>>参考  [基本の男性版シンデレラ]

 

サンドリヨン、またはガラスの小さな靴  フランス 『ペロー童話集』

 奥方を亡くしたお大尽(お金持ち、権力者)がいました。彼は新しい奥方を得ましたが、この人は高慢ちきで、連れ子の二人の娘も同じような性質でした。一方、お大尽の死んだ奥方の残した娘は心栄えの美しいことこの上なく、それが気に入らなくて、新しい奥方と義姉妹たちはこぞってこの娘を苛めるのでした。

 女の子は女中同然にこき使われ、夜は屋根裏部屋の藁布団で寝て、昼は仕事を済ませると かまどの側に座って、日がな薪を燃やしたり灰をかき出したりしていました。おかげで灰まみれで、継母や義姉妹に灰だらけの尻キュサンドロンと呼ばれて嘲笑われていました。ただし、一番心の優しい下の姉だけは、彼女を灰かぶりサンドリヨンと呼びました。

 ある時、お城で王子様のための舞踏会が開かれることになり、身分ある人々を全て招待しました。二人の姉も、この国ではひとかどの有名人でしたから招待され、二人とも大喜びで、一番似合いそうな服と髪形を選ぶのに夢中でした。

 上の姉は言いました。「私は、赤いビロードの服を着て、イギリス製のレース飾りをつけるわ」

 下の姉は言いました。「私は、普段のスカートをはくだけよ。でも、金の花模様のマントを着て、とっておきのダイヤモンドのブローチをつけるわ」

 二人は鏡の前に立ち通し、喜びと興奮で二日も物が食べられません。ウエストを細くしようと締め上げすぎて、コルセットの紐が十二本以上も切れたほどです。

 サンドリヨンは招待されませんでしたが、それでも素晴らしいセンスを生かして姉たちの身支度の手伝いをして、姉たちの思う壺なことに、髪結いまで買って出るのでした。

 姉たちは、髪を結っているサンドリヨンに話しかけます。

「サンドリヨン、お前も舞踏会に行けたらよかったのにね?」

「まあ、お姉さま方、からかわないで。私の行くところではありませんわ」

「お前の言う通りよ。"灰だらけの尻"なんかが舞踏会に行ったら、みんなが大笑いするからね!」

 他の女の子だったら、きっと姉たちの髪を雑に結ったでしょう。でもサンドリヨンは心優しい娘でしたから、この上なく立派に結い上げました。

 従順に働いたサンドリヨンでしたが、姉たちが出かけてしまい、その後ろ姿がすっかり見えなくなってしまうと、流石に悲しくて泣けてきました。本当はサンドリヨンも一緒に行きたくてたまらなかったのです!

「どうして泣いているんだい?」

 誰かが尋ねました。

「私も……私も……」

 サンドリヨンは、涙で言葉が続けられません。

「お前も舞踏会へ行きたい、そうだね?」

「ええ……」

 ため息と一緒にサンドリヨンは答えました。

「お前がいい子でいるなら、行かせてあげますよ」

 言ったのは、サンドリヨンの名付け親でした。この名付け親は実は仙女で、サンドリヨンは本当の母は亡くしていましたが、心強い母親代わりを持っていたのです。

 名付け親はサンドリヨンに命じました。

「畑へ行って、カボチャを取っておいで」

 サンドリヨンはすぐ畑に行って、一番立派なかぼちゃを取ってきました。けれども、どうしてこのカボチャで舞踏会に行けるのか、見当もつきません。

 仙女はカボチャの中身をくりぬいて杖で打ちました。すると、むくむくと膨らんで金の四輪馬車に変わったではありませんか! それから、仙女はハツカネズミ捕りの罠を見に行って、六匹かかっているのを見ると、サンドリヨンに罠の蓋を少し上げさせて、ハツカネズミが一匹ずつ出てくるたびに杖で打って、灰と白のまだらの六頭の馬に変えました。

 これで馬車の準備は出来た。さて、御者はどうしよう……?

 仙女が思案していると、サンドリヨンが言いました。

「ネズミ捕りを見てきます。かかっていたら御者に出来ますもの」

 サンドリヨンが罠を見ると、三匹の太ったドブネズミがかかっていました。仙女がそのうちの一番ひげが立派なのに杖で触れると、たいそう立派なひげの御者に変わりました。仙女は またサンドリヨンに命じました。

「庭へお行き。じょうろの陰にトカゲが六匹いるから、捕まえておいで」

 六匹のトカゲは派手な制服を着た召使に変わり、今まで他の仕事などしたことが無いかのように、そこにピタリと並びました。

「ほら、もう舞踏会に行くに充分な馬車も召使もそろったよ。嬉しくないのかい?」

「ええ、あの……でも私、こんな汚いボロで、行けるでしょうか……」

 そこで仙女がサンドリヨンの服を打つと、金糸銀糸に宝石の縫い取りのきらびやかな服に変わり、おまけに、この世で一番美しいガラスの靴をくれました。

「楽しんでおいで。ただし、この魔法は夜中の十二時までしか効かない。それまでには必ず帰ってくるんだよ」

 もし一分でも過ぎたら、馬車はカボチャに、馬はハツカネズミに、御者はドブネズミに、召使はトカゲに、ドレスはボロに、みんな元に戻ってしまうからね。――そう、仙女は注意しました。

 サンドリヨンは舞踏会へ出かけて行きました。誰も知らない立派な姫君が到着されたと報せを受けて、王子様は走って出迎え、馬車から降りるサンドリヨンに手を貸して大広間に案内しました。すると、広間はしんと静まり返りました。踊りも音楽もやんで、この美しい姫君に注目します。女性たちは参考にしようとサンドリヨンの髪形やドレスに食い入るような視線を送り、老いた王様さえ、「こんなに美しく愛らしい女性に会うのは久しぶりだ」と声を潜めて王妃に囁かずにはいられないのです。

 王子様はサンドリヨンを上座に案内してから、ダンスに誘いました。サンドリヨンのダンスはそれは上手で、それにもまた人々は見とれるのでした。王子様はサンドリヨンに夢中になり、豪華な夜食も目に入りません。サンドリヨンは王子様に貰った貴重品のオレンジやレモンをみんなに配って廻り、挨拶をしました。その中には彼女の姉たちもいましたが、二人はそれが自分たちの妹だとはちっとも気づかなかったのです。

 サンドリヨンは性質のいい娘だったので、仙女の言い付けを忘れてはいませんでした。夜中の十二時まであと十五分という頃、宴はたけなわでしたが、丁寧にお辞儀をして、慌てて帰ってしまいました。

 家に帰ると、サンドリヨンは名付け親を探して家中を走りまわりました。そしてお礼を言いましたが、もう一つ言わなければないことがありました。明日も舞踏会に行きたい、ということです。というのも、王子様が「明日もぜひ来てください」と言ってくださいましたから。

 サンドリヨンが舞踏会のことを名付け親に嬉しそうに話していたとき、ちょうど二人の姉が玄関のドアをノックしました。サンドリヨンは走っていって、ドアを開けました。

「遅いお帰りでございますね」と、眠そうにサンドリヨンは言いました。まるで今起きたばかりだというように。下の姉が言いました。

「もしあんたが舞踏会にいったなら、眠くなることなんてなかったわね! だって、綺麗なお姫様が現れたのよ。もう、見たことないくらい美人なの。すごく礼儀正しくて、私たちにオレンジやレモンなんかをくれたの」

 サンドリヨンは面白くなさそうな振りをしましたが、一応、お姫様のお名前はなんておっしゃるの、と訊きました。二人の姉は、名前は知らないけど、王子さまは彼女にドキドキしていたわ、と答えました。「あのぶんじゃ、名前を知るためにこの国だって与えかねないわね」と。この時ばかりはサンドリヨンも微笑みました。そして戯れに「そんなに美しい方でしたの? 私もお会いできないものかしら。ジャヴォットお姉さま、普段着の、あの黄色いドレスを貸して下さいませんか」と言いましたが、思った通り、姉は「お前に貸すドレスなんてあるもんか」とむげに断るのでした。

 翌日も、姉たちが出かけていくと、サンドリヨンは前よりもっと着飾って出かけて行きました。王子様はずっと彼女の側にいて、愛の言葉を囁くのをやめませんでした。ふたりの目には互いの顔が映っています。他の何もかもが溶けて消えてしまい、サンドリヨンはただそれを見つめるのに夢中になりました。

 重々しい鐘の音が響きました。夜中の十二時を告げる、お城の大時計の音です。

 はっとして、次にさっとサンドリヨンは青ざめました。十二時です。この鐘の音が全て鳴り終わると、魔法は消え去り、サンドリヨンは灰まみれのみすぼらしい女の子に戻ってしまうのです。

 ものも言わず、サンドリヨンは牝鹿のように身を翻しました。驚いた王子様が何か言いながら追いかけて来ますが、後も見ずに階段を駆け下ります。

 十二時の最後の鐘が鳴り響く頃、あの美しい人はお城から駆け去り、どこにも見えなくなっていました。王子様は呆然としたまま階段に立ち尽し、ふと、キラキラときらめくものが落ちているのに目を留めました。

 それは、ガラスのように輝く美しい靴でした。

 

 サンドリヨンは辛くも家まで帰りつきました。馬車はカボチャに戻って転がり、馬や御者たちはネズミやトカゲに戻って逃げ去ります。輝いていたドレスは灰にまみれたボロになり、どこで落としたのか、靴が片方ありませんでした。

 魔法は消えてしまいました。これが彼女の現実なのでした。

 

 

「あのお姫様は綺麗で小さなガラスの靴を落としていったわ。それを王子様が拾って、舞踏会が終わるまで そればかり見つめていらしたの。無理もないことだわ。きっと王子様はあのお姫様に恋しているのよ!」

 帰ってきた姉たちは言いました。けれど、舞踏会はもうおしまい。サンドリヨンが王子様に逢える機会はありません。一方、王子様は門番にあの姫君の行方を尋ねましたが、門番はボロを着た田舎娘の姿しか目にしていないのでした。

 

 

 お城からおふれが出されたのは、それからほどなくのことでした。

 ――このガラスの靴がぴたりと合う娘を、王子の妃とする

 国中の姫君たち、果ては奥方や使用人までがこれに挑戦しましたが、不思議なことに誰もぴたりと履くことが出来ないのでした。サンドリヨンの姉たちも挑戦しましたが、履くことが出来ません。その様子を眺めていたサンドリヨンは、それが自分の靴だと知って、微笑んで言いました。

「あの、私にも、合わないかどうかだけやらせてもらえませんか?」

 サンドリヨンの言葉に、二人の姉たちはぷっと吹き出しました。けれど、靴の持ち主を探している役人はサンドリヨンをじっと見つめました。役人は、彼女がとても整った顔をしていることに気づいたのです。そこで、ちょっと履いてみなさいと言いました。王子様に、履けそうな女性がいたら誰でも試すのだ、と言われていたからです。

 役人はあまり気のりがしていませんでしたが、サンドリヨンを椅子に座らせました。そして彼女の足に靴をあてがうと、するりと入ってしまいました。まるですべすべに磨いたように、サンドリヨンの足にぴったり入ったのです。

 二人の姉は驚いて言葉もありませんでしたが、次の瞬間にもっと驚きました。サンドリヨンが、ポケットからもう片方のガラスの靴を取り出して履いてみせたからです。

 その時、あの名付け親がやってきて、サンドリヨンの服を杖で打ちました。たちまち金糸銀糸の輝くドレスに変わり、今は誰もが、舞踏会に夜な夜な現れたあの美しい姫君は、紛れもなくこのサンドリヨンなのだと悟りました。

 二人の姉はサンドリヨンの前に身を投げ出して、今までひどいことを沢山しましたが、どうかお許しください、と嘆願しました。王妃となった妹にどんなひどい仕返しをされてもおかしくありませんでしたから。

 けれども、サンドリヨンは二人の顔をあげさせてキスし、ぎゅっと抱きしめました。

「いいんです、本当にいいんです。ただ、私をいつも好きでいてくれたら、それだけでいいんです」

 

 サンドリヨンは そのまま王子様の前へ連れていかれ、王子様は彼女を今までで一番美しいと思いました。

 王子様がサンドリヨンに笑いかけます。もはや魔法は永久になり、解けることはなくなったのでした。

 

 数日後、サンドリヨンは王子様と結婚しました。城の主に相応しい、素晴らしい日となりました。その後、彼女の計らいで二人の姉たちもそれぞれ立派な貴族と結婚し、王宮に住んで幸せに暮らしたのでした。

 

教訓

 美しさは女性の財産。けれど、心の美しさはそれに増して遥かに尊い。これは名付け親のしつけの賜物。

 美しい方々よ、目的を遂げるには、心の美しさこそ最大の武器。それなくしては何も出来ず、それがあれば全てが可能。

 また、機知や勇気、家柄といった才能は天の恵みだが、それだけでは役には立たぬ。

 見守り助けてくれる、名付け親の代父や代母がいないことには。



参考文献
『完訳ペロー童話集』 シャルル・ペロー著、新倉朗子訳 岩波文庫 1982.

※1697年に出版された散文集『寓意を伴う昔話、あるいはお話集 Histoires ou contes du temps passe.Avec de moralites』(翌年の再版の際に『鵞鳥おばさんの話 Contes de ma mere l'Oye』と改題)に収録されていた。

 サンドリヨン Cendrillon の英語表記がシンデレラ Cinderella となるらしい。ディズニーのアニメ映画のメイン原作となったのがこれ。宮廷文学風に優美な脚色がされており、なにより、主人公の性質が群を抜いて善良で、愚かといえるほどにお人よしである。

 

 フランスの口承伝承では、ペロー版とは違う形の「サンドリヨン」も伝えられている。

 それぞれ一人ずつ娘を持つやもめ同士が再婚し、継母は継娘を虐待する。野原に行かされた娘は妖精と出会うが、善良さから祝福されて、宝の入った箱を授けられる。それを知った継母は自分の娘を野原に行かせるが、愚鈍さから呪われて、蚤やしらみの入った箱を授けられる。やがて日曜日になって継母と実娘は着飾って教会に行く。サンドリヨンは留守番をさせられ家事を言いつけられるが、妖精たちが現れて家事を代行してくれる。宝の箱からドレスと馬車を出して教会へ行き、王子に見染められたが、ミサが終わる前に素早く帰る。次の日曜にも同じことが起きたが、馬車に乗る時に追ってきた王子の従者に金の靴の片方を奪われる。王子はこの靴の会う女性と結婚すると宣言するが誰も合わない。最後にサンドリヨンが履いてみせ、箱からドレスと馬車を出して城に向かい、嫁入りする。(『フランスの昔話』 アシル・ミリアン/ポール・ドラリュ著、新倉朗子訳 大修館書店 1988.)

 善い娘は神霊に宝の箱を貰うが悪い娘は毒虫の入った箱を貰うくだりは 「継母と継娘」などと同じで、日本人なら「舌切り雀」の大きなつづらと小さなつづらを想起させられるところ。神霊に授けられた箱(壺、袋)にドレスや宝飾品等、嫁入りに必要なもの全てが入っていたというモチーフは、日本を含む世界各地のシンデレラ譚で見られるものだ。



参考--> 「ズーニー族のシンデレラ



灰かぶり(初版)  ドイツ 『グリム童話』(KHM21)

 昔、ひとりのお金持ちの男がいました。男は妻と一人娘と幸せに暮らしていましたが、やがて妻は病気になり、死の床に就きました。

 最期の時、母は娘を呼んで言いました。

「かわいい子、私はおまえを置いて逝かなければなりません。

 でも天国に行ったら、おまえのことを上から見ていますよ。私のお墓の上に小さな木を植えなさい。そして、なにか欲しいものがあったら、その木を揺すりなさい。それにおまえに困ったことがあったら、助けを送りますからね。だから、いい子にしていらっしゃい」

 そう話すと、母は目を閉じ、死んでしまいました。子どもは泣いて、小さなハシバミの木を1本、お墓の上に植えました。その木に水をやるのに水を運ぶ必要はありませんでした。なぜなら、子どもの涙で十分でしたから。

 雪がお母さんのお墓に白いハンカチをかぶせ、太陽が再びそれをはがし、お墓に植えた木が二度目に緑になったとき、男は別の女を妻にしました。この継母には、最初の夫との間に娘がふたりありました。ふたりは顔は美しかったのですが、心は高慢でうぬぼれが強く意地悪でした。

 結婚式がとり行われ、この三人が家にやってくると、子どもにとってつらい時が始まりました。

「ろくでもない役立たずが、居間で何をしているんだい」と、継母は言いました。

「とっとと台所へ行きな。パンが食べたきゃ、まずその分働くんだね。わたしたちの女中になればいいんだ」

 それから継姉さんたちは娘の洋服を取り上げ、古い灰色の上着を着せました。

「おまえにはこれがお似合いさ」と言って、ふたりの継姉さんたちはその子をあざ笑い、台所へ連れて行きました。そこでかわいそうな子どもは骨の折れる仕事をしなければなりませんでした。日の出前に起き、水を運び、火を起こし、食事の支度をし、洗濯をしなければなりません。その上継姉さん達は、ありとあらゆる心痛を与えたり、あざけったり、灰の中にえんどう豆やレンズ豆をあけたりしたので、子どもは1日中座り込んで、豆を選り分けなければなりませんでしたし、疲れても、夜、ベッドに入ることはできず、暖炉の脇の灰の中に寝なければなりませんでした。そして、そうやっていつも灰とほこりの中をはいずりまわり、薄汚く見えたので、灰かぶりアッシェンプッテルと呼ばれるようになりました。

 

 ある時、王様が舞踏会を催し、舞踏会はきらびやかに3日間続くことになりました。この舞踏会では王子のお妃を選ぶのです。舞踏会には、ふたりの高慢な姉さん達も招かれました。

「灰かぶり!」

 姉さん達は呼びつけました。

「上がっといで。わたしたちの髪をとかして、靴にブラシをかけるのよ。そして、しっかりと靴紐をお結び。あたしたち、舞踏会の王子様のところへ行くのよ」

 灰かぶりは一生懸命に、できるだけきれいに姉さんたちをおめかしさせました。けれども継姉さんたちは、灰かぶりを叱りつけてばかりで、支度がすむと、あざけるように聞きました。

「灰かぶり、おまえも一緒に舞踏会に行きたいわよね?」

「ええ、それはもう。でも、どうやって行けばいいのかしら。わたしにはドレスがないのですもの」

「ドレスがなくて良かったのよ」上のお姉さんが言いました。

「お前が舞踏会に行ったら、あたしたち、恥をかくところさ。おまえが私たちの妹だなんて、ほかの人たちに聞かれでもしたらね。

 おまえは台所にいればいいんだ。ここに鉢いっぱいのレンズ豆があるから、あたしたちが帰ってくるまでに、これを選り分けておくのよ。悪いのが混ざらないように、よく気をつけてね。さもないと痛い目にあうからね」

 そう言うと、姉さん達は出かけてしまいました。灰かぶりは、立ってふたりを見送りました。そして、何も見えなくなると悲しい気持ちで台所に行き、かまどの上にレンズ豆をあけました。豆は大きな山になりました。「ああ」と、灰かぶりはため息をつきました。

「これでは真夜中まで選り分けていなければならないわ。眠ることもできやしない。まだまだ苛められるのかしら。このことをお母さんがご存知だったら!」

 灰かぶりがかまどの前の灰の中にひざまずき、豆を選り分けようとした時、白い鳩が2羽、窓から飛び込んできて、かまどの上の豆の横に降り立ちました。

「灰かぶり、レンズ豆を選り分けるのを手伝おうか?」

 灰かぶりがうなずくと、鳩は声をそろえて歌い始めました。

悪いお豆はおなかの中へ

良いお豆はお鍋の中へ

 そうして、こつ、こつ! とついばみ、悪い豆は食べてしまい、良い豆だけ残しました。15分後にはレンズ豆はすっかりきれいに選り分けられ、ひとつだって悪いのは混じっていなかったのです。灰かぶりはその豆を鍋に入れることができました。更に、鳩達は言いました。

「灰かぶり、姉さんたちが王子様と踊るところが見たいなら、鳩小屋の上にお上がりよ」

 灰かぶりは鳩達の後についていき、はしごの最後の段まで登りました。するとお城の大広間が見え、姉さんたちが王子と踊っているのが見えました。何千ものろうそくがきらきら光り輝いています。灰かぶりはじっくり眺めると、鳩小屋から降りました。気持ちが沈んで、灰の中に横になって眠ってしまいました。

 次の朝、ふたりの姉さんたちは台所に入ってくると、灰かぶりがレンズ豆をすっかりきれいに選り分けてあるのを見て、腹を立てました。姉さんたちは、灰かぶりを叱り飛ばしたかったのです。しかし、そう出来ないので、舞踏会の話を始めました。

「灰かぶり、とても楽しかったわよ。踊りの時、王子様は あたし達をリードなさったのよ。あたし達のどちらかがお妃になるのよ」

「そうね」灰かぶりが言いました。

「わたし、ろうそくが輝いているのを見たわ。さぞかし華やかだったことでしょうね」

「なんですって! おまえ、どうやって見たの」

「わたし、鳩小屋の上に立っていたのよ」

 これを聞くと、上の姉さんはすぐに鳩小屋を取り壊させました。

 そして灰かぶりはまた姉さんたちの髪をとかし、おめかしさせなければならなくなりました。すると、まだ少しだけ心の中で同情していた下の姉さんが言いました。

「灰かぶり、あんた、暗くなったらお城に来て、窓から見ればいいんだわ!」

「およしったら」上の姉さんが言いました。「そんなことさせたら、灰かぶりが怠け者になるばっかりさ。ここに袋いっぱいのそら豆がある。灰かぶり、これを良い豆と悪い豆に選り分けるんだよ。怠けるんじゃないよ。明日になってもきれいに選り分けていなかったら、この豆を灰の中にぶちまけてやるからね。全部選り分けるまでは、何も食べさせてやらないよ」

 灰かぶりはしょんぼりとかまどの上に座り、そら豆を開けました。そこへ、またあの鳩たちが飛び込んできて、親しげに言いました。「灰かぶり、そら豆を選り分けてあげようか」

悪いお豆はおなかの中へ

良いお豆はお鍋の中へ

 こつ、こつ! こつ、こつ! まるで、手が十二もあるような速さです。全部片付けてしまうと、鳩達は言いました。

「灰かぶり、あなたも舞踏会に行って踊りたい?」

「まあ、なにを言うの。こんな汚い服で、舞踏会なんて行けないわ」

「お母さんのお墓の木のところへ行って、木を揺すって、素敵なドレスをお願いしてごらん。でも真夜中までには戻ってくるんだよ」

 そこで灰かぶりは表へ出て、小さな木を揺すりながら言いました。

ハシバミさん

ゆらゆら、ゆさゆさ、体を揺すって

金銀を落として

 灰かぶりがそう言い終えたか終えないうちに、きらびやかな銀のドレスが灰かぶりの前にありました。それに、真珠、銀の飾り縫いのついた絹の靴下、銀の靴、そのほかに必要なものがなにもかもありました。

 灰かぶりは、それをみんな家に持って帰りました。そして体を洗い、ドレスを着ると、露に洗われたバラのように美しくなりました。

 灰かぶりが玄関の前に出てみると、羽飾りをつけた黒馬六頭立ての馬車があり、青と銀の服を着た召使いもいて、灰かぶりを抱き上げ、馬車に乗せました。そして駆け足で王様とお城へと向いました。

 王子は、馬車が門の前に止まるのを見て、知らない姫がやって来た、と思いました。そこで自ら階段を降りて、灰かぶりを馬車から降ろし、大広間へと連れて行きました。そして何千ものろうそくの明かりに照らされると、灰かぶりは誰もが驚くほど美しくなりました。

 継姉さんたちもそこにいて、自分達よりも美しい者がいることに腹を立てました。けれどもそれが、家で灰にまみれている灰かぶりだとは決して思いませんでした。

 王子は灰かぶりと踊り、お姫様にふさわしくもてなして、心の中で思いました。

 ――花嫁を選ぶなら、この人以外に考えられない。

 長い長い間、灰と悲しみの中にいた灰かぶりは、今や華やかさと喜びの中にいました。けれども真夜中になると、時計が12時を打つ前に、灰かぶりは立ち上がり、お辞儀をして、どんなに王子が頼んでも、もうこれ以上はいられない、と言いました。

 そこで王子は、灰かぶりを下まで送りました。下では馬車が待っていて、やってきた時と同じように華やかに走り去りました。

 灰かぶりは家に着くと、再びお母さんのお墓の木のところに行きました。

ハシバミさん、

ゆらゆら、ゆさゆさ、体を揺すって!

ドレスをもとに戻しておくれ!

 すると木は、再びドレスを取り上げました。灰かぶりは、もとの灰の服を着ました。そして家に戻ると、顔をほこりだらけにして、灰の中に横になりました。

 次の朝、姉さんたちがやってきましたが、機嫌が悪い様子で口もききませんでした。灰かぶりが言いました。

「姉さんたち、昨夜は楽しかったのでしょうね」

「とんでもない。お姫様がひとりやって来て、王子様はそのお姫様とばかり踊っていたのよ。でも誰もそのお姫様を知らなくて、どこから来たのか、誰にも分からないの」

「その方ってひょっとしたら、黒馬6頭立ての立派な馬車に乗ってた方?」

「お前、どうしてそれを知っているの?」

「戸口に立っていたら、その方が通り過ぎていくのが見えたのよ」

「これからは、仕事から離れるんじゃないよ」上の姉さんが怖い顔で灰かぶりを見ました。

「どうして戸口なんかに突っ立ってなきゃならないのさ」

 灰かぶりは、三日目もふたりの姉さんたちにおめかしをさせなければなりませんでした。そしてご褒美に、姉さんたちはえんどう豆を一鉢、灰かぶりにくれました。それをきれいに選り分けろ、と言うのです。「ずうずうしく仕事から離れるんじゃないよ」と、上の姉さんはうしろからどなりさえしました。鳩達さえ来てくれたら、と灰かぶりは思いました。そして心臓が少しどきどきしました。すると鳩達が前の晩のようにやってきて、言いました。

「灰かぶり、えんどう豆を選り分けてあげようか?」

悪いお豆はおなかの中へ

良いお豆はお鍋の中へ

 鳩達はまた、悪いお豆をついばんでよけ、片付けてしまいました。鳩達は言いました。

「灰かぶり、小さな木を揺すってごらん。もっときれいなドレスを落としてくれるよ。舞踏会にお行き。でも真夜中までには帰るように気をつけるんだよ」

 灰かぶりは小さな木のところへ行きました。

ハシバミさん

ゆらゆら、ゆさゆさ、体を揺すって

金銀を落として

 すると、この前よりずっと華やかで、ずっときらびやかなドレスが落ちてきました。なにもかも金と宝石でできていました。金の飾り縫いのある靴下と金の靴もありました。灰かぶりがそのドレスを着ると、真昼の太陽のようにきらきら輝きました。

 玄関の前には6頭の白馬を引く馬車が止まっていました。馬達は丈の高い白い羽飾りを頭につけており、召使い達は赤と金の服を着ていました。

 灰かぶりがお城に着くと、王子がもう階段で待っていて、灰かぶりを大広間に連れて行きました。

 昨日、人々はこの姫の美しさに驚きましたが、今日はもっと驚きました。姉さんたちは大広間の隅に立って、嫉妬のあまり青ざめていました。もし姉さんたちが、その姫が家で灰まみれになっている灰かぶりだと知っていたなら、妬ましさのあまり死んでいたでしょう。

 王子は、この見知らぬ姫が誰なのか、どこから来てどこへ帰るのか知りたかったので、家来達を通りに立たせて、よく見張っているように命じていました。そして灰かぶりがあまり速く走り去ることができないように、階段にベタベタするチャン(木材を燃やす時に発生するガスが液化した油カスのようなもので、かまどや煙突の内側にくっついている。粘性があり黒い。あるいは接着剤として用いる蜜蝋のこと)を塗らせました。

 灰かぶりは王子と踊りに踊って、楽しさのあまり真夜中までに帰らなければならいことを忘れていました。

 突然、踊りの真っ最中に灰かぶりは鐘の音に気付きました。そして鳩達の忠告を思い出し、驚いて急いで扉から出て、飛ぶように階段を駆け下りました。ところが、階段にはチャンが塗ってあったため、金の靴の片方がくっついて脱げてしまいました。けれども、灰かぶりはその靴を拾おうとは思いませんでした。

 灰かぶりが階段の最後の段まで来た時、鐘が12回鳴り終えました。すると馬車も馬も消え、灰かぶりは自分の灰まみれの服を着て、暗い通りに立っていました。

 王子は灰かぶりの後を急いで追いました。階段のところで金の靴を見つけ、はがして拾い上げました。けれども王子が下まで来ると、なにもかも消えてなくなっていました。見張りに立っていた家来達も、何も見なかった、と報告しました。

 灰かぶりは、それ以上ひどいことにならずにすんで良かった、と思いました。

 そして家に帰ると、自分のほの暗い小さな石油ランプに火をつけ、煙突の中に吊るし、灰の中の横になりました。

 まもなく、ふたりの姉さんたちも帰ってきて、「灰かぶり、起きて明かりを持ってきてちょうだい」と、大きな声で言いました。灰かぶりはあくびをし、まるで起きたばかりのようなふりをしました。

 けれども明かりを持っていくと、姉さんのひとりが話しているのが聞こえました。

「あのいまいましいお姫様は、誰だか分かったもんじゃないわ。くたばっちまえばいいのに。王子様は、あのお姫様としか踊らなかった。そしてお姫様がいなくなると、王子はもうその場にいる気がなくなって、舞踏会もおしまいになってしまった」

「まるで、ろうそくがみんな、一度に吹き消されたようだったわね」と、もうひとりの姉さんが言いました。

 灰かぶりは、その見知らぬ姫が誰なのか知っていましたが、一言も言いませんでした。

 

 あれこれやったけどうまくいかなかった、けれどこの靴が花嫁探しの手助けをしてくれるだろう、と王子は考えました。そして、この金の靴の合う者を妻にする、というおふれを出しました。

 けれども、誰が履いてもその靴はあまりに小さすぎました。

 とうとうふたりの姉さんたちにも靴をためす順番がやってきました。ふたりは喜びました。なぜならふたりは小さな美しい足をしていたので、きっとうまくいく、と思っていたのです。

「お聞き」お母さんがこっそり言いました。「ここにナイフがあるから、もし靴がどうしてもきつかったら、足を少し切り落とすんだよ。少しは痛いだろうけど、そんなこと構うもんか。じきに良くなるさ。そうすれば、お前達どちらかが女王様になるんだし、女王様になったら足で歩くこともないからね!」

 そこで上の姉さんが自分の部屋へ行き、ためしに靴を履いてみました。爪先は入るのですが、かかとが大きすぎました。そこで姉さんはナイフを取り、かかとを少し切り落とし、そうして無理やり足を靴の中に押し込みました。そうやって上の姉さんは王子の前に出ました。

 姉さんの足が靴に納まっているのを見ると、王子は、この人が私の花嫁だと言って、馬車へ連れて行き、一緒にお城へ向いました。ところが馬車がお城の門のところに来ると、門の上に鳩達が止まっていて、言いました。

ククルッ、ククルッ、ちょっと後ろを見てごらん

靴の中は血だらけだ

靴が小さすぎるもの

本当の花嫁はまだ家の中!

 王子はかがんで、靴を見ました。すると、血が噴き出していました。

 王子は騙されたことに気付き、偽の花嫁を家に帰しました。けれども、お母さんは二番目の娘に言いました。

「おまえが靴をためしてごらん。もし小さすぎるようだったら、爪先の方を切った方がいいね」

 そこで二番目の娘は靴を持って自分の部屋へ行きました。足が大きすぎると、娘は歯を食いしばって爪先を大きく切り取り、大急ぎで足を靴に押し込みました。そうやって娘が進み出ると、王子は、この人が自分の本当の花嫁だと思い、一緒に馬車で城に向いました。

 ところが門のところに来ると、鳩達がまた言いました。

ククルッ、ククルッ、ちょっと後ろを見てごらん

靴の中は血だらけだ

靴が小さすぎるもの

本当の花嫁はまだ家の中!

 王子は下を見ました。すると、花嫁の白い靴下が赤く染まって、血が上の方まで上がってきていました。そこで王子は、二番目の娘もお母さんのところへ連れて行き、言いました。

「この人も本当の花嫁ではありません。でも、この家にもうひとり娘さんはいませんか」

「いいえ」

 お母さんは首を横に振りました。

「汚らしい灰かぶりが いるにはいますが、いつも灰の中にいる子で、靴が合うわけありません」

 お母さんは灰かぶりを呼んでこようともしませんでしたが、どうしてもと王子が言い張るので、ついに灰かぶりが呼ばれました。灰かぶりは、王子が来ていると聞くと、大急ぎで顔と手をきれいに洗いました。

 灰かぶりが居間に入り、お辞儀をすると、王子は灰かぶりに金の靴を渡して、

「さあ、ためしてごらん。もしこの靴が合えば、君は私の妻になるのだ」と言いました。

 そこで、灰かぶりは左足の重い靴を脱ぎ、金の靴の上に左足をのせ、ほんの少し押し込みました。すると、靴は灰かぶりの足にぴったりと合いました。

 そして灰かぶりが体を起こすと、王子は灰かぶりの顔を見つめ、あの美しい姫であることに気が付いて言いました。

「これが本当の花嫁です」

 継母とふたりの高慢な姉さんたちはびっくりして青ざめました。王子は灰かぶりを連れて行き、馬車に乗せました。そして、馬車が門を通るとき、鳩達は言いました。

ククルッ、ククルッ、ちょっと後ろを見てごらん

靴に血はたまってない

靴はぴったり合っている

今度は本当の花嫁だ!



参考文献
『ベスト・セレクション 初版グリム童話集』 吉原高志・吉原素子編訳 白水社

※これは初版を参考にした。グリム童話は版を重ねるごとに改訂が加えられ、内容が変わってくる。決定版である七版には、この初版には全く見られないエピソードが幾つか入っている。

 例えば、父親が市に出かける時、娘たちに土産は何がいいか訊く。姉さんたちは宝石やドレスをねだるが、灰かぶりだけは「お父さんが帰ってくる時、一番最初に帽子に触った枝を」と言う。そしてもらった枝を母の墓に挿して泣く。すると涙で枝が根付いて見る間に成長し、以降、灰かぶりは日に三度も木の下にいって泣いて祈り、白い鳥が現れて欲しいものを落としてくれるのだった。

 また、舞踏会が開かれた時、灰かぶりは自分も行きたいと継母に強く望むが、継母は灰に豆をぶちまけて拾わせる難題を命じる。灰かぶりは鳩をはじめとする鳥たちを自ら呼び寄せて「いいのはお鍋へ、悪いのは皆のお腹へ」と唄って食べさせ、成し遂げるが、結局「お前にはドレスがないだろう」と連れていってもらえない。それでも行く事を望み、二度目の豆の選り分けを成し遂げた頃には家族は出かけていたが、灰かぶりはすぐにハシバミの木の下に行って鳥にドレスを落としてもらい(木は揺すらない)、自分の意思で舞踏会に行く。

 日が暮れると家に帰るが、灰かぶりを気に入った王子は住所を知りたくて後についてくる。(ストーカーか?)灰かぶりは鳩小屋に入って裏口から逃げる。王子の話を聞いた父親は「それは灰かぶりだ」と斧で鳩小屋を壊すが、その時とっくに灰かぶりは着替えて灰の中で寝ている。二日目も王子はついてきて、灰かぶりは庭の梨の木に登って隠れる。話を聞いた父親が木を切り倒すが、やはりもう逃げて灰の中に寝ている。

 その後、偽の花嫁を連れた王子に鳩が歌う場所は、お城の門ではなく、灰かぶりの母の墓の前で、墓に生えたハシバミの木に二羽の鳩が止まっている。この鳩はキリスト教的な神の使いだと解釈されることもあるようだが、やはり死んだ母親の化身なのだろう。灰かぶりは鳩小屋の上に立つ。鳩小屋は無数の魂が羽を休める場所であり、即ち冥界の暗示である。灰かぶりを守護する神霊たる鳩は馬車で通る灰かぶりの両肩に舞い降りていつまでも止まっている。いよいよ婚礼になると、義姉たちが図々しくも灰かぶりの両脇に付き添うが、鳩はその目玉を片方ずつ、両方くりぬいて盲目にしてしまう。

 ハシバミ(ヘーゼル)には魔力があると考えられていた。たとえば、ケルトでは知恵の実はハシバミの実だとされていた。子供が生まれた時「生命の樹」としてよく植えられたのだそうだ。

 

灰娘  フィンランド

 三人姉妹がいた。二人の姉は賢かったが三番目はバカだと言われ、灰娘と呼ばれて蔑まれていた。

 姉たちは絹で顔を覆い、着飾って教会へ行った。妹も行きたがったが、姉たちは灰の中にリンズ豆をぶちまけ、これを選り分けよと言い捨てる。道中、老人が溝の中に倒れて助けを乞うているが、着物が汚れるからと助けてやらない。

 妹は豆を選り分けて教会へ行く。道中、溝の中に倒れていた老人を助けると、杖をくれて、これでそこの灰色の岩を打てば金の馬と衣装が出るから、着替えて教会へ行けという。娘が言われたとおりにして教会へ行くとみなが驚き、王子が見染めて妻にしたいと考える。みなが彼女を取り巻くが、金貨を撒いてみなの目をくらまして逃げる。岩に行って衣装と馬を返し、元のぼろを着てかまどの後ろに転がっている。姉たちが帰ってきて、今日は教会に素晴らしいお嬢さんが来たと話すと、「私もサウナ小屋の上から見た」と言う。姉たちは屋根に上がってみるが何も見えない。

 次の日曜日にも同じ事が起こる。しかし、王子の言い付けで待ち伏せていた男が、娘の額に金の輪を描く。娘は金貨を撒いた隙に男から逃れて家に帰ると、額の輪をリボンを巻いて隠し、姉たちには納屋の屋根に上がろうとして怪我をしたと言う。

 しばらくして王子が探しに来る。姉たちはそんな娘はここにいないと言う。

「かまどのところにいるのは誰か?」「あれは灰娘です。バカな娘で、あなたさまのお探しのようなものではありません」

 構わぬからと王子が呼び出して額のリボンを取ると、金の輪がある。娘は灰色の岩へ走って馬と衣装を取ってきて、めでたく結婚する。


参考文献
『世界のシンデレラ物語』 山室静著 新潮選書 1979.

※継母がおらず、実の三姉妹になっている。また、スリッパテストが無い。

 溝の中の老人は、地の穴の底の精霊・魔神とも、川の底の水神ともとれる。どちらにしても冥界神(祖霊)を原型とする存在であろう。岩の中から衣装と馬が出るのは、冥界の富を手に入れることを比喩している。

 額の金の輪は「月の顔」にある、《顔につけられた月と星》と同じもので、生まれたときに運命の女神が書き付けるという運命の印の変形だろう。


参考--> 「魔法の馬



参考--> 「灰まみれの牝猫」「ズーニー族のシンデレラ」「ヴィラたち、馬に黍畑を食べさせる



糠福と米福  日本 新潟県

 あったてんがな。

 あるどこに、かっかが、糠福ぬかふくという女の子を産んでから、まもなく亡くなってしもた。ほうしると、代わりのかっかが来て、米福こめふくという女の子が産まれた。かっかは、自分の子の米福ばっか可愛がって、糠福をにっくがっていたてや。米福には、いい着物を着せて、仕事もそんげにさせなかった。糠福には、きったねぇ着物を着せて、毎日まいんち石臼いすす挽き、掃除、風呂焚きをさせていた。

 ある日、母親は、

汝等なら汝等なら、二人で山へ栗拾いに行って来いや。この袋に一杯いっぺにならんうちは、決して家へ帰ってくんな」

と言うて、糠福には 穴開いた袋を、米福には いい袋をあつけたてや。

「糠福、お前は大きいすけ、山へ行って、先になって栗拾いせや。米福はちんこいすけ、後から行げや」

と言いつけたてや。

 二人は、山へ行って栗拾いした。糠福の袋は、いくら拾うても袋の穴からんな、落ちてしもて、一向に溜まらんてや。後から付いて行った米福は、その落ちた栗を拾い拾いしてるんだが、一時いっときに袋一杯になったてや。

「糠福、おら、へえ(もう)、袋いっぺになったすけ、家へ行ごうや」

「そうけ。おら、まだ いっぺにならんすけ、帰らんねえ。家へ行げば、叱らっる」

「ほうせや、おら、一人ひとらで、先に家へ行ぐ」

と言うて、サッサと帰ってしもた。糠福は山に残って、一人ひとらで栗拾いしていたれば、でっこい栗が一つ、木の天井(上)から、ストーンと落ちてきた。

「まあ、おっきい栗が落った」と、コロコロ転がっていぐ栗を追っかけた。ほうしると、下の穴のようなどこに栗が転がっていった。そこに亡くなった母親がいて、

「お前、どうして、こんげなどこに来たや」

「おら、山へ栗拾いに来たども、栗が袋の中に一向に溜まらんで、家へ帰らんねぇがだ。袋にいっぺにならんば、家へ来んなてがだ」

「どら、その袋見せれ。袋に穴が開いてるがに。おらが縫うてやるど。それから、お前に、このちんこい袋をくれる。欲しいもんを言えば、何でも出してくっる宝袋だすけ、大事にしておけや」

と言うて、袋の穴を縫うてくれ、宝の小袋をくれたてや。糠福は、宝の小袋から、「栗、出れ」と言うて、栗、いっぺ出して、袋に入れた。ほうして、ソボソボと日も暮れかかってきたんだんが、急いで家へ帰った。

「今、来たれ」と言うたれば、母親はたまげてしもた。糠福は、もう、山から家へ来ることもあるまいと思ていたてが。

「お前、栗拾うてきたか」

「あ、袋いっぺに拾うてきた」

と言うて、ザーッと栗をあけた。

「今頃まで、何していた。どご、ほっつきいていたや。米福は、へえ、早々と来たてがね」

と言うて、叱りつけたてや。

 ほうして、また、糠福は毎日まいんち、いりご米(屑米)の粉挽きしていた。昔は いい米めしなんか、滅多に食わせらんねえで、いりご米の粉を混ぜた、糅飯かてめしばっか食わせらった。ほうしるども、米福には白い米めしを食わせたてや。

 

 今度こんだ、お祭りの日が来て、芝居しばやが掛かった。母親は、米福に いい着物を着せて、芝居しばや見に行ったてが。お祭りに行ぐどぎ、「糠福、お前は、かて粉(いりご米の粉)を挽いておけ、鍋の墨もとっておけ」と、あれやこれや、仕事をいっぺ言いつけたてや。糠福は、石臼いすす挽きをゴリゴリしていたども、「おらも、お祭りに行って、芝居しばや観たいな」と思ていたどこへ、庵主様(尼さん)が来て、

「お前、芝居しばや観に行ってこいや。言いつけらった仕事は、おらがしてやる。芝居しばやが、もう一幕で終いるとこで、早や、帰ってこいや」

と言うた。ほうしるだんが(それで)、糠福は喜んで、宝の小袋に、「いい着物、出れ」「いい帯、出れ」「いい足袋、出れ」「いい下駄、出れ」と、頼んだれば、ソクン ソクンと、んな、出てきた。いいかんざしも、いいくしも、んな出してもろて、いい身なりして、綺麗になって、お祭り場へ出かけたてや。糠福が、あんまり綺麗で器量よしだすけ、人が、「あれは、まあ、どごの娘だろう」と、見とれていたてや。

 ほうして、糠福が芝居しばや観ていたれば、米福が見つけて、

「おう、糠福にそっくりなのが来ているが、あれは、糠福でねぇか」

と言うども、母親は、「いや、あれは糠福ではねえ。糠福は、あんげな、いい着物も持っていねえし、家で仕事していらや」なんて言うて、一向に本気にしねかった。

 糠福は、芝居しばや観ていたども、もう一幕で終いることに気がついて、気揉んで(焦って)家へ帰った。あんまり気揉んで、足袋が片っぺ脱げたども、もう戻るひまもなく そのまんま家へ帰った。ほうしると、庵主さまは、糠福の仕事を、んな、終やしてくれ、どっかへえてしもたてや。糠福は、いい着物なんか宝の小袋にしもて、きったねぇ着物を着て、石臼いすす挽きをしていた。

 ほうしているうちに、母親と米福が帰ってきた。米福が言うのには、「糠福、お前にそっくりの、綺麗な娘が芝居しばや観に来ていた」。糠福は、「そうだかや」なんて言うていた。

 

 村の旦那さまの、あんさま(息子)が、糠福が置いていった足袋、片っぺを拾うておいて、

「あの娘、どうしても嫁に欲しい。この足袋に合う足の娘を、さがねんば」

と、家の若いしょたちに、あちこちさがねてもろた。さがね歩いたども、なかなか見当たらねえ。ほうしているうちに、糠福の家にも来た。

 母親は、「お祭りの芝居しばや観に行ってたのは、この米福だ」と言うども、その足袋は、なんとしても足に合わねえ。若いしょたちは、「ほうせば、この糠福に、履かしてみるか」てがで、履かしてみたれば、ピッタリ合った。

「ほうせば、若旦那の嫁は、糠福だ」と言うども、母親が、「いや、この子はお祭り場へは行がねえ」と言うて聞かねんだんが、「それじゃ、歌の詠み比べをして、上手なのに決めよう」ということになった。お盆の上に皿、皿の上に塩を盛り、塩の上に松葉を挿して、歌に詠むことになった。

 先に、米福が

よんべな こいた ねこのくそ

水けだって 毛だった

今朝 こいた ねこのくそ

息 ホヤホヤ

と、きったねえ歌を詠んだ。今度こんだ、糠福が、

ぼんさらや さらさら山に雪降りて 雪を根として育つ松かな

と、綺麗でいい歌を詠んだ。

「やっぱり、糠福が嫁だ」

 と、決まったてや。

 ほうして、糠福は、宝の小袋から綺麗な嫁入り衣装を出して、綺麗に着飾って、お駕籠に乗って、ギシギシと、若旦那のどこへ、嫁に行ったてや。

 いきがポーンとさけた。



参考文献
『おばばの夜語り 新潟の昔話』 水沢謙一著 平凡社名作文庫 1978.

※米福の歌のセンスが「素ん晴らしい!」と思うのは、私だけであろうか。

 

「米福粟福」の題で主に知られる話で、日本の代表的なシンデレラ譚である。他に、「紅皿欠皿」という題(キャラクター名)の時もある。

米福粟福  日本 秋田県

 米ぶきと粟ぶきという姉妹がいた。米ぶきは先妻の子、粟ぶきは後妻の子である。

 ある日、継母は二人を山に栗拾いにやるが、米ぶきには破れた袋を渡したので、いつまで経ってもいっぱいにならない。とうとう夜になってしまった。二人が途方に暮れていると、遠くに人家の明かりがあった。それは山姥の家で、山姥は米ぶきに頭のしらみ取りを頼んだ。米ぶきが優しく虱を取ると、山姥は小さな宝箱をくれた。二人は無事に家に帰った。

 秋祭りの日が来ると、継母と粟ぶきは着飾って出かけたが、米ぶきは「カゴで風呂に水を汲め」「粟を十石搗け」と到底不可能な仕事を言いつけられた。ところが、通り掛かりのお坊さんが衣の袖で包んでくれて、ざるは水が漏れなくなって風呂桶いっぱい汲むことができ、粟搗きは沢山のスズメがたちまち片付けてくれた。

 こうして仕事を済ませると、米ぶきは山姥にもらった宝箱から晴着を出し、それを着てお祭りへ出かけた。すると、あまりに綺麗なので桟敷席(貴賓席)に案内され、色々お菓子やご馳走をもらった。見ていると、下に継母と粟ぶきがいる。米ぶきは饅頭の袋などを投げ与えた。

 一足早く帰った米ぶきが元のボロを着て働いていると、継母と粟ぶきが戻って祭りの話を聞かせる。そこへ、米ぶきを嫁に貰いたいという人が来た。継母は粟ぶきの方を嫁にやろうとするが、どうしても米ぶきだ、と駕籠に乗せられて嫁入りしていった。

 粟ぶきは羨ましがったが、誰も嫁に貰いに来ないので、継母が臼に粟福を乗せて、嫁入りに見たてて引きまわすうちに、二人とも田んぼにはまって、つぶつぶ沈んで たにしに変わってしまった。


参考文献
『決定版 日本の民話事典』 日本民話の会編 講談社+α文庫 2002.

米福粟福  日本 長崎県北高来郡江之浦村

《をうふ》という先妻の娘と《はげせん》という後妻の娘がいる。継母は栗を撒き散らしたり、砕け米をかまどの灰に混ぜるなどして、拾っておけと命じて《はげせん》を連れて遊びに出るが、スズメが来て助けてくれる。そこに爺が来て「遊びに行け」と言うが、着ていく着物がないと言うと、爺が「をうふ」と呼んだ途端、風呂敷包みが落ちてきて、中に着物が入っている。爺が馬に乗せてくれて遊びに行く。帰ると、継母と《はげせん》が「美しい姫がいたよ」と話す。

 やがて長者の息子が訪ねて来て、《をうふ》を嫁に望むが、継母は《はげせん》を連れて行く。しかし、靴が足に合った娘を嫁にすると言われる。継母は《はげせん》に無理に靴を履かせたので、血が出る。《をうふ》は見事に靴を履いて長者の嫁になるが、《はげせん》は片足を引きずるようになった。


参考文献
『日本昔話集成(全六巻)』 関敬吾著 角川書店 1950-

 

 他の類話には、継母に難題を言いつけられて泣いていると山姥が来て糸を全部紡いでくれる[牛とシンデレラ〜母親的な牝牛]に似たもの、墓で泣くと墓が割れて母の亡霊が現れ、望みのものの出てくる魔法のアイテムをくれる「魔法の馬」のようなもの、亡き母の化身の白い鳥が来て魔法のアイテムをくれたり晴着を落としてくれる「灰かぶり」(決定版)のようなものまである。ただ、母の墓や動物の死骸から植物が生えたり、それらから直接宝物が出るモチーフだけはない。

 

 例話の結婚テストは歌の詠み比べだが、他に「梅の枝にスズメを止まらせたまま折り取る」というものや、スズメを捕まえさせるもの、訪ねて来た殿様にお茶を出す、お茶くみ作法のテスト、面白いことに、青森県には踊りの上手さを競うものもある。《舞踏会》や《歌垣》を想起させる。

 歌詠みテストのモチーフは、独立して[皿々山]という話群を形作ってもいる。この場合《変身》すらなく、単に、洗濯していた継子が通りかかった《王子》に見染められる。「森の三人の小人」で、糸をすすいでいた継娘が王に見初められるのと同じモチーフであろう。



参考--> 「米福粟福」「継子の栗拾い



ヤン・パとヤン・ラン  中国 苗族

 ルン老人はヤン・パとヤン・ランの二人の娘を持っていた。ある日老人は娘たちを残して妻と共に親戚の家に出かけた。母親は娘たちに言った。

「お前たちに二つのはたと二本の竹筒を置いていきます。せっせと糸を紡いで、あまり遊ぶんじゃありませんよ。母さんがいなくて寂しくなったら、竹筒に涙を落としなさい。帰ってきたら、どっちが沢山紡いで、どっちが多く涙を流したか調べるからね」

 父母が出かけると、ヤン・ランは言いつけどおりによく働き、また涙も流した。しかし姉のヤン・パはすぐにブランコ遊びに出かけて毎日夜遅くまで帰らず、仕事もしなければ涙も流さなかった。十日経って父母が帰ると、ヤン・パは妹を出迎えにやらせておいて、妹の紡いだ糸を全て自分の機の側に移し、竹筒の涙を自分のに移して、妹のには水を入れておいた。父母はこれを見てヤン・ランを憎み、疎んじるようになった。

 夫婦はすぐに話し合って、この役立たずで愛情の薄い娘を捨てることにし、翌日、ルン老人は遊びに行こうと言って、ヤン・ランを遥か山奥の荒地へ連れていった。そして竹筒を渡し、水をいっぱいに汲んでくるように言いつけた。

 ヤン・ランは水を汲んだが、いつまで経ってもいっぱいにならなかった。すると一羽の雀が飛んできて教えてくれた。

「チチチ……竹筒には底がないよ。泥をお詰め」

 言われたとおりにするとすぐいっぱいになり、ヤン・ランは喜んで父の元に戻った。しかし父の姿はなく、いくら探しても呼んでも無駄だった。

 怯えながら、ヤン・ランは谷川に沿って下っていった。ひもじくてたまらず、川でカニや海老を取っていると、例の雀が来て「海老を下さったら、あなたのおばあさんのところに連れて行ってあげましょう」と言った。そして本当に、朝になると山のふもとの祖母の家まで案内してくれた。

 祖母はヤン・ランが働き者なのを知っていた。遊びに来るといつも仕事を手伝ってくれていたから。それにひきかえ、姉のヤン・パは祖母の持つ高価なスカートをねだったりするばかりで、何も手伝わなかった。

 ヤン・ランは祖母に言った。

「きっと父さんは私を探しまわってるわ。おばあちゃん、急いで家に連れて行って。母さんたちを安心させなきゃ」

 しかし祖母は溜息をついて言った。

「父さんはとっくに家に帰ってるよ。お前は私とここにいた方がいいね」

 何故祖母が溜息をつくのかわからなかったが、それからヤン・ランは祖母と暮らすことになった。彼女はせっせと働いて、糸紡ぎや機織り、水汲みに食事の支度は勿論、薪取りや牧草刈りまでやり、祖母の手を煩わせないようにした。

 ある時、履いていた靴が破れてしまったが、彼女は新しい靴を祖母にねだったりすることもなく、山に行った時掘ってきた つる草の根で、一足の丈夫で美しい靴を編み上げた。ところがある日靴が濡れたので、脱いで田んぼで乾かしていると、一羽の鷹が飛んできて、片方をくわえて飛んで行った。

 鷹はツン・リという村まで行ってその靴を落とした。靴を拾ったのは パ・クオという青年だった。彼は畑仕事がうまい働き者であるのは勿論、歌も乗馬も得意な人気者だった。パ・クオは芸術品のようなこの靴を見てすっかり感嘆し、こんな靴を作る女性を妻にしたいものだとあちこち探しまわった。けれど全く手がかりをつかめなかった。それで彼は考えた。この地方の祭、牛食祭に近隣の全ての未婚女性を招待し、靴がぴたりと合った女性を妻にしようと。

 祖母がその噂を聞き、躊躇するヤン・ランを美しく着飾らせ、祭の作法を教えて送り出した。一方、姉のヤン・パも祖母の衣装を借りに来たが、祖母は貸してやらず、作法も嘘を教えた。

 嘘の作法を少しも疑わず、ヤン・パは鍋のすすを混ぜた水で顔を洗い、髪に霜を振りかけて出発し、牛フンがあっても避けず、茨を踏み越えるときは裾をたくし上げたので、顔は真っ黒で髪はべちゃべちゃ、服の裾は牛フンで汚れて足は引っかき傷だらけで会場に着いた。集まっていた娘たちがみんな避けたが、ヤン・パは自分が美しいからだと思って大威張りで最初に靴を履こうとしたが、パ・クオの馬に蹴飛ばされた。

 それから多くの娘が靴を履いたが、誰にもぴたりとは合わなかった。それまで隅に引っ込んでいたヤン・ランが、靴を見て言った。

「それは、私にしか履けないでしょう」

 パ・クオは聞きとがめて、「何故?」 と問うた。

「だって、私が自分で自分のために作ったものですから」

 パ・クオは驚き、そして喜んだ。ついに探し物が見つかった。

 パ・クオに勧められて、ヤン・ランは靴を履いた。……見事に合った!

 こうしてヤン・ランは幸せな結婚をしたが、ヤン・パは三十を過ぎてもまだ独身だった。



参考文献
『世界のシンデレラ物語』 山室静著 新潮選書 1979.

※親がひどい。いくら気に食わないからって実の子供を捨てるか。しかも即日。そもそも涙を竹筒に溜めておけというのがむちゃくちゃだ。けれども《王子》が金持ちの男というのではなく、「働き者で歌と乗馬が得意」っていうのがすごくいい感じだ。ホントに幸せになったろうなぁーと思わせる。

 

 多くの説話で山姥(冥界の太母)として登場するキャラクターが、ここでは主人公姉妹の実の祖母ということにされており、魔法を廃した合理化がなされている。

 涙を竹筒に溜めさせるのは親への愛情深さを量るテストだが、通常は死んだ(冥界へ去った)恋人を取り戻すために行われる。例えばイタリアの『ペンタメローネ』の枠物語では、死んだ王子を蘇らせるため、娘は墓碑に掛けてあった容器いっぱいに涙を溜めねばならない。これは涙に特殊な力があるということではなく、それだけの涙を流せるほど死者を愛した者こそが奇跡を起こす、という意味合いであろう。グリムの「灰かぶり」では、いっぱいの涙が母の墓に生えた木を育て、冥界から魔法が現れるのだ。

 イランの「月の顔」では、水溜または捏ね鉢いっぱいに涙を溜めることが、大量の穀物選り分けや底なし容器での水汲みと同等の難題として与えられている。この話では、娘(の援助者)は鉢にただの塩水を溜めて誤魔化してしまう。愛情もインスタントに量れるようになったものである。


参考--> 「タムとカム」「コンジ・パッジ」「達稼と達侖」【ロドピスの靴】[善い娘と悪い娘]




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