注意!

 

テイルズ オブ ジ アビス −鮮血のアッシュ−

角川書店/『月刊コンプエース』/漫画:斎藤ハナ、シナリオ:二条凛

『テイルズ オブ マガジン』休刊に伴い、『月刊コンプエース』に移籍した、アッシュ主役の外伝漫画。

 

第14話

 掲載誌が休刊し、系列誌の『月刊コンプエース』に移籍。とは言え、『コンプエース』は見事なまでに《男性オタク向け美少女雑誌》であるため、移籍と言うより間借りと言った方がしっくりする感じです。(^_^;)

 前回ラストに付けられていた「次回、衝撃の結末へ…!!」という煽り文からして、今回で終了かと予想されましたが、もう一回続くとのこと。これは、予定より一回分増えたということなんでしょうか。

 打ち切り終了に違いはありませんが、もし一回分だけでも予定を超えて増やしてくれたのだったら、読者として感謝したいです。一杯読ませていただいてありがとうございました。

 

 雑誌を移動しての、三ヶ月ぶりの連載再開。まずは、丸1ページ使った特設記事で、これまでのあらすじと登場人物を紹介。紹介ページは『テイルズ オブ マガジン』の頃から毎号あったんですけど、そちらでは前号分くらいしかなかったあらすじが、物語の頭からになっていて長大でした。

 そして漫画本編の方も、重要な部分(アッシュの死が間近であること、ヴァンを止める気であること)が一読で解るイメージシーン、そしてさりげない世界設定の説明描写から始めており、初めての読者・久しぶりの読者を意識しているように感じました。

 

 今回の物語内容は、アニメだと第15話Bパート〜18話に当たります。要は、崩落編の残りをまとめて、終了させてありました。

 打ち切り終了で残り僅かなページ数を渡された時、それを埋める方法は幾つもあるのだと思います。ぶつ切りエピソードを並べてダイジェストを見せるとか、開き直って外伝的エピソードを描くとか。しかしこの漫画はそれらを選ばず、あくまでアッシュの思考を追って話を繋げながら、原作・アニメにない裏話すら挟みつつ、せせこましくなり過ぎない程度にまとめ上げてありました。すごいです。絵も相変わらず綺麗で、紙数不足で絵がやや詰め込まれた部分もスッキリ読めて、気になりませんでした。

 

 前回は、ナタリアが決意してインゴベルト王を説得に行くところで終わっていましたが、その顛末はカット。ただ、彼女が王と並んで平和条約の席に座っている絵から、和解が無事為されたことは理解できます。

 そして場面は飛び、シェリダンの惨劇へ。エピソード圧縮のため、港でヘンケン&キャシーを斬殺したヴァンと、駆けつけて失態を詫びるリグレットが同コマに描かれてあります。殺された仲間を見たスピノザが尻もちをついて怯えた悲鳴を上げますが、これは『マ王』漫画版から採ってますよね。(原作&アニメでは、スピノザは呆然と立ち尽くしている。)

 スピノザに「よく見ておけ」「私の敵となる者の末路をな」と言うヴァンに、凶悪なニヤリ嗤いをさせていて、とても恐ろしくてよかったです。 

 

 さて、その頃のアッシュ。漆黒の翼に金袋を投げ渡し、「今日までの報酬だ お前らとはここまでだ」と立ち去る。モノローグで、ヴァンが六神将と多くの兵を連れて教団から姿を消したことにサラリと触れます。(地核振動停止作戦の決着については触れませんでした。)

 夜、停泊しているアルビオールを高い崖の上から見下ろすアッシュ。アニメ版17話のティアを、アッシュに置き換えたみたいな画面レイアウトです。

 どうも、ヴァンが接触に現れると踏んで見張っていたらしい。ぼんやりと見つめながら、居場所を失った自分にとって唯一の居場所がヴァンだった。だが…、などと回想しています。構成上手いなぁ。

 その時、見下ろす先に、ティアと対峙しているヴァンを発見しました。描かれていませんが、すぐに近くまで駆け下りたってことなんでしょうか。次の場面ではアッシュが物陰から二人の会話を盗み聞いています。ティアの言葉から、ヴァンが全人類をレプリカと入れ替えようとしていると知り、激昂すると雄叫びを上げて斬りかかる。

 アニメの相当シーンとはティアの台詞回しが違っています。漫画アッシュを激昂させた漫画ティアの「兄さん… もうやめて! …大地の崩落も」「レプリカの世界を作るなんてことも!!」という台詞は、アニメ版にはありません。アニメのアッシュは会話を盗み聞いていたのではなく、ヴァンを見つけるなり闇雲に襲いかかって来た、ってタイミングの登場でした。漫画アッシュの方が言動に筋が通っている感じ。

 剣を交えながら、「人類を…大地を滅ぼしてレプリカに置き換えて 何が理想の世界だ!!」と憤りをぶつける。するとヴァンは涼しい顔で言います。それが預言スコアから解放される唯一の方法だ、二千年にも及ぶ歪みを矯正するにはこのくらいの劇薬が必要なのだと。

 原作だとベルケンドやアブソーブゲート決戦の際にルークたちに向かって言う台詞ですよね。アッシュ主人公の物語ですからこういう形に変えたんでしょう。上手いです!

 絞牙鳴衝斬を使おうとしたアッシュでしたが、その発動より速いヴァンの刃に胸を斬られ、地に倒れてしまうのでした。

 ここからしばらくはアニメ版と同じでした。ティアを探すルークたちが駆けつけ、その中からナタリアがアッシュのもとに駆け寄る。ヴァンに、お前もこの世界に失望しているのではなかったのかと問われたアッシュは、預言スコアもこの世界もぶっ潰してやりたいと肯定、一瞬ナタリアを悲しませるものの、すぐに「だが…っ だがな… あんたにも…大切な者が…守りたい者がいるんじゃないのかよ!?」と言ってのける。傍らにナタリアを寄り添わせながら。

 この後の場面が、少し変えてありました。

 ヴァンが「冷静になれ。私には、お前が必要なのだ。出来損ないではない。アッシュ。本物のお前がな」と言い、ルークが人知れず悲しそうに俯く。(イオンだけがそれに気付く。)アニメではそれだけの薄さだったのが、漫画ではアニメでカットされた原作ベルケンド、そしてアブソーブゲート決戦時の台詞を追加して、肉厚に整えてあったのです。

ヴァン「冷静になれアッシュ 私にはお前が必要なのだ お前の超振動が無ければ私の計画は完遂しない」「私と共に新しい世界の秩序を作ろう」
#アッシュ、遮って叫ぶ
アッシュ「超振動が必要なら」「そこにいる俺のレプリカを使え!」
#ヴァン、冷たい目でルークを見やり
ヴァン「あれは劣化品だ 一人では完全な超振動を操ることも出来ぬ」
ルーク「……!! 師匠せんせい…俺……っ」
#ヴァン、ギロリと睨んで
ヴァン「屑に用はない 消えろ」
ルーク「俺は…!」「じゃあ……何のために生まれてきたんだ…っ」
ヴァン預言スコア通りに歴史が動いていると思わせるための捨て駒だ」「死ぬべきときに死ねなかったお前に価値はない」
ティア「やめて! あんまりだわ兄さん!」

 ヴァンに存在否定され心折れるルーク。これは《レプリカルークの物語》に必要なもので、《アッシュの物語》には必ずしも必要なパーツではないんでしょうが、アニメでの描写の薄さに心残りがあったので、ここで仇を取ってもらった感じですごく嬉しかったです。

 ヴァンはアブソーブゲートで待つと言い残して逃げ去り、アッシュは「ナタリア… もう俺には…時間がないんだ…!」と、優しい彼女の手を拒んで追っていく。

 

 その後、オリジナルエピソードが入っていました。

 ヴァンを追って夜の荒野を走り続けたアッシュは、間もなく、傷のダメージで気を失って倒れてしまいます。目を覚ますとどこかの宿のベッドで、漆黒の翼とギンジがいました。ギンジは縁に冷えタオルを掛けた洗面器を抱えています。つまり、アッシュは傷のために発熱していて、みんなで看病してくれてたんですね。

 ギンジ初登場です。ほんの小さく描かれていましたが、どうやら以前シェリダンに行った時(ナタリアを励ましに行った時?)、アッシュは彼と話したことがあったらしい。

 妄想するなら、アニメ版のギンジはシェリダンの惨劇の時に飛行テストに出かけてたことになってますから、出先でちょっと機体トラブルがあって降りて整備していたところにアッシュ一行が通りかかって……みたいな出会いだと面白いですね。

 原作だと、アッシュがアブソーブゲート決戦前あたりにシェリダンに来てアルビオールを貸してくれと頼んだことになっており、アニメ版のDVD特典ドラマCDでは、ナタリアのバチカル脱出以降にノワールの発案でシェリダンにアルビオールを借りに行ったことになっています。この漫画版ではその間を取ってる感じ?

ノワール「この前 ツバつけてただろ? せっかくだから呼び寄せたんだよ」
ギンジ「おいらも手伝います」
アッシュ「いらん! 勝手なことばかりするな!!」
ギンジ「妹はルークさんたちの協力をしてる… おいらも何かお役に立ちたい」
#ギンジ、静かに洗面器を置いて、悲しげに
ギンジ「シェリダンで技術者たちが作った地核振動停止装置の成果を… みんなの犠牲を無駄にしたくないんです」
ノワール「弔い合戦ってわけじゃないけど ギンジもアタシたちも色々と思うところがあるんでね」
ウルシー「またお伴しますぜ」
#少し眉根を寄せ、気まずげなアッシュ
アッシュ「…だが」
#ウルシー、アッシュを覗き込んで にっと笑う
ウルシー「持ち金が尽きたってんなら 報酬は出世払いにしてもらえればいいでゲス!」
アッシュ「!!」
#アッシュ、はあ… とため息ついて、不機嫌そうに
アッシュ「好きにしろ」
#にこにこしているアッシュの仲間たち

 前々回辺りの感想に、アッシュが漆黒の翼や情報屋にバンバンお金を払ってる、お金をいっぱい持ってるんだなあと書いたんですが。なんと、とうとう尽きていたらしい。今回、漆黒の翼から離れたのは、払えるお金がなくなったからだったんですね。

 でも、漆黒の翼たちは追いかけてきた。アッシュの役に立つよう飛晃艇と操縦士まで手配して。アッシュの方は彼らに心を許しきることが出来なくて「もうお金がないのに…」と躊躇するんですけど、その辺のことはお見通し。「お金なんていらないから」と言ったところでアッシュが受け容れないだろうと読んで、「出世払いでいい」なんて言い方をする。アッシュが仏頂面をして憎まれ口ばかり叩いてもへっちゃらです。ほんとに、アッシュはいい仲間に恵まれていたんですね。

 ちなみにこのシーン、ベッドに半身を起こしたアッシュは前髪が下りていて、上着も脱いでいて、新鮮な感じで可愛かったです。当たり前ですけど長髪ルークと同じ顔ですねえ。シャツは前をはだけて、包帯が巻かれてありました。

 

 再び場面が飛んで、アブソーブゲート決戦前のケテルブルク。アルビオールで訪れたアッシュはルークと邂逅、一緒に行こうという誘いを撥ね退けて、怪我をしていなければ俺がアブソーブゲートに向かっている、ヴァンを止めるんじゃない、倒すんだよと発破をかけるのでした。ここはアニメ版から概ねそのままです。

 

 次の場面はラジエイトゲート。アニメ版は原作から設定が変えられていたため、この時点でアッシュがラジエイトゲートに行く必然性がありませんでした。なのにアッシュがそこにいたことになっていて謎状態でしたけども。この漫画版でもそのまんま。アッシュは理由なくラジエイトゲートにいました(笑)。

 ところで、ラジエイトゲートやアブソーブゲートの絵が素晴らしく綺麗でした。設定画そのままで正確、トーンワークも完璧、みたいな。

 ラジエイトゲートのリングを独りで見上げていると、舞い上がり続けていた周囲の記憶粒子セルパーティクルが吸い込まれ始めます。驚愕するアッシュ。

(記憶粒子の流れが!?)(対極のアブソーブゲートから記憶粒子が逆流している… 地核を活性化させて振動停止装置を壊し大地を強引に崩落させるつもりか!)

 なんと、アッシュはここに至るまで逆流について知らなかった。つまりホントに、ラジエイトゲートに来たのは偶然だったと言うことで。

 

 その頃、アブソーブゲートのルークはヴァンを打ち倒し、深手を負ったヴァンは自ら地核の底へ姿を消しました。いよいよ本来の目的、外殻降下作業が開始されます。

 この辺り、アニメ版は設定を変更したり勘違い(?)してたりで描写がおかしいのですけど、この漫画はその辺を完璧に修正してあったので溜飲が下りましたです。

 まず。アブソーブゲートはセフィロトの中では唯一、記憶粒子セルパーティクルが吸い込まれているのが正常状態なんですが、アニメ版では逆に描写してしまってました。それをちゃんと、《逆流で噴き上げていた》のがルーク&アッシュのリング操作後に《吸い込まれる》ようにしています。(文字で説明が書かれてはいないので、あくまで絵を見ての判断ですが。)

 次に。アニメ版ではどうしてここでルークが超振動を使うのか、そうするとどうして事態が解決するのかイマイチ説明がし切れていません。

(アニメ版)
ジェイドほうけている場合ではありませんよ。アブソーブゲートの逆流を止めなければ。あなたの超振動が必要です、ルーク」
(中略。ルーク&アッシュが超振動をリングに放つ)
アニス記憶粒子セルパーティクルが……!」
ジェイド「正常に戻りましたね。これで外殻大地は崩落することなく、ゆっくり降下できます」

 特に、全リングを連動させて一気に外殻を降下させると言う設定が抜け落ちてしまっています。ですが漫画版では

「ルーク! あなたの超振動でここから指示を出します」「記憶粒子の逆流を止め正常に戻したあと 各地のセフィロトにあるすべてのパッセージリングを連動して大地を一斉降下させます」

というジェイドの台詞だけでサラッと過不足なく説明してくれてました。……この解り易さの差はどこから出てくるのだろう…。

 

 ルークに力を貸して外殻降下を行う時、ルークが(ありがとうアッシュ…)と感動的に思ってるのに対し、アッシュは口をへの字にして(フン… お前のためじゃねえ)と憎まれ口を叩いてたのが面白かったです。

 

 外殻降下が終わった後、急にアッシュに耳鳴りが起こり、ローレライの声が聞こえてきました。彼の前に光が凝り、ローレライの剣が現れる。ローレライの「栄光を掴む者ヴァンデスデルカ」という言葉を聞いたアッシュは、(まさか… 奴がまだ生きている!?)と戦慄するのでした。

 今回はここで終了です。


第15話

 掲載誌を移動しての第二回目にして最終回。そして、掲載誌と同日発売で、今回までが収録された単行本最終巻(第二巻)が刊行されました。

 この状況を見るに、やはり移籍しての雑誌掲載は、原稿料を出すための方便だったんでしょうね。

 

 今回の22ページで、レプリカ編をまとめてありました。

 と言っても、エピソードの殆どはバッサリと切り捨てられています。アッシュの宝珠探索、イオンの死、大量生産レプリカ、エルドラント浮上、障気中和、ナタリアとラルゴの父娘対決、ヴァン復活まで、全て。残念ですが、紙数を思えば最良かつ当然の選択ですね。絵とアッシュの独白で、エルドラントが浮上したこと、ヴァンがローレライを取り込んで生きていることだけは、最初に説明されます。

 

 アルビオール三号機で、(恐らく)ロニール雪山のセフィロトを訪れたアッシュ。すると(かつての監視役である)シンクが襲いかかってきました。(服装は変更なしで、仮面だけ外しています。)彼の素顔を見たアッシュは初めて、シンクもレプリカだったのかと悟る。

 シンクは、ようやくヴァンの再構築が完了した、ローレライの解放をさせるわけにはいかない、だからローレライの鍵を渡せと言う。応戦するアッシュでしたが以前ヴァンに斬られた胸の傷が痛み、ピンチに。

 そんな彼を救ったのはルークでした。彼の仲間たちも駆けつけ、分が悪いと見たシンクは逃げ去る。

 ルークはラルゴが宣戦布告しに来たことを告げ、空中に浮かぶ要塞島にヴァンがいると教えました。そして宝珠を取り出し、「今度こそヴァン師匠せんせいを倒さなきゃいけない!! 俺が受け取ったこの宝珠と」「お前の剣で!!」と力強く言います。静かな気分でアッシュは思いました。

(皮肉なものだ)
(完全同位体のレプリカが作られたことも
 ローレライと同じ音素フォニム振動数であることも
 すべて わずらわしかった)
(しかしそれらが今)(未来への可能性を作っている…)

 そこでローレライの剣をルークに渡そうとしたのですが、ルークの方がアッシュに宝珠を差し出し、ローレライ解放はお前の役目だ、と言ったのです。

 途端にアッシュは激昂しました。バカやろうと怒鳴りつけ、ルークの襟首を掴み上げて激情をぶつけます。

お前は俺だろう!「どうして自分がやると言わない! 戦って勝ち取ろうとしない!」「どうして自分の方が優れていると…ふさわしいと言えない!!」

 歩み寄ったガイが、ルークを締め上げるアッシュの手を無言で外しました。

 これはアニメ第20話のオリジナル要素の導入なんでしょうね。ロニール雪山のセフィロトでアッシュがルークの胸倉を掴んで剣を突き付けると、ガイが歩み寄って刃先を掴み、ぐっと下ろす、と言う奴。

 ガイのおかげで解放されたルークは軽く咳き込んでから、静かに、けれど毅然として言ったのです。

「アッシュ… 俺とお前は違うよ」「たしかに俺はお前のレプリカだ 顔も声も体も同じ …だけど」「俺は俺自身の記憶や想いを持ってる お前の付属品でも代替え品でもない」
#背後の仲間たちに目を向けて
みんなに会えて少しずつ…そう思えるようになったんだ」
#アッシュに向き直って
「それにヤケになって言ってるんじゃない お前の方が能力が高いのは事実だから」

 アニメ版に多少の追加と修正を加えた台詞回しです。また、アニメのルークがかなり強い感じで喋っていたのに対し、非常に落ち着いています。

 個人的に、アニメでは「それに、自棄になって言ってるんじゃない。ローレライの解放は、やっぱりお前の役目だ」と言うだけの台詞だったのを「それにヤケになって言ってるんじゃない お前の方が能力が高いのは事実だから」に修正してあったのが嬉しかったです。うんうん。そういうことなんですよね。アッシュが《オリジナルだから》譲るのではなく、冷静に能力を見ての判断。自分が《レプリカだから》駄目だと思考停止してる訳じゃなく、目的に適した者に役目を譲っても《人間として》負けるつもりはない。

 しかしアッシュには、ルークの主張を受け入れる余裕はありません。なにしろ、もうすぐ自分は死ぬと思っているのですから。だからこそ、不本意でも《もう一人の自分》に剣と役目を託そうと思ったのに。

(何も知らねぇでノンキなことを…!!)
「俺は認めねぇぞ… お前は俺なんだ!!」
(だからこそ俺はお前にすべてを…っ!)

 俺がバカだった、と吐き捨てると、肩を怒らせてアッシュは立ち去りました。(この場面、ナタリアが全く絡まなかったのが少しだけ残念でした。)

 この後、原作のフェイスチャット《ルークとアッシュ 2》を元にしたオリジナル会話が追加されていました。

アニス「ふえ〜」「アッシュは変わらないね〜」
ティア「ルークが変わったのよ」
ガイ「…本当はアッシュも気付いてるんだろう」「ただ認めたくないだけだ」「自分から何もかもを奪った複製品レプリカが自立したことを…」

 

 次の場面は日時が飛んで、エルドラント決戦前日です。

 中央大海上のエルドラントが近くに見える海辺(イスパニア半島の北端かな?)に、アルビオール三号機が停泊していました。仲間たちは艇内に待機し、アッシュだけが外に出て、岸壁から海を見ています。

 艇内で、ギンジは非常に不満そうな、悲しそうな、いきどおろしい様子です。

「アッシュさん 明日一人で突入するって 無茶すぎますよ!」

 しかしノワールは落ち着いた様子で目を伏せ、「決意は揺るがないだろうさ」と言うばかりでした。恐らく、説得は何度も試みたのでしょう。それでアッシュが受け容れないのならば、もうどうしようもない。

 それでも彼女はポツリと漏らしました。

「…でも… 寂しいねぇ」「坊やはいつも 一人きりで戦ってる気持ちなんだろうね…」

 仲間たちに背を向け、独り、海を見つめ続けているアッシュ。辺りはそろそろ夕暮れに近づきつつあります。

 そして、同じ海に沈む夕日を、ケセドニア港の桟橋からナタリアが見つめていました。ここのシーンの繋ぎ方が綺麗でした〜♪

ナタリア「アッシュ…」「来るはずがありませんわね…」「ガイは今でもアッシュを 仇の息子として憎んでいますの?」
ガイ「…俺は俺なりに過去にケリをつけたつもりだ」「すべてのしがらみを取り去ったら あいつはあいつで面白い奴だと思うよ」「一から始めるのもいいと思ってる」
ナタリア「そう… そうですわね…」

 アニメ版を簡略化して、原作の該当シーンのガイの台詞をちょっとだけ足しています。

 この漫画はアッシュ主役なので、彼の世界に属する人たち……愛するナタリア、師匠のヴァン、自分のレプリカ、友達だと思っていたガイが主に描かれることになるんですね。ジェイドとアニスの決戦前夜エピソードはカットで、小さなコマで情景が描かれていただけ。ルークとティアの様子は台詞付きで語られましたがティアの顔は描かれず、ルークの(アッシュ お前は今 何をしている?)という独白で締められていました。

 

 場面は飛び、(恐らくアルビオール三号機の艇内で)頭痛に苦しむアッシュ。

(ナタリアが…平和に暮らせる世界を…)(間に合うか…!?)

 ついにエルドラント突入。アニメ25話のアレンジに沿い、独りで神託の盾オラクル兵たちと戦っているアッシュのもとにルークが駆け付けた途端、床が丸く抜け落ちる罠にかかって、二人諸共に天使像の部屋に閉じ込められてしまう展開です。

 するとアッシュは「これが最後の機会だろう」と言い出し、剣を突き付けてルークに決闘を迫る。やはりアニメ版に沿っています。

 原作では「エルドラントで決着をつける」と予め約束をしていましたが、アニメ版にはそれがない。ですからアニメ放送当時、WEBのあちこちで「こんな非常時に身勝手だ」「どうしてここで決闘と言う流れになるのか疑問」という感想を拝見したものでした。それを、この漫画はフォローしていました。

#アッシュ、上着の上から胸の傷を押さえて
(細胞を繋ぐ音素フォニムの乖離と)(治らない胸の傷…)
(この体にはもう 奥まで辿り着く時間もねぇみたいだな…)
#剣をルークに突き付け
「これが最後の機会だろう」「いまここで お前と決着をつける」

 自分がもう いささかも保たないと感じたからこそ、こう言ったと。ふむふむ。

 

 もう一つ。アニメでのアッシュ不調シーンを見ていて、最初の頃は頭を押さえて痛がっていたのに、後半になると胸を押さえて痛がるようになったので不思議に思ってたんですが、この漫画が解答を与えてくれました。音素フォニム乖離のためヴァンに斬られた傷が治らなかったんだそうです。なるほどー!

 

 決闘を迫られて戸惑うルークに、アッシュは、ヴァンの弟子は俺だけだ、彼の理想を信じていたかった、どちらが本物の弟子か存在をかけた勝負だ、と言い募ります。ここも台詞の順番が入れ替えられているくらいで概ねアニメ通り。しかし、会話の終盤部分は変えられていました。

(アニメ版)
アッシュ「あいつの――ヴァンの弟子は俺だ。俺だけだ! 俺は、あいつを尊敬していたんだ。預言スコアを否定したあいつの理想を俺も信じたかった。あいつの弟子であり続けたいって……」
ルーク「……(哀しそうに俯く)
アッシュ「だから、ヴァンを仕留めるのは俺だ!」
ルーク「……俺も師匠せんせいを尊敬してた。俺のことを解ってくれるのは、師匠だけだって。
 でも、今俺は師匠を止めたい。レプリカだけの世界なんて、間違ってる。(泣きそうな顔を上げ)俺みたいな思いをする奴は、もう作り出してはいけないんだ!」
アッシュ「だったら、俺を倒してヴァンの元に行くんだな!!」
#剣を構えるアッシュ。ルークも剣を抜く。二人、激しく斬り結び始める

(漫画版)
アッシュ「あいつの…ヴァンの弟子は俺だ!!」「俺だけだ!!」「俺はあいつを尊敬してたんだ…」「預言スコアを否定したあいつの理想を俺も信じたかった!」「あいつの弟子であり続けたいって…」
ルーク(呆然とアッシュを見ている)……
アッシュ「ヴァンから剣を学んだ者同士 どちらが強いか…」「どちらが本物のルークなのか」「存在を賭けた勝負だ!!」
ルーク「どっちも本物だろ 俺とお前は違うんだ」
アッシュ「黙れ! 理屈じゃねぇんだよ! 過去も未来も奪われた俺の気持ちがお前にわかってたまるか!」「俺には今しかねぇんだよ!!」
#ルーク、フッと顔を伏せて剣の柄を握り、スラっと抜く
ルーク「…俺だって今しかないよ」「奪われるだけの過去もない」
#抜いた剣を構えて
ルーク「それでも俺は俺であると決めたんだ」「お前がどう思ったとしても 俺はここにいる」「それがお前の言う強さに繋がるなら」「俺は負けない
アッシュ「くっ!!」
#二人、激しく斬り結び始める

 おおー!!

 個人的にアニメ版で一番不満だったルークのオリジナル台詞「レプリカだけの世界なんてもう作り出してはいけないんだ」が削除され、アニメで削除されていた原作の台詞「それでも俺は俺であると俺は負けない」が復活しています。やったぁ!!!

 

 ルークとアッシュの決闘シーンは、アニメ版ではそれぞれの独白と回想映像が入り、最後に互いに言葉を交わして、ルークが気迫の叫びをあげて勝つ、みたいな感じでしたが、漫画では紙数も少ないことですし、動きを重視したシンプルで迫力ある形にまとめられていました。

 激しく斬り結び、互いの刃を噛み合わせて睨みあう。顔を歪めたアッシュは(互角か…ッ)と思いますが、直後に、鋭さを失わないルークの双眸に射抜かれ、剣を弾かれる。己の手を離れクルクルと回って遠くに突き立ったローレライの剣を見て、アッシュは素直な驚きの顔を見せる。

 ここのアッシュの表情が、とてもよかったです。認められず驚愕してるのでもない、屈辱に震えるのでもない、怒っているのでもない。ただ純粋な驚きと、遅れての静かな容認、みたいな。

 

 アッシュはルークにローレライの剣を渡し、追手の前に足止め役として残る。ルークは約束しろ必ず生き残るってと言いつつ先に行く。

 アニメのアッシュは(その約束は出来ねぇんだよ……)と心の中で思っていましたが、漫画ではここも変えてありました。

「その約束… 果たせるならな……」

 完全否定はしていません。希望がある感じです。

 

 この後、神託の盾オラクル兵たちとアッシュの戦いの場面もアニメ版沿い。ルークとの決闘シーンでのアニメオリジナル独白と回想が少し混ぜられていました。

#誘拐から自力で戻って来た時の、マントをまとった幼いアッシュのイメージ
アッシュ(自分の居場所も名前も レプリカに奪われ ただ懸命に生きるしかなかった)
#現在の様子。ルークがナタリア達と無事に合流
アッシュ(過去は捨てたはずが…)
#七歳の《約束》の日、無邪気に笑うナタリアを愛おしそうに見ているアッシュのイメージ
アッシュ(忘れることが出来なかった あの遠い日の約束)
#現在の様子。先へ進むルークと、不安そうにアッシュの残っている方を返り見ているナタリア
アッシュ(…大切な記憶)
#現在の様子。地上から不安そうにエルドラントを見ている操縦士兄妹と漆黒の翼
#現在の様子。ティア達に倒されて死んでいるリグレットや神託の盾兵たち
#現在の様子。バチカルの自宅の庭で、寄り添って彼方のエルドラントに想いを馳せている様子のファブレ夫妻

アッシュ(身体は消えかけている
 …だが 今 なぜか気分はいい)
#現在の様子。ホド神殿の上で待ち構えているヴァン
#神託の盾兵たちに対峙しているアッシュ。一瞬よろめくが、襲い来た一人を斬り捨てる
#苦しそうな中、フッと口元に笑みが浮かぶ

アッシュ(俺にはまだ 残せるものがある)
神託の盾兵「そこをどけ!」
アッシュ断る!」「お前らの相手はこのアッシュ」「…いや」「ルーク・フォン・ファブレだ!

 これにて、この漫画は終了です。

《アッシュの物語》である以上、ここで終わるのは妥当とも言えますが、どうにも尻切れトンボだなぁという印象は拭えません。けれど打ち切り終了という事情を鑑みますと、よくぞここまでまとめあげて描いてくださった、とも思います。もしゲームで「アッシュサイド」みたいなのが作られるとしたら、やっぱりここで終わるんでしょうしね。

 それでもワガママを言えば、数ページでいいから単行本書き下ろしでエピローグを付けてほしかったです。自分は間もなく死ぬとアッシュが思っていたことが勘違いだったことの示唆と、出来れば、最後に《彼》が帰ってきた場面でナタリアのアップとか……。むむむ。ちょっと物足りなさが残ってしまい、残念です。

 

 単行本の最後のページに、作者さん方のあとがきが短く書かれていました。そのうち、シナリオ担当の二条 凛さんのコメントが興味深かったです。

アッシュの旅が終わりました。旅の始まりに彼は「過去を捨てた」と言っていましたが 本当はそんなことはできないのです。過去は消せない。ただ目を背けることしか……
ですがアッシュは真実を求め戦い抜く中で いつしか過去と向き合い、受け止め、そして――未来に想いを託して。
ご愛読ありがとうございました。

 うんうん。《アッシュの物語》は、そういうお話なんですね。

 

 打ち切りのために少しの物足りなさが残ってしまいましたが、原作への解釈が自分のものとかなり近かったこともあり、色々と共感しながら読めました。単純にアニメをコミカライズするのではなく、深いところまで原作を読みこんで補完・再構成しようとしていた姿勢も好きでした。そして絵もとても綺麗だったなー。一年半くらいの連載期間でしたが、楽しかったです。ありがとうございました。

 

 さて、最後にオマケな感想。

 単行本第二巻、雑誌掲載時はモノクロだった第8話冒頭の三ページがフルカラー彩色されていました。そして目次を入れた関係で、1ページ分「これまでのあらすじ」的なアッシュのモノローグページが書き足されてました。

 カバーをめくると楽しくて可愛いイラストカットが沢山ありますが、これは全部、『テイルズ オブ マガジン』掲載時の巻末作者コメント用のカット(文字抜きバージョン)ですよね。懐かしかったです。

 

 ……巻末のあとがきページのイラスト、アニスだけ欠席……。(^ ^;) 

 幼少ルークと少年ガイは物語が見える感じで可愛いです。

 このページに描かれた幼少ナタリアは、服装はアニメ版で、花冠を持っているのは『マ王』漫画版外伝1を意識してるんでしょうね。原作、そして複数の商業二次の延長線上に、この漫画はあったのだなぁと思いました。


 



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