エンターブレイン/ファミ通文庫/矢島さら
ファミ通文庫小説版の外伝二期。上下巻の下巻。
今回のカバーイラストは、(前巻が長髪ルークとガイだったことから)予想していた通り、短髪ルークとティアでした。本編ノベライズ上巻と並べると楽しいかもしれません。左右逆だけど構図が同じなルーク&ティアで、そっちはルークが長髪だから。
出版社のサイトで、背景やロゴの入っていない状態のカバーイラストを見たとき、「この色味は…何かの記憶を刺激するッ…!」と思ったんですが。アレだ。昔のマンガ雑誌の二色カラー。アレに似てる。
#知らない人のために説明しておくと、黒と赤(と白)の絵の具だけを使って塗ったカラー原稿です。昔はフルカラーはお金がかかったから。赤は薄めると肌色や黄系も表現できますし、青系は黒を薄めて表現する。
でも背景やタイトルロゴが入って帯が付くと、普通の色味のカバーに仕上がってました。デザイナーさんは偉いなぁと思った。
口絵はセレニアの花畑のティア。女の子は耽美陶酔絵柄でも綺麗だから問題なし。(←性差別発言)
目次ページカラーのデフォルメ・ヴァン師匠はインパクトありすぎた。ぬいぐるみが欲しくなる勢いだった。
あと、今回はモノクロイラストがだいぶ耽美成分が抜けて、アニメ線画的になっていたような気がしました。個人的には良かったです。ガイ兄さんが普通に素敵な顔で描かれていたぜ! ティアは綺麗でルークは可愛かったぜ! よかった!
今巻も全四章。第五章と七章がティア編、第六章と八章がガイ編。最後に共通のエピローグが付いています。
以下ネタバレ。
◆ティア編
『テイルズ オブ ジ アビス』はとても長い話で、別メディアへの完全転化は難しい。SD文庫小説版もドラマCDも、どちらも当初の予定から一巻追加して、一年以上もの時間をかけ、それでもキチキチパンパンな感じに仕上がっていました。それを思えば、ファミ通文庫小説版が短期間で本編をたった三巻にまとめきったのは、本当に凄いことだったと分かります。
どうしてそんなことができたのか。それは、(SD文庫小説版やドラマCDが長々と描写してしまった)外殻大地編を大胆にアレンジし、更に後半で語られていた一部設定もここで明かしてしまって、上巻一巻分に収めておいたことが大きいという気がするのでした。
けれどその分、外殻大地編のかなりのエピソードが切り捨てられていたのも事実です。たとえば、疑似超震動で飛ばされたルークとティアが、セレニアの花畑で初めて会話する辺りだとか。
今回の外伝では、それらカットされていたシーンが丁寧に語られています。本編ノベライズを正しい意味で補完していました。ティア編前半である第五章はそれが主であり、後半第七章は、サブイベント「ティアのペンダント」と「リグレットの遺書」を核にして、大好きだった兄、理想と仰いでいた教官、そして初恋の人・ルーク……それぞれへのティアの想いを綴っています。(「ティアのペンダント」に関しては、『エピソードバイブル』のティア小説の内容も取り込まれていました。)
いくらヴァンが討つべき世界の敵だからと言って、神託の盾騎士団の軍服でファブレ公爵邸を強襲するのはおかしい。国際問題になってそれこそ戦争が起きても不思議ではなかった。ティアの行動は無茶過ぎないか。
これはプレイヤーの間ではよく挙げられている疑問だと思うのですが、そのフォローがなされていました。
ヴァンが首都バチカルのファブレ公爵邸で、ひとり息子であるルーク・フォン・ファブレの剣術の師をしているという情報はむろん入手していた。だが、ティアは人の多い公爵邸を決行場所にするつもりはなかった。警備兵たちはもちろんのこと、罪のない民間人を巻き込むことは極力避けたい。
(でも、兄さんがなかなか見つからなくて……やっとあそこにいるとわかったから)
剣術を教える日ではなかったのにヴァンが屋敷にいたのは、公爵に帰国の報告と挨拶をしに行ったのだろう。ティアは――このときはまだ導師イオンが行方不明になったことは知らなかったが――兄が間もなくダアトに戻るという情報を掴んだところだった。
(兄さんがダアトへ戻る前に決着をつけなければ……!)
追い詰められた精神状態にあったティアが、結局は後先考えずに飛び込んでしまった、という話。
ティアはルークよりずっと落ち着いてしっかりしているように見えますが、実際は殆ど社会経験のない、リグレットの真似をして大人の女性を装っているだけの、十六歳の女の子に過ぎない。旅をしたのも、外国に来たのも、全て初めて(のはず)です。色々、周りが見えなかったんでしょうね。
……っつーか。作劇的には、単に「暗殺者の少女が突如屋敷に侵入」という、かっこいいシチュエーションが優先されてただけのことなんでしょうけども。ガイが何故かタルタロスから華麗に飛び降りてくるのと同じく。ちなみに、ガイの華麗な登場のフォローもガイ編でなされてました。
「ルーク、起きて」
片膝を突いて顔を覗き込むと、青年はようやく目を開けた。怪訝そうな表情で起き上がると、
「……きみは?」
と、首を傾げる。
「よかった。無事みたいね」
ティアはほっと息をつく。ヴァン討伐を決心したときから保身など考えたことはなかったが、公爵の子息を傷つけたとあっては別の意味で厄介なことになるだろう。
頭が冷えて、やっとそのことに思い至ったようです。
冷静に考えれば、ヴァンが帰国することが分かっていたなら、港で待ち伏せるか船に潜んでいればよかったんですよね。なのにファブレ公爵邸に押し入ったティアは、相当テンパってたとしか言いようがない。
しかし彼女のこの行動が、逆に、滅亡の定めを大きく動かすことになった。預言を変える鍵、しかし使い捨てられようとしていたレプリカルークを手中に収めることになったからです。ティアのテンパり行動がなければ、少なくとも今のこの世界は滅んでいた。これもユリアのお導き、でしょうか。
ティアは当初、ルークの言動に本気で呆れていたそうです。
ルークと旅を始めたばかりの頃は、自分の弱さへの後ろめたさを打ち消すために過剰にルークを軽蔑してはいないかと、己に問いかけて自戒していたのですが、どう考え直してみても最初の頃のルークの言動は酷すぎた。ワガママだし傲慢だし気分屋だし弱者(ミュウ)に対して残酷だし文句ばっかりだし。そのため、暫くすると「結局、バチカルで巻き込まれたのは私のほうだったのかもしれない」と思うようになったそうで。本気でルークに呆れていたんですね。
それでも、ルークが食糧泥棒の嫌疑をかけられて床に蹴転ばされたのを見ると、自身がブウサギ殺しの濡れ衣を着せられた経験を思い出して、胸を痛めたそうです。親善大使に任命されたルークが思い上がって導師イオンをないがしろにし、ヴァンの策略に乗ってアクゼリュスを崩落させ、なのに「俺は悪くねぇ!」と意固地に言い続けて。仲間内で孤立してしまった。そんな姿を見てやるせなさを感じ、同時に、自分がヴァンを討ち損じたからこんなことになったのだ、と罪悪感に苦しんだそうです。
”これからの俺を見ていてくれ、ティア。それで判断してほしい”
”すぐには上手く行かねぇかもしれない。でも俺……変わるから”
手にしたティアのナイフで、ルークはうしろでひとまとめに握った髪をひと思いに切った。
そのとたん、ティアの唇が震えた。かつてはそれを眺めて兄を思い出していたセレニアの花を、今度はルークを想いながら見るのかもしれない……、そんな淡い予感がしたのだった。
ルークの指から零れ落ちた赤い髪は風にほどけ、花の光に美しく透けた。その明暗に、タタル渓谷での記憶が甦る。セレニアの群生に広がる、まだ長かった赤い髪――。
(ルークが変われるなら、兄さんも変わるかもしれない。預言に支配されたこの世界も、そして私も)
それは、新しい希望だった。
ルークが変わろうと決意したことが、彼を見続けていたティア自身が変わるきっかけにもなったんですね。綺麗なシーンだと思いました。
それからは、ルークとの甘い思い出が語られます。ルークが、かつて馬車代として売り払ったペンダントを買い戻してくれたこと(申し合わせてティアを誘い出そうとする挙動不審なルーク&ミュウと、怪しむガイのやりとりが面白かったです)。そしてエルドラント突入前夜、二人で月を見た、小さな煌めきのような時間のこと…。本編ノベライズではルーク視点だったシーンが、ティア視点で語り直されます。
そしてリグレットとの最後の戦い。本編ノベライズでは残念ながらカットされていた部分が丁寧に語られていました。
ただちょっと驚いたのが、ゲーム内そのままに、リグレットの遺書を見るためにエルドラントの入口から引き返してユリアシティに行っちゃうこと。いや、この状況で引き返すのは、一本道の小説としてはどうかと…。
オリジナル設定の「弟の形見のオルゴール」を使うためにも、ペンダントそのものに遺書が隠されていたという流れにするわけにはいかなかったんでしょうが、そうまでしてオルゴールにこだわらなくていいのに、と思ってしまいました。
それからヴァンとの決戦。ルークとの別れ。本編ノベライズでは神視点で語っていたものをティア視点で語り直しています。本編ノベライズでは恐らく紙数の問題でやや簡潔になっていた部分ですが、情感たっぷりに開かれていました。
そのあとの光景を、ティアは一枚の絵のように思い出すことができる。
夕焼けの中で、燃えるようだったルークの髪――。
(中略)
(あれから私は変わったかしら――?)
ルークを待つ時間が自分を変えたかといえば、そんなことはないと思う。
ただ、以前より少し忍耐強くはなった。神託の盾での任務も板についてきたはずだ。
それでも日々感じるのは、リグレットの手紙にあったのと同じように、自分もまたただの人間にすぎないということだった。欠けている部分がたくさんある。
欠けを埋めるように誰かが寄り添ってくれるから、きっと人は救われるのだ。
”必ず帰るよ……約束する――”
ルークの声はいまもはっきり耳に残っている。
ティアはペンダントをはずし、手のひらに載せた。
(これにまつわる人たちは、みんな私の周りからいなくなってしまった――まるで、星になってしまったみたいに)
ティアは宝石の中に輝く星をじっと見つめる。
両親、兄、リグレット、そして――。
(ううん、ルークは違う。彼はまだいなくなったわけじゃないわ。帰って来るって約束したもの)
いつもいつも待っていた。
いつもいつも待っている。
――長い間変わらなかった自分の心の中に、新たな気持ちが芽生えかけているのをティアは感じていた。
ここでティア編は終了。エピローグへ続きます。
再登場させたいと予告されていた前巻のオリジナルキャラクター、アリッサ・タルバスの登場は叶いませんでした。うぉお。本気で一家消息不明か。後味悪いことに。
また、あとがきや作家さんのサイトに掲示されたこの小説へのコメントによれば、三年前のケセドニア北部紛争にて慰問に訪れたナタリアがリグレットの弟と出会うエピソードを、実際に書いていたそうなんですが、入れられなかったそうです。紙数の問題? 残念。
ティア編は、長髪時代のルークに関して、容赦せずに客観的評価を下しているのがすっごくよかったです。ただ、長髪時代のルークも、優しさを垣間見せることはあったのに、それに全く触れないのはちょびっと残念だったかも。でも、「変わる」宣言以前はトコトン駄目だったとした方が、きっとルークの変化をより際立って見せられるんで、限られた紙数の中ではこれがベスト、ということなのでしょうか。
それにルークがもともと持っていた美点に関しては、ガイ編でガイが言及していましたんで、その辺はガイに任せた、ということなのかも。ガイ曰く、「あいつなら大丈夫だ、と思う。」「いつも偉そうな物言いをし、平気で乱暴も働く。だがその実繊細で、根はまっすぐなはずだ。」だそうです。
ところで、今回の小説のティアへの描写で、一つだけどうしても納得できないことがありました。
ティアの髪の色が「黄金色」だと書いてあるんです。作中で二回くらい。ガイの髪と同じ色だそうです。
どうやら、ガイとティア、二人の髪の色が同じ黄金色で、それにちなんで「黄金の祈り」というサブタイトルになってるということらしい。
でも。ティアの髪の毛って、黄金色ですか? ガイと同じ色ですか??
そりゃ、世の中に髪色は金と黒しかない、みたいな二者択一だったら、金のカテゴリに入れられる色ではありますよ。けど、ティアの髪は黄金色じゃないと思うんですが……。
ものすごく腑に落ちない。
ついでなのでもう一つ、「おお」と思ったこと。今回の小説では、可能な限り「エルドラント」という表記を使わず、「新生ホド」としてる感じでした。「エルドラント」とは地の文では三回くらいしか使ってなかった気がする。ガイとティアがホド出身だから、イメージしやすいようにって配慮なんでしょうか?
◆ガイ編
ティア編がほぼゲーム(+『エピソードバイブル』)で触れられた範囲内のティア視点に留まっているのに対し、しょっぱなから、”23day,Rem,Rem
Decan,ND2018”のガイ視点を、ゲームで語られていなかった時間帯まで膨らませて細々と描写しているなど、イメージの翼を広げてのびのびと語られています。
おや、と思ったのは、疑似超震動で消えたルークの捜索に、白光騎士団の幾つかの小隊が向かったと語られていた点でした。特別仕立ての船でマルクトへ向かったそうです。その他、キムラスカ国内での捜索に当たる者もいたとか。(ガイ自身、白光騎士団たちと同船してケセドニアへ向かい、そこで彼らと別れたそうです。)
今にも戦争が起こりそうなくらい関係が緊張している敵国へ、私設軍を小隊で送り込む…? ついでに言えば、ルークがマルクトの領内に飛ばされたことは、譜術の探査によって明らかになってました。(ゲーム本編中でも、この小説内でも明言されている) なのに国内も捜索させたのか?
個人的には、ただの世話係に過ぎない、さして実績も持たないガイが公爵直々に任命されてルーク捜索の任についていた点から見て、敵国に白光騎士団(正式な捜索隊)を送ることを憚ったんだと思ってましたが…。外部者たるヴァンが、かなりの枚数の特別な旅券まで持たされて捜索をしていた点から見ても、ヴァンが自分の手のうちで事態を処理するために、ガイと自分で捜索すると、公爵を上手く言いくるめたんだろうな、とか。万が一にも、ルークの存在をマルクトに知られてはなりませんもんね。アクゼリュス崩落をシナリオ通り引き起こすためには。
それに、白光騎士団もマルクト領内に入って捜索していたなら、マルクトで再会した時にガイがルークにそのことを一言も言わないのはおかしいと思うのです。屋敷に戻った時に白光騎士団のところにごますりに行ってたのだって、彼らを差し置いて捜索の任を与えられたからだと思いますし。
ガイはケセドニアで二日ほど聞き込みを行い、酒場で(ルークとティアをエンゲーブまで運んだ)馬車の御者に出会って、彼の話を聞いて、あくる朝一番の辻馬車でエンゲーブへ向かったそうで。
…ここ、ものすごく気になったんですが。
ケセドニアとルグニカ大陸を結ぶローテルロー橋は、この時点で落ちていて通行不能のはずでは。
ルークたちが乗った馬車が通過した直後、タルタロスに追われた漆黒の翼が音素爆弾で破壊した。だからこそルークたちはマルクト領内から簡単に出られなくなり、ルグニカ大陸を縦断する旅をすることになったんですから。ティア編では橋が落ちたことは明記されてるのに、ガイ編では全く触れられない。
そもそも、橋が落ちた直後なのにルークたちをエンゲーブまで運んだ御者がケセドニアで酒を飲んでいるっていうのも少し不思議な感じかも。もちろんグランコクマから船に馬車ごと乗って移動したと考えることが出来ますし、実際、ゲーム本編でも二ヶ月ほど後にルークたちがケセドニアに入ると彼と再会できますから、おかしくはないんですが。
ともあれ、ローテルロー橋は落ちて、復旧したのは戦争イベントの時です。三、四ヶ月は復旧しなかったことがゲーム中で明言されてる。なのにケセドニア経由でガイは追いかけてきた。どんな手段を使ったのかな、どんな冒険があったのかなと楽しみにしてただけに、「辻馬車をつかまえた」の一文で流されただけだったのは、ちょっとガッカリしました。
…んー。グランコクマまで船で行って、偽造旅券でマルクト領内に入り、そこから辻馬車に乗った。それが省略して書かれてあると考えるのが一番無理がないのかなぁ。
しかし急ぐことを考えれば自分で船をチャーターして直接海峡を渡るというのもアリな気もします。(でもそれだと辻馬車捕まえるのは難しくなるか。)
まさか、海峡も走れる希少な最新式譜業辻馬車があったとか(笑)。ガイ兄さん大興奮しそう。
そういえば、エンゲーブに行く途中で、ガイは馬車の中からタルタロスを見かけて大興奮していたそうです。
エンゲーブに到着するまでの間に、ガイは広大な平野を我が物顔に走り回るマルクト軍の巨大な陸上装甲艦を一度目にしていた。
音機関好きの彼の目には、それは外観だけでもとてつもなく魅力的に映った。
(すげー! 譜術攻撃も相当なものなんだろうなぁ。機会があったら乗ってみたいよな。ないだろうけどさ)
辻馬車――御者は別の男だった――の窓に貼りつくようにして、ガイは束の間のいい眺めを楽しんだのだ。
電車やバスの窓に貼りつく小さい子供みたいなガイが可愛い〜! つか、タルタロスを初めて見た時のルークの行動とそっくりなんですよね。ガイは一応黙って見て、ルークはかぶりついて見て声に出して「すげー、迫力!」などと騒いだ、って点が違うだけ。
もしガイがルークと同じ馬車に乗っていてタルタロスに初遭遇したなら、二人で一緒に窓に貼りついてワイワイ騒いだんでしょうか。そんでティアがムツッとしながら二人を後ろから引っ張って、キチンと席に座り直させたんだろーな。ガイはティアに触られて悲鳴あげたんだろーなぁ。ちょうかわいいよ!
さて。エンゲーブで聞き込みをしたガイは、しばらく前にマルクト軍の陸艦が導師イオンを伴って訪れたことを知ります。根拠はないけれども、もしかするとルークは陸艦に囚われているのではと考え、徒歩と辻馬車でタルタロスを追い続けたそうで。そのうち、数十頭のグリフィンと、それが落とすライガに襲われているタルタロスを発見。駆け寄って樹木に登って、また降りて更に駆け寄って木に登って様子を見ていたそうです。
この辺、ちょっと変だと思いました。
ガイが、根拠が一つもないのにタルタロスにルークが乗ってると確信して行動してるのも少し引っかかりはしますが、それ以上に時間経過がおかしいよーな。
原作を参照すると、この辺の流れは大体以下のようになっています。
グリフィンとライガが上空から急襲。艦停止し、神託の盾騎士団が乗り込んできて占拠される。 ルークたちは艦橋まで行ったものの拘束。ルーク、昏倒する。
↓
イオン、リグレットに連れられてシュレーの丘へ。ダアト式封咒の解呪。
↓
ルーク目覚める。
ジェイド、艦の機能を停止させる。艦の外壁を爆弾で破壊。
シュレーの丘から戻ってきたリグレットを待ち伏せ、戦闘。
↓
ガイがタルタロスのマストの上から華麗に参上、助太刀する。
イオンがシュレーの丘へ徒歩で連れて行かれ、戻ってきている点から見て、どんなに短くても数時間は経過しているはず。艦が停止していた位置がシュレーの丘からかなり離れているので、相応の時間がかかって然るべきです。けれども、この小説では殆ど時間経過が感じられない描き方で、ガイが見張っているうちにすぐさま艦の外でルークたちとリグレットたちが戦うシーンに。あれ? ちょっと気になってしまいました。
ちなみにガイがどうしてマストの上から降ってきたのか、という説明。
タルタロスの近くの木の上からルークたちとリグレット達が戦う様子を見ていて、そこからマストに登って、飛び降りたそうです。
……え、え??? いや。そもそも原作の時点で「タルタロスの上から降ってくる」というのが(状況的には)おかしいから、どんな理屈をつけても、どこか不自然になっちゃうわけですよね。(^_^;)
なんでマストに登るんだ木から飛び降りるので充分じゃんとか、よく誰にも気づかれずに木からマストに移れたなぁとか。どうしましょう、この本を読むと、ますますガイ兄さんのことを考えてしまいます(笑)。
「ふぅ……助かった。ガイ! よく来てくれたな!」
ルークは掴んでいた動物をその場に投げ捨てると、大股にやって来る。その残酷さと大雑把さが懐かしくて、ガイの頬は不覚にも最大限に緩んだ。
やっとルークと再会。「ガイの頬は不覚にも最大限に緩んだ。」て、一体どんな表情ですか(笑)! 孫を前に顔面土砂崩れ起こしてるじーちゃんかっつーの(激笑)!
そして本編ノベライズ参照するに、このガイの表情を陰から目撃したアッシュは、(あいつ、俺にはあんな笑顔は見せなかった――)と密かに傷ついていたのである(笑)。
そんでガイは、アッシュの視線を「刺すような目に見られている」「敵意」と感じたのであった…。うーん。すれ違う二人やね。
ルークと再会したガイは、野営地で火の番をしながら自分の心を覗き込みます。無事なルークを見て安堵し、俺は不安だったのかもな、と思い至る。もし”また”ルークが記憶を失い、ガイのことも家族のことも忘れてしまっていたら…。だからこそ、”二度目”は自分の手でルークを奪還したかったのだと。
ルークが手の届く位置にいると安心する。同行者たちの寝息の中からルークのそれだけ聞き分けられそうな気さえする。…そんな自分に苦笑して、でもこの時点のガイは、まだそれを復讐と結び付けています。
手の届く位置にいれば、いつでも殺せる。復讐を果たすためにも、忘れられちゃ意味がないんだよ、と。
眠るルークを見守りながら、魔物の遠吠えを聞くと身を引き締めます。「魔物なんかに俺の”復讐”を譲る気はないからな」と独りごちて。
仲間たちがあきれてしまったのは、ユリアシティに向かうタルタロスでの出来事だった。みんな硬い表情をしており、温厚な導師イオンでさえ眉を寄せていた。
「お、俺が悪いってのか?」
ルークは半狂乱になって喚いた。
「……俺は……俺は悪くねぇぞ! だって、師匠がいったんだ……そうだ、師匠がやれって! こんなことになるなんて知らなかった! 誰も教えてくんなかっただろっ!」
地団太を踏み、ヴァンだけでなく仲間たちに責任転嫁をしようとする。
「俺は悪くねぇっ! 俺は悪くねぇっ!!」
なんてことだ、とガイは頭を抱えたくなった。
全ての原因は外側にあり、自分は悪くない。それは甘やかされ放題で屋敷に軟禁されていたルークの性格そのものだ。
(いくら俺の育て方が悪かったからって……人の命をこんな風に思ってたのか……)
(中略)
ルークは自分のそばから仲間がひとり、またひとりと減ってゆくことに焦っているようだった。それはそうだろう。ヴァンの説明では、今ごろ名実共に”英雄”として、賛辞を浴びているはずだったのだから。
宙を泳ぐルークの血走った目がガイからティアへ、そしてガイへと戻る。
「わ、悪いのは師匠! なあ、ガイ、そうだろ!?」
「ルーク……」
ガイは肩をすくめた。どんな言葉も通じないなら、やはりここにはいられないと思う。
「あんまり幻滅させないでくれ」
「……ガイ」
怒りと、今にも泣きだしそうな悲しみに満ちた目。
しかしガイには、屋敷でいたずらをして叱られたときの表情が重なって見えてしまう。
(そんな顔してもダメだ、ルーク。ふだんとは事情が違いすぎる)
その場を立ち去るために出した足はひどく重かった。
ルークをこんな風に拒絶するのは初めてのことだ。だが、激しい怒りは重い足をぐいぐいと動かして行く。
ガイはユリアシティに入るとすぐにタルタロス打ち上げのための準備作業に参加したそうで、ルークが昏睡していることも、アッシュが来ていたことすら、よって当然ながらルークがレプリカだということも知らないでいたそうです。
(状況的には変。ユリアシティに入って最初にガイたちは市長(ティア)の家に入った。そのティアの家に運び込まれたルークの昏睡をずっと知らないのは不自然なよーな。ついでに言うと、タルタロス打ち上げ計画はアッシュの提案なのである。アッシュ提案の計画の準備をしながら、アッシュが来ていることを知らないなんてアリか? …そうではなくアッシュが来ていること自体は知っていたと仮定してもおかしい。アッシュがオリジナル・ルークだと分かったからこそ、仲間たちは彼を受け入れた。なのにガイがルークがレプリカだと知らないのは辻褄が合わない。本当は、ルークが気絶してからアッシュの意識の中で目覚めるまでの間に、色々な話し合いが行われていて然るべきだと思うんですが…。)
「準備が整うまで、まだ少し時間がかかります。陸艦を降りても構わないのですよ」
「え」
「ルークはどうしているだろう」
「!」
「……と、顔に書いてありますね」
図星を指され、ガイはうっすら赤面する。
「ティアの家にいるそうです」
「そうか」
「行っても会えないかもしれませんけど」
「どうして」
「……」
ジェイドは答えなかった。
ガイは一瞬迷うような表情を見せたあと、
「悪い、すぐ戻る」
短く告げると、ガイはタルタロスの昇降口へ向かった。
思わせぶりな言い方をするジェイド。つまり、ジェイドはルークの身に起こった状況を全部知ってたんですね。…もしかして、ガイだけ知らなかったんでしょうか。この小説のユリアシティでのガイは見ザル聞かザルでルークを避けていた、のかなぁ…?
ちなみに、少し後のページに書かれていますが、ジェイドはこの時もう、ガイがそのまま陸艦に戻ってこないかもしれないと踏んでいた…らしいです。
ガイはティアの家に駆けつけ、ルークが昏睡していること、アッシュが彼をここまで運んだことを知り、彼とルークの間にあったやりとりを聞き出す。ティアさん、後ろ手に玄関ドアを閉じて、何気にガイ兄さんをルークに近寄らせません(笑)。ショックでぐらぐらしながらタルタロスに戻ると、すぐにアッシュが現れ、挨拶も説明もなく当たり前のように仲間たちにベルケンドへ行くと命令。その場でタルタロスを打ちあげちゃいました。ここも時間経過が圧縮され過ぎてる気がします。
(ルーク……)
魔界が次第に遠ざかってゆく。ガイは複雑な気持ちで陸艦の揺れに身を任せていた。
やがてタルタロスが海上に浮かび上がると、仲間たちからささやかな拍手が起きた。浮上に成功したのだ。
しかしガイは後悔が胸に湧き上がってくるのを押さえられない。
(俺、黙って外殻へ戻って来ちまった。おまえがいちばんつらい時だってのに――)
開いてしまった距離を思い、ガイはため息をついた。
後悔しきりのガイは、ベルケンドで離脱を宣言。ルークを迎えに行くと言う。
ナタリアがアッシュを『ルーク』と呼ぶのを聞きながら、自分はあくまで『アッシュ』と呼ぶことに、意識的にこだわります。
(おまえとの思い出もあるが……俺のルークは、おまえじゃないんだ)
ぷははははっ! ドラマCD版に引き続き、「俺のルーク」発言出たー!!
こういう些細なところに大喜びしている私でした。
ふと思ったんですが、ガイって割と内面キザというか、独白の言葉のセレクトが陶酔的ですよね。しかしそれがイイ。ぷくくく…!
#けど、ガイの「俺のルーク」発言を考えてると、時折『赤毛のアン』の晩年のマシューの発言を思い出してしんみりしたりもします。アンが、本当は男の子が欲しかったはずなのに、女の子の私を養子にして本当によかったのか、みたいに尋ねたとき、マシューが言うんですよね。「わしには一ダースの男の子よりお前一人の方がいいよ。そうさな、エイヴリーの奨学金を取ったのは男の子じゃなくて、女の子ではなかったかな? 女の子じゃないか――わしの娘じゃないか――わしの自慢の娘じゃないか」って。思いがけない手違いで風変わりな子供を育てることになって、でも共に月日を過ごした果てに、その子はかけがえのない、愛する我が子になったんですよね。
アッシュに教えられ、ルークを迎えるためにアラミス湧水洞に入ったガイ。SD文庫小説版では、湧水洞に巣食うカニ型の魔物を倒しつつ、その死骸の上に座ってルークを待っていましたが、こちらの小説ではダアトで買い込んだ瑞々しいプラムを食べながら待っていました。ルークを怒らせて発奮させてやろうとすると、意外にも笑って「ありがとう」なんて言う。「彼、変わるんですって」とティアから聞いたガイはすっかり嬉しくなり、どんな風に変わるつもりなのか聞きたいと、ルークと並んで歩きながら色々話す。ティアは気を遣ってくれて、ミュウを連れてちょっと先に。
ここで、プラムが小道具として使われていました。この小説、基本的に本編ノベライズに正確に沿ってるんですが、ここだけ本編ノベライズの方にはなかった要素が挿入されてます。
「おまえはおまえ。アッシュはアッシュ。レプリカだろうがなんだろうが、俺にとっての本物は、おまえだけってことさ」
「!」
ルークは拳を握りしめ、俯いてしまう。その肩が小さく震えているのを見て、ガイはルークの鼻先に紙袋を差し出した。
「え? なんだこれ」
「途中で買ってきたんだよ。食え。甘そうなのばっか残しといてやったぜ」
ルークがひょいと袋を覗き込む。
「うわ、プラムだ。うまそう!」
真っ赤に熟したプラムの甘い香りに、ルークは自然に笑みをこぼした。
「ほーらな、本物のおまえに間違いない。俺の親友は単純でさ、食い物につられて機嫌が直っちまうんだ」
「な、なんだよっ」
プラムを齧りかけたまま、ルークが睨む。
「種は出せよ。昔何十個も種ごと食って腹痛起こしたろ?」
「し、知らねーぞ! それは俺じゃねえ!」
「おまえだっつーの」
「……うん」
こっくりとルークが頷く。
幼さを覗かせるルークが可愛くて、甘そうなのをルークのためにとっといてるガイが保護者してて、ニコニコしながら読んじゃうシーンです。「瓜食めば 子供思ほゆ」の山上憶良の和歌を思い出します。
でもちょっと気になった。これ、プラムじゃなくてサクランボか何かの間違いじゃないでしょうか?(^_^;)
プラムの種は大きいですから、いくらルークが食いしんぼうでも種ごと何十個も食べられませんって。小さい子供が種ごとサクランボをパクパク食べて、後でウンチに消化されない種がごっそり出た、という笑い話を子育て漫画で拝見したことありますが、プラムを種ごと数十個はちょっと…。オールドラントのプラムは小さいのかいな。
とりあえずガイは、種ごとプラムを食べ過ぎてお腹壊した子供ルークに「へそからプラムの木が生えるぞ」とか脅しの言葉をかけるのがよいよ。子供が果物を種ごと食べた時の年長者の義務だよ(笑)。「そうなったらもう、木が伸びて部屋からも出られなくなるな。あー残念だなぁ、ヴァン謡将と稽古もできなくなるし、俺ももう、ルークと庭で遊べなくなるんだなぁ」とか。ルークが涙目でもう種ごと食べないと誓うまで語るがよい。
前巻の感想で、姉の形見のリボンはアラミス湧水洞で手放せばよかったのにと書きましたが、現物がなくても、ここでしっかり使われていました。湧水洞の青い水を姉のリボンの色と重ねて、マリィベルに見ていてくださいと語りかけて。
(ルーク。おまえが変わっていくのを俺は見てるからな。ちゃんと傍にいて、助けてやるから)
俺は俺に出来ることをしよう、と誓うのでした。
ガイは、ルークがレプリカだったことに安堵したそうです。最初からこいつは仇でもなんでもなかった。もうこいつの命をどうこうしようなんて思わない。復讐に囚われる日々は終わったんだと。
けれども、それらは自分の驕りではなかったかと、二年後のガイは省みます。
赤ん坊のようだったルークを、無意識に見下していたんじゃないか。あくまで上位に立ったまま、ルークの信頼に胡坐をかいて、自分は無傷で親友面を続けようとした。カースロットは、そんな自分に下った罰だったのかもしれない、と。
カースロットとは被術者を意のままに操る術ではない。脳内の過去の記憶を掘り起こし、負の感情を増大させて理性を麻痺させる…という設定でしたので、私個人のカースロットの解釈は、「過去の辛い記憶が強烈に甦り、怒りや憎しみが沸き起こって抑えきれなくなる」ってものでしたが、この小説では「ルークを攻撃する自分を、本体から乖離したガイの意識が戸惑いながら見ている」という感じに描写されていました。
ガイは、カースロットで復讐者だと暴露された自分をルークが許したことで彼の成長を感じ、年月の積み重ねというものをありがたく思ったそうです。もうルークは赤ん坊じゃない、と。
髪を切り、変わることを誓ったルークは実際にどんどん変化していった。自分さえよければそれで満足だったはずなのに、共に生きることを考え、他人を生かして犠牲になることまで口にするようになった。まるで過去の自分から少しでも離れようと、全力疾走しているようだった。 そこから話は一気に飛んでレプリカ編の障気中和後になり、宝刀ガルディオスイベントの結末が語られます。
原作では、公爵が宝刀についてガイとルークに話しかけるのは偶然なんですが、この小説では、どうもルークの差し金っぽかったです。ティアのペンダントのエピソードと対にするためかな。少なくともガイはそう感じて怯えていました。ルークの死を予感して、ルークは死を受け入れようとしているのか…遺すものとして宝刀を返してくれようとしているのかと震える。
公爵はガイに、ルークに永遠の友情を誓ってやってくれないかと頼む。ガイが応じてルークの前にひざまずくと、ルークは慌てて止めて「俺とガイはいままで通りでいいじゃん」と言う。
(違うんだ、ルーク!)
ガイは心の中で叫んでいた。
(忠誠でも友情でもなんでもいい。誓えるものなら誓いたいんだ、永遠に――!)
ルークの死を予感しているガイは、彼の命を何とか引き留めたい、そのために絆を強くしたいと切望している、ということでしょうか。名前は何でも構わないから永遠の絆を作ることで、死の世界から引き戻したい、というような。
でも、いっそ滑稽なほど必死に手繰り寄せようとしているガイに対して、ルークは宝刀を返してやれたことを喜び、断ち切られ、しがらみから解き放たれた、あまりに明るい笑顔を見せるだけ。
「ほら、いつまでそんなカッコしてんだよ。もう父上は行っちまったから、立てよ」
ルークはガイに手を差し出した。暖かい指が、ガイの手をがっちりと掴む。
「ルーク……」
「ああ? なーに泣きそうな顔してんだ。そんなにうれしいか? よかったじゃん! ほらっ」
せーの、でガイは立ち上がる。ルークの顔がぐいと近くなる。
「!」
彼の瞳に涙が滲んでいることに、ガイは気づかないふりをした。
――死にたくない……!
笑顔がそう叫んでいることにも。
宝刀イベントと言えば、前巻の感想で
「原作ではルークが「昔のことばっか見てても前へ進めない」と言った時、ガイは(痛いところを突かれたせいで)不快に感じたと告白してましたが、ドラマCD版や小説版にはそのニュアンスは感じられないですね。」
と書いてたんですが、今巻ではその辺にしっかり触れてありました。
(俺は復讐心に凝り固まっている自分の暗い部分を言い当てられた気がして、腹が立ったっけ――)
だそうです。二年後(エンディング直前)のガイは、過去にこだわっていないように見えたルークも、実際は記憶がないことでもどかしく苦しい日々を送っていたんだろう、と思い至るようになっていました。
さて。過去の話はここで終了し、二年後…現在のガイの視点になります。
彼の気持ちは、新生ホドで最後にルークにかけた言葉のまま変わっていない。
”待ってるからな。だから、さくっと戻って来いよ。このまま消えるなんて許さないからな――”
ガイは、机の上の宝刀ガルディオスを手に取った。
父の形見であると同時に、ルークが取り戻してくれた大切な剣だ。
(ルーク。これをおまえの形見になんかしないでくれよ)
剣はずっしりとした重みをガイの手に委ねている。
(おまえが戻ってきたら俺、もっと友だちがいのあるやつになるからな。見てろよ。もうひとりでなんか行かせるものか。だから……)
ガイは祈りにも似た気持ちで、ルークに話しかけた。
「だから、親友でいてくれ……永遠に……!」
永遠永遠永遠! 馬鹿の一つ覚えみたいに! ←ルークの口真似 ……すんません。(^_^;) あまりの熱さに耐えられませんでした。 なんかガイに「親友とは」というテーマで小論文書かせたくなりました。制限時間50分で。ねちこく暑苦しいものを書いてくれそうです。とても読みたい。
ティアのペンダントが、家族の形見であり、ルークが取り戻してくれたものであったように。
ガイの宝刀も、家族の形見であり、ルークが取り戻してくれたものでした。
ホド崩落を始点にして二人が失っていたものを、ルークが取り戻してくれた。満たしてくれた。…変えてくれた。
ルークとの関わりでよく似た点を持っていて、けれどティアとガイの現在の姿は対照的に語られています。
ルークが消えてから、自分は変わったか――?
二人とも、「変わっていない」と思っている。二年間、変わらずにルークを待っていた。
しかしティアは「長い間変わらなかった自分の心の中に、新たな気持ちが芽生えかけている」と感じます。人々はルークの成人の儀を行うことでけじめをつけようとしている。では、私は…? と。対してガイは、(俺は……ルークを待ってる。その気持ちは変わらない、絶対に)と意固地に思い、永遠を望み続けているのでした。
二年間待ち続けた。……夜が明ければ、ルークの二十歳の生誕の日。――そして、葬儀の日です。
◆エピローグ
墓の前で行われるルークの成人の儀を蹴り、タタル渓谷に集った仲間たち。ティアは譜歌を詠い始めます。
もし、この譜歌が終わるまでにルークが帰ってきたら。
もし、この譜歌が終わっても、帰ってこなかったら。
どちらにしても、私もきっと変わるのだろう。
なにかを願うように、ティアの手が月に向かって差し出される。
谷を渡る調べに、ガイはじっと耳を傾けていた。
譜歌とは、こんなにもせつないものだったろうか?
(あれから、みんなそれなりに大人になったような気がする。俺もそう見えるのかもしれないが……)
月の光が、ホドを照らしている。
(だけどルーク、俺は全然変わってないぜ)
自分が変わる予感を抱くティア。頑なに変わることを拒むガイ。
そして。歌が終わった時、『彼』が帰ってきます。
彼らが踵を返しかけたとき、一陣の風が渓谷を吹きぬけた。
セレニアはまるで暗い海に注ぎ込む流れのように揺れ、ホドを抱く海と繋がる。
風に舞う花びらのなか、振り返るティアの黄金色の髪がなびいた。
と、その視線が何かを捉える。
――人影だった。
ガイの表情が変わる。
ティアは、まっすぐにセレニアの中を進むと、彼と向き合った。
「どうして……ここに?」
こみ上げてくる想いに、胸が震えた。
「ここからなら、……ホドを見渡せる。それに……」
彼の唇が微笑むように動く。
「約束、してたからな」
ティアの頬を大粒の涙が伝った。 これで、完結です。 みなさんはこれをどんな結末だと思ったでしょうか。
相変わらず大爆発設定には全く触れていませんし、そもそも今回の小説ではアッシュはほとんど出てこない。ラストシーンだけ読めば、ルークが帰って来たと思える感じです。
でも、私はこのラストシーンを読んで、するっと、「あ、今回はアッシュ帰還バージョンになってる」と思いました。
ティアが、帰ってこないルークを想いながら自分の変化を予感していることが再三語られている。
そしてあとがきにはこう書いてあります。
「父じゃなくて母じゃないの? って思うくらい面倒見がいいですよね、ガイ。
なにがあってもずーっとルークを信じているというのは、すごく男の子らしいのかもしれません。現実世界の女の子だったら、あんまり長く待たされると、そろそろ身の振り方を考えようっていうことになるのかも……。」
ぼかした書き方になっていますが、「現実世界の女の子」=「ティア」なのだと感じました。
ルークは帰ってこなかった。ティアは彼の思い出を抱きしめながらも未来へ進みだす。(それがルークのことを諦める、という意味なのか違うのかは分かりませんが、いずれにせよ「待ち続ける」人生にけじめをつけるってことでしょう。)対して、ガイは永遠に変わらずにルークを待ち続ける。これは、そういう話なんだ、と思いました。
ルークが帰ってくるハッピーエンドなら、ティアにいちいち「けじめをつけて変わる予感」の示唆をさせる必要はないです。
それに、ここまで情感たっぷりに盛り上げてきておいて、「ガイの表情が変わる。」「ティアの頬を大粒の涙が伝った。」と、表面的な状態しか書いてない。そこに籠もった感情の描写を、あえて外してあります。
本編ノベライズの時は「彼に気付いて振り向いたナタリアが、ガイが、アニスが――、それぞれの胸に約束を思い起こした。果たされないはずはないと、何度自分に言い聞かせてきたことだろう。」「影たちは寄り添い、ひとつになってゆく。」と書いてありました。(アニスやガイはアッシュとは約束を交わしていないので、この二人が約束が果たされたと思うなら、相手はルークでしかあり得ない。よって本編ノベライズでは、ルーク帰還であることが、実は明言されている。)
ところが今回は、そうした、ルークが帰ったことを暗黙の了解的に匂わせる描写すら避けてあります。
つまり、ぼかしてあるし、どちらにも解釈できるように表現を配慮してあるけれど、文脈的には「ルークは帰ってこなかった」という形になっていると思うのです。今回は。
これで感想は終了です。
面白かったです。
多分、これで『アビス』の外伝小説はおしまいですよね。将来、ゲームのリメイク版が出ることがあったら、併せて出ることもあるかもしれませんが。
また何か読めたらいいなと思いました。お疲れ様でした。
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