>>参考 「日食の伝説
     [灰坊]【手無し娘
     [火焚き娘〜姥皮をまとう][火焚き娘〜植物の衣をまとう][火焚き娘〜容器をかぶる

 

千匹皮  ドイツ 『グリム童話』(KHM65)

 昔々、王様がいた。お妃は金色の髪をしていて、世界中に比べる人もないくらい奇麗な人だった。あるとき、そのお妃が病気で寝こんでしまい、もう長くはないと思ったので、王様を呼んで言った。

「私が死んだ後、二度目のお嫁さんを貰うんでしたら、私ぐらい奇麗な人で、私のように金色の髪をした人でなければいけませんよ。きっと約束して下さいますね」

 王様がその約束をすると、お妃は目を閉じて死んだ。

 

 王様は長い間、気晴らしのしようもなく、二度目のお妃を迎えようなどと思いもしなかった。とうとう御家老方が言った。

「どうにも致し方のないこと故、王様に改めて奥方を迎えていただいて、我ら一同女王様を戴くことに致さねばなるまい」

 そこで、亡くなられたお妃そっくりの奇麗なお嫁さん探しに、あちこちへ使者を出した。

 ところが、世界中探しても一人も見つからなかったし、見つかっても、金色の髪をしている人など一人もいなかった。そんなわけで、使いの者たちはお嫁がみつからぬまま帰って来る始末だった。

 

 ところで、王様にはお姫様が一人あったが、その方は亡くなった母親そっくりの御器量で、しかも金色の髪をしていた。お姫様が大きくなってから、王様が彼女をじっと眺めていると、死んだお妃にそっくりなものだから、急にお姫様が恋しくってたまらなくなってしまった。そこで御家老方に向かって言った。

「わしは、わしの娘を嫁にする。姫は死んだ妃に生き写しだ。姫の他には、死んだ妃に似ている者を見つけることは出来ぬからな」

 御家老方はこれを聞いてびっくりして言った。

「父親が自分の娘を嫁にすることは、神様がお差し止めなさっておりまする。罪業から、正しいことは起こりませぬ。お国もこのために亡び果てましょう」

 お姫様は父親のご意向を伺うと、御家老方よりもっとびっくりして、父上の目論見を思いとどまっていただこうと願って言った。

「私がお望みを叶えて差し上げる前に、ぜひとも、着物が三着ほしゅうございます。一つはお日様のように金色のもの、一つはお月様のように銀色のもの、もう一つはお星様のように輝くものです。その他に、千色の毛皮でこしらえた外套を一つ、それには国じゅうの獣の皮を少しずつ使わねばなりません」

 お姫様は思っていた。「こんなものを作るなんてとても出来はしないし、そのうちにお父様のよこしまな心を思いとどまっていただこう」

 ところが、王様はとりやめるどころか、国中の腕達者な娘たちに三色の着物を織らせ始めた。一つはお日様のように金色のもの、一つはお月様のように銀色のもの、もう一つはお星様のように輝くもの。そして国じゅうの猟師は国じゅうの獣を捕まえて、その毛皮をひと切れずつはぎとるように言いつけられた。

 その毛皮で千色の毛皮の外套ができ上がった。やっとのことで何もかもすっかりでき上がると、王様はその外套を取りよせて、お姫様の前に広げて言った。「明日は婚礼だ」

 

 さて、お姫様はこのうえ父の心を変えるのは覚束ないと見てとると、逃げ出そうと覚悟を決めた。夜の間、皆の寝静まってるうちに起きて、金の指輪と、金の糸車と、それから金の糸巻きと、三つの大切な宝物を手にした。お日様とお月様とお星様の三色の着物は胡桃の殻の中へ入れて、色々な毛皮でこしらえた外套を着て、顔や手は煤で真っ黒にした。それから我が身を神さまにお任せして、外へ出て、一晩じゅう歩いて、やがてある大きな森の中へ入った。そうしてくたびれ果てて、木のほらへ入って眠り込んでしまった。

 日が昇っても相変らず眠り続けているうちに、もうお昼になってしまった。ちょうどそのとき、この森の持ち主の王様がこの森で狩りをしていた。その王様の犬がこの木の傍を通りかかると、くんくん鼻を鳴らして、辺りを駆け回って吠え立てた。王様は猟師たちに言った。

「ちょっと、あそこにどんな獣が隠れているのか見て来い」

 猟師は言いつけどおりにして、帰って来ると「あの木の洞には、今まで見たこともないような奇妙な獣がおります。体には千色の毛皮が付いております」と言った。

「生け捕りにできるかやってみろ、生け捕りにできたら車に縛りつけて連れて来い」

 猟師たちがその娘を捕まえると、娘はびっくりして目を覚まして大声で言った。

「私は、父母に捨てられた哀れな子供です。可哀想だと思って一緒に連れて行って下さい」

 これを聞くと皆は言った。

「千匹皮、お前は台所向きだ。さあ一緒に来い、台所で灰でも掻き集めるがいい」

 そこで一同はこの娘を車に乗せて、王様の城へ連れて帰った。城へ帰ってから、梯子段の下の日も射さないような小さな部屋をあてがって、こう言った。

「千皮小僧、ここで寝起きするがいい」

 それから台所へやられて、薪や水を運んだり、火を掻き立てたり、鳥の羽をむしったり、野菜を選り分けたり、灰を掻いたり、色んな下働きをした。

 こうして、千匹皮は長い間、本当に惨めな暮しをしていた。可哀想に、奇麗なお姫様はこれからどうなることだろう。

 

 ところがあるとき、この城でお祝いがあった。お姫様は料理人に言った。

「ちょっと、上へ行って見て来ていいでしょうか。戸のところに立ってますから」

 料理人が言った。

「いいとも、行っといで。だけど三十分したら戻って来て、灰を集めなけりゃいけないよ」

 そこで、お姫様は小さなランプを持って自分の小部屋へ行って、毛皮の着物を脱いで顔や手の煤を洗い落したので、元のとおりに美しくなった。それから胡桃を開けてお日様のようにピカピカする着物を取り出した。すっかり仕度が済んでお祝いの席へ上がって行くと、誰も知っている人もいないし、どこかのお姫様に違いないと思ったものだから、みんな道を開けてくれた。すると王様がこちらへ向かってやって来て、手をさしのべて一緒に踊って、心の中で思った。

(こんな奇麗な人には、一度もお目にかかったことがない)

 踊りが済むと、その人はおじぎをした。そして王様が辺りを見回したときには彼女は消えてなくなり、どこへ行ったのやら誰も知らなかった。城の前に立っていた番兵は、呼びつけられて色々と訊かれたけれども、誰一人そのお姫様を見かけた者はいなかった。

 お姫様は自分の小部屋へ駆け込んで、急いで着物を脱いで顔や両手を真っ黒にして、毛皮の外套を着こんで、元の千匹皮になりすましていた。それから台所へ行って灰を掻き集めようとすると、料理人が言った。

「それは明日までそのままにしておいていいから、王様にスープをこしらえてくれ。俺もちょっと二階の様子を覗いてくるから。だが、髪の毛一本だって入れるんじゃないぞ。そんなことでもしたら、明日からおまんまの食い上げだ」

 そう言って料理人は出て行ってしまったので、千匹皮は王様の食べるスープをこしらえた。腕の限り上手にパン入りスープをこしらえ、出来あがると、小部屋に置いておいた金の指輪を持って来て、それをスープ皿へ入れた。

 踊りが済むと、王様はスープを取りよせて召し上がった。皿の底に金の指輪が入っているのが見えたが、一体どうして落ちこんだのか訳が分からなかった。そこで料理人を御前に呼びよせた。

 料理人はその仰せを聞くとたまげてしまい、千匹皮に言った。

「きっとお前がスープの中へ髪の毛を落としたんだ。もしそんなことでもあったらぶん殴るぞ」

 王様の御前に出ると、王様はスープをこしらえたのは誰かと訊いた。料理人が返事をした。

「手前がこしらえました」

 けれども王様は言った。

「それはまことではない。こしらえ方が違っているし、いつになくよく出来ておったぞ」

「実を申せば、手前ではござりませぬ。毛皮小僧めでござります」

「さがって、その者をこれへ寄こせ」

 千匹皮がやって来ると、王様は訊いた。

「お前は何者だ」

「私は、父も母もない哀れな子供でございます」

 王様は続けて訊いた。

「何のためにわしの城にいるのだ」

 小僧は返事をした。

「私は能無しで、長靴を頭にぶつけられるのがせいぜいでございます」

 王様がまた重ねて訊いた。

「スープに入っていた指輪は、どこで手にいれたのだ」

 小僧が返事をした。

「指輪のことなぞ、何も存じませぬ」

 こんな風で、王様は何にも聞き出せないで、千匹皮をさがらせるより仕方がなかった。

 

 しばらくしてから、またお祝いがあった。今度も千匹皮は、前の時のように料理人に見物にやってくれるように頼んだ。

「いいとも。だけど三十分したらまた帰って来て、王様の大好物のパン入りスープをこしらえるんだな」

 そこで大急ぎで自分の小部屋へ駆けて行って、急いで身体を洗って、胡桃からお月様みたいに銀色をした着物を出して着た。それから上へあがって行ったが、まるで王家のお姫様みたいだった。王様はお姫様の方へ近寄ってきた。また逢えたので大喜びで、一緒に踊った。踊りが終わると、お姫様は今度もサッと隠れてしまったものだから、王様はお姫様がどこへ行ってしまったのか分からなかった。お姫様は自分の部屋へ飛び込んで、また毛皮小僧になりすまして、パン入りスープをこしらえに台所へ行った。料理人が上へ行っている間に金の糸車を持って来て、スープ皿へ入れて、その上にスープを盛りつけた。それから、そのスープが王様の御前へ運ばれていった。

 王様がそれを召し上がると前のと同じように美味しかった。料理人を呼びよせると、「千匹皮がこのスープをこしらえたのです」と本当のことを申し上げた。

 再び千匹皮は王様の御前へ出たけれど、「私はこの城にいても長靴を頭にぶつけられるくらいのもので、金の糸車のことなど何も存じません」と返事をした。

 

 王様が三度目にお祝いをしたときも、やっぱり前と同じだった。料理人が言った。

「毛皮小僧、お前は魔法使いだな。いつもスープが美味しくなるようなものを何か入れて、俺のこしらえたのより王様の口に合うようにするなんて」

 でもあまり頼むものだから、時間を限って行かせてやった。毛皮小僧はお星様のようにキラキラ光る着物を着て、広間へ入って行った。王様はまたこの奇麗な人と踊って、彼女が今回ほどに美しかったことはこれまでにないと思った。そうして、踊りながらお姫様の気のつかぬうちに金の指輪を彼女の指にはめてしまい、しかも、予め踊りをうんと長く続けるように言いつけておいた。踊りが済んだとき、王様はお姫様の両手をしっかり掴んでいたつもりだったけれど、お姫様は振り放して、素早く人ごみの中へ紛れ込んで、王様の目に見えなくなってしまった。

 お姫様は大急ぎで梯子段の下の部屋へ駆け込んだが、あまりに長く、三十分以上も会場にいたものだから、奇麗な着物を脱ぐ時間がなく、上に毛皮の外套を羽織っただけで、おまけに慌てたものだから、煤もすっかり塗りきれず、指一本白いままで台所へ飛んで行って王様のスープをこしらえ、料理人が出て行ってから金の糸巻きをスープの中へ入れた。

 王様は底に糸巻きのあるのを見つけると、千匹皮を呼びよせた。すると白い指が見えたし、踊ってる間にはめた指輪も目についた。

 そこで王様はお姫様の手を握って、しっかり押さえた。お姫様が振り放して逃げ出そうとしたとき、毛皮の外套がちょっと開いて、お星様の着物がちらっと光って見えた。王様はその外套をぎゅっと掴んで剥ぎ取った。すると金色の髪の毛が現れ、お姫様は目も覚めるように奇麗な姿になって、もはや隠れようもなかった。

 それから、お姫様が灰や煤を顔から拭いとると、これまで世界中で誰も見たことがないほどに美しかった。それで王様が言った。

「お前はわしの可愛い花嫁だ。もう二度と別れぬぞ」

 それからご婚礼のお祝いをして、二人は死ぬまで何不足なく暮した。



参考文献
『完訳グリム童話(全三巻)』 グリム兄弟著、関 敬吾/川端 豊彦訳 角川文庫

※千匹皮が王に向かって繰り返し「長靴を頭にぶつけられるのがせいぜいでございます」と言うのが謎な感じだが、実は初版では千匹皮は毎晩 王の寝室に行って長靴を脱がしてやらねばならず、その度に王は千匹皮に長靴を投げつけた、というくだりがあるのだ。ちょっと意味深にも思えるが、だからこそ千匹皮は「長靴を頭にぶつけられるのがせいぜいでございます」とくり返し言うわけであり、このエピソードが削除されている決定版では皮肉が効いてこない。

 ついでに言えば、初版では千匹皮はよその城に行くのではなく、変装して自分の城に留まっている。だからこそ、スープの中に入れられた黄金のアイテム(元々、この城に伝わる宝)を見て、王は娘が身近にいることを悟るわけだ。これも決定版ではピンとこない感じになってしまっている。他の類話では《王子》自身から贈られた装身具をスープやパンに入れるところなのに。

 ……初版では、結局千匹皮は父王と結ばれる。しかも、どうも彼女自身は後にはそれを望んでいたかのごときニュアンスがある。千匹皮として毎夜 王の長靴を脱がせるうちに、心境の変化が起こったのだろうか?

 近親相姦のタブーを乗り越えるために、娘は一度毛皮をまとって木のうろに入り、獣に生みなおされて――つまり一度死んで、その後に花嫁として生まれ変わったのかもしれない。


参考--> 「百獣衣



ロバの皮  フランス 『ペロー童話集』

 むかし、一人の王がいました。平和なときには優しく、戦のときには恐ろしい、並べる者のないような、それは偉大な王でした。王の半身たる王妃は美しく優しく魅力にあふれ、一粒種の王女は愛らしく、しかも、糞の代わりに金貨をひりだすロバまで飼っていたので、王はこの上なく幸せに暮らしていました。

 ところが、不幸は起こります。王妃は重い病気にかかり、死の床につきました。臨終のとき、王妃は言いました。

「同意してくださるわね、死ぬ前にひとつだけお願いがありますの。もしわたくしがいなくなった後、再婚したいとお思いになったら……」

「ああ、そのような心遣いは無用だ。一生そのようなことは思いもせぬ、その点は安心するがいい」

「その通りだと信じますわ、あなたの烈しい愛が何よりの証人ですもの。でもいっそう確信するために、あなたの誓いがほしいのです。とはいえ、妥協で和らげられた誓いでしてよ。――もしもわたくしよりも美しく賢い女に会われたら、ご自由に愛をお誓いになり、結婚なさってもかまいません」

 自分の魅力を確信している王妃には、このような約束は巧みに意表をついた、決して再婚しないと言うも同じな誓いのように思えたのです。王が涙ながらに誓うと、王の腕に抱かれて王妃は亡くなりました。王はかつてないほどに泣き、騒ぎました。

 王は昼も夜も嘆き続けましたが、それを見て人々は思いました。喪の悲しみは長くは続かないだろう、と。王の嘆きようは、まるで急いで事件から抜け出そうとする人のようでしたから。

 果たして、数ヵ月後には王は新しい妻選びに取り掛かりました。しかし、これは容易いことではありません。誓いは守らねばならず、新しい王妃は先ごろ墓に葬ったお方よりも いっそう美しく賢くなければなりませんでしたから。

 宮廷も町も田舎も、周りの王国も、全てを一回りしても条件にかなう女性を探し出せません。ただ、わが娘の王女をのぞいては。王はそれに気づくと烈しい恋心に燃え、気違いじみたことを思いつきました。亡き王妃との誓いゆえに王女と結婚すべきである、と。けれども、若い王女はそれを聞いて泣き暮らしました。

 王女は、遠く離れた螺鈿と珊瑚で飾られた洞窟へ出かけていきました。ここには彼女の名付け親の仙女が住んでいるのです。術に優れた仙女は、王女を見るなり言いました。

「分かっていますよ、あなたがここへやって来たわけも、心の悲しみも。けれども、私がついているからには安心ですよ。私の忠告どおりに振舞うなら、誰もあなたに害を加えることは出来ません。

 帰ってお父上にお願いなさい。お父上の愛を受け入れる前に、空の色のドレスが欲しいのです、と。天がお父上に味方したとしても、この願いをかなえることは出来ないでしょうから」

 王女が帰ってそれを願うと、父王は直ちに仕立て屋に「すぐに空の色のドレスを仕立てよ」と命じました。出来なければ全員を縛り首にするぞ、と。

 次の朝がまだ明けないうちに、望みのドレスが届けられました。青空の最も美しい青でさえ、金色の大きな雲の帯を巻かれた時はこれほど青くはありません。喜びと苦しさに胸ふさがれ、王女はどうすればよいのか分からなくなりました。

「王女様、もう一枚お願いなさい」

 小声で名付け親が囁きました。

「もっと輝かしく、ありふれていないものを。月の色のドレスなら、とてもかなえることは出来ますまい」

 王女がそう望むやいなや、父王は刺繍係に命じました。「月も及ばぬほどの輝かしいドレスを、四日後には間違いなく届けるのだ」

 豪華なドレスは定められた日に届けられました。夜の帳が下りた空で銀の衣装をまとう月も、これほど華麗ではありません。王女はこの素晴らしいドレスに見とれ、ほとんど同意する決意を固めるところでした。けれども、名付け親の吹き込む知恵がそれを押しとどめました。

「まだ満足できませんことよ。もっと輝かしいドレス、それも太陽の色をしたのをいただくまでは」

 他に例を見ないほどの恋心で王女を愛している父王は、ただちに宝石細工師を招き、金とダイヤをちりばめた豪華な布地でドレスを作るように命じ、満足いくように出来なければ拷問にかけて殺すぞ、と脅しました。けれども、王がそこまで言う必要はありませんでした。優れた職人は、その週が終わる前に、貴重な作品を届けてよこしたからです。まことに色鮮やかで美しく、太陽神が天球を金の戦車で駆ける時も、これほど輝かしく人の目を眩ませはしないでしょう。

 これらの贈り物攻めで打ち負かされた王女は、もはや、父王になんと答えていいのか分かりません。名付け親は直ちに王女の手を取って、「いけません」と耳元で囁きました。

「これらの贈り物がかなえられたのは、一体どんな奇跡からでしょうか? あなたも知っての通り、あの金貨を出すロバがいる限り、お父上の財布はいっぱいなのです。あの珍しい動物の皮をおねだりなさい。それはお父上の全財産なのですから、もらえることはありますまい」

 仙女はたいそう物知りでしたが、まだ知らなかったのです。烈しい愛とは、それを満たすことが出来るなら、金も銀も物の数ではないことを。

 王女が望みを口にするやいなや、ロバの皮は直ちに快く与えられました。

 ロバの皮が運ばれてきたとき、王女はひどく怯え、自分の運命を思って悲しみました。急いで名付け親が現れて諭しました。

「お父上には、あなたがすっかりその気になっていると思わせておくのです。けれども、そうする一方で、あなたはたった一人、変装を凝らしてどこか遠い国に逃げなければなれません。間近に迫った危険から逃れるために。

 さあ、ここに大きな箱があります。あなたの服を全部入れましょう。姿見、化粧道具一式、ダイヤモンドにルビーも。

 私の杖をあげましょう。これを持っていれば、箱が地下に隠れたまま、あなたの行く場所へどこへでもついていきます。あなたが開けたくなったとき、杖で地面に触れさえすれば、箱はすぐに目の前に姿を現しますよ。

 ご自分の身を守るには、ロバの皮は最適の仮面です。この皮ですっかり身を覆いなさい。誰も決して思いますまい、このおぞましい皮が美しいものを包んで隠していようとは」

 このようにして変装した王女が、朝のさわやかな時に、仙女の住処を離れたか離れないかの頃、幸せな婚礼の支度を整えていた父王は、不吉な運命に気付いて驚き、家という家、道という道、抜け道までも皆に探させましたが、王女がどうなったのか、どこへ行ったのかは、誰にも分かりませんでした。国中の人々が気落ちし、悲しみに沈みました。

 

 一方、王女は歩き続けていました。汚らしい垢だらけの顔で。出会う人ごとに手を差し出して職を求めましたが、どんな人も、これほど不恰好で汚れきった女を見ては、話を聞いたり、自分のところに引き取ってやる気にはなりません。

 そこで王女は遠く、ずうっと遠くに行きました。ようやくある小作地へやってきたところ、そこの農家のおかみさんが雑巾を絞ったり豚の飼桶を掃除したりするための下女を探していました。王女には台所の片隅があてがわれましたが、無作法でろくでなしの下男たちは手荒く引きずりまわし、文句をつけたり冷やかしたり、駄洒落の的にしては王女を悩ませるのでした。

 日曜日には、王女も少しは休めました。朝のうちにちょっとした仕事を済ませると、部屋に入って戸を閉め切り、垢を落としてから例の箱を開け、念入りにお化粧用の布を広げては、その上に小さなビンを並べるのでした。すっかり満足した気持ちで大きな鏡の前に立ち、ある時は月の色のドレスを、ある時は太陽の炎が燃えるドレスを、またある時は空の青さもかなわぬ美しい青のドレスを着るのでしたが、悩みといったら唯一つ、引きずるほど長い裾を狭すぎる床の上に広げられないことです。

 王女は美しい自分の姿に見とれ、この楽しみは次の日曜までの一週間、辛い労働に王女を耐えさせる原動力になってくれるのでした。

 

 さて、この小作地にはしばしば狩の帰りに王子が立ち寄り、貴族たちと一緒に休息したり、氷水を飲んだりしていました。王子は紅顔の美少年ではありませんでしたけれども、王者にふさわしい風格、戦士の容貌を備え、勇猛さはどんなに恐ろしい軍隊をも震え上がらせるほどでした。

 "ロバの皮"は、ごく遠くから愛を込めて王子を眺めていました。

「なんという堂々たるご様子、なんという魅力あるお方。あのお方と愛を約束された美しい人はなんて幸せなのかしら。どんなつまらないドレスでも、あの方が下さったものなら、今持っているどれを着るよりもずっと映えて見えるでしょうに」

 

 そんなある日のこと、王子がたまたま裏庭から裏庭を歩いているうち、"ロバの皮"のつましい住処のある薄暗い小道を通りました。王子が何気なく鍵穴に目を当てて覗いてみますと、この日はちょうど祝日でしたから、豪華な太陽のドレスを着た王女の姿が見えました。王子は思う存分その姿を見つめ、見つめるうちに危うく息も止まるほどのぼせ上がり、喜びでいっぱいになりました。着ている服にもまして、王女の顔の美しさ、生き生きした肌の白さ、美しい体のシルエット、みずみずしい若さが王子を遥かに感動させました。そのうえ、漂う気品、大人しく慎ましげな様子は心の美しさの確かな印に思え、王子の魂をとりこにしたのです。

 燃え上がる恋の炎に衝き動かされ、三度ほど王子は扉を破って押し入ろうとしましたが、女神を見たように思い、三度とも腕が釘付けになりました。

 王子は宮殿に戻ると閉じこもって物思いに沈み、昼となく夜となく恋の溜息をつきました。ちょうど謝肉祭の最中でしたが、舞踏会へは行こうともしません。狩も嫌い、芝居も厭わしく、食欲もなくなり、何もかもが胸を悪くさせるばかり。その病の根は悲しく手の施しようのない悩ましさなのです。

 王子は尋ねました。あの妖精ニンフのように素敵な娘は誰なのか、真昼でも何も見えないほど恐ろしげに暗い小径の奥の、飼育場近くに住んでいるのは誰なのか、と。

「あれは"ロバの皮"です。妖精ニンフなどではなく」

「頭から被っている皮のせいで、"ロバの皮"と呼ばれております。恋の病を治すには最適ですね。狼を別とすれば、この世で最も醜い動物ですから」

 そう言われても、王子には信じることが出来ません。あの日見た美しい面影は、しっかりと脳裏に焼きついて、決して消えることはないのですから。

 一人息子の憔悴振りに、母の王妃は嘆き絶望していました。悩みを打ち明けなさいと迫りますが、王子は何も言いません。唯一つ口にする望みは、"ロバの皮"に手作りのケーキを作らせて欲しい、それを食べたい、ということだけ。けれども母には息子の言うことが理解できません。"ロバの皮"? それは一体何者なのでしょうか。どうして、そんな者に料理を?

「滅相もありません、王妃様」と、人々は言いました。「あの"ロバの皮"ときたら真っ黒モグラ、一番汚い皿洗いの小僧よりもっと卑しく不潔なのです」

「構いません。王子を満足させなければ。今考えなければならないのはそのことだけです」

 王妃は言いました。もしも王子が食べたがったら、金でも口に入れてやったことでしょう。それほど母は息子を愛していたのです。

 

 そういうわけで"ロバの皮"は、きめ細かなパンだねを作るため、特別にふるいにかけさせた粉と塩とバターと新鮮な卵を手に入れると、上手にパンケーキを焼くために一人で部屋にこもりました。まず手と腕と顔の垢と汚れを落とし、立派な仕事をするに相応しく銀のエプロンをつけると急いで紐を結び、すぐに取り掛かります。

 この時、王女が少しばかり慌てたため、高価な指輪の一つが指から滑ってパンだねに落ち、そのまま焼かれてしまいました。――もっとも、ある人々によれば、王女はわざと指輪をパンだねに入れたのだといいます。王子が鍵穴から覗いたときにも、王女はちゃんとそれに気付いていたのだと。

 これほど上手に粉がこねられたことはなく、長い間食事を摂らずにいて飢えてもいましたから、王子はがつがつと食べて、もう少しで指輪を飲み込んでしまうところでした。

 素晴らしいエメラルドと小さな金の輪を見たとき、王子の心は信じられぬほどの喜びに衝き動かされました。王子はすぐに指輪を枕の下に置きましたが、症状はますます重くなるばかり。経験豊かな医師たちは全員一致で診断しました。――王子は、恋の病にかかっておられる。

 王と王妃は息子を結婚させることにしました。この病にはそれが特効薬でしたから。王子は最初は渋っていましたが、とうとう承知して言いました。

「そうしましょう、この指輪が合う人との結婚を許してくれるなら」

 この奇妙な望みを聞いて王と王妃は困惑しましたが、息子の病が重かったので反対はしませんでした。

 花嫁探しが始まり、血統にはお構いなく、指輪に合う者が花嫁になれることが決められました。王子の花嫁になるにはほっそりした指でなければならないとの噂が広まり、ある娘は蕪のように指をかきむしり、別の娘は指の先を切り落とし、またある娘は指を締め付け、他の娘は指を何かの液に浸けて皮をむいてしまいました。指輪のテストは若い王女たちから始まり、次に貴族の娘たち、平民の娘たちと進んでいきましたが、中には非常に姿かたちの良い娘がいて、そのほっそりした指がぴったり合うように思えたのに、いつも大きすぎるか小さすぎるかして、誰一人合う者がいないのです。とうとう召使や料理女、七面鳥番の女たちと、下働きの女たちにまでお鉢が回ってきましたが、やはり、誰も合う者はいませんでした。

 ついには、もう終わりかと思われました。何故なら、残っていたのは台所の奥のみじめな"ロバの皮"だけだったからです。皆は口々に「あれが王妃の位につく天命などありはしない」と言いました。「何故いけない? ここへ連れて来るように」と王子が言うと、皆は「あの醜い女をここに来させるのですって!」と笑いました。

 それでも、とうとう"ロバの皮"が連れて来られました。彼女が黒い皮の下から象牙のように白くほんのり赤味のさした手を出すと、運命の指輪はぴったりとその小さな指にはまりました。宮殿中が、とてつもない驚きに呑まれました。この出来事に興奮した人々はすぐに彼女を王のもとへ連れて行こうとしましたが、"ロバの皮"は「王にお目通りする前に別の服に着替える時間をください」と頼みました。これを聞くと、また皆は笑いそうになりました。

 ところが、宮殿に"ロバの皮"が到着して、華麗な服に身を包み、広間を通っていくと、その美しさはかつて類のないほどでした。愛らしい金髪にはダイヤがちりばめられて光の矢を放ち、青い切れ長の瞳は誇り高い威厳をたたえて見る者を惹きつけずにはおれず、そのほっそりと華奢な腰は両手で抱きしめられるほどです。こうした魅力と神々しいほどの優美さを前にして、宮廷の貴婦人たちもその身の飾りも全て色褪せてしまいました。

 王も王妃も、息子の嫁がこれほどの魅力の持ち主であるのを見て我を忘れて夢中になり、王子はといえば、数知れぬ喜びに心がいっぱいで、歓喜の重みに押しつぶされそうでした。

 婚礼のために人々がそれぞれ手を打ちました。王は近隣諸国の王たちを全て招き、王たちは華やかに飾り立ててやってきました。東の国の王は大きな象に乗って現れ、ムーア人の王は色黒で醜かったので子供たちを怖がらせました。けれども、花嫁の父ほどに華々しい登場をした王はいません。かつては娘に恋焦がれたこの父も、時と共に、その恋の炎を清めておりました。罪深い欲望を追い払い、わずかに心に残った炎は、父親としての愛情をかえって強めるのでした。父王は、娘を見るなり

「神に讃えあれ、再びお前に引き合わせてくれるとは、いとしい娘よ」と言って駆け寄り、喜びに涙しながら優しくキスしました。誰もが父王の幸福に好感を持ち、王子はこんなに力強い王の婿になれると知って喜びました。

 この時名付け親が到着し、一部始終を物語り、"ロバの皮"の栄光はこの上もなく高まったのでした。




 よくお分かりでしょう。この物語は子供たちに伝えてくれるはずです。

 世の道義に背くくらいなら苦しみに身を投じるほうがマシであること。徳ある者は不運にも遭うが、必ず栄光に飾られることを。

 

 狂おしい恋の情熱の前には強靭な理性も脆い堤防でしかなく、恋する男はどんなに高価な宝でも惜しげもなく使うこと。

 美しい衣装さえあれば、うら若い娘はパンと水だけで充分暮らしていけること。

 この世の女性なら誰しも自分の美しさにうぬぼれがちで、金のリンゴを三女神から勝ち取れるとすら思い込んでいることを。

 

 この物語はいかにも空想的ですが、この世に子供たちがいる限り、母親や祖母がいる限り、きっと忘れられずに伝えられていくことでしょう。

 



参考文献
完訳 ペロー童話集』 シャルル・ペロー著、新倉朗子訳 岩波文庫 1982.

※1961年の『韻文による物語 Griselidis, Nouvelle avec le Conte de Peau d'Asne et Souhaits ridicules』より。原文は韻文(詩)だが、読みやすいように散文形式にした。

 珍しいことに、近親婚を強要した父王と和解する結末。『ペンタメローネ』版の「手無し娘」にも同様のモチーフが見える。

 グリムの「千匹皮」と比べてみるとはっきりするが、この話は「花世の姫」など、日本の「姥皮」系の話によりいっそう似ている。日本の姥皮系の話では、、他が寝静まっているとき、娘が風呂に入っていたり、明かりをつけた部屋で皮を脱いでいるところを若様が覗いて恋に落ちるが、「ロバの皮」では《昼でも真っ暗な小径の奥の小屋》を王子が覗く。通りがかった小屋の鍵穴を覗く王子ってどうよ、という気がするが、これは恐らく、暗黒の冥界の奥を覗いてこの世ならぬ美女(女神)を覗き見る、というイメージなのだろう。こっそり汚れを落として大地から出した衣装を着ていたところを高貴な男が見て恋に落ちるモチーフは、アフリカのズールー族の類話にもあるようだ。



毛皮娘  トルコ

 昔、子供のない太守バディシャが、奥方と散歩に出て一人の托鉢僧(別説では魔神デルウィシ)に出会った。子供のことを相談すると、一個のリンゴをくれて、これを奥方と半分ずつ食べれば近く娘が生まれるだろうが、その娘は毛皮娘と名付けなければならない、と言う。そんな名前を付けるのは不服だったものの、太守はリンゴを受け取って帰って、夜になると奥方と分けあって食べた。

 間もなく娘が生まれたが、奥方は娘をろくに見ることもできないうちに病気になって死んだ。そして「私の腕輪がピッタリと合う娘としか再婚しないでください」と言い遺した。

 娘が十七歳になったとき、太守は再婚を決意し、国中を探したが腕輪の合う女は見つからない。ところが、最後に試しに自分の娘にはめさせてみたところピッタリと合うではないか。彼は娘と結婚することに決めた。

 娘は散々抗議しても無駄だったので、父の従者で実の父のように自分を愛してくれている羊飼いを訪ね、屠殺した羊の皮を一枚、譲ってくれるように頼んだ。そしてそれを被って地面を引きずらせながら逃げ出した。

 彼女は森を抜け、狼などの野獣に出遭って苦労しながらも、ついにある都に着いた。この町の太守の羊飼いが城へ帰ろうとしていたので、羊の群れに混じって城の門まで行った。下男が羊を小舎に入れようとすると、中の一匹が入りたくない、と言う。下男は驚いて太守のもとへ行き、人間のように口をきく羊がいると報告した。太守はその羊を連れてくるように命じた。連れてこられたのを見ると奇妙な毛皮を着てはいるものの人間の娘のようで、《毛皮娘》と名乗った。太守は彼女に一室をあてがって城に置いた。

 そのうちに、太守は一人息子のためにあらゆる町の若い娘を招いて祝宴を開くことにした。王子の花嫁を見つけるためのもので、気に入った娘を見つけたら王子が金のまりを投げつける手筈になっていた。

 祝宴の日、侍女達は毛皮娘も一緒に行こうと誘ったが、彼女は断わって居残った。けれど全員が城から出かけてしまうと、羊の皮を脱いで黄色い服に着替え、祝宴の行なわれている庭園に出かけた。彼女は庭の隅にいたが、たいそう美しかったので、王子は見染めて彼女めがけて金のまりを投げた。娘は逃げて毛皮娘に戻った。

 帰ってきた侍女達が毛皮娘に美しい娘の話をすると、毛皮娘は「私だって、こんな毛皮を着てなければ行ったでしょうよ」と返した。

 太守は祝宴を十日間続けることにした。二日目も、毛皮娘は城に誰もいなくなると緑の服に着替えて宴会に出かけた。王子が彼女を見つけてまりを投げたが、娘はあらゆる困難を切り抜けて逃げてしまった。城に帰ってきた侍女たちは、「またあの娘が来ていたけれど逃げてしまったわ。王子様は、もし三度目にも捕まえられなかったら、彼女を探しに旅に出ると仰っていたわよ」と言った。

 三日目には、娘は城に誰もいなくなると純白の服に着替えて出かけた。王子は金のまりを投げ、彼女はそれを受け取った。その日、宴会の会場には警官たちが配備され囲まれていたのだが、どうやったのか、娘は警官たちの間をすり抜けて姿をくらました。

 王子はいよいよ旅に出ることにした。皆は王子に餞別を贈ることにしたが、毛皮娘はやたらと大きなパイを作って差し出した。王子はこのおかしな贈り物を笑って受け取って、鞍のポケットに押し込むと隊商を組んで出発した。

 こうして幾つもの国を訪ね廻ったが、どこにもあの娘はいなかったので、どこまでも旅を続けるしかなかった。そのうちに盗賊団に襲われ、王子は荷物も仲間も失ってしまった。

 その時ふと、鞍のポケットに入れておいたあのパイが目に付いた。空腹だったのでこれを取りだして食べ始めたが、二口目に齧りついたとき、中に固い物が入っていることに気が付いた。あの金のまりだった。王子はついに、愛しい人は最初から城にいたのだと悟った。

 王子は数々の冒険の末に帰国し、皆で毛皮娘の毛皮を切り裂いて引き出した。そして、二人の婚礼の祝いは四十日と四十夜続いた。



参考文献
『世界のシンデレラ物語』 山室静著 新潮選書 1979.

※まわりくどいアピールをする女である、毛皮娘。おかげで王子はしなくていい苦労をし、その仲間は命を落とした。

 リンゴまたは金の魚を夫婦で分け合って食べて子を授かるモチーフは、「ヴォルスンガ・サガ」「双子の王子」などでも見られる。


参考 --> 「青い牡牛」「小指の童女



雌熊  イタリア 『ペンタメローネ』二日目第六話

 昔、ロッカスプラに美の権化のごとき奥方を持つ王がいた。この奥方は病気で若くして命を失ったが、その寿命のロウソクが燃え尽きる前に夫を枕元に呼ぶと、息も絶え絶えにこう言った。

「あなたが私を何者にも増して愛してくださったことはよく存じております。この命も残り少なくなりました今、あなたの愛の証に約束してくださいまし。わたくしと同じほどに美しい女でなくては、決してめとるまい、と。それがお嫌なら、あなたを力の限り呪って、あの世へ去ってもお憎みいたしますわ」

 王は奥方をこの上なく愛していたので、この願い事を聞くとわっと泣き出してしまい、しばらくは言葉もなかった。

「このわしが再婚だと! それくらいなら槍で串刺しにでも、八つ裂きにでもしてもらおう。そんなことは考えないでくれ。他の女に愛を感じるなど思いもよらぬ。そなたこそ、私が初めて愛をささげた人。この愛欲の残り全部、さあ、そなたにあげてしまおう」

 これを聞き届けると、ぜいぜいと喉を鳴らしていた奥方は、白目をむいて事切れてしまった。これを見た王は身も世もなく悶え泣き喚いたが、世の常のことながら、夜になると、もう次に娶る奥方のことを考え始めていた。

「妃がみまかって、わしは寂しいやもめ暮らしの身。忘れ形見の可愛い娘だけで跡継ぎとておらぬ。だから、息子が必要じゃ。しかしながら、亡き妃に比べれば、他の女どもはまるで化け物同然だというのに、一体どうやって妃と同等の美女を手に入れたものだろうか。いや、待て、最初から諦めていてはならぬ。この世界に女は先の妃だけではないのだから」

 王は布告を出した。「全世界の美女たちよ、来たりて美を競え。王は最高の美女を妃とし、王国を与えるだろう」

 これを知って王国中の女が集まってきた。というのも、女はうぬぼれるもの、誰もが自分こそが最も美しいと信じて疑わないからだ。王は女たちを横一列に並べて、その前を行ったりきたりしながら、じろじろと値踏みした。けれども、どこかしら欠点が目に付いて、一人も気に入る女がいなかった。

 女たちを全て帰してしまい、それでも再婚したいと考えたとき、はたと王の頭に浮かんだのは、自分の娘プレツィオーサのことだった。娘は亡き妃に生き写し。そんな女が身近にいるのに、何故世界の果てまで女を探すという苦労をせねばならないだろう。

 王がそれを娘に告げると、プレツィオーサは猛烈な非難の言葉を父に浴びせた。父王は烈火のごとく怒って、

「黙れ、今夜、婚礼じゃ。覚悟しろ。聞かぬと斬り捨てて細切れにしてくれるぞ!」と、怒鳴りつけた。

 プレツィオーサが部屋にこもって嘆いていると、いつも化粧品を売りに来る老婆がやって来て驚いてわけを尋ね、慰めて言った。

「勇気を出して、よくお聞きなさい、今夜、父上が種馬のように振舞おうとしたら、この小さな棒を口に含みなさい。するとその場で熊に変身します。そうしたら、父上が震えている間に逃げるのです。まっすぐ森へおいでなさい、運が開けますからね。人間の女の姿に戻りたいときは、口から棒を出すのです」

 プレツィオーサは老婆に心底感謝して、粉とハム二つとラードを沢山、エプロンに入れて帰してやった。

 日が暮れると、王は楽師たちを呼びつけて大晩餐会を開き、五、六時間もぶっ通しで踊って、客たちにもたらふく食べさせてから、いよいよベッドに花嫁を連れてこさせた。すると、プレツィオーサは王に近づくや否や、あの棒切れを口に含んだもので、たちまち恐ろしげな熊に変わって王に迫り脅した。王はこの魔法に震え上がって、布団にもぐりこんだまま朝になっても隠れたきりだった。

 その間にプレツィオーサは王宮を抜け出して、森の中に逃げ込んだ。そこで森の動物たちと楽しく暮らしていたが、ある日、アカコッレンテの王子が狩にやって来て、この牝熊と出くわした。

 王子は熊を見て死ぬほど怯えたのだが、見ていると、自分の周りを歩き回るばかりで決して襲ってきたりしない。それどころか子犬のように尻尾を振ったり寝転んだり甘えてみせるので、とても気に入って、「よしよし、可愛いワンワンだね、熊ちゃんや、いい子のコロちゃんや」などとあやして、家に連れ帰ってしまった。そして、自分に対するのと同じようにこの熊にもしてやってくれと皆に命じて、いつでも様子が眺められるように王宮の庭園に放し飼いにした。

 そんなある日のこと。他の者が出払って王子一人だったとき、熊を眺めようと窓辺から見下ろすと、熊がいない。代わりに、金髪をくしけずっているプレツィオーサが目に留まった。その信じられないような美しさに王子は仰天して、階下に駆け下りて庭にまろび出た。しかしプレツィオーサは身の危険を感じて素早く棒を口に含み直していたので、そこには熊しかいなかった。王子は庭中探し回ったが、見たはずのものが見つからないので、失意のどん底に落ち込んでしまい、鬱々として、四日後には本物の病人になってしまった。そして「ああ、僕の熊、熊ちゃん」と呟いてばかりいるので、母君は息子がこうなったのはあの熊のせいだと思い、熊を殺すように命じた。しかし、皆この大人しい熊を可愛がっていたので、召使たちは熊を森に連れて行って放してやり、母君には「殺しました」と報告しておいた。

 このことが王子の耳に入ると、病人なのにベッドから飛び出し、「召使どもめ、滅多切りにしてくれるぞ!」と怒り狂った。真相を聞かされると、今度は半死半生の体で馬にまたがり、森へ行って、探しに探してやっと熊を見つけた。王子は熊を王宮に連れ戻すと、自分の部屋に入れて熱っぽく懇願した。

「おお、王侯にこそ相応しいお前、何故獣の皮に身を隠すのか。どういうわけで僕を焦らすのだ。お前の美しさに恋焦がれて、死にそうなのが、ほら、分かるだろう。だから、この可愛い毛皮のカーテンを開けて、お前の愛らしい体を見せておくれ。お前の優美な姿を披露してくれたら、僕の愛を謝礼として支払おう。僕の心の病気の特効薬は、お前の心だけなんだ」

 このように繰り返し頼んでも、なしのつぶてだった。王子はベッドに倒れこんでひどい発作を起こしたので、医師団もさじを投げかけた。息子だけがこの世の喜びという母君は、ベッドのふちに腰かけて、王子に話しかけた。

「一体何を悲しんでいるの、何故そんなに憂鬱なの。あなたは若くて皆に愛されていて、高貴な身で財産もあるのに。何が不足なのですか。内気な人は損をするだけですよ。結婚したいのなら、花嫁を選びなさい。贈り物をそろえてあげますから。あなたが決めさえすればいいのですよ。

 あなたが悲しめば私も悲しく、あなたの動悸で私の心臓が衰えます。年老いた私の支えとなるのはあなただけですもの。どうか、私のためにも元気になっておくれ。この国を不幸に落とし入れ、この家を滅ぼし、あなたの母親を捨てて去っていくようなことはしないでおくれ」

 王子は母君の優しい言葉に答えて言った。

「僕はあの熊だけが慰めなんです。だから、元気になってほしかったら、あの子をこの部屋に連れてきて、あの子だけに看病してもらって、ベッドメイクも料理もしてほしい。そうしたら嬉しくてすぐ治ってしまいますよ」

 母君は、熊が料理したり小間使いみたいにするなんて馬鹿馬鹿しい、息子は頭が変なんだわ、と思ったものの、それで慰められるなら、と熊を連れてこさせた。すると、熊はベッドのところまで歩いていって、前足を上げ、まるで看護師みたいに脈をとったものだから、母君は熊が今にも我が子の鼻を掻き取ってしまうんじゃないかと肝を潰した。けれども、王子が「僕のチャッピーナ、何か作って食べさせて、看病してくれるかい」と訊くと、熊は、分かりました、という印にこっくりしている。

 そこで母君は鶏を二羽ばかり持ってこさせ、病室で小さなコンロに火をつけて鍋もかけさせた。熊は鶏をつかんで煮えたぎる鍋に放り込み、羽をむしり、臓物を出して、串焼きと細切れの料理とを作った。今まで砂糖水さえ飲み込めなかった王子はそれらの料理をぺろりと平らげてしまい、熊は食後には優雅な身のこなしで飲み物さえ出したので、母君は熊の額にキスしてやりたいほどだった。

 この後、王子が起き上がってトイレに行っている間に、熊はベッドをきちんと整えてから、庭に走り出て、バラとレモンの花を摘んできてベッドに撒き散らしたので、母君は、この熊は本物だ、我が子がこんなに愛するわけも分かった、と納得したのだった。

 王子の方はといえば、熊のしとやかな立ち居振る舞いを目で追うほどに、ますます恋の炎が燃え上がり、どっと急激に消耗して、「ああ、母上、チャッピーナにキスさせて。でないと死にそうだ」と、息も絶え絶えに言った。母君は我が子が気を失いそうなのを見て、「優しい熊さん、この子に早くキスしてやってください。可哀想に、どうか死なせないで」と頼んだ。

 熊が王子の側に行くと、王子は熊の頬を両手で抱え込んで、何度も何度もキスをした。そうしているうち、あの棒切れがプレツィオーサの口から転げ落ちた、と見るや、王子は美しい人間の女を腕に抱いていた。王子は女を鉄のようにがっしりと抱きしめて、「さあ、つかまえたぞ。もう逃げ出すわけにはいかないだろう」と叫んだ。プレツィオーサは頬を染めて言った。

「とうとうつかまってしまいましたわ。ですから、わたくしを大事にしてくださいまし。そしてお好きなようにお料理して召し上がれ」

 母君が色々と尋ねたので、プレツィオーサは身の上を語った。母君はプレツィオーサの貞淑振りを褒め称えて、王子に、喜んでこの結婚に賛成する、と言って祝福した。王子も願ってもないことと固く愛を誓い、そうして、婚礼を祝う輝くばかりの大祝宴が催された。

 このように、プレツィオーサはその身の行動をもって、

善いことをすれば幸せになれる

ということを証明したのだった。



参考文献
『ペンタメローネ[五日物語]』 バジーレ著、杉山洋子・三宅忠明訳 大修館書店 1995.

※熊が脈をはかって料理してベッドに花を撒き散らすのを見て母君が驚き感心するシーンが妙に好きなのだった。

 他の類話だと、醜く姿を変えて化け物呼ばわりはされていても、あくまで人間として下働きに雇われており、むしろ蔑まれているのだが、この話だと、本物の熊に姿を変えていて、けれども城中の者に愛されている。なんだか面白い。

 熊を愛する王子の姿には、熊を祖霊とする神婚神話の片鱗が仄見える。


参考 --> [りんご娘]「オレンジ生まれの娘




おまけ

 以下は「ヴォルスンガ・サガ」の続編にあたる物語で、十二世紀頃に成立したと言われている。《毛皮ズボンのラグナル》と呼ばれる、竜退治の英雄にしてバイキング船団の長であるラグナルと、彼の妻であるアースラウグ、そして息子たちの物語だが、その一部に[火焚き娘]または【箱の中の娘】に近いエピソードがある。その概略を紹介する。

ラグナル・ロズブロークのサガ  アイスランド

 シグルズとブリュンヒルデの間にはアースラウグという娘があり、ブリュンヒルデの養父でもあるヘイミル王がこれを引き取って養女として育てていた。ところが彼女が三歳の時にシグルズが謀殺されブリュンヒルデが自害したという報せが届き、追及の手が伸びることを恐れたヘイミルはアースラウグと共に遠い地へ逃げることに決めた。

 内部に人間の入れる特別製の竪琴を作ってアースラウグを入れ、しゃぶれば命をつなげる薬草(リーク葱)と黄金や服も入れた。竪琴の蓋を開閉する仕掛けはヘイミルにしか分からないものであった。彼は竪琴を抱えて水辺に沿って旅し、時に中からアースラウグを出しては水浴びさせ、薬草を食べさせた。

 やがてノルウェーのスパンガルヘイデという農地に至った。そこには小さな家があり、アーキという老いた貧しい農夫が妻のグリーマと二人きりで住んでいた。アーキが森に出かけて留守のとき、竪琴を抱えたヘイミルが訪ねてきて、ここに身を寄せさせてくれないかとグリーマに頼んだ。グリーマは渋ったが、竪琴の蓋の端から豪華な服の房飾りらしきものが覗いており、ヘイミルのぼろ服の下に黄金の腕輪らしきものが見えることに気づくと、彼を外にある大麦貯蔵庫に泊めてやった。

 夫が帰って来ると、グリーマは「あの旅人はきっと金持ちだ、殺して財産を奪ってやろう」と持ちかけた。アーキは非道なことだと非難したが、グリーマが「あの旅人は私に色目を使ったよ。あの男と一緒になってあんたを追い出してもいいのかい」などと煽り立てたので、アーキはついに斧を取って貯蔵庫へ行き、一撃してヘイミルを殺した。ヘイミルの断末魔の叫びは貯蔵庫を震わせ、粉砕させたほどであった。

 竪琴の特殊な蓋は夫婦には開けられず、竪琴そのものを破壊してみたところ、中から金銀財宝と共に世にも美しい少女が現れた。アーキはこんな幼子に酷い運命を与えてしまったと後悔したが、グリーマは意に介さない。夫婦は少女に身の上を尋ねたが、彼女は口を閉ざして何も言わないのだった。

 夫婦は少女にクラーカ(カラス)という名を付けて、娘として育てることにした。それにしても娘があまりに美しく、醜い自分たちの娘だと言うには無理があるだろうとアーキが心配するので、グリーマは娘の髪を剃り、肌にタールや何やらの汚いものを塗って体を洗うことを禁じ、フード付きの粗衣をまとわせ、ひどくみすぼらしく見せかけることにした。そうして酷使して家畜番をさせたのである。

 

 一方、ガウトランドの豊かで権勢あるヘルルズ侯は、ソーラという美しい一人娘を持っていた。父親は娘のために東屋あずまやを建て、また色々な贈り物もしたが、その一つが小さくて奇麗な蛇だった。ソーラは可愛いこの蛇を箱に入れて飼い、蛇が巻きつけるように黄金を入れたが、蛇はどんどん大きくなり、それに従って黄金まで増大した。とうとう蛇は箱に収まりきれなくなって東屋いっぱいになり、ついには東屋をぐるりと取り巻いて頭と尾が接するような具合になった。毎食事ごとに牛一頭をぺろりと食べる。誰もこの竜に手は出せず、ソーラを含む東屋の者たちは囚われた。ヘルルズ侯は、この竜を退治した者に黄金を与え、娘婿にするとの宣誓をした。しかしなかなか挑戦者は現れなかった。

 さて、その頃デンマークを支配していたシグルド・リング王の息子ラグナルは、自身の兵と船団を持つ、並ぶ者のない勇士であった。彼は毛皮をピッチで煮立てた、鎧のように硬いズボンとマントを持っており、《毛皮ズボンのロズブロークラグナル》と呼ばれた。

 彼はヘルルズ侯の宣誓を知っても興味なさげにふるまっていたが、ある夏の日に船団をガウトランドに向かわせた。ヘルルズ侯の屋敷からそう遠くない入江に密かに停泊して一晩を過ごすと、翌朝早く、例の毛皮のズボンとマントを身につけ、槍を持って、独りで船から降りた。彼はヘルルズ侯の館の門から入り、東屋を取り巻く竜の背を二度刺した。槍の穂先が取れて竜の体内に残り、断末魔の竜のもがきは東屋全体を震わせた。

 ラグナルが立ち去ろうと背を向けると、竜の血しぶきが彼の両肩の間に降り注いだ。しかし特殊な毛皮マントのおかげで何のダメージも受けなかった。

 東屋の人々は大きな振動で目を覚まして外に飛び出て来た。ソーラは妖精トロルのように逞しく美しい男の背を見て名を尋ねたが、彼は、自分が十五歳であることと竜を退治したことを示す歌を詠ったのみで、名乗ることなく立ち去った。

 ソーラは父に願い、近隣の男たちを招集せた。竜退治した男は、その際に使った槍の柄を持って来るように、と。多くの男たちが槍の柄を持って集まったが、竜の体内に残されていた穂先とは合わなかった。最後に、会場の端にいたラグナルに順番が回ってきた。彼の柄は穂先にぴたりと合った。これによりラグナルが竜殺しであることが証明され、ソーラと結婚した。二人の間にはエイリークとアグナルという立派な息子が授かった。

 しかし、やがてソーラは病に倒れて亡くなった。ラグナルは非常に落胆し、国を息子たちに任せて、若い頃のように船団を率いて戦いに向かうようになった。

 

 ある夏の日のこと、ラグナルは親族や友人に会うためにノルウェーに船団を向かわせ、スパンガルヘイデの農地からそう遠くない場所に停泊した。朝になって、料理番がパンを焼くために上陸し、竈を借りようと農地の小さな家を訪ねた。他方、アースラウグはいつものように家畜を追って海岸に出かけていたが、大きな船団が停泊していることに気づくと、養母の禁を破って小川で身体を洗って身じまいした。彼女は大変に美しく、幼い日に剃られて以降は切っていない髪は地に届くほど伸びて身体を覆い、金色の絹糸のようであった。彼女は家に帰って、ラグナルの料理番を手伝った。しかし料理番はアースラウグの美しさに見とれて料理を焦がした。

 船でこの料理を出された者たちは口々に不味いと不平を言い、料理番を処罰すべきだと言った。ラグナルにどうして料理に失敗したのかと問われ、クラーカという美女に見とれたからですと料理番は告白した。ラグナルは亡き妻ソーラとその美女のどちらが美しいかと問うた。彼は、ソーラ様に劣らずお美しいですと答えた。

 ちょうど風向きが悪くなって出航できなくなったこともあり、ラグナルは《カラス娘クラーカ》の才智を試したいと思って、「服を着ず、さりとて裸でもなく、食事を食べず、といって空腹でもなく、付き添いを伴わず、しかし独りきりではなしに訪ねて来させよ」と部下に伝言させた。アースラウグは裸に魚網をまとって髪で体を覆い、リーク葱のみを食べ、犬を伴にしてやって来た。また、自分と犬の身の安全が保障されぬ限りは船に入りませんと言い張った。ラグナルは娘の賢さに感心したが、犬はラグナルがアースラウグに手を差し出すと噛みついたので、その場でラグナルの部下に弓で射殺されてしまった。

 アースラウグと会話していよいよ彼女が気に入ったラグナルは、亡き妻の形見の金の刺繍の衣装を渡して結婚を申し込んだが、アースラウグは「貧しい農夫の娘である限り、私にはそんな衣装を着る資格はありません」と、普段の惨めな生活について物語った。「それでも私を連れて行ってくださると言うのなら、後で部下の方を迎えに寄越してはくださいませんか」と。ラグナルは承知し、アースラウグは家に帰った。

 やがて風向きが良くなって出航の目処が立つと、ラグナルはアースラウグに使者を送った。アースラウグは朝まで待ってくれるように頼み、翌朝早く、養父母の寝室に行って話した。「本当は、元の養父のヘイミルを殺したのがあなたたちであることを私は気付いていました。けれどあなたたちと長く共に暮らして、今はもう恨んではいません。それでも私はここを出ていきます。私たちはここで別れた方がいいのです」と。

 クラーカと名乗るアースラウグはラグナルと共に出航した。ラグナルは彼女と床を共にしたがったが、アースラウグは正式に結婚するまではいけませんと説得し、ラグナルも承知して、以降は楽しい船旅をした。ところが、国に着いて婚礼を挙げての初夜になっても、まだ触れないでほしいと言う。無理強いすればよくない結果になると。ラグナルが驚いて、いつまでそうするつもりかと問うと、彼女は「これから三晩は、床を共にしても触れ合ってはならない。神々の許しが得られないことには。さもなければ骨なしの息子が生まれ、永遠の罰を受けるでしょう」と詠った。しかしラグナルは我慢ができずに思いを遂げてしまった。

 

 時が流れてアースラウグは男児を産んだが、その子・イーヴァルには骨がなく、骨のあるべきところには筋のようなものがあるのみであった。彼は杖なしには歩けなかった。しかしすくすくと育ち、容姿端麗で、頭の良さでは誰にも負けなかった。

 夫婦の間には更に三人の男児が産まれた。次男はビョルン、三男はフヴィートセルク、四男はラグンヴァルドで、みな勇敢で武術に優れていた。ラグナルの先妻の子、エイリークとアグナルも優れており、兄弟たちはヴァイキング船に乗っては各地を飛び回った。

 日々が流れ、兄弟たちはイーヴァルの指揮のもと、危険と言われるウィトビィの討伐に向かうことになった。イーヴァルは告げた。この地を制圧できた者はいない。何故なら、屈強の兵たちと強力な神殿があるからだと。また、要塞の街には魔力持つ二頭の巨大な牛が飼われていて恐ろしい唸り声をあげる。これに耐えられた者はいないと。

 兵を率いた兄弟は要塞の街に攻め入り、イーヴァルの指示のもと、二頭の牛は弓で殺された。街の住民は殆ど逃げ去り、兄弟たちは財産を略奪してから街に火を放って立ち去った。この戦いの中で、兄たちの戒めを破って戦いに参加した末弟のラグンヴァルドが死んだ。

 

 その頃、スウェーデンはエイステインという王が治めており、彼にはイングボルグという絶世の美しさを誇る娘がいた。エイステイン王は神々への供儀に熱心で、多くの生贄を捧げていた。その地ではシビリヤという牝牛への信仰が盛んで、王は敵が攻めてくると自軍の前にこの牝牛を置いた。シビリヤが吠えると敵軍は正気を失い、互いに攻撃し合ったり呆然としたりするのである。

 エイステイン王は多くの王や勇士と親交があり、ラグナルもその一人だった。ラグナルが訪ねたとき、エイステインは娘にラグナルのワインの酌をさせた。周囲はラグナルとイングボルグの仲を噂し、ひやかした。ラグナルはイングボルグに気があるのだ、なにしろ彼の妻のクラーカは農夫の娘に過ぎないのだからと。ラグナルがイングボルグに求婚するまでにそう時間はかからなかった。

 帰郷の途中の森で立ち止まり、ラグナルは部下たちに、このことは妻のクラカには黙っているようにと口止めした。しかし彼女は知っていた。木に止まっていた三羽の小鳥が彼女にそれを伝えたのである。アースラウグは自分がシグルズとブリュンヒルデの娘で、二人が最初に岩山の上で出逢った時の交わりで宿った娘であり、本当は農夫の娘ではないと明かした。クラカも仮の名であり、母・ブリュンヒルデが付けてくれた名はアースラウグだと。

「今、私は男児を妊娠していて、その子の目には蛇が宿っています。それが間違いなければスウェーデン王の娘を貰い受けに行かないでください。もし間違っていれば、私をどのように扱っても構いません」

 果たして、アースラウグは目の周りに蛇が取り巻いたような痣のある男児を産んで、父の名を取ってシグルズと名付けた。この子はシグルズ・オルム(蛇の目のシグルズ)と呼ばれた。ラグナルはこの子を祝福し、スウェーデン王の館へは行かなかった。ラグナルの妻がシグルズとブリュンヒルデの娘であることは知れ渡り、一目を置かれた。

 

 約束を反故にされたエイステイン王は激怒した。これを知ったラグナルの長男エイリークと二男アグナルは船団を率いてスウェーデンへ進軍を開始した。しかしエイステイン王は軍略に長け、更にシビリヤ牝牛を前線に出して吠えさせたので、ラグナルの息子たちの軍は瓦解し、アグナルは戦死してエイリークは捕虜となった。

 エイステイン王はエイリークに言った。軍を引いて相応の賠償をし、更に我が娘イングボルグを妻に迎えよと。しかしエイリークは、弟を殺した者に頭を下げる気もなければ娘を妻にすることもないと突っぱねた。兵は大人しく引き揚げるだろうが自分はおめおめと戻るつもりはない、お前たちは出来るだけたくさんの槍を地に立てよ、私はその上に身を投げて命をここに置いていく、と。

 エイステイン王は、それが両国にとって最悪の結果を招くだろうと分かっていたが、彼の望みを叶えた。エイリークは見守る部下たちに腕輪を投げて、継母アースラウグに辞世の句を伝えるよう頼み、槍の上に身を投げた。頭上を飛び交うカラスを見ながら彼は息絶えた。

 使者たちは急ぎ帰国して、三日後にアースラウグにこのことを伝えた。ラグナルは王たちの会合に出席し、息子たちはバイキング船でウィトビィ討伐に向かって留守にしており、末の息子のシグルズ・オルムはまだ三歳だった。幾つかのことを使者に尋ねた後、アースラウグは血のような涙を流した。彼女がこのような涙を流したのは、後にも先にもこの時だけであったという。

 ラグナル王より先に息子たちが帰郷した。アースラウグは息子たちの館を訪ね、兄たちのために血の復讐をしてほしいと言った。しかしイーヴァルは、スウェーデン王の牝牛は恐ろしい魔力を持っていて到底敵わないと断った。だが、話を聞いていた三歳のシグルズ・オルムが詠った。たとえ戦死して母上を悲しませることになるのだとしても、僕は三晩で兵を集めて戦おう。僕らが勝てば、たとえ賠償を差し出したところで、エイステインはもはや統治できないだろうと。これを聞くと兄弟たちの気が変わり、血の復讐を実行することになったのである。

 兄弟たちはそれぞれ動いて(シグルズ・オルムは、代父が代行して)、船と兵を掻き集めた。アースラウグはランダリーンと名を変えて陸路の軍を率いた。彼らはばらばらに出発し、途中で通ったエイステイン王の領地の民を皆殺しにした。

 ついにエイステイン王の軍と激突し、牝牛が吠えると、案の定、ラグナルの息子たちの軍は混乱して相打ちを始めた。イーヴァルは大木で造らせた強弓を軽々と引いて、牝牛の眉間の間を射た。牝牛はますます凶暴になって暴れたが、イーヴァルは部下たちに自分を牝牛めがけて投げつけるよう命じた。部下たちが彼を抱えあげると、まるで子供のように軽く感じられた。ところが牝牛にぶつかったとき、彼は大石のように重かった。骨を粉々に砕かれて牝牛は死んだ。牝牛の守護を失ったスウェーデン軍は破られ、エイステイン王は討たれた。

 

 その後、アースラウグは帰国したが、兄弟たちは南の国々への襲撃に向かい、幾つもの町を襲撃して支配した。彼らの最終的な目的はローマであった。

 そんな中、彼らはヴィヴィル王の支配する城壁の町ヴィヴィルブルグを攻めた。しかし城壁は強固で半月経っても攻め落とせない。ついに立ち去ることに決めたが、その様子を見た町の人々は城壁の上に高価な織物を広げて金銀財宝を並べ、「ラグナルの息子どもとその家来たちは勇敢な戦士だが、目的の物に近づく能力は人並み以下のようだ」と嘲笑って、盾を打ち鳴らし雄叫びをあげた。イーヴァルはこの叫びに驚いた自身を悔しがり、退くことをやめて、城壁を火攻めにし、石灰セメントが溶けだしたところを破壊して攻め入った。人々は殺され、財産は略奪されて、町は焼け落ちた。

 

 次に彼らは城壁の町ルーナブルグを支配した。そこに一人の物乞いの老人がやって来た。旅を続けていると言う彼にローマまでの距離を訊ねると、彼は自分の履いている鉄の靴と、背負ったもう一足の擦り切れた鉄の靴を見せて、これだけの距離があるのだと言った。これを見て兄弟はローマ行きを断念し、帰国することになった。

 

 一方、ラグナル王は帰国して、妻と息子たちが血の復讐のために出かけたことを知った。彼は息子たちの勇猛が称えられるのを聞いて、自分自身の名声をどこまで高められるか試そうと思い、二隻の巨大な商船を作って武器を積み込んだ。アースラウグは、資金の面でも戦略の面でも、もっと小さな軍船を沢山率いた方がいいと忠告したが、ラグナルはただ二隻の商船でイングランドのような大国を打ち倒してこそ名声も高まると言い張った。アースラウグは夫に自分の髪で編んだシフトドレス(肌着)を贈った。これは継ぎ目がなく、どんな刃も通さぬ、祝福されたものだと。

 ラグナルはイングランドに上陸し、村や要塞の攻略を始めた。イングランドのエッラ王は、ラグナル自身より、むしろ彼を殺したとき報復に現れるだろう彼の息子たちを恐れた。ラグナルは防具は兜のみ、手にはかつてソーラの竜を倒した際の槍といういでたちで一騎当千の強さを見せつけたが、彼の兵たちがみんな殺されてしまうとついに捕らえられ、エッラ王の前に引き出された。エッラ王は彼に名を尋ねたが黙して言わないので蛇の穴に入れた。だが何日経っても蛇は少しもこの男を噛まなかった。しかしエッラ王が男の着ていたシフトドレスを脱がせると、たちまち彼は蛇に巻きつかれ、息子たちの報復をほのめかしながら死んだ。

 エッラ王は、恐らくこの男こそがラグナルで間違いないだろうと思った。その死を報せる使者が、遠征からデンマークに戻ったばかりのラグナルの息子たちに向けて送られた。話を聞いた息子たちは激怒したが、イーヴァルは、静かに怒りを燃やしながらも使者を無傷でイングランドに帰らせた。

 イーヴァルは、父は無謀を行ったのであり自業自得である、イングランドの王が賠償をすると言うなら受け取るが、復讐はしないと言った。しかし他の兄弟たちは激怒して、復讐のためにイングランドに向かった。結果は彼らの敗北であった。

 イーヴァルは兄弟たちと別れてエッラ王のもとに下った。エッラ王を決して脅かさぬと誓い、見返りとして牛の皮一枚分の土地を所望したのだ。そして牡牛の皮を表皮と真皮に分け、更に細かく裂いて可能な限り広げて、広大な土地を手に入れた。彼はそこにロンドン城砦を作った。様々な人の相談に親身に乗り、賢者として慕われて、イングランドで確固たる地位を築いた。更には、兄弟たちに要求して、デンマーク王族としての財産の取り分をも要求した。

 けれども、これらは全てイーヴァルの策略だったのだ。イングランドの人心を掌握し、デンマークの財産をばらまいてエッラ王の家来たちをも取り込んだ。機は熟したと見たイーヴァルは兄弟たちに攻め込むよう指示を出した。自分が兄弟たちを説得するとエッラ王には偽って、連絡を取り続けた。こうしたイーヴァルの工作のためにエッラ王の兵は少なく、敗北して捕らえられた王は、イーヴァルの提案によって背を深く割られ、鷲についばまれる方法で処刑された。こうして兄弟は父の復讐を成し遂げたのだった。

 

 その後、兄弟たちはそれぞれ別れて活躍することになる。

 イーヴァルは自分が以前に所有していた領地を兄弟たちに譲り、自分はイングランドの王になって、病死するまで支配した。遺言によって、彼は国で最も敵襲の危険の高い地に埋葬された。自ら守護神になろうとしたのである。後にウィリアム征服王がこの地に上陸したとき、イーヴァルの塚を暴くと遺体は腐らず不変性を示していた。彼はイーヴァルの遺体を荼毘にふして消滅させ、イングランドを征服した。

 フヴィートセルクはロシアの方を攻めに行って捕らえられ、戦死者たちの頭蓋骨の薪の上で焼かれて死んだ。

 ビョルンは多くの子孫を残したが、その一人がホヴダストランドのホヴディの大首領トルドである。

 シグルズ・オルムの娘ラグンヒルドは、ノルウェーの最初の単独王、ハラルド美髪王の母となった。

 

 ラグナルの息子たちが全員死んでしまうと、彼らに従った軍勢は拡散してしまった。彼らは他の王に価値を見出さなかったが、ただ二人の勇士だけは、自らが仕えるに相応しい新たな王を求めて旅に出た。しかし彼らは共に旅をしたわけではない。ある国の二人の王子が亡き父のために葬儀の宴を開いたとき、たまたまこの二人が顔を合わせたことがあると伝えられている。

 また、デーン人と言われるオグムンドという男が五隻の船で出港してムナルヴァルグのサムセイの港に停泊した際、料理番が料理の準備のために岸に降りて森に入ったところ、苔に覆われた40エレの高さの木像を発見した。古代の男の姿をしたこの像は一体誰が何を願って建てたものなのかと訝しむと、不意に像が口をきいて、ロズブロークの息子たちが敵の死を祈って建てたのだ、と語った。人々はこの不思議な出来事を語り継いだ。



参考文献
ラグナル・ロズブロークのサガ」/『ルーン文字とヴァイキング』(Web)
『世界のシンデレラ物語』 山室静著 新潮選書 1979.

※アースラウグは獣の皮はまとわないが、フード付きの粗衣を着せられて黒く塗られ、クラーカ(カラス)と呼ばれたのだから、カラスの扮装をしていたと解釈することもできるだろう。

 アースラウグの物語は、日本の説経「小栗判官」の照手姫の物語に似ている。照手姫は勝手に結婚したことから父に牢輿に入れられ淵に沈められる。しかし輿は沈まずに海に流れて、ゆきとせが浦に流れ着き、漁師の長の太夫が拾って養女にする。彼の妻はこれを妬み、何とか醜くしてやろうと燻して煤で黒くしようとする。ヘイミルはアースラウグを竪琴に隠しただけで海に流さないが、水辺を辿って旅したと強いて語られており、箱(竪琴)に入れて海に流したのが本来のエピソードなのだろうと思わせる。ごうつくなグリーマと比較的善良なアーキの老夫婦のキャラクターイメージも、太夫夫婦と似ている。

 アースラウグは肌に汚いものを塗られ、髪も剃られ、その後は身体を洗うことも髪を切ることも禁じられている。類似のモチーフは「ペペルーガ」にも見えるが、どうもこれには呪術的な意味があるらしい。これに関しては<シンデレラのあれこれ〜灰をかぶった娘>を参照。

 竪琴の中に隠されたアースラウグの命をつなぐのはリーク葱だが、「花世の姫」の花米や「タンスの中の娘」の飲料などと類似のアイテムであろう。

 小蛇が竜となって東屋を取り巻いてしまうくだりは、オーストリアの眠り姫系民話で、乞食が牡牛に変身して娘の眠る家を見張り、誰も出入りできないようにしてしまうエピソードを思い出させる。「ラグナル・ロズブロークのサガ」の後半には、神殿のある城塞都市を守る恐ろしい牛が登場するが、これも《牡牛が娘の眠る家を見張る》エピソードも、どちらも《冥界》の情景からイメージされたものと思われる。ギリシア神話で、クレタ島の迷宮の奥に牡牛の怪物ミノタウロスがいるとされたのも同じだ。牛と竜は観念上同じ存在で、冥界神でもあり、《死》の象徴でもある。

 ラグナルが竜退治をし、残して行った槍の穂先が本人確認と結婚の決め手になるくだりは[二人兄弟〜竜退治型]や「楽園の林檎」などに見られる《英雄が倒した竜の体を切り取る》や《姫のスカーフの譲渡》、《姫が英雄の体に印を付けておく》モチーフと近いが、[基本のシンデレラ]のスリッパテストの男性版のようにも感じられる。

 竜の血がラグナルの背に降り注ぐシーンは、シグルズが倒した竜の血を浴びて不死身になるエピソードと類似する。ただ、シグルズは唯一血の付かなかった背中のみ不死性を得ずに弱点になるのに、ラグナルは背中だけに血を浴び、けれど特殊なマントのおかげで《被害を受けなかった》と語られている。ここでは竜の血は害をなすものと捉えられているようだ。

 外出先で王のための料理をしようとした家来がこの世ならぬ美女に出会って料理を焦がし、それが元で美女が王の妃になる展開は「ラール大王と二人のあどけない姫」などにも見える。

 ラグナルがクラーカに出した「服を着ず、さりとて裸でもなく、食事を食べず、といって空腹でもなく、付き添いを伴わず、しかし独りきりではなしに訪ねて来させよ」という難題は西欧の説話ではお馴染みのもので、『グリム童話』の「賢い百姓娘(KHM94)」もその類話である。その話では「服を着ず、しかし裸にはならず、馬などには乗らず、しかし自分の足で歩かず、道を通らず、しかし道以外も通らずに王のもとへ来ること」という難題が出され、娘は裸になって魚網の中に入り、網をロバの尾に縛りつけて引きずらせ、更にロバにはわだちの中を歩くようにさせて娘自身は親指だけで地面を踏むようにした。類話によっては、娘は長い髪か魚網で裸を覆い、山羊にまたがって足を地面につけて進む。

 アースラウグは結婚しても三日目までは性交を拒もうとする。これは「ヴォルスンガ・サガ」でグンナルの姿のシグルズがブリュンヒルデと結婚するが三日間共にいるだけで手を出さないエピソードと類似しているが、現実にあった慣習でもある。<眠り姫のあれこれ〜初夜権と純潔の刀>参照。

 神意に沿わない夫婦の交わりをしたために、産まれた子供には骨がなかった、というのは大変に興味深い。というのも、日本神話でイザナギとイザナミが骨のないヒルコを産むエピソードとそっくりだからだ。骨がなく杖なしには歩けないイーヴァルは、しかし兄弟中最も賢く、イングランド王となって最も栄える。恐ろしい牛などに関してもよく知っている彼は、いわば、冥界とつながりを持つシャーマンである。シャーマンがどこか肉体を欠損しているという観念は、世界中の説話に見られるものだ。

 ラグナルは妻のアースラウグを無視して若いイングボルグと結婚しようとする。そして後に、アースラウグは夫に肌着を贈るが、彼はその肌着を奪われたことで加護を失って死ぬ。このエピソードはシグルズが妻のブリュンヒルデを忘れてグズルーンと結婚し、ブリュンヒルデの加護を失ったため謀殺されるエピソードと類似するが、ギリシア神話の英雄ヘラクレスのエピソードとも近い。ヘラクレスは妻のデーイアネイラを無視して若いイオレーを愛し、夫の愛を取り戻そうとしたデーイアネイラは愛の秘薬のつもりで毒を染み込ませた肌着を贈ったので、ヘラクレスは死んだ。

 

 それにしても、この物語を読んでいるとラグナルとその息子たちが輝かしい英雄という風には思えない。略奪と惨殺を繰り返す、恐ろしいならず者ではないか。けれど、《強い》ということが何よりも賛美される時代が、確かにあったということなのだろう。


参考 --> 【箱の中の娘




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