたのも、ちょっと疑問に思いました。

 何故って、原作ではルークたち自身が、ヴァンに対抗する力にするため惑星譜術を探し求めるという展開だったからです。ジェイドはレプリカネビリムを惑星譜術で倒します。エルドラント戦で使うことはありませんでしたが、それは威力が想定より落ちていたためで、譜術そのものが禁忌だという結論ではなかった。

 多分、惑星譜術は暴走する不完全な術だからダメ、と言うのがこの漫画での筋なんでしょうが……。原作を知っているとピンときづらいです。強硬派に「あれは暴走する危険な術だぞ、使いこなせるはずがない」などと叱りつけるような場面があったら、まだ納得し易かったのにな、と思いました。

 

 あと、これは妄想。

 暴走の危険があるとはいえ、惑星譜術が強力無比であることは間違いがない。そして今は世界消滅の瀬戸際です。最初から駄目出しするのではなく、試してみる価値はあったんじゃないのか?(罪のない一般市民が巻き込まれて死ぬ、みたいな暴走の仕方じゃないみたいなので。)

 それと。この力を使えば、ヴァンを倒す際のルークの負担が軽減されるかもしれない。もしかしたら消滅のリスクが僅かにでも減るかもしれない……。

 無論、戦いの後にローレライの解放が、そして大爆発ビッグ・バンが迫っているのですから、現実にはどうあってもルークは助からなかったんですけど。仲間の中で誰か一人くらいこういうこと考えたりしなかったのかな、後で後悔したりしなかったのかな、なんてちょっと考えました。


★チェックポイント26〜取ってつけた

 ネビリムは悪用されないよう体内に惑星譜術の情報を封印していた。だからレプリカネビリムを手に入れれば惑星譜術を手に入れられる。

 感じるところは人それぞれでしょうが、私はこの設定、取ってつけたようだと思いました。いきなり何言い出したの? と言う感じです。

 体内に封印……と言うのも意味が解りませんが、肉体に書類をコンタミネーションしたとか、そういう話なんでしょうか。いやいや、レプリカネビリムがスラスラ惑星譜術の譜を唱えてましたから、脳に書き込んだ系の意味? それにしたって、本物のネビリムはどうしてそんなことをしたのでしょう。悪用されたくないなら情報を完全消去すればいいのです。彼女はそうまでして、その情報を後世に残したかったのか。強い力は人を不幸にすることがあると思い知ったんじゃなかったのか。研究者の業ってやつ?

 

 そして。《惑星譜術のデータを持つレプリカネビリムを入手したいから、ネビリムのレプリカ情報と引き換えにレプリカネビリムの居場所を教えてもらう》という強硬派の動機も奇妙です。

 情報からはデータ抽出できないのでしょうか。或いは、自分たちでレプリカを作るという選択肢はなかったのでしょうか。なにしろ引き換えにレプリカネビリムを渡してもらえるならまだしも、居場所を教える、ですよ。こんな曖昧で不平等な交換条件アリですか?

 こんなことで賊としてルークとジェイドに命を奪われた強硬派の二人も、浮かばれないですよ。

 そもそも新生ローレライ教団に独断で武力制裁を行おうという高慢な人たちが、新生ローレライ教団の一員であるディストと、どうしてこんな馬鹿げているほど回りくどい取引を成立させているのか。エルドラントへの侵入方法なんかを訊いた方がいいんじゃないですか? ヴァンが怖いから惑星譜術がなきゃヤダヤダ、ってこと?

 

 ディストの行動も意味が解りません。死んだはずの自分が持ち物を取りには行けないから、強硬派と取引した。これはジェイドの推測ではありますが、だったらどうしてユリアシティに現れて派手に大暴れしてるんでしょうか。最初からダアトに行って自分で奪うのと何が違うんでしょうか。(神託の盾騎士団は現在弱体中。)

 そもそも《居場所を教える》という曖昧な取引条件だったんですから、嘘の情報を書いた地図一枚渡して立ち去ってれば揉めることもなかったんじゃ……。

 この辺は本当にすっきりしないです。

 うーん。凄く穿った考え方をすると、ジェイドをネビリム復活に立ち会わせるためにわざとユリアシティで暴れて導いた……って可能性もあるのかなあ。多分違うけど。(そこまでものを考えるキャラとして設定されてる節が見えないし、そういう意図ならディストがヒントを残していく、みたいな展開にすると思うので。)

 

 筋は通してあるんですが回りくどくて屁理屈臭い。構成をいじった弊害かと思いますが、もっとすっきりしてた方が読者としてはありがたかったです。


★チェックポイント27〜生物レプリカの誕生

 二十四年前のレプリカネビリム誕生・逃走の顛末が語られました。アニメ11話とはやや異なり、レプリカ製作時の台詞回しが原作寄りに戻っています。ただ、レプリカネビリムに瀕死の重傷を負わされた幼いジェイドが「ま、待てっ…」と言いつつ意識を失い回想が終わる辺りは、アニメドラマCDの描写に沿っています。

 一方、レプリカネビリム暴走のくだりは大幅に肉付けされ、原作やアニメなどの先行版とは、大筋は同じながら、また異なるものになっていました。

  • 先行版では、レプリカネビリムは獣のように兵士に掴みかかり殺したように描写されていたが、こちらでは無表情で譜術を用いている。また、無表情で直立したまま高速横移動してジェイドの攻撃を避けるなど、人間とは思えない動き方をする。
  • ジェイドに「消えろ 消えろ!! おまえはネビリム先生じゃない!! 僕が作った失敗作だ おまえは先生なんかじゃない!! 消えろ!!」と言われて《何故か》崩壊を起こしかける。
  • ジェイドを捕らえて殺しかけるが、《何故か》止めて手を放し、そのまま静かに立ち去った。(アニメドラマCDでは、ジェイドとサフィールに瀕死の怪我を負わせた後、猛り狂いながらどこかにさまよっていく。)

 誕生直後のレプリカネビリムの言動が、先行版とはかなり違います。知性がある感じで、ジェイドに対してのみ特別な反応をしている。ジェイドに愛されないことに崩壊しかけるほどのショックを受け、ジェイドだけは殺さずに容赦するのです。

 

 このレプリカネビリムには、どう考えてもオリジナルの記憶が継承されています。生まれながらにして譜を唱え譜術を使っているのですから。

 通常、レプリカは能力が劣化することが多い、肉体の元素が第七音素セブンスフォニムのみで繋がれている、オリジナルの記憶は継承されない(情報を刷り込まなければ歩き方も知らぬ赤ん坊状態)、とされます。けれど最初の生物レプリカたるレプリカネビリムは特別で、第一から第六までの音素で肉体が構成され、能力はオリジナルより強化、代わりに精神に異常があることになっています。

 ……ですが、《オリジナルの記憶は継承されない》点は同じだったのではなかったのでしょうか?

 レプリカネビリムにオリジナルの記憶が継承されているのなら、本編ジェイドの「私は、ネビリム先生に許しを請いたいんです。自分が楽になるために。でもレプリカに過去の記憶はない。許してくれようがない」と言う言葉が空々しいものになってしまいます。

 先行版の時点では空白部分が多く、だからこそ好きに脳内補完が出来ていましたが、この漫画で隙なく詰められてしまったので、逃げられなくなってしまいました。

 記憶が継承されていても完全じゃない、人格が違う、ということになるのでしょうか。それでも、「レプリカに過去の記憶はない」という台詞は不適切な感じです。《記憶》ではなく、オリジナルと同じ心・人格・魂……というようなものがない、とでも言わなければ辻褄が合わないような……。

 どうも、レプリカネビリムに関してのみ、『アビス』メインストーリーの設定からは乖離している。影響を指摘される『鋼の錬金術師』アニメ第一期の、《亡母を甦らせようと作ってしまったホムンクルス》に、かなり近いイメージに思えます。そちらも後に敵となって立ち塞がり、オリジナルの記憶を断片的に持っていましたっけ。

 

 んん……。レプリカネビリムはオリジナルより能力が高いという設定ですから、言葉も歩き方も周囲の人間を見てその場で学習したと考えれば……譜術も、マルクト兵やジェイドが使ったのを見て即座に習得した、とか。

 ……と考えてみたのですが、漫画を読みなおしてみると、誰より先に譜術を使ったのはレプリカネビリムだったでござるよ。んんん、駄目かぁ……。

 以下、《その場で学習》設定がもしもあったらこんな感じになったのかなという、つまらない妄想。

レプリカネビリム誕生→はしゃいだサフィール「ネビリム先生、分かる? 僕、サフィールだよ。ジェイドが先生を作ってくれたんだ」(子供たちと自分の名前、製作者が誰かを学習)→マルクト兵登場。レプリカネビリムを爆発火事の被害者だと思い、保護しようと触れる→レプリカネビリム獣のように襲いかかり、首を折って殺してしまう→幼ジェイド、興奮した様子のレプリカネビリムを譜術で攻撃。サフィールが止めるが、アレは先生じゃない失敗作だと否定→レプリカネビリム、ジェイドが唱える譜を唱え返しだす(譜術をその場で学習)→同じ譜術を放つが彼女の方が圧倒的に高威力→瀕死の幼ジェイドとサフィールを残し、傷ついたレプリカネビリムよろよろと逃げ去る


★チェックポイント28〜「ジェイドを責めないでくれ…!」

 ついに、自分がネビリムを死なせレプリカで替えようとした過去を、仲間たちに打ち明けたジェイド。誰もが暗い顔で黙りこみ、ガイが呟きます。

「――旦那にそんな過去があったとはね」「どうりでネビリムさんのレプリカ情報を捜したがらない訳だ」

 すると、ジェイドを庇うように立って、必死にルークが叫びました。

けど」「ジェイドはすごく後悔してる」「だから生物レプリカを禁忌にしたんだ」
ジェイドを責めないでくれ…!

 驚いた様子のジェイド。そしてガイは「バーカ」と微笑ってルークの頭を小突くと、こう言ったのでした。

ガイ「そんなことするかよ」「ジェイドが生物レプリカの復活を許そうとしなかったのは 俺たちもちゃんと見てるんだぜ」
#同意を得るように目線を背後のナタリア達に向ける
ナタリア「そうですわ」「大佐 つらい事件でしたのに話してくださってありがとうございます」
アニス「そうですよ〜」

 暖かい場面ですね。

 これ自体は原作にあるものの再構成なんですが、興味深いのがその後のジェイドの表情の演出。

#驚いた様子で押し黙っていたジェイド。やがてその口元が笑みに緩む
「―――いえ」
#笑んだ口元を片手のひらで覆い隠して、やや俯き
「責められて当然の過去ですから」「逆に心苦しいですよ」
#そんなジェイドを嬉しそうに見ているルーク

 仲間たちに責められるとばかり思って言い出せずにいたのに、笑顔でねぎらわれた。すんごく嬉しくて思わずニヤけた口元を、てのひらで覆い隠してクールぶっています。

 ツンデレどころじゃないですね、このおじさん(笑)。

 

 話変わって。この場面には、あまりいい意味でなく思うところもありました……。

 本作には、ジェイドはレプリカ問題から目を背けていたという描写があります。

 ネフリーを襲った賊の目的が《ネビリムのレプリカ情報》らしいと気づいても無視したり、あからさまに話をそらしたり、ジャスパーの話がレプリカ関連の過去に抵触しそうになると笑顔で威圧してやめさせたり。ルークに正面から要請されてやっと重い腰を上げ、それでも逃げ腰だったのでピオニーに「目を背けるなよ」と釘を刺される。そしてジャスパーが自分に代わってフォミクリ―資料の管理をしてくれていたことに、十三年間も気付いていませんでした。

 これらは原作にはなかった描写です。(ネビリム絡みの過去を秘密にするようルークを脅す描写はありましたが、ここまで問題から目を背けようとしている様子はなかった。)ところが、過去の罪を告白したジェイドをガイたちが「ジェイドは責任を果たしていたから悪くない」と認める場面は、原作そのまま。

「ジェイドが生物レプリカの復活を許そうとしなかったのは 俺たちもちゃんと見てるんだぜ」

 ……いやいやいや。本作での様子を見る限り、ジェイドは十三年間レプリカ問題から目を背けていたんでしょう? それを前提にするなら、リグレットやディストにフォミクリ―技術復活への怒りを見せたのも、フェレス島の施設を破壊したことさえ、責任感の表れではなく、見たくないものへの拒否反応だったとでも思うほかなくなります。少なくとも本作のジェイドは、この時点でこんな風に仲間から認められるようなことは、まだ成していないのではないですか。

 原作では「うんうんそうだよね、ジェイドは真剣に過去の罪に向き合ってきたんだから」と、ガイの言葉に同意していたのに、本作を読んでそう思えなくなってしまいました。流石に、十三年もジャスパーの行動に気づいていなかったなんて、フォローできないですよ。

 ジェイドがずっと問題から逃げていたとアレンジしたなら、ガイの台詞も合わせて変えてもらえたらよかったなあと思いました。「そんなことするかよ。ジェイドは今、過去に立ち向かおうとしてるんだろ」とか。今、変わろうとしているジェイドを仲間として応援するぞ、みたいな。ダメか。クサイですね。(^ ^;)


★今月の飄々ジェイド

 原作でもドラマCDでもアニメでも、ジェイドとディストの対決口上は軽妙なものでしたが、今回も例に洩れませんでした♪

#カイザーディストが暴れる街角に駆け付けたジェイド、ルーク、(キリッとした)ミュウ
ルークディスト!!」「生きていたのか!?」
#飛行椅子に座ったまま、見やって笑い
ディスト「これはこれは…」「奇遇ですねぇジェイド!」
ルーク無視かよ
ディスト「私が生きていることが そんなに驚きですか?」
ジェイド(シラッとして)驚いているように見えますか?」←ルーク、「また始まった(汗)」と呆れて見ている
ディスト(苦笑して頭痛をこらえるように額を押さえ)……」「いえ! さすがのあなたも動揺しているはずです」「死んだはずの親友が現れ」
ジェイド(遮って、満面の笑顔で槍をチラつかせ)ゴキブリに」「親友呼ばわりされる程 屈辱的なことはありませんね」
#ムキーとなるディスト。涙目で
ディスト「さっきからなんなのです!! 人がおとなしく聞いていれば ひどいことばかり」
ジェイド「どこが おとなしかったんですか」
#ルーク始め、周囲のユリアシティ市民も汗タラ状態で立ちすくんでいる

 実際ジェイド、動揺してたのにね。ディストが街を襲っていると聞いた時、誰よりも早く無言で駆けだしたのは彼でした。……そして誰よりも早く、駆けつけた時には既に槍を現出させて担いでたとゆー(笑)。ゴキブリが出たと聞くや新聞紙を丸めて駆けつけるオカンのよーです。

 メタ的には、次のガイに槍投げるシーンのためなんでしょうけども。

#遅れて、アニス、ティア、ナタリア、ガイが駆け付ける
アニスうわ ディスト!?」「ホントに生きてたの!?」
ナタリア「信じられませんわ… 確かあなたはレムの塔で…」
#回想イメージ。ジェイドの譜術でカイザーディストごと爆散したディスト
ティア「あの状況で生きているなんて…」「さすが死神ディスト…」
ガイ「まったく」「死霊使いネクロマンサー類友るいともなだけあるな」
#シリアスに言ったガイの顔面 真横すぐの壁に、勢いよくジェイドの投げた槍が突き刺さる。
#立ったまま青ざめて細かく震えるガイと、振り向かず眼鏡を光らせているジェイド

 ガイ兄さん……。つくづく物怖じしない男よ。口は災いの元ですね。

 にしてもジェイドは、ディストやピオニーと会うと、悪い方向に調子がよくなりますな。(^_^;)


第7話

背中合わせの過去と現在いま
向き合う時、未来が開く――。
注:12歳・35歳のジェイドが背中合わせで、白い羽根と黒い羽根が舞い散っている扉絵

 ケテルブルク近くの海岸で、ルークたちはディストが乗っていたのだろう緊急脱出用のポッドを見つけた。間違いない。レムの塔から落ちた後、ディストはここに流れ着いていたのだ。

 ディストはロニール雪山奥地の大氷壁にいる。ジェイドは唐突にそう断定した。
 そこは、毎月の七の日に必ず消えてしまうネビリムを追って幼い自分たちが踏み込んだ場所であり、マクガヴァン元元帥が現役時代に《譜術士フォニマー連続死傷事件》の犯人を封印した場所でもある。
 満身創痍のディストは思い出にすがってこの場所にたどり着き、封印されていた《彼女》を発見したに違いない。ジェイドは確信を込めてそう語った。
 そう。何人もの譜術士フォニマーから音素フォニムを奪って肉片にしたという怪物のような犯人。《彼女》こそが、行方不明になっていた《最初のレプリカネビリム》だったのだ。

 果たして、壊された封印の扉の奥で眠る《レプリカネビリム》の傍らでディストが待ち受けていた。彼は完成したばかりの音機関のスイッチを入れ、補充された音素フォニムによって目覚めた《彼女》が、氷の封印から解き放たれる。

 歓喜するディスト。が、彼女は嗤いながら無差別の譜術攻撃を始める。アニスを庇ったディストが血へどを吐いて倒れた時、ジェイドの顔色が変わった。私を魔物呼ばわりするなんて失礼ね、とうそぶく《彼女》に向かい、怒りに燃えた瞳で言い放つ。

「ええ」「魔物に失礼というものですよ」

※過去との対峙…!! 次号、ついにクライマックス!!

 展開が強引です。ディストの隠れ家を推理するに必要な情報の出し方が充分でなく、不足を《ジェイドの天才性》だけで押し通しているからです。これに関しては全体感想の方で述べます。


★チェックポイント29〜舞い上がる

 カイザーディストの緊急脱出ポッドの残骸を発見し、ルークに「よく見つけたな ミュウ 偉いぞ」と頭を撫でられて。

「わーい ご主人様にほめられたですのー」

 ミュウ、文字通り天高く舞い上がる♥ アニメ設定で空を自在に飛べるから。

 かわゆさにうっとりなティアや画面外のジェイドは別にして、ルーク含む仲間たちはみんな汗タラに。喜びすぎだろとか騒がしいなあとか思ってたのかな―。けれど流石のルークも、もう「ウザくてむかつく」とは言わず。(笑)

 

 それにしても、カイザーディストにロボットアニメみたいな緊急脱出用ポッドがあったんですね。サイズ的に、殆どポディの中身そのまま出てるような気が(笑)。果物の皮がむけた感じとゆーか卵が割れて中から卵がってゆーか。

 ゲーム版ドラマCDマ王漫画版だと、座席そのものが飛行椅子で、脱出用シートを兼ねてましたっけ。


★チェックポイント30〜幼少雪国組

 連載初期から断片的に描かれ続けてきた、幼少雪国組がネビリムを追ってロニール雪山に入るエピソードが、ついに完全に語られました。

 この漫画の幼少雪国組はみんな子供らしい丸っこさがあって、とにかくもうかわゆいです!! はうう♥

 

 ネビリム先生は毎月七の日には必ず街を出てどこかへ行く。怪しんだピオニーとジェイドは後をつけ、ジェイドが行くなら僕もとサフィールが、なら私も行かないとお兄ちゃんたちはサフィールを苛めるものとネフリーが同行。

 幼少時代のネフリーは原作本編に登場したことがなく、商業二次に登場する際は人形が壊れてしくしく泣いていたり、いかにも幼い女の子でしかありませんでした。本作の幼少ネフリーは、他の幼なじみ達より四歳以上幼いとは思えないほどしっかりしていて、気も強い感じ。なんと、咄嗟に魔物からサフィールを庇って大怪我をします。たった8歳の女の子が。凄すぎる。

 原作に、ケテルブルク広場で凍りついたディストをネフリーが保護してホテルに収容するエピソードはありますけど、幼少時代から苛められっ子の彼を庇っていたんですね。

 そしてピオニーとジェイドは、この頃から格闘技と上級譜術を使いこなし、魔物を恐れぬ(大人並みに強いという)自負を持っていた、のか。

 けれど強力な魔物が現れると、ピオニーは攻撃を受けるので精いっぱい、ジェイドの譜術はダメージを与えきれません。多少能力が高くとも結局は子供、という描かれ方でちょっと安心しました。

(考えてみると、この頃のピオニーやジェイドは今のアニスとあまり変わらぬ年齢なんですが、精神的にもっと幼く見えました。幼いころから家計を支え軍人として働いているアニスは、やはり年齢以上にさばけているんだなあ。)

 

 やがてネビリムが駆け付け、子供たちを救います。上級譜術サンダーブレードを撃ったにもかかわらず、魔物は死なず、怪我をした様子もなく、仔を連れて立ち去るのでした。

 後に《魔物を傷つけ実験に使うジェイドをネビリムが叱り、命の大切さを説く》展開が来るので、空々しくしないために殺生させなかったんでしょうか。ほのかに欺瞞的ですが、仕方ないんだろうなあ。

 

#回想。治療したネフリーを背負うネビリムに付いて山を降りる幼いジェイド達
幼少ピオニー「先生 ここで何してたんですか?
ネビリム「んー?」「…大事な人たちとお話をしていたのよ」
サフィール「大事な人って?」
幼少ピオニー(からかうように)恋人?」
ネビリム「ふふ 違うわよ」「そうね――」「みんなが大人になったら 話をしてあげるわ」
#無表情ながら、何かを感じたようにネビリムを見つめる幼いジェイド

#ロニール雪山を登るルークたち
ルーク「―――その大事な人たちって」「例の惑星譜術の実験で亡くなった人たちかな」
ジェイド「おそらく そうだったのでしょうね」
ルーク「ネビリムさんて強い人だったんだな」
#微笑んでルークを見つめるジェイド

 ネビリムが惑星譜術実験に失敗して多くの同朋を殺した、彼らと語らう(死者を悼む)ため定期的にロニール雪山奥に入っていた、といった設定は原作含む先行作や攻略本、裏話インタビューでも語られたことがありません。

 原作のピオニーは「そういえば、ネビリム先生はよくロニール雪山へ調査に行ってたな」と言っていて、退役後も惑星譜術研究を個人で続けていたかのごときニュアンスでした。多分、今作の設定は色々練り直し、作り足したものなのだろうなと思います。


★チェックポイント31〜封印

 レプリカネビリムの封印が、原作とは異なる様相でした。

原作…システム上《ネビリムの岩》と呼ばれる縦に割れた岩山で、中が広間状になっており、床には惑星譜術の譜陣。奥の厚い氷雪の岩戸の奥にレプリカネビリムが閉じ込められていた。(岩戸が開くまで姿は見えない)

漫画…ジェイドが《大氷壁》と呼ぶ。洞窟に入ると床や壁など立派な内装が施されてあり、マルクト帝国の紋章の入った開かずの扉(封印)が。それは(ディストにより)破壊されていた。その奥の洞窟を進むと、もう一つ、やはりマルクト紋章入りの簡単に開く扉。中に氷壁がそそり立ち、レプリカネビリムが船首の女神像のように顔と胸を突き出して氷壁に埋まり、凍りついている。

 これは、物語構成の変更で生じた差異である気がします。原作ルークたちはあくまで惑星譜術の譜陣を探していたのであり、レプリカネビリムの封印なんて関知していませんでした。ですから、ギリギリまで彼女の姿を見せない必要があった。しかし漫画では全知のジェイドの案内でそこへ行くので、最初から見えていた方が具合がいい、と。

 絵面えづら的には漫画版の方がキャッチーで、センスがあって美しいなあと思いました。氷壁から上半身を突き出すように凍りついてるレプリカネビリムの姿には、『銀河鉄道999』の主人公母の剥製を思い出しました。

 余談ですが、封印(ネビリム)の周囲の文様、原作と本作では全く違いました。原作では封印が解けるとき、岩戸に翼とハートを組み合わせたような大きな文様が輝き浮かびます。本作では凍りついたネビリムを中心にして六つの小円を均等に配した大円が刻まれていました。これは、海外版ゲームにあったネビリム専用秘奥義用の譜陣を簡略化したものかと思います。

 

 以下、疑問。

 原作・漫画双方で、レプリカネビリムは復活するなり言います。「……ごくろうさま。……サフィール……」と。誰が自分を復活させたのか、それは何者なのかを、正確に認識しているわけです。続けてジェイドに「昔はあんなに可愛らしかったのに」と言い、彼への認識も完璧であることが判ります。

 彼らとは二十四年前に数分 邂逅しただけで、紹介も説明も交わしていない。会話の端々から名前など覚えたのだとしても、子供は成長して姿が変わっている。ディストに至っては名前すら変わっているのに。どうしてでしょうか?

 

 原作では岩戸の奥が見えなかったので、好き勝手な想像をする余地がありました。例えばこんな。

 盗んだマルクト軍の資料から(?)ディストは封印の場所を知る。彼は封印を半ば解く。(または、解けかけた封印を見つける。または、封印されていてもレプリカネビリムの意識はあった。)しかしレプリカネビリムは音素フォニム不足で動けず岩戸から出てこられない。彼女は優しさを装ってディストと会話、彼が二十四年前の子供だと認識する。優しいネビリム先生だと思い込んだディストは言われるままに不足音素の注入を画策。やってきたルークたちを利用して音素注入に成功、まんまと怪物を解放してしまう。

 アニメドラマCDはこちら系の解釈でしたよね。ディストが封印を解くが不完全。彼が音素注入の音機関を作っている一方で、レプリカネビリム自らも村を襲い、人間を殺して音素を奪う事件を起こした、と。

 けれど本作のレプリカネビリムは、カチカチで氷壁に埋まっています。事前にディストと会話できたとは思い難い。そもそも本作ディストが《ネビリムのレプリカ情報》を必要としたのは不足音素を調べるため。音素注入は彼の独断で、レプリカネビリムに指示されたようではありません。

 本作のレプリカネビリムは、目覚めるなり故なく全知状態だったことになります。

 ……凍っていても意識はあり耳は聞こえていた、《天才だから》ディストとジェイドの僅かな会話だけで全てを把握した、とでも解釈するよりないですが、いささか強引で不自然に思えます。

 

 そもそも、この辺りは原作時点で設定が不明瞭でした。

 ネビリムの岩にあったのは《惑星譜術の譜陣》。これに惑星譜術の触媒武器六種を設置すると惑星譜術が使えるという情報は、マルクト軍が引き上げたネビリムの遺品資料に書かれてありました。ところが実際に行ってみると、その譜陣の上に新しく封印の譜陣が書き足してあるとジェイドが言います。六種の触媒武器を設置したところ、レプリカネビリムが復活しました。

 これはどういうことなのでしょうか。元々の譜陣を書いたのは三十年ほど前に惑星譜術研究をしていたネビリム? 封印の譜陣を上書きしたのは二十年弱前にレプリカネビリムを封印した老マクガヴァン? 思えば、老マクガヴァンは触媒武器を用いてレプリカネビリムを封印したと言います。譜陣にそれを設置して行ったのでしょうか? けれど、彼が所持していた触媒武器は二種だけ。足りないんですよね。

 二種の触媒武器で音素を奪い、弱ったところで岩戸の奥に閉じ込めて、たまたまその場にあった惑星譜術の譜陣を利用して上書きし、急遽 封印の譜陣に書き換えて封印した……? そして、書き換えられた譜陣が偶然、六種の触媒武器を設置するとレプリカネビリムに音素を注ぐ作用を持っていた? ……それはなんだか変なので、ディストがそうなるよう新たに上書きしたのでしょうか? どうにも判りません。

 アニメドラマCDや本作では触媒武器や惑星譜陣の設定を全カットしていますので、その辺の理屈は重要ではなかったということなのでしょうけども。

 

 大体、《封印》って言うのもよく判りません。レプリカネビリムは全く老化していませんので、タイムストップ系の譜術なのか? いや、凍る→冷凍睡眠というだけのイメージ? いやいや、背に翼が生えるなど肉体が魔物化していた一環なのかも?

 本作では「どれほど致命的な攻撃をしても決して死ぬことがなかった そこで犯人をこの大氷壁に追いこみ 氷の中に封じたと聞いています」と語っています。けれど不足音素を注入すると氷を溶かさなくてもピチピチ復活したので、氷は封印の決め手ではなかったようです。戦いの中で音素が枯渇して動けなくなった、それが重要で、氷は拘束具程度の意味だった? 「決して死なない」ので凍りついても死なず、冷凍睡眠状態になったため老いることもなかった、ってコトなんでしょうか。


★チェックポイント32〜ベタベタ

 本作ではルークたちが友達のようにディストの遺品を届けています。ディストは仲間側に近いんだという認識が、作り手さん方の中にあるように感じられます。

 原作終盤、ガイはディストを指して言います。「あいつは一応犯罪者ですよ」と。

「一応」どころか、盗むは脱獄するは襲うは人体実験するは殺戮するは。何より、世界消滅活動中のテロリスト組織の幹部なのに、何故かそこは重視されません。

 原作時点では気にしていませんでしたが、その後の外伝・メディアミックス展開を見るにつけ、次第に気になるようになってきました……。彼の憎めなさや意外な優しさを掘り下げるのはよいにしても、メインの酷薄さや狂気的な自己中心性を軽視し過ぎてはいないかと。

ファンダム2・ジェイド編』では逮捕直後の彼にジェイドが活躍の場を与えて牢から出しますし、アニメドラマCDでは皇帝自らの指示で三ヶ月ほどで釈放させていました。その後は再び幼なじみ達で楽しく暮らすことが示唆されてあり、刑すら《馴れ合い》の延長に見えてしまいます。

 

 本作にもディスト擁護・印象向上的な脚色が入れられています。なんと彼は、レプリカネビリムの攻撃からアニスを身を挺して庇うのです。

 度肝を抜かれました。悪い意味で。

 確かに二人の間には恩義や友情がある。けれど原作・アニメ・本作すべて見渡しても、流石に突飛ではないですか。本作第6話で顔合わせした時にも、それほどの絆を感じさせる前フリは欠片もありませんでした。足を滑らせて偶然アニスの盾になった、くらいの方がまだ納得できますよ……。いや実際にそれやったらシリアスぶっ壊しですけども。

 

 原作では、無邪気に復活を喜ぶディストを、用済みとばかりにレプリカネビリムが撃ち抜きます。ルークたちは衝撃を受け、アニスが、彼は愚かだったが「トクナガを作ってくれたり、私を助けてくれた。仇は取るからねっ!」と悲憤する。

 私は、ルークたちを駆り立てたのは義憤だと受け取っていました。ディストは敵ですが、慕っていた相手に利用されボロ屑のように始末されるなんて、あまりに哀れ。愚かで相容れぬ信念の持ち主ではあっても、そこまで粗末に扱われる価値しかない人間ではない、と。私自身はそう感じてルークたちの怒りに共感しましたし、ディストが生きていたと判って、拍子抜けしつつも安堵したものです。アニスが「私を助けてくれた」と言う部分は、憤りを強化する付け足し程度に思っていました。

 けれど本作見るに、作者意図では《アニスを助けた》点こそが重要だったのでしょうか。《アニスの恩人だから》その死にルークたちは憤ったのだと。だから本作では《アニスを庇う》エピソードを追加して恩人度をアップした?

 全く個人的な感想ですが、あまり素敵だとは思いませんでした。唐突感が強いのは勿論、こんな変更までして《ディストは優しいんです、いい人なんです》という印象偏向をするのかと。

 例えるなら、笑って人を殺す男がいたとして、捨て猫を拾ったこと《ばかり》取り沙汰される、みたいな。確かに彼には優しさがあるのでしょう。けれど、どうにも歪んだ見方じゃないですか? と言う……。

 

 もう一つ。こちらはディストの脚色の結果 意図せずそうなったのかもしれませんが、レプリカネビリムについても印象向上的脚色が見られました。

 原作のレプリカネビリムは、利用価値がなくなった途端、《ディストだけを》狙い撃ちします。彼女の復活に尽力し親愛を見せていた彼を、嗤いながら。仁義も愛情もない冷酷な心を示すのです。対して本作のレプリカネビリムは《無差別に》光弾を撃ち放ちます。たまたま避け損ねたアニスをディストが飛び出して庇う。つまり彼は自分で当たりに行ったのであり、狙い撃ちされたのではない。レプリカネビリムの酷薄さが薄れた形になっています。

 本作の彼女の結末は、先行版とは異なり《優しく赦される》というもの。そこに至らせるべく彼女の酷薄性を減らしたのだろうか、と穿った事を考えてみたり。……多分、そうではないんでしょうけども。

 それはともかく。《ディストが自分から当たった》と脚色したのに、ルークが「縁者を殺して平気でいるお前は完全じゃない」と原作通りの理屈で責めることになっていて。筋が通らないわけではありませんが、今一つ釈然としない感じでした。

 

 おまけの余談。ディストがレプリカネビリムに撃ち抜かれた時、原作だと眼鏡がパリーンと派手に砕け散るんですが、漫画では片側に少しヒビが入っただけでした。


★今月の飄々ジェイド

 特にありません。

 強いて言うなら、へしゃげた脱出ポッドを見て「この状況だと普通死んでるぞ ディストは本当に人間か?」と苦笑いしたガイに、しらっと「形だけは人間なんですがね」と返した場面くらい?


第8話(最終回)

過去と対峙した時
命の意味を知り
閉ざされた未来きぼうの扉が
開かれる――。
注:パーティーメンバーに囲まれ、楽しそうに笑って歩いているジェイドの扉絵

 激しい戦いの果てに、ジェイドの眼鏡は弾き落とされた。
 膝をついた彼に向かい、《レプリカネビリム》は嗤う。あなたは私を捨てて殺そうとした、私が不完全な失敗作だから。でもサフィールがあの音機関で私を安定させてくれた。だから私は完全な存在、完全な「あなたのネビリム先生」だと。そう言ってジェイドにとどめを刺そうとした彼女の剣を、ルークが阻む。被験者オリジナルの生徒だったディストを殺して平気な顔をしているお前が完全なはずがない、と。

レプリカネビリム「あんたに何がわかるの」「私は完全になった」「だからネビリムは私なの」「私が本物なのよ坊や!!」
#レプリカネビリム、剣でルークに猛襲。何とかしのぐルーク
ルーク「…違う…」「違う!!
#ネビリムの剣を弾き飛ばす。クルクル回って離れた位置に突き立つネビリムの剣
ルーク「おまえは被験者オリジナルじゃない!」「被験者オリジナルのネビリムさんと同じ姿だけど おまえは別人なんだ!」
#無言で見ているジェイド。その心の奥底は窺えない
ルーク「そうでなきゃ」「みんなが辛すぎる」「おまえだって!!

 ルークが斬った傷は見る間に塞がってしまい、レプリカネビリムは嗤いながらルークを殺そうとした。しかし、拾い上げた眼鏡をかけたジェイドが冷静に、しかし強く口を挟んで止めた。惑星譜術を使ってみろ、お前が完全なネビリムだというなら使えるはずだ、認めてほしいのでしょう? と。
 挑発にあえて乗り、レプリカネビリムは譜を唱え始めた。が、唱え終わる前にディストの音機関が異音を発し、彼女の体に亀裂が走る。欠損音素フォニムを補充していた音機関が惑星譜術の力に耐えきれなかったのだ。

 全身が崩壊していくレプリカネビリム。完全な存在になったはずなのに、と叫ぶ彼女を、優しくジェイドが抱きしめた。

ジェイド「…この世に完全な存在などない」「人は変わるのです」「終わりは平等に訪れる――」

 そう語りかけるジェイドの脳裏に浮かぶのは、かつて幼い自分を音素フォニム暴走の事故から庇い、抱きしめて死んでいった被験者オリジナルネビリムの腕の感触と言葉の数々だった。

ネビリム『命は消える』『人も魔物も 必ず死ぬの』『でもねジェイド――』『だからこそ 人は変われるのよ』
#ジェイドの腕の中で崩壊していくレプリカネビリム
ジェイド「いつか終わることを知っているから 人は変わる
#そんな二人を静かな表情で見つめているルーク
ジェイド変わるからこそ」「人は生きていける
#ジェイド、レプリカネビリムの頬に手を添え、顔を覗き込む。嬉しそうに涙を流しているレプリカネビリム。険の取れたその表情は先程までの異形のものではない
ジェイド「あなたも…人間だ」
#音機関が壊れ、レプリカネビリムは音素の光となって飛び散った。舞い上がり消えていくそれを、空になった両腕を広げて切なげに見上げるジェイド
ジェイド(さようなら 先生)(今度こそ 本当に――――)

 そんなジェイドに歩み寄り、ルークは言うのだった。

「ジェイド」「ありがとう」「あの人を…人間だって言ってくれて」

 ちなみに、死んだと思われたディストは気絶していただけだった。本気で悲しんだぶん怒るアニス。一行は気絶したままの彼を連行してケテルブルクに帰還した。

 その夜、ネビリムの墓碑の前で再び会話するジェイドとルーク。

「私は先生の悲しみにすら気づかなかったくせに なんでも知っているのだと思い込んでいた」「なんでもできると…」
「先生は贖罪の気持ちでここにいたのに」「私は」「…私たちは何も気づかなかった」
「あれだけの過去を背負っていたというのに」「先生はいつも微笑んでいた」

 ルークは悔やむジェイドを見つめると、やがて微笑って言った。ネビリムさんは私塾でジェイド達を教えて、楽しかったんじゃないかなと。

「―――だから」「きっとネビリムさんは」「ジェイドのこと許してると思う」

 ジェイドは視線を逸らすことなく嬉しそうに微笑んだ。素直に受け取ることが出来るようになったのだ。
 そんな彼に軽く激励を送ると、しっかりしてくれよと笑うルーク。ジェイドは俺を育てた先生なのだからと。それを聞いてジェイドはハッとする。

(そうか 先生は)(命を育てようとしたのか)(この土地で)(自分の罪と向き合って―――)

 しかしルークにはもう、命を育くんでいくための時間は残されていない。音素フォニム乖離で彼の余命は幾ばくも無かった。今更ながらにジェイドは怒りを覚えた。理不尽な現実に。何より、何もできない、しようとしていない自分自身に。

 翌朝、ジャスパーへの手紙を投函した後、やっとキムラスカへ障気中和の報告に向かうことにした一行。目を覚ましたディストは全く懲りも反省もしていなかったが、ネフリーに「罪を償って平和に貢献してほしい、そうすれば亡くなった先生も喜ぶ」と言われ、ジェイドの表情を見ると、急に態度が変わった。相変わらず高笑いをしながらではあったが、私の力が必要なのですねと満足げな顔をし、もはやネビリム復活を唱えることなく憲兵に連れられて行く。
 その様子を見送った後、不意にジェイドはルークに言った。

「ありがとう」「あなたのおかげです」

 仲間たちと共に歩きながら、彼は明るい表情を浮かべる。
 レプリカたちを取り巻く変え難い現実、そして停滞していた自分自身を変えてみせよう。ネビリムがそうしていたように、自分の罪に向き合いながら。そう心に誓うジェイドなのだった。

※ご愛読ありがとうございました! 狩野先生の次回作に御期待下さい!!

 連載時の最終話です。非常に《綺麗》にまとめられています。

 ルークが「ネビリムさんはジェイドを許していた」と言うくだりは感動的ですし、ジェイドがルークにさりげなく「ありがとう」と言う結末は原作より素直で心に染みやすく、素敵だったと思います。


★チェックポイント33〜魔物に失礼というものですよ

 レプリカネビリム戦の導入と結末は、原作・アニメドラマCD・本作でそれぞれ異なっています。

原作
 予想外に復活したレプリカネビリムに「あなたは私が失敗作だから殺そうとした、しかし今や完全な存在だ」と罪悪感を煽られ、ジェイドは激しく動揺。しかしディスト殺害に憤るアニスとルークの真っ直ぐな叫びで落ち着きを取り戻す。「この際、あなたが完全かどうかはどうでもいい。譜術士フォニマー連続死傷事件の犯人として、あなたを捕らえます」と公的スタンス宣言、戦闘突入。
 戦いの果て、再び音素が不足したレプリカネビリムが補充すべく譜陣に入ると、ルークが「あれは本来 惑星譜術の譜陣では」と指摘。すぐさまジェイドが惑星譜術を発動させ、レプリカネビリムは跡形もなく消滅した。

アニメドラマCD
 ジェイドと仲間たちは、再び殺人事件を起こしたレプリカネビリムを退治するため封印へ。戦闘突入前の会話は原作通り。
 戦いの果て、追いつめられたレプリカネビリムが「完璧な存在の私が何故」と狼狽すると、「お前はオリジナルより強いかもしれないが、それだけだ」とにべなく返す。レプリカネビリムは「私をまた殺すの?」「私はあなたのネビリム先生よ」などと語りかけ、ジェイドの隙を誘おうとする。惑わされず「下手な芝居はやめなさい。お前はネビリム先生とは似ても似つかない! ただの醜悪な魔物だ」と拒絶。躊躇なく最大秘奥義で滅ぼした。

漫画
 レプリカネビリム復活阻止のため、ジェイドは事情の解らない仲間たちを封印に連れていく。復活には動揺しなかったが、ディストが撃ち倒されると豹変、「(レプリカネビリムを《魔物》と呼ぶなんて)魔物に失礼というものですよ」と吐き捨てて戦いを挑む。
 レプリカネビリムの「完全」発言に動揺するのはジェイドではなくルーク。
 戦いの果て、圧倒的な強さを誇る彼女に向かい、ジェイドが「完全な存在なら惑星譜術が使えるはず」と挑発。使おうとした力に音素供給装置が耐えきれず故障、レプリカネビリムは崩壊し始める。「完全な存在になったはずなのに」と狼狽する彼女を抱きしめ、ジェイドは優しく「完全ではないからこそあなたも人間だ」と肯定。彼女は涙を流して微笑みつつ美しく消滅する。

 

 ドラマCD版は《勧善懲悪》要素を膨らませ、強化しています。レプリカネビリムは純粋に《悪》であり、退治することがそれを生みだしたジェイドの責任である、という筋方向です。魔物としてスッパリ退治し憐れまないという流れそのものは原作通りなんですが、もっとはげしくしてある。

 対して本作は、ところどころドラマCDの要素を取り込みつつも、全く逆の方向へ舵を切りました。レプリカネビリムを《救うべき存在》にしたのです。

 

「私はネビリムよ」という、原作にはなかったレプリカネビリムの主張は、ドラマCDでは、ジェイドを動揺させようとする《狡猾さ》を示したものでした。自分がオリジナルとは別人だと承知の上で、同じ姿を利用したわけです。

 しかし本作では意味を変えています。

 漫画の「私はネビリムよ」という主張は、自分こそが本物だという《オリジナル・コンプレックス》を示すものでした。オリジナルと《完全に》同じだと認めさせたい。原因は幼いジェイドの「失敗作」という罵倒で、彼女を心の傷トラウマを負った可哀想な存在とするニュアンスが強められています。だからジェイドは彼女の罪を赦し、存在を認めて、心を救わねばならない。それが彼の責任である、と。

 

 漫画を読んだ時、これはドラマCD版への反抗なんだろうか、とおののいたものでした。あちらの筋付けが気に入らなかったのかな、と。

 ……いえ。少女漫画だから綺麗で感傷的にしただけなのかもしれないし、原作はこうでドラマCDはああだったから今回はこっち路線にしてみよう、程度のコトなのかもしれませんけどね。


★チェックポイント34〜最期の言葉

 レプリカネビリム誕生と逃走の顛末は前回語られたわけですが、その前段階の《ネビリム死亡事故》の顛末が今回語られました。ネビリム雪山尾行もでしたが、今作ではジェイド12歳時の回想が断片化され、シャッフルして、時系列を前後させて語られていますね。面白い構成だと思います。

 

 原作では、以下のごとくジェイドの台詞だけで簡単に説明されていた部分です。

「……始まりは、私の好奇心です。素養のない者が第七音素セブンスフォニムを使ってみたらどうなるか、自分自身で実験をしたんですよ。結果、私の譜術が大暴走して、ネビリム先生の家を燃やしてしまいました。」

 本作ではニュアンスが異なります。《素養のない者が第七音素を使ったらどうなるか好奇心から実験した》のではなく、《優秀な自分は第七音素も使えるはずだと、制止を振り切って強行した》ことに。小型の魔物(ミクリクッス?)をわざと瀕死にして治癒術を試しましたが失敗、音素フォニム暴走でランプの炎が爆発。一緒にいたサフィールは怯えてカーテンに隠れていたので難を逃れた、と。

 目を引いたのは、爆発の瞬間、ネビリムがジェイドを抱きしめて庇った、と語られた点です。背に大怪我を負った彼女に抱きしめられたまま幼いジェイドは呆然としている。これは『マ王』漫画版のオリジナル描写と同じなんですよね。取り入れたんでしょうか?

引用:『テイルズ オブ ジ アビス』(玲衣/アスキー・メディアワークス)
画像引用:
『テイルズ オブ ジ アビス』(玲衣/アスキー・メディアワークス/電撃コミックス)
『電撃マ王』2007年11月号掲載分より

 また、抱きしめて庇った瞬間(意識を失う直前)、ネビリムが何か囁いたがジェイドには聞こえなかった(?)、という謎の描写が入れられています。

引用:『テイルズ オブ ジ アビス 追憶のジェイド』(狩野アユミ/角川書店/ASUKAコミックスDX)
画像引用:
『テイルズ オブ ジ アビス 追憶のジェイド』(狩野アユミ/角川書店/ASUKAコミックスDX)
『月刊Asuka』2010年2月号掲載分より

 これにはファミ通文庫版外伝小説『真白しろ未来あした』のオリジナル描写を思い出さされました。

引用:『真白の未来』「ジェイド・バルフォア」(矢島さら/エンターブレイン/ファミ通文庫/2006年10月30日発売)
「僕は、普通の人間なんかじゃない。音素学の本を読んでいて……できると思ったんだ、さっきは。できないはずはない……実験したかったんだ!」
「なに言ってるんだよ、ジェイド! どうするんだよぉ……」
「泣くな!」
 サフィールを突き飛ばし、ジェイドはネビリムのところまでにじり寄る。
「……せ、先生……」
(中略)
 と、ジェイドの視線の先で、微かに唇が動いた。
「…………」
「! 先生……何て……今何て!?」
 聞き返したが、いつまで見つめていても唇が再び動くことは無かった。

 彼女は何を言おうとしたのか。今となっては永遠に判らないそれがジェイドの原動力になったと語られていて、そこがこの小説で印象的なところでした。

 本作のこの場面は、それら先行のマ王版とファミ通版から少しずつ要素を取り入れたサービスみたいなものなのかな、なんて思いましたが、考えすぎかもしれません。(^_^;)

 

 さて。数ページ後のレプリカネビリムが死ぬ場面、ジェイドは彼女を抱きしめます。爆発事故の際に幼いジェイドがネビリムに抱きしめ庇われたイメージが重ねられてありました。かつて誰かに与えられた無償の愛情を次に伝える、みたいな? そして《ネビリムが何かを囁いた》絵のコピーが再掲示。おや? なんと、ここには台詞が書いてあるではないですか!

「命は消える 人も魔物も 必ず死ぬの でもねジェイド――― だからこそ人は変われるのよ」

 長っ!!

 咄嗟のあの瞬間、自らの背を焼かれながら、こんなに長々と説諭してたんかい!? しかも苦痛の欠片もない美しい笑顔全開で。

 って言うか、言ってることが状況にそぐわない。今、事故で生きるか死ぬかの瞬間なのに、「人は必ず死ぬけど、だから素敵」って。イイ話ですがここで言うか? ネビリム先生おかしいよ。

 と、混乱したのですが。同じ(完全な)台詞を第4話で実験事故を起こしたジェイドが儚げに回想してたなあと思いだし、読み直してみたところ、そちらでは《小雪がしんしんと降る屋外で》ネビリムが微笑みながら幼いジェイドを覗き込み、抱きしめて言ったことになっている。あれれれ??

 うううむ……。《ネビリムが何かを囁いた》絵のコピーと、そこに重ねられた「命は消える〜」の台詞はそれぞれ別の回想で、無関係って事なのかな。(もしそうなら、「命は消える」台詞コマの回想絵は、《背を朱に染めて倒れているネビリム》などの方が親切だったかも。紛らわしいから。)

 爆発の瞬間 彼女が何を囁いたかは不明、と考えていていいのでしょうか?


★チェックポイント35〜ルークの理屈

 この項目は、ただの屁理屈っつーか言葉遊びです。(^ ^;) 読み飛ばし上等。

 

 レプリカネビリムが「私は完全になった」と誇ると、ルークが言います。

「だまれ!!」「何が完全だ!」「ディストはおまえの被験者オリジナルの生徒だぞ そのディストを殺して平気な顔してるおまえが」「完全なわけない!」

 これは原作にも同じ台詞があるんですが、本作では「完全になったから私が本物」とレプリカネビリムが反論し、ルークが更に言い返しています。

「おまえは被験者オリジナルじゃない!」「被験者オリジナルのネビリムさんと同じ姿だけど おまえは別人なんだ!」「そうでなきゃ」「みんなが辛すぎる」「おまえだって!!

 第一の台詞は、原作当時からちょっと微妙だなァと思っていました。《オリジナルの縁者を殺して平気なレプリカは不完全》。どうして?

 取りようによっては、レプリカをオリジナルと同一視、または従属物とみなしているように感じられます。オリジナルにとって大切な人はレプリカにとっても大切な人、という理屈。

 あえて深く考えないようにしてたんですが、本作で第二の台詞が追加されて、引っかかりが大きくなってしまいました。

 お前はオリジナルじゃない別人だ。そう叫びながら、オリジナルの生徒を殺して平気なのはおかしいと言う。別人なら逆に、平気でもいいんじゃないですか?

 

 第一の台詞は《オリジナル=完全》という理屈のように読める。オリジナルの生徒を殺して平気→オリジナルと同じ心ではない→オリジナルとは別人→不完全、という。そう考えれば第二の台詞で「お前はオリジナルじゃない」と結論付けておかしくありません、確かに。

 ですが、あまり嬉しくない理屈です。これだと、オリジナルと同じでなければレプリカは不完全だと、障気中和後のルークが言ったことになっちゃう。しかも《イイ台詞》っぽく。

 

 ……なんてごちゃごちゃ書きましたが、ルークのくだんの発言には、大して深い意味はないんだろうなとも思います。

 ルークは優しいから、オリジナルとレプリカを社会的に無関係だとは考えない。オリジナルの縁者はレプリカにとっても縁者だと、ごく自然に考えている。縁者を平気で殺せるのは《人間として》おかしいという考えが根底にある。……のだと思います。多分。

 ただ、台詞回しとしてスッキリしないので、上記の屁理屈のように受け取ることもできてしまう。

 個人的な好みとしては、第一の台詞が「ディストはお前を封印から解放して、助けたんだぞ。そのディストを殺して〜」くらい解り易くしてあった方がよかったかもです。《オリジナルと違うから不完全》ではなく、《人間としての心が欠けているから不完全》だと、ハッキリ受け取れる方が。


★チェックポイント36〜優しく美しい世界

 この外伝が始まった時、恐れていたことがありました。こんな展開になったら嫌だなあ、と。

 それは、ルークとレプリカネビリムを《レプリカ》という枠でくくって重ね、そのうえでレプリカネビリムを憐れむ方向に持っていくこと。

 ……なんかまんまとそうなったっぽい。(^_^;)

 

 ジェイドはレプリカネビリムを挑発して自滅に追い込みます。が、いざ彼女が死に瀕すると優しく抱きしめて言いました。

「…この世に完全な存在などない」「人は変わるのです」「終わりは平等に訪れる――」
「いつか終わることを知っているから 人は変わる」「変わるからこそ」「人は生きていける」
「あなたも…人間だ」

 こう言いながら、脳裏に例のネビリムの「人も魔物も 必ず死ぬの でもねジェイド――― だからこそ人は変われるのよ」という説諭を思い浮かべています。

 本作最大の泣かせどころで、非常に美しく描かれています。ジェイドに存在を認められたレプリカネビリムは、少女のような笑顔で嬉し涙をこぼし、光の粒となって消えていく。

 そして、全てを見届けたルークはジェイドに言うのです。「ありがとう」「あの人を…人間だって言ってくれて」と。

 それは、「私が失敗作だから殺そうとした」と彼女がジェイドに言ったのを聞いて、自分がアッシュに「劣化レプリカ」と言われ傷ついた気持ちを重ね合わせたからでした。

 

 読者の大半が感動しただろう場面に異を唱えるなんて肩身が狭いのですが、すみません。個人的には、こんな救いは与えないでほしかったです。

 いえ、最期に彼女の心を救うのはいいにしても、「あなたも人間だ」という肯定で救う形にしてほしくなかったのです。

 そしてルークに、代わってお礼を言うほどに、レプリカネビリムと自分を重ねさせないでほしかったのでした。

 

 レプリカは間違いなく人間です。オリジナルに劣ろうと優れようと。レプリカネビリムは肉体が魔物化していましたが、それでも人間に違いない。ギガントモースが人間だったように。しかしジェイドがここで言った《人間》とは、そういう意味ではないですよね。《精神的に よりよく変わろうとするからこそ人間》だと言っている。その意味では、私はレプリカネビリムを「人間だ」と認める気にはなれないし、納得できません。

 そして、彼女とルークは生まれこそ同じ《レプリカ》ですが、心映えは全く違います。どちらも大勢の無辜むこの人間を殺した。ルークはそれを心底悔い、苦しんで、贖罪の道を歩んでいます。だから私は彼を《人間》だと思う。尊敬すらします。然るに、レプリカネビリムは何一つ悔いてはいない。欲望のまま殺して笑い、不完全だと言われたと当てこすっているだけ。私は彼女を尊敬する気にはなれません。

 

 勘違いしてはいけないと思うのです。

 ジェイド達はレプリカネビリムを倒しましたが、それは彼女が《人間オリジナルではない、不完全なレプリカ》だったからでしょうか? 違いますよね。譜術士フォニマー連続死傷事件の犯人で、今またディストを殺し、ジェイド達をも殺そうと迫ってきたからです。《因》ではなく《果》の報いです。なのに、生まれが哀れレプリカだから救ってやるべきだ、という方向に流れてはいないでしょうか。

 

 ルークがレプリカネビリムと自身を重ねるのは、別におかしなことではありません。心の動きとして充分あり得ると思います。けれど、そこをあえて避けてほしかったのでした。

 何故なら、物語の本筋の流れを阻害すると思うからです。

 この外伝は『アビス』という大きな木の太い一枝です。本編の結論は《レプリカという生まれに囚われず自己を確立する》というものだったはず。ここでルークとレプリカネビリムを重ねて《生まれが不幸だったんだから》と憐れみ、代わってお礼を言うほど肩入れさせると、読者は終着点への方向を見誤らさせられると思うのです。

 

 それとは別視点でも、ジェイドが死にゆくレプリカを抱きしめて《優しく救いの言葉をかける》展開には思うところがあります。

 確かにこの上なく美しい。誰もが感動したでしょうし、本作だけ切り取って見れば何一つ問題はない。レプリカネビリムを人間として認めたことがルークをも救い、そのルークがネビリムの赦しを代弁してジェイドを救う、という巡り構造も綺麗です。

 ですが、『アビス』という大きな物語の一部として見た場合、ある一点で、私は大いに疑問と不満を感じてしまいます。

 本編の結末直前、ルークがローレライ解放で地核に入る際。仲間たちが口々に労いと再会の約束をする場面。ジェイドはこう言います。

「どれだけ変わろうと悔いようと、あなたのしてきたことの全てが許されはしない。」

 ルークは間もなく死ぬ。助からない。それはジェイドが一番よく知っていたはず。なのに容赦なく客観的事実を突き付ける。

 非常に過酷です。勿論、ジェイドは実際にはとっくにルークを赦している。それは解りますが、今まで罪に苦しみ贖罪のため奔走し続けて挙句 死に瀕している子供に贈る言葉としてあまりにも。わざわざ言わなくったっていいことではないですか。

 ……今まで私は、ジェイドも消えない罪を背負う人間で、そんな自分をルークと重ねているからこその言葉だ、ジェイド自身も罪を一生背負って生き続ける覚悟を持っているからこそ、ルークに同じことをしろと死の間際にさえ言えるのだ、むしろこれが彼の誠実さなのだと解釈し、自分を納得させていました。即ち、この過酷さがジェイドというキャラクターであり、『アビス』という物語の醍醐味なのだと。

 けれども。本作の《死にゆくレプリカネビリムを優しく肯定するジェイド》は、以上の思いを破壊してしまいました。

 次の行、暴言を書きます。ごめんなさい。

 罪を正面から受け止め煩悶しながら人として正しくあろうと戦い続けたルークには「しかしあなたは許されない」と過酷な現実を突き付け、罪を罪とも認識せず葛藤も成長もなく殺戮の衝動の中に生きたレプリカネビリムは「あなたも人間だ」と優しく抱きしめるのか。ふざけるな。

 

 私はジェイドが好きです。だから今、誰かが「ほれ見ろ。ジェイドはひどい奴なんだ」と言ったりしたら、脊髄反射で「ジェイドを悪く言うな」と反論しちゃうと思います。

 けれど、本作を読む以前ほど曇り無くには、そう思えなくなってしまったのは確かなのです。

 

 

 どんな悪人であれ死に瀕しているなら情けをかけるべきだ、という考え方はあります。それにレプリカネビリムは生まれつき障害を抱えていて、生まれるなり存在否定され殺されかけて、とても可哀想なのは確かです。ジェイドに責任があるのも。でもそれならそれで、何か違う形にしてほしかった。

 例えば、崩壊する彼女が悲痛に「死にたくない」などと叫ぶと、ジェイドが無言で抱きしめるとか。「あなたも人間だ」とまで言わなくても、抱きしめられただけで彼女は救われたんじゃないでしょうか。

 どうでも人間肯定で救うオチにするなら、レプリカネビリムが大量殺人に多少なりとも葛藤する描写を入れておいてほしかったです。最低限それがなければ納得でき〜ん! なんつて。

 それと、ルークがレプリカネビリムに同情するのはいいにしても、お礼代弁とは違う方向に決着する方が良かったなあ……。同情するルークに周囲の誰かが「彼女とあなたは違う」と言うとか、ルーク自身が「でも俺は変わることができた、みんながいてくれたから」と一段高く結論するとか。

 ただのワガママです、はい。(^ ^;) 

 

 レプリカネビリムの処遇に限らず、今作は今までとは描き方を変え、マイルドを通り越して《美しく》変えていると感じる部分が幾つかありました。

 例えば、ネビリムへの想い。原作ゲームではネフリーが「兄は第七音素セブンスフォニムが使えないので、先生を尊敬していたんです」と語った程度で、シナリオライターインタビュー(『電撃PlayStation』Vol.341)にて「第七音譜術士セブンスフォニマーのネビリム先生を尊敬していたんです」「でも、その頃のジェイドの性格は歪んでいたので、先生の人格的なこととかは一切関係なく、あくまでも第七音素が使えるっていう能力のみを見ていたんです」「自分の会話についてこれる存在として、一目置いているという感じですね」と説明されました。けれど本作では《能力への尊敬》を通り越し、むしろネビリムの人となりの方に憧憬を抱いていたと取れる描き方になっています。

 また、どうしてネビリムをレプリカ化しようとしたか、という動機の点。インタビューでは《天才の自分が失敗したことを認めたくなかったから》という点が強調されていたものですが、本作では敬慕するネビリムとの日常を失いたくなかったあまりに、と《美しく》語られていました。動機は愛情だと。非を認めたくないという醜さはサフィールが一身に引き受け、ピオニーに叱責されるジェイドの傍で「ジェイドは失敗なんてしないんだ!」と叫ぶことになっていました。

 これはルークで例えるなら、デオ峠で「馬鹿にしやがって、俺は親善大使なんだぞ」などと醜く喚いた辺りが削除され、アクゼリュス崩落後も何も言い訳をせず、代わりにミュウが「ご主人様は悪くないですの!」と叫ぶ、という感じの変化だと思います。

 

 この変化はどこから現れたのか。少女漫画という媒体に合わせた結果か、或いは作者の意識そのものが変化したのか。

 原作は、《世界は都合よく優しくなんかない(それでも乗り越えれば優しさに気付ける)》と強いて語っていて、それがテイルズオブシリーズの中では特異だったように思うのですが、本作は全てが愛情によって説明され・赦される、《優しく美しい世界》になっています。

 この変化を歓迎するか、そうでないかは、受け取り手次第なのでしょう。


★チェックポイント37〜ルークはジェイドの息子?

 この項はチョー低レベルのくっだらない愚痴なので、ここも読み飛ばし上等です。(^_^;)

 

 レプリカネビリム戦後の結末部に、アニメ版では取りこぼされたアブソーブゲート決戦前夜のジェイドイベントが、再構成され取り入れられてました。

 私はこのイベントが大好きで、アニメ版になかったのが悲しかった。ですから本来は大喜びするところ……なんですけど。あまり嬉しい気分になりませんでした。

 と言うのも、ルークが自らジェイドを自分の《親》だと言っていて、それが引っかかって仕方がなかったからです(苦笑)。

ルーク「あーあ これじゃ親と子が逆だな」
ジェイド「誰が親ですか」「あなたを作ったのは私ではありません」
ルーク「じゃあ」「「先生」だな」「俺を育てた先生だ
(中略)
ジェイド(微苦笑して)――やれやれ」「弟子は取らない主義なのですがね」
ルーク「いいんだよ 俺が勝手に盗むんだから」

 原作だと、ルークは「ジェイドも俺の先生だな」と言うだけ。「親」はおろか「俺を育てた」とも言いません。ジェイドは即座に「弟子は取らない、教えるのは嫌いだから」と拒絶するけれど、ルークが「勝手に盗む」と笑うと、ちょっと嬉しそうにする、という流れでした。

 この場面のジェイドに感情移入して、年少者に人生の師とされるなんて嬉し過ぎる、生き方そのものを盗むと言うほど認めてくれるなんて、と感動したものです。しかし本作の該当場面には疑問を強く感じました。

 私の勝手な解釈です。ジェイドはルークの人生の師の一人だと思いますが、決して(ネビリムが私塾の生徒たちを教育したのと同じ意味で)《育てた》訳ではないし、まして《親》ではないと思っちゃうんですよね。育てる、というのは責任を負って成長を見ることだと思うけれど、ジェイドはそこまでのレベルでは接していないと思うので。買いかぶり過ぎだよルークちゃん。

 ジェイドの過酷さが結果的にルークを鍛えて育てた、という意味なら、その通りでしょうけども。その意味でなら、ヴァンこそが最もルークを育てた偉大な師ですね。

 

 ルークが唐突にジェイドを《親》と呼んだのは、彼がフォミクリ―開発者だからかと思いますが。その理屈だとディストもルークの親になっちゃいます。イオンもシンクも大量生産レプリカたちも、エルドラントもジェイドの子供って事に。

 

 原作にもアニスが「大佐はルークのお父さんって事になるのかなぁ?」と言ってジェイドが「私の息子なら、もっと利発で愛くるしいと思いますがねぇ」「そもそもアッシュにフォミクリーをかけたのは、私ではなくヴァンですから、ルークの父親はヴァンになると思いますよ」と返す場面がありますが、それには何も感じませんでした。今回引っかかったのはただただ、《ルーク自身が、断定的に》ジェイドを親と呼んだ、その一点だったりして。

 例えばヴァンはレプリカルーク製造を指示した人間で、彼にとって理想の父親・超えるべき父性的な存在ですが、それでもルークが「師匠せんせいは俺の親だから」と明言したら、なんか違うだろう、と言いたくなります。ガイは生まれた頃からルークの世話をしていて、「育てた」と言ってもおかしくないですが、それでもルーク自ら「ガイは俺の親」と断言したら、何だか違和感があります。周囲が言うのは構わないし、ルークが言うにしても「親みたいなもの」「親代わり」程度の表現ならいいんですけど。

 ルークの親はファブレ夫妻で、それ以外ではないと、勝手に思っているものですから……。

 

 なんて。ルークが《親》と言ったのは軽口だろうし、ジェイドだって即座に否定したじゃないかと怒られますね。全くその通り。しかし頭で分かってても感覚的になんか嫌だったんだよ〜〜という、しょーもない愚痴でした。


★チェックポイント38〜ディストはネフリーに恋してる?

 逮捕されたディストがジェイドに向かって泣き喚いていると、ネフリー登場。途端に喚くのをやめて頬を染め、どもりながら彼女の名を呼ぶディスト。アニスが「わかりやっすいなあ もう」と苦笑します。

 幼少時代の回想にも、サフィール(ディスト)が「おまえ(ピオニー)なんか友達じゃない! 僕の友達はジェイドと ネ ネ ネフリーだけ だ…」と頬を染めもじもじする場面がありました。ディストは幼い頃からネフリーに恋していた、と受け取るのが普通の描写かと思います。

 ただ、原作や攻略本、インタビューでは、一度も触れられたことがありません。せいぜい、『エピソードバイブル』ディスト小説に以下のような文章があって、彼女を嫌いではないんだなと思えた程度です。

引用:『キャラクターエピソードバイブル』「Short Story of Dist」(実弥島巧/一迅社/2007年7月24日発売)
 ジェイドが元に戻れば、「さようなら」というあの言葉を撤回してくれるだろう。その時こそ、懐かしい時代が戻ってくる。ジェイドがいて、ジェイドの妹のネフリーがいて、恩師のネビリムがいて、自分がいる。
(ついでにピオニーを入れてやってもいいでしょう。私は心が広いですから)

 つまりこれ(ディストのネフリーへの恋)、今作からの追加設定だと思うのですが。

 ディストがアニスを身を挺して庇ったのがあまりに衝撃的だったので、つい、ディスト・ロリコン疑惑を打ち消すためだろうかと、変にうがった見方をしてしまいました(笑)。アニスへの思いはあくまで友情、恋愛相手は大人のネフリーですよ、という。或いは、ジェイド崇拝者ディスト・ゲイ疑惑を打ち消したかったのだろうか、なーんて。

 ネフリーは、純愛はピオニー皇帝に捧げ、立場はオズボーン子爵の妻。どうしたってディストの想いが叶うことはない。恋愛譚を発展させることのない、言い方は悪いですが、都合のいいキャラだもんなあ、なんて。

 はい、うがち過ぎです。ここは「ディストにも可愛い一面があったんですね」とほのぼのするところなのでしょう。

 

 それにしても、ディストが取り引きした賊に襲撃され、流血するほどの大怪我を負わされたというのに。怒りも恐れもせず、ただ親身に心配してる。いくらディストが直接手を下したわけではないとはいえ……。ネフリーさんは女神のような人だなあと思います。


★今月の飄々ジェイド

 大きなものは無かったです。小さいのが二つ。

 ひとつ。ネビリムの墓碑前で「ジェイドさん 見つけたですの!」と喜んで飛びつこうとしたミュウをサッと避ける。雪の中に突っ込んで目を回したミュウを鷲掴んで「ご主人様が違います」「」とルークに投げパス。ディストの意識が回復したと聞いて「それは不幸な知らせですね」。

 ふたつ。「私を憲兵に引き渡すなんて それでも親友ですか!?」とディストが泣き喚くと、傍らのアニスの肩を叩いて朗らかに「だそうですよ 親友。」アニスは焦り怒って否定し、ディストは更に泣き喚くのでした。


外伝小説『雪降る街からの手紙』

レプリカ・ネビリム事件の終息後、
旧友の元に届いた一通の手紙――。
原作ゲームのシナリオライター・
実弥島巧書き下ろし!
コミックオリジナルキャラを交えた、
スペシャルショートストーリー!

 ケテルブルクの消印の押されたジェイドからの手紙を受け取って、ジャスパーは驚いた。彼から手紙が来るなど始めてのことだったからだ。

 その手紙には、奪われたサフィールの遺品を巡る事件の顛末が書かれていた。サフィールが生きており、近々グランコクマに連行されるだろうことと、捻くれ気味の書き方ながら、彼の処遇への配慮の依頼まで。
 更には、ジャスパーがルークへの口添えを通してジェイドを案じてくれたことへの感謝と、エルドラントの一件が片付いたら再びフォミクリ―に向き合うつもりであること、その際には手伝ってほしいということが、やはり素直とは言えない言葉で書きつづられてあった。

 素直になりきれない文章に苦笑しながらも、ジャスパーはしみじみ思う。本当にジェイドは変わった。いや、強引に自分を変えたのだ。これから面倒は多くなるだろうが、ジェイドがフォミクリ―に対する意識を変えてくれるなら我慢できる。

(ルークさん、ありがとうございます)

 遠い空の下で今も戦っているだろうレプリカに向けて、ジャスパーは感謝の念を捧げるのだった。

 最終回にて、ケテルブルクからジェイドが投函した手紙。それを受け取ったジャスパーを描いた短編小説です。

 掲載誌『テイルズ オブ マガジン』休刊に伴い、連載されていた『テイルズ オブ ヴェスペリア』小説版が一足早く終了(文庫書き下ろしに移行)。その穴を埋める形で掲載されました。

 雑誌掲載時はカラー挿絵1ページ付きでしたが、単行本には再録されていません。ジャスパーがカラーで描かれたのはここだけ、ですかね。

 

 注意すべきは、この小説が掲載された時点では まだ『追憶のジェイド』は連載中で、第6話が出たばかりだったということ。なのに結末のネタバレになっているという。ゲーム原作があるからこそでしょうが、乱暴な話ではあります。(^_^;)

 

 この小説で描かれた、ジャスパーのジェイドへの友情は、いささか衝撃的ではありました。サラッと書かれてるんですけどね。いくら友達とは言え、どうしてそこまで献身しなければならないのかと思ってしまった私は、情のない人間なのでしょうか。

 この辺は、全体感想の方で触れます。


エピローグ『すべて世はこともなし』

 ND2020末、ある日の午前。グランコクマで開かれた国防委員会にて、ジェイドの提案は委員たちから激しい批判を浴びていた。
 生物フォミクリー研究の再開。
 莫大な予算がかかるうえ国家機密にも抵触する。しかも、皇太子時代のピオニーの奏上で廃止された案件だ。それを覆すなど不敬である、陛下の信頼をいいことに調子に乗っているのではないか、と。
 再開に賛同したのはガルディオス伯爵(ガイ)だけ。しかし彼もまた、レプリカたちが《お友達》だから私情を挟んでいると揶揄され、一蹴されてしまう。
 ピオニーは「性急過ぎる」と述べて委員たちに賛同し、不認可のまま会議は終わった。

 会議後、ジェイドをジャスパーが呼び止める。頼まれていたエルドラント関連の情報閲覧の許可が出たと、わざわざ資料を持ってきたのだ。キムラスカ側の許可も必要な資料閲覧がこれほど早く実現したのは、ナタリア王女の口添えがあったからだと言う。持つべきものは仲間ですね、と言ったジェイドに、らしくないと笑いながらも感銘を受けるジャスパー。
 ジェイドは本当に変わった。そして彼を変えたのは、二年前にエルドラントに消えたルークだ。

 今日はルークの成人の儀だが、彼の帰還を信じる仲間たちは墓前での式典には参加せず、今夜、エルドラントの見える場所で仲間内だけで祝う計画なのだと言う。

 ジャスパーはジェイドを励ました。ジェイドが議会への根回しもせず性急に研究再開を提言したのは、今日のルークの成人の儀までに形にしたかったからだろう、と見抜いたうえで。ジェイドは笑って焦りすぎた自分を認めた。ともあれ、なんと言うこともない。まだ全ては始まったばかりだ。
 自分の愚かさが生み出したレプリカたちのため、そして大切なことを気づかせてくれたネビリムとルークのためにも、フォミクリーを平和に役立つ研究に昇華させていきたい。

 一時間後、ガイと待ち合わせてタタル渓谷へ向かうために執務室を出ながら、ジェイドは改めて願いを胸に抱くのだった。

(あれからずっと奇跡を願っている)(そしてその瞬間に 恥じ入ることのないように生きる)
(それが―― 唯一の償いの道だから)

 単行本に描き下ろされた《本編エピローグ直前の話》です。アニメ版最終回のエピローグに繋がることを意識してシナリオが書かれているとのこと。

 漫画家さんのブログによれば、何度もネームのやり取りをして、シナリオライターさんにもこだわってもらったのだそうな。

 

 タイトルが『すべて世はこともなし』なのには、何だか考えさせられました。だって、周囲の反対でフォミクリ―研究の再開すらできておらず、色々問題が未解決のまま。ちっともうまく運んでいないのに「こともなし」なんだなあと。苦難があってもへっちゃらさ・粘り強く乗り越えるよ、とたくましく日々を生きるという意味なんだろうかと考えましたが、違うのかも。


★チェックポイント39〜ジェイドの味方をしないピオニー

 原作やアニメ(ドラマCD)だと、ジェイド絡みシリアス話の《まとめ》には決まってピオニーが登場し、ジェイド最大の理解者(精神的保護者?)として大きな存在感を誇っていたものですが、本作ではそのパターンが壊されており、目を引きました。

 登場はしていますがほんのちょっと。おまけに、安易にジェイドの味方をしなかったのです。(気持ちは分かると理解を示しつつも、今は賛成しかねると明言した。)今までになかったことで驚いたんですが、アニメ版ドラマCD4の感想でピオニーは身内に甘過ぎると書いた身としては、ちょっとホッとしたのだったり。

 親友だからと言ってジェイドが可愛がられすぎるのでは、国として長く動いていかないですもんね。最終的には皇帝が周囲に憎まれますから。

 本作ではジェイドが他の重臣たちに必ずしも信奉されていない(普段は友好的な人物も今件では反対している)様子が描かれていて、「陛下のご信頼をいいことにあのような――」とまで言われており、新鮮でした。本編ではグレン将軍が軽い嫌味を言ったくらいで、上官でも腰低く敬意を払い、国のトップの人々もみんなジェイドに一目置き頼りにしているという様子でしたもんね。

 

《いつもの》ピオニーポジションには、彼の下位互換キャラであるジャスパーが鎮座。にこやかにジェイドと会話し、互いの労をねぎらい、ルークの業績を追憶し、過去からの逃避をやめ前向きに動き出したジェイドを好ましげに見守っておりました。


★チェックポイント40〜フォミクリ―研究の再開

 アニメ版ドラマCD4だと、エルドラント決戦の三ヶ月後には(ピオニーの許可で)フォミクリ―研究再開が決まっていたのに、本作では二年経っても根回しすら完了していないことになっていて、びっくりでした。ジェイドは二年も何やってたんだろう? 逆に言うと、フォミクリ―研究(レプリカ)に対して、マルクトではそれだけ拒絶が強いんですね。

 ……キムラスカは、エルドラント決戦前にもレプリカ探索機を開発させていたりしましたが、意外とあちらの方がフォミクリ―研究を再開させやすいのかも。(既にベルケンド辺りである程度進んでたりして? 領主たるファブレ公爵がさせてそう。)でも技術の持ち出しをマルクトの重臣たちは許さないんだろうなあ。……実際は情報は国外に漏れ尽くしてしまっているのに、いまさら国家機密がどうこう言っても。何とか提携できればいいんですけど。

 

 原作時点では「レプリカを代替え品ではない何かに昇華させたい」という曖昧な言い方をしていたジェイド。今作でも「生物フォミクリーを平和研究にする」と漠然と言っていて、具体的に何をするかは決めきれていない感じですが……。ジェイドはともかく、賛同者のガイは何をしたいか明確な目標があるようですね。

「レプリカたちの住環境を整えるとなると 彼らの医療問題は避けて通れません」
第七音素セブンスフォニムの乖離問題を解消するには どうしても研究が必要に―――」

 音素フォニム乖離を起こしたルークを手の施しようがなく死なせてしまったことが、大きな悔恨になっているんだなあと、改めて思いました。

 

次ページへ

 



inserted by FC2 system