「よーし。調子が出てきたな。じゃあ降りる前に街の周りをもう一周くらいしてみるか!」

「……お前。マジでここに住んじゃえよ」

 そんなやり取りの後で、飛晃艇は街の海側に向かって高度を下げ始めた。地下船渠ドックへ続く入口がそちらにあるのだ。

 だが、機体が不意に揺れる。

「くっ!?」

「落ち着いて下さい、ガイさん。メジオラ突風ほどではないですが、この辺りの海風も結構強いんです」

 操縦席の傍らからノエルが言い、ガイが握り締めている操縦桿に己の手を伸ばした。

「あ」

 ルークが声をあげる。割と大きく。

「え?」

 思わず彼に視線を送ったノエルは、触れている操縦桿が不自然に震えていることに気がついた。……いや。自分が重ねて握っている、ガイの手が。

「は、は、ははははははは」

 何故なのか笑い始めたガイは、顔から血の気を引かせてぶるぶる体を震わせた。合わせてアルビオールがぐらぐら揺れる。

「ガイさん!?」

「ちょ、ガイ、落ち着けって!」

「ぎゃー、何ぃー!?」

「揺れるですのー!」

「落ちるっ、落ちますわ!」

「その前に塔にぶつかるっつーの!」

「きゃあああっ」

「ガイさん、もっとしっかり握って下さい!」

「いや、ノエル! 頼む! 手、手を離してくれぇ〜〜!!」

 

 ・

 ・

 ・

 

「いやぁ〜。皆さん無事でよかったですねぇ〜」

 シェリダンの誇る姿勢制御機構のおかげか。どうにか墜落せずに船渠に収まった飛晃艇から降り立って。嫌味なくらい朗らかな笑みで出迎えた三十五歳軍人を、アニスは恨みがましい目で睨みつけた。

「大佐ぁ〜。こうなることが分かってたんでしょー」

「まさか。ですが、ガイの操縦で、教官がノエルですからねぇ。推して量るべし、といったところでしょうか」

 アニスの背後では、やっと降りてきた他の面々もぐったりしている。

「フラフラですの〜」

「流石に、寿命が縮まりましたわ……」

「そ、そうね……」

「こんなところで終わっちまうのかと思ったぜ……」

 最後に降りてきたガイが、申し訳なさそうに謝罪を落とした。

「すまん、みんな……」

「私のフォロー不足です。ガイさん、そんなに気にしないで下さい」

「わっ、わぁああ、悪いノエル、触らないでくれぇえ!」

 ハッとして手を引き戻して謝ったノエルに向かい、距離をとってからガイはコメツキバッタのごとく平謝りしている。その状況を見やって、アニスはやってられないとばかりに大声で喚いた。

「もー、ガイが操縦するアルビオールには、絶対乗らないっ!」



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