注意!

 

テイルズ オブ ジ アビス 公式シナリオブック

監修・執筆:実弥島 巧/編著:株式会社キュービスト/監修・発行:バンダイナムコゲームス/発売:山下書店

 原作ゲーム発売から三年半後、TVアニメ版放送終了から二ヶ月強後に発行された、原作ゲームのシナリオ集です。それだけに留まらず、本編ゲーム未収録イベントの中から六種を概略紹介、キャラや世界観の解説、メインシナリオライターに質問して得た六つの設定公開、メインシナリオライターによる新作小説も付されていて、マニアックなファンブックとしての魅力も溢れています。

(私個人は発売は嬉しいんですけど、)二年前に『キャラクターエピソードバイブル』が出た時もう、今頃ファンブックを? と思ったものでしたが、四年近くも前のゲームのシナリオ集が今になって出るとは。アニメの放映終了直後でしたので、アニメから入ったファン層を当て込んだものだったのでしょうか。

 とは言えお値段が結構します。(『キャラクターエピソードバイブル』より更に10円高価い。)新作小説が載っているにしても、買うのは余程のマニア層……多くが、二次創作をしていて資料を必要とする層で、製作側もその層をメインに狙っていたのではないかな、なんて思ってるんですけど、実際はどうだったんでしょうね。

 

世界設定

 物語の背景設定の解説が四ページ。人物相関図が見開きで二ページ。メインキャラ解説に七ページ。

 流石に、発売から三年以上経っているだけあって、今まで発売された攻略本やファンブックの中では一番内容が練れていて、スッキリして解りやすく、素晴らしい文章でした。おおー!!

エピソードバイブル』にも同趣向の解説ページがありましたが、申し訳ないけれど、色々不満や納得できない部分がありました。でもこちらには全くそういうものがなかったです。

 公式サイトに編著スタッフさん方のコメントが出てるんですけど、このコーナーの担当者さん曰く、ゲームのみならず周辺展開のインタビュー記事や商業二次作品も参照して書いたものなんだそうです。


シナリオ

 メインとなるシナリオ部分です。メインシナリオ、サブイベント、フェイスチャットに分かれています。全ページカラーで、メインシナリオのパートは見開きページ両端にゲーム画面のスクリーンショットが並べられていて、美しいです。

 シナリオにはト書きでキャラの心情や状況等も書いてあるのですが、元のシナリオそのままなのか、編著スタッフさんの書き加えがあるのか、よく判りません。公式サイトの編著者コメントを拝見すると、実際にゲーム画面をチェックして執筆したように書いてある。ということは、ご自分の目で見て、ある程度主観でキャラの動作や感情の情報をト書き化しているのかなと思ったのですが、単に、シナリオと実際のゲーム内容に変更がないかどうか検証・確認したことを仰っているだけの気もします。

 目次ページを見ると、小さく注意書きがありました。

※本書に記載されているセリフやト書きは、読みやすさとストーリーのわかりやすさ等を重視して、ゲーム本編とは表現を変更している箇所があります。

 実際、ゲームだとバラバラになっている小イベントが、この本ではト書きで繋げられて、一つの話のように扱われていたり、本来ならゲームシナリオに書く必要がないだろう、戦闘内容の簡略説明がしてあったりもします。少なくとも、その辺のト書きは、この本の編著者さんが書き加えたものなのでしょう。

 ト書きを読むと、最期にローレライと対峙するルークが誇らしげな笑みを浮かべたとあり(実際のゲーム画面では無表情)、興味深かったです。

 

 さて。「ゲーム本編とは表現を変更している箇所があります」と注意書きにあるように、単純な誤字などはゲーム画面から校正してあるようです。

(Amazonのレビューには誤植まで忠実、とあるので、そのままのところも色々あるんでしょうが、私が気付けたところは直してありました。)

EX.)
)「味あわせてやる」 →修正→)「味わわせてやる」

 しかし、名詞そのものの間違いには手を付けていませんでした。

EX.)
)「ガイラルディア家」 …無修正…)「ガルディオス家」

 また、慣用句的表現であまり一般的でない言葉選びをしているもの、あるいは誤用などもそのままでした。これは当然ですね。(^_^;) 流石にそこまで手を出してしまうと、シナリオそのものの校正・修正になってしまうので。

EX.)
独自)「石にしがみついてでも」 …無修正…一般的)「石にかじりついてでも/石に食いついてでも」
※尤も、古語表現で「石にしがみついてでも」のつもりで書かれてあるのなら間違いとは言えない。なんでいきなり古語? という謎は残るが。ちなみにこの台詞を言ったのはメインシナリオのガイだが、サブイベントのリグレットは「石にかじりついてでも」と一般的表現を使っている。

)「浅学が滲み出ていてよ(他者を見下す場面で使用。浅学は謙遜に使われるのが一般的なので、やや不適切)…無修正…一例)「無学ぶがくが滲み出ていてよ」

 

 それから。キャラの行動や選択肢によって変化するシナリオも全収録していることを謳ってるんですが、初回ケテルブルク訪問時、《グランコクマに向かう途中でタルタロス故障、修理のためケテルブルクへ》という正規ルートの他に、《最初からケテルブルクに向かう。タルタロスは故障しない》というサブルートがありまして、到着時のシナリオはしっかり変化するんですけど。何故かシナリオブックにはその変化が載せられていないうえ、「タルタロスが故障していない状態で、ケテルブルク港を訪れた際も同様の会話が発生する」と、同じ会話しか発生しないかのように、わざわざ但し書きしてありました。

 激しく謎です。検証担当のスタッフさんが何か勘違いしたのでしょうか? ……いや、校了間際になってサブルートシナリオが抜けてたのに気付いて、でももう入れるスペースがなく、苦肉の策でこう但し書きしたのかなぁ。別パターンが存在はしますが会話はあまり変化しませんよ、みたいな意味で。実際は、少しではありますがジェイドとルークの独自の会話が付くのですが。ちゃんと声付きのイベントですよ。

 なんにせよ、このため完全なシナリオブックになれていない…。惜しいですね。

 

 サブイベントとフェイスチャットのパートに関しては、大きな不満が一つありました。

 それは、専用の小目次・索引が用意されていないことです。

 過去の攻略本は、サブイベントのコーナーに専用の小目次が付いていて便利だったのに。

 あのイベントの台詞をチェックしたい、あのフェイスチャットの内容確認したいと思っても、見つけるのに非常に手間がかかる。これは、ほんっとーーーに不便でした。つーか、現在進行形で不便です。自分で付箋を付けていくしかないんですけど、面倒だし綺麗じゃないし。んもーー!! これだけは、残念ってレベルじゃなく不満です。


トピックス

 様々なページの空きスペースに小さく、詰め込むようにして入れられている、補足情報のコーナーです。

 半分くらいは既存の攻略本にも書かれていた、あるいはゲームプレイすれば容易に分かるレベルの情報ですが、残りは知りようのないもので、未公開設定画も三種あり、非常に面白かった。僅かなスペースしかない(絵もとても小さい)のが残念です。

 

 なお、この本の目玉の一つに数えられている《未収録サブイベント》六種は、このコーナーに含まれています。てっきり完全なシナリオが収録されていると思っていたので、小さなスペースでの概略だったのはかなり残念でした。

 既存の攻略本に「シナリオは完成していた」と書かれてある《アビスマンショー》や、インタビューで語られていた、インゴベルト王が徹夜でナタリア自慢をする話、後に『マルクト帝国騒動記』に流用されたと思われる幼少雪国組の出会い、マルクトのクーデーターのエピソードが見当たりません。未収録イベントは六つどころか、もっとずっと沢山あったってことですね。リメイクが出たら幾つかは復活するのかもしれません。

 

◆初公開設定

  • 神託の盾オラクル騎士団の階級上、アニスの方がティアより二階級上位
    • それなのに、アニスはあれだけティアに対して腰が低かったのか〜…。
      年上だとか、総長の妹だとか、相手はエリート士官候補だとか、色々理由はあったんでしょうが。
      考えてみたらマルクトのフリングス将軍も、階級が下で年上のジェイドに腰が低かったですね。オールドラントでは年功が最も重視されるのかな?
  • ルーク、ティア、アッシュの初期カラー案(ポリゴンキャラで、衣装が本編の色違い)
    • アッシュの衣服が《鮮血》の二つ名に相応しく真っ赤になっており(襟は白)、ルークの上着は赤の対抗色として青色になっている。でも裏地は赤。ティアは黒髪黒タイツで白衣装。スカートの両脇パーツのみ現行カラーと同一。
      ティアは、アビスマンでも《ブラック》でしたが、彼女のカラーイメージは黒なんでしょうか。
  • 漆黒の翼の設定画(カラーCG)
    • そのままアニメにしてもおかしくない美しいカラーイラスト。ポリゴンキャラの再現度はとても高かったんだなと判りました
  • ネビリムと、幼少のジェイドとサフィールの設定画(アナログ?のラフカラーイラスト)

 

◆未収録サブイベント

 ゲーム発売後のインタビューで、ジェイド関連のエピソードが多すぎたので削られたと語られていたものですが、なるほど、今回公開された六種の未収録サブイベントのうち、半分がジェイド関連です。

  • 《ルーク、人殺しに悩む》
     連続イベント。タルタロスで初めて人殺しをして以降に発生する。宿屋などで休むと、夢の中に殺した相手が現れてルークを苦しめる。アクゼリュス崩落後、レムの塔でレプリカたちを消した後など、ルークが人の命を奪う大きなイベントごとに、新しい悪夢に切り替わる
    • これは、没にされてよかったと思いました。陰鬱すぎます〜。
      テイルズは敵を倒すことを楽しみつつ進めていくゲームなのに、これでは、敵と戦うこと自体に深刻なストレスを感じるようになっちゃいそう。
      ルークが人を殺すたびに悪夢に苦しめられていたという話は、アブソードゲート決戦前夜のジェイドイベントでわかるので、それで十分っす。

      って言うか、レムの塔後…死の直前になってなお、ルークは人殺しを責められる悪夢を見ていたんでしょうか? 辛すぎます……。最後の夢が、レプリカたちに赦される救いの夢だったりすればいいのに。
  • 《予兆》
     親善大使期、カイツール軍港でのイベント。
     先を急ぎたいルークは、後ろ向きに歩きながら仲間たちを怒鳴って急かしていた。すると大きな壺を抱えて前が見えなかった兵士にぶつかり、壺を割ってしまう。だが、ルークは「お、俺は悪くないからな!」と言い訳ばかりして謝罪せず、仲間たちの諌めにも耳を貸さず、挙句に仲間たちに責任を転嫁しようとした。するとジェイドが冷たく言う。「……なら、あなたが行動するときは、必ず事前に報告してください。知らないことまでは責任が負えませんから」。この言葉にルークは激昂し、仲間たちとの間の溝が更に深まる。
    • これは、没にしないでほしかったです。絶対あった方が良かった。ルークの責任転嫁する短所が分かりやすいし(アクゼリュスだけだと、「だってヴァンに騙されたんだから。だからルークは悪くないもん」という、解釈の歪みを生みやすくなる)。それにジェイドの台詞が、アクゼリュス崩落後の台詞「せめてルークには、事前に相談してほしかったですね」に繋がってるんですね。
      リメイクが出るときは、是非これを入れてほしいです。サブではなく、メインで入れてていいと思うくらいです。

      しかし、カイツール軍港の兵士は、なんでまた巨大な壺を持って突っ立って(歩いて?)いたのだろうか。
  • 《死霊使い》
     崩落編のイベント。
     ある場所を訪れたルークたちは、男の子が蝶の羽をむしって遊んでいるのを見る。アニスやナタリアはやめるよう注意したが、ジェイドはそ知らぬ顔をしていた。
     しばらく後、馬車に乗った一人の女性がジェイドを訪ねてきた。頼みがあると言う。ナタリアやルークに促されて話を聞くことにしたジェイドは、この中にいる人を助けて下さいと懇願されて馬車に入る。そこには、タルタロスの乗員(ジェイドの部下)だったトニー二等兵の死体が横たわっていた。女性はトニーの婚約者で、今回の親書を届ける任務が終わったら結婚する筈だったのだと言う。大佐なら生き返らせて下さるんでしょうと詰め寄る彼女は半ば狂気に捕らわれていて、ルークたちの説得も耳に届かない。懇願され続けたジェイドは、やっと口を開いて言った。無理だと。
    死者は復活しない。死霊使いネクロマンサーは死者の復活に失敗したんです
     女性は絶望して気を失ってしまう。
     女性を運んだ病院から出た後、ルークたちは再び、蝶の羽をむしって遊んでいる男の子を見かけた。するとジェイドが男の子に歩み寄り、腕を強く掴んで止めた。そして痛がる彼にこう言ったのである。「生き物をむやみに殺すものではありません。そうでないと、私があなたを『羽をもいだ蝶』のようにしますよ」。
     男の子が泣いて逃げ帰った後、仲間たちは口々にジェイドの行動を意外がった。ジェイドは言った。私のような大人を増やさないためですと。それを聞いたルークは問う。あの女の人への遠回しな償いなんじゃないのか、と。しかしジェイドは「いえ、単なる自己満足ですよ。年寄りはそういうのが好きなんです」とはぐらかす。
    ……俺、ジェイドみたいなおっさん、嫌いじゃないぞ
     ルークの言葉に仲間たちも次々と同意。面映ゆさを隠すように、ジェイドは「……やれやれ」と苦笑して見せるのだった。
    • いい話です。ただ、レプリカ編のサブイベント《譜眼》と、構造的に似ているかな。だから整理されてこっちは削られたんでしょうか?
  • 《飢餓》
     崩落編、ルグニカ大陸降下後のイベント。
     降下したカイツールを訪れたルークたち。そこには負傷した兵士や民間人が溢れ、みな苦しんでいた。しかも流通路が絶たれたために物資が不足し、極度の飢餓状態である。
     この戦争のキムラスカ側の大将であるアルマンダイン伯爵に話しかけると、ナタリアの忠告に従わずに戦争を続行したことを詫びて、物資の補給を依頼してきた。ルークたちは[バチカル/グランコクマ]に飛び、補給した物資を届ける。国に囚われないルークたちの活動に感銘を受けたアルマンダインは、マルクト軍と衝突を起こさない指示を部下に徹底すると約束した。
    • 同時期、殆ど同じ場所で《セシルとフリングス》という長大な連続お使いイベントが起こるので、その兼ね合いで削られたのでしょうか。(そちらにも、停戦、物資不足の解決という要素が出てきますし。)

      この時期、ナタリアは偽王女としてバチカルを追われ、未だ王と和解していません。なのに魔界クリフォトに降下しているカイツールに行ってアルマンダインと話すと、非常に敬意を払った態度でナタリアに語りかけてくる。不思議に思っていましたが、そうか、このイベントが削られてしまっていたからだったんですね! 納得。
  • 《幼なじみ》
     連続イベント《ネビリム》の一部だったと思しきもの。
    ●レプリカネビリムを倒す前の時期に発生する部分
     ピオニーが子供時代の自分とジェイドとディストの愛らしい写真を見せ、ジェイドの子供の頃なんて想像できないと言うルークたちに思い出を語る。ピオニー曰く、ジェイドとサフィールは魔物をわざと大人にけしかけ、偶然を装って助けて、小遣いや菓子をせしめるのが得意だった。負けじとジェイドも暴露する。ピオニーはジェイドが山分けしてやったディストの小遣いをちゃっかり奪っていたと。「結局、3人とも最低だったということですわね」と呆れるナタリアだった。
    レプリカネビリムを倒した後の時期に発生する部分
     突然、ブウサギが逃げたと騒ぎ出したピオニー。ルーク以外の全員に捜しに行かせてから、残った彼に「……最近、ジェイドの様子はどうだ?」と尋ねた。レプリカネビリムを倒してしまったジェイドが、再び、死に対して感情を抱かない人間に戻ってしまっていないか心配なのだと言う。
     そこで、いつからそこにいたのか、ジェイドが出てきて口を挟んだ。
    「私はルークという、自分の研究の犠牲者を目の当たりにしていなければ、再び死者の復活を目論んでしまう愚か者だと思われているようですね」
    「いや、そこまで馬鹿じゃないと思ってるが、おまえはネビリム先生を二回殺した訳だからな」
    「陛下! そんな言い方ねーだろ! ……あ、じゃなくて、そんな言い方しなくても……」

     ピオニーはルークの言葉遣いを笑って許すと、信用してくれる仲間が出来てよかったなとジェイドに語りかける。「全くです。昔なじみは、皆、信用してくれませんから」とぼやくジェイド。
     そこにブウサギを探していた仲間たちが戻ってくる。ブウサギは逃げてなどいなかった。ピオニーに騙されたことに怒り心頭のナタリアは、ルーク含む仲間たちを引き連れて部屋を出ていく。
     二人残ったピオニーとジェイドは、幼なじみとして言葉を交わした。
    「……ピオニー。心配かけてすまなかった」
    「いや、俺も気にしすぎた。悪かったな」
    • ピオニーがジェイドを心配している、そのことをルークに話す、そのあいだ他の仲間たちはブウサギの世話をさせられている、という要素は、漫画『追憶のジェイド』に流用されていますね。

      これ単体だけ見るとどうってことないですが、他のジェイド関連イベントを併せると、ジェイドが大切にされ過ぎててお腹一杯…。このゲームの主役は誰でしたっけ?
      ジェイド関連のサブエピソードは数を減らして正解だったと思います。それこそ、ジェイド主役の外伝でやる内容。
      ただ、ラストシーンのジェイドの悲しげな表情に繋げるためには、人の死に感情を抱かなかった彼が旅を通して変化したってことを伝えるエピソードは残してくれたほうが有り難かったのか…。しかしホント、あんまりそっちへ行くと主役がジェイド(心の傷を抱えた35歳の麗しき天才おっさん)になっちゃう。中高生男女がメインターゲットなのに、何の話だ(苦笑)。

      それにしても、子供時代からジェイドだけでなくディストも、既に邪悪だったんですね。子供時代のディストは巻き込まれ型の被害者かと思っていたので意外でした。ちょっとイメージ変わった(笑)。
      ナタリアは常に、プライベートのピオニーに対して怒ってるなぁ。くすくす。
  • 《裏切り者?》
     連続イベント。
    ●イオン死亡以前に発生する部分
     旅の途中、いつの間にか姿を消していることの多いアニス。そのたびにルークが探しに行くと、いつも怪しげな神託の盾オラクル兵と何やら話しているのだった。
    ●イオン死亡後に発生する部分
     ある朝、早起きしたルークはアニスを見かけて声をかける。
    いつも私を見つけるのは、ルークなんだね
     普段とは違う静かな様子の彼女に戸惑うルーク。アニスは言った。これまでずっと心の中では、神託の盾兵と接触しているところをルークに見つかる度に、スパイだと暴いてほしいと思っていたと。それを聞いたルークは、アクゼリュス崩落後の自分自身の気持ちを思い出す。悪いのは自分だ、そう自覚していても、誰かに助けてほしかった……。アニスも同じ気持ちだったのだ。
     ルークのその気持ちを聞いたアニスは、いつものように茶化そうとしつつ、本音をこぼした。
    「ありがとう。いつも嫌なことばっか言ってごめんね」
    「あれ、珍しく素直だな」
    「……今だけね」

     そう言って、いたずらっぽくアニスは笑った。
    • ゲーム発売から数年経った今ですら、ゲーム一般の掲示板で、ルークに冷たくしたという理由でアニスやジェイドを呪詛し罵倒する書き込みを見てしまうことがあります。また、(私はそう思いませんが)アニスの裏切りイベントは唐突過ぎておかしい後付けに違いないというシナリオ批判も、一時期よく目にしました。
      もしこのイベントが削られていなかったら、多分それらの批判は、かなり少なかったのだろうなと思いました。
      アニスとルークの最後のやり取りは、とても素敵です。

      とは言え、このイベントがゲームに入っていたなら、別の点でちょっと嫌だったかなとも思いました。これだと、ルークが何度も機会を与えられていながらアニスの苦悩に気付けなかったことになる。極端な言い方をすれば、イオンの死の責任がルークにも被さってきてしまいます。ううう。重すぎます。

      しかしまあ、それはそれで、アクゼリュス崩落はルークがヴァンに騙されてることに気付いて守ってやれなかった仲間たちのせいだ、という系統の解釈を抑え得る材料にはなったのかもしれません。

      リメイクの時には、最後のやり取りに相当するエピソードが収録されてたらいいなぁ。


コラム

 トピックスの拡大版、という感じで、一ページ丸ごと使って記事が書かれています。二項目存在。

 一つはゲームの販促用に作られたチラシやポスターを紹介する《宣伝グッズ紹介》。ページ下部ではアニメDVD/BDの紹介もしています。

 もう一つは、原作メインシナリオライターに六つの疑問をぶつけて解答してもらっている《『アビス』の6つの謎》で、断然面白いのはこちらです。

  1. ユリアシティの譜石部屋にいる女性、レイラは、テオドーロの部下で、ユリアシティでの数少ないヴァンとティアの理解者
    • 数少ない、か…。余所者として白い目で見られがちだったことは語られてましたが、ティアってそこまで疎まれてたんですね。ゲーム中でユリアシティの市民に話しかけても、悪意をぶつけられたことって全然ないのでピンとこないかも。
      外殻降下後は、シティの人たちも外部者だからって冷たい目で見ることは、きっとなくなりましたよね。
  2. シンクは六番目、フローリアンは三番目のイオンレプリカ
  3. フローリアンは火山に廃棄された後、自力で魔物を食べて生き延び、モースに拾われて教育を受けた。教育時間が足りないので子供のようになっている。運動・譜術能力が劣化している代わりにかなり知能が高い
  4. ヴァンはレプリカ世界に生きるだろうレプリカたちに、《オリジナルの生まれ変わり》に近い概念を持っている。よって、ティアとガイを仲間に引き入れてレプリカ情報を抜き、レプリカを作るつもりだった。自分たちは旧世界の消滅時に一緒に死ぬが、新世界でレプリカが生きる
    • ショックでした。ヴァンを見損なった…。レプリカは自分たちの生まれ変わり。そんなおセンチな考えでレプリカ世界を作ろうとしてたのか。
      ゲーム発売直後のインタビューで「ヴァンはティアやガイと共に死ぬつもりだった」という、ゲーム本編には全く出てこない設定が明かされた時もショックでしたが、それはそれで潔いのかもしれない、一つの世界を滅ぼすからには自分も死ぬんだ、と肯定的にイメージを再構築してたらコレですよ。
      ティアや六神将のレプリカは作るつもりなんだろうなとは思ってましたが、生まれ変わりって…。

      つーか、シンクが預言詠むふりして簡単に人のレプリカ情報抜いてましたから、つい最近まで敵対してなかったティアやガイの情報を黙って抜くなんて超簡単だったはず。最悪、誘拐して気絶させてる間に抜いたっていい。(ルークをコーラル城で誘拐してフォンスロット開いた時みたいに。)仲間にしなけりゃレプリカが作れないという前提自体に疑問を感じます。この設定必要あるの?

      もし、最初からこういう設定だったというのなら、ちゃんとゲーム中で分かるように描いてほしいし、それを語っていたサブイベントが没になっていたとかでも、ゲーム発売直後インタビューの時点で「生まれ変わり概念」まで語っておいてほしかった。
      何年も経って今頃そんなこと言われても、後から思いついて塗り固めてるとしか思えないです。

      …って、こういう些細なところで不満がられても、シナリオライターさんも困りますよね。(^_^;) でも、勝手ながらちょっとヴァンに幻滅してしまいました。ははは。はー…。
      また認識の再構築しないとねぇ。
  5. ユリアの十人の弟子のうち二人が戦いで死に、一人が裏切り(ダアト)、残りが七賢者と呼ばれるようになった。アルバートとシグムントは異母兄弟。
    • ユリアの弟子のうち二人が戦死、というのは初出情報だったかと思います。
  6. ジェイドの目の色は元はヘーゼルだったが、譜陣を刻むことで赤に変化した。
    • 元は違う色だったことは、例えば、小説『真白しろ未来あした』にも書かれてありましたが、元が何色だったか明記されたのは初めてだったかと思います。
      ヘーゼルってのは要ははしばみ色で、やや赤みがかった茶色ですよね。ネフリーの目の色と同じということかな。


序奏 〜始まりの旋律〜

 ゲームのメインシナリオライター・実弥島 巧女史による書き下ろし小説。本編開始前日のルークの一日を核に、《その時、他のキャラは何をし、何を思っていたか?》を垣間見せてくれる話です。メインキャラが全員登場していて嬉しい。

 イオン・アニス・ジェイド組の部分は公式外伝漫画『EPISODE 00』と話が直接繋がっており、そのエピソードが会話の中に出てきたりします。構成的にはドラマCD『エピソード・ゼロ』に近いです。

 ところで『EPISODE 00』、漫画的な盛り上がりを付与するためだったのでしょうが、ラストシーンが時系列的に首をかしげざるを得ない形になっていました。その印象が強かったので、この小説に細かく日時が記されているのを見て、今回はずいぶん厳密に時間設定に向き合っているんだな、と感じたのですが、よくよく考えてみれば原作ゲームや公式外伝漫画2でも日付を記していたわけで、今回もそのスタイルが適用されたってだけのことですね。(^_^;)

 

 それはそうと。すみません。一行目がいきなり。

レムデーカン・レム・22の日

 違います…。ゲームスタートの前日なら、「レムデーカン・ノーム・22の日」が正解です。

 なんか文句言ってばっかで自分でも嫌なんですが……。ううううう。これは最終的には校正さんのうっかりってことになるのか。些細なことですが、ちと残念……。

 あと、各所の感想でよく話題にされてましたが、《ガルディオス伯爵》とすべきところが《ガイラルディア伯爵》になっています。単純なケアレスミスですけど、ちょっとギョッとするかも。

 ついでに細かいこと言うと、アッシュのパート。《さらわれた》とルビ付きで書いてあるんですが、それ同音異語…。正しくは《攫われた/掠われた》のよーな。《浚われた》だとドブ浚いになっちゃいます。ヴァンはアッシュを水の中から落ち葉や泥みたいに浚いあげたのか。

 紙媒体の商業文なので何人ものチェックを通ってるはずですけど、やっぱり人間なので、網を抜ける時は抜けちゃうんだなと思いました。

 

 1月22日、土曜日。朝の5時37分。
 朝焼けの光が赤く射し込んでくる頃、ルークは例の幻聴と頭痛で目を覚ましました。また退屈な一日が始まったとうんざりしています。広大な公爵邸とは言え無限の広さはない。退屈を紛らわしてくれる唯一の趣味は剣術ですが、最近はヴァン師匠せんせいも忙しくてなかなか稽古を付けに来てくれません。(しょうがねぇな。ガイでもからかいに行くか)と、たった一人の友達の顔を思い浮かべながらあくびをするのでした。

 同じ頃。
 イオンはグランコクマへと向かう高速艇の甲板で、水平線に昇る朝日を見つめていました。やや遅れてアニスが起きてきます。もっとゆっくり寝ていていいんですよと言われて、部下が上司より遅くまで寝ているのは恥ずかしいことだと彼女は言いましたが、いつもイオンの方が早起きなのです。っつーか早く起き過ぎですねイオン様。(^_^;) ちなみにイオン曰く、甲板から海を見つめるような船旅は初めて。アニスは、今までせいぜい釣り船くらいにしか乗ったことがなかったそうです。
 間もなく、ジェイドも甲板に現れました。あと二日ほどで上陸できるので、そこでタルタロスに乗り換える。国境はケセドニア経由で越えようと相談し合います。
 旅の先は長い。けれどやらなければなりません。
 全ては世界の未来のために。


 同日、正午近くの11時46分。
 ルークはファブレ邸の倉庫の、音機関の部品の散らばった床にしゃがみこんでいました。頬を膨らませて むくれています。ガイと剣の稽古をしようと思ったのに、ペールに頼まれて昼過ぎまでに芝刈り機の修理をする約束をしたとかで、どんなにせがんでもそっちにかかりきりなのです。もう三時間もやっているのに。「これが終わったら部屋まで迎えに行くから、もうちょっと待っててくれよ」「頼むよ、ルーク坊ちゃん。邪魔しないでくれ」と苦笑交じりに懇願されたって、納得なんかできません。
 音機関が絡むこと以外なら、ガイは何でもすぐに言うことを聞いてくれるのに。屋敷で同年代なのはガイだけで、退屈を紛らわしてくれるのも彼だけなのに。もっと気遣ってくれたっていいじゃないか。親友の気持ちの解らない駄目な奴だ。
 そんなことを考えながら、その辺にあったパーツをいじっていたら壊れてバラバラになっちゃいます。するとガイが叫び声をあげ、涙目でショックを受けている様子。それがないと動かせない、さっき組立て直し終えたばかりなのに、一からやり直しじゃないか……。彼はそう言いながら散らばった部品を拾い集め始めましたが、ルークにはピンと来ないので「ふーん」「ま、いいじゃん。壊れたんなら直せばさ」としか言えません。
 とうとう、昼食の時間だから食堂へ行け、行ってくれ頼むと、俯いてがくりと肩を落としたガイに言われ、どうやら本気で邪魔にされているらしいと解ってきて、ルークは「ガイの馬鹿野郎!」と怒鳴ると足元のネジを蹴飛ばしてしまいました。だって、思う通りにしてくれないガイが悪いんです。

 同じ頃。
 アッシュはケセドニアの宿の一室に集めたシンク、ラルゴ、アリエッタ、ディストに向かい、マルクト軍の手引きで導師イオンが出奔したこと、その奪還を六神将全員で行えという命令書が、今朝方モースから届いたことを伝えました。既にシンクが作戦を立てており、彼とディストを後方支援役、斬り込み隊長をラルゴにして事に当たることに。
 イオン奪還の意欲に燃えるアリエッタを見て、どこまで事態を理解できているものやらと思い、それは自分も同じかとアッシュは舌打ちをします。彼自身、何も分からぬまま、ヴァンや教団上層部の指示で動いている。
 誘拐以降、居場所も名前も失った彼に残った持ち物は、愛しいナタリアと交わした約束と、その記憶だけ。そして拠り所となっているのは、馬鹿げた預言スコアを無くして世界を救うというヴァンの理想でした。
 何故なら、それが世界を……ひいてはキムラスカ・ランバルディア王国を守り、ナタリアとの約束を果たすための唯一の道になるはずだからです。
 全ては世界の未来のために。
 即ち、キムラスカのため。ナタリアのために。
 存在を無くしたアッシュは、そうすることでしか己を保つことができないのでした。


 同日夕方近く、16時8分。
 ルークはファブレ邸の庭園の植え込みの間に隠れていました。訪ねてきたナタリアから逃げて、身を隠していたのです。
 定められた結婚をするのは王族の宿命。それに、この婚約者のことをルークは別に嫌いではありません。記憶をなくした自分をよく支えていてくれると思っています。けれど、以前のルークを今のルークに重ね、元に戻ってほしいと期待に満ちたまなざしで見つめられると、全く記憶の戻らないルークはどう振舞っていいのか分からず、時には息苦しくなって「うぜー」と感じてしまうこともあるのです。
 ルークを探し回るナタリアは庭師のペールに声をかけます。王女の前にひざまずいた彼は、不思議なことに、老騎士のように見えました。彼が、ルーク様のお姿はお見かけしていませんと言ってくれたのでホッとしたのも束の間。物音をたててしまい、ナタリアに見つかってしまいました。今度はもう、ペールも助けてくれません。
 観念して、わざとぶっきらぼうな態度で何の用かと尋ねれば、ファブレ公爵に最近ルークが暇を持て余しているようだと聞いて、様子を見に来てくれたのだとか。けれどルークは、普段ろくに会話もしないのに外面だけいいんだと内心で父に怒り、ナタリアに対しては、お前が来たって何も楽しくない、だって剣術できないだろ。できたとしたって女相手はかったるいと邪険な態度です。すると、ではダンスなどいかがですかと提案されました。成人して社交界に出たら不可欠だからと。ルークは頭をかきむしって喚きました。
「あー! どうしておまえと話してると、いっつも勉強の話になるんだよ」
「当たり前です。あなたはこのキムラスカ・ランバルディア王国の次代の王になられる方なのですから!」
「んなこと知るか!」

 説教魔人ナタリアに舌を出して、ルークは再び逃げ出します。「もう! お待ちなさい! ルーク!」と追っていくナタリア。二人の鬼ごっこは、まだまだ終わらないようでした。

 同じ頃。
 空が茜に染まったバチカルの港に、初めてティアが降り立っていました。
 通りかかった中年の女性はティアを《おのぼりさん》だと見抜き、親切に教会までの道まで教えてくれます。外殻の人はこんなにも優しいのかと、ティアは複雑な気持ちになりました。監視者としての誇りを持つユリアシティの人々は、多くが排他的で冷たかったからです。
 それでもティアは、養祖父テオドーロが住み、兄や教官との思い出のある、あの街が好きでした。しかしその思い出とも決別せねばなりません。動機は分からないものの、兄や教官が外殻大地の人々を消滅させようと目論んでいることを知ってしまったからです。
 誰に訴えても信じてくれなかった。こうなったら自分で止めるしかない。この手で実の兄を討つ。そのために大詠師直属の情報部に入り、外殻大地で自由に活動できる立場を得ました。ダアトでは警備が厳重すぎて妹の自分でも兄には近付けない。けれどこの街でなら可能なはず。兄ともう一度言葉を交わせば丸め込まれて決心が鈍る。奇襲するしかない。
(今から……私は獣になる。肉親を自分の手で殺す、愚かな獣に)
 明日が兄の、そして自分の命日になる。ティアは決意に体を震わせます。
 全ては世界の未来のために。


 同日、夜も深まった21時51分。
 ルークは屋敷の中庭で星空を見上げていました。屋敷の棟の形に四角く切り取られた、箱庭の空。成人まであと三年は、この中で死にそうに退屈な暮らしをせねばなりません。ごろりとベンチに寝転がります。こうすると夜空だけが見えるから。
 その時、屋敷の方からガイが呼ぶ声が聞こえました。小さく手招きをしています。自分から近付いてこないのは、口うるさい執事のラムダスの目を気にしているかららしい。のろのろと起き上がって行ってみると、今朝は悪かったな、と爽やかな笑顔で謝ってきました。結局、修理には夕方までかかったそうです。
 だったらすぐに謝りに来いよと頬を膨らませると、ナタリア様がいらしてたじゃないか、とからかう顔になりました。知ってたなら助けてくれればよかったのにと怒っても、大切な婚約者じゃないか、と意に介さない。むくれるルークを見て、またプロポーズの言葉を思い出したかって聞かれたりしたのか、と状況を読んではくれましたが、頷いたルークが不満をぶちあげても、照れるな照れるなと からかうばかりです。友達の風上にも置けません。ムカついて鳩尾みぞおちにパンチしてやろうとしたのに、軽くいなされちゃうし。
ま、とにかく、今朝の埋め合わせは明日するよ。朝の仕事が終わったらおまえの部屋に行くから、何して遊ぶか考えとけよ
 ガイはウインクして、あっという間に屋敷の中に戻って行きました。どうやら仕事の合間に抜け出してきてくれてたみたいです。
 それに気付いて、ルークは、ガイは本当に人が好い、と考えました。女性恐怖症という欠点があってもメイドたちが彼を気に入っているように、ルークもガイが気に入っています。今朝のように腹の立つこともあっても、彼はいつもルークを助けてくれるから。
(ま、でも、ヴァン師匠せんせいほどじゃないけどな)
 なにしろ、ヴァン師匠はガイみたいに音機関に夢中になってルークをないがしろにすることなんてありません。いつだってルークのことを一番に考えてくれるのです。
 ヴァン師匠がローレライ教団なんか辞めて、ウチの白光騎士団に入ればいいのにな。そうしたらいつでも稽古をつけてもらえるのに。そうだ、それがいい! 母上から父上にお願いしてもらおう。そんなことを思いついて、ルークは久しぶりに胸をワクワクさせるのでした。

 同じ頃。
 ヴァンはリグレットと共にバチカルの教会の執務室(?)にいました。事務仕事を片づけながら、導師イオンの行方が未だ掴めないこと、モースがイオンに間者スパイを付けているらしいことをリグレットから聞いています。
 恐らく、導師が運んでいる親書こそが預言スコアに詠まれたアクゼリュス消滅を呼び起こすのだろうと、ヴァンは読んでいます。それはホドの悪夢の再現になるでしょうが、その時にこそユリアの預言が力を失うはず。
 ヴァンは机の引き出しから封印術アンチフォンスロットの譜業装置を取り出し、リグレットに渡しました。導師奪還作戦の際に使えと。あのレプリカは体が弱く、譜術を使うと寿命を縮める。セフィロトの扉を開けさせるとき以外は力を弱めておくのがよいと言うのです。
 また、ヴァンはアッシュの様子を尋ねました。リグレット曰く、監視役のシンクの報告によれば、今のところ大人しく指示に従っているとのこと。ヴァンは言います。全てはアクゼリュスでルークが消えるまでのことだ、その後はアレを簡単に丸め込むことができる。
 そしてリグレットが尋ねました。ガルディオス伯爵のご子息の件はどうなさいますか、世界をレプリカ化する時のため、彼のレプリカも作らねばならない。そのためには同志になっていただかなくてはと。
 それが問題だと、ヴァンはため息をつきます。ガイは協力して復讐を遂げることを誓い合った、かつての主家の嫡男ですが、ルークをレプリカと入れ替えて以降、復讐心に迷いが生じているようでしたから。対応を急かしてくるリグレットに、「今しばらく待ってくれ」と言いました。
 リグレットが他の六神将と合流するべく退出した後、ヴァンは明日からのことを考えます。まずはファブレ公爵家に、しばし帰国するとの挨拶に行かねばなりません。そしてモースを抑え、その隙にリグレットたちにセフィロトの封印を解かせる。
 全ては世界の未来のために。
 世界がユリアの預言に詠まれぬ崩落をすれば、人類は新たな未来に向けて歩むことができる筈なのですから。


 1月23日、日曜日。日付が変わったばかりの0時11分。
 日課の日記を書き終えると、ルークは伸びをしてベッドに倒れ込みました。
 世界がどう動いていようとも、彼の生活はこの鳥籠の中のまま、変わることはない。……そのはずで。
 明日はガイと剣術の稽古だ。それから何をしよう。ペールに何か面白い話をしてもらおうか。ああ、そうだ。ヴァン師匠のことを母上に相談しなければ。
 そんなことを考えながら、ルークはゆっくりと眠りに落ちていきます。これから己が身に降りかかる残酷な運命のことなど、まるで知るよしもなく。
 こうして。彼の退屈な、けれど穏やかだった最後の一日が終わったのでした。

 

 衝撃の事実。ルークが、言われるまま黙って亡命しようとしたほどに、親友のガイより師匠のヴァンに懐いていた一因は。ガイは音機関に夢中になると遊んでくれなくなるから、だったのでした! これに一番、(勿論いい意味で)ウケました。ズレた見方すんなと叱られそうですけども、ウケちゃったんだから仕方がない。わははははっ。(*^^*)

 可愛いなぁ。お屋敷時代のルークは本当に子供だったんですね。そして同時に、その幼気いたいけさが切ないです。

 

 見てると、この頃のルークって、殆ど一日中不機嫌なんですよね。確かに、軟禁による退屈も、持病の頭痛と幻聴も、ついでにお父さんが冷たいのも、多大なストレスをもたらしていたと思います。可哀想。

 が。一方ではワガママいっぱい。暇だ暇だと言うばかりで必要な勉強はしないし、しろと言われるのも嫌。せっかく遊びに来てくれたナタリアに邪険な態度をとって暴言吐きまくり。(ナタリアは強い女の子ではありますが、彼女が傷つくかもなんて、この頃のルークは微塵も考えないですよ。)言うことを聞いてくれるガイに甘え切って、珍しく彼が別のことにかかりきりになっていたからってぶーぶー言い続け、彼の三時間の苦労を水泡に帰しても、認識すらできてない。それどころか、親友なんだからもっと気遣ってくれるべきだ俺の気持ち解れよとイライラしているのでした。気遣われてるのに気付いてな〜い。

(ちなみにルークは台詞でも地の文でもガイを決して使用人とは呼ばず、《親友》《友達》だと呼んでいました。でもまだ、自分が友達の気持ちや都合を考えるという意識はないんですね。)

 ガイが芝刈り機の修理をしていたのって、勿論、彼自身の機械いじり好きも大きいでしょうけど、遊びじゃなくて仕事です。それにペールへの孝行心もあった気がするのですよ。業者に頼んで時間かけるより、俺がすぐにやってやるよ、みたいな。通常の仕事の合間に時間を捻出してやってたんじゃないかな。でもルークの妨害のおかげで、昼までで済ませるつもりが夕方までかかってしまって。

 いくら住み込みだからって、行事のない日にガイのような使用人が夜の十時近くになってもまだ仕事をしてるのって、珍しい感じがします。もしかして、芝刈り機の修理に予定外の時間がかかったせいで、通常の仕事が終わらなかったんじゃないでしょうか?

 なんにせよ、彼は朝から働きづめ。それでもわざわざ暇を盗んでルークに謝りに来るし、明日は朝から埋め合わせをすると言う。それも通常の仕事を済ませてからです。

 さすがのルークも「本当にガイは人がいい」と考えたくらいですから、ちょっとは悪かったとか、気遣ってもらってるとか感じたのかもですね。この頃のルークはまだ心が鈍麻してる感じですから、本当には気付いてないのでしょうが。

 髪を切った後にこの日のことを思い出すことがあったら、悪かったなぁと後悔したりしたのかな。

 

 これらのエピソードを読んで思ったのですが、ガイって、ルーク専属の小間使いってわけじゃないんですね。別に沢山の仕事があって、ルークの相手ができない日がある。そもそも、ガイの正式な仕事がルークのお守りなら、窓からこっそり部屋に入ったり、ラムダスの目を気にしてコソコソ手招きする必要なんてない訳ですし。

 ルークがまだ赤ちゃんみたいだった頃は、子守り役・教育係として付きっきりで世話をしたんでしょうけど、今は違うみたい。ガイには使用人としての仕事が別にある。

 ……多分、いつまでも子供のまま、子守り役にくっついて遊んでいるものではないと、公爵かラムダスが手配したんじゃないでしょうか? でもルークは変わらずにガイと遊びたがる。だからガイは仕事の合間に暇を作って、剣術の稽古に付き合ったり、こっそりルークの部屋でお喋りしたりしてたのかも。他の使用人たちも、ルークにガイ以外の友達がいないことが分かっているから、ある程度融通をきかせて、ガイに時間の余裕を回してあげてたんではないかなと思いました。

 が。本編見てると、ナタリアは「私がルークと結婚したら、おまえは私の使用人になるのですよ」と言ってましたよね。ということは、やっぱりガイはルークの専属使用人……?

 要は、現時点の形式上はルーク専属ではないけれど、心情的にはルークとセットのように認識されていて、将来彼が王位を継いで王宮に移っても当然付いていくと思われてた……ってことになるのでしょうか。ファブレ公爵も、ルークをアクゼリュスに送り出す時、「ガイを世話係に連れて行くといい」と言いましたが、最期の旅路にはせめて一番の仲良し(忠臣)を道連れに……と思ったのかもですね。

 

 その他のキャラへの感想。

 イオンのこと。

 イオンがいつもアニスより早く起きて景色など見に出ているという設定は、TVアニメ第6話を取り込んだものかと思いました。こういう性癖があったから、早朝にアニスを置いて散歩に出て、漆黒の翼にさらわれちゃった、と。

 それから。イオンが「船旅は初めて……のようなものなので」「正確には初めてではありませんけど、こうして甲板から海を眺めたことはなかったと思います」と言うのですが。皆さんはどう思いましたか? これってやっぱ、嘘であり、誤魔化しですよね。

 アニスは二年前、導師がレプリカにすり替わると同時に導師付きの導師守護役フォンマスターガーディアンになった。以降は護衛として常に行動を共にしているはず。しかし彼女は、自分の乗船経験は釣り船で沖に出たくらいがせいぜいだと言う。

 即ち、《船で旅をしたことがある》のは本物の導師イオンで、レプリカイオン自身は今回の船旅が初めて、ということになるのではないでしょうか。

 導師イオンの影武者としての振る舞いを叩き込まれているレプリカイオンは、誤魔化し方に長けているんだな、と思いました。発言に齟齬が出ないよう、過去のオリジナルイオンの公式行動もみんな頭に入れてるんでしょう。本編で、和平の使者としてインゴベルト王に謁見した際「ご無沙汰しております」と言うのですが、もしかしたらこれも、以前会ったことがあるのは本物の方で、レプリカイオン自身はこれが初対面だったのかもしれないですね。(この二年の間に、インゴベルト王の方がイオンに会いに行ったことがあるなら、話は別ですが。)

 

 ジェイドのこと。

 キムラスカへ向かうに当たり、カイツールではなくケセドニアへ行って、領事館を通してキムラスカに打診しようと計画していて、本編の無茶な旅とのギャップに笑いました(苦笑)。

マルクト帝国からキムラスカ王国への陸路は二つだ。非武装地帯を挟んだカイツールの検問所を通過する道と、ケセドニアを経由する道である。いくら和平の使者といえども、マルクト籍の陸上装甲艦がすんなり国境を越えることはできない。ぐずぐずしていると、ダアトからの追っ手に追いつかれる可能性もある。しかし中立地帯であるケセドニアに入り、そこの領事館経由で和平を打診すれば、いくらか話が通りやすいだろう。ジェイドの考えは至極真っ当であった。

 うん。真っ当だ。

 そう言えばゲーム版の本編ドラマCDでは、タルタロスで直接カイツールに乗り込んだんですっけ。で、国境を通過する代わりにタルタロスを乗員ごと置いて、(マルクト側の人間は)ジェイドだけで行った。大変。

 陸路でケセドニアに行けなくなったのって、タルタロスが追っかけた漆黒の翼が、ローテルロー橋を爆弾で破壊したせいでしたよね。自業自得…? 尤も、タルタロスは水陸両用ですから、拿捕されなければ橋がなくても問題なくケセドニアへ行けたんでしょうか。色々と計画が潰れていたんですねぇ。

 

 アッシュのこと。

 誘拐され六神将として生きざるを得なくなったアッシュの心の支えはナタリアとの約束で、彼女と国を守るためにヴァンに協力していたと、はっきり語ってくれていてとても嬉しかったです。うんうん。

 アッシュは自分が自分であることを捨てた。
 いや、捨てさせられた。
 七年前、ヴァンの手によって、ファブレ公爵家からさらわれた(ママ)ときに。
 あの時からルーク・フォン・ファブレは鮮血のアッシュとなり、自らの模造品――レプリカが、自分の居場所を奪い去っていった。
 あの日から、アッシュは全てを失ってしまったのだ。
 たった一つの約束を――その記憶を除いて。

 ナタリアとの約束を、あえて《思い出》ではなく《記憶》と表記してあるのが面白いと思いました。

 レプリカに存在を奪われたと思っているアッシュ。レプリカルークには記憶がない。本物のルークにはそれがある。ナタリアは奪われたルークの記憶を求めてる。レプリカルークは彼自身の記憶を得るけれど、最終的に、その記憶はオリジナルに奪われる。

 

 ティアのこと。

 彼女が死ぬ覚悟でヴァンに向かっていたことが明瞭に語られていて納得でした。地の文のある小説という形態もあってか、本編に比べキャラの気持ちがずっと判り易くてよかったです。やっぱ、何考えてるのか解んない・納得できないキャラだとしんどいですよね。

 

 本編のティアは、ルークに対してまるで熟練の戦士のように振る舞いますが(キャラデザインの藤島さんなんか、ティアを何人も殺してきた手練の暗殺者だとイメージしてました)、この小説では通りすがりの人に《おのぼりさん》だと見抜かれて赤面しています。

 戦士たるもの、何時如何なる時も、けして隙を見せてはならない。これでは軍人失格だ。
 ティアはもう学生ではない。ローレライ教団の神託の盾オラクル騎士団に所属する、一人前の戦士なのだ。自分ではしっかりしていたつもりだったが、まだまだ未熟者なのだろう。

 やっぱり、ティアは学校出たてのペーペーの女の子なんですね。しかもすごく気負ってる。うんうん。

 

 ティアがファブレ公爵邸に乗り込んでヴァンに襲いかかったのって、結局、《美しき暗殺者》というシチュエーションで物語の導入を魅力的に盛り上げたいというメタ的な理由にすぎないのでしょう。実際、私もこの導入はドラマチックで大好きです。しかしゲームクリアして世界観を理解してから見返すと、やはり奇妙ではあります。どうして他国の大貴族の、しかも私設軍が守っている家に乱入しなければならなかったのか。もっと他に襲い易い場所があるじゃないか。

 矢島さらさんの商業二次小説『黄金きんの祈り』では、人の多い公爵邸を襲撃の場所にしたくはなかったが、探し回った兄をやっとそこに見つけて、彼がダアトに戻る前に決着をつけなければと思ったから……と説明されてました。で、こちらの小説では。

 ヴァンはこの街で、ファブレ公爵家の子息に剣を教えているという。教団本部のあるダアトでは警備が厳重過ぎて、妹といえどもヴァンに近付くことができないが、この街なら話は別だ。きっとヴァンを討てるだろう。

 ……大体同じことを言ってるようですが、こちらだと、最初からファブレ邸を襲撃場所にするつもりで、計画を綿密に立ててバチカルに来たようにも読めますね。

 ダアトだと警備厳重で妹でも兄に近づけない…。一方では導師イオンが供の一人も付けずに街を歩き回って信者たちと交流していたと語ってるのに。…むむう。ヴァン自身が妹を通すなと指示していたのなら近付けないか。けど、彼がそこまでティアを警戒してたなら、彼女が外殻を自由に動く権限を得たのを放置しないですよね。なんか理由付けてユリアシティに釘付けにすると思う。リグレットも全くティアの動きを視野に入れてなかったみたいですし。

 つーか。ティアはどうして翌日までヴァン襲撃を待ったのか? 滞在場所を隠していないでしょうし(多分、バチカルの教会か、教団の関連施設)、寝込みを襲った方がよくないか? ティアも神託の盾の騎士なので、同じ建物に入るのは、ファブレ公爵邸に入るよりは容易なはず。そもそも、他国の私設軍を白昼堂々譜歌で眠らせて襲撃なんて大胆なことをしておいて、どうしてダアトじゃ出来ないのか。

 結局、どう理屈を捻ろうと、おかしいものはおかしい訳で。これはもう、《理屈も何もなく、ユリアシティから出る権限を得るなり闇雲に追いかけて行って、追いついたところで襲いかかった。そこがたまたまファブレ邸だった》と単純に考えた方が、自分的にはスッキリするかな、と思いました。

 

 ヴァンのこと。

 ダアトからの鳩は、一日でバチカルにまで到着するんですね。

 

 ヴァンがアクゼリュスの惨状を知っています。

 今、マルクト帝国のアクゼリュスという鉱山都市では、一つの大きな問題が勃発している。障気という毒素が発生し、街が壊滅的な危機を迎えているのだ。救援隊を送ろうにも、マルクト帝国の領土からアクゼリュスに向かう為の橋が洪水で失われている。恐らくマルクト側はキムラスカとの和平交渉の際、アクゼリュスの救援を求めてくるだろう。

 その通りで、マルクトからの親書に救援要請が書かれてあったと本編で語られます。

 しかし疑問があるのです。ゲーム本編中の日付を参照すると、ルークが屋敷から飛ばされて帰還するまでに二ヶ月かかってる。出発前からアクゼリュスが障気で壊滅状態だったとすると、マルクトは二ヶ月も橋を架け直さず救援しなかったことになるし、アクゼリュスの人々は二ヶ月も猛毒の障気の中に居座り続けて避難しなかったことになってしまう。

 リメイクされるときには、この辺にフォロー設定が追加されるんでしょうか。《どうしてマルクトは二ヶ月も橋を架け直せなかったのか》《どうしてアクゼリュスの人々は幼い子供に至るまで誰も、二ヶ月も避難できなかったのか》。そして《どうしてジェイドは旅の途中でフーブラス橋の辺りに行った時、橋が落ちていることもアクゼリュスを通るルートが使えないことも言わなかったのか》。《二ヶ月もそんな惨状だったなら、どうしてセントビナーやエンゲーブでそれが噂になっていなかったのか》。

 自分的には、ジェイドが出発した当初はアクゼリュスの障気は大したことがなくてピオニーの救助要請も儀礼的なものだったけれど、ルークたちがフーブラス川を渡った頃に起きた例の地震のせいで、坑道は崩れるわ濃い障気が噴き出すわで大変なことに、ってことかなと考えるようになってたんですが……。でもヴァンが、ルークが飛ばされる前日に「障気という毒素が発生し、街が壊滅的な危機を迎えている」と認識してる。むむう。……あ。ヴァンは預言スコアを知ってるから、そうなることを確信してたってだけかな。

 ちなみにこの辺の矛盾を乗り越えても、橋は落ち峠は塞がって徒歩でしか救援に行けなかったはずのアクゼリュスに、拿捕されたタルタロスが堂々登場、という大矛盾が控えてるわけですが。どこ通って来たの。まさか本当は大型陸艦の通れるルートがあって楽々大規模救助できたのに、ピオニーがキムラスカと和平したいあまりに行わなかった、なんてことじゃないですよね。(^_^;)

 こういうこと書いてますが、こうした矛盾を差し引いても『アビス』はぶっちぎりで面白い話だと思ってますし、今でも熱中しているくらい大好きです。ただ、時に突っ込んで、自分なりに矛盾の解決を考えてみる遊びも、物語の楽しみ方の一つとして許してほしいなと思っています。アクゼリュスのタルタロスの件だと、例の地震でどこかが崩れて新しい道ができてたとか、キムラスカの先遣隊がどこかに整備した道を作ってたのをちゃっかり使ってタルタロスを入れたとか。

 

 ヴァンは封印術アンチフォンスロットをリグレットに手渡し、こう命じます。

「導師奪還作戦の際はこれを使え。導師の譜術を封じるのだ。あのレプリカは譜術を使うと命を削ることになる。セフィロトの扉を開けるとき以外は、力を弱めておく方が安全だ」

 ええ。封印術アンチフォンスロットってそんな簡単に効果をON/OFFできるものなのか。渡された譜業装置は一つだけ。一度封印をかければ、必要なときだけ戻したり、また封じたりできるのでしょうか。

 じゃ、ジェイドが半年以上もかけて自力で封印術アンチフォンスロットを解いてたのって、実は趣味? 意外な事実ですね。

 

 ヴァンは、ガイをどう扱うのか悩んでいたんですね。ティアに対してもですが、そもそも計画について話してすらないくせに、仲間にはしたい、か。正直に話しても賛同してくれないだろうという確信があったのかな。

 TVアニメ版ドラマCDを参照するに、ティアは優しい性格だから賛同しないだろうと思っていた。ではガイは?

 ホド島時代、ヴァンの主であったガルディオス家――その跡取り息子が、現在ガイ・セシルと名乗って、ファブレ公爵家に住み込んでいる。その目的は、仇であるファブレ公爵とその子息ルークを亡き者にすることだ。偶然にもファブレ家で再会したヴァンとガイは、互いに復讐を誓い、手を携えて事にあたると約束を交わした。しかし被験者ルークをレプリカと入れ替えた頃から、ガイの心には迷いが生じているようだった。無論、ガイはルークが入れ替わっていることを知らない。しかし知らないなりに変化を感じ取ってしまったようだ。

 ルークを入れ替えた時に話さなかったのは、その頃のガイが子供で不安定で、殺したいルークをレプリカと入れ替えてまで死の運命から助けるなんて同意しないだろうと思ったからかなと思いますが。その後は、復讐心が揺らいでいるようだから、今の世界を消すという途方もない復讐には同意しないだろうと思った、ということなんでしょうか。それとも、ヴァンの計画は《レプリカルークを犠牲にする》ことから始まるものだったので、今のガイはそれに賛同しないのではないかと恐れた?

 

 って。こんな風に理屈をこねまわしてみたところで、本編のアクゼリュス崩壊の際、ヴァンはティアは救おうと手を回したのにガイは放置してたという矛盾があったりしますが。

 この辺も、リメイク版が出たらフォローされるんでしょうか。例えばカイツール辺りで宿に泊まると、ガイがヴァンかららしい手紙とかを受け取って考え込む様子が見られるとか。ってそれは私の願望ですけど。(^_^;) そういうガイが見たいなぁ。そんなガイが前にいても自分のことでいっぱいで全然気づかないルークも見たいなぁ。

 

 最後に、ルークのこと。

 頭痛のせいとは言え、夜明けに目覚めていたので驚きました。お寝坊さんじゃないかと勝手に思っていたから。それとも、このあと二度寝したのかなー。

 そして真夜中を回ってからようやく眠る。テレビもラジオもインターネットもないのに、よくそんなに夜更かしできますね。何してたんでしょう? 無難に小説でも読んでたとか、音楽聴いてたとか? 意外と、勉強してたとかもアリか。昼の勉強時間に逃げてたせいで家庭教師から宿題出されてたりして。

 いやいや。日記書くのにすんごい時間かかるとか。彼の日記は毎日スペクタクル。小説のような怒涛の大展開。ついには漫画化。ガイ、スクリーントーン買ってこいよ。あるいは古式ゆかしく詩作。ルークの引き出しは秘密のポエムノートでいっぱい。んな訳ないですハイ。

 あ、風呂がめちゃくちゃ長い説はどうでしょう(笑)。ふやけるまで入ってるんだよきっと。旅に出てからは長風呂をティアに怒られるんです。

 

 好きか嫌いかは分かんないけど、ルークは星空はよく眺めてたのかもしれないな、と小説を読んで思いました。

 オールドラントだと、譜石帯の譜石を絡めた星座物語なんかも色々ありそうです。譜石は常に流れているだろうから星座にはならないだろうけど。たまに譜石が落ちてくると、それは流れ星に見える。落ちてきた譜石の小さな欠片を拾うことができたら、幸運のお守りにできるのかもしれない。




 感想はこれで終了です。

 全体に密度の濃い、いい本だと思います。表紙デザインも好き。買ってよかったです。


 



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