セントビナーまでは、再び徒歩の旅だ。救助活動の為にジェイドに与えられた一軍を引き連れ、一行は街道を進んだ。

「なっ……、なんだこれ!?」

 先頭を歩いていた足を止め、ルークは声をあげていた。

 グランコクマのある西ルグニカからセントビナーのある東ルグニカへ進むには、シジス川を渡らなければならない。その川が間近になった辺りの地面が大きく陥没していたのだ。

「これじゃ危なくて通れませんわ……」

「でも、陥没の規模はそれほどじゃないわ。少し迂回をすれば大丈夫よ」

 穴を覗き込むナタリアを、ティアが促している。一行は少し回り道をして無事に橋を渡った。

「地面に大穴開いてたですの」

 足元を歩くミュウの不安げな声を聞きながら、ルークは俯いていた。

「崩落はどんどん進んじまってる……。俺がアクゼリュスのセフィロトを消しちまったからかな……」

 と。いつの間にか近寄ってきたアニスが、ニヤニヤと笑いながら口を開いた。

「ルークったら、いつまでも うじうじ君だなぁ」

「なんだと! 俺だって責任を感じて……」

 ムッとして睨みつけると、「おー、怒った〜」と笑いながら飛び退く。

「でも責任を感じてーとか、面倒だから後にして欲しいでーす」

「うぐ……」

「とにかく〜、頑張ってるのは分かるけどぉ、根詰めすぎてもよくないと思いまーす♪」

 おどけた調子で続けるアニスの声や笑顔には、しかし嫌味や険はない。それに気がついて、ルークは はたと思い至った。

「……あれ。もしかしてアニス、慰めてくれてんのか?」

「そうそう〜☆ 楽しく〜ってのは無理でも、元気出してこ〜、みたいな感じ? ナイス慰め?」

 アニスは両頬に人差し指を当ててニコニコしている。

「ナイスですの〜」

 足元でミュウがぴょんぴょん跳ねた。アニスはそれを覗き込んで、ませた感じに頷く。

「おっ、この生物セイブツ、分かってるじゃない♪」

 そんな様子を見るうち、自然にルークの喉から朗らかな笑いがこぼれた。

「はははっ。ありがとな、アニス」

「はいは〜い☆」

 視線を上げたルークは、再び歩を早めて先へ向かっていく。ミュウもその足元にチョコチョコくっついていった。

「ま〜〜ったく、世話の焼ける子だわ」

 それを見送って、アニスはやれやれといった具合に笑う。

「優しいですね、アニス」

 ジェイドの笑みを含んだ声が掛けられた。

「べっつに〜。ただ、こんなところで何かする前にうじうじ落ち込まれたって迷惑って言うかぁ、困るじゃないですか」

「そうですね。――彼が本当に変われるのかどうかは、これからの行動にかかっているわけですから」

 二人は、先を行くルークの背を見やった。追いついた彼にガイやナタリアが声を掛け、それに一言二言返してから、ティアに話しかけている。道の確認をしているのだろう。

 橋を渡った先の分岐を東へ行けば、セントビナーだ。


 セントビナーへ行く前にエンゲーブへ寄ると、村人たちがシジス川の向こうに穴が開いたと騒いでいます。

「おいおい こないだアクゼリュスが落ちて大騒ぎになったばかりなのに 今度は西ルグニカ平野に穴が開いたんだって? どうなってんだよ! あの穴の大きさだとエンゲーブもすっぽり飲み込まれるよな」
「シジス川を渡った所に大きな穴が開いているわ。アクゼリュスが落ちたのと関係あるのかしら?」
「シジス川の向こうに穴が開いたらしいな。このままでエンゲーブは大丈夫なのか……?」
「穴はシジス川を渡った西ルグニカ平野にあるらしいぞ。己の目で見て考えて行動しろ」

 そこで早速探し回ってみましたが、穴なんか開いてねーや(苦笑)。いや、穴が開いてる、というフェイスチャット自体は、西ルグニカを歩くと(グランコクマを出ると)すぐに起こりますけど。

 

 ノワールファンクラブ(応援倶楽部会報)の三回目のイベントをまだ終わらせていなかった場合は、マルクト軍基地へ行く前に市街地へ行き、掲示板の前でアインに会うこと。でないとイベントを起こせなくなります。


 街道に軍を待機させて入ったセントビナーの街は、不安な空気に満たされていた。理由も告げられず神託の盾オラクル騎士団に街を閉鎖された時でさえ、これほど沈んではいなかったのに。

「アクゼリュスが崩落したって本当? ここは大丈夫かしら……」

「アクゼリュスが落ちたのもキムラスカどもの仕業じゃないのかえ?」

「キムラスカってのは血も涙もないねぇ……。まさか街ごと落とすなんてさ……。やり方が卑怯だよ……」

「アクゼリュスが落ちたり地面に大穴が開いたり、物騒な世の中じゃて。ここも安全とは言えないのかのう……」

 そして、人々は決まって呟いた。

「今回の件は預言スコアには詠まれてなかったってことかねぇ。キムラスカの計画が予め分かっていたなら、待ち伏せだって出来たはずだし」

「いや、セントビナーは崩落しないさ。預言スコアに出てないんだから大丈夫だって」




 街の広場に面したマルクト軍基地に入ると、グレン将軍とその父であるマクガヴァン元元帥の言い争う声が聞こえてきた。

「ですから父上、カイツールを突破された今、軍がこの街を離れる訳にはいかんのです」

「しかし民間人だけでも逃がさんと、地盤沈下でアクゼリュスの二の舞じゃ!」

「皇帝陛下のご命令がなければ、我々は動けません!」

「ピオニー皇帝の命令なら出たぜ!」

 部屋に踏み込みながらルークが大声で言うと、振り向いた二人は、ルークの後ろのジェイドの姿を認めて声を詰まらせた。

「カーティス大佐!? 生きておられたか!」

「して、陛下はなんと?」

 老マクガヴァンがいてジェイドに訊ねる。

「民間人をエンゲーブ方面へ避難させるようにとのことです」

「しかし、それではこの街の守りが……」

「何言ってるんだ。この辺、崩落が始まってんだろ!」

 承服できかねる様子のグレンに向かい、ルークは勢い込んだ。ジェイドが穏やかに続ける。

「街道の途中で私の軍が民間人の輸送を引き受けます。駐留軍は民間人移送後、西へ進み、東ルグニカ平野でノルドハイム将軍旗下へ加わって下さい」

「了解した。……セントビナーは放棄するということだな」

 息子の呟きを受けて、老マクガヴァンは「よし。わしは街の皆にこの話を伝えてくる」と身を翻した。グレン将軍も走り出す。素早く、父子はそれぞれの仕事に奔走し始めた。

「私たちも手伝いましょう」

 ティアの提案に、「そうだな」とルークは頷いた。





 老マクガヴァンの呼びかけにより、街の人々は殆ど着の身着のままで避難を始めていた。彼らを街の外で待機する軍まで誘導しなければならない。

「流石に街の全員を移動させるのは骨が折れますね」

 街角で人の波を見やって、ジェイドが軽く肩をすくめた。セントビナー基地やグランコクマから連れてきた兵たちも活動していたが、なにしろ、この街には二十五万人もの住民がいるのだ。「きちんと説明して誘導しないと、大混乱になっちゃうかも〜」とアニスが言っている。

「残ってる人がいないように、ちゃんと隅々まで探さないとな。移動は女と子供優先でいいのか? あ、老人もか」

 早口にルークが言った。ジェイドは頷く。

「ええ。それでお願いします」

「じゃあ、馬車も要るかな? ケガしてる人がいたら、馬車はそっちで使った方がいいか?」

「そうですね」

「よし、じゃあ俺、あっち見てくるよ!」

 笑顔で言うと、ルークは通りの向こうへ駆けて行った。

「ふむ。私は楽でよいのですが、少々戸惑いますね……」

「アクゼリュスの時とは随分違いますね〜」

 呟くジェイドに、アニスが頷いている。あの鉱山の街では、ルークは突っ立って右往左往するばかりだった。悲惨な状況や苦しむ人々を目に入れ、触れることを拒むかのように。

「彼の『変わりたい』という気持ちは、本物だったのでしょう」

「ちょっ〜〜〜〜と、認めてやってもいいかな……。熱血バカっぽいけど」

「基本的には、やはりバカなんでしょう」

 照れたような顔で言うアニスに、ジェイドはそう返して笑う。その時、向こうからルークが呼びかける声が聞こえた。

「おーい。バカみたいに突っ立ってないで、こっち手伝ってくれよ」

「おやおや。バカみたいと言われてしまいました」

 ジェイドは肩をすくめたが、顔は笑っている。アニスが大きな声をあげて笑った。




「ルークの奴、張り切ってるな」

 少し離れた場所では、ガイとナタリアとティアが好ましげにルークの様子を見守っていた。

「ですわね。アクゼリュスでのことが嘘のよう。変わりましたのね、彼」

「動いていないと、アクゼリュスのことを思い出して不安になるのかもしれないわ」

 ティアの呟きに「そうかもしれませんわね」とナタリアが頷く。

 そう、不安にならずにはいられないだろう。仲間たちの誰にとっても、あの惨劇の記憶は未だに生々しいものだ。ましてや、ルークは。

「それでもいいじゃないか。頑張ってるんならさ」

 ガイが笑った。「そうね……」とティアも笑みを浮かべる。なんにせよ、ここのところ沈みがちだった彼が積極的に動いているのはいいことだ。

「さあ、私たちも手伝いましょう」

 ティアが促すと、「ええ」「了解!」と明るいいらえが返った。





 人々の避難の波は続いていた。不安に押されて走り出す者も少なくなく、転んだり、取り残されて泣く子供がいたりもする。それを宥めて歩かせ、子供を抱き上げて右往左往している親に渡してやる。歩けない老人は背負って、街の外の馬車まで運んでいった。――その時だ。

 閃光と轟音が響いた。街の門の外でティアとジェイドが譜術障壁を展開し、光線のような攻撃を弾いている。

「逃げなさい!」

 その背後に庇った子供にジェイドが叫んだ。が、子供はおびえて腰を抜かし、動くことが出来ない。そこに巨大なロボットが襲い掛かる。押しつぶされそうになった刹那、ルークが飛び込んで、抱きかかえた子供と共に地面を転がった。踏み潰す目標を見失ったロボットがたたらを踏んで、街の門を背にしてこちらを向く。

「な、何だ……!?」

 子供を抱いたまま、ルークは振り向いてそれを見た。様々な譜業兵器でゴテゴテと飾りつけられているが、丸いフォルムや細い手足はどことなくオモチャめいていてユーモラスだ。……なんだか、見覚えのあるような。

「ハーッハッハッハッ。ようやく見つけましたよ、ジェイド!」

 高笑いが聞こえた。飛行安楽椅子に座った銀髪の男。六神将・死神ディストだ。

「この忙しい時に……。昔からあなたは空気が読めませんでしたよねぇ」

「何とでも言いなさい! それより導師イオンを渡していただきます」

「断ります。それよりそこをどきなさい」

「へぇ? こんな虫けら共を助けようというんですか? ネビリム先生のことは諦めたくせに」

 ディストの声が低く沈む。珍しくも、ぐ、とジェイドが喉を詰まらせたのをルークは耳にした。

「……お前はまだそんな馬鹿なことを!」

「さっさと音を上げたあなたに そんなことを言う資格はないっ! さあ導師を渡しなさい!」

 その声に反応したかのように、巨大ロボットがドリルのついた両腕を振りかざしながら襲い掛かってきた。ルークは子供を放して剣を抜く。仲間たちが駆け寄ってきた。

 以前キャツベルトで戦った時に比べると、ロボットは強くなっている。装備兵器も多い。だが水に弱いという特質は相変わらずだったのだ。

 譜術で大量の水を浴びせられ続けたロボットは、やかで全身から放電し、ヨロヨロとよろめいて後ろにひっくり返った。その勢いで街の門を砕き、崩壊させてしまう。

「あああああ! 私の可愛いカイザーディスト号RXがぁ!」

 ディストが悲鳴をあげた。

「覚えてなさい! 今度こそお前たちをギッタギタにしてやりますからねっ!」

 お約束の捨て台詞を残し、彼は飛行椅子に乗ったまま逃げ去っていく。

「無駄だとは思うが、念のため追跡しろ」

 側にいたマルクト兵にジェイドが短く指示を飛ばし、「はっ!」と短く返して、兵たちがバラパラと駆けて行った。

 その時だ。地響きと共にセントビナーの街が大きく揺らぎ、傾いたのは。

「街が沈むぞ!」

 ガイが叫んだ。巨大ロボットの倒れた衝撃が、辛うじて保たれていたバランスを崩す契機となったのか。門と塀に囲まれた、ちょうど街の内側が、震動しながらゆっくりと下がっていく。だが、避難はまだ中途だった。沈んでいく街には十数人ほどの住民の姿がある。中には、最後まで残って指示を出していたグレン将軍と老マクガヴァンの姿もあった。

「くそ! マクガヴァンさんたちが!」

 街と街道を少しずつ隔てていく亀裂に駆け寄って、ルークは悔しげに顔を歪ませた。もう救助できないのか。いや、今ならまだ飛び降りて助けに行くことが出来るかもしれない……。

「待って、ルーク! それなら私が飛び降りて譜歌を歌えば……!」

 制してティアが叫んだが、それはジェイドに止められた。

「待ちなさい。まだ相当数の住人が取り残されています。あなたの譜歌で全員を護るのはさすがに難しい。もっと確実な方法を考えましょう」

 亀裂の向こうに遠くなっていく街の中から、老マクガヴァンが張り上げる声が聞こえた。

「わしらのことは気にするなーっ! それより街のみんなを頼むぞーっ!」

「くそっ! どうにかできないのか!」

 ルークは悔しさを吐き捨てた。まだみんな元気にしているのに、遠ざかる姿をなす術もなく見つめているしかない。

(これじゃ……あの時と同じだ!)

 泥の海に沈んでいく子供。差し出された手と悲しげな瞳が、切れ切れにルークの脳裏をよぎっていく。

「空を飛べればいいのにね」

「……空、か」

 悲しげなアニスの声を聞いて、ガイが呟いた。

「そういえばシェリダンで飛行実験をやってるって話を聞いたな」

「飛行実験? それって何なんだ?」

 振り向いてルークは訊ねる。

「確か教団が発掘したっていう大昔の浮力機関らしいぜ。ユリアの頃はそれを乗り物につけて空を飛んでたんだってさ。音機関好きの間でちょっと話題になってた」

「確かにキムラスカと技術協力するという話に、了承印を押しました。飛行実験は始まっている筈です」

 イオンが頷いている。

「それだ! その飛行実験に使ってる奴を借りてこよう! 急げばマクガヴァンさんたちを助けられるかもしれない!」

 飛びつく勢いでルークは言ったが、ジェイドは懐疑的だった。

「しかし間に合いますか? アクゼリュスとは状況が違うようですが、それでも……」

 確かに、一気に崩落したアクゼリュスとは違い、セントビナーは亀裂の向こうに沈みはしたものの、未だそこにあった。その位置で安定しているようにも見える。だが、ここからシェリダンへ向かうとなれば、どんなに急いでも何日も掛かるだろう。果たして、そんなにも長い間、状況が待ってくれるものか……。

 すると、ティアがジェイドに顔を向けた。

「兄の話では、ホドの崩落にはかなりの日数がかかったそうです。魔界クリフォトと外殻大地の間にはディバイディングラインという力場があって、そこを越えた直後、急速に落下速度が上がるとか……」

「やれるだけやってみよう! 何もしないよりマシだろ!」

 ルークが叫ぶ。

「そうですわね。出来るだけのことは致しましょう」

 地に両手をついて亀裂を覗き込んでいたナタリアが立ち上がり、ルークに賛同した。二人の若き王族の真摯な視線を受けて、ジェイドは軽く目を伏せる。

「シェリダンはラーデシア大陸のバチカル側にありましたね。キムラスカ軍に捕まらないよう、気をつけていきましょう」

「よし、急いでタルタロスへ戻ろう!」

 ガイが促した。ラーデシア大陸へ渡るには、船を使わなければならない。





「それにしても先程の……ディストでしたかしら? 民を虫けらなどと……許せませんわ!」

 避難させていたセントビナーの住民はマルクト軍に任せ、一行はタルタロスを停泊させたローテルロー橋へ向かっている。

「戦いで住民に被害が出なかったのが、せめてもの救いですね」

 憤懣ふんまんを隠さないナタリアに答えて、イオンが表情を曇らせた。

「その代わり、助けられるはずの人も助けられなかった! くっそー!」

「ティアの話だと、魔界に着底するまでまだ暫くかかるようですから、我々にも、まだ出来ることがあります」

 拳を握るルークを、ジェイドが諌めている。

「ああ。急がないと!」

 ルークは頷いたが、イオンはまだ不安げなままだった。

「ディストは退けましたが、他の六神将も妨害してくるかもしれません」

「まったく、性懲りもありませんことね」

「懲りてくれると助かるのですけどねぇ」

 ぷんとむくれてナタリアが言うと、ジェイドが可笑しそうに失笑している。

「邪魔してきたら倒せばいい。そういうやり方、ホントはよくないのかもしれないけど、今は仕方がない。とにかく、急ごうぜ! えっと……シェリダン、だったよな」

「そうよ。シェリダンというのは、確か外殻大地の造船関係を一手に引き受けているのよね。セントビナーからだと、海を越えたずっと西、ラーデシア大陸の東側になるわ」

 ティアが答えた。「ふーん……」と、ルークは神妙に聞いている。――と。

そうなんだよっ!

 唐突にガイが叫んだので、仲間たちはぎょっとした。見れば、彼は実に嬉しそうに満面の笑みを浮かべているではないか。

「シェリダンはキムラスカの領土ではあるんだが、全世界から優秀な技術者が集まってくるんだ。シェリダンの周りには大峡谷があるだろ。あそこの乾いた石は音機関……特に、譜業兵器には欠かせないのさ。地理的にもダアトが近いから、ダアトを経由することでマルクトへ戦艦や陸艦を売ってるんだな。つまり……」

「だーーーっ! るせっつーのっ!!」

 生き生きと輝く瞳で延々と続けられた彼の話を、ついにルークの一喝が断ち切った。

「うわ……ヒく……」

 嫌そうに言って、アニスは実際に一歩引き下がる。

「ガイの音機関好きには呆れますわね……」

 ナタリアは疲れた顔をしていた。

「さすが偏執狂」

「悪かったな!」

 ジェイドに失笑されて、ガイがムッとして喚いている。いつもの彼らしからぬ子供じみた反応だ。ルークが諦めたように小さな溜息をつくのを、ティアは視界の端に捉えた。

「でも、空を飛ぶ音機関なんて、想像も出来ないわ」

「ホントだよ。ガイ、音機関で空なんて飛べるもんなの?」

 まあ確かに、ディストの椅子は空を飛んでたけどぉ……アレはちょっとねえ、と首を捻るアニスに見上げられて、ガイは気を取り直したように笑みを返す。

「元々、今の音機関では空は飛べないんだ。だけど、創世暦時代の浮遊機関が発掘されて、研究が始まったのさ」

「でも、シェリダンの職人たちって頑固って噂だよね。そんな貴重なもの、貸してくれるのかなぁ?」

「そ、それは分からないな……」

 苦笑すると、アニスはニヤッと笑った。

「いざとなったら、ルークかナタリアのお金ガルドで横っ面叩いて!」

「おいおい、横っ面って……。第一バチカルまで資金を取りに戻るのか? 難しいんじゃないかな……」

「なら、ティアと私とナタリアのお色気作戦で!」

「え!? そ、そんなの、困るわ!」

 ティアは頬を染めて本気で慌てている。ガイは苦笑を深めた。

「ま、まぁ、多分お色気は通じないと思うよ……」

「ほへ? そうなの。じゃあ、やっぱイオン様にお願いするしかないか〜」

「最初からそれでいいじゃないか」

 がく、と少々脱力してガイが笑うと、アニスは高らかに言い放った。

「イオン様は最終兵器なの!」

「そうなんだ……」

 ティアは素で感心している。ガイはまた苦笑した。





 タルタロスは海を走り、ラーデシア大陸のシェリダン港に入った。カイツールの国境では緊張は極限に達しているという話だが、簡易的な偽装をしただけのタルタロスは咎められることなく停泊に成功していた。キムラスカ領とはいえ、戦線から遠いからなのだろうか。シェリダンにはマルクト出身の技術者も多くおり、ケセドニアと同じように国の境が混沌としていることも一因なのかもしれない。

 港からやや北東、乾燥した大陸の東端にシェリダンの街はある。

「おいっ! 見てみろルーク、譜業の山だぞ、この街!」

 一歩街に入るなり、笑顔全開ではしゃぎだしたガイを見やって、ルークは憮然として目を伏せた。

「うぜぇなぁ。何一人で盛り上がってんだよっ」

「お前なぁ、シェリダンと言えば、世界でも最高の技術を誇る譜業の街だぞ。これが落ち着いていられるかっての!」

「ガイって、本当に譜業が好きなのね……」

 ティアが少し困ったような顔で微笑んでいる。

「そりゃもう、好きなんてもんじゃねぇよ。譜業やら音機関やらに目が無くて、色々作ったりしてるしさ」

「普段は落ち着いているけど、今は はしゃいじゃって、まるで子供みたいね」

 あちこちに目をやっては、笑ったり驚いたりしているガイの様子をティアは眺める。憮然としていた表情を緩ませて、苦笑気味ながらルークも笑っていた。

「ガイにとっては、夢のような街だもんな……」

 ファブレ邸の使用人として忙しい日々を過ごしていた彼は、今までこの街を訪れたことはなかったらしい。音機関好きの聖地に立って、興奮の極致にあるのだろう。

「お! 音素フォニム式冷暖房譜業器だ! 二人とも、説明してやるから見に行こうぜ!」

 何か目ぼしいオモチャを見つけたらしく、あっという間に走って行ってしまった。わざわざ説明をしようとするのは、他の人間にとってもそれが面白いに違いないと信じているからなのか何なのか。

「………ガイ……。目的忘れるなよー……」

 困り果てた顔で呟いて、それでも追って歩いていくルークを見ながら、ティアはもう一度微笑んだ。


 シェリダンの町にもイベントと仕掛けがいっぱい。

 街のあちこちに黄色いスイッチがありますが、ミュウアタックをかますと通路が開いたり機械が回ったりします。シーソーの上にある宝箱はミュウアタック五回で飛んでいき、開けることが出来ます。集会所の右奥を調べると脱出通路(?)が現われ、操作キャラが勝手に外に滑り出てしまいます。

 宿屋の右の部屋のベッドの物入れに3000ガルド、左の部屋の戸棚の中にセボリーが入ってます。酒場のテーブルの上にうどんのレシピがあります。武器防具屋の奥でガイが鍛治仕事を行うふいごイベントを起こせます。(材料は持参必要)

鍛冶師「火は生き物じゃ。わかるか若人。火の扱い方一つで武器の出来が変わる」
ガイ「確かに武器の製造に火は欠かせないし加減も重要だな」
鍛冶師「おまえさんはよう、わかっとるの。ならば素材は持っとるか?」
ガイ「素材って鉱石とかかい?」
鍛冶師「そうじゃよ。装備品の素材となるものを持っておれば何か作ってやろう。もちろん。おまえさんにも手伝ってもらうがの」
ルーク「だってさ。ガイ」
ガイ「……まいったね。力仕事は全部俺かよ」
ルーク「いいじゃん。お前、手先も器用だし」
ガイ「そうだな。おまえのはったり筋肉と違って力もあるしな」
ルーク「はったりとかゆーな!」

 ルークってはったり筋肉なのか(笑)。シェリダン港での倉庫整理の時は「力はある」と胸張ってたくせにな。倉庫整理も実はガイに代わってもらってたとか?(笑)

鍛冶師「では、始めるかの。おまえさんはそこに立つのじゃ」
ルーク「頑張れよ〜、色男〜」
ガイ「……どこでそういう言葉を覚えてくるんだ、全く」

 ガイが鍛治仕事を始めると、ルークはその横でいちいち はしゃいだり怒ったり焦ったりしてくれます。なんか可愛いです。

 このふいごイベントは全部で三回あり、二回目は地核の震動周波数計測装置を受け取りに来た時から、三回目はレプリカ編でガイと合流してから挑戦できるようになります。三回目のふいごイベントで作成する鎧と剣はここでしか入手できず、よってアイテムコンプリートを目指すならこのイベントのクリアは必須になります。

二回目
鍛冶師「おぉ来たか若人よ。火は生き物じゃ わかるな?」
ガイ「わかってるよ。なぁ、見かけだおしのルーク様v
ルーク「……るっせーな」

鍛冶師「では、始めるかの。おまえさんはそこに立つのじゃ」
ガイ「よし。やってやるか」

 ガイは、ルークに力仕事を押し付けられたことを未だに根に持ってるらしーです。意外に粘着質です(苦笑)。

三回目
鍛冶師「待っておったぞ若人よ。火は生き物というのがわかったな?」
ルーク「ばっちりv
ガイ「……。おまえなぁ。見え透いた嘘を……」
鍛冶師「まあよい。最後の精製に挑戦じゃ。かなりの忍耐が必要じゃぞ」

鍛冶師「では、始めるかの。おまえさんはそこに立つのじゃ」
ガイ「わかりました。さてと、気合を入れるか」

鍛冶師「長かった鍛錬もこれで終わりじゃ。おまえさんも立派な武器職人になれるぞ。いつでも来るがよい」
ルーク「よかったな。就職先決まってv
ガイ「それも悪くないな」
#ルーク、汗を飛ばして焦る
ルーク「ほ、本気かよ。ペールが怒るぞ」
ガイ「その時はおまえが説得してくれ」

鍛冶師「店を継ぐ気になったらいつでも来るがよい。楽しみにしておるぞ」

 ガイはホントに器用と言うか有能と言うか。鍛冶師に本気でスカウト、それも店を継ぐ後継者として期待されちゃってます。ジェイドも、イオンとナタリアがさらわれた時、即座にガイに助力を求めに来たしなぁ。

 また、忘れてはならないのは、この街に初めて入ったら、必ず宿屋に泊まるということ。ルークとティアの超振動特訓の二回目が起こります。

 街の北部にある自鳴琴屋敷へ行くと、序奏の音盤を持っていた場合イベントが始まり、オルゴールが聴けるようになります。

アニス「すっごーい! 何この大きなやつ」
ガイ「譜業は譜業みたいだけど俺も見たことがないな」
女性技師「これは300年ほど前に作られた『自鳴琴オルゴール』といいます」
ティア「昔のものなのに外見は綺麗ですね」
女性技師「ええ。私のおじいさんが整備し直したそうです。ぼろぼろだったのを昔の頃の美しい姿に生き返らせてあげたかったって」
ティア「素敵なお話ですね」
ガイ「物は大事にしないと。な、ルーク?」
#不機嫌そうにガイを睨むルーク。
アニス「それで、結局これって何なんですかぁ?」
女性技師「中央の部分に音盤をはめて取っ手を回すと曲が流れるんです」
ルーク「へぇ。聞いてみたいな」
女性技師「それが、残念ながら父が音盤を全て売ってしまって……」
アニス「じゃあ聞けないんだ」
ティア「残念ね」
#女性技師、「?」となってルークに近付く。
女性技師「あなたがお持ちのそれは?」
ルーク「ん? ああ、これか。拾ったんだよ」
女性技師「私も実物を見たことがなかったんですけど それは音盤ではないでしょうか。私『イシター』と申します。ぜひそれを貸して下さい! お願いします。おじいさんの愛したこの自鳴琴オルゴールの音色を一度でいいから聞きたいんです」
ガイ「どうするんだルーク?」
ルーク「俺が持ってても仕方ないしな」
#ルーク、イシターに音盤を渡す。
イシター「ありがとうございます。では早速……」
#オルゴールの演奏。
ティア「素敵……」
ガイ「鳥肌が立ったな……」
アニス「300年も昔のものなのにね」
イシター「おじいさんの愛した理由がわかった気がします。こんなに素敵なものだったなんて今でも信じられません」
#自鳴琴を見つめていたイシター、ルークを見る。
イシター「ありがとうございました。この音盤はお返ししますね」
ルーク「いや、いいよ。俺が持ってても仕方ないって言ったろ」
イシター「え?」
ルーク「この機械にしか合わないんだろ? だったら一緒に置いとけばいいじゃん」
イシター「ありがとうございます。また曲を聴きたくなったらいつでも来て下さい」
アニス「はーいv また来ますぅ。次はお客さんを入れて演奏料を取れば…」
#ハートを飛ばすアニス。「……」となるルークとガイ。
ティア「あのこれ、『序奏の音盤』って書いてあるみたいですけど他にもあるってことですか?」
イシター「ええ。音盤は何枚かあったみたいです。正確な数はわからないのですが」
ガイ「そうか。もしどこかで見つかったら また届けに来ようぜ。彼女の満面の笑顔 また見たいしな」
#赤面するイシター。ガイを睨むルーク。
ルーク「またおまえは そういう勘違いされることを……」
#イシターに向き直る。
ルーク「とにかく、見つかったらまた来るよ」
イシター「は、はい。お願いします」

「彼女の満面の笑顔 また見たいしな」とサラッと言うガイにうんざり気味なルーク。親友の(女性恐怖症にして)天然タラシぶりには辟易しているらしい。(多分、問題が起こった時のしわ寄せはルークに行くんだろーしなぁ……)

 

 関係ないけど、最初に北部から街に入って南部へ行くと、ここで初めて「職人の街シェリダン」の文字が出て、南部入口に操作キャラがワープするのでビビらされます。


 聞けば、今しも街では技術集団『め組』による飛晃艇初号機の飛行実験が行われているところらしい。だが何かが起こったらしく、街の様子はどことなく落ち着かなかった。

「とにかく、まずは浮遊機関を借りられないか相談してみよう」

「そうですわね。その『め組』の方にお願いすればよろしいのではないかしら」

 ルークの声にナタリアが頷く。

「僕からお話しすれば、多少は話が通りやすいと思います。行ってみましょう」

 イオンも言い、一行は『め組』がいるという飛晃艇船渠ドックに向かった。すると、その前で三人の老技術者が声高に話し合っているのに出くわした。

「どうじゃった!? んん? どうじゃったんじゃい!」

 髪をモヒカン刈りのように逆立てた老人が、いかにも苛々した様子で声をあげている。側にあった展望台の梯子から降りてきた別の老人が答えた。

「間違いない! メジオラ突風に巻き込まれて今にも落ちそうじゃ」

「いやだよ、アストン。あんた、老眼だろう? 見間違いじゃないのかい?」

 片手に持った製図用のT定規でトントンと己の肩を叩きながら、作業着姿の老女が疑いを口にする。

「老眼は遠くの方がよう見えることは分かっとろーが、タマラ」

 アストンと呼ばれた老人が言い返した。モヒカン刈りの老人は、額に手を当てて空を仰ぐ。

「マズイの。このままでは浮遊機関もぱぁじゃ」

「何言うんだい、イエモン! アルビオールに閉じ込められてるのはあんたの孫のギンジだろう! 心配じゃないってのかい!」

 タマラにT定規で小突かれ、モヒカンの老人――イエモンがのけぞった。

「何かあったんですか?」

 彼らに近付いて、ルークは訊ねた。振り向いた三人は髪こそ真っ白だったが、視線が力強く、背筋はまっすぐに伸びている。

「……アルビオールがメジオラ高原に墜落したんじゃ」

「アルビオールって、古代の浮遊機関を積んだ、あれか!」

 イエモンの言葉を聞いて、ガイが叫んだ。アニスが顔をしかめる。

「あちゃー。じゃあ無駄足だったってこと?」

「いや、確か浮遊機関は二つ発掘されたって聞いてるが……」

「よく知っとるな。じゃが第二浮遊機関はまだ起動すらしとらんのじゃ」

「そんなことより、イエモン。すぐにでも救助隊を編成してギンジと浮遊機関の回収を!」

 感心したようにガイに言ったイエモンに、アストンが口を挟んだ。

「そうじゃな。浮遊機関さえ戻れば二号機に取り付けて実験を再開できるしの」

「なんて薄情なジジイだい!」

 呆れ果てた、といった風のタマラの声を合図にして、三人の老技術者は立ち去ろうとする。

「待ってくれ! あの、頼みたいことがあるんです」

 呼び止めて、ルークは自分たちの事情を話した。マルクトとキムラスカが平和条約を結ぼうとしたこと、レプリカのルークがセフィロトツリーを消してしまったこと、そのためにルグニカ大陸が崩落の危機に陥っており、今しもセントビナーが落ちかかっていて、住民を救うために空を飛べる乗り物が必要であること……。

「……話はあいわかった。しかし亡くなられたはずのナタリア様が生きておいでとは。しかもマルクトの住民を助けるために動いておられる……」

 腕を組み、イエモンが唸った。

「マルクトとかキムラスカとかそんなん、今はどうでもいいだろ!」

 ルークは苛立ちを隠さずに叫んだが、タマラに「そうさねぇ。ただ、こっちも困ってるんですよ」と返された。

「アルビオール初号機がメジオラ高原の崖に墜落してしまって……」

「中に操縦士が閉じ込められた状態でメジオラ突風が吹いての。今にも崖から落ちそうなんじゃ。救助隊を派遣しようにも、マルクトと戦争が始まるってんで軍人さんは出払っててのぅ」

 街の住民で何とかするしかないが、メジオラ高原は魔物も多いんでな、とアストンが顔を曇らせる。

「だったら俺が行くっ!」

 間髪入れず、ルークは言い放っていた。

「よく言いましたわ、ルーク! それでこそ王家の蒼き血が流れる者ですわ!」

 誇らしげな声でナタリアが言ったが、ルークは戸惑った瞳で彼女を見返した。

「……べ、別に王家とかそんなん関係ねーって!」

「……え?」

「ただ俺は……できることをやらなきゃって。だいたい人を助けるのによ、王家とか貴族とか、そんなんどうでもいいかな……とか……」

 声は次第に途切れていく。彼はナタリアに背を向け直し、「そ、それだけだよっ!」と言った。

「……私たちの中には、軍事訓練を受けた者もいます。任せていただけませんか?」

 ティアが感情を抑えた声を落とす。ガイが続けた。

「その代わり……じゃないですが、俺たちが浮遊機関を持ち帰ったら、二号機を貸して欲しいんです」

「二号機は未完成じゃ。駆動系に一部足りない部品がある」

 イエモンが言った。

「戦争にあわせて、大半の部品を陸艦製造にまわしてしもうた」

 ――と。こんな声が落ちた。

「タルタロスも元は陸艦です。使える素材があるなら使って下さい」

「ジェイド! いいのか!?」

 驚いてルークは彼を見返す。それには答えず、ジェイドはイオンに顔を向けて願った。

「イオン様、ここに残ってタルタロスの案内をお願いできますか? 我々が浮遊機関を回収する間に二号機を完成させて欲しいのです」

「僕は承知しました。後は……」

「……部品さえあれば、わしら、命がけで完成させてやるぞい」

 イオンの視線を受け、イエモンは胸を張って頷いた。

「よし、じゃあ俺たちは そのメジオラ高原へ行こう。で、場所は……?」

「メジオラ高原はここから南西じゃ。それと、こいつを持って行け」

 ルークに歩み寄り、アストンが大きな筒状のランチャーを二つ渡してきた。

「この発射装置でワイヤーを撃ち出し、アルビオールを固定してから崖下へ降ろすんじゃ。あそこは酷い風が吹いて危険じゃからな」

「でも使い方が……」

「音機関なら、俺に任せとけ」

 ルークが不安げな声を出すと、ガイが自分の胸を叩いて請合った。「それにジェイドも分かるだろうし」と続けたが。

「さあ、どうでしょうね」

「……食えないおっさんだよ。ホント」

 げっそりとしてガイは呟いた。


 アストンさんが「メジオラ高原はここから北西じゃ」と言うんですが、南西ですよね? とりあえずこのノベライズでは「南西」にしてみました。

 

 これからメジオラ高原へギンジ救出に向かいます。アルビオール初号機は崖に引っ掛かっている状態なので、二手に分かれて左右からワイヤーを打ち出し、それで支えるという作戦。そのための発射装置ランチャーをアストンから渡されますが、「でも使い方が……」と不安げなルーク。対照的に「音機関なら任せとけ!」とガイは胸を張るのでした。偏執狂オタクの本領発揮だね!

 ジェイドも使い方が分かるだろうし、とガイは言うのですが、ジェイドはなんだか曖昧な態度。その後ルークに「大丈夫なのか」と問われた時も「まあ何とかなるんじゃないですか」と確約はしませんでした。

 結局問題なく発射できたんですが、ジェイドは譜業はそんなに得意ではないのかな? 魔界に落ちた後 調子の悪くなったタルタロスの修理も出来なかったみたいですし。


 メジオラ高原は太古の水の侵食で作り出された峡谷が迷路のように連なっている、乾いた岩の大地だ。港の南西にある入口へ踏み込むと、奥の崖の上に飛晃艇が引っかかって、吹き上げる風でグラグラと揺れているのが遠く見えた。

「あれがそうね」

 ティアが言う。アニスが顔を顰めた。

「あれ……なんかやばそう。今にも落ちそうじゃん」

「まずいですね。下手をすると私たちが辿り着く前に落ちるかもしれません」

 ジェイドの声を聞いて、ルークは不安な顔を向ける。

「落ちたらどうなる?」

「操縦士は助からないでしょう。浮遊機関も壊れるかもしれません」

「大変ですの!」と、甲高い声でミュウが叫んだ。ガイが気負った声で言う。

「発射装置は機体の両側から打ち込まなきゃならない。二手に別れよう!」

 アルビオールが引っかかっている崖の左右には、ちょうど同じ高さの崖があった。そこからなら上手くワイヤーで固定出来るだろうが、どうやら、そこへ行くには違う道を行かねばならないようだ。

「どう別れましょうか。――あなたは誰と行きたいの?」

 ティアが冷徹な目でルークを見つめた。

「二手に別れるなら俺は……」

 ルークは仲間たち一人一人の顔を見渡す。

「発射装置を確実に使えないと駄目だからな。ガイ、お前はあっちを頼む。ジェイドは俺の方に来てくれ。ティア。ガイの援護を頼めるか?」

「分かった。発射装置のことは任せとけ」

「……私ですか? やれやれ。――まあ、目の届かないところで暴走されるよりマシですか」

「もちろん私は構わないわ」

「じゃあ、バランス的にナタリアがルークと大佐の方で、私はガイとティアの組だね。さー、がんばろっ!」

「一緒で心強いですわ。わたくし、頑張ります」

 仲間たちはそれぞれに頷く。

「あちらは任せて頂戴」

「発射装置の扱いには気をつけろよ」

「そっちはドジらないでねっ!」

 反対の道を進んで行ったガイたちに背を向けて、ルークたちも足早に進み始めた。





 噂通りメジオラ高原には魔物が多く、ルークたちは何度も足止めを食った。

「試作機に閉じこめられているギンジという方は、無事ですの?」

 不安げなナタリアに、ジェイドが冷静な声で返してくる。

「今のところ命に別状は無いようですが、試作機が崖から落ちたらひとたまりもないでしょうね」

「くそ。ちんたらしてたら間に合わない。かといって、戦力が分散してるから無茶も出来ねぇ……! セントビナーもいつ魔界クリフォトに落ちちまうか分からないし。ギンジって人、無事でいてくれよ!」

「時間との勝負ですわね」

「ああ。ジェイド、イエモンさんから渡された音機関の方は大丈夫なのか?」

「何とかなるんじゃないでしょうか?」

「まぁ、曖昧な返事ですこと」

「はは、そこを心配してもしようがありません。急ぎましょうか」

 笑ってジェイドは二人の王族を促す。そして、そろそろ目的の崖が近付いたと思われた時だった。

 ズシン、と地響きが走った。続いて、聞いたこともないような恐ろしい唸り声が響き渡る。

「な……なんだ!?」

 先頭を歩いていたルークは足を止めて辺りを見回した。再び、先程よりも大きく鳴き声が耳を貫く。やはり立ち止まっていたジェイドが、ハッとしたように背後を見て叫んだ。

「後ろです!」

「えっ!?」

 キョロキョロしていたナタリアも振り向く。曲がりくねった崖道の角の向こうから、ぬっと巨大な魔物が姿を現していた。

 それは赤い竜だ。しかし翼はなく、太い二本の足で直立して歩いていた。背には赤い何かが無数に突き立っていて、時折ギラリと日の光を弾いている。

 みたび恐ろしい声をあげ、その竜は鋭い牙の並んだ大きなあぎとを開いた。

「な、なんですの!?」

「下がれ、ナタリア。来るぞ!」

 本来後衛であるべきナタリアが最前列になってしまっている。剣を抜いて、ルークは素早く赤い竜の前に走り出た。




 太く長い尾を振るい、口から炎すら吐いた竜には苦しめられたが、やがて沈黙させることが出来た。

「何とか片付いたな」

 息を吐いて、ルークは己の剣を鞘に収める。横たわる小山のような死骸を見て、ふと眉を上げた。背中に赤い何かが突き立っていると思っていたが、赤錆びた――剣だ。過去、この魔物と戦った戦士たちの残したものなのだろうか。幾本も突き立っている中に一本だけまだ錆びていないものがあるのに気がついて、ルークはそれを引き抜いた。鮮やかな赤と黒で彩られた刀身は、どこか禍々しい。

「別動班は大丈夫かしら」

「信じるしかありません。こちらも急ぎましょう」

 ナタリアとジェイドが言葉を交わしている。

「ああ、そうだな」

 頷いて、ルークたちは再び進み始めた。


 このギンジ救出イベントは、ホーリーボトルを使うとザコ魔物に邪魔されずに済んでラクチンです。

 

 まるで恐竜のような姿のブレイドレックスとの戦闘。火に弱いので、その系統の奥義や譜術を使うといいかもしれません。

 中ボス戦があるのはルーク組だけですので、予めルーク組に主戦力をまとめておくと楽だと思います。

 ブレイドレックスの背には、今までその魔物を倒そうとした戦士たちの残したらしい剣が無数に突き立っています。その中の一つ、魔剣ネビリムを戦闘後に入手できますが、これは終盤のサブイベントを起こすために必要なものです。

 

 二手にパーティを分けることになりますが、ティア、ガイ、ジェイドをルークとは別のパーティに入れると、それぞれルークを心配するフェイスチャットが発生します。ティアは「そういえばルークとはあまり離れたことがなかったわ…。無茶をしてなければいいけど。気をつけてね、ルーク…」と思い、ガイは「ルークの奴、ちゃんとやれてるかな。でもいつまでも俺が助けてやってたら今までと同じだしな。信じてるからしっかりやってくれよ」とやきもきし、ジェイドは「問題児が目の届くところにいないのも不安なものですね」と呟く。この三人は まさにルークの保護者ですね(笑)。

 

 しかし、二手に分かれようということになったとき、ルークに向かって「あなたは誰と行きたいの?」と言うティアの声が厳しくて、詰問されてるみたいで、なんか怖ぇーよ…。


「間に合った!」

 ついに目的の崖に辿り着くと、向こう側にガイたちも駆け込んで来ているのが見えた。アルビオールは未だかろうじて、二つの崖の間にある岩棚に引っかかっている。

「そちらの準備はいいですか?」

 発射装置を固定し終えて、ジェイドが向かいの崖のガイに叫ぶ。

「いつでも大丈夫さ!」

「行きますよ!」

 同時にワイヤーが打ち出され、それは見事にアルビオールを捕捉し、固定した。





「助けて下さってありがとうございます」

 アルビオール初号機から救け出したギンジは、銀色の髪をした純朴そうな青年だった。「怪我はないか?」とルークが訊ねると、「はい。おかげさまで」と笑って応える。

「話は後にしましょう。浮遊機関も回収できたし、時間が惜しいわ」

 ティアが促し、ルークは頷いてギンジに確かめた。

「だな。ギンジ、動けるか?」

「はい。おいらは大丈夫です」

 幾分の負傷はあったが、ギンジの足取りはしっかりしている。これならシェリダンまでの復路は大丈夫だろう。

 先を急ぎ、次はセントビナーの人々を救わねばならない。


 救出時にパーティを二手に分けた時、メンバーの組み合わせによって若干の違いが起こります。

 まず、ブレイドレックスが出現した時と倒した時、各キャラによって言うことが違う。個人的に面白いなと思ったのはティアとジェイドに同じ役が割り振られている(そしてジェイドの方が優先度が高い)ということ。これは後の戦争イベントでも同じなんですが。ブレイドレックスを倒して、ナタリア、ガイ、アニスは別動班の心配をする役で、ティアとジェイドは「心配するより先へ行こう」と促す役です。……ジェイドよりティアの物言いの方がキツいです。「そうね。だけど心配している場合でもないわ。こちらも急がないと」だもんな。もう少し言い方に気を配った方がよさげです。あと、ガイが別動班の心配をする時「ナタリアたちも襲われてなきゃいいが」と言うのが面白い。ナタリアやアニスは特定個人の名前は出さないのに。

 よく知られているように、『アビス』のキャラクターにはそれぞれ「大事な仲間」の設定がされていて、その人が戦闘不能になると一言悲憤の台詞を叫んだりするんですが。

ルーク  … ティア、ガイ、ナタリア、アニス
ティア  … ルーク
ジェイド … アニス
アニス  … ジェイド、ルーク
ガイ   … ルーク、ナタリア
ナタリア … アッシュ、ルーク、ガイ
アッシュ … ナタリア

 このようになってるそうで、ガイはルークとナタリアの幼なじみ二人をとても大事にしていることが分かります。(そしてルークとナタリアも幼なじみたちを大切にしている。ホント仲いーなーバチカル幼なじみ組。)

 シナリオライターさんのインタビューによれば、ガイは最初はナタリアのことも仇の一族として冷たい目で見ていたのですが、ルークが赤ん坊同然の記憶喪失になり、そんなルークに哀れを覚えたこと、そして悲しむナタリアの姿に同情したことが復讐感情軟化のきっかけになったのだそうです。

 赤ん坊状態から少しずつ育っていったルーク(と、行方不明になったアッシュ)を中心にして、この三(四)人の間には濃いドラマがあったんだろーなーという感じがします。

 

 さて、目的地の崖に着いて発射装置を使う際も、メンバーの組み合わせによって台詞が変わってきます。

 ルーク組にジェイド、別働隊にガイがいる場合はノベライズの通りになるんですが、その他は以下のようになります。

ルーク組にガイ、別働隊にジェイドがいる場合
ガイ「大佐はそっちから頼む! 使えないとは言わないよな!」
ジェイド「年寄りは大切にして欲しいですね」
ガイ「……よく言うよ」

ルーク組にガイとジェイドがいる場合
ガイ「ティア、装置の扱いは大丈夫か?」
ティア「発射装置を固定したら回路を繋ぐのよね。やってみるわ」
ガイ「よし。じゃあ行くぜ!」

別働隊にガイ、ジェイド、ティアがいる場合
ルーク「俺、できるかな……」
アニス「ガイに聞いた話だと発射装置を固定したら回路を繋ぐんだって」
ナタリア「大丈夫ですの?」
ルーク「……やってみる」
ガイ「準備はいいか?」
ルーク「ああ!」

ルーク組にティア、別働隊にガイ、ジェイドがいる場合
ルーク「俺、できるかな……」
ティア「ガイに聞いた話だと発射装置を固定した後は回路を繋ぐだけよ。心配なら代わりましょうか?」
ルーク「……いや、大丈夫」
ガイ「準備はいいか?」
ルーク「ああ!」

 ルークが自分で発射装置を操作することになる場合、「俺、できるかな……」と実に不安そうに呟いてくれます。発射装置をアストンから受け取った時も「でも使い方が……」と不安そうでしたが、ルークはメカオンチなのかな? あまりに不安そうだからか、ティアかアニスが「ガイに聞いた話だけど」と操作法を助言してくれますが、何故かナタリアは助言してくれません。多分ルークと同じくらいメカオンチなんでしょう。

 ちなみに助言役がティアの時、「心配なら代わりましょうか?」と言ってくるのは少し意外。いつもあんなに厳しいのに…。

 

 ギンジ救出には十二分という時間制限があります。この時間を越えると、アルビオールは転落してギンジは死んでしまう。でも、途中にある宝箱を全部開けて戦闘しつつ進んでも間に合うので、よほど道に迷わない限り大丈夫だと思います。

 ギンジ救出に失敗してもゲーム進行上の問題はないのですが、その後のイベント、フェイスチャット、日記は変化します。

#ルークたちが崖に辿り着くと、既に崖下に落ちているアルビオール。「!」となるルーク。
ルーク「あ!?」
ティア「間に合わなかったのね……」※ルーク組にティアがいる場合
ナタリア「……間に合いませんでしたわ」※ルーク組にティアがおらずナタリアがいる場合
アニス「う、嘘……!」※ルーク組にティアとナタリアがおらずアニスがいる場合
ガイ「間に合わなかったか!」※ルーク組にティア、ナタリアがいない場合
#アルビオールの残骸の前に佇むルークたち。
ルーク「……くそっ! また助けられなかった……」
ガイ「結局浮遊機関だけしか回収できなかったな……」
ティア「ええ。でもせめてセントビナーの人たちは……」
ルーク「……そうだよな。それまで間に合わなかった……なんて、俺は嫌だ!」

 日記にはこうあります。

「あれだけ急いだのに、俺たちはアルビオールの落下に間に合わなかった。操縦士のギンジさんはもう息がなかった。ギンジさん。助けられなくてすみませんでした……。」

 

 ギンジを救出できた場合は、街に入ると一緒に戻ってきたギンジが「先に浮遊機関を届けてきます」と言って去りますが、助けられなかった場合は妹のノエルが待っています。

「お待ちしていました! アストンさんから浮遊機関をお預かりするよう言われています」

 ルークたちがシェリダンに入るなり駆け寄ってきて、名乗りもしないで突然そう言うノエル。ルークはルークで、黙って浮遊機関を出して渡します。(浮遊機関はとても小さいものらしい。)それを持って何も言わずにノエルが駆け去ってしまってから、ポツリと一言。

「……今の誰だ?」
「……あんたも詐欺に引っかかりやすそう」

 と、ルークに突っ込むアニスでした。そーっすね。ルークはアニスの両親に負けず劣らず騙されやすくて迂闊だと思うよ。

「まあイエモン殿の所へ行けばわかるでしょう」

と、取り成す(?)ジェイドでした。

 

 その後、アルビオールに初搭乗した際にノエルと再会します。

ノエル「お待ちしておりました」
ルーク「あんたはさっきの……」
ノエル「私は二号機専属操縦士ノエル。初号機操縦士ギンジの妹です。亡くなった兄に代わって皆さんをセントビナーへお送りします」
ルーク「すまない……。お兄さんのこと……」
ノエル「いえ。皆さんの責任ではありません。それより、行きましょう」
ルーク「……わかった。よろしく頼む!」

 ギンジのことを謝られて しばらく目を伏せるものの、朗らかにハキハキと振舞ってくれるノエルはいい子だよ……(涙)。


 救出した操縦士ギンジを伴って、ルークたちはシェリダンに戻ってきた。

「おお! 帰ってきおった! 浮遊機関は無事だったか!」

 飛晃艇船渠ドックに入ると、イエモンはギンジを見て顔を輝かせた。だが、口にそれをのぼらせることはない。

「そうそう、おたくらの陸艦から部品をごっそりといただいたよ」

 相変わらずT定規をブラブラさせながら、タマラが告げた。

「製造中止になった奴もあったんで、技師たちも大助かりさ」

「おかげでタルタロスは航行不能です」

 その側でイオンが僅かに苦笑している。ジェイドは部品を提供すると言っていたが、まさかここまでむしり取られるとは思っていなかった。

「でも、アルビオールがちゃんと飛ぶなら、タルタロスは必要ないですよねぇ」

「『ちゃんと飛ぶなら』とはなんじゃ!」

 アニスが言うと、アストンの憤慨した声が聞こえた。彼は床に取り付けられた昇降機で地下から昇って来る。

「わしらの夢と希望を乗せたアルビオールは けして墜落なぞせんのだ」

「……墜落してたじゃん」

 ボソリと突っ込むルークである。しかし老人たちは誰一人反応しなかった。

「とにかく、約束じゃ。浮遊機関を二号機に取り付けてくるとしよう。なぁに、すぐに終わるわい」

 ギンジから浮遊機関を受け取って、アストンは再び船渠ドックの地下へ降りていった。

「しばらく掛かるわ。取り付けが終わるまで、ゆっくりしていてちょうだい」

「そうだな。その辺をブラブラしてくっか」

 タマラにそう言われて、ルークたちは頷いた。





 船渠ドックの外に出たルークに、ティアが後ろから声をかけた。

「ルーク、この空き時間に音素フォニム学の勉強をしましょう」

「……う、うん……」

「嫌なの?」

 歯切れの悪いルークの様子に、ティアが首を傾げる。

「ち、ちげーよっ!」

 慌てて、ルークは大きな声をあげて否定した。




 人気ひとけのない街の一角へ移動して、特訓は開始された。

「う〜! まーた しくった!」

 閉じていた目を開き、ルークは苛々した風に唸り声を上げている。

音素フォニム……特に第七音素セブンスフォニムはとても繊細なの。術者の気の乱れが簡単に音素を暴走させるわ」

 ティアは言い、声音を厳しくして「さあ、もう一度!」と命じた。

「う〜」

 ルークは再び目を閉じて集中を始める。その様子を見ながら、ティアの思考はかつての自分自身の特訓の日々に飛んでいた。――二年前、神託の盾オラクル騎士団の士官候補生として、ユリアシティでリグレットに個人特訓を受けていた、あの日々に。




『……どうしたティア。気が乱れて音素がまとまっていない』

『す……すみません……』

『――もういい。今日はここまでだ』

『教官! 私なら……』

 食い下がろうとしたティアを、リグレットは優しい口調で制した。

『音素は扱いを間違えれば暴走する。危険を冒すより、まずはあなたの怪我の治療をしながら話を聞きましょうか』

 ティアは息を呑んだ。まさか気付かれるとは思わなかったのだ。

『腕を痛めたのね。どうしたのかしら』

『……言えません』

『告げ口になると思っているのなら、相手の名前や所属は言わなくていいわ。私は総長からあなたを任されている。事情を聞く義務があるのよ』

 ――兄さん。

 兄の名を出されると逆らいきれない。ティアは重い口を開いた。出来る限り事務的に、身勝手な感情が入らぬように。

『私が士官候補生であるにも拘らず、外殻大地の士官学校へ通わずにリグレット教官に習っていることが気に障ったようです』

『他の士官候補生たちから何かされたのね?』

『…………』

『あなたは世渡りが下手ね』

『……不器用だとは思います』

『そうね。正直にまっすぐ前を見る。私が失ってしまった美徳ね……』

『教官……』

 どこか悲しげな声の響きに驚いて、ティアはリグレットを見た。彼女はそんな教え子に小さく笑いかける。

『ただその性質は軍人には不向きよ。……だから総長はあなたを外殻の士官学校には通わせなかったのかもしれないわね』

『――っ、必要なら変えてみせます。私は教官のように……』

 言いかけたティアを、リグレットは強い視線で制した。

『私のようになりたいと思うなら、まず人に頼ることはやめなさい。自らの足で立ち、頭で考えること。何が必要で何が必要でないのか、決めるのはあなたよ』




「……ティア。今日はありがとう。なんとか自分の中に第七音素を集める感覚は掴めたよ」

 短い時間ではあったが訓練を終えて、ルークは少し照れ臭そうに笑顔を見せた。

「超振動はあなたが体内で第七音素を干渉させることで発生する。その制御は第七音素を体内に集めるところから始まるの。これからも頑張りましょう」

「うん……」

 頷いて、けれどルークは「道のりは遠いなぁ……」とぼやきを上げた。

「それより、そろそろ待ち合わせの時間だよな。浮遊機関の取り付けも終わった頃だし、船渠ドックに戻ろうぜ」

「そうね。行きましょう」





 合流した仲間たちと船渠ドックの方へ歩いていると、バラバラと騒々しく駆け寄ってくる足音が聞こえた。

「お前たちか! マルクト船籍の陸艦で海を渡って来た非常識な奴らは!」

 やはり、タルタロスで乗り付けたのには無茶があったようだ。二人のキムラスカ兵がルークたちを取り囲む。

「ん? お前はマルクトの軍人か!?」

 一人が、マルクトの軍服を着たジェイドを怪訝な顔でめつけた。

「まずい……!」

「とりあえず逃げよっ!」

 アニスの声を合図に、一行は飛晃艇船渠ドックに逃げ込んだ。鉄の扉を閉ざし、それをガイが身体で押さえつける。

「怪しい奴! ここを開けろ!」

 外からキムラスカ兵たちの怒鳴る声が聞こえ、ガンガンと扉が叩かれた。

「何の騒ぎだい?」

 奥にいたタマラの怪訝な声がした。ジェイドが答える。

「キムラスカの兵士に見つかってしまいました」

「そうか、あんたマルクトの軍人さんだったねぇ」

「この街じゃ、もともとマルクトの陸艦も扱かってるからのぅ。開戦寸前でなければ咎められることもないんじゃが……」

 タマラの側でイエモンが言った。そののんびりした口調とは裏腹に、逼迫したガイの声が辺りに響く。

「おおーいっ! 早くしてくれ! 扉が壊される!」

「アルビオールの二号機は?」

 焦る気持ちを抑え、ルークは老技師たちに訊ねた。

「うむ、完成じゃ! 二号機の操縦士も準備完了しておるぞ」

 力強くアストンが頷く。すると、イエモンが言った。

「よし。外の兵士はこちらで引き受けるぞい。急げ!」

「ですが、外の兵はかなり気が立っていますわ。わたくしが名を明かして……」

 ナタリアが言ったが、老人たちは引き下がろうとしない。

「時間がないんでしょう? 私たちに任せてくださいよ」

「年寄りを舐めたらいかんぞ! さあ、お前さんたちは夢の大空へ飛び立つがいい!」

 アストンに促され、ルークたちは昇降機に駆け寄った。

「後は頼みます!」

 彼らが地下に消えるのと入れ違いに、扉を破ったキムラスカ兵たちが雪崩れ込んできた。

「この先には行かせんぞぃ! わしらシェリダンめ組の名にかけての!」

 三人の老人がその前に立ち塞がる。





 一方、地下に格納されていたアルビオールに乗り込んだルークたちを、一人の女性が迎えていた。

「お待ちしておりました」

 まだ随分と年若い。だが、物腰はしっかりとしていた。ぴったりと身体に合った赤いパイロットスーツを着ている。

「あんたは?」

「私は二号機専属操縦士ノエル。初号機操縦士ギンジの妹です。兄に代わって皆さんをセントビナーへお送りします」

「よろしく頼む!」

「さあ、行きましょう!」

 海へ向けて開かれた出口から、白銀の翼は大空へ舞い上がった。なんという素晴らしい乗り物だろうか。足とタルタロスで何日も掛かった道のりを、ほんの数時間で踏破する。

 セントビナーは以前より陥没が進んでいたが、辛うじて持ちこたえていた。周囲から隔絶された街の広場にアルビオールを垂直着陸させ、ルークとジェイドがハッチから駆け下りる。

「マクガヴァンさん! みんな! 大丈夫ですか?」

 広場でひと塊になっていた住民たちの中から、老マクガヴァンが立ち上がった。

「おお、あんたたち。この乗り物は……!」

「元帥。話は後にしましょう。とにかく乗って下さい。みなさんも!」

 ジェイドに促され、人々はアルビオールに向かう。よろめく老人の肩を、グレン将軍がそっと支えていた。

 まさに、間一髪と言うべきか。

 アルビオールに人々が乗り込むのを待っていたかのように、轟音が響いて大地の亀裂が広がった。セントビナーを含む一帯が大きな円状に切り離され、ゆっくりと崩落を開始していくのが、アルビオールが高空にあれば見渡せただろう。

 落ちていくセントビナーからどうにか飛び立ったアルビオールは、その瓦礫の中を縫って飛行していた。飛晃艇に乗るのが初めてのルークにも、ノエルが卓抜した操縦技術を持っていることが分かった。次々と迫る岩塊を、くるりと旋回しては紙一重でかわしていく。

 瓦礫を避けるうちに一緒に外殻の下に入り込んでいたようだ。窓の外の景色は、いつの間にか障気の紫色の光に包まれている。アルビオールは魔界の空に留まって、セントビナーを載せた大地が形を保ったまま、泥の海の上に大きな波を起こして着水するのを見下ろした。





 アルビオールの船室で、老マクガヴァンはルークに頭を下げた。

「助けていただいて感謝しますぞ。しかしセントビナーはどうなってしまうのか……」

「今はまだ浮いているけれど、このまましばらくするとマントルに沈むでしょうね……」

 ルークの隣でティアが答えた。

「そんな! 何とかならんのか!?」

「ここはホドが崩落した時の状況に似ているわ。その時は結局、一月後に大陸全体が沈んだそうよ」

「ホド……」

 ハッとした様に老マクガヴァンは目を見開く。そして噛み締めるように呟いた。

「そうか……。これはホドの復讐なんじゃな」

 ティアとガイ、ホドの遺児である二人は怪訝な顔になった。それらのやり取りを耳にしながら、ジェイドはじっと口をつぐんでいる。

「……本当になんともならないのかよ」

 やや空いた間の後、ルークの呟きが落ちた。彼は下ろした拳をぎゅっと握りしめている。

「住む所がなくなるのは可哀想ですの……」

 ミュウも悲しげに訴えたが、アニスが肩をすくめて首を左右に振った。

「大体、大地が落っこちるってだけで常識外れなのにぃ、なんにも思いつかないよ〜。超無理!」

 そこでルークはハッと顔を上げる。

「そうだ、セフィロトは? ここが落ちたのは、ヴァン師匠せんせいがパッセージリングってのを操作してセフィロトをどうにかしたからだろ。それなら復活させればいいんじゃねーか?」

「でも私たち、パッセージリングの使い方を知らないわ」

 ティアが言う。

「じゃあ師匠せんせいを問い詰めて……!」

「おいおいルーク、そりゃ無理だろうよ。お前の気持ちも分か」

分かんねーよ! ガイにも、みんなにも!」

 ガイのいさめを遮って、ルークは大声で怒鳴っていた。

「ルーク……」

 ティアが言葉を失っている。

「分かんねぇって! アクゼリュスを滅ぼしたのは俺なんだからさ! でも、だから何とかしてーんだよ! こんなことじゃ罪滅ぼしにならないってことぐらい分かってっけど、せめてここの街ぐらい……!」

「ルーク! いい加減にしなさい。焦るだけでは何も出来ませんよ」

 怒鳴り返したのはジェイドだった。滅多に見せない彼の激昂に、ルークはビクリと強張って言葉を飲み込む。

「とりあえずユリアシティに行きましょう。彼らはセフィロトについて我々より詳しい。セントビナーは崩落しないという預言スコアが狂った今なら……」

「そうだわ。今ならお祖父様も力を貸してくれるかもしれない」

 ティアが頷いた。それを聞いてから、ジェイドはルークに向かって言葉を続ける。

「それとルーク。先程のあれは、まるで駄々っ子ですよ。ここにいるみんなだって、セントビナーを救いたいんです」

 ハッとして、ルークは周囲に視線を巡らせた。ティア、ガイ、マクガヴァン元元帥にミュウにアニスにジェイド。ナタリアも、ノエルもいる。

 ぎゅうぎゅうと縮まっていた世界がゆるりと開いた気がした。

(また俺は。自分だけの気持ちに囚われていた……)

「……ごめん……。そうだよな……」

 ルークはうな垂れる。

「まあ、気にすんな。こっちは気にしてねぇから」

 ガイが明るく笑ってくれた。とりなすようにナタリアも笑う。

「ともかく、民が無事でよかったですわ」

「そうだな。命あっての物種だ」

「でも、セントビナーそのものを救いたいんだよ。俺は……」

 幼なじみたちに向かって、それでもルークは小さく呟く。ガイが少し困ったように微笑んだ。

「分かってるって。さっきの剣幕見てたしな」

「ルーク。キムラスカ王家の人間として、あなたは民の期待に応えられたと思いますわ。セントビナーのことは、これから救う術を探しましょう」

「……分かってる。焦っても仕方ないってジェイドに言われたばっかだし」

「そうそう。今はみんなを助けられたってことで良しとしようや」

 ガイが再び笑顔を見せる。「そうですわよ」と頷いて、ナタリアは言った。

「負い目を感じ続けることが贖罪ではないと思いますわ」

 ルークは目を上げて従姉いとこの顔を見返した。何を言うことも出来なかったけれど。

「では、アルビオールを発進させます」

 涼やかな声でノエルが告げる。

 アルビオールは、この死の世界に残る唯一の都市へ向かって空を滑っていった。


 ルークがレプリカだと分かった時アッシュになびいたために、ナタリアは身勝手、ルークに冷たいと言う意見もあるかもしれませんが、私はそうは思っていません。

 髪を切った後は、ティアとガイが二人でルークを見守りつつ支えている雰囲気がありますが、多分それ以前はナタリアがティアのポジションにいただろうと思いますし、七年間の彼女の想いや思い出は、それはそれで真実だったと思っているからです。

 ナタリアのオリジナルルーク(アッシュ)への想いは強いですが、それもまた当然のことですよね。

 といって、レプリカルークがどうでもいいかというと、そうではないんではないかと。だって多感な思春期の七年間をレプリカルークと過ごして、それでも自ら彼との結婚を望んでいたわけですから。オリジナルとは別に、少しでも新たに好きになれる部分がなかったら、こういう態度はとらないんじゃないかな。レプリカルークを本物だと思い込んでいても、七年の間に絶望することも幻滅することも、幾らでも出来るのですから。

 アッシュに大半は傾きつつもルークとの七年間も捨てきれないナタリアの揺らぎは、崩落編の決戦前に一度けじめがつけられますが、最終的な決戦前の言葉を見る限り、それでもまだ迷いはあったようです。

 二人のルークは、ナタリアにとってどちらも大切な人でした。

 エンディングを迎えたとき、『彼』と再会したナタリアは、どんなことを感じたのでしょうか。

 

 ナタリアは、ゲーム序盤はとにかく「王家の血」を連発するキャラです。正直鬱陶しいんですが、実はこれ、中盤以降の彼女の物語に繋がる仕掛けなのですよね。王家の血に自分の存在意義を見出し誇りを抱いているナタリアですが、そんな彼女の根幹を揺らす事件が起こることになります。

※追記。ナタリアがどうして「王家の血」にこだわっていたのかに関しては、後に出版された『キャラクターエピソードバイブル』で、ゲームのシナリオライターによる小説によって説明されていました。ストーリーが進むにつれて明らかになるナタリアの出生の秘密に関わっていたようです。

 ともあれ、ここでナタリアが言う「負い目を感じ続けることが贖罪ではない」という言葉。サラッと流されてしまうのですが、とてもいい言葉だと思うんですけど。ルークは何も応えませんでしたが、私は結構嬉しかったです。ありがとう、ナタリア。

 

 話変わりますが、ティアが老マクガヴァンに対してタメ口きいてるのがどうにも解せない……。ティアの性格なら絶対敬語で喋ると思うんだけどなぁ。目上で、しかも地位と立場を持ってた人ですから。

 

 ユリアシティに行くまで自在にアルビオールを操れますが、ユリアシティ以外のどこにも入れません。うがー。だったら「パッと移動」でもいいのに。いやまあセーブするためには自由行動が必要ですが。


 監視者の街ユリアシティ。譜業の光で彩られたこの異色の都市に、ルークたちは再び降り立った。

「お祖父様!」

 港からすぐの通路に待ち構えるように立っていたテオドーロを見つけて、ティアが声をあげた。

「来ると思って待っていた」 

 老人は強い声と視線でそう言う。

「お祖父様、力を貸して! セントビナーを助けたいんです」

「それしかないだろうな。預言スコアから外れることは我々も恐ろしいが……」

 そこでイオンが口を挟んだ。

「お話の前に、セントビナーの方たちを休ませてあげたいのですが」

 アルビオールに乗せてきたセントビナーの住民たちを、一行は伴っていた。不安げな顔をしている外殻の人々を見やると、テオドーロは頷いて言った。

「そうですな。こちらでお預かりしましょう」

「……お世話になります」

 住民たちを代表して老マクガヴァンが頭を下げる。背を向けて歩き出した市長に住民たちは従ったが、老マクガヴァンはふと足を止め、しばらく考えた後でこう言った。

「ルーク。あまり気落ちするなよ」

「え?」

 驚いて、ルークは小柄な老人の背を見つめる。

「ジェイドは滅多なことで人を叱ったりせん。先程のあれも、お前さんを気に入ればこそだ」

「元帥! 何を言い出すんですか」

 ジェイドが心外だと言いたげに口を挟んだが、老マクガヴァンは構わずに続ける。

「年寄りには気に入らん人間を叱ってやるほどの時間はない。ジェイド坊やも同じじゃよ」

 老人は背を向けたままだったが、その声色には、まぎれもない優しさが込められていた。止めていた足を動かし、そのまま遠ざかっていく。

「元帥も何を言い出すのやら。……私も先に行きますよ」

 老人の背をしばらく見送ってから、ジェイドは肩をすくめて後を追って行った。ルークはぽかんとしてその背を見詰める。ガイが可笑しそうに笑った。

「はは。図星らしいぜ。結構可愛いトコあるじゃねぇか、あのおっさんも」

「あはは、ホントだ〜v

 アニスも笑い、仲間たちも通路を歩き出した。立ち止まったままのルークの脇を次々に通り抜けて行ったが、最後に通ったティアを、ルークは呼び止めていた。

「ティア。……あの、ありがとう」

「どうしたの? 急に……」

 不思議そうな顔で振り向いた彼女に、ルークは照れ臭そうにこう告げる。

「お前、最初からちゃんと俺のこと叱ってくれたよな」

「そ、それは……別に……」

 ティアは顔を赤らめ、居たたまれないように顔を背けた。その様子を眺めるルークの顔に笑みが広がっていく。

「……変だな、俺。叱られるってずっと嫌なことだと思ってたのに」

「いいことでもないわよ」

 途端に、ティアがキッと視線を厳しくして睨みつけたので、ルークはうっと身を引かせた。

「……わ、分かってるっつーの!」

 だが、今まで知らなかったこと、気付けていなかったことは、どんなにか多いのだろう。ルークはそう思う。

 人に感謝することを知らなかった。人の苦しみに気付かなかった。……そして今、人の思いやりに様々な形があることを知った。

 人は、様々な形で他の人間と関わりあっている。誰かのために。何かによって。

(……だったら俺は、関わることが出来ているんだろうか。何かのためになるように)

 本来この世界に生まれるはずのない、レプリカ人間である俺は。

「さあ、私たちも行きましょう、ルーク」

「ああ」

 頷いて、ルークはティアと並んで歩き始めた。

 譜業の光に照らされた街は幻想的だ。あまりに外殻とは異なっていて、どことなく現実感が薄い気さえする。

 そう。以前この町を訪れた時の記憶は鮮烈だが、同時に夢のそれのようにフワフワした部分もあった。ここで知ったことはあまりに衝撃的過ぎたし、一時、アッシュの意識の中に閉じ込められていたせいでもあるかもしれない。

「この街を歩いてると、アッシュのことを考えちまうよ」

 知らず、ルークはそう呟いていた。

「アッシュの事?」

 ティアが問い返してくる。

「ああ。この街であいつにホントのことを聞かされて、あいつを通して、知らなかった事を少し知って……。それで俺、変わらなきゃ、って思えるようになったのかもしれない」

 仲間たちの自分に見せなかった顔、思い。今まで気にしたこともなかった、そんな周囲の人々の心に気付かされた。

「そう……」

「あいつ、あれから全然俺たちに接触してこないよな。前は散々、突っかかってきたのに」

「そうね。彼は一体何のために行動しているのかしら……。もしかしたら、今度会う時も、『敵として』じゃないかもしれないわ」

「まさか、あいつと仲良くしろってのか!?」

 ぎょっとしてルークは声を大きくした。その嫌そうな顔を見て、ティアは苦笑する。

「必ず戦う必要はないんじゃないかっていう意味よ」

 ルークは口をつぐんだ。その顔にはいかにも『承服できない』という色が浮かんでいたが。

「アッシュが私たちの前に現われる時は、いつも重要な意味を持っていたわ。――それを忘れないで」

「……努力はするよ」

 沈黙の後、ルークはどうにかそう答えた。


 ルークには悪いけど、世の全ての人間が相手を思いやって叱ってるわけではありませんよね。

 単に自分が腹が立つとか、攻撃・説教したがる性分だとか。相手を思いやってるつもりで説教する人にもピンキリ色々いる。いやここ読んでる皆さんも常々日常で体感しておられるでしょうけど。

 まあルークが「人が叱るのは自分を思いやってくれてるから」という視点に目覚めたのは大変素晴らしいことなので、他人が口挟むことでもないんですが。けど、真実は一つじゃないので。素直すぎるうえ一点集中なルークを見てると、ちょっと不安にもなります(苦笑)。

 

 気に入らない相手なら叱ることすらしない……っつーのはホント、大人の視点ですよね。叱られていい気分になる人はあまりいませんので、叱れば人間関係をややこしくする危険性がある。あるいは、相手が子供の場合、妙な責任を負わされたり子供の親とギスギスすることがあったり。

 そうまでしてその相手と関わりを持ちたいと思うか、という話です。ですから実際は「相手を思いやってるから叱る」のではなく、「相手と関わりを深く持ちたいから叱る」ってことでしょうか。結局のところ、老マクガヴァンの言うとおり、「相手を気に入っているかどうか」という結論ですが。

 でも正直、(タルタロス脱出以降はともかく、)二人旅の頃のティアがルークをガンガン叱ってたのは、別にそんな深い思いやりがあったわけじゃないと思いますが……。ティアが不器用で融通が利かない。つまり真面目過ぎて頭が固かったから、関係が気まずくなるとかそういうことを一切考えずに感情のまま振舞ってただけだよねぇ?

 つか、ルークが身分を気にする人間だったら、もっと関係がギスギスしてた気がします。確かに、ティアにとってもルークは『仇の息子』だったんだろうけど。しかし例えばナタリアなどには、彼女からやめろと言われるまでは敬語を使ってるのに、ルークに対してはいきなりタメ口でしたもんね。そして軽んじていた。公爵子息だって知ってたくせに。何故だったのでしょう。最初は余程ルークが嫌いだったのか?

(正直、これはシナリオのミスかなとは思います。ティアがヒロインキャラで主人公と同等だという観念に囚われ過ぎたのかも。ジェイドの時と同じように、敬語を使うティアにルーク自身が「敬語は使わなくていい、呼び捨てでいい」と言うエピソードを、最初にちょろっと入れておいたならよかったよーな。)


 セントビナーの人々は住居を与えられ、ひとまず落ち着いたようだった。とはいえ、この街での暮らしに戸惑いを隠せないようだったが。

「とりあえず、一息つけたわね」

 人々の様子を一通り見て回ってから、ティアが言った。傍でガイが続ける。

「セントビナーの人たちは、ここでの暮らしに慣れるまで少し時間が掛かるかもしれないけどな」

「ああ。……師匠せんせいも、ここでの暮らしに馴染むのは大変だったっていう話だからな」

「……ヴァン、か。――ここであいつがねぇ……」

「兄さんがどうかした?」

 小さな呟きをティアが聞きとがめると、ガイはフッと視線をそらした。

「あ……いや。ヴァン謡将はここで育ったんだなって」

「ええ、そうね。でもあなたが兄さんのことを気にするなんて思わなかったわ」

「うん……? まあ、同じホドの住人だしな……」

 ガイは言い、「それに……昔はいい奴だったんだろ?」と訊ねた。

「……ええ。私にとっては、とても優しい兄さんだったわ。私、兄さんが大好きだったもの」

「そうだな。優しい奴、……だったんだろうな」

 不自然に言葉を途切れさせながら、ガイは表情を暗く沈める。

「どうしてこんなことになっちまったんだか……」

「ガイ……。もしかしたら、あなた、兄さんを知っているの?」

「そりゃ、ルークの家で何度も会ってるからな」

 ガイは苦笑したが、ティアは言い募った。

「違うわ! ホドで……」

「……さーてね」

 答えずにガイははぐらかす。声音を明るくしてルークに視線を向けた。

「それにしても、良かったな、ルーク。ジェイド、ちょっと認めてくれたみたいで、さ」

「あ、ああ」

 ルークが目を瞬かせると、ティアも気を取り直したように微笑みを浮かべる。

「大佐だけじゃない。アニスもナタリアも、勿論私たちも……よくやってると思ってるわ」

「……自分じゃ何も分からないよ。やらなきゃいけない事をやってるだけだから」

 改めて言われると、ルークは笑えなかった。嬉しい気持ちはあるが、本当にそれに値するほど変化できたのか、自信はまるで持てない。

「変わろうとか、前と比べてこうしようとか、考えれてなかったし……」

 むしろ、考えれば考えるほど上手く出来ていない。表情を曇らせると、ガイがおどけた調子で笑った。

「まー、『変わるんだ〜』って言いながらやられても、正直、胡散臭いわな」

「ふふ。そうね」

 ティアにまで笑われて、ルークは流石にムッとする。

「茶化すなよ!」

「悪い悪い。ま、とにかく事が落ち着くまで、頑張ろうぜ」

 優しく笑って、ガイはポンとルークの肩を叩いた。

「うん……」

 マクガヴァン父子はルークに救助活動の礼を述べ、我々が助かっただけでも奇跡だと言ってくれたが、そもそもこの事態を引き起こしたのは自分なのだ。今しも泥の海に沈みつつあるセントビナーのことを、彼らがいかに惜しんでいるか。それを思うと、暢気に笑ってなどいられない。

「じゃ、お祖父様に協力をお願いしに行きましょう。――もしかしたらセントビナーを救えるかもしれない」

「ああ」

「行こうぜ」

 一行はテオドーロの待つ中央監視施設の会議場へ向かった。


 以前バチカルへ帰還した際にルークの奥義イベント一回目を起こしていたなら、イベントの二回目が発生します。

ルークの奥義書2
#ユリアシティの通路に佇む外殻の男。
「私はセントビナーにすんでいたのですが いやぁ、九死に一生を得ましたよ。でも慌てて家を飛び出しましたので財産といえばこの奥義書ぐらいです」
ルーク「そ……それ! それはアルバート流の!」
ガイ「もしかしたらバチカルでそれを……」
「いや、よくご存じですな」
ルーク「それ、元々俺の家の物なんです! 返して貰えませんか?」
「そうは言われましても…… 私にはもうこれしか残されていません。それに結構な値段で買い取りましたから……」
ルーク「いくらですか? 払います!」
「40000ガルドです」

※四万ガルド所持していない場合
ルーク「……さすがに持ち合わせがないぞ」

※四万ガルド所持している場合
ルーク「わかった。これで買い取る!」
アニス「ちょっ、ちょっとルーク! それは私たちのお金でもあるでしょ!」
ルーク「……だけど……」

※以下、共通。
ルーク「かといって、母上たちに事情を話したらメイドがクビになるし……」
ジェイド「尊い労働の対価としてお金を頂いてはどうですか?」
ルーク「労働?」
ジェイド「あなたがお母さん孝行でもすればいい。あの親バ……いえ、お優しい奥方様なら、喜んでお金を出してくださるでしょう」
ティア「大佐、それはあんまりです」
ガイ「でも確かに、ルークが親孝行なんてしたら、奥様喜んでまいあがっちまうだろうな」
ルーク「よし。そうするか!」
#ティア、片手で頭を押さえて憮然とする。

 というわけで、このイベントは後に続きますが、ルークが屋敷へ戻れるのは相当先になります。

 それはそうと、ルークも仲間たちも、ルークはレプリカだったのに家に帰って親におねだり出来るのか? という点を全然気にしてないので違和感が……。

 ダアトにイオン救出に行った際、ルークが普通にインゴベルト国王を「伯父上」と呼んでたのもそうですが、一周目をプレイした時はこの辺が気になって仕方がありませんでした。あれ? ルークってばガイには「俺、ルークじゃないから…」とか言っちゃってたのに、親や伯父への遠慮はないのだろうか? と。

 この辺の違和感は、後のレプリカ編で ある程度払拭されましたが。

 しかし仲間たちの誰も、ルークがレプリカだから家族に拒絶されるかもと想定してないのはすごい。殆ど面識のないジェイドがルークの母を「親バカ」と言い切っちゃってる辺り、この母子の間には傍目に見ても余程深い情愛が見えたんでしょうか。

 

 ユリアロードが使用不能になっています。不安定なセフィロトの影響を受けて危険だからだそうです。そういえばセフィロトが外殻を押し上げる力を利用しているとか言ってましたよね。…この時点でもう、パッセージリング耐用限界到達の伏線が出てたってコトなのか。


「単刀直入に伺います。セントビナーを救う方法はありませんか」

 会議場の席について、ルークはテオドーロに訊ねた。他の仲間たちも一人一人席についている。

「難しいですな。ユリアが使ったと言われるローレライの鍵があれば或いは……とも思いますが」

「ローレライの鍵? それは何ですか? 聞いたことがあるようなないような……」

「ローレライの剣と宝珠のことを指してそう言うんですよ」

 首を捻るルークにジェイドが答えた。

「確か、プラネットストームを発生させる時に使ったものでしたね。ユリアがローレライと契約を交わした証とも聞きますが」

「そうです。ローレライの鍵はユリアがローレライの力を借りて作った譜術武器と言われています」

 テオドーロが頷き、ティアが後を継いだ。

「ローレライの剣は第七音素セブンスフォニムを結集させ、ローレライの宝珠は第七音素を拡散する。鍵そのものも第七音素で構成されていると言われているわ。ユリアは鍵にローレライそのものを宿し、ローレライの力を自在に操ったとか……」

「その真偽はともかく、セフィロトを自在に操る力は確かにあったそうです」

「でもローレライの鍵はプラネットストームを発生させた後、地核に沈めてしまったと伝わっているわ」

 祖父と孫娘は交互に口を開いている。ティアの声にテオドーロは頷いた。

「その通り。この場にないもの――いや、現存するかも分からぬものを頼る訳にもいかないでしょう。何より、一度崩落した以上、セントビナーを外殻大地まで再浮上させるのは無理だと思います」

「う〜ん。どうしようもないのかなぁ」

 アニスが眉根を寄せる。

「……いえ、液状化した大地に飲み込まれない程度なら、或いは……」

「方法があるんですか!?」

 テオドーロの呟きにルークは飛びついた。

「セフィロトはパッセージリングという装置で制御されています。パッセージリングを操作してセフィロトツリーを復活させれば、泥の海に浮かせるぐらいなら……」

「セントビナー周辺のセフィロトを制御するパッセージリングはどこにあるの?」

 孫娘の問いに、テオドーロは「シュレーの丘だ。セントビナーの東だな」と答えた。「そういえば、タルタロスからさらわれた時、連れて行かれたのがシュレーの丘でした」とイオンが声を落とす。

「あの時はまだ、アルバート式封咒ふうじゅとユリア式封咒で護られているからと心配していなかったのですが……」

「アルバート式封咒は、ホドとアクゼリュスのパッセージリングが消滅したことで消えました。しかしユリア式封咒は約束の時まで解けないはずだった」

 テオドーロが言った。

「でも総長はそれを解いてパッセージリングを操作したってことですよね」

 アニスが確認する。

「そうです。どうやったのか私たちにも分かりません」

「ヴァンは本当に色々な技術を持っていますのね」

 感心したようにナタリアが息をついた。

「だよね〜。知識もあるし、頭のキレもすっごいし、剣術もすごいし、第七音素も扱えるし。超人だよ、ちょーじん。髭だし」

「髭は能力ですの?」

 ナタリアは目を丸くする。アニスが満面に笑みを浮かべた。

「髭は能力だよ〜。主席総長はきっと髭から力が出てるんだよ!」

「まぁ……! あの髭にそんな秘密が……」

 ナタリアの声音には真の驚きが篭もっている。ニヤリとアニスが笑った。

「何げに眉毛も凄いよね」

「眉毛まで! 眉毛には一体どんな力がありますの?」

「眉毛はね〜……索敵装置だねっ。あと人心を操る恐るべき催眠能力を放っているのであった!」

「さ……さすが神託の盾の総長ですわ。侮れませんわね」

 ナタリアは声を震わせている。

「ティア、あんなこと言ってるけどいいのか?」

 苦笑を浮かべて、ガイが隣席のティアに話を向けた。彼女は困ったような、ひどく動揺した顔をしている。

「い……いいんじゃないかしら?」

「あっはっはっはっは。髭はともかく、グランツ謡将はその知謀を生かす能力を持っているようです。これからも先手を取られ続けると、少々厄介ですよ」と、ジェイドが声を上げて笑った。

「グランツ謡将がどうやってユリア式封咒を解いたかの詮索は後にしましょう。――パッセージリングの操作はどうすればいいんですか?」

第七音素セブンスフォニムが必要だと聞いています。全ての操作盤が第七音素を使わないと動かない」

「それなら俺たちの仲間には三人も使い手がいるじゃないか」

 ガイが笑った。彼の隣でナタリアが頷く。

「わたくしとティアとルークですわね」

「後は、ヴァンがパッセージリングに余計なことをしていなければ……」

 テオドーロが呟いた。彼を孫息子として育て、期待をかけてきた分、忸怩たる思いがあるのだろう。共通した思いを持っているのだろうティアが、「それは……行ってみないと分からないわね」と返した。

 ルークは、考え込んでいた頭を上げた。

「セントビナーの東辺りなら、多分街と一緒に崩落してるよな」

「恐らくは」

「分かりました。――ありがとうございます、テオドーロさん。とにかく行こうぜ、みんな」

「そうですわね。じっとしていても始まりませんわ」

「俺たちに操作できるかは分からないが、行ってみれば、何かいい方法が見つかるかもしれないしな」

 立ち上がったルークに従い、ナタリアやガイ、そしてティアが会議場を出て行く。

「シュレーの丘のパッセージリング、ですか」

 同じように立ち上がりながら、イオンが呟いた。思えば、六神将につれさらわれてそこにあった扉を開けたあの時から、この崩落事件は始まっていたのだ。

「ホントにいい方法あるのかなぁ」

 傍らでアニスが小首を傾げている。

「分かりません。ヴァンが手を打ってないとは考えにくいですし……」

「そうですねぇ。グランツ謡将の謀略は、今のところ抜け目は無いですしねぇ」

 例によっての飄々ひょうひょうとした口調で言ったジェイドを、アニスがジト目で見やった。

「大佐が言うと、なんかイヤミっぽいてすね」

「おかしいですねぇ。本当のことを言っただけなのに」

 ジェイドは困った顔をしてみせる。イオンは笑った。

「はは……。ヴァンについては考えたところでどうしようもありませんし、シュレーの丘に行ってみるしかないですね」

「ですね〜」

 アニスが頷き、彼らも会議場を後にした。


 ルークはセントビナーの崩落を自分の責任だと考えています。それはアッシュが「南ルグニカを支えていたセフィロトツリーを、ルークが消滅させたからな。今まで他の地方のセフィロトでかろうじて浮いていたが、そろそろ限界のはずだ」と言ったからなのですが。

 でも、あれ? ここで、セントビナーのある辺りを制御していたのはシュレーの丘のパッセージリング(セフィロト)だという話に。ヴァンがここのパッセージリングを操作した(?)ためにセントビナー一帯は崩落したってことになってますよ?

 まあ、ヴァンがシュレーの丘のパッセージリングを操作できるようになったのは、ルークがアクゼリュスのパッセージリングを消滅させたためにアルバート式封咒(各パッセージリングの操作を禁じていたプロテクト)が解除されたからだと思われるので、ルークのせいだというのも間違いではないのですが。……でも直接はルークのせいじゃないのですよ。

 アッシュ、いつもながら おまいの説明は大雑把なんだよー。ルーク、あまり思いつめないでね……。

 

 それはそうと、ユリア式封咒が解けるはずだったという『約束の時』とはいつのことだったのでしょうか。

 普通に考えれば、ローレライ教団の教義的には『未曾有の大繁栄』の時代を指していたのではないかと思いますが……。

 攻略本に出ている設定を参照すると、実はパッセージリング(外殻大地)の耐用年数はそもそも二千年だったのだそうです。リングを製造し惑星預言を詠んだユリアは、きっとそのことを知っていた。……ユリアの子孫であるヴァン、そしてティアが封咒を解いてリングの操作を開始する。もしかしたら『約束の時』とはまさに、外殻大地が作られてから二千年後のこの時代だったの、かも。


 アクゼリュスのパッセージリングは地下に隠されていたものだが、他のセフィロトも全て同じようなものだという。シュレーの丘のパッセージリングへの入口は、第五音素フィフスフォニムによる譜術の幻影によって人の目から隠されていた。




「アクゼリュスといい、ここといい。パッセージリングがあるとこは なんか雰囲気が違うよなあ……」

 内部に踏み込んで辺りを見回し、ガイが言った。闇に満たされた広大な空間は、幻想的な譜業の光に照らされている。

「セフィロトツリーを守るための場所だもの。創世暦時代の様式なんだと思うわ」

 ティアの答えを聞いて、アニスが感慨深げに言った。

「そっか。ここも二千年前からあるってことだよね」

「そうなりますね。さすが……と言うべきか。かなり高度な技術を使っているようです。現代の技術では、このような建造物は造れません」

 ジェイドは興味深そうに周囲に視線を巡らせている。

「じゃあ、二千年前は今より文明が進んでいたってことか?」

「そう言われているわね。前も説明したけど、ユリアシティの設備も私たちには理解出来ないものが多いし」

 ルークが言うと、ティアがそう答えた。「そっか。そうだったな」とルークは頷く。初めてユリアシティを歩いた時、彼女とそんな話をしたことがあった。

「……どんな時代だったんだろうな? ユリアが生きた時代ってのは。大いに興味があるよ」

 ガイはどこかうっとりとして辺りを見回している。

「お前の場合、音機関が目当てだろ?」

 ジト目のルークに睨まれて、「……ま、それもあるが」と苦笑したが、すぐに破顔して嬉しそうに訴えた。

「だがな、考えてもみろよ。外殻を作ろうなんて発想をする時代だぜ?」

「ええ。間違いなく激動の時代ですわね……」

 ナタリアがそう呟く。だが、ティアは言った。

「今だって激動の時代よ。ユリアの預言スコアにもなかった事が起ころうとしてるんだから」

「確かに……そうですわ」

「まあ、人間の歴史は常に激動の歴史です。そんなことより、やるべきことをやってしまいましょう」

 すげなく言い、さっさと先へ歩き出したジェイドを見やって、「大佐って、相変わらず淡白だよねー」とアニスが笑った。

「それにしても、今回は流石に六神将の奴らの先回りはないみたいだな」

 歩きながらルークが言う。

「そりゃあねー。だって魔界クリフォトに落ちてるんだもん。そう簡単に行き来だって出来ないし」

「ユリアロードは使用停止になっていましたものね」

 肩をすくめたアニスに向かい、イオンが静かに微笑んだ。セフィロトの斥力を利用しているという転移設備は、今、動作が不安定なのだという。セフィロトツリーの三つまでもが消えたためなのだろうか。

「暫くはオリバーたちに手紙も出せませんね、アニス」

「パ、パパたちのことはいいんですよぅ。それより、今はセントビナーです! 行きましょう、イオン様」

 言うと、アニスは小走りにジェイドの後を追って行ってしまった。

「おい、待てよアニス!」

「珍しいな。アニスがイオンを置いてくなんて」

 足を止めて彼女の背を見送っているイオンを見やって、ガイが少し首を傾げている。

「いいんですよ。……僕たちも急ぎましょう」

 微笑んで、イオンは歩を進め始めた。





 パッセージリングは、そこからすぐ奥の部屋にあった。アクゼリュスで見たのとよく似た、リング状の通路に取り囲まれた背の高い巨大な音機関だ。

「……」

 辺りを暫くガイがいじってみたが、結局は息をついて肩を落とした。

「ただの音機関じゃないな。どうすりゃいいのかさっぱりだ」

 操作盤らしきものすら見つからない。

 後ろから覗き込んで、ルークは顔をしかめた。

第七音素セブンスフォニムを使うって、どうするんだ、これ……」

「……おかしい。これはユリア式封咒が解呪されていません」

 ――と。眉を顰めてイオンが言った。そのために制御不能になっているらしい。

「どういうことでしょう。グランツ謡将はこれを操作したのでは……」

 ジェイドは不審な顔をし、アニスがうんざりした顔で声をあげた。

「え〜、ここまで来て無駄足ってことですかぁ?」

「何か方法があるはずですわ。調べてみましょう」

「そうだな。……ん?」

 ナタリアの声に頷いたルークは、通路の先の床に輝く譜陣を見つけて駆け寄った。

「なんだ……? 譜陣が三つ……」

「これは……」

 ゆっくり追ってきたジェイドが呟いて、譜陣を覗き込んだ。

「……この三つの譜陣によってパッセージリングの制御を封じているのだと思います……」

「じゃあ、この譜陣を何とかすればいいのか?」

「恐らくは……」

「この譜陣に連動した封印が、きっとこの遺跡のどこかにあるはずです。それを見つけだして壊してしまいましょう」

 イオンが言う。「ミュウに任せるですの!」と青いチーグルが請合った。


 フェイスチャットを一つ、そのまま掲載。

シュレーの丘の由来は……?
ルーク「ん〜〜〜〜。流石にちょっと疲れてきたな〜」
ガイ「確かに……。この中をウロつきだして、もう結構な時間だぜ。そろそろ外が恋しいなぁ」
アニス「大佐ぁ、何か面白い話して下さいよ〜ぅ」
ジェイド「そうですねぇ……。では、この丘が『シュレーの丘』と呼ばれる由縁でも話しておきましょうか」
ガイ「へえ、それは興味があるな」
ナタリア「わたくしも聞きたいですわね」
ジェイド「ではお話しましょうか。……今も昔も、この辺りは国境線を巡って戦争が繰り返し行われてきました。七百年ほど前にも、この辺りで大きな戦があり、その時の死者は積み上げると山ほどの大きさになったと言います」
ナタリア「まあ……。なんて酷い……」
ジェイド「当時高名であった譜術士のシュレーは、死者たちを弔う為に、彼らの遺体の音素を組み替え、丘を作り上げました」
アニス「ちょっ、ちょちょちょちょ、ちょっと待って下さい! それって、じゃあ……この辺りは元々……」
ジェイドを除く全員「……!!!!」
#ジェイドとティアを除く全員、悲鳴あげてバラバラに逃げ出す。
ジェイド「まだ話のオチまで辿り着いていませんが…………おや? どうしました、ティア?」
ティア「……」
ジェイド「……この程度で気を失うなんて、まったく……兵士として失格ですねぇ」

 攻略本によれば、この由縁話は真っ赤な嘘だそうです(笑)。

 しかし、このフェイスチャットにイオンの姿がないのは気になるなぁ。

 

 シュレーの丘に入るには、三つの赤い譜石にミュウファイアを当てる必要があります。LRボタンで少しずつ向き調整をすると当てやすいかな。

 青い譜石も一つありますが、この時点では無視するしかありません。後にミュウウイングとミュウファイア2を手に入れたら、木の上から火を当てて、隠し扉を出現させ、アイテムを三つ入手できます。


 三つの封印を解除したが、パッセージリングに変化は起こらなかった。

「これでも駄目なのかしら……」

 そう言いながらリングの正面をティアが横切った時、起こった変化を見つけてナタリアが目をみはった。

「ティア! ちょっとその譜石に近付いてくださる?」

「……? いいけど」

 リングの正面に建っている、細い棒状の譜石。ティアがその前に近付くと、閉じていた本が開くように先端が展開して、操作盤が現われた。

(これは……!?)

 ハッとした刹那、ティアは己の体内に大量の第七音素セブンスフォニムが流れこむのを感じた。

(……!?)

 同時に、仲間たちはパッセージリングの上空に図像と赤い文字が浮かび上がるのを目にしていた。

「ティアに反応した? これがユリア式封咒ですか? 警告……と出ていますね」

 見上げて、ジェイドが文字を読み上げる。大きく表示されていたそれは、やがてフッと消えた。図像と細かな文字だけが残されている。

「……分かりません。でも確かに今は解呪されています。とにかくこれで制御できますね」

 そう言うイオンの隣で図像を見上げていたアニスが、ハッと気付いて本の形の操作盤に駆け寄った。そこに浮かび上がっている文字を覗き込む。

「あ、この文字パッセージリングの説明っぽい」

 ジェイドが歩み寄って覗き込み、ややあって低く唸りをあげた。

「……グランツ謡将、やってくれましたね」

「兄が何かしたんですか!?」

「セフィロトがツリーを再生しないように弁を閉じています」

「どういうことですの?」

 ナタリアが不得要領な声を出す。

「つまり暗号によって、操作出来ないようにされているということですね」

「暗号、解けないですの?」

 ミュウが見上げた。

「私が第七音素セブンスフォニムを使えるなら解いてみせます。しかし……」

 ジェイドは言葉を途切れさせる。

「……俺が超振動で、暗号とか弁とかを消したらどうだ? 超振動も第七音素セブンスフォニムだろ」

 誰もが沈黙した中、やや逡巡した後で、ルークは顔を上げてそう言っていた。

「……暗号だけを消せるなら何とかなるかもしれません」

 ジェイドの赤い瞳が、量るようにルークを見返してくる。しかし、ティアは叫んでいた。

「ルーク! あなたまだ制御が……!」

「訓練はずっとしてる! それに、ここで失敗しても、何もしないのと結果は同じだ」

 非難に似た不安のこもる彼女の目に見つめられても、ルークの瞳は揺るがなかった。強い決意がそこにはある。

 ティアは驚いていた。あれほど罪に怯えても、彼は、決して臆病になってはいないのだ。

(……いいえ、怯えているからこその決意なのかもしれない)

「……そうね。その通りだわ」

 ティアは言葉を呑んで引き下がる。ジェイドがルークに図像を見るように促した。

「第三セフィロトを示す図の一番外側が赤く光っているでしょう。その赤い部分だけを削除してください」

「やってみる」

 ルークは両手を構え、図像に向かって慎重に力を放った。綺麗に、セフィロトを示す円の周囲を囲んでいた赤い線が消え去っていく。消去と同時にリングが輝き、キラキラと輝く光の粒が下から立ち昇り始めた。

「……起動したようです。セフィロトから陸を浮かせるための記憶粒子セルパーティクルが発生しました」

「それじゃあセントビナーはマントルに沈まないんですね!」

 ティアが声を弾ませた。

「……やった! やったぜ!!」

 ルークもまた、大声で歓声を上げていた。後方に立っていたティアに駆け寄り、がば、と抱きしめる。

「ティア、ありがとう!」

 そしてどぎまぎしている彼女の右手をとって、両手で握り締めて何度も上下に振った。

「わ、私、何もしてないわ。パッセージリングを操作したのはあなたよ」

「そんなことねーよ。ティアがいなけりゃ起動しなかったじゃねぇか」

 笑顔を輝かせてそう言い、ルークは彼女の手を放すと仲間たちにも顔を向ける。

「それに、みんなも……! みんなが手伝ってくれたから。みんな……本当にありがとな!」

「何だか、ルークじゃないみたいですわね」

 はしゃぐルークを見詰めて、どこか複雑な声がナタリアの喉から零れ落ちた。彼女の知る『ルーク』は、こんな風に笑ったり、……気安く異性に抱きつくような喜び方をする男の子ではなかった、と思う。きっと、良い変化なのだろうとは思うのだけれど。

「いいんじゃないの。こーゆー方が少しは可愛げがあるしね」

 同じように『ルーク』を知るはずのガイは、しかしそう言って笑っている。

「あなたはルーク派ですものね」

 小さくナタリアが呟くと、「別に違うけどね」とガイは大きな声で返した。

「ナタリアだってアッシュ派って訳でもないんだろ」

 ナタリアは声を詰まらせた。

「……わたくしには、どちらも選べませんもの」

 暫しの沈黙の後で、彼女はやっとそう呟く。

「あーっ! 待って下さい。まだ喜んでちゃ駄目ですよぅ! あの文章を見て下さい!」

 気まずい雰囲気を他所に上空の図像と文字列を見ていたアニスが、大きな声で騒いだ。言われて見上げたガイは、さっと表情を曇らせる。

「……おい。ここのセフィロトはルグニカ平野のほぼ全域を支えてるって書いてあるぞ。ってことは、エンゲーブも崩落するんじゃないか!?」

「ですよねーっ!? エンゲーブ、マジヤバな感じですよね!?」

 アニスは両手で頭を抱えてアワアワしている。ナタリアも顔色を変えて、「大変ですわ! 外殻へ戻ってエンゲーブの皆さんを避難させましょう!」と叫んだ。その声に従って、全員が出口へ向かい始める。その時、ルークはふとティアを見て足を止めた。彼女は動かないまま、両手で胸を押さえてどことなく精彩のない顔をしている。

「……ティア。どうかしたか?」

「少し疲れたみたい……。でも平気よ」

 声をかけると、けれど彼女は笑顔を作る。ルークは眉を顰めた。

「ホントかよ? お前、結構無理するから、イマイチ信用できないっつーか……」

 最後の方は拗ねたような口調で言うと、ティアはムッとした顔になった。

「信用できなくて悪かったわね」

「……そ、そんな言い方ないだろ! 俺はただ……」

 小さく息をついて、ティアは再び笑顔を繕った。

「……ごめんなさい。確かに、私がおかしかったわ。心配してくれてありがとう」

「う……うん。いや、平気なら……い、いいんだけどさ」

 頬を赤らめてルークは声を詰まらせる。その前をティアは歩いて、仲間たちの後を追って行った。


 今までにないはしゃぎ方をするルークを見て、複雑な気分になってしまうナタリア。

 十歳まで一緒にいた敬愛するルーク。その後の七年を共に過ごした手のかかるルーク。そのどちらでもない、ナタリアの知らないルークが現われつつあって、婚約者で幼なじみのナタリアから離れていこうとしている。ナタリアの中ではまだ二人の『ルーク』はどこか重なった存在なので、釈然としない、ということでしょうか。

 だって、ティアに抱きついちゃってますし。

 

 以前既に、ケテルブルクでイオンやアニスと一緒にティアとルークの仲を認めてからかうような態度をとっていましたが……。それでも、いざルークがティアに好意を示す(?)のを見ると、何か迫るものがあったのかも……?

 つか、個人的にはあのフェイスチャットがあの位置(ケテルブルク初回訪問)に入るのは納得できません。(メインライターさんが書いたものらしいですが。)

 ナタリアがティアとルークの仲を認める行動をとるのは、レプリカ編に入ってからの方がいいと思います。それまでは複雑な目で見ていて欲しかったなぁ。

 だってメインシナリオではアッシュ寄りになりつつも二人のルークの間で揺れ動く姿が語られるのに、フェイスチャットやサブイベントではルークとティアを応援するような態度を見せてる。変です。だから一部プレイヤーに「ナタリアは尻軽」なんて言われることになっちゃってるんですよ…。ナタリアへの感情移入を阻むこの構成は大変不満です。

 

 それにしても、「いいんじゃないの」と言うガイに「あなたはルーク派ですものね」と返すというのは、どういう心境なんでしょう? 微妙に話繋がってない感じが。

 んー……。無理やり想像してみるに。

 ナタリアはずっと、レプリカルークがオリジナルルークの記憶を取り戻すことを望んでいました。もしかすると、彼らが別人だと分かった今でも、レプリカルークには「オリジナルルークのような男の子」に成長して欲しいと願っていたのでしょうか。

 対してガイは、レプリカルークがオリジナルルークとは違う人間になればなるほど好ましい、って感じですね。

 レプリカルークを育ててきた仲良し幼なじみが、ここに来て教育方針で対立(笑)。って展開?



inserted by FC2 system