エンターブレイン/ファミ通文庫/矢島さら
ファミ通文庫小説版の外伝。上下巻予定の下巻です。
とりあえず、本文を読む前にあとがきを読む。……ん?
「今回入らなかったジェイドのお話も機会があればまた書きたいと思っています。」
えええ!? 慌てて本文を見ると、ラストに「エピローグ ジェイド・カーティス」という章があるものの、四ページ分くらいしかない…。
……落ちた? はっ。そういえば、十二月発売の文庫なのに、あとがきの日付が十二月だ…。
がーんがーんがーん…。ジェイドの話楽しみにしてたのにぃ。
とりあえず数ページのみのエピローグからでも、ぼんやり話が見えはするのですが。…レプリカネビリムと戦ったのは、ラスボス戦前、ルークが生きてた時なんですね。そんで大爆発設定は……扱う気だったのかどうか微妙、というか、扱うつもりが無かったっぽい。
「帰りましょう。夜の渓谷は危険です」
ふたたび声をかけると、ようやく仲間たちは踵を返し始めた。
彼が姿を現したのはそのときだった。
セレニアの群生の中を歩いて来た人影をひと目見るなり、ジェイドはその場に立ち尽くす。
ティアが、そして仲間たちが遅い帰還を果たした人影に寄り添ってゆく。
(……背中を押しに来てくれた訳ですね――)
これでようやく動き出すことができる。
もう二度と恐ろしい後悔の種を播いてはならないのだ。
ジェイドは、彼の行く末を見守る責任からだけは逃げまいと自分に固く誓った。
……どうも、この作家さん的には、ラストで帰ってきた『彼』は、ルーク…か、むしろルーク寄り人格の赤毛融合体、とでも考えているっぽい。だって「彼の行く末を見守る責任からだけは逃げまい」ってことは、文脈的に、帰ってきた『彼』がレプリカかレプリカの進化体ってことになりますから。「アッシュ」という可能性は全く匂わせていない書き方です。
まあそれはともかく。今巻は、個人的に前巻よりも面白かったです。オリジナル要素がとても強かったですし。
『ナタリア・ルツ・キムラスカ・ランバルディア』
外伝二冊に収められた四つの話の中で一番好きな話。バダック(ラルゴ)が好きになりました! オリジナルキャラのキーリー医師もいい感じでしたね。
ただ、バダックと(キーリーの患者の)シルヴィアの交際・結婚を、キーリー医師が積極的に、かなり強く押しておきながら、押されてついにバダックがシルヴィアと結婚したら、その祝宴の直後に路地に引きこんで
「医者として忠告するぞ。子供は無理だ――出産はシルヴィアにとって命と引き換えになるだろう。わかったな?」
って言うのは…。なにそれ。何かのハメか。キーリーは鬼かと思いました。そんなこと結婚前に忠告するべきでしょう。なんだか陥れられてるよバダック。
そして、忠告を受け入れて子供は作らないと誓いながら、殆ど間を置かずにまんまと「当たってしまった」バダック。避妊して下さい(笑)。
気になった点が二つ。
ひとつ。譜業写真機(カメラ)が少なくとも数十年前から一般に普及していて、現在は写真はデータ化して音譜盤に収めるのが普通ってことになってます。…現代日本の水準と同じくらいな感じ。
…じゃあ、ゲーム中でパーティーメンバーの誰も写真撮らないし見せないし、珍しいものであるかのように「写真」と言うものが殆ど物語中に出てこなかったのは、単にパーティーメンバー全員がたまたま写真に興味のない連中だったからなのか。
もう一つ。
ナタリアと王女のすり替えは、実は組織的に行われていた。これは原作のメインシナリオライターさんに聞いた設定……。
そうなのか…。
どこまでシナリオライターさんが語った設定に沿っているかは分かりませんが、小説では、王女すり替えは「秘預言で定められていた」ことで、「ダアトから公式に派遣された男二人が、乳母を脅して実行した」ことになってました。
実を言えば個人的に、ナタリアはオールドラントの歴史にとって非常に重要な人物ではないかと考えていました。つまり、ユリアの預言で語られていた、マルクト衰退後のキムラスカの数十年間の未曾有の大繁栄。これをもたらしたのは女王となったナタリアなんじゃないかと思ってたのです。時期的に丁度合いますし、ゲーム中で、ナタリアが王女になることは預言で定められていて、バダックとシルヴィアの夫婦に預言士が、あなたたちに必ず子は授かる、いや、必ず産まねばならぬと言ったとも語られていましたので。ナタリアは「王女にならなければならない」存在だったんじゃないかなぁ、と。
ユリアが詠んだ本来の歴史では、愛する婚約者の『聖なる焔の光』を失った後、ナタリアが頑張ってキムラスカを大繁栄させて、けれど数十年後に彼女が死ぬと同時に崩壊が始まり、ついには世界が障気で滅亡…ってことだったのではないかなーとか勝手に妄想してみたり。ナタリアこそ真の英雄だったのです。なんちて。
なので、この小説でナタリアがすり替えられることが秘預言に詠まれていて、その為にダアトが暗躍してそれを実行したことになってたのは納得できる感じではあったんですが、一方で「変だ」とも思いました。
何故って、それでは大詠師モースがナタリアが偽姫だと告発して処刑しようとしたゲーム本編の流れに繋がらなくなってしまうと思うからです。
小説では、王女すり替えの指示をしたのはモースってことになってます。モース旗下の神託の盾騎士団情報部に所属する二人の男、イエール謡長とカブスが実行犯として選ばれた。モースは最初から天涯孤独な情報員を探していて、その後、「不幸なことに」カブスの一族郎党が強盗に殺されて天涯孤独に。彼自身も任務実行後に殺害されたらしい。イエールは、口封じに大金もらったらしい。
ゲーム本編でモースが「私はかねてより、敬虔な信者から悲痛な懺悔を受けていた。曰く、その男は、王妃のお側役と自分の間に生まれた女児を、恐れ多くも王女殿下と摩り替えたというのだ」と言いますが、あとがきも含めて読み取るに、その「懺悔した男」ってのがイエールで、姫すり替えの証人であるイエールは、それを実行した時点で、いつかモースに使われる「切り札」になったのだ、ということらしい…ですが…。
???
教団がモースの指示で組織的にキムラスカの王女をすり替えていた。その生き証人であるイエールが、どうしてモースにとっての切り札になりえるのか?
変だと私は思うんですが…。
かえってマズイじゃないですか。教団がそんな罪を犯したことがキムラスカにバレちゃったら。預言に詠まれてたんだから知られたところで怖くないというなら、切り札にもなりません。このことを知っている乳母も生かして放置してましたし、だったらカブスをわざわざ天涯孤独にした上で殺す必要もないと思うのですが。なにこの半端な対応。
と言いますか、将来ナタリアがモースの敵になるなんて預言にも詠まれてないはずなのに、どうして、いわばナタリアの弱点を掴むことが切り札なのか。…将来的にモースはこのネタで女王になったナタリアを脅して、言いなりに動かすつもりだったんでしょうか?
そもそも、ナタリアのすり替えがモースの指示で行われたことなら、モースが自らそれをバラしてナタリアを処刑しようとしたのは何だったのか? 預言には入れ替えのことしか詠まれていなかったから、すり替えた後はもう殺しても問題ないってことだったのか?
ゲームでモースが言う、すり替えを懺悔した男って言うのは、単純にラルゴのことだと私は思ってたのですが…。だって「王妃のお側役と自分の間に生まれた女児を、恐れ多くも王女殿下と摩り替えた」って言ってるじゃん。ラルゴ自身がすり替えたんじゃないけど、娘をすり替えられた苦しみを口にしたことがあって、それを適当に誤魔化してそう言ったんだと思ってました。…いやうんゲームと小説は設定が違うってだけですね。
あと、死産だった王女の死体を埋めたのはカブス一人で、どこに埋めたか少なくとも乳母は知らないのに、原作ゲームでは「乳母が言った場所を掘り起こしたら骨が出た」と語られてるので、ゲームから見ると辻褄合ってないっす。
それから。原作で語られてた、娘がすりかえられたことを知ったバダックが城に押しかけ、衛兵と揉み合いになって殺してしまい、バチカルを離れざるを得なくなったというくだりが、丸々語られてないのが不思議でしたし、ガッカリでした。
子供が出来てバダックが大はしゃぎして、家を増築するだのなんだの騒いでたというくだりなんかも。余さず小説に入れてくれてたら嬉しかったです。ページ足りなかったのかなぁ…。
この小説では乳母にマギーという名がつけられ、シルヴィアは心臓に疾患がある女官ってことになっていますが、これは原作で細かく定められていなかったため、作家さんが独自に作った設定だそうです。
『イオン』
イオンレプリカたちの話。中心になっているのはシンクとレプリカの導師イオンのエピソードで、それをフローリアンのエピソードが挟み、アニスとアリエッタが彩りを添えています。
フローリアンの内面というのは、原作ではほぼ分からないのですが、それが色々語られていて面白かった。
……ちょっと怖かったです。火山に廃棄されて消滅した三人のイオンレプリカを指して、(あれはみんな名前がなかったな。だから消えたのかな……)と思うところとか。
でも、アニスに名付けてもらって名前を呼ばれて、(なんでだろう。名前を呼ばれると、僕は僕になる――)と思うところは、感動的でした。
シンクは、レプリカ編で秘奥義を使うとカットインで上着が破れて、露になった胸に緑の紋様が描かれているのが見えます。この紋様に関して、多分公式には何も設定は出てないと思うのですが(出てるのなら済みません)、プレイヤーの間では、あれは能力強化のために描かれた譜陣なんだ、という説がありました。
この小説ではその説の通り、あの紋様は譜力を高めるための譜陣で、描いたのはヴァンだということになってました。おお。
それはそうと、シンクの服の両肩にある丸い留め金のようなものが、例の上着が破れるカットインでは肩の位置から動かずそのままあるので、あれは肉体に埋め込まれた音機関で、肉体強化のためのものだ、という説もあるんですが。こっちはどうなんでしょう?(笑)
オリジナルイオンはダアト式譜術(魔法格闘技)の使い手だったので、てっきり病気になるまでは譜術も体技も得意だったんだと思ってたんですが、この小説では「もともとご病気がち」だと語られていて、オリジナルイオンはシンクのように敏捷ではないと語られていたので、意外でした。
イオンの内面も色々と語られていました。つくづく聖人だ…。
それはそうと、ファミ通攻略本に書かれている通り、イオンはアニスがスパイだということをずっと知ってて黙ってた…というのは、もう確定の公式設定なんですかね…。ゲーム中にはそれと分かる描写はないのになぁ。現実に大きな被害を出しているアニスのスパイ活動を知りながら放置し、平気で重要な話に参加させて連れ回していたなんて…イオンがそんな大馬鹿者だったなんて、思いたくなかったのに。
追記。数ヵ月後に発売された『キャラクターエピソードバイブル』にて、どうしてイオンはアニスがスパイだと知りながら黙っていたかの心境が明かされていました。
ティアを自分の意志で救ったことを誇りに思い、それが自分の生まれた意味だと思って、幸せを感じながら死んでいった、か…。イオンの見つけた答えはルークと近いようでいて、やっぱ違う感じがしました。
それはそうと、シンクの最後の戦いのシーン。仮面を被って戦って、彼が消えた後には仮面だけが残ってたと語られますが、ゲームだとレプリカ編ではシンクは仮面着けてないよね。
なにはともあれ、面白かったです。フローリアンは幸せになるといいですね。
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