注意!

 

テイルズ オブ ジ アビス[5] 〜惑う焔と蘇る死者たち〜

集英社/スーパーダッシュ文庫/結城聖

 全五巻シリーズの最終巻です。……と言いたいところですが、前巻のあとがきで示唆されていた通り、一巻増えて全六巻になりました。なので最終巻ではありません。

 当初の発売予定通りに刊行されず、一時は出版社の発売予定表からも消えていたので、一体どうなったのだろうと思っていましたが。まずは全部で一枚の絵になっていた表紙イラストを一巻分増やさなければならないと言う問題があり、更に巻数を増やすには版権会社との契約し直しなどもあり、大変手間が掛かるのだそうです。へぇ、成る程そうなのかぁ…。作者さんの身に何かのっぴきならないことでも起こったのかと思っちゃってました。そうではなかったようなので、それはよかった。
 そういえば、ドラマCDの方も、全四巻予定だったのがレプリカ編を残した最終巻発売直前に突然リリースがストップ、当初の予定から三ヶ月ズレて一巻増やしての発売ということになっていて、この小説と似たような状態になってますよね。ドラマCDの方も、やはり版権元との再契約に時間が掛かったのでしょうか。
 一巻増えたのは嬉しくもあるのですが、二つの媒体で同じように土壇場で巻数を増やしている状況を見ていると、最も少ない全三巻で予定通りキッチリ終わらせたファミ通文庫小説版のスゴさが際立ってきます。見方を変えれば巻数を増やす力がなかったということなのかもしれませんが、予定通りの分量で遅れず収めるというのも、素晴らしい仕事振りかと。こちらの小説がモタモタしていた間に、あちらは外伝二冊さえ完結させていますものね。後発だったのに。

 表紙イラストが一巻分増えたせいなのか何なのか、今巻の表紙は地味と言うか、少し寂しい印象を受けました。折角ルークメインの表紙なのに。ルークは主人公なんですし、一番前にいてくれてもいいのに、前巻の表紙のアッシュの髪の毛の後ろになっちゃってます。そういえば第一巻の表紙でも、長髪ルークはアップのティアの後ろに小さめに描かれてたっけなぁ…。とことん前に立てない主人公。(しょぼん)
 最終巻側の端っこにティアらしき髪や服が見えていますが、最後の表紙は、セレニアの花畑で歌うティアと遠景に見える『彼』とかなんでしょうか?(やはり前に立てずに小さく。)

 今回のサブタイトルは「惑う焔と蘇る死者たち」。以前書いた通り、さまようものが好きなので「惑う焔」というフレーズに萌え。「蘇る死者たち」の方は、ホラーみたいで怖。
 次刊最終巻はどんなサブタイトルになるんでしょうね。「消える焔と栄光の大地」「消える焔と最後の約束」…。やはし「消える」のは寂しいかなぁ。んじゃ、「二つの焔と約束の歌」。これでどうだ! ←何が「どうだ」なんだか。

 そういえば、今回は帯に書いてある煽り文が気になって仕方ありませんでした。
増幅するレプリカ 混乱する世界を 希望へと導け
 「増幅」……「ぞうふく」かい!
 レプリカは生き物じゃないからとか、そういう示唆なのか。確かにレプリカは「増殖」はしない感じですが。普通は「増加」とか……。むむぅ。


 さて。では内容の感想行きます。
 全体的には、いつも通りの安定したノベライズと言うことで。巻数が増えたせいか、割とゆったりめの文章かな、と思いました。特に序盤、シェリダン、ユリアシティ、ダアトなど新しい場所に移動した時の繋ぎに、オリジナルの描写を多く入れてましたですね。
 あと、キムラスカとマルクトが未だに緊張関係にあることを強調した描写が多いこと、原作ではキムラスカ兵がナタリアやルークの顔を知らないことが殆どなのに、この小説では必ず知ってて恭しい態度を取ってくることになってたのが印象深かったです。この辺は原作より厳しくリアルに語ろうとしてますね。

 で。以下は、例によってどーでもいいようなことをほじくる重箱の隅ツッコミです。あまり本気にせずにご笑覧下さい。



◆引きこもりルーク

 原作では現実に屋敷の使用人たちはレプリカルークに引いた態度で接してくるんですが、この小説ではそれが改変されてました。

 庭を抜けて廊下を行くと、すれ違うメイドがいちいち立ち止まり、恭しく頭を下げたが、ルークはそれを苛立ちをもって受け止めた。前には――この屋敷を出るまでは、そんなことはなかった。
 彼女たちが対応を変えたわけでもない。
 変わったのは、変わってしまったのは――自分のほうだ。
 この屋敷の人間は誰も彼もが、それを知っている。知っているのに、何も変わらない。
 それが、ルークの心を落ち着かなくさせていた。
 どう言えばいいのか……ここでは、自分の輪郭がぼやけている感じがする。
 まるで、幽霊のように。

 私は、原作のこの辺りのルークが引きこもっちゃってたのは、実際に(本来親しかった使用人たちから)レプリカ差別を受けたり、アッシュが帰ってくるのに怯えてたり、そういうことのためだと思っていたのですが、この小説のルークは違います。「自分は差別されるべき存在なのに差別されないから」苛立ってるのです。部屋に閉じこもってるわけでもなく、毎日ブラブラと、一人で剣の稽古をして、退屈になれば街に出て、後はゴロゴロしてたそうです。

だらしない生活をしているということはよくわかっている。だが、ここにはすることが何もない。寝て。食事をして。稽古をして。気が向いたらバチカルの街を散策して。
 それだけだ。
 毎日が同じ繰り返しでしかない。ここには、なにもない。

 おいおいおい。自堕落な生活をしているのは自分の問題なのではなく、「この場所に刺激が何もないせい」なのかよ!?
 原作ルークが新しい行動に踏み切れなかったのは、相談相手のガイがいないとか身内的な使用人たちに冷たくされて萎縮し自信喪失したとか自分が偽者で本物は明日にも帰るかもしれなくて何をしてもご破算になりそうで未来が予想できないから目的を持てず家を出るにも出た途端に名前や家族を失いそうでそれは嫌とか、そういう不安がグルグル渦巻いた結果動けなくなっちゃってたんだと私は思ってましたが、この小説では、単にやることが用意されなくなったからダラダラしてたってだけですか!!
 うはぁ…。こりゃ公爵も説教するわ。
 「この場所つまんない」という不満を持ちながら自分から新しく物事を始めようともしない。使用人たちに何を言われたわけでもされたわけでもないのに勝手に「俺がレプリカだって知ってるくせにホントは俺を通じてアッシュに頭下げてんだろ知ってるんだぞ」と苛立ってる。自分がだらしない生活をしてることを自覚してるくせに父に対して自分でも心がこもってないと思う対応をする。
 ザッと書いただけでもワガママ大王ですが。
 そんなイライラルークがどうして屋敷を出なかったか。それは、レプリカだと分かっても子供として扱ってくれた両親、特に母を傷つけたくなかったからだそうです。ケッ。親を傷つけたくなかったのがここにいる理由なら、なんで自分でも心がこもってないと思う対応するんだよ。
 悪いですが大変むかつきました。怠惰で無目的で被害妄想な上に自分の行動を誰かのせいにして偽善で塗り固めるか!

 本当は、この家から出て行けるなら理由はどうでもよかった。
 今までそれをしなかったのは、両親が、たとえ代用品としてであったとしても、知らなかったときと同じように、《ルーク》として扱ってくれたからだ。
 彼らを――とりわけ母を傷つけたくはなかった。
 だが、許してくれた。
 必ず帰ってくる、という条件付きではあるけれども。
 だが、いまはそのつもりはなかった。ここにいては、いつまでも自分は代用品でしかない。そうではなく、自分を自分として扱ってくれる人間と――友と、いまは会いたかった。
(中略)
 外を知るまでは、そんなことは少しも思わなかった。ここの生活を、ひどく退屈だとは考えはしたが、出て行きたいと思うことはなかった。
 けれど、ただ退屈だからこの家を出て行きたいわけではない。それは違う。出て行くのは、これ以上ここにいたら、自分が誰なのか、それがわからなくなってしまいそうだからだ。
 本当に、アッシュの――オリジナル・ルークの影に、壁に飾られた肖像画のような存在になってしまいそうだったからだ。

 あーあーそ・う・で・す・か! ←すさみ中。(苦笑)
 この時点で既にそんなしっかりした考えがまとまっていたならとっとと出て行けばよかったものを、お母さんのせいにして。今はもう親の所に帰るつもりはない、ですか。必ず帰りなさいという母の言葉は、救いではなく拘束ですか。友だけは自分を本当の存在として扱ってくれる訳ですか。はっ。(すんません。でも腹が立ったんですよぅ…)

 しかし、ルークがこういう考え方をしていたということになると、後の展開に繋がらなくなると思うのですが…どーすんの?
 …と、思っていたら。ティアと会って話すシーンになると、全く原作通りの台詞を喋ってくれました。家にいる資格が自分にはないけど、あそこを出たくない。あそこにいたら『ルーク』という役割があるから。でも、アッシュが帰ったら要らないって言われるかもしれない。それが怖い。
 …あんた、さっきは親を気遣って居たくもない場所でダラダラしてたけどホントは家を出て行きたかったしもう親の所に帰る気もないあそこにいると自分が誰なのか分からなくなりそうだからっつってたじゃん。いきなり矛盾してるぞ。

「本当は、家にいたって、居場所はないんだ……。みんな、俺のことをレプリカって目で見るんだから」
 そう気づいてはいた。だが、気づいていないふりをしていただけだ。

 …だからぁ。
 実際に、使用人たちが表面では恭しいけれど内心はルークをレプリカとして見ている、ということが分かる描写が入っていれば問題ないのに、この小説には一切ないじゃないですか。ルークが内心で勝手に邪推してる描写だけで。原作でははっきり語られているのをあえて改変までして「無し」にしているくせに、ここ以降は原作通りにルークに悩みを喋らせる。何の意味がある改変なのこれ。これじゃルークが分裂気味の被害妄想症みたいですよ。むー。



◆シュレーの丘でリグレットと対峙するアッシュ

 原作では、このシーンのアッシュは(ローレライの剣ではない)剣を持ってたと思いますが、この小説では何故か素手でした。丸腰で譜銃女と対決して膝ついて、隙見て殴りかかりましたがかわされました。
 ……………………………………………アッシュ(涙)。
 ついでに。原作のこのシーンは、アッシュとルークの鏡像のようなユニゾン攻撃が見ものなんですが、ルークの助太刀自体がカットされてました。ざんねんむねん。



◆ピオニーと謁見して、ガイが引き続きジェイドに協力したいと申し出るシーン。

「俺も引き続き、ジェイドに協力させてもらえませんか?」
「……幼馴染が心配か?」
「まあ……そんなところです」
 ガイの口調は、それだけではない、といっているようにルークには思えた。

 ……?
 原作を見る限り、ガイに「ルークが心配」という以外の特別な理由なんてなかったように思いましたが…。少なくともはっきりと別の理由が語られたことは無かったですよね? なんだろうこの描写。
 …うーん。ガイはホントにルークを心配してくれてるのに、卑屈全開ルークは別に理由があるんだと思い込んだ、という卑屈ルーク描写のつもりとか??
 それとも、この小説では、ガイはホントにルークの心配以外に何か理由があって同行したんだってこと? なんかのオリジナル展開の伏線??



◆裏切るアニスと、惑星預言プラネットスコアを詠むイオンのシーン

 メッセージを持たせたヌイグルミを投げつけて残して行くアニス。
 ファミ通文庫小説版では、原作ゲームの画面をまんま描写して、アニスが背中から青いヌイグルミを取り出して投げたと語っていましたが、こちらでは背に負っていたトクナガを外して投げたと語っています。
 しかしイオンがどんな風に惑星預言を詠んでいたかに関してはゲームそのまま…で、尚且つ、ちょっと妙なアレンジかかってました。
 イオンはザレッホ火山の譜石の足場の上に登って預言を詠み、ルークがそれをやめさせて抱いて下に飛び降りたら、その衝撃で譜石が粉々に砕けた、と。
 ……脆いな。っていうか、どんだけの勢いで飛び降りたのかルーク。

 私はやはり、ここは原作(の、このシーンの絵面)がおかしいと思います。
 ザレッホ火山に、少なくとも崩落編の頃からあった大きな譜石が、ユリアの第七譜石のはずがないです。何故って、設定上、第一から第六の譜石まではダアトが盗んだから教団が所持していたけれど、第七譜石はユリアが隠していたことになっているから。そしてゲーム中では、第七譜石はホド島に隠されていて、崩落したホドと共に今は地核の中にあると語られています。そしてモースは第七譜石がホドと共に消えたことを知らず、崩落編の時点でもティアに探索を命じていました。ですから、欠片であろうと第七譜石を教団が持ってるはず無いのです。理屈が合わない。
 導師には譜石の欠片から全ての預言を読み取る能力があり、崩落編の時点で既にルークたちのためにその力を使っていて、でも疲労する程度で死んだりしてません。最初からモースが第七譜石の欠片を持っていたなら、他の欠片を探す必要は全くありません。イオンがいれば欠片から全て読めるからです。そしてイオンが第七譜石に刻まれた預言を詠んだだけなら、そのために死ぬはずはありません。

 それはともかく。イオンが何故唯々諾々と惑星預言を詠んで死んでいったのか、という話。
 原作では、「人質がいたからでは」「ティアの障気を受け取るために最初から死ぬつもりでそうしたのかも」と、イオンの死後に仲間たちが色々推測しますけれど、それが本当なのかは分かりません。でもこの小説では、それ確定みたいに書かれていますね。

「言ったでしょう? 一つだけあなたを助ける方法があると。第七音素セブンスフォニムは互いに引き合う。僕の第七音素の乖離にあわせて、あなたの汚染された第七音素も貰っていきますよ……」
 ルークは驚愕した。
 まさかそんな方法であったとは! つまりそれを提案したとき、イオンはすでに自分の死期を悟っていたということだった。何もかも覚悟の行動――だから、おとなしくモースに連れてこられたのだ。
(中略)
「……イオン……あいつ……なんで惑星預言プラネットスコアなんて……アニスの両親を盾に取られていたからか? それとも……」
「イオンは賢い」とジェイドは言った。「私たちが救出に来ることもわかっていて、ティアの障気を受け取るため、自分が消滅することを、想定していたのかもしれません」
 多分、そうに違いない、とルークは思った。自分が気づいたくらいだ。おそらくはティアも気づいたはずだ。だから先程からずっと、黙っているのだろう。

 既に自分の死期を『悟っていた』ですか。
 ……ファミ通攻略本にそう書かれていますし、ファミ通文庫小説外伝でもそう語られてましたが、イオンは最初からアニスの裏切りを知っていて、アニスが自分を殺すために連れ出したことも知っていたってことなんでしょうか。そんなの欝過ぎます…つまり受動的自殺ですか。がっくり。
 原作ではアニス捜索の時にナタリアに話しかけると「イオンはシンクが亡くなった時泣いていた、生きたいと思っていたはずだ、自ら覚悟して死んだなんてことはない」と、フォロー入れてくれるのですが、それカットされてますし。はー…。
*もの凄く細かいことですが、ジェイドがイオンのことを「イオン」と呼び捨てしていて変。イオンを呼び捨てにするのはルークとナタリアとガイだけですよ。原作では「賢い方です。私たちが救出に〜」なのに、何故わざわざ台詞改変してまで呼び方を変えるのだろう。意図が読めない。

 その後、いなくなったアニスの捜索。暗い小部屋でアニス発見。
 ここで、ルークにしがみついてくるまでアニスの顔を一切見せず、「靴先と、靴の中の指の動き」だけでアニスの感情を描写していたのはおもろかったです。
 ……しかし。

「偉くない! 全然偉くない!」
 そう叫びながら暗闇から飛び出してきて、体ごとルークにぶつかり、握った拳でどんどんと胸を叩いた。
「私……私……イオン様を殺しちゃった……! イオン様……私のせいで……死んじゃった……! 死んじゃったよ!」
 ぎゅっとルークの服を掴み、アニスは号泣した。
 涙が染みて、ルークも目頭が熱くなったが゜ぐっと堪え、震えながら泣く少女の頭を、他になす術なく、何度も何度も撫でた。
 そうして、しばらくして。
 アニスは、ずー、と鼻を啜ると、恥ずかし気にルークを押しやるようにして離れた。

 ……コメディ展開への移行が許される状況ならともかく、シリアスな悲しいシーンは徹底的に悲しさに酔えるように書いて欲しいなぁと期待しちゃうのは、贅沢なんかなー……。本気泣きの表現のために鼻水描写するにしても、もうちょい……どーにか美しくっぽくというか……。せめて擬声語「ずー」はやめて欲しかった気がする読者ゴコロ。……私の感覚がおかしいのか。最近流行(?)の「あっ鼻水つけちゃった」的なシーンが追加されてないだけマシなのか。
 今巻は、この後にもアニスが鼻を啜るシーンがありますが、次巻のアリエッタとの決闘後にも啜るんですかね。ずびずびと。



◆アニスに嫌味を言うジェイド

「……落ち着いたようですね」
 眼鏡のブリッジを押さえてジェイドが言うのに、アニスは頷いて見せた。
「はい、大佐」
「それで、どうするんです?」
 アニスは黙り、泣きはらした目で皆を見回した。
「私、もう少しみんなと一緒にいて、考えたいんです。私がこれからどうしたらいいのか」
 ジェイドは長々と息をついた。
「……まあ、いいでしょう。導師がお亡くなりになった以上、あなたがモースに我々の行動を報告することもないでしょうし」
「ジェイド! それは……」
「いいの、ルーク!」
 ルークは黙った。ジェイドの言葉をあえて受け止めると決めたのだろう。そして、確認するように、アニスは一人一人を見た。
 ティアは頷き、
「アニス。気をしっかりね」
 ナタリアは、そう言って微笑んだ。
 皆、優しい。
 アニスは鼻を啜り、小さく頷いた。
 皆も彼女を受け入れた――だが、元のような関係に戻れるかどうかはわからなかった。それは皆も、アニスもわかっているはずだ。だが、大丈夫だとルークは思いたかった。自分を受け入れてくれた仲間だ。そうなると信じたい。

 うん。このアレンジは凄くいいなぁと思いました。
 原作のこのシーンでは、仲間たちはアニスに優しいばかりで、誰一人アニスを責めたりあてこすったりしないんですよね。
 優しく受け入れる姿は心温かく安堵できるものでもあるのですが、一方で気持ち悪かった。かつて騙されて罪を犯したルークにあれだけ「責任」を要求した連中が、故意に罪を犯したアニスには何も言わないなんて、変ですよ。アニスを責めたい訳じゃ全然無いけど、物語のテーマに反するというか、歪んでたと思う。
 この小説では、あえてジェイドに一言、痛烈な言葉を言わせてくれていて、なんだかホッとしました。そう、コレが欲しかったんです! (後に引きずってアニスを責め続けたりはしない点も含めて)ホントによかった。



◆ロニール雪山で拾ったロケットの中にあったのは、肖像画

 原作では、ルークの日記にて、ロケットの中にあったのは「写真」だと明記してあります。で、ファミ通文庫小説版の方では、ちゃんと「写真」としてありましたね。ナタリアの実の両親について語った外伝の方では、写真を撮るエピソードを大きく膨らませてたくらい。
 でも、この小説では「肖像画」になってました。
 原作資料の読み込みは、ファミ通の作家さんの方がしっかりしてる感じ?



◆新暦1990年。我が娘、メリル誕生の記念に

 ナタリア・ルツ・キムラスカ・ランバルディアことメリル・オークランド。今年28歳。(大笑)
*単なる誤植なのでしょうが笑える。原作では「新暦1999年」。



◆「なら、ティアはどうなるんですか?」

 ナタリアの実父がラルゴではないかと言う話になり、知らずに実父と殺し合っていたナタリアを思って暗く落ち込んでしまうルークたち。するとジェイドがそう言う。
 これ、原作の時点で微妙なシーンだと思ってました。確かにティアも可哀相だけど、今はナタリアの話してんだろ? ティアは関係ないだろ?
 つか、ヴァンと戦うときにはこれでもかってくらい「ティア大丈夫? 可哀想に」ってみんなで言いまくってたじゃん。その時は一切口出ししなかったじゃん。なのに何故、ナタリアを不憫がるのは駄目なのか。ジェイドがおかしい。(まあ、ナタリアを気遣うルークを見てティアがひっそり傷ついてたことに気付いてた感じもしましたから、ティアを気遣ったのかなとも思いましたが。もしそうなら気遣い方がおかしいと思う。)

*この小説では、ティアが傷つく様子を見せるのはこの後のシーンになってますが、原作では順番が逆でしたよね、確か。

 ……どうにか、ジェイドは視点が「可哀想」という一方に傾き過ぎることを忌避してるんだなと解釈することにして自分を納得はさせましたが、凄く変な会話だと言う印象は拭えませんでした。
 で、この小説のこのシーンでは。アニスは原作どおり、そうだティアもナタリアと似た立場で気の毒だもんねと納得するのですが、ルークは何も言わず、表情も描写されず、(ルークの心の声とも取れる)地の文にはこう書いてあるのでした。

 確かに。
 だが、それは方便だ。ティアとナタリアでは、状況がまったく違う。ティアは最初から自分の兄が六神将の長であることを知っていたし、敵対してはいたが、そこには時間がある。だがナタリアは。王が実の父親でないと知らされ、本当の父親かもしれないラルゴとは、すでに数度、本気で命のやり取りをしているのだ。

 …うぅ〜ん…。
 きっとこの小説の作者さんも、原作のこのシーンに釈然としない思いを抱いたんだろうなぁと思うのですが。
 でも。だからって「ティアよりナタリアの方がもっと可哀想だよ!」と言い返すのは、意味がないというか、ますます変だと思いますよ〜。
 この文章の前にわざわざ「ティアは何も言わず、表情も変えなかった。」と入れてて、ティアが自分が一番可哀想であることを否定しない、とも取れる感じに書いてありますし…。原作以上に嫌な味に仕上がっているな…。



◆ケセドニアの集団リンチ

 ケセドニアに行ったら人だかりがあり、旅の預言士スコアラーを見つけた…というシーン。

 ティアの言葉に群集を見ると、騒ぎは、街の人々が誰かを取り囲んでいるために起こっているのだとわかった。
 集団リンチか、とも思ったが、そうではなかった。

 ……す。すげぇ。凄いなルーク。
 群衆がいて騒がしかった → 集団リンチ
 この連想というか発想のセンスは凄すぎると思い、衝撃を受けて印象に残りました。



◆「それきり……会っていません」

 アスター邸でナタリアの元乳母に話を聞くシーン。
 実際には偽姫騒動の時ラルゴと同じ謁見の間にいたくせに、乳母は娘が亡くなって以降 娘婿には会っていないと言う。「?」と思わせられるシーンなのですが、この小説では以下のようにアレンジしていました。

「娘のシルヴィアが亡くなってから、姿を消してしまいました。それきり……会っていません」
 ルークはじっと乳母を見つめた。すると、彼女は視線に耐えられなくなったかのように目を逸らし、組んだ指を動かした。
(嘘なんだな……)
 そう、ルークにはわかった。
 ナタリアが王の実の娘ではないと暴露されたあの謁見室に、乳母は同席していた。そしてそこには、ラルゴもいたのだ。

 ああ、成る程! こういう風に解釈すれば齟齬なく話を繋げる事が出来たんだ。
 凄く感心しました。



◆半壊家屋からフレスベルグ発進

 フェレス島。原作ではアリエッタが泣いていたのはフォミクリー施設として使われていた大きな屋敷の前で、一緒にいたのはライガ一頭だけでしたが、この小説では崩壊し掛けた家の中にライガとフレスベルグと一緒にいます。ルークたちとの話が終わるとフレスベルグに乗り、ライガはフレスベルグの足に掴ませ。フレスベルグが羽ばたくと屋根が外側に吹き飛んで天井が開け、空高く飛んでいきましたとさ。
 ………。
 何かのメカの発進シーンを思い浮かべてしまったオタクな私。
 どんだけデカいのかフレスベルグ。牛を掴んで飛び去るロック鳥のように。そして家に入るときはどのようにしたのか。ちっさく縮こまって羽や頭をすくめてそろそろと入ったのかなぁ。想像すると可愛いです。

 ちなみに、この小説ではフォミクリー施設は何故か地下に隠されていました。作家さん的には、フォミクリー施設は秘密基地なんだから堂々と丘の上にあってはならない、隠されてないと! というこだわりなのでしょうか。



◆傷ついたガイ

 フェレス島でマリィレプリカと顔を合わせたガイ。

 マリィは機械の傍に立つジェイドを睨んだ。その視線の途中にはガイの姿があったのだが、彼女は何の反応も見せず、そのことでガイが傷ついたのがルークにはわかった。

 ほんの一行のアレンジ描写なのですが、なんだかとても心に残りました。好きなシーンです。そうだよね、当たり前のことではあるけど、傷つくよねガイ…。



◆能動パイロット

「よし、ノエルに頼んであの空に浮かんでる島へ行ってもらおう!」
 そう言った途端、急に、ルークたちの立っている突端の下から、アルビオールが出現し、ルークたちは驚いた。
「皆さん!」
 窓が開き、ノエルが顔を出す。
「異変があったので、飛んできました! 乗ってください!」
 昇降口が開き、縄梯子が下りてくる。
「いやはや、大したものですね。行動力といい、判断力といい」
 そうジェイドに言わしめるのだから、本当に大したものだ、とルークも感心した。

 ノエルかっこいい!



-------------------------------------



 細かい感想は以上です。
 『アビス』は結構分かりにくさのある話で、ところどころ、人によってかなり解釈が分かれるポイントみたいなのがあると思うのですが、それを見るのがノベライズを読む楽しみだったりもします。
 原作をそのままトレースして終わるか。自分なりの解釈を書き加えるか。

 たとえば、レプリカ編でルークがピオニーと初めて顔を合わせた時、「俺の話聞いてもらえるのかな」とオドオドしてるルークを見て。原作のピオニーは面白そうに笑って「苛められたならこっちで暮らすか」的に言い、その後笑って「自信を持て」と言ってくれるんですけど。ファミ通文庫版では、ピオニーはウジウジしてるルークに少し苛ついて「自信を持て」と言ってくる。作家さんがウジウジルークにイライラしたんだろーなぁとか思います。面白い。(こっちの小説では、原作をそのままなぞってましたね。)

 今巻収録のエピソードの中では「アッシュに対するルークの気持ち」「ルークを卑屈だと言うガイ」「イオンの死の解釈」「ティアが可哀想だと言うジェイド」「フェレス島でのティアのレプリカたちへの忠告」なんかが注目ポイントでしたが。
 特にフェレス島でのレプリカたちとの会話は注目していたのですが、作家の考えは全く述べられず、原作の表面をなぞっただけになっていて残念でした。

 次巻にも注目ポイントはたくさんあります。「アリエッタとの決闘と、その前後のアニスへの仲間たちの目」「死を選ぶルークの心情」「生き急ぐアッシュの心情(大爆発ビッグ・バンについてちゃんと語るのか?)」「死ぬことが分かった後、ルークがどんな気持ちで戦っていたか」「最終的なルークの心の成長について」「アッシュは何故最後に『ルーク・フォン・ファブレ』と名乗ったのか」「シンクの心情の解釈」。この辺り。単に原作をなぞるだけで済ませるか。作家さんなりの解釈で噛み砕いてくれるか…。

 特に、レムの塔へ向かうルークに関して。どんな解釈で語ってくるかなぁと興味津々です。今巻の冒頭のルークの心情の解釈からして、あまり「内罰的ルーク」や「自己犠牲ルーク」方向には行かない気がする。…ホントはやりたくないけど世界が俺の死を望んでるから仕方ないじゃん、みたいな、微妙にルークがスレてて理由を自分の外に置く、「世界は俺を捨てた」的な語り口になるかな??
*私の予想は十中八九当たらないという実績があります。

 



inserted by FC2 system