開け、ゴマ!

 子供の頃、「開け、ゴマ」という呪文を唱えたことのある人は多いだろう。ご存じのとおり、この呪文の出典はペルシアの『千夜一夜物語(アラビアン・ナイト)』説話群に含まれるとされる「アリ・ババと四十人の盗賊」だ。

アリ・ババと四十人の盗賊  アラビア 『千夜一夜物語』

 昔、ペルシアのある町にカシムという兄とアリ・ババという弟がいた。父が亡くなるとき僅かな財産を兄弟に公平に分配したが、ほどなくその全てを使い果たしてしまった。しかしながら兄は、まもなく裕福な商人の娘を妻に得た。彼の義父がアッラーの神の慈悲に委ねられた時、彼は珍しい商品と高価な品でいっぱいの大きな店、そして大変な財産が貯蔵された蔵の所有者となった。加えて、多くの黄金が地に埋蔵されていた。このように、彼は分限者として街でも有名だった。けれどもアリ・ババが結婚した女性は貧しくて困窮していた。従って、彼らはみすぼらしいあばら屋に住んでいた。そしてアリ・ババは貧しい生計を、毎日密林で集めた薪を売ることで立てていた。そして彼の三頭の驢馬[(ロバで街のバザールまで運んでいた。

 それは、ある日偶然に起こった。アリ・ババが枯れ枝と乾いた焚き物を必要なだけ伐って、荷を彼の獣の上に積んでいたとき、不意に、前方に塵雲が高く沸き上がっているのを見つけた。よくよく気をつけて、彼は彼方に馬に乗った騎手の一団を発見した。それはこちらに近付こうとしている。この光景に彼は激しく驚き、恐怖の中で考えを巡らせて、彼らが盗賊団で、彼を殺し彼の驢馬を追い払いやしないかと恐れた。しかし彼らがすぐ近くに迫っていた故に森から逃げ出せなかった。彼は彼の獣を茂みの奥に入れて柴を積んだようにして、大木の厚い樹幹の上に、その中に自分自身を隠すためによじ登った。そして枝の上に座り、そこから下の全てを一望することが出来た。上に彼がいることは、ちょっと見ただけでは下の誰も気付くことが出来なかった。そしてその木は岩の側に生えており、頭一つ抜きん出て高かった。

 若く活発で豪胆な騎手たちは岩壁の間近に来て、全員降りた。彼らについてアリ・ババは良く観察し、すぐに、彼らの物腰と態度から追い剥ぎの一団であるとすっかり納得した。隊商キャラバンに襲い掛かり強奪して、強奪品を運び去り、それらを何か隠し場所に安全に隠すためにこの場所に持ってきたのだ。更に、彼らが全員で四十人であることを認めた。

 彼らは木の下に来るとすぐに、それぞれ馬のくつわを外して、綱で繋いだ。それから全員が金や銀がぎっしり詰まっている様子の鞍袋を取った。首領と思しき男がすぐに前に出て、荷を担ぎ、特定の場所に着くまでイバラと茂みを押し分け、奇妙な言葉を唱えた。

「開け、やい、胡麻シムシム!」

 すると直ちに岩の表面に広い出入口が現れた。盗賊たちは中に入り、首領が全員の最後になった。そして入口は独りでに閉まった。

 それから長い間、アリ・ババは木の上に隠れたままでいた。木から下りた瞬間に盗賊団が出てくるかもしれない。そして彼を捕まえて殺すかもしれない。

 ついにアリ・ババが馬に乗って驢馬を追って街へ帰ろうと決意した時、不意に扉が開いた。盗賊の首領は最初に出てきた。それから入口に立って、出てきた部下を見て数え、最後に呪文を唱えた。

「閉じろ、やい、胡麻シムシム!」

 それに対して、扉は独りでに閉まった。全員が集合し検閲が終わると、それぞれ馬に鞍袋をつけてくつわをはめた。そして来た時と同じように素早く、首領を先頭にして、来た方向を指して駆け去った。

 アリ・ババはまだ木の上でそれを見ていた。彼らが完全に立ち去るまで油断はできない。一人でも戻ってきたなら見つけられてしまう。そしてまた心中で考えた。

(私があの呪文を唱えても扉が開くのだろうか。試してみよう)

 彼は岩に行って大声で唱えた。

「開け、やい、胡麻シムシム!」

 たちまち扉は開き、彼は中に入った。そこは巨大な空洞で、アーチ状の天井の高さは成人男性の背丈に充分なものであり、天然の石を切って作ってあった。そして丸いガラスのはめ込まれた天窓があり、そこから射し込む光で明るく照らされていた。

 彼は、この盗賊の岩屋の中に暗がり以外の何も見つけないだろうと思っていたので、全ての部屋に荷物が詰め込まれているのを見て驚いた。また、駱駝の運んできた絹、錦、刺繍の施された布、多彩な絨毯が天井まで山と積まれてあった。それに加えて、彼は計量も勘定もされていない金貨と銀貨を見つけた。あるものは地面の上に積み上げられており、他のものは革のバッグか袋に入れられてあった。

 こんな大量の金品を見て、アリ・ババは確信した。数年ではなく何世代もの間、盗賊はここに略奪品を格納してきたに違いない。

 彼が洞穴の中に入っているうちに扉は閉まったが、魔法の言葉を覚えていたので慌てなかった。彼は周囲の貴重品に注意を払わず、金貨の袋に専念し、驢馬が背負えるだけの分量を取った。扉を開けて外に出て驢馬にそれを積み、誰にも分からないようにその上を柴で覆い隠した。最後に彼は大声をあげた。

「閉じろ、やい、胡麻シムシム!」

 扉は直ちに、これまでそうしてきたように閉まった。アリ・ババが外に出たので、彼が呪文を唱えるまでそれは閉じも開きもしないのだ。

 すぐに、アリ・ババは荷を積んだ驢馬を連れて全速力で街に向かい、自宅の庭に入ったのだった。そして表に面した戸を閉めて、まずは柴を下ろし、その後で金貨の袋を下ろして妻のところに運んだ。

 彼女は触ってみてそれが金貨でいっぱいであることに気づき、アリ・ババが強盗をしたのではと疑い、悪事を働いたのだろうと叱り非難した。アリ・ババは妻に言った。

「本当に、私は強盗ではないよ。一緒に私たちの幸運を喜ぼう」

 続いて彼は自らの冒険を話し、金貨を袋から彼女の前にうずたかく注ぎ始めた。彼女の視界は輝きに圧倒され、彼女の心は彼の冒険の独演で喜んだ。彼女は金貨を数えはじめた。それでアリ・ババは言った。

「馬鹿な女だな、お前が疲れ果てるまでどんなに長くコインを裏返し続ける気だ? 今すぐそこに私に穴を掘らせてくれ。誰もこの秘密を知ることがないよう、この宝を隠すために」
「あなたの忠告は正しいわ! けれど私はお金を量って、どのくらいの額なのか知っておきたいのです」
「お前の好きにしなさい。しかし誰にも言ってはいけないよ」

 そこで彼女は、金貨を量り価値を計算するためのおもりと天秤を借りに、急いでカシムの家に行った。カシムがいなかったので彼の妻に言った。

「暫くの間、私にあなたの秤を貸してください」
「大きいのと小さいのどっち?」
「大きいのは必要ないわ。小さいのをください」
「あなたが欲しいものを探す間、少し待ちなさい」

 これは口実で、カシムの妻は脇へ行って、秤の平皿に密かに蜜蝋と牛や羊の脂を塗っておいたのだった。アリ・ババの妻が何を量るつもりなのか知りたかったのだ。そこで好奇心を満たすこの機会を利用した。そうすることで幾らかの欠片が蜜蝋と脂にくっつくだろう。

 そんなことを露ほども疑わないアリ・ババの妻は、秤を家まで運んで、アリ・ババが穴を掘っている間、金貨の重さを量り続けた。そして量り終えると、二人は慎重に穴にしまい込んで埋めた。それから善良な妻は、金貨が秤の平皿にくっついているなど夢にも思わずに、それを親類に返した。

 カシムの妻は金貨を見つけたとき、妬みと怒りから独りごちた。

「ほう! それでは、あの人たちは金貨を量るために私の秤を借りたのね?」

 彼女はアリ・ババほどに貧しい男が、天秤を使わねばならないような豊かな資産を得たことを驚嘆した。問題を熟考した後すぐに、夕方に帰った夫に彼女は言った。

「ああ、あなた。あなたはご自分で豊かで資産ある人間だと思っているでしょう。しかし、ご覧なさい。あなたの弟のアリ・ババはあなたと比べれば王侯で、あなたよりも裕福です。彼は秤で量らねばならないほど大量の金貨を持っており、まことに、金貨を数えて満足しています」
「どこからそんなことを知ったのだ?」

 カシムは尋ね、彼の妻は天秤を貸したこと、どうやって彼女がそれに貼り付いた金貨を見つけたかの一切をまとめて話した。そして古代の王の上書きと刻印の押された金貨を彼に見せた。

 カシムは妬みと羨望と貪欲のために一晩中まんじりともしなかった。翌朝になると、早起きしてアリ・ババのところへ行き、言った。

「おお、我が弟よ。見る限りではお前は哀れな貧困者だ。しかし事実上、お前は金貨を秤で量らねばならないほどの莫大な富という財産を持っている」

 アリ・ババは言った。
「何を言ってるんだい? 理解できないね。何を言いたいのかはっきりしてくれよ」

 カシムは今にも荒れ狂いそうな様子で言った。
「分からないふりをして騙そうとするんじゃない」
 彼は金貨を示して叫んだ。
「こういう金貨を何千も、お前は持っているんだろう。また一方で、私の妻がこの一枚が秤の平皿にくっついていたのを見つけているのだ」

 アリ・ババは、カシムと彼の妻の両方が、彼が金貨を持っていることを知っていることを悟った。そして心の中で呟いた。これ以上隠しておいても無意味だし、かえって悪意と害を招くだろうと。そして彼は、盗賊とその洞穴の埋蔵物に関する全ての詳細を伝えるように兄に促された。この話を聞くとカシムは叫んだ。

「お前が金を手に入れた、その正確な場所を教えろ。ドアを開け閉めする呪文もだ。予め言っておくが、お前が全てを話さなかった場合は、ワリ(イスラム世界で、社会的信用のある人間。友人、媒酌人、聖者)に通告するぞ。そしてお前は富を失い、辱められ、刑務所に入れられるだろう」

 そこでアリ・ババは魔法の言葉も忘れずに話した。そしてカシムは問題全てを注意して慎重さを保ち、翌日に出発した。借りた十頭の騾馬ラバを連れ、すぐにアリ・ババが話した場所を発見した。そして前述の岩とアリ・ババが自身を隠した木の前に来て扉を確認し、大きな喜びで叫んだ。

「開け、やい、胡麻シムシム!」

 入口はすぐに大きく開いた。そしてカシムは入って、宝石の山と辺り一面いたるところに転がった宝を見た。そして彼がそれらの間に立つとすぐに、扉は常のように彼の後ろで閉まった。

 彼は宝に恍惚とし驚嘆して歩き回った。そして讃嘆に疲れると十頭の騾馬の荷として充分な金貨の袋を集め、外に運び出し獣に積む準備を整えてからそれらを入口に置いた。

 しかしアッラーの神の意思によって彼は綺麗に神秘の言葉を忘れており、こう叫んだ。

「開け、やい、大麦シャアイーラ!」

 それに対して扉は動作を拒否した。

 度を超えて驚き困惑して、彼はあたかもその言葉を聞いたことがないかのごとく記憶から滑り落ちてしまった《胡麻》を除く、小麦ヒンタだのえんどう豆ヒンミスだの、ありとあらゆる穀物の名前という名前を列挙した。酷い苦悩の中で、彼は入口に積み重ねた金貨には関心を払わず、とても困って混乱して、洞穴の中であちこち行ったり来たり、うろうろした。少し前には彼の心を歓喜と喜びで満たした財宝の光景は、今は激しい苦悩と悲しみの原因であった。カシムは己の貪欲と嫉妬によって酷い危険にさらされ、生きる望みの全てを断たれた。

 昼頃にそれは起こった。盗賊たちが道を戻ってきて、何頭かの騾馬が入口の傍に立っているのを遠くから見て、その場所に獣が連れて来られていることに非常に驚いた。不運なカシムが繋いでおくことをしなかったので、彼らは密林にさまよい出てあちこちで草を食んでいた。しかしながら、盗賊は家畜が逃げていること、またはその安全についてさして関心を払いはしなかった。ただ、それらが街からここまでどうやって歩いてきたのかを怪しむばかりだった。

 それから、首領と彼の騎馬団は馬から降りて洞穴に近づき、扉まで行っていつもの行動を繰り返した。そして直ちにそれはサッと開いた。

 その時カシムは洞穴の中で、馬の蹄の音が近く、更に近く集まってくるのを聞いていた。そしてそれが自分を虐殺するだろう盗賊団の物音であることを疑わず、徹底的な恐怖に陥った。とは言うものの、彼は間もなく勇気を奮い起こした。そして今、扉がサッと開いた瞬間、脱出を果たそうと飛び出した。

 しかし全速全力で走った不幸者は一団の前面に立っていた首領にぶつかり、彼を地面に突き倒した。首領の傍に立っていた盗賊たちはすぐに剣を抜いて、カシムを一刀で綺麗に両断した。

 その後すぐに盗賊たちは洞穴に殺到して、カシムが運び去るために出入口に積み上げていた金貨の袋を前の場所に戻した。アリ・ババが動かした分には何も気付かなかった。そこで彼らは、どんな方法で見知らぬ男が入口を開いたのかと、呆然とし驚いた。全員が、高くて急でそのうえつるつるしている岩壁の天窓から降りることは不可能であると知っていた。そしてまた、それを開けるための呪文を知らない限り、決して入口からは入れないはずだった。

 ともあれ、彼らは直ちにカシムの死体を四等分して、その二つを洞穴の出入口内部の右側に、更に同じだけを左側に吊るした。その光景は洞穴に入る勇気があった者全員への、その運命に近づくぞという警告になるだろう。それから彼らは出て、宝物庫の扉を閉め、彼らのいつもの仕事へ向けて走り去った。

 今や夜になり、カシムは家に帰らなかった。彼の妻の心中の不安は募り、アリ・ババのもとへ駆けつけて言った。

「おお、私の義弟おとうとよ。カシムが戻らないのです。あなたは彼がどこへ行ったのかよく知っているんでしょう。なにか災いがあの人に降りかかったんじゃないかと、ひどく心配なのです」

 アリ・ババもまた、彼が戻れないような災難が起きたのだと悟った。それでも。それでもやはり、彼は義姉を明るい言葉で慰めるよう努めて言った。

「おお、義姉さん。カシムは多分、判断を働かせて迂回路を行って街を避けているのです。そのうちに戻りますよ。それが遅れた理由だと、そう私は信じています」

 それで早速カシムの妻の心は慰められ、帰途について、夫の帰宅を待って座っていた。しかし夜半になってもまだ彼は帰らなかった。彼女は一度に取り乱した。悲しみに声をあげて泣くことで、たまたま聞きつけた隣人がやって来て秘密を知ることを恐れたので、黙って泣いた。そして思いに沈んで自分自身を責めた。

「何故、私はこの秘密を彼に伝えて、アリ・ババへの羨望と嫉妬を煽り立てたりしたんだろう? それがこんな実を結び、それゆえにこんな災いが我が身に降りかかったのだわ」

 彼女は夜の残りを苦い涙に費やして、翌日早く、興奮して急いでアリ・ババのところへ戻り、兄弟の捜索に行ってくれるように願った。そこで彼は彼女を慰めて、直ちに森へ彼の驢馬と共に出かけることにした。

 やがて岩に着いて、彼は鮮血が流れ出て辺りを汚しているのを見て驚いた。そして兄も十頭の騾馬も見当たらないので、その凶悪な予兆から災いを予感した。彼はそれから扉へ行くと言った。

「開け、やい、胡麻シムシム!」

 彼は押し入って、カシムの死体を見た。右に吊るされた二つと左に吊るされた二つを。彼は恐怖の度を超えて恐怖したのだが、四分割されたそれを二枚の布で包んで、彼の驢馬の上に横たえた。それらを隠すために、枝と焚き物で見えないようによく注意した。それから、彼は金貨の袋を二頭の別の獣の上に載せて、同じように非常に慎重に覆った。そして全てが整うと、彼は呪文で洞穴の扉を閉めて、人目を避け注意深くしながら家路についた。

 金貨を運ぶ驢馬を妻に引き渡して、袋をしっかり埋めるように告げた。しかし彼は、連れて来た兄カシムの状態は話さなかった。それから他の驢馬、即ち、遺体を横たえた獣と共に未亡人の家に向かい、優しく扉をノックした。

 すぐにカシムの所有する奴隷の少女、明敏で機知に富んだモルジアーナ(《赤珊瑚》の意)が出迎えた。彼女はそっとかんぬきを引いて、アリ・ババと驢馬を家の中庭に入れた。彼は獣の背から遺体を下ろして言った。

「おおモルジアーナ。急いでお前の主人のための埋葬の儀式を行う準備をしなさい。私は今、お前の女主人に消息を話しに行く。そしてこの件でお前に手助けするために素早く戻ってくる」

 そこですぐにカシムの未亡人は彼女の義弟に会い、叫んだ。
「おおアリ・ババ。私の連れ合いのどんな報せを持って来たのですか? ああ、悲しみの印があなたの表情に描かれているのが見える。早く言っておくれ、何が起こったのかを」

 そこで彼は彼女に語った。彼女の夫がどのような事の次第でどのように盗賊に殺害されたか。そしてどのように賢く彼が遺体を家に運んだかを。

「我が婦人よ。起こるべきことが起こりました。しかし私たちはこの件の秘密を守る必要があります。隠蔽によって私たちの命を守るために」

 彼女は激しく泣いて涙を流し、答えた。
「私の夫は運命の裁きによって旅立ったのですね。そして今、あなたの安全のために、私は一件を秘密にしておくという言葉をあなたに与えます」

 彼は返した。
「アッラーの意思により、沈黙は役立つでしょう。あなたを忍耐の中に置いてください。あなたが寡婦である間はやり遂げるのです。私は後であなたを妻にするでしょう。そしてあなたは快適で幸福に暮らさなければならない。大丈夫、私の第一の妻は苛々させたり嫉妬を見せたりはしません。彼女は親切で優しい心の持ち主です」※一夫多妻制。兄弟の未亡人を妻にして生活を保障することは普通だった。

 未亡人は彼女の損失を嘆き、騒々しく泣いた。

「あなたはそうしていてください」
 アリ・ババは、夫を求めて泣きに泣き叫んでいる彼女に暇乞いをした。そしてモルジアーナと合流して、どのように兄の埋葬を管理するか助言した。そうして、多くの協議と多くの警告の後、彼は奴隷の少女のもとを去って、驢馬を引いて家に向かった。

 アリ・ババが出発するとすぐに、モルジアーナは素早く薬剤師の店に行った。そこで、彼女は事件を知られないために最良かもしれない偽装を行った。彼女は彼に、危険な病気にかかった時たいてい効く薬を訊ねた。彼は言葉を与えた。

「誰かあなたの家でこの薬が必要なほど悪く伏せっている人がいるのか?」

 すると彼女は言った。
「私の主人カシム様が死にそうな病気なのです。何日も口がきけず、何も食べることができません。殆ど私たちは彼の命を絶望視しています」

 次の日、モルジアーナは再び行って、薬剤師に更なる薬と精油について尋ねた。病人が死の扉に入れられそうになっている時、最後の息の前にひょっとしたら回復するかもしれないような。

 男は一服の薬を与えた。彼女は受け取って、口に出して嘆き、泣いた。

「心配です。彼はこの一回量を飲む力がないかもしれない。思うに、私が家に帰る前に全ては終わっているでしょう」

 一方では、アリ・ババが心配そうに待機しており、カシムの家からは彼をそこへ急がせ葬礼に参加させるだろう泣き叫ぶ声や哀悼の声が聞こえていた。

 二日目になってすぐに、モルジアーナはベールで顔を覆って、ムスターファというある老人のところへ行った。長年で相当にくたびれた仕立て屋は、屍衣と死体を包むための蝋引き布の仕立てを行っていた。彼の店が開くとすぐに彼女は彼に会い、金貨一枚を与えて言った。

「あなたの目に光が入らぬよう布を巻いて、私と共に来なさい」

 ムスターファは行かないそぶりをした。それに対してモルジアーナは二枚目の金貨を彼の手に置いて、同行するように頼んだ。まもなく仕立て屋は欲が膨れ上がって同意した。そこで彼の目にきつくスカーフを縛って、彼女が手を取って、彼女の主人の遺体の横たわる家へと導いた。次いで暗い部屋で目隠しを取って、彼女は彼に四分割された遺体、その手や足を共に縫い合わせるように言った。そして死体を包んでいた布を捨て、仕立て屋に言った。

「急いで、この死人のサイズに合った屍衣を縫いなさい。そうすればあなたにもう一枚、ダカット金貨を与えます」

 ムスターファ老人は素早く、縦横の合った蝋引き布を作った。そしてモルジアーナは約束された金貨を支払った。それからもう一度、彼の目に布を巻いて、彼女が彼を連れ出した場所へ連れ戻した。

 この後、彼女は急いで家に帰って、アリ・ババの助けを借りて遺体を湯灌し屍衣を着せて横たわらせて綺麗にして、埋葬の準備を整えた。このようにしてからモルジアーナは寺院モスクへ行き、さる家において会葬者が葬式を待っていると導師イマームに報せ、死者のためにお祈りを詠みに来てくださいと頼んだ。それで導師は彼女と共に戻った。それから、四方の隣人が棺桶を持ち、肩に担いでそれを運んで、そうした葬式を援助し慣れている導師やその他の僧たちと共に出発した。

 葬式の祈りが終わると、四人の男たちは棺を運び去った。モルジアーナはその前に歩いて、平静を取り払い、彼女の胸を叩いて、泣いて、アリ・ババと隣人たちが遅れてやってくる間、大声の哀悼歌を上回って泣き叫んだ。

 そのような次第で、彼らは墓地に入って彼を葬った。こうして、ムンカルとナキール(イスラムの死の天使。死体が埋葬されると死者に質問して審判するという)に彼をお任せして、死に関する懸案を全て彼らのやり方で運んだ。

 目下、地域の女たちは街の慣習によって嘆く家に一堂に会し、カシムの未亡人と共に一定時間座って、励まし、お悔やみを言い、やがて彼女が幾らか諦めて元気になるままにしておいた。アリ・ババは兄を失ったので、喪に服する習慣によって自宅で四十日を過ごした。

 そんなわけで、街の中の誰も彼および彼の妻(カシムの未亡人)の体面を傷つけはしなかった。また、モルジアーナは秘密について知らないことがなかった。

 そして四十日の喪がが明けたとき、アリ・ババは彼自身の住居を死人が所有している全ての資産に移して、未亡人と正式に結婚した。それから、彼の甥……彼の兄の長男で、長い間裕福な商人のもとで働いて、取り引きの全ての問題、例えば売買の知識は完璧だった……を故人の店の商売を続ける担当に任命した。

(以降は抄訳した。)

 一方、洞穴に戻った盗賊たちは死体と金貨の袋がなくなっていることに気付き、犯人を捜そうと決意していた。

 翌朝早く、盗賊の一人が普通の人のような身なりで町へ行くと、例のムスターファ老人が店を開けていた。老人が自分の目は衰えていない、暗い部屋でバラバラの死体を上手く縫い合わせたと自慢したのを聞いて、盗賊はしめたと思い、その家に案内するように頼んだ。お前に目隠しをして手を引いてやったら、大体どの辺の家か分かるだろうと。老人は最初は断ったが、盗賊が金貨一枚、更にもう一枚を握らせると、結局承知した。そうして盗賊は今はアリ・ババの住むカシムの家を探し当て、白いチョークで扉に印を付けると、仲間を呼びに森に戻って行った。

 けれども、その印をお使いで外に出たモルジアーナが見つけたのだ。これは何か敵の仕業ではないかと怪しんだ彼女は、主人夫婦には黙って、周囲の全ての家の扉に同じような印を付けておいた。一方、盗賊は帰って仲間に報告し、首領含む盗賊団はそれぞれ違う方法で街に入って合流して、印をつけた盗賊の先導でその家に向かったが、印のある家が並んでいる。よく見ればもっと沢山ある。盗賊団は森に帰り、印をつけた盗賊は仲間に無駄足を踏ませた罰として投獄された。

 別の盗賊が名乗りをあげ、同じようにしてムスターファ老人に案内させ、赤いチョークで扉に印をつけた。しかし今度もモルジアーナが見つけて周囲の家にも印をつけていた。盗賊たちは同じように無駄足を踏み、この盗賊も投獄された。

 首領は自らその家を探すことにし、ムスターファ老人に金貨を握らせて案内させて、アリ・ババの家に行き当たった。彼は印をつけるようなことはせず、自分の目でしっかり見て場所を覚え、森に帰って手下に報告した。そうして十九頭の騾馬と芥子からし種の油で満たした大きな革製の容器一つと、同じ種類で未使用の空容器を三十七、買ってくるよう命じた。三十七の容器には油を塗り、中に武装した手下たちが潜んで、これを騾馬に積んで、油売りの商人の装いをして街へ出かけることにした。

 三日後の夕暮れ、彼らは作戦を決行した。アリ・ババの家の前に差し掛かると、彼はちょうど夕飯の後で散歩をしているところだった。

「こんばんは。私はこれこれの村から参った油商人でございますが、困ったことに遅く着きました。今夜一晩、泊めていただけないでしょうか。そしてこの油容器をお庭の片隅にでも置かせていただけたら、大変助かるのですが」

 アリ・ババは木の上で盗賊の首領の声を聞いたことがあったが、変装していたために分からなかった。快く承知して、騾馬を繋ぐための小屋を示し、餌と水を奴隷少年のアブドーラに用意させた。またモルジアーナには大急ぎで客の夕食とベッドを用意するよう言いつけた。

 盗賊の首領は庭に出て、容器の中に潜む手下一人一人に声をかけた。窓から石を投げたら、それを合図に革製の容器をナイフで切り裂いてすぐに出て来いと。言い終わって戻るとモルジアーナが灯りを手に部屋まで案内した。首領は灯りを消して、時間になるまでしばしベッドに入った。

 さて、モルジアーナは明日の朝のためのブイヨンスープを煮たり明日の主人の着替えをアブドーラに持たせたり、細々と家事をしていたが、途中でランプの油が切れてしまった。困っているとアブドーラが、どうしてそんなに慌てるんだ、あの小屋に沢山油の容器があるじゃないかと言った。アブドーラは翌朝早くアリ・ババに仕えなければならないので眠りに行き、モルジアーナは容器のところまで行った。すると中から「もう出る時間ですかい」と囁く声がするではないか。モルジアーナは恐怖を覚えたが、取り乱さずに「時間はまだ来ていない」と答えた。

 何と奇妙なことだろう。これはきっと、旦那様への油商人の何か危険な陰謀に違いない。慈悲深きアッラーよ、我らをこの罠から守りたまえ。

 そう呟いたモルジアーナは、首領のふりをして全ての容器に「まだ時間は来ていない」と声をかけた。油の容器から油を汲み出して大釜に注ぎ、火にかけた。そうして、煮立ったそれを盗賊たちの隠れている容器の中へ次々と注ぎ込んで歩き、全て殺してしまったのである。おかげで、盗賊の首領が手を叩いたり呼びかけたりして合図したときには、誰一人として出て来る者はなかった。小屋まで行き、肉の焼ける臭いを嗅ぎ容器の中を覗いて、首領は手下たちがみんな死んでいることを知った。モルジアーナは首領が小屋から戻ってくるかどうか見張っていたが、彼はそのまま戻らなかった。門は固く閉ざされている。塀を乗り越えて逃げたのだろうと彼女は考えた。

 モルジアーナは主人を煩わせることを益とは考えず、この件をすぐには報告しなかった。アリ・ババは夜明け前に起きて浴場へ行き、日の出に戻って来るとまだ小屋に油容器が置いてあり、商人は見えないので驚いた。理由を尋ねられて、モルジアーナはアリ・ババを小屋に連れて行き、容器の中を覗かせた。アリ・ババは大声をあげて飛びのいた。モルジアーナは「この人はあなた様を傷つける力を持ちません。もうすっかり死んでいますから」と言い、「しかし隣近所に知られないよう静かになさってください。まずは全ての容器を順番にご覧ください」と言った。アリ・ババはそれぞれの容器の中で死んでいる男たちが武装していて、彼らが死ぬほどに煮えた油が注がれていることを知った。言葉もないほどに驚いて「油商人はどこに?」と問えば、「彼は商人ではなく、あなた様を罠にかけようとした裏切り者の暗殺者だったのでございます」と言う。それから家に戻ってアリ・ババに朝のブイヨンスープを飲ませ、扉におかしな印が付けられていたところからの一切を話した。騒ぎが大きくなって周囲に知られてはいけないと思い、黙っていたのだと。また、盗賊は四十人なのだから、首領を含めて残り三人いるはずだと警告した。

 アリ・ババはモルジアーナに非常に感謝し、その行動を褒め称えた。モルジアーナは秘密を知られる前に盗賊たちの死体を埋葬すべきだと言い、アリ・ババはアブドーラと共に庭の木の下に深い溝を掘って、武器を外して死体を埋め、武器と容器は隠した。騾馬は有能なアブドーラに一頭ずつ市に持って行かせて売り払った。このように事件は揉み消され、誰の耳にも入らなかった。

 

 さて、森に逃げた盗賊の首領はますます復讐心を募らせていた。ともあれ、洞穴を開閉する呪文の秘密を知るアリ・ババだけは始末しなければならない。

 きっと例の事件は騒ぎになってワリの耳に達し、アリ・ババは逮捕されて裁かれ、家は取り潰されて財産は没収されているに違いない。そう思い、適当な身なりで隊商宿に泊まってここしばらくの事件を尋ねたが、関連する話題は何もない。アリ・ババの周到さに首領はますます危機感を強めるのだった。

 彼は洞穴から大量の商品を運び出して、コジア・ハッサンと名乗り、バザールに店を借りた。偶然にも、その場所はカシムの息子にしてアリ・ババの甥である青年の店の前だった。二、三日後に、時折そうしていたようにアリ・ババが甥の店を訪ねてきた。あれは何者かと尋ねれば、叔父だと言う。ハッサンは青年にプレゼントを贈り、豪華な食事に招いた。青年はお返しにハッサンを招待しなければならないと思ったが、彼の家は小さかった。そこで叔父に相談した。アリ・ババはモルジアーナに最高のもてなしを用意させるから明日の金曜日(イスラムの安息日)の昼食後、偶然通りかかった風を装って友人を連れて来なさいと言った。甥は言われた通りの手筈でハッサンを叔父の家に導いた。ハッサンは内心歓喜したが、表面上は躊躇して辞退する風を装った。だが奴隷が門を開き、アリ・ババの甥が手を取って説得したので、仕方なくといった様子で中に入ることになった。

 大変和やかに面会は行われたが、ハッサンは食事を共には出来ないと言う。というのも、医者の指示で塩で味付けされた料理を禁じられているからだと。アリ・ババは料理人に塩を使うことを禁じましょうとすぐに言って、料理をしているモルジアーナのところに行った。

 その話を聞いてモルジアーナは大いに怪しんだ。その男の顔が見たいと思い、肉の給仕の時、アブドーラがテーブルを整えるのを手伝ってそれを見た。そして台所に戻って作戦を練った。

 やがてアブドーラがデザートを出す頃合いだと言ってきた。果物を盛った盆とワイングラスを三つ出して、それから彼女とアブドーラは自分たちの食事のために別の部屋に引きあげた。ハッサンは今こそ復讐の時が来た、この短剣でこいつを殺して庭を通って逃げようと考えたが、奴隷の男女が食べ終えて寝てしまうまでは待つことにした。モルジアーナは、しかしそんな考えを見抜いていた。

 モルジアーナは素早く踊り子のような服に着替えて、顔をスカーフで隠した。頭にはターバンを巻き、金と銀の飾りが揺れる腰帯を着け、柄に豪華な金線細工が施され宝石のはめこまれた短剣をさした。このように扮装すると、彼女はアブドーラに言った。「すぐにタンバリンを鳴らして歌って、私たちの旦那様のお客様を記念して踊りましょう」と。歌い踊りながら許可を求めると、アリ・ババは客の前で踊ることを許した。

 アリ・ババとその甥とハッサンを、モルジアーナは優雅なステップで満足させたが、突然腰帯から短剣を抜いて、それを振り回しながら踊りまわって一層喜ばせた。時にはその剣で自分の脇の下、そして胸を軽く叩いてみせる。最後にアブドーラからタンバリンを取って、右手にまだ短剣を持ったまま、大道芸人のように陽気に喜捨を求めた。まずはアリ・ババが、次に甥が金貨をタンバリンに投げ入れた。そしてハッサンも彼女が近づくのを見て自分の財布を出そうとしていた。

 その時、モルジアーナは自分の心を励まして、短剣を彼の心臓に突き立てた。たちまち悪党は仰のけざまに倒れて動かなくなった。

「なんたる不幸。私の身の破滅をもたらすなんということをしてくれたのだ!」

 アリ・ババが叱り付けた。しかしモルジアーナは答えた。

「いいえ、旦那様。むしろあなた様を救い、危害をもたらさないために、私はこの男を殺したのでございます。彼の衣服を緩めてご覧下さい。そこにあなた様の怒りをしぼませるものを見い出すでしょう」

 アリ・ババは死者が服の中に短剣を隠していたのを見つけた。モルジアーナは、この男がアリ・ババの敵である盗賊団の首領にして油商人であり、アリ・ババの命をとるつもりでここに来たこと、そのことに塩を食べないことで気づいたのだと話した。

 アリ・ババは二度も救われた感謝の念を惜しまずに彼女に与え、抱きしめた。
「お前が奴隷の身から解放されたことを知りなさい。そしてこの忠誠への恩返しとして、私はお前を甥と結婚させよう」

 そして青年に振り返って言った。
「私が命じたように、そしてお前が栄えるようにしなさい。お前は忠義の鑑であるモルジアーナと結婚するんだ。お前も分かっただろうが、今、そこのコジア・ハッサンは私の命を取る機会を見つけるためだけにお前の友情を求めたのだろう。だが、この娘が優れた感覚と知恵によって彼を殺し、私たちを救った」

 アリ・ババの甥は、すぐにモルジアーナとの結婚に同意した。

 その後三人は、死体を細心の注意と警戒でもって抱えあげ、庭に密かに埋めた。そして長い間、誰もそのことを知らなかった。

 そのうちに、アリ・ババは彼の兄の息子とモルジアーナを大変華やかに結婚させた。そして友人たちと隣人たちに向けて最も豪華な方法で盛大な披露宴を催した。歌とあらゆる種類のダンスと余興とで、彼らは浮かれ、楽しんだ。

 彼はあらゆる仕事で成功し、《時》は彼に微笑んだ。そして豊富な新しい情報源は彼に開かれた。

 さて、カシムの遺体を運び出してからは、アリ・ババはあの洞穴へ再び行くことを恐れていたものだったが、しばらく経ったある朝、馬に乗って、人も馬も痕跡を残さぬよう細心の注意を払って行ってみた。そして安堵して扉の傍に近づくことにして、木に繋いだ獣から降り立って、入口に行って忘れ得ぬ言葉を発した。

「開け、やい、胡麻シムシム!」

 この時、それが決められたことであったので、扉はサッと開いた。そして入ることによって彼は品物と秘蔵の金銀がそのままで、彼がこれらのもとを去った時のまま横たわっているのを見た。それで、盗賊のうちの誰かが生き残っているわけではない、彼以外にこの場所の秘密を知る者はいないと確信した。

 すぐに鞍敷に彼の馬が運べるだけの沢山の金貨を結びつけて、それを家に持ち帰った。そして後日、息子と孫息子に秘宝を見せて、彼らに扉をどのように開閉させるかの秘密を教えた。

 このようにして、アリ・ババと彼の一族は生涯ずっと、以前は貧乏人であった街で富と喜びの中に生きた。そして、その秘密の宝の恩恵によって、彼は高く尊厳ある地位にのぼりつめたのだった。



参考文献
ALI BABA AND THE FORTY THIEVES.」/『The Thousand Nights and a Night』(Web)
『アラビアン・ナイト 下』 ディクソン編 中野好夫訳 岩波版ほるぷ名作文庫 1961.
アリ・ババと四十人のどろぼう」/『アラビヤンナイト』 菊池寛訳 主婦之友社 1948. 『青空文庫』(Web)

 

※死体の処理方法や世間への隠蔽工作が、なんかリアルで怖いのだが…。アリ・ババさんちの庭は死体だらけだよ。そしてモルジアーナは男前過ぎる。救われて即座に彼女との結婚に同意したアリ・ババの甥はお姫様過ぎる。

 アリ・ババとは「アリ父さん」というほどの意味。

 最も認知度の高いバートン版を主に参照したが、(最初に西欧に「アリ・ババと四十人の盗賊」を伝えた)ガラン版や後に発見されたアラビア語版では、アリ・ババの妻がカシムの妻に借りたのは天秤ではなくます、ムスターファ爺さんは屍衣の仕立て屋ではなく靴職人、カシムの店を継ぎモルジアーナと結婚したのは甥ではなくアリ・ババ自身の長男、チョークの印で失敗した盗賊たちは投獄ではなく処刑された、となっているようだ。枡と職人の職種のことはともかく、その他の二つはガラン版の方が筋が通っている。ただ、ガラン版ではモルジアーナが煮え油を注いで盗賊の手下を殺した時点でアリ・ババが彼女を奴隷の身分から解放したことになっており、にも拘らずその後も使用人として働いているので辻褄が合っていない。また、盗賊の首領が化けた商人が塩を食べない理由を、バートン版は「医者に止められた」という理由にしているが、ガラン版では「神への誓いのため」となっている。

 なお、塩抜きの料理を頼まれるとモルジアーナは怪しむが、これは塩が「清める力を持つ」ものだからのようだ。食事を共にしながら塩を食べないということは、相手を害するつもりである、敵意を持っているというサインになる、と解釈する向きがあるそうで。…これは単純に、悪しきモノ・魔物は、浄めの塩を食べられないという観念が根底にあるのではないだろうか。
(魔法昔話に登場する《盗賊》は、多くの場合《魔物》と同義である。《洞穴や森から現れ人の命を奪うモノ》のイメージ原型は、人食い鬼であり、人間の魂を奪い集める冥界神なのだろう。
 ちなみにドイツの伝承によれば、水の魔物(妖精)ニクスは食物を塩抜きで食べるとされる。ニクスは水底の宮殿の壺の中に溺死者の魂を集めて憩わせている。)

 煮え湯や煮立った油を注いで悪しきモノ(人食い鬼/殺人鬼/盗賊)を殺すモチーフは「馬方と山姥」や「白い鳩」など、多くの民話に見える。また、木の上(高い場所)に隠れて魔物や盗賊の密談を盗み聞きして宝を手に入れるというモチーフも世界中の説話でお馴染みのものだ。

 物語前半部、正直者が富を得て真似した欲深者が破滅する対比形は、日本人にとってもなじみが深い。日本民話では【地蔵浄土】が近いだろう。正直爺さんが転がる豆や団子を追って行くうち、地下が開いて落ちる。そこに祀られていた地蔵に指示されて高い場所に隠れていると、鬼たちがやって来て博打や宴会を始める。爺さんが声をかけるか鶏の鳴き真似をするかすると鬼たちは逃げ去り、爺さんは残された宝を手に入れる。話を聞いた欲張り爺さんが真似をするが、失敗して、(さては以前に宝を取ったのはお前だなと言われて)鬼に八つ裂きにされる。

 物語後半部、知恵者の娘が孤軍奮闘して家を守り、火や剣で盗賊団を殺してしまうモチーフは、「にんにくのようなマリア」のように、それ単体でも口承されている。古代エジプトのパピルスに記された物語にも類似のものがあるという。


参考 --> 「ジメリの山」「たから山のたから穴」「二人の兄弟と石の犬

「開け、ゴマ」という呪文は、原典アラビア語では「 (イフタフ・ヤー・シムシム)」である。「イフタフ」は 《動け》、「ヤー」は呼び掛け声、「シムシム」は 《胡麻》 の意になる。実際の発音ではつづまって「イフタハー・シムシム」と聞こえるようだ。

 どうして胡麻なのか、という疑問への解答は定かではない。ただ幾つか説があり、多くは、実が熟すとサヤが独りでに開いて弾けるという、胡麻の特性に関連付けられている。胡麻は 《開くもの》 であるから、岩門を開く呪文に使われているのだ、と。

 たとえば、胡麻は栄養価の高い貴重な作物とみなされており、それは熟した実が弾け開くことで収穫できた。よって 《サヤの中の胡麻》 と 《洞穴の中の宝》 を重ねて表現したのだと言われることがある。農村で、胡麻を実らすまじないとして実際にその呪文を唱えていたとも。この説はテレビでも紹介され、広く認知されつつあるようだ。

 しかし、同じ 《胡麻のサヤが弾ける様子にちなむ》 説でも、また違う意味を見出しているものもある。即ち、これは性の呪文なのだと。

 日本神話に、根の国(冥界)で野火に巻かれ死にかけたオオクニヌシの元に雌鼠が駆けつけて不思議な言葉を唱える場面がある。この言葉を聞いたオオクニヌシがハッと閃いて地を踏むと大地が開き、彼は 《穴に落ちて》 火から逃れることが出来た。この時ネズミが唱えた言葉、「外はすぶすぶ、中はほらほら」を、性的な文言と見る説がある。大地や山に開く穴や裂け目は冥界への入口とみなされることが多いが、同時に、地母神の膣や子宮ともイメージを重ねられがちである。地下世界(冥界)の女神が鼠の姿を取って現れるという観念は「隅の母さんの娘に結婚を申し込みたかった若者」のような西欧の民話にも見られるものだが、オオクニヌシを救いに現れた鼠も冥界の女神であり、彼女が入るように促した 《外はすぼまっていて内側は広い》 穴はその膣の比喩である、と考え得る。地獄で火に焼かれてオオクニヌシ(冥界に入った霊魂)は浄化され、女神の子宮に 《落ちて》 そこから新たに生まれ変わった……という、世界共通の魂の再生の観念を見ることができるのだ。

 さて。アリ・ババは「開け、ゴマ」と呪文を唱えて岩門を開いた。胡麻のサヤは熟すると弾け開く。……実を言えば、これを女性器の比喩だとみなす説がある。『千夜一夜物語』の第九〜十八夜「バグダッドの軽子と三人の女(荷かつぎ人足と乙女たちとの物語)」には、 《サヤが弾けた胡麻(サヤを剥いた胡麻)》 という言い回しが何度も出てくるが、そこではそうした意味で使われているのだった。

※謎めいた美女が荷担ぎ男を自宅へ連れて行き、そこで複数の美女たちとの官能の時間になる。女は服を脱いで自らの性器を示し、「これは何?」と尋ねる。男はあらゆる女性器の名称を並べ立てるが、女は「いやらしいわね、恥を知りなさい」と笑って男を打つ。最後に男が「《サヤが弾けた胡麻》では如何か」と言うと「ふーん」と満足した様子……といった具合で数度繰り返される。

 日本にも、熟して弾け裂けたアケビや瓜を女性器に例える言い回しがあるものだが、同じことなのだろう。そう考えれば「開け、ゴマ」は、確かに意味深長な性の呪文である。

 先に、大地や山に裂け開く穴は 《冥界への入口》 であり 《地母神の膣》 でもあると書いた。つまり「開け、ゴマ」という言葉は、あの世へと通じている女神の玉門を開かせるための、呼びかけの呪言なのではないだろうか。

 女性器上部の膨らみ、または膨らみから大陰唇にかけての部分…恥丘を、医学の専門用語(ラテン語)では Mons veneris (モンス・ヴェネリス)、即ち 《ヴィーナスの山(丘)》 と言う。ヴィーナス(アプロディテ)は愛欲の女神であり、また冥界の女神としての一面も持っている。中世西欧では、女神が支配する享楽と秘宝に満ちた神殿、その神殿のある山の存在が信じられていた。神殿は燦然と輝いており、時には聖杯が隠れされている。この山の名を、フランスでは Montjoie (モン・ジョワ)、即ち 《歓びの山》 と呼んだ。一方、ドイツではその山は Venusberg (ヴェーヌスベルク)、即ち 《ビーナスの山》 として知られていた。伝説にちなんで現在実際にその名がつけられている山もある。この山の名はワーグナーの歌劇『タンホイザー』で知られているだろう。騎士タンホイザーは異界ヴェーヌスベルクで異教の女神(魔女)ヴェーヌスとの悦楽の日々に耽る。この歌劇の元となったのは十五世紀に成立した伝説で、そこでタンホイザーが籠もるのはヴェーヌスの洞窟である。つまり山と洞窟がほぼ同じものとして認識されている。……その山には割れ目があり、山が開いた奥には穴があるのだろう。

 また、十五世紀の教皇ピウス二世は、魔女が夜にヴィーナスの山に集まって悪魔と会合し魔術を習うと述べた。魔女が山に集まる、女と山と性と魔力が関連するという観念は、ドイツのブロッケン山やガラス山の伝説にも見える。

 

 1989年に丹波哲郎が製作した映画『大霊界 死んだらどうなる』に、事故死した霊たちの行く手に現れた雄大な雪の山峰が音を立てて裂け、霊たちはその裂けた処を通って霊界へ入るというシーンがある。これは全くの創作ではなく、ヒンドゥー系の実際の伝承や信仰に見られる観念である。インドネシアのバリ島では土着の信仰とヒンドゥー教が混じったバリ・ヒンドゥーが浸透しているが、寺院の山門の多くが、山型の壁の真ん中が割れ開いた形をした 《割れ門チャンディ・ブンタル》 になっている。この割れた隙間に道が通っていて人が行き来するわけだ。ヒンドゥー教では山は聖なるものであり、寺院はそれを切り開いて越えた向こう、聖域にあることを意味しているのだと言う。この山はバリの霊山たるアグン山であるとも、ヒンドゥーの霊山スメール山(須弥山)であるとも言われる。

 裂けた山の向こう、開いた岩の中、開く大地の奥に冥界(死、そして宝)があるという観念は、様々な民話の中にも入り込んでいる。たとえば韓国の「ヨニと楊の葉」では、苛められ冬山に追いやられた継娘が「枝垂れ楊、楊の葉よ、ヨニが来たから門を開けておくれ」と唱えることで洞穴の岩門を開く。その奥は春であり、豊かな実りがある。継母による殺害の後、少女はそこから天界へ去る。アフリカの「キジの洞穴」では敵に追われて世を儚んだ大工が神に祈ると岩壁が開き、彼はその向こうへ去る。インドネシアの「ラオと魚」では、世を儚んだ少年が泉と木の側にある石を叩いて「私の石よ、お前の扉を開いておくれ」と呼びかけ、開いた中に見えた家に飛び込む。石はたちまち閉じて少年は二度と戻らない。ベトナムの「二人の兄弟と石の犬」 では山上の犬の石像を杖で叩くと口を開き、中に金銀が詰まっている。ノルウェーの「木のつづれのカーリ」では、牡牛の死体を葬った断崖へ行って杖で叩くと、そこが開いて男性が現れ、欲しいものを何でも出してくれる。フランスの「ロバの皮」では、魔法の杖で地面に触れるだけで自在に衣装箱を取り出せる。イタリアの「王女と山賊の結婚」では、王女が結婚した男が実は盗賊で、彼が断崖の辺りの地面を杖で三度叩くと口が開いて、その奥に家がある。王女はその洞穴で、毎日夫が運び込んでくる死体の管理をさせられることになる。

 このように自在に開閉する死と宝に通じる岩山は、時には、そこを通過しようとする者を挟み捕らえようとすることもある。チベットの「仙女と魔女」では、殺された娘の魂が青いクルミの実となって岩の割れ目に挟まっている。哀れな魂は割れ目から取り出された後に元の娘の姿に再生する。『グリム童話』の「命の水」(KHM97)では、王の三人息子が一人ずつ、父の病を癒す命の水を求めて旅に出るが、上の二人は行き会った小人に礼を尽くさなかったので、《山》 に囚われることになる。(以下、金田鬼一訳 岩波文庫版『完訳 グリム童話集』より)

 小人は怒って、王子が酷い目に遭うよう祈りました。王子は、それから間もなく山あいの細路へ入り込んで、行けば行くほど、山と山との間は狭くなるばかり。しまいには、もう一歩も前へ出られないくらいに路が狭くなって、馬の向きを変えることもできず、鞍から降りることもできず、まるで閉じ込められたようになりました。

 この状態を、後に末王子に兄たちの消息を問われた小人はこう表現している。

二つの山の間に挟まってますよ」と、一寸法師が言いました。「あの人たちときたら、いやに高慢ちきだったから、あたしがそういう目に遭わせてやったのさ」

 類話を見ると、兄たちは美しい乙女に誘惑されて深い深い 《穴に落ちた》 ことになっている。伝承の世界では 《穴に落ちる》 ことと 《死》 は同義だが、女の穴に自ら入り、そこに挟まれ死んだというわけだ。また、この話に近しい[ニーベルンゲン伝説]話群を参照するに、行き会う小人は地下の冥界に属する、財宝の管理者である。

 グリムの「命の水」では、末王子は命の水を得るために 《魔法を掛けられた城》 に入らねばならない。その城は高い塀に囲まれ、頑丈な鉄の門で閉ざされている。これを開けるには鞭(枝〜杖)で三度、扉を叩かねばならない。やっと開いた門の中には二頭のライオンが寝そべっていて、一呑みしようと口を大きく開けているので、無事通過するには口にパンを投げ込んでやる必要がある。この城が冥界のイメージの一バリエーションであることは、すぐに分かる。ギリシア神話に登場する、青銅の塀に囲まれ番犬ケルベロスに守られた冥界を思い出すだろう。この城に滞在できる時間は定められており、それを過ぎると門は独りでに閉じて二度と出られなくなる。なのに末王子は 《眠ってしまって(「眠り」と「死」はよく似ている)》 危うく時間に遅れそうになり、ギリギリで飛び出したものの、閉じた門に踵の肉をひとかけらもぎ取られる。

 ところで、ギリシア神話のアルゴー船冒険譚では、王子イアソンは金羊毛を得るために 《アイエテスの館》 に入らねばならなかった。アイエテスは太陽神ヘリオスと海の娘ペルセーイスの息子とされ、その館では太陽が休み、あるいはその地から曙が昇るとされた。そこには竜蛇がおり、古い伝承によればその巨大な口の中、竜の腹の奥に金羊毛は守られていた。そこを目指してアルゴー船は航海を続け、いよいよその領域に入るために、激しく打ち合う青黒い浮き岩…シュンプレーガデスの間を通り抜けねばならなかった。現在一般に知られている伝承ではこの岩のエピソードが語られるのは往路でのことだが、古い伝承によれば、打ち合う岩門は、その奥の世界から戻ろうとする人々にとってだけ危険なものであったという。《行きはよいよい帰りは怖い》だ。

 ともあれ白鳩を放ち、それが通り抜けた直後に大急ぎで抜ける以外にそこを通る方法はないとされた。試しに放した白鳩は、尾羽一枚を門に挟み取られたものの通り抜けた。勇気づけられて船を全速で進めると、船尾をわずかにもぎ取られたものの通り抜けることが出来たのだった。

 ロシアの民話「処女王」では、若者が火の鳥に乗り、人食い女から危機一髪で逃れて、更なる奥地である《この世の果て》へ向かう。その際、火の鳥の尾羽根は人食い女に掴まれて、千切り取られてしまったという。

 この、冥界の門を通り抜けた者が身体の一部を欠損してしまうというモチーフは、シンデレラが片足だけ裸足になること、集められた骨から再生した者が骨が欠けていたために片足になること、逃げた人間を追う山姥が目を傷つけられて片目になること、などといったモチーフと関連すると思われる。手足や目の欠損を、《死》の暗示としているわけである。(幽霊には足がない、霊鬼は姿がないので蓑笠を着ている、人間に霊が見えないように霊には人間が見えない…盲目である)

>>参考 <童子と人食い鬼のあれこれ〜片目の神

 

『オデュッセイア』中で(アイエテスと同父同母、即ち太陽の娘である)魔女キルケーが語ったところによれば、打ち合う岩プランクタイの近くに七羽の鳩が飛び交っていて、大神ゼウスに神饌アンブロシアを運ぶ任を持っていたが、そのうちの最後の一羽は時に岩門に挟まれて犠牲になってしまうので、その度にゼウスは新しい鳩を補充するのだと言う。というのも、この鳩たちは天にあってプレイアデス星団――すばるとして輝いていたので、数を欠けさせるわけにはいかなかったからだ。そんなわけで、打ち合う岩門の名を「プレガデス」とする説もある。

 余談。ギリシア神話ではプレイアデス星団は好色な狩人オリオンに追われて天に昇ったアトラスの七人の娘だというが、中国の民話「牛飼いと織姫」では、ガラガラと音を響かせて天国の門が開き、そこから白鳩の姿をした七人の天女が舞い降りてくる。七番目の娘は人間の男に羽衣を奪われたので、死すべき人間の妻になり、しばらく天からいなくなった。

 岩門を通り抜ける白鳩が冥界に出入りする霊を象徴しているのは明らかだ。また、白鳩は女神アプロディテの使鳥でもある。アプロディテは愛欲の女神として知られるが、時に冥界の女神とみなされていた。『アイネイアス』によれば、アイネイアスが冥界に下って無事生還するためのアイテム《黄金の枝》を取るために深い森の奥へ入ると、彼の母であるアプロディテが二羽の鳩を遣わして先導したと語られている。霊を支配しているのは女神なのである。

 ニュージーランドのマオリ族の伝承によれば、死者の魂は死の大女神ヒネ・ヌイ・テ・ポが大きく開いた両脚の間、女性器を通って冥界へ入るとされる。かつて文化英雄神マウイがこの世に不死をもたらそうと考え、女神が眠っている間に逆さになって……つまり頭からではなく尻から女性器に潜り込み、胎内潜りをしようとした。しかし周囲に群れ集まって見ていた鳥の一羽が禁を破って笑い声をあげたため女神が目覚め、マウイは彼女の玉門に挟まれて動けなくなった。その膣には歯が生えていて、彼を噛み殺したのだと言う。

>>参考 有歯膣の伝承

 

 なお、挟み噛みつき呑み込む岩門は、怪物(獣/竜)の口に例えられることも多い。要は女神の腹への入口であればいいのであって、上か下か、どちらの口であっても構わないということだろう。スラヴの伝承では、冥界への入口には山姥ババ・ヤガーの小屋があり、その小さな戸口からしか先へ進むことはできない。そんなババ・ヤガーの小屋は鶏の脚の上に建っていて呼びかけに応じて向きを変えるとされる。冥界へ入るには巨大な鶏(獣/女神)の開いた口の中へ入らねばならない、あるいは、冥界とは獣の腹の中であり、同時に女神の住む家そのものであるというイメージを見て取ることができる。





 不思議な岩山を開いて宝を得る物語は、西欧、アフリカ、インド、西インド諸島、そして中国にも口承されている。西欧の類話の中では『グリム童話』の「ジメリの山」が最も知られているだろう。

ジメリの山  ドイツ 『グリム童話』(KHM142)

 金持ちでケチの兄と、雑穀を商って細々と暮らしている貧乏な弟がいた。

 ある日のこと、弟が荷車を引いて森を通っていたところ、見慣れぬ大きなハゲ山を見つけたので見とれていた。そこに十二人の恐ろしげな風体の男たちがやって来た。これはきっと盗賊に違いないと思い込んで、荷車を藪に押し込むと木に登って隠れた。

 十二人の男たちはハゲ山の前で呼びかけた。
ゼムジの山や、ゼムジの山や、開け!

 すると山の真ん中がぱっくりと口を開き、男たちはぞろぞろとその中に入った。全員入ってしまうと山はぴったり塞がった。やがて山は再び開き、男たちがずっしりした袋を各々持って出てきて、全員外に出ると口を揃えて言った。
ゼムジの山や、ゼムジの山や、閉まれ!

 すると山は閉じて、出入口など全く分からなくなった。男たちはどこかに去った。

 弟は好奇心に駆られ、その呪文を唱えて山を開き、中に入った。中は洞穴で、金貨と銀貨とあらゆる宝石が山になっていた。弟はどうしていいか分からなくなるほどのぼせ上がったが、宝石類には一切手を付けず、金貨だけをポケットに詰め込んで外に出て、山を閉じてから帰った。

 すっかり裕福になった弟は、妻子にたらふく食べさせるばかりか周囲に気前よく施しするようにさえなった。お金がなくなると、彼は兄から借りた大きな枡を持って例の山へ行き、また金貨をたっぷり取ってきた。しかし相変わらずそれ以外の宝には手をつけなかった。三度目に取りに行こうとしたとき、妬んだ兄は貸した枡の底にチャン(木材や石炭を燃やして発生するガスが液化したもの。タール。ベタベタして黒い。あるいは接着剤として用いる蜜蝋のこと)を塗っておいた。返された枡に金貨が一枚貼りついていたので、兄は本当のことを言わねば役人に訴えるぞと脅し、一切を話させた。

 兄はさっそく荷車を馬に引かせて出かけ、呪文を唱えて山に入った。財宝に目が眩み、運べるだけの宝石を荷車に積み込んだ。しかし外に出ようとしたとき、のぼせて呪文を忘れていてこう言った。
ジメリの山や、ジメリの山や、開け

 当然、ゼムジの山は開かなった。彼はパニックに陥ってますます正解を忘れた。

 日が暮れると山が開き、十二人の盗賊が入って来た。彼らは兄を見つけると、今まで金貨を盗んでいたのはお前だな、とうとう捕まえたぞと嗤い、それは弟の仕業ですという弁解も聞かずに、兄の首を刎ねて殺してしまった。

 ゼムジ Semsi という山名の由来が何なのかは分からないが、いずれ霊山の名であることに違いはあるまい。グリムはこれを 《山》 を意味する古いドイツ語に由来すると解説したらしい。あるいは単純にヘブライ語やアラビヤ語で胡麻を表す semsem や simsim からきているのかもしれない。

 アフリカでは、この物語は動物葛藤譚になっている。

野ウサギとハイエナ  アフリカ ジュクン族

 ある大飢饉の年、食べ物を求めてさまよっていた野ウサギが鉄で出来た不思議な家を見つけた。隠れて見ていると、中から「ポ・ウイン(開け)」と声がして、ライオンたちがゾロゾロと出てきた。そして「バ・ガン(閉じろ)」と言って扉を閉めると、どこかへ行ってしまった。

 野ウサギが「ポ・ウイン」と唱えて中に入ってみると、山ほど肉があった。腹いっぱい食べて家族にも持って帰った。

 ところがこの秘密はすぐにハイエナに知られてしまった。仕方なく、野ウサギはハイエナを鉄の家に案内した。中に入るとハイエナは貪欲に食べ続けた。付き合っていられないと思った野ウサギは、呪文を唱えて扉を開閉し、一匹で先に帰ってしまった。

 やがて満腹したハイエナは帰ろうとしたが、「ポ・ウイン」の呪文を忘れていた。「バ・ガン」「バ・ガン」と必死に怒鳴っているうちにライオンが帰って来て、食い殺されたのだった。

 ライオンたちは殺したハイエナの皮でふいごを作り、鍛冶の仕事を始めた。それを見た野ウサギは上手くライオンに取り入り、ふいごの仕事を任せてもらった。そしてふいごを動かしながらこう歌った。

ムニョムニョラーニョ・ポ・ウイン、ウニョウニョラーニョ・バ・ガン(わたしゃ開けと言ったのに、お前は閉じろと言うばかり)

 するとライオンたちは歌の魔力で祓われて散り散りに逃げ去り、野ウサギは残された鍛冶道具を手に入れた。

 しかしこの道具はとても重く、持ち上げて運ぶことが出来なかった。そこに山鳩が来て助言をくれた。野ウサギは喜び、その方法で道具を運び始めたが、途中でふと「この ちょー賢い野ウサギさまが、山鳩なんかの言うことを聞いていいものか」と思ってしまった。首を傾げた途端、頭の上に載せていた鍛冶の道具は転がり落ちて四方に飛び散った。

 この道具を拾い集めて、人間は鍛冶を始めたのだ。だから全ては野ウサギのおかげなのである。



参考文献
『決定版 世界の民話事典』 日本民話の会編 講談社+α文庫 2002.

※鉄や青銅(黄金)の頑強な塀、あるいは門に閉ざされた城は、比較的ポピュラーな冥界イメージの一バリエーションである。つまりこの物語のライオンは冥界の存在。日本的な感覚で言えば地獄の鬼だ。地獄には火が燃えていて鬼は死者の霊を焼いて打つものだが、ライオンたちも火を燃やして鉄を焼いて打って鍛冶仕事をする。

 かまどで煮炊きする女性や炉で鉄を溶かす鍛冶師ら《火で物を作り出す者》は、伝承の世界では冥界と関連付けられ、魔力を持つ存在とされることが多い。この物語は、鍛冶技術と冥界を結びつけて語った神話でもあろう。

 それは兎も角、肉を食べるウサギは怖いと思った。でもアフリカの伝承ではウサギが肉を食べたり猟に行ったりする話はままある。

 中国の類話には他国のものとは異なった特徴がある。岩山を開ける手段として、呪文よりも道具が重視されるのだ。「たから山のたから穴」のように神仙に鍵を授かることもあるし、特定の場所に育った植物そのものが 《鍵》 になると語られることも多い。

岩の戸よ開け  中国

 かつて、南方から訪れた人々がその不思議な力で長白山の下の財宝の存在を見通したことがあった。そこには百姓に役立つあらゆる道具があり、しかも黄金で出来ているのだと言う。山のふもとに住んでいた百姓の老人がそれを聞き、かねてからの自分の推測と合致することに心騒いで、南方の人々に贈り物をして宝を手に入れる具体的な方法の教えを乞うた。彼らは言った。

「正直な心の持ち主だけが山を開いて入ることが出来るのだ。山を開くために必要な鍵はこの世に一つしかなく、毎年、葦に姿を変えて沼のほとりに生える。その葦の葉は九枚で風がなくとも揺れている。山を開く運命を持つ人間なら、九×九の八十一本の葦を数えるうちに見つけられるだろう。見つけたら刃物を使わずに素手で根っ子ごと抜くのだ。そうでなければ山は開けない。
 また、山を開く時刻は夜中のの刻(深夜十二時)で、鶏が三度 時を作るのを聞いたらすぐに出なければならない。
 持ち出せる宝は一つだけで、余計に取れば山の中に閉じ込められて二度と出られなくなるだろう」

 この話を男は家族にも話さなかった。九枚の葉の葦を探し、家に隠しておいて、真夜中に山の岩にかざすと、大音響を立てて山が開いた。興奮して駆け込むと、中には誰もいなかったが、黄金で出来た家具やら農機具やらあらゆるものがあった。男は一番重くて一番運びやすいものを選ぼうとしたが、あまりに沢山の宝があってとても選びきれるものではなかった。

 そのうちに夜明けが近づき、鶏が一声をあげた。男はやっと金の牛を引き出すことに決めたが、ふと、見張り番がいるわけでないし、他にも何か持っていきたいと思った。途端に金の牛の歩みが遅くなった。鶏の二声が聞こえた。男が出口の近くにあった黄金の鍬を取ると、金の牛はもう釘づけされたように動かなかった。鶏の三声が聞こえた。咄嗟に、男は金の牛を取るか金の鍬を取るか決めかねた。

 きしむ音を立てて出口が閉じ始めた。泡を食った男は何も持たずに外に飛び出し、その瞬間、山はズズン、と重い音を響かせて合わさった。

 あれだけ苦労して鍵を探し、あれほど悩んで持ち出すものを選んだというのに、男は自らの欲のために何一つ手に入れられなかった。骨折り損のくたびれ儲けである。諦めきれず、男は南方から来た人々にもう一度山に入る方法を訊ねた。しかし彼らは言った。

「山を開く鍵は正直者に一度しか与えられない。欲心のある者は二度と入れないのだよ。お前は畑仕事に精を出すことだ。そうして立派な作物を作る方が、山から金の牛を引き出すよりも余程いいではないか」


参考文献
『中国民話集』 飯倉照平編訳 岩波文庫 1993.

※南方から来た人々とは、つまり異邦人、異人である。一般に《南蛮子(南方の少数民族)》として語られ、唐代には《胡人(北方の少数民族、または西方の騎馬系民族)》として語られていたが、やがて《回回(イスラム教徒)》として語られるようになり、近代では《洋人》が財宝を盗み出す話として語るバージョンも生じたという。

 正直者が資格を与えられて宝のある異界に入るが、精神的な未熟さから失敗して宝を入手できず、異界から出た後に後悔する…という筋立ては、西欧中世の聖杯伝説、騎士パーシヴァル(パルチヴァール)の物語を想起させられる。

参考 --> 「鍵の木」「たから山のたから穴

 鍵となる呪物マジックアイテムは、包丁と薪、斧、鶏または鳥、石臼、金の鍵、鈴などである場合もあるが、最もポピュラーなのは瓢箪または瓜である。

宝瓢箪  中国

 都の東に山があり、その麓の村に趙という母子が住んでいた。息子は趙祥と言い、十歳を過ぎたばかりの幼い少年であったが、たいそう気働きのする孝行者で、いつも自分は糠や野草を食べ、母親には混ぜ物をしないご飯ばかりを食べさせていた。

 ある日、中庭で母子が仕事をしていると、脚の傷ついた雁が落ちてきた。趙祥は料理してお母さんに食べさせてあげると言ったが、母はそれを止めて手当てをした。雁は衰弱していて飛べない。村にやって来た老師に母が治療法を訊ねたところ、毎日瓜の種を食べさせれば良いと答えた。そこで母子は毎日瓜の種を与え、なくなると隣近所から借りた。趙祥も野草を掘っては売りに出て瓜の種を買い、それを食べさせた。趙祥は庭に雁の小屋を作って住まわせ、やがて冬になると家の中に抱え入れて一緒に寝起きした。

 春になり、母子は雁を空に放した。雁は家の上を三度回り、三声鳴いて飛び去った。

 それから一年過ぎた春の日の正午、あの雁が庭に舞い降りた。喜ぶ母の手に大きな瓢箪の種を吐き出すと、雁は母に向けて三度鳴いて飛び去った。

 母が瓢箪の種を畑に蒔くとすぐに芽が出た。大きな実が生ったら水入れやら卵入れやらを作ろうと思っていたが、どうしたことか、瓢箪は青く小さなまま大きくならない。このまま放っておけば霜に焼かれてしまうが、もげばこれ以上大きく出来ない。どうしたものかと母子は悩んだ。

 そんなある日、趙祥が山で野草を掘っていると、人の叫ぶ声がする。駆けつけてみると白髪の老人が倒れていたので、介抱して、背負って麓まで運び始めた。すると老人は「お礼にいいことを教えてあげよう」と笑う。

「お前の家のあの瓢箪は《一年青、二年成、三年宝瓢箪》という宝重で、宝の山を開く鍵なのだよ。あの山に鳳凰が降りたとき、瓢箪を持って山へ行って、まず左へ三回、次に右に三回 回しながら『一年青、二年成、三年宝瓢箪霊』と唱えれば山が開く。そこには数えきれない金銀財宝があるから欲しいものを取ればいい。しかし決して欲張ってはいけないよ。それは忘れないようにな」

 言い終わると老人は消えてしまった。その夜、趙祥がこのことを母に話すと、母親は言った。「息子や、山が開いても欲張ってはいけないということを、決して忘れてはいけないよ」と。趙祥は「忘れません、母さん」と答えた。

 三年が過ぎた。母子は瓢箪をもいで箱に入れ、鍵をかけた。そんなある日、山で野草を掘っていた趙祥は、山の頂に美しい鳳凰がいるのを見た。老人の話を思い出し、急いで家に帰って宝瓢箪を持って来ると、左に三回、右に三回 回しながら「一年青、二年成、三年宝瓢箪霊」と唱えた。

 轟音と共に山が開き、入ってみると中には光り輝く金銀財宝が詰まっていた。しかし趙祥は金塊一つを拾っただけであった。山はまた静かに閉じた。

 家に帰ってこのことを話すと、母親は頷いて「そうだ、知足長楽だよ」と言った。趙祥は金塊をお金に変えて家と土地を買い、賢い妻をめとった。

 それからというもの、趙祥はお金に困ると山を開いて金銀を取って来たものだが、取るのは毎回一つだけで、決して欲張ることはなかったという。


参考文献
宝瓢箪」/『ことばとかたちの部屋』(Web) 寺内重夫編訳

参考 --> 「たから山のたから穴」「足折れ燕

 瓢箪(瓜)は、それ自体の中に財宝や神の子が詰まっていたとする伝承をしばしば見かける呪物、生命の果実だ。

石の瓢箪  中国

 沈陽城の北、遼河の南に七つの山があり、頂の並び方が北斗七星のように見えるので、人々はこの連山を七星山と呼んでいる。その中の二つの山の頂の間に丸い大きな石が挟まれている。遠くから見るとこの石が瓢箪を断ち割って作る柄杓のように見えるというので、人々はこれを石の瓢箪と呼んでいる。この石には次のような伝説がある。

 七星山の麓の村に、李という婆さんが住んでいた。草花は嫌いだが瓢箪を植えるのは好きだという変わり者で、毎年秋になると、家の周りに大きくて丸くすべすべした見事な瓢箪を実らせていた。

 ある日の朝早く、李婆さんが胡瓜をもぎに裏の畑に行くと、畑の入口を塞ぐように大きな瓢箪が生っていた。邪魔なのでもぎ取ろうとしたところ、「やめろ、その瓢箪を取らないでくれ」と叫ぶ声がする。見回せば、近ごろ南方からやって来たという易者先生が畑の外から怒鳴っているのだった。彼はつかつかと近寄って来ると言った。

「その瓢箪を私に売ってくれ。これをある施術に使いたいのだ。銀五十両でどうかね。ただ、一つだけ条件がある。必要なのは熟れた瓢箪で、未熟なものは使えない。お婆さんさえよければ、八月十五日の早朝に、私自らの手でもぎたいのだが」

 李婆さんは内心で考えた。なんて旨い話なんだ。普通、瓢箪は売れたって一個二文が関の山なのに、この南蛮子め、銀五十両だって! だったらその通りに売ってやろうじゃないか。

 婆さんは八月十五日に瓢箪を売る約束をした。

 そしてたちまち八月十四日になった。この日には、翌日に食べるためにこの辺りのどこの家でも瓢箪の実の具を入れた餃子を作る。心の狭い李婆さんは、毎年この日になると、どこかの家の子供が家の瓢箪を盗みに来るんじゃないかと戦々恐々としていたものだが、今年は特に、あの銀五十両で売る約束をした瓢箪がある。盗まれては元も子もない、一日早いが構いやしないだろうと考え、瓢箪をもいでしまった。

 次の日、日が昇るとやって来た易者先生は、瓢箪がもがれているのを見ると顔色を変えた。物も言わずに李婆さんを睨みつけ、長い間考えた末に銀五十両を卓上に置いて、瓢箪を持って行った。

 その晩、挽き臼のような月に照らされた七星山は銀の山のように見えた。易者先生は山の頂に登り、瓢箪を持ち上げて「七星山、開け、開け、開け」と三度唱えた。すると轟音と共に山の頂が裂け開いた。七星山には古くから、『九つの甕 十八の鍋 南山になし 北山にあり』という、どれかの山頂に財宝が隠されているという言い伝えがあったのだが、誰も正確な場所や掘り出す方法を知らなかった。彼はそれを探り当てていたのだ。

 易者先生は急いで裂け目に瓢箪を入れた。それは山の裂け目の真ん中に、くさびのように挟まった。裂け目の奥を覗くと金色に輝く財宝の山である。喜んで裂け目の中に入ると、飢えた狼のように金銀財宝を幾つもの袋に詰め、足りなくなるとズボンを脱いでそれにも詰めた。

 こうして夢中で貪っていたとき、ガーン、と音を立てて山の裂け目が閉じた。瓢箪は真っ二つに割れて半分は山の外へ押し出され、残りの半分と易者先生は山の裂け目に挟まった。

 李婆さんの瓢箪は一日早くもがれていたため完全に熟しておらず、山が裂けている時間も短かったのである。易者先生は山の裂け目で「お父さん、お母さん」と泣き叫んだけれども助からず、生きたまま押し潰されて死んだ。裂け目の外に押し出された半分の瓢箪は長い年月風雨にさらされるうちに石になった。これが、七星山の石の瓢箪の由来である。 


参考文献
石の瓢箪」/『ことばとかたちの部屋』(Web) 寺内重夫編訳

※取るに足らない壷などを道士が異様な大金で買い取ろうとする。実はその道具は異界に通じていて…という筋立て自体は他の中国伝奇譚にも見られるものだが、これは山を割って入るモチーフと組み合わさっている。

 山が開く日、七星山が月に照らされて銀の山のようであった…という表現は、この系統に近い中国の民話群にある、特定の夜に神仙に促されて山に登ると、山の神が広げた金貨が一面に敷き詰められてある、というモチーフを意識したものだろうか。夜、月の光に照らされた山を見ながら、昔の人々は「あの光っているのは山の神様の宝なんだ」などと想像していたのかもしれない。

 ミクロネシアのギルバート諸島の伝承によれば、好ましくない死に方をした死者の霊は二つの岩の間に押し潰されて完全に死ぬとされていた。

 瓢箪が山の割れ目に挟まったように、チベットの「仙女と魔女」では青いクルミが岩の割れ目に挟まる。このクルミは殺された娘の魂である。そして類話を見ると、娘の魂である果実は、木の下で休んでいた女の持っていた空の容器の中に落ち、後に小さな娘の姿で再生する。この容器が子宮の暗示であることは明らかである。霊魂は太母の玉門を開き、時に割れ目に挟まって中有に漂う。しかしいずれは穴の底の器に落ちるものなのだ。

参考文献
『ギリシアの神話―英雄の時代』 カール・ケレーニイ著 上田兼義訳 中公文庫 1985.
『妖精の誕生 ―フェアリー神話学―』 トマス・カイトリー著 市場泰男訳 教養文庫 1989.
『魔法昔話の起源』 ウラジーミル・プロップ著 斎藤君子訳 せりか書房 1983.
『神話・伝承事典 ―失われた女神たちの復権―』 バーバラ・ウォーカー著 青木義孝/栗山啓一/塚野千晶/中名生登美子/山下主一郎訳 大修館書店 1988.



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