>>参考 「金の履物」「モーリン
     [牛とシンデレラ〜母親的な牝牛][牛の養い子][一つ目、二つ目、三つ目][火焚き娘〜植物の衣をまとう][牛と若者

 

木のつづれのカーリ  ノルウェー

 昔、王様とお妃様がいて、たいそう仲睦まじく暮らしていましたが、お妃様は美しい一人娘を残して死に、王様は新しいお妃を迎えました。この人には醜い連れ子があり、母子は美しい姫に嫉妬して、ついには憎むようになったのです。

 それでも王様がいる間はどうすることも出来ませんでしたが、戦争が始まって王様が出征してしまうと、散々に苛め始め、ついには家畜番にしてしまいました。姫はろくな食事ももらえずに家畜を追って野山をさすらい、ひもじさとみじめさで泣きました。すると、家畜の中にいた一頭の青いきれいな牡牛が口をきいて、姫を慰めはじめたのです。

「泣かないで、姫君。お腹が空いたのなら、僕の左の耳に手を入れてごらんなさい」

 姫が手を入れてみると、一枚のテーブルクロスが出てきました。広げてみると、なんてことでしょう。ご馳走も、お菓子も、蜜酒も、なんでも欲しいものが出てくるのです。

 それから、姫はお腹を空かせることはなくなりました。辛い家畜番も、むしろ楽しい時間になったのです。なにしろ、友達の青い牡牛と一緒なのですから。

 継母は、姫が元気になったのを見て怪しみました。それで侍女にスパイをさせて、事の次第を知ったのです。

 おりしも、戦争に行っていた父王が無事に帰還しました。お妃は仮病を使い、医者を買収して、青い牡牛の肉を食べなければ治らないと言いました。姫も王様も何とかして牛を助けたいと思うのですが、お妃は聞き分けません。いよいよ牡牛が殺されることになった前の晩、牡牛は姫に言いました。

「まず僕を殺して、次に君を殺そうというんだ。いっそ今夜のうちに一緒に逃げよう」

 姫は父王と別れるのを悲しがりましたが、それでも牡牛の背に乗って一緒に逃げていきました。

 

 牡牛と姫が遠く遠くさまよっていくと、やがて木も花も葉もすべて銅で出来た、あかがね色に輝く大きな森に行き当たりました。キラキラと日にきらめく様は夢のように美しく、葉が触れ合ってチリチリと鈴のような音をたてています。

「いいかい、この森に入ったら一枚の葉も痛めないようにするんだ。でないと僕達の命に関わるからね」

 牡牛はそういましめました。

 けれど、茂った森の木々を押し分けて進むうち、知らない間に、姫の手の中に銅の葉が一枚 残ったのです。

「なんてことをしてくれたんだ! 僕は生きるか死ぬかの戦いをしなくちゃならない。でも、その葉は大切に取っておくんだよ」

 そして森を出ようとすると、恐ろしいうなり声と共に、頭が三つあるトロルが走り出てきたのです。

「俺様の森を痛めた奴は誰だ! バラバラに引き千切ってやる」

 悲鳴を上げて立ちすくんだ姫を背にかばって、牡牛がそれと対峙しました。

 牡牛とトロルは激しく戦いました。そしてついに地響きをたててトロルが地に倒れましたが、牡牛も血まみれで、立つことも出来ませんでした。

「ああ、どうしたらいいの」

「トロルの腰に薬がある……。それを塗ってくれないか」

 死んだトロルの腰帯には薬壷が下がっていて、姫が中の軟膏を塗ると牡牛の傷はみんな塞がり、元気を取り戻して、二人は再び旅を続けるのでした。

 それから幾日も幾日も旅をして、今度は全てが銀で出来た森に行き当たりました。前にも勝る美しさです。姫は、勿論 葉の一枚も傷付けないよう注意しましたが、やはり一枚ちぎってしまったのです。

 森を出ようとすると、頭の六つあるトロルが走り出て来て、より熾烈な戦いになりました。今度も牡牛は勝利し、姫はトロルの薬を塗りましたが、しかし完全に回復して再び旅を始める前に、一週間は休まなければなりませんでした。

 そしてそれは、次に行き当たった全てが金で出来た森でも同じ事だったのです。この恐ろしいまでに美しい森でも、どんなに注意しても姫は葉の一枚を傷つけずにはおれず、森を出ようとする彼女達の前には頭の九つあるトロルが現れました。

 今までで最も激しい戦いになりました。それでも牡牛はトロルを倒しましたが、トロルの薬を使ってなお、歩けるようになるまでに三週間はかかったのです。

 

 それから更に幾つもの山や森を越えると、切り立った断崖の側に城がありました。やっと目的地に着いたとでもいうように牡牛が言いました。

「お城の下の豚小屋に行ってごらん。そこに汚い木のつづれがあるから、それを着てお城に行って召し使いにしてもらうんだ。――その前に僕の首を切り落として、皮を剥いであの断崖の下に置き、銅と銀と金の葉をその中に入れること。何か用事があったら断崖の側にある杖で岩壁を叩くんだよ」

 姫は嫌がったけれど、牡牛の頼みが断わりがたいのを悟って、泣く泣くその首を落とし、三枚の金属の葉を入れた皮を断崖の下に置きました。それから豚小屋に行くと木の皮をつづって作ったような汚い服があったので、それを着てお城に行き、《木のつづれのカーリ》と名乗って台所の下働きに雇ってもらいました。彼女はまめまめしく働きましたし、また仕事も速いのでした。

 

 さて、王様たちは日曜日ごとに家族で教会へ出かけるのでしたが、カーリは王子様の朝の洗顔用の水を運ばせて欲しいと頼みました。

「そんな汚い姿をしているくせに、王子様の前へなんか出られるもんか」

 他の召し使い達は呆れましたが、あんまり強く頼むので根負けし、ついにカーリは木の皮の服をガラガラいわせながら王子様の部屋へ登っていきました。

 王子様はそれは驚きましたし、怒りました。

「お前のような者が持ってきた水で顔が洗えるか!」

 そして水をカーリの頭から浴びせ掛けました。

 それでもカーリは気を落とさなかったように見えました。彼女は「私も教会へ行かせてください」と職場の人に言って休みをもらうと、岩壁へ行って杖で叩きました。すると一人の男の人が飛び出してきて、あの牡牛のように優しい声でカーリに尋ねました。

「どうしたの、姫君。僕に何をして欲しいの?」

「教会へ行くための晴れ着が欲しいの」

 男の人は、あかがね色にきらめく服とあかがねの箱馬車を出してくれました。

 カーリが教会に行くと、みんな見とれてしまってどこの姫君だろうと囁き会い、ことに王子様は目が離せなくなりました。カーリが帰ろうとすると王子様は走って行ってドアを開けてやり、握手を求めて「あなたはどこの方ですか」と尋ねましたが、カーリはこう答えました。

「私は、洗顔の国から参りましたのよ」

 そして王子様がうろたえている間に、こう唄って姿を消しました。

前は明るく、後ろは暗い。

だから王子様は、

今日の私がどんなに笑ったかご存知ないわ!

 王子様は「洗顔の国」を探しましたが、勿論そんな国はどこにもないのです。

 次の日曜日には、カーリは王子様のところへお手ふきを持っていきましたが、王子様はやっぱり、「汚いお前の持ってきた手ふきが使えるか!」と叩き付けました。

 それからカーリは岩壁を叩いて銀色に輝く服と銀の馬具を着けた馬を出してもらい、教会に行くと、王子様は先週よりもっとのぼせ上がって、帰ろうとするカーリの馬を押さえつけて「あなたはどこの人ですか」と尋ねました。

「私は、お手ふきの国から参りましたのよ」

「えっ? なんですって?」

前は明るく、後ろは暗い。

だから王子様は、

今日の私がどんなに笑ったかご存知ないわ!

 唄い終わるとカーリの姿は霧に包まれ、たちまちのうちにその場から消えてしまうのでした。

 三度目の日曜日には、カーリは王子様に櫛を持っていきましたが、相変らず、王子様は「汚い」と怒って、その櫛を投げつけるのです。カーリは岩壁に行って金にずっしりと宝石を縫い付けた服と馬を出してもらい、教会に行きました。もう誰も牧師様の説教なんて聞いていません。みんなうっとりとしてカーリを見ています。

 いつものように素早くカーリは帰ろうとしましたが、王子様があらかじめ廊下にタールを流してあったので、金色の靴が片方くっついて脱げてしまいました。王子様はその靴を差し出しながら例の質問をしました。

「あなたは一体どこの人なのです!」

「私は、櫛の国から参りましたのよ」

 そしてカーリは唄いました。

前は明るく、後ろは暗い。

だから王子様は、

今日の私がどんなに笑ったかご存知ないわ!

 美しい姫君の姿は消え、王子は「櫛の国」を探し回りましたが、何の手がかりも見つけられないのでした。

 

 ほどなく、国中におふれが出されました。王子様が持つ金色の靴をぴたりと履ける娘を王妃に迎えるというのです。

 沢山の娘が名乗り出ましたが、靴は小さく、誰も履ける者がありません。そこへ、例の継母が娘を連れてやって来ました。なんと、見事に履いたではありませんか。結婚の話はあっという間にまとまり、王子様と娘は着飾って教会へ向かいました。木の梢の鳥が歌っています。

かかとを切って

つまさき切って

木のつづれのカーリの靴は血だらけよ!

 王子様は、ようやくこれがニセモノの花嫁だと気づきました。そして、やっとカーリに靴を履かせてみようということになったのです。

 靴は、カーリの足にぴたりと合いました。おまけに、もう片方の金の靴もちゃんと履いています。更に、汚い木のつづれをさっと脱ぎ捨てると、下からあのまばゆい金の服が現れたので、もう間違いありませんでした。

 話を聞くと、彼女も王の娘だといいます。王子様はそれはもう喜んで、彼女と結婚式を挙げたのでした。



参考文献
『世界のシンデレラ物語』 山室静著 新潮選書 1979.
『世界むかし話集〈上、下〉』 山室静編著 社会思想社 1977.

※忌憚なく感想を言えば、王子の性格が最低すぎないだろうか。こんな人を表面でしか見ない上に頭も察しも悪すぎるピーマン男(三回も皮肉られてるんだからいいかげん気付け!)と結婚したところで幸せになれるのかと思うが、財産は有りそうだし、案外上手く操縦していくのかもしれない。

 カーリが唄う「前は明るく、後ろは暗い」という歌は、この話だけでは説明不足で、どうして唄うとカーリが消えてしまうのかよく分からない。

 デンマークの類話「赤い牝牛」(『子どもに語る 北欧の昔話』 福井信子/湯沢朱実編訳 こぐま社 2001.)では次のように唄い、通り抜けてきた森で取った木の葉を投げる。

  前は明るく
  後ろは暗く
  私の行く先 誰にも見えぬ

 どうもこれは冥界へ渡る(冥界から帰る)ための呪文であるらしい。牛は娘を森を越えた向こうの異郷へ運んだ。これは牛が冥界へ渡る力を持つことを意味している。そして、死んだ牛の魔法は冥界から来る力だ。その力で変身した娘は、いわば冥界の女神として立ち現れていたのだが、「前は明るく後ろは暗く」の歌は、その変身を解いて冥界から戻る、という意味があるらしく思われる。これに関しては<蛙の花嫁のあれこれ〜冥界の花嫁>でもう少し考察している。

 

青い牡牛  フランス

 その娘は産まれてすぐに実母を亡くし、継母は憎しみを燃やして可能な限りの苛めに勤しんだ。粗末な服を着て、倒れそうなくらいお腹をすかせて、数頭の牝牛と一頭の青い牡牛を追って牧草地へ行くのが、彼女の毎日の暮らしだった。

 ある朝のこと。いつものように牛の群れを追って牧草地へ出かけた娘は、あまりの辛さに耐えかねて激しく泣きじゃくった。すると、青い牡牛が近づいてきて「何がそんなに悲しいの」と尋ねた。

「ああ、悲しいわけならあり過ぎるほどよ。きっと母さんは私が飢えて死ねばいいと思っているんだわ。母さんのくれるものなんて、四歳の子供だって養えないくらいだもの」
「私の耳に手を入れてごらん。悲しい気持ちを和らげてくれるものが見つかるから」

 牡牛は頭を傾けて、耳の穴を娘の方に向けながら言った。言われたとおりに手を入れると、なんと、中から美味しそうなパンが引き出された。しかもバターもたっぷり付いている。娘はそれをがつがつ食べて、それからというもの、お腹がすくと青い牡牛のところに行って、耳からパンとバターを取り出すようになった。

 継母は継子が少しもお腹を空かせておらず、それどころか健康そうな様子になったのを見て、誰かが娘にこっそり食べ物をやっているに違いないと考えた。そこで牧草地の近くの茂みに隠れて様子を探り、娘が青い牡牛の耳からパンとバターを取り出すのを見た。母親はすぐさま、この牡牛を売るなり屠殺するなりして始末しようと考えた。この計画に気付いた青い牡牛は娘に言った。

「お前の母さんは私を売るか殺すかする気だね。私がいなくなればお前は前よりも不幸になるだろう。けれどお前が望むなら、今晩一緒に家を出よう」
「ええ、いいわ。あなたと一緒なら、この世の果てまでだって付いていくから」

 

 二人は遠く遠く、遠くへ歩いて、とうとう大きな森の入り口にきた。その森の木の葉はみんな銅で出来ていた。ここを通り抜けねばならないのだ。

「いいかい、決して木の葉に触ってはいけないよ。一枚でも木の葉が落ちたら最後、飢えた熊が目を覚まして、私たちを食べてしまうだろうからね」

 娘は注意して歩き、銅の葉を一枚も動かさずに森を通り抜けた。

 更に進むと、今度は銀の葉の森に来た。青い牡牛は再び、葉に触らないよう注意した。銀の葉が一枚でも落ちれば、近くで眠っているサソリが目を覚まして二人を刺すだろうからと。

 娘は出来る限り注意して歩いたが、最後の木の傍を通る時に手が触れ、一枚の葉が地面に落ちて銀の音色を響かせた。たちまち、巣から飛び出す蜂のように無数のサソリが押し寄せて、毒針を見せながら襲ってきた。青い牡牛はその群れに突進し、押しつぶし、娘を守ったが、深い痛手を受けた。助けに近寄った娘に向かい、耳から軟膏を取り出して傷に塗ってくれと牡牛は頼んだ。

 しばらくすると牡牛は回復し、また二人で歩きだした。もう少し先へ行くと、金の葉の森へ出た。「ここは他よりもずっと危険な場所だ」と牡牛は言った。「一枚でも葉が落ちれば、ライオンが飛びかかって来て二人とも食われてしまう」と。

 注意に注意を重ねて何事もなく森を通り抜けた。ホッとしたとき、一番最後の枝の先に娘が触れて、葉が一枚落ちた。恐ろしい唸り声と共にライオンが現れた。牡牛は娘を守るために立ち向かい、ありったけの力を使って、ついにライオンを森に押し戻すことができた。しかし受けた傷はサソリの時よりもずっと深かった。

「金の葉に注意しなかったね」と、牡牛は弱々しい声で言った。「ここからはお前一人で行かなければならない」
「ああ、私の牡牛、どうか見捨てないで」娘は牡牛にキスをして言った。「私一人でどこへ行けばいいの。きっと飢えて恐ろしさで死んでしまうわ。また耳から軟膏を出して塗ってあげるから。傷口に擦り込めばすぐに治るでしょ」
「軟膏は効かないよ。私はじきに死ぬんだ。シャベルを見つけて墓を掘り、私を埋めなさい。それが済んだらもっと遠くへ行くんだよ。一軒の屋敷に着くから、七面鳥番として雇ってもらうといい。何か必要な時は、ここへ来て私を呼びなさい。要るものを出してあげるからね」

 娘は牡牛の死を悲しんで泣いたが、亡骸を埋めると先へ進み、ほどなくして教わった屋敷に着いた。家の主人に頼み、七面鳥の番人として雇われた。この屋敷の主人は若くて血色のいい王子だった。彼は娘の服が擦り切れているのを見て、木の色の服を買ってやった。それで娘は《木のジャケット》と呼ばれるようになった。

 

 働き始めてから最初に迎えた日曜日、娘は早朝のミサに行くように命じられた。屋敷の人たちが歌ミサに出かけている間、料理をするために家に残らねばならないからだった。王子が屋敷の人々を連れて歌ミサに出かけてしまうと、娘は牡牛の墓へ走って頼んだ。

「貴婦人みたいに着飾って教会へ行きたいの。それでその間、留守番をしてくれる人も探してほしいのだけれど」

 牡牛は小さな兎に台所の番を言いつけ、娘には素晴らしい絹のドレスを与えた。牡牛に礼を言うと、娘は足取りも軽く教会へ向かい、王子からよく見える席に腰かけた。

 王子は、彼女が素晴らしく奇麗で血色もいいので、これほど気に入った娘にはこれまで会ったことがないと思った。教会の中で話しかけるわけにはいかないので帰りに話しかけようと計画したが、最後の福音書の朗読のためにみんなが立ち上がったところで娘は素早く帰ってしまい、誰もその行方を知ることができなかった。

 次の日曜日にも同じことが起こった。歌ミサに現れた娘は銀のドレスを着ていて、やはり王子に近い席に座った。王子の目に彼女は先週よりも一段と美しく輝いて映り、ミサの間中溜め息をついて眺めるばかりだった。ミサが終わったら話しかけようと心に決めていたが、最後の福音書の少し前に、娘は小鳥のように素早くいなくなってしまい、どこへ帰ったのか知ることはできなかった。

 王子はしょんぼりして屋敷に戻り、《木のジャケット》に辛い気持ちを打ち明けた。いつもの木の色の服を着た彼女は言った。

「王子様、次の日曜にまたミサにおいでになれば、きっとその奇麗な方ともお会いになれるでしょう。彼女から目を離さないようにして、追いかけて話しかけなければだめですよ。きっとその方は嫌がらずにお答えするでしょう」

 三度目の日曜日、娘は例によって小さな兎を呼んで料理番を任せ、雄牛の墓にドレスを頼みに行った。そのドレスは全て金で出来ていた。王子の近くに座ると、彼は胸がいっぱいになったが、大勢の前で声をかけることは出来なかった。

 娘が立ち上がって教会を出ていくと王子は急いで後を追ったが、娘は風のように足が速かった。後に付いて走るうち、近付き過ぎた王子が娘の上靴のかかとを踏んだので、片方が脱げてしまった。それでも娘は足を緩めず、あっという間に姿を消した。上靴の片方を拾い上げた王子はガッカリして屋敷に戻った。屋敷では《木のジャケット》が忙しく料理をしている様子だった。

「ああ、聞いておくれよ《木のジャケット》」悲しそうに王子は言った。「今度もあの美しい人に声をかけられなかったんだ。でもあの人が落としていった靴を拾ったよ」

 その靴はやっぱり金色で、優美にほっそりして小さかった。

 

 悲しみのあまり王子は病気になった。《木のジャケット》は、拾った上靴の持ち主を探してみては、と王子に勧めた。王子は大宴会を開いて貴族や金持ちの娘たちを招待し、上靴のサイズにぴったりの足の人と結婚するつもりだと告知した。しかし靴を試した娘の誰一人として、つま先すら靴に入れることはできなかった。

 二度目の宴会を開いた王子は、農家の娘たちを招待した。その中に一人、ずるい娘がいて、こう独りごちた。

「王子様は私のものよ。上靴に入れられるよう、足を二つに折って結わえておけばいいんだから」

 この娘は上手く誤魔化したので、靴を試す段になってもさほど苦労せずに履くことができた。王子は、この娘が自分の心をとりこにした美しい娘とは違うことがよく分かっていたが、約束は守ると宣言した。そして馬車を呼び、この娘と婚約式を挙げに行こうとしたが、娘が馬車に乗り込もうとしたとき、小鳥が一羽飛んできて鋭く鳴きながら王子の周りを飛び回った。

  王女様は足が痛い
  王女様は足が痛い

「何て言ってるんだ?」王子が訝ると、娘は慌てて「何でもないわ」と答えた。けれど鳥は繰り返し歌った。

  王女様は足が痛い
  王女様は足が痛い

 今度は王子にもはっきり聞こえたので、娘を注意して見ると、どうも足が辛そうにしている。そこで上靴を脱がせてみると、靴の中は血だらけだった。いんちきが分かったからには、もはや王子も自分を騙した相手と結婚する気なぞさらさらなくなった。

 

 王子の病はいっそう重くなり、悲しみは前より深くなった。

 ある日のこと、王子が面白がるので、《木のジャケット》が色々とお喋りをしていたところ、何気なく彼女の足を見た王子は(七面鳥番の娘にしては華奢な足だな)と気がついた。

「《木のジャケット》、お前も上靴を試してごらん」
「とんでもない、無駄なことよ。絶対に履けやしないわ」

 王子が「これは命令だ」と言ったので、《木のジャケット》は木靴を片方脱いだ。足は上靴にいとも容易く入り、わざわざ誂えたようにぴったりだった。この様子を見た王子は叫んだ。

「《木のジャケット》、僕が結婚するのは君なんだ」

 好きな王子にこう言われた娘は、急いで屋敷を飛び出して青い牡牛の墓へ走った。そして嬉しい報告をして、一番美しい金のドレスをもう一度出してもらった。それに着替えると、以前から美しかったのがいっそう輝いて見えた。

 こうして着替えた姿で王子の部屋に入っていくと、王子はあの美しい娘だと分かって、大喜びでベッドから飛び降りてキスをした。

 王子は満足して病気も治り、話もこれでおしまい。


参考文献
『フランス民話集』 新倉朗子編訳 岩波文庫 1993.

※娘が積極的なんだか引っ込み思案なんだか、よく分からない。

 この話の王子は、結構誠実に感じられる。

青い雄牛  スペイン

 継母にいつも苛められて、牛の番をさせられている女の子がいた。継母は食事をあまり与えてくれないので、ひもじくて泣いていると、飼っていた青い雄牛が口をきき、自分の耳の中に手を入れるようにと促す。雄牛の耳の中には魔法のテーブルクロスが入っていて、広げると何でも食べたいご馳走が並ぶのだった。

 こうして痩せて泣いていた女の子は健康で朗らかになったが、継母にはそれは耐え難い事だった。継母は雄牛の秘密をかぎ当てると、これを殺して食べてしまおうともくろんだ。雄牛は身の危険を感じ、女の子に一緒に逃げようと誘った。もちろん、女の子は雄牛が殺されるのなんてイヤだったし、自分自身も危険を感じていたから、雄牛と一緒に家を出て逃げていった。

 一ヶ月経って、ふたりは金の川に辿りついた。川を渡ろうとすると、白い牛が現れて戦いを挑んだ。青い雄牛は戦い、倒すと、白い牛は人間になった。次に銀の川に着いて渡ろうとすると、黒い牛が出てきて戦いを挑んだ。倒すと、これも人間に変わった。最後にふたりは森に着いた。すると青い雄牛は言った。

「お願いだ。どうか僕の首を切り落として、殺してくれないか」

 女の子はいやがったけれど、雄牛はたっての望みだといって聞かない。それで、女の子がその望む通りに雄牛を殺すと、雄牛は立派な人間の王子様になった。

 王子様は、自分たちは呪いをかけられて牛に変えられていたのだと言った。先に人間に変わった二頭の牛は、彼の父と兄だという。

「僕は城に戻らなくちゃならない」

 王子様はそう告げて、流れた青い牛の血を木の幹に塗りつけた。

「この血にはまだ魔法の力がある。願えば、君の望みを何でもかなえてくれるだろう」

 そしてお城に帰っていった。

 女の子は自分の肌を黒く塗って黒人に変装すると、お城に出かけていって女中として雇われた。やがて日曜日になると、木の幹の血に願って上等の服を出して、とびきり綺麗になってミサに出かけていった。こんなことが二度続いた。教会で彼女を見かけた男たちは誰もが彼女に夢中になって、兄王子や父王さえ彼女に求婚した。けれど彼女が選んだのは、もちろん あの青い雄牛の王子だったのだ。

 ふたりは結婚して、もうどこをもさすらうこともなく、幸せに暮らした。


参考文献
『世界のシンデレラ物語』 山室静著 新潮選書 1979.

※スペイン本国ではなく、アメリカのニュー・メキシコ州で採集されたもの。牛自身が変身して娘と結ばれるという、非常に珍しい展開。本来は守護神的存在に過ぎなかった牛のキャラクター化が進んだ結果、語り手が牛に愛着を持ち、主人公と結ばれるに相応しいと思うようになったということか。更に、途中で牛が戦う《境界の番人》たちが、魔法をかけられていた人間という扱いになっており、古い冥界信仰が忘れ去られ、物語の語り直しが始まっている様子が伺える。



参考 --> 「予言する牛とその主人」「小指の童女」「隅の母さんの娘に結婚を申し込みたかった若者




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