>>参考 【魚の恋人】[牛とシンデレラ〜母親的な牝牛]【金のなる木】
「金のハゼ」「タムとカム」「雨期の起こり」
秦漢の時代よりももっと昔、中国の南の果てに洞穴に住む一族がおり、その首領は
あるとき、葉限は谷川でひれが赤く目が金色の魚を捕った。可愛く思って鉢に入れてこっそり育てたが、魚は日に日に大きくなって何度容器を取り替えても追いつかないので、家の裏の池に放し、自分の食事を残して与えていた。魚は彼女にとてもなついて、彼女が行くとさっと頭をのぞかせたが、とても賢くもあり、彼女以外の者の前に姿を現すことはなかった。
継母はこれに気付き、彼女たちの仲を憎んで殺そうとしたが、彼女が行くと魚は姿を隠すのでどうにも出来ない。そこで、継母は一計を案じて葉限を呼んだ。
「葉限や」
葉限はびっくりした。
「お前の服も随分痛んでしまったねぇ。どれ、新しい服をあげよう。さぁ、その古い服はもう脱いでおしまい」
優しい声をかけてもらって、新しい服をもらって、葉限は天にも昇る心地だった。だから、継母がすぐに遥か遠くの泉へ水汲みに行くよう命じても、何の苦にも感じなかった。
嬉々として葉限が出かけてしまうと、継母は葉限の脱いでいった服を着て、裏の池に行った。魚は服を見ててっきり葉限だと思って出てきたが、出た途端に小刀で突き殺された。この三メートルほどに育った大魚を継母は料理して、それはもう大変美味しかったので、すっかり全部食べてしまった。骨はごみ捨て場の下に隠した。
数日経って帰ってきた葉限は、呼んでも魚が出ないので、事態に気付いた。
なんてことだろう!
野原にさまよい、葉限は声をあげて泣いた。もはや、この地上に彼女を慰めてくれるものは何一つない。
その時だった。遥か天空に黒い小さな芥子粒のようなものが見えたかと思うと、見る間に大きくなって、黒い衣に髪ぼうぼうの人が舞い降りてきた。
「元気をおだし、葉限。魚はお前の継母が殺したのだ。骨はゴミ溜めの下に隠されているから、それを掘り出して部屋にしまっておくがいい。欲しいものがあったら、その骨に願えばなんでも出してくれるだろう」
葉限はゴミの下から魚の骨を掘り出し、綺麗に洗って自分の部屋に隠した。どきどきしながら骨に願うと、果たして、綺麗な服も素敵なアクセサリーも、美味しいご馳走でも、何でも出てきた。継母の手前おおっぴらには出来なかったが、葉限の胸は満たされ、豊かな心地になるのだった。
その近隣の節句の日がきて、継母は自分の生んだ娘だけを連れて出かけ、葉限には庭の果樹の番を言いつけた。彼女たちが遠くまで行った頃合になると、葉限は魚の骨に翠色の晴れ着と金の靴を頼み、自分も祭りに出かけていった。
「ねえ母さん、あれは姉さんじゃないの?」
人ごみの中で葉限を見かけた妹が、母親の袖を引いて言った。
「まさか。あの子はあんなに綺麗じゃないし、上等の服だって何一つ持っていやしないよ」
そう思ったものの、胸が嫉妬でざわめく思いがして、継母は急いで家にとって帰した。けれども、葉限も気付いて先回りしていて、継母たちが見たときには、いつもの服で果樹に抱きついて眠っていた。継母はやっぱり違った、と安心した。
けれども、葉限はあまり急いで帰ったので、金の靴を片方落としてしまっていた。それを、この近隣の男が拾った。
この地域は海に面しており、
靴を拾った男は、これをこの島の王に売った。王はこの靴を周囲の者に履かせたが、足の小さい女が履こうとすると更に小さく縮む。国中の女に試させたが、誰一人として履くことのできる者がいなかった。しかも、その靴の軽いことといったら羽のようで、石を踏んでも音一つしない。
陀汗王は、売りつけた男が悪事を働いてこの靴を手に入れたのではないかと思い、ついに捕えて拷問にかけたが、この男も靴の来歴を知らない。そこで靴を道端に置き、持ち主が拾いに来るのを待つことにした。やがて、娘が来てそれを履いて去った、という報告があった。
王はそれを手がかりに付近の
継母と妹は悔しがっていたが、どこからか飛んできた石に当たって死んでしまった。人々が哀れんで塚に葬り、後にこの塚は懊女塚(悔いた女の塚)と呼ばれるようになった。女の子が欲しい時、あるいは縁結びをこれに願えば霊験があるという。
陀汗王は葉限を第一妃にした。最初の年、王は魚の骨に貪り祈り、出させた宝玉は限りがなかった。しかし年を越すと、骨は何も出さなくなった。王は骨を沢山の真珠で埋め、金で囲んだ。その後、国で反乱が起こったとき、軍の助けにするべく掘り出そうとしたところが、大波が押し寄せて一夜にして沈んでしまったという。
参考文献
『世界のシンデレラ物語』 山室静著 新潮選書 1979.
『世界むかし話集』 山室静編著 社会思想社 1977.
昔、南セレベスのバンテン州に、七人の姉妹がいました。両親が亡くなった後は、一番上の姉さんが鍵の持ち主になって、家事を取り仕切り、日毎に妹達に仕事を当てがったのです。一番末の妹は、一番卑しい仕事をあてがわれて、毎日台所の薪作りをやらされました。
さてある日、この子が川へ水浴びに行きますと、一匹のきれいなジュルングジュルング(魚)が泳いできました。娘はそれを捕まえると、チャリンドリンドの洞穴の前に置いてある水盤に放して、毎日 自分の食べるご飯の半分を分けてやりました。魚は、娘がやってきて、
ジュルングジュルング、出ておいで
おいしいご飯をあげましょう
ミルクで洗ったよいお米!
と歌うと、すぐに水の面に浮かび出てきて、それを食べるのです。
こうしてその魚は、毎朝娘から餌を貰って大きくなり、まもなく枕ほどの大きさになりました。 ところが、ああ、なんということでしょう! そのうち姉さん達は、末の妹が日増しに痩せていくことに気が付きました。いろいろとその理由を考えてみましたが、どうしても訳が分かりません。それで姉さん達は相談して、こっそりと妹が何をしているのか、様子を探ることにしたのです。
じきに気が付いたことは、妹がいつも食べ物の半分を残して、それをあの魚にやっているために、だんだん痩せていくということでした。さて、姉さん達が、妹への本当の愛情から、そんなことを妹に止めさせようとしてだか、それとも素晴らしく立派なジュルングジュルングを見て、どうしても食べたくなったからなのか、それは誰にも分かりませんが、手短かに言うと、姉さん達はその魚を捕まえて、食べてしまったのです。
次の朝、末の妹はまたチャリンドリンドの洞穴へ出かけると、魚に餌をやろうと思って歌いました。
ジュルングジュルング、出ておいで
おいしいご飯をあげましょう
ミルクで洗ったよいお米!
ところが、魚は出てきません。いつまで待ってみても駄目でした。娘は悲しみと絶望のままに家へ帰ると、自分の部屋に閉じこもって、夜も昼もふとんを被って寝ていました。
ある朝、彼女はオンドリの声で目を覚まされました。オンドリは、「あなたの魚の屑や骨が、台所に隠してありますよ」と教えてくれました。末娘はすぐに起き上がると、台所中を捜して、とうとうそれを見付けると、チャリンドリンドの洞穴の側にその骨をうずめて、
ジュルングジュルング、芽をお出し
ここでのびのびと大きくなって
立派な木になるんだよ。
お前の葉っぱがジャバに落ちたなら
きっと王様が拾いますよ、ジャバの王様が!
と歌ったのです。
すると まもなく魚の骨やはらわたから一本の木が生えてきましたが、その幹は鉄、葉っぱは絹、刺は針、花は金で、その実はダイヤモンドのようなのでした。
やがてその木が大きくなると、果たして末娘の願ったように、一枚の葉がジャバの島へ飛んでいって落ちました。この美しい葉をご覧になると、すぐに王様は決心なさいました。――こんな素晴らしい木の生えている国を、ぜひ訪ねてみようと。
こうして王様は、セレベスの島へやってくると、島中を巡り歩いて、とうとうある日、不思議なチャリンドリンドの木を見付けられたのです。どうしてこんな木が生えたか、ぜひ知りたいと思った王様は、お触れを出して、そのことを尋ねましたが、誰も知っている者はありませんでした。
それでもある日、こんな噂を王様は耳にしました。――その木の近くに住んでいる七人姉妹が、あるいはその木のことを知っているのではないかと。王様はすぐに、その女たちを召し出しました。
すると、六人の娘さん達がやってきましたが、王様がいくらその木のことを尋ねても、誰も何一つ答えられなかったのです。
そんな筈はないがと思って、王様は最後に尋ねてみました。「お前達は七人姉妹だそうだが、もう一人はどうしたのだ?」と。
すると六人は答えました。「はい、私たちにはもう一人姉妹がございます。一番末の妹です。でも、あれはまるっきりの馬鹿ものですから、家に置いてまいりました。あの子には家事しか出来ませんので」
それでも王様は、その娘を呼びにやられたのです。
するとまあ、なんと不思議なことでしょう!
娘がやってくると、その木が低く頭を垂れたではありませんか。そして娘は、その葉と実を二つ三つ取って、贈り物として王様にさしあげたのでした。
王様はこの不思議な事件と、娘の美しさを深くお喜びになって、わしの妃になってくれないかとお訊きになりました。娘は「はい」とお答えしました。こうして末娘は、ジャバの王様のお妃になったのです。
それから二人はジャバの国へ帰りましたが、六人の姉妹は、王様とお妃のお供をして、やっぱりジャバの島へ渡ったのですって。
参考文献
『世界のシンデレラ物語』 山室静著 新潮選書 1979.
『新編 世界むかし話集(全十巻)』 山室静編著 現代教養文庫
※以下、ロシアの類話を紹介する。
父親が町で魚を二匹買って来て姉妹に与える。姉はすぐ食べてしまったが、妹は魚に尋ねる。
「あなたを食べてもいい?」
「食べないでください! きっと後であなたの役に立ちますから」
妹は魚を池に放す。
母は姉ばかり可愛がっていて、姉は着飾らせて教会へ連れて行くのに、妹には留守中に裸麦を二斗洗っておけと言いつける。妹が池の側で泣いていると、魚が来て話を聞き、仕事を代わってくれる。妹は着飾って教会に行き、みなを感嘆させる。母と姉は帰ってから「素晴らしい美女が来ていた」と話す。
次の日曜日になると、裸麦三斗洗っておけと言われるが、これも魚が代わってくれる。教会で王子に見染められ、追いかけられた時に金糸の縫い取りをした靴を落とす。それが証拠になって妹は見つけ出され、王子の妃となる。
※魚が助けてくれるシンデレラ話はアジアに多いもので、次の「かまど猫」ともども珍しい例。
参考--> 「金の魚」
参考--> 「金のハゼ」「タムとカム」「一つ目、二つ目、三つ目」
男やもめが三人娘を持っている。上の二人はお洒落ばかりしていて、好んで家事をする末娘を《かまど猫》と呼んで卑しめている。
ある日、父が黄色い魚を捕って来て末娘に調理を命じるが、娘は魚が美しいので、父に頼んで自分の部屋で飼う。夜になると魚が井戸に放してくれと言うので放してやる。
翌日、娘が井戸に近付くと、井戸の中から魚が呼んで、井戸に入れと言う。娘は怖くなって、入らずに走って逃げた。
その翌日、パーティーがあって、姉達は出かけて行く。娘が井戸に近付くと、また魚が「娘さん、井戸に入っておいで」と繰り返し呼ぶ。井戸に入ると、魚が娘の手を取って金と宝石で出来た宮殿に導き、素晴らしいドレスと金の靴と馬車を出してくれて、パーティーに行くように言う。ただし、姉達より先にここに帰って元の服に着替えておかねばならない、と。
娘がパーティーに行くと、みなが感嘆する。パーティーが終わって急いで帰るとき、靴を片方落とす。娘は急いで井戸に帰って衣装を脱ぐ。その時、魚は「尋ねたいことがあるなら、また今夜来なさい」と言う。
帰ってきた姉たちは、「王が謎の美女の落とした靴を拾って、この靴に足が合う者を妃にすると宣言した。私たちも挑戦してみようと思う。二人いればどちらかの足が合うだろうし、妃になったらあんたにも新しい服くらい買ってあげる」と笑う。
姉達が出かけていってから、末娘は再び井戸に入った。すると魚が「お前は私の妻になるのだ」と、やけに強気で言う。娘がついに承諾すると、魚は美しい青年に変わり、「自分は本当はこの国の王子だが、魔法で姿を変えられていたのだ」と打ち明けた。
「父はあなたを妃に望むだろうが、行って、もうあなたの息子と結婚していると告げなさい」
末娘が井戸から出ると、帰ってきた姉たちが靴が足に合わなかったと言って嘆いていた。末娘が「私も行って試してみるわ」と言うと、姉たちは「お前に合うはずがない」とあざ笑った。
末娘が王宮に行って靴を履くと、当然ながら彼女の足にピタリと合った。王は喜んで末娘を妃にしようとするが、娘はそれを断って、「私は既にあなたのご子息と婚約しています」と告げた。
王はそれを聞くと驚喜し、さっそく大勢の使者を遣わして井戸から王子を迎え、末娘と結婚させた。後に、王子は王位を継ぎ、かまど猫は皇后となった。
二人の姉は妬んで妹の悪口を言ったため罰されたという。
参考文献
『世界のシンデレラ物語』 山室静著 新潮選書 1979.
※援助者である魚自身が主人公と結婚する、非常に珍しいバージョン。求婚者が王と魚と二重になってしまっている辺りに構成のまずさを感じるが、物語に改変を加えたためなのだろう。
参考--> 「竜宮女房」
※文献上のシンデレラ譚としては世界最古のものである。(九世紀) 著者の段成式が自宅で雇っていた下男の李士元に、彼の生地で実際に行われている伝承として聞いたもの。これがシンデレラの文献上最古の類話であると指摘したのは、日本の南方熊楠。
葉限の一族は洞穴に住んでいたという。中国の寒暖の差の激しい地域では、今も窰洞 という洞穴を利用した住居が使われているが、これを指しているのだろうか。
参考--> 「コンジ・パッジ」「金のハゼ」「タムとカム」