>>参考 「月の顔」「ペペルーガ」「小町娘とあばた娘
     [魚とシンデレラ]【金のなる木

 

川に落とした片方の靴  中国 チワン

 ある村に、達架ターカという気だてのやさしい娘がいました。

 母親が亡くなると、父は後添えをめとり、妹の達侖タールンが生まれました。まもなく、父も亡くなりました。

 それからというもの、くる日もくる日も、達架は、継母にいじめられました。

「さあ、柴刈りと水くみにいっといで。それがすんだら牛の世話をして、そのあいまに麻つむぎをするんだよ。麻を一斤つむぎおえなければ、ご飯は食べさせないからね」

 達架はいわれたとおりに精を出しました。水汲みだけでも大変な仕事です。遠くの泉まで汲みにいき、途中でこぼしては叱られ、背中いっぱいに柴を背負って山道を帰る。それだけでも、もうへとへとです。牛を連れて草地に放ち、麻の糸紡ぎをしながら、涙はとめどなく流れます。

 ある日のこと、達架が泣きながら麻を紡いでいると、ふいに

「泣くのはおよし。その麻を食べさせておくれ、夕方までに麻糸にしてあげるから」

と、亡くなった母の声がしました。辺りを見回すと、それは、飼っている牝牛が口をきいたのでした。達架がいわれたとおりにすると、牛は本当に白くて細い麻糸をお尻から出してくれました。

 それを知った継母は、妹の達侖に、三倍の麻糸を牛に食べさせるよういいつけました。達侖がそのとおりにして待ちうけていますと、なんと、牛は三倍の糞をしたのです。

 怒った継母は、その牛を殺してしまいました。達架が泣いていますと、カラスが飛んできて、

「泣くのはおよし。牛の骨を芭蕉の根もとに埋めてごらん」

というので、泣く泣く骨を埋めました。

 

 およばれの日がきました。継母は「三斗ゴマと三斗の緑豆を、選り分けることができたらおいで」と言いのこして、妹を連れていってしましました。するとカラスがきて

「箕とふるいを用意すれば、すぐに分けられますよ」

と教えました。

 また、芝居があったときには、「三つめの大がめに水をいっぱいにしたらおいで」といわれました。みると底にひびがはいっているので、いくら運んでもたまりません。このときもカラスの教えで、麻くずで底をふさぎ、芝居にいくことができたのです。

 

 さて、待ちに待った歌墟ユーシュイの日が来ました。年に一度のこの祭りで、若者たちは歌い踊り、よき伴侶を選ぶのです。継母も着かざった達侖を連れて出かけ、出掛けにこう言いました。

「なんと汚らしい子だこと。仕事が片付いたら、機でも織って新しい服を作るがいいさ。それに金銀の首飾りや靴がそろったら祭りに来るんだね」

 どうやったら、そんなものを揃えることができるでしょうか。達架が悲しんでいると、カラスが声をかけました。

「衣装は牛の骨を埋めた芭蕉の根もと。靴は芭蕉のつぼみを開けてごらん」

 達架はさっそく掘りおこしました。見ると、芭蕉の葉に包まれた美しい緑色の衣装が現れたではありませんか。また、つぼみの中からは、金のふちどりをした靴が出てきたのです。すべては達架の体にぴったりとあいました。

 達架は祭りへと急ぎました。橋の上にさしかかったとき、ふと着飾った自分の姿が見たくなり、立ち止まって川の水を覗き込みました。ほれぼれと見とれていましたが、「領主の若さまのお通りー」という声を聞いて、慌てて身を避けようとしました。途端につまづいて、靴を片方、川に落としてしまいました。仕方なく、達架は靴をあきらめて先に進みました。

 領主の息子がやってきて橋の下をみると、川底に光るものがありました。拾いあげてみると金の靴です。この息子は評判の英雄で、りりしい若者、歌墟では娘たちの憧れの的でした。 祭りの広場に着くと、

「若さまが金の靴を拾われた。なくした者はいないか」

とお供が呼ばわりました。

 娘たちが集まってきて、我も我もとその靴を履きました。継母も達侖の手を引っ張って履かせようとしましたが、

「お前には大きすぎる。試すに及ばん」

と若さまに一喝され、達侖は真っ赤になって逃げ出しました。

 このとき、人群れのなかから、芭蕉の葉のように美しい衣をゆらめかせた美女が進み出ました。若さまはその娘を見て

「ここにあるのは、靴の片方だ。もし、あなたのなら、もう片方もあるはずだが」と言いました。

「おしどりもつがいでいるように、靴も片方では履けません」

 娘はそう言うと、ふところから寸分違わぬ片方の靴を取り出してみせました。

 この時、達侖は母親の服を引っ張って言いました。

「母さん、あれは姉さんよ」

「馬鹿な、あの子が絹の服や金の靴など持ってるはずがないじゃないか」

 じいっと見直すと、やっぱり達架です。母親は悔し紛れに喚きました。

「服も靴も妹のものなんだ。私らの留守の間に盗み出してきたものなんだよ!」

 この騒ぎの中で、達架は静かに靴を履きました。それは大きくも小さくもなく、足にぴったり合ったのです。諦め切れない母親は食い下がりました。

「その娘の足は大きいから、履いて靴を伸ばしたんですよ」

「いいだろう。それでは妹の方も試してみよ」

 若さまが言ったので達侖も試しましたが、足に合いません。

「お前たち、欲張りもこれまでだ」

 母親は達侖を引っ張り、こそこそと姿を消しました。

 若さまはこの美しい娘の身の上を哀れみ、達架も凛々しい若者に惹かれて、やがてふたりは結婚しました。

 

 二人は夢のように幸せな日々を過ごし、男の子にも恵まれました。達架の実家からは何度も里帰りするようにと言ってきます。その度に断ってきましたが、三年目になって、やっと帰ることにしました。

 実家では、継母と妹が山のようなご馳走をこしらえてもてなしてくれました。

「姉さん、今夜一晩きりですもの、ちょっと外へ出て散歩しましょうよ。月がきれいよ」

 達架は妹の誘いに乗りました。二人が池のほとりに来たとき、達侖が池を示して言いました。

「まあ、水に映った姉さん、きれいよ。ほら」

 達架が覗き込んだ隙に、達侖は後ろからドンと突き落としてしまいました。母親は達侖に姉の服を着せ、変装させて、翌日暗くなってから夫の家へ帰らせました。

「お前、手もザラザラで、なんだか別人のように変わったな」と、夫が言いました。

「実家で忙しく働いたので、手が荒れたのよ」

「母さん、何故あばたになってしまったの」と子供が訊きました。

「料理の油がはねたのよ」

 達侖はそう誤魔化しました。

「お前が里帰りの前に織りかけていた、チワンの錦を仕上げないのかね」

 夫は怪しんで訊きました。達侖は困りました。彼女は機織が出来なかったからです。機に腰を下ろして困っていると、カラスがやってきて言いました。

カー、カー、こいつは偽者

 達侖は梭を取ってハッシとカラスに投げつけて殺し、切り刻んで煮たうえに、鍋ごと窓から捨ててしまいました。すると、そこから青竹が生えてきました。達侖は、またもやその竹を切り、火を放って焼きました。

 通りがかった一人の老婆が、燃えさしの竹の一節を拾って帰り、火吹き竹を作りました。すると、火吹き竹の中から美しい娘が現れたのです。

 娘の身の上を聞いた老婆はすっかり同情し、若さまのもとへ報せました。若さまは大急ぎで妻を迎えに行きました。

 帰ってきた姉が怒っている様子がないので、達侖は姉のご機嫌を取るように笑って

「姉さん、池に落ちてから一段と白くなったわね。どうしたらそんなにスベスベした白い肌になるの」と訊きました。達架は答えました。

「玄米を搗けば搗くほど白くなるのと同じよ。人に頼んで臼で搗いてもらったからよ」

 達侖は家に帰ると、さっそく母親に臼で搗いてくれるように頼みました。達侖は期待に胸をふくらませ、臼の上に横たわりました。

 ドシーン!

 母親が臼を搗いた途端、達侖は死んでしまいました。それを見た母親もそのままショック死してしまいました。



参考文献
岐阜教育大学サイト内『君島久子 中国の民話』(Web) 君島久子著 ※現在、削除されている
『月をかじる犬 中国の民話』 君島久子著 筑摩書房 1984.

※この話で課せられる難題は「穀物をより分ける」「穴の開いた容器で水を溜める」というおなじみのものだが、動物たちは方法を教えるだけで自分達が仕事を代行することはない。どうも、母親が娘に家事や生活の知恵を教えている感じだ。

 なお、原料を食べてお尻から糸を出すのは、日本では「ウル姫子」で山姥がやっている。女神(牛馬、大魚、竜)の体内をくぐることにより物質がよりよく変化する――冥界をくぐって転生するという観念が現れている。

 

 歌墟ユーシュイは、古代日本にあった歌垣と同系統のイベントである。春(正月)と秋(盆)など、年に数度の時節、若い男女が山や丘に集まり、歌を掛け合い、地を踏み鳴らして踊り、妻問いの宝を贈り受けて、時に床を共にし、己の伴侶を選ぶ。この風習の源境は中国江南からインドシナ半島であり、現在でも中国少数民族やタイに同様の習俗が見られ、日本でも、明治時代ごろまでその後裔的な習俗は残っていた。シンデレラ、というと誰もが思い浮かべる、おなじみの"お城の舞踏会"も、歌舞を行う未婚の男女の出会いの場という点では同質のイベントである。

 

奴隷の娘ヨンシー  中国 チベット族

 ヨンシーは大金持ちの家の奴隷娘だった。母さんも、そのまた母さんも、代々奴隷としてこの金持ちの家でこき使われて、牛や馬のように暮らしてきた。

 ヨンシーの母さんがヨンシーを生んだその日、金持ちの奥方も女の子を産んだ。不思議なことに、このお嬢様パーチェンはヨンシーとそっくりで、まるで一つの桃を二つに割ったかのようだった。奥方は自分の娘と奴隷娘がそっくりなのが憎らしくて、ヨンシーを殺してしまいたいと考えていた。

 ヨンシーが生まれて間もなく父さんは死に、ヨンシーは六歳になると百頭の羊を追って一日中番をしなければならなかった。それでも母子は寄り添って暮らしていたが、運命はむごいもの、母子の別れのときがやってきた。

 その日、乳絞りをしていた母さんは、乳桶を牛に蹴飛ばされてしまった。辺りに牛乳が撒き散らされ、運の悪いことに、性悪な奥方が家から出てきてそれを見た。奥方はカッとして、重い乳桶を母さんの頭めがけて投げつけ、母さんは気を失って倒れた。

 母さんが微かに意識を取り戻したとき、ヨンシーが寄り添って泣いていた。母さんは力なく娘の肩に手をやり、抱き寄せると、悲しげに言った。

「母さんは、もう駄目だよ。でも、死んだら牛に生まれ変わって、お前の側にいてあげるからね……」

 母さんはそのまま目を閉じて、もう開けなかった。

 あくる朝、柵の中で可愛い子牛が生まれた。ヨンシーが柵の中に入っていくと子牛は駆け寄ってきてヨンシーを見上げ、モウモウと鳴いた。ヨンシーも子牛を抱いて、母さんに会ったかのように喜んだ。それからというもの、ヨンシーと子牛は片時も離れず、夜は一緒に眠り、昼は一緒に羊の番に出かけた。

 何ヶ月か経つと、子牛は立派な牝牛になった。ヨンシーは、主人にぶたれたり叱られたりして辛くてたまらないことがあると、牝牛の首にすがって、母さんにするように泣いて訴えた。牝牛もヨンシーの話が分かるかのように、そっと髪を舐めてやり、涙を流すのだった。

 ある日、主人はヨンシーに言った。

「このごくつぶしめ、三度三度食わせてもらっていながら、仕事と言えば羊の番しかしていないとくる。明日からは羊の番をしながら毛糸を紡ぐんだ。日に十巻き紡がなければ、飯はないと思うんだな」

 ヨンシーは牝牛の首にすがり付いて泣きながら主人の言いつけを訴えた。すると、出し抜けに牝牛が口をきいた。

「さぁ、泣かないで。明日になれば、必ず助けてくれる者がありますよ」

 そう言ってヨンシーを慰め、何をすべきかを教えてくれた。

 あくる日、主人は一山もある羊毛をヨンシーに渡した。ヨンシーは羊を追っていつもの丘へ行き、牝牛に教わったとおり、羊毛を野バラの枝に引っ掛けて歌った。

美しい野バラよ、あなたは私の親友
あなたは緑の丘に生い育ち、羊飼いの娘といつも一緒

愛する野バラよ、あなたなら この辛さ分かるはず
主人はひどくむごい心、日に十巻きも紡がせる

優しい野バラよ、みなしごを哀れむのなら
どうか手助けしておくれ、梳いてこの羊毛を

 ヨンシーが歌い終わると、野バラはそよ風に乗って、さらさらと羊毛を梳き始めた。まもなく、一抱えもあった羊毛は、みんなふんわりと梳きあげられた。次に、ヨンシーは梳いた羊毛を松の枝に掛けて歌った。

背高の松の木よ、あなたは私の親友
あなたは雪山のふもとに生い育ち、羊飼いの娘といつも一緒

愛する松の木よ、あなたなら この辛さ分かるはず
主人はひどくむごい心、日に十巻きも紡がせる

優しい松の木よ、みなしごを哀れむのなら
どうか手助けしておくれ、紡いでこの羊毛を

 ヨンシーの歌声がやむと同時に、松の枝はざわざわとざわめいて、羊毛は見る間に細い毛糸になって、一本一本、松の枝に垂れ下がった。ヨンシーはそれを巻いて、すぐに、山のようにあった羊毛は十巻きの毛糸になった。

 暗くなるのを待ってヨンシーは羊を連れて帰り、主人に毛糸を渡したが、主人はいい顔をしなかった。

「まさか、日にこれっぽっちの毛糸を紡ぐだけで着物が着られると思ってやしないだろうな。明日は、この毛糸で布を織るんだ。織りあがらないうちに食いに戻ろうなんてするなよ」

 ヨンシーはまた牝牛に訴えて、牝牛は助言を授けた。

 翌朝、ヨンシーは毛糸を持って羊と共に丘に登り、牝牛に教えられたとおり、毛糸を柳の木の枝に掛けて歌った。

美しい緑の柳よ、あなたは私の親友
あなたは清い川辺に生い育ち、羊飼いの娘といつも一緒

愛する柳よ、あなたなら この辛さ分かるはず
主人はひどくむごい心、日に十巻きの毛糸を機織らせる

優しい柳よ、みなしごを哀れむのなら
どうか手助けしておくれ、布に織ってこの毛糸を

 ヨンシーが歌い終わると柳は細い小枝を揺り動かして毛糸を織り始めた。見る間に、長い長い布が柳の木から垂れ下がった。ヨンシーはそれを巻き取り、暗くなるのを待って羊を追って帰り、主人に渡した。主人はどうにも腑に落ちなかった。そこで問いただすと、ヨンシーは秘密をみんな話してしまった。

 あくる日は、なんとパーチェンお嬢様が一抱えの羊毛を持って羊の番に出た。彼女は母親に、ヨンシーがやったようにして羊毛を紡いでくるように命じられていた。パーチェンは丘に着くと、羊毛を野バラに引っ掛けて歌った。

イバラよ、ちびた葉でトゲだらけ
丘に生えていたところで 誰もお前になど見向きもしない

私に愛されたいなら、さっさと羊の毛を梳くがいいわ
逆らうのなら、枝を落として丸坊主にしてやるから

 パーチェンが全部歌い終わらないうちに、ドッとつむじ風が巻き起こり、引っ掛けておいた羊毛を全部吹き飛ばしてしまった。

 主人は娘が手ぶらで戻ったのを見て腹を立て、ヨンシーが嘘をついたに違いないと ひどく打って、何一つ食べさせなかった。ヨンシーが牝牛に泣いて訴えると、牝牛は言った。

「いい子だね、泣かないで。お腹がすいたら私が食べさせてあげるから。私の乳を絞ってごらん。いい匂いのバターや美味しいヨーグルトが苦もなく出来るからね」

 ヨンシーは乳を絞ってみた。本当だ、乳はたちどころにバターとヨーグルトに変わった。ヨンシーは腹いっぱい食べて牝牛に寄り添って眠った。それからというもの、ヨンシーは毎日、羊を追って丘に行っては、そこで乳を絞ってバターとヨーグルトを食べたので、だんだんと顔色もよく、頬もふっくらとしてきた。

 ところが、ある日ヨンシーは庭掃除をしていて、主人の前でバターの容器を落としてしまった。問い詰められて仕方なく秘密を話すと、主人は再びパーチェンにヨンシーに代わって羊の番をするように言いつけた。

 パーチェンは、いつもヨンシーがそうしているように、少しばかりの麦焦がしだけを持たされて羊追いに出かけ、お腹がすいたので、ヨンシーがやるように乳を絞ってバターやヨーグルトを食べようとした。ところがどっこい、乳を絞るどころか、牝牛に蹴飛ばされてしまった。

 パーチェンが腹ペコのまま泣きながら帰ると、主人はカンカンになって怒鳴った。

「畜生のくせに! よし、生かしておくものか」

 その晩、牝牛は泣きながらヨンシーに言った。

「ヨンシーや、もうお前とは一緒にいられなくなったよ。明日、私は主人に殺されてしまうのだから。――いいかい、よくお聞き。私が殺された後、皮は壁の隙間に、角は屋根の上に隠し、ひづめは土の中に埋め、腸は木の枝に掛けておくのだよ。いつか何か困ったことが起こったら、取り出してごらん。きっと役に立つからね」

 牝牛は主人に殺されてしまった。ヨンシーは泣きながら、牝牛の皮、角、ひづめ、腸を、教わったとおりの場所に隠した。いたわってくれる者が誰一人いなくなっても主人の横暴はやまず、ヨンシーは辛い日々を過ごしながら十六の年を迎えた。

 ちょうどこの年、国の王子様が、国中で一番綺麗な娘を妃に選ぼうと考え、国中の全ての娘はお妃選びに集まれ、とお触れを出した。奥方はこれを聞くと大喜びしてパーチェンを飾り立てたが、一方でヨンシーが選ばれたらどうしようかと気をもみ、わざとカブの種をひとかご地面にまいて、一粒残らず拾っておくように言いつけた。

 奥方とパーチェンが出かけてしまうと、ヨンシーは途方にくれて泣いた。こんなに沢山の種を残らず拾い集めるだなんて!

 その時、不意にすずめが群がり飛んで来て、種を一粒一粒くわえて籠に運び、辺り一面の種を残らず拾い集めてしまった。

 ヨンシーは喜んで肩の荷を降ろし、自分もお妃選びを覗きに行こうと考えた。けれども、こんな汚い身なりでは行けやしない。その時、ふと牝牛の言葉を思い出し、隠してあった角や皮を取り出してみた。

 ああ!

 ヨンシーは躍り上がって喜んだ。牛の皮が、金糸で縫い取りしたキラキラ輝く衣装に変わったのだ。続いて、角は鮮やかな赤い帽子に変わり、ひづめは雲を刺繍した靴に、木の枝に掛けた腸は虹の七色をあしらった前掛けになった。ヨンシーは手早く着替えてきちんと身なりを整えると、御殿に出かけた。

 ヨンシーが御殿に一歩入ると、妃選びに集まっていた人々は一人残らず見とれてしまった。ヨンシーの美しさにはどの娘もかなわない。パーチェンと奥方も、口をポカンと開けて呆気に取られた。

 さて、妃選びが始まった。国中の娘たちは御殿の広い庭にずらりと並んで座り、ヨンシーは、パーチェンと奥方の側に腰を下ろした。王様が一堂に告げた。

「これから、王子が空へ矢を射る。矢が懐に落ちた娘を王子の妃にもらい受けようぞ」

 続いて、王子様が奥から出てきて、娘たちをひとわたり眺めた。最後に、端っこのヨンシーを目にしたときには思わずにっこりし、弓矢をヨンシーのいる方の空めがけて射放った。

 みなが固唾を呑んで見守る中、矢は空高く上がり、空中でぐるりと輪を描いて、ゆるゆると落ちてきた。狙いたがわず、ヨンシーの懐めがけて。ところが、矢がヨンシーの懐に入ろうとしたとき、奥方が横から手を伸ばして矢を受け止め、スッとパーチェンの懐に入れてしまった。

 近くで見ていた人々は口々に騒ぎ出し、矢はヨンシーの懐に落ちたんだ、と言ったが、奥方はつべこべ言って少しも譲ろうとしない。王様はマズいことになったと思い、もう一度改めて一同に告げた。

「ここに宝の靴がある。娘たちに履かせて、ぴったり合った者を王子の妃にもらい受けようぞ」

 そして、娘たち一人一人に履かせてみた。多くの娘たちが試したが一人として合う者がいない。パーチェンの番になって、履いてみたが、やっぱり合わなかった。おしまいに、ヨンシーに回ってきた。不思議なことに、靴は大きくも小さくもなく、ヨンシーの足にぴったりと合った。人々はやんやと祝福し、ヨンシーを取り巻いて御殿に入った。

 こうして、ヨンシーは御殿で王子様と幸せに暮らしたのだった。


参考文献
『中国の民話〈上、下〉』 村松一弥編 毎日新聞社 1972.

※虹の七色をあしらった前掛けは、チベット族の女性の正装に欠かせないものだそうだ。男性が矢を放って結婚相手を決める選婚のモチーフは「青蛙姑娘」など【蛙の王女】系話群にも見える。<蛙の王女のあれこれ〜白羽の矢>も参照。



参考 --> [牛の養い子][一つ目、二つ目、三つ目

パ・エル・プの三姉妹  中国 チベット族

 チベットのパ・エル・プ村に三人の姉妹がいた。上の二人は先妻の子、末娘は後妻の子。両親の死後は長姉が家事を取り仕切っていた。彼女は母の同じ妹は大切にしたが、継母の娘をひどく虐待した。食物も衣料もろくに与えず、朝早くから山で家畜番をさせ、帰ってくると薪割りや水汲みをさせて、一刻も休ませなかった。中の姉は親切で長姉の目を盗んではよく妹を助けた。

 末娘はぼろをまとって毎日家畜を山へ連れていき、亡母を想っては、彼女の残した一頭の年取った牝牛に、自分の辛い境遇を訴えた。

 

 ある日、長姉が中の姉に言った。

「あの牛は役立たずだから、殺して食べてしまおう」

 中の姉もそれに反対は出来なかった。

 あくる日、末娘が草原で牛の番をしていると、とつぜん、牛が「上の姉さんは私を殺す気だよ」と言った。娘が哀しんで、殺さないでいてくれるように頼んでみると言ったが、牛はとめた。

「そんなことをしてもお前が打たれるだけだよ。それより、私が殺されたら骨を捨てずに壺に入れて、部屋の隅に隠しておきなさい。九ヶ月経つと祭が来て、みながそれに出かける。祭の一日目と終わりの二、三日にはいけないが、中の三日間には壺を開いてごらん。後のことは年取った馬が教えてくれるから、万事その通りにするんだよ」

 娘にはなにがなんだかよく分からなかったが、唯一の友と別れるのが辛くて、牝牛に抱き着いて泣くばかりだった。牛はモーモー鳴いて、娘に鼻面をこすりつけた。

 あくる日、果たして長姉は牝牛を殺させた。しかし末娘はその肉を食べず、ひそかに骨を集めて壺に入れて部屋の隅に隠した。

 

 九ヶ月経つと、チベット人の大祭の競馬祭がきた。二人の姉は着飾って、頭には宝石や銀の花をつけ、ご馳走を入れた籠を持って馬で出かけた。しかし末娘には、普段のままのぼろ着に酒かすで作ったパンを二つやっただけで、歩いて行かせた。

 祭場はコチとパ・エル・プの中間の高い山の上にあったが、四方から人が出て大変な賑わいで、ちょうど北部の有力な族長ヤン・ウェイの息子も、花嫁探しにやって来ていた。

 祭に来た者は誰も彼も酒を飲み、クオ・チュアンの踊りを踊った。他の娘たちより着飾った例の姉妹が来ると、ヤン・ウェイの若様は飛び出してきて一緒に踊った。みなが彼らの素晴らしい踊りに見とれた。その間末娘は木の陰に隠れて、泣きながら考えた。

「私だって姉さんたちに劣りはしないのに!」

 そして泣きながら家に帰ってしまった。

 

 翌日も二人の姉は出かけたが、末娘は気がすすまなくて家で泣いていた。すると、家に残されていた年取った馬がきて、彼女を例の壺の前へ押しやった。末娘はこの壺のことをすっかり忘れていたのだが、牝牛の言ったことを思い出して、壺の蓋をあけてみた。

 壺の中にあったのは骨ではなく、金色のビロードやカシミヤ織りやチベット羊の、とびきり上等の色んなデザインの服だった。底には宝石や珊瑚をはめこんだ金色のくらもあった。娘は一番気に入った服を身に着け、年取った馬を洗って金の鞍を置いた。すると、馬はぶるっと体を震わせて駿馬に変わった。娘はその馬に乗って出かけたが、まるで空を飛ぶようで、目をつぶってたてがみにつかまっているうちに、姉たちを追いぬいて、たちまち山上の祭場に来た。

 山の上でお茶を飲んだり食事をしていた人たちは、みな彼女を振り返って見て、その美しさに驚いた。若者たちがこぞって声をかけてきた。ヤン・ウェイの若様も一緒に踊ってくれと申しこんだ。彼女が踊るとみなそれに見とれて、今日は姉たちが踊っても見る者が無かった。

 日暮になって、姉たちが帰ろうとすると、娘の乗ってきた馬がいなないて足を踏み鳴らした。姉たちより早く帰らなければならない。彼女は馬を飛ばして帰り、服はまた壺に隠して、薪を割ったり水を汲んだりしていた。

 次の日も全く同じことが起こった。みなは娘が帰ってしまったのを残念がり、名前や住所を尋ねあったが、誰にも分からなかった。

 三日目、ヤン・ウェイの若様は、仲人をやって求婚するつもりで彼女の名前と住所を尋ねたが、彼女は姉たちを恐れて教えなかった。しかし若様は諦めず、みなで裸足になって草の上で踊ろうと提案した。みなは喜んで靴を脱いで踊りまわったが、若様は執事に命じて、ひそかに娘の足跡を正確に計らせていた。

 けれど、四日目からは娘はもう現れなかった。牝牛の言い付けをきちんと守ったのだ。若者たちは娘がこないのを嘆き、若様はその日から踊るのをやめた。やがて祭が終わると、彼は上等の皮で彼女の足の寸法のままに靴を作らせ、執事に命じてコチやパ・エル・プや付近の部族を巡って、この靴の履ける娘を探させた。しかし全ては徒労に終わり、最後に三姉妹の家に来た。

 長姉は酒や肉を出して執事をもてなしてから靴を履いてみたが、駄目だった。中の姉も試したが、同様に終わった。これで終わったように思えたが、みすぼらしい身なりをした末娘がたまたま出てきて、「私も試したい」と願った。そして長姉に罵られながら履いてみると、ぴったりと合った。

 執事は急いで帰って報告し、若様はすぐに求婚しに行こうと、父である老ヤン・ウェイに許可を乞うた。しかし老ヤン・ウェイは娘の状況を聞いて難しい顔をした。

「召使役の娘では身分がつりあわぬ。それに持参金も無いではないか」

 この辺りでは、結婚する娘は嫁入りの金品をたっぷり持っていくのが当然だったので。けれど若様は言った。

「僕が欲しいのは妻であって、持参金ではありません。水汲みや家畜の世話や、よく働くのは良い娘なのではありませんか?」

 父は息子を愛していたので、ついに折れて同意した。若様はすぐに執事にたっぷりと贈り物を持たせて申し込みにやり、婚姻届にサインして、嫁入りの日取りまで決めた。

 その日がきて娘が出発しようとしていると、あの老馬が来て娘の裾をくわえ、壺のところまで引いた。娘が壺の蓋を開けてみると、沢山の立派な衣装や布や真珠や宝石が詰まっていた。執事は馬五十頭とロバ五十頭を連れてきていたが、それでも運びきれぬほどだった。姉たちはただ呆れて見守っていた。

 娘とヤン・ウェイの若様はこうして結婚して、幸せな生活を送った。


参考文献
『世界のシンデレラ物語』 山室静著 新潮選書 1979.

※ここで終わるわけではなく、やはり嫉妬した姉に殺されすり替わられる[その後のシンデレラ]型へ続いていくそうだが、参考にした本で省略されていたので詳細不明。

 若様がしっかりと自分の意見を持ってるし社会常識にも通じている感じで、好感が持てる。

 この話では靴は落としたのではなく、若様が作る。中国や東南アジアの靴は、娘たちが自分専用のものを細心をこめて作ったそうで、まさに自分以外履ける者のない、自分だけの靴だったそうだ。であれば、スリッパテストはアジアに本歌があるのだろうか?

金の靴  ウクライナ

 昔、一人娘を残して女房に死なれた男があった。やがて後妻をもらったが、女は娘を一人連れてきた。

 新しい女房は夫を市場にやって牝牛を買ってこさせ、継娘にその世話をさせた。彼女は実の娘には甘かったが、継娘には辛く当たった。継娘は器量良しで気立てがよく、よく働いたのに。

「このろくでなしめ、さっさと牝牛を連れていって草を食べさせな! それからここにある亜麻を二束持っていって、梳いて紡いで糸にして、真っ白にさらしておいで。夕方までにだよ!」

 継娘が辛くて泣いていると、牝牛が寄って来て訊いた。

「可愛い娘さん、何を泣いているの?」

 わけを話すと、「安心しなさい」と牝牛は言った。

「さあ、横になってゆっくりお休み」

 継娘が一眠りして目を覚ますと、亜麻はもう梳いて紡いで立派な布になり、真っ白にさらしてあった。継娘はそれを持って帰って継母に渡した。継母はものも言わずにひったくってどこかに隠した。

 翌日は実娘が亜麻を持って牝牛と草原に行ったが、怠け者で何もせず、ただ元のままの亜麻を母に返した。けれど、母は優しい声で「いいとも、いいとも」と言うばかりだった。

 その翌日はまた継娘が亜麻を持たされて草原にやられたが、やはり牝牛が助けてくれて、夕方には白い布を持って帰ることが出来た。

 継母はこれは牝牛が助けるに違いないと思い、夫に言った。

「あんた、あの牝牛をずたずたに切り裂いて殺しておくれ。あいつのおかげであんたの娘は働きもせず、日がな一日草原で眠りほけてるんだから」

「太い奴だ、よし、殺してやるぞ!」

 継娘はこれを聞いて、庭に出て泣いた。牝牛が寄ってきて尋ねた。

「可愛い娘さん、何を泣いているの?」

「泣かずにいられないわ。だって、みんながあんたを殺そうとしてるのよ」

「心配しなさんな。私が殺されたら、継母に頼んで私の臓物を洗わせてもらいなさい。すると中から麦粒が出てくるから、それをどこかに蒔くんです。すると柳の木が生えて、望みを何でも叶えてくれますよ」

 それから、父親が牝牛を殺した。継娘が内臓を洗わせて欲しいと頼むと、継母は言った。

「いいよ、洗いな。お前の他に誰がそんな汚い仕事をやりたがるもんか」

 継娘が臓物を洗うと、果たして小麦の粒が出てきた。娘はそれを戸口の脇に蒔き、土を踏みつけて水をかけておいた。翌朝目を覚ますと、そこには柳の木が生え、根元からはどこにもないほどの美しい泉が湧いていた。

 日曜日になると、継母は自分の娘をめかしたてて教会へ連れて行った。だが継娘には厳しい声で留守を言いつけて、留守の間に火を消さないこと、ご馳走をこしらえて家中を片付けること、みなの下着を綺麗に洗うことと言いつけ、「それが出来てなかったら生かしちゃおかないよ」と言った。

 継母と実娘が出て行ってしまうと、継娘は火を起こしてご馳走の用意をしてから、柳の木の下に走って行って呼んだ。

「柳さん、柳さん、出てきて!」

 柳がさやさやと葉を震わしたかと思うと、上品な姿のおばさんが現れて、「可愛い娘さん、何のご用?」と訊いた。

「立派な服と、教会へ乗って行く馬車が欲しいの」

 たちまち娘は美しい絹の服を着て、足には金の靴まで履いていた。そこへ馬車もやってきた。

 娘が教会へ馬車で乗り付けると、みなはどこのお姫様が来たかと驚き、わけても、来合わせていた王子の心をとらえた。しかし娘はうまく逃げて帰り、継母たちが家に帰るとぼろを着て待っている。そんなことが次の週も起こり、三週目の日曜日、王子は道化者の助言で教会の床に松脂を塗っておいて、くっついて両方脱げた娘の靴が残された。

 王子は靴を持って娘を探し、最後に継娘の家にやってきた。継母は何とかして継娘が靴を履くのを阻止しようとするが、結局無駄に終わり、暖炉の陰に隠れさせられていた継娘がぴったりと靴を履いて、王子と結ばれた。


参考文献
『世界のシンデレラ物語』 山室静著 新潮選書 1979.

参考--> 「達稼と達侖」[その後のシンデレラ〜偽の花嫁型][三つの愛のオレンジ]【蛇婿〜偽の花嫁型



コンジ・パッジ  朝鮮

 昔々、あるところに裕福で仲の良い夫婦がいたが、子供がないのでいつも寂しがっていた。ある日、坊さんが通りかかったので、奥さんは大きなパガジ(カボチャなどをくりぬいて作った容器)にお米を一杯入れて差し出した。すると坊さんが「何か願い事がありますか」と訊いたので、奥さんは子供のないことを訴えた。

「では仏様に百日祈ってみてください。もしかしたらあなたの願いがかなうかもしれませんよ」

 奥さんはさっそく百日の祈祷を始めた。満願の日、奥さんは夢を見た。――天から一番輝く星がすっと降りてきて、奥さんに抱かれた夢だった。果たして奥さんは懐妊し、月満ちて女の子を産んだ。名は豆子コンジと名づけた。

 コンジは大きくなるほど綺麗に育っていった。母は不幸にも早く死に、やがて父は後妻をもらった。継母はコンジより年下の娘を連れてきた。父はその娘を小豆子パッジと呼んだ。

 コンジは妹に優しくしたが、パッジは意地悪い子だった。ある日パッジが姉の足袋を見つけて履こうとしたが、足が大きくて履けなかった。コンジが優しく「それは私の足袋よ、小さいからあんたには合わないのよ」と注意すると、妹はすぐに母のところへ行って、「姉さんが、私の足は醜い、お母さんのとそっくりで洗濯板みたいだと言ったよ」と告げ口した。継母も娘以上に性悪だったので、何かにつけて継娘を虐待した。父が家にいるときは可愛がる振りをしたけれど。

 ところが、父は突然病気になって死んでしまった。それで継母の虐待はますますひどくなった。

 継母はコンジに粗末な弁当を持たせ、先が木で出来たくまでホミを渡して、石混じりの畑へやった。自分の娘にはいい弁当をこしらえて、耕しやすい砂畑へやったのに。

 コンジは木の枝に弁当を置いて一生懸命耕そうとしたが、木のホミではどうにもならない。おまけに、カラスが弁当を食べてしまった。悲しくなって泣いていると、突然、天から牝牛が天下ってきて訳を聞いた。

「どうして泣いているの?」

「お弁当をカラスが食べちゃったの」

「すぐに小川へ行き、下流で手足を、中流で体を、上流で髪を洗ってきて、私のお尻に手を入れてごらん」

 コンジがそのとおりにすると、牝牛のお尻の中には沢山のご馳走が詰まっていて、食べきれないほどだった。更に、牝牛は小石畑まで耕してくれた。コンジは余った食料を抱えて、勇んで家に帰った。

 翌日はパッジが小石畑へ行った。姉の持ちかえったものを見て羨ましくなったのだ。それで姉のやった通りに、泣き真似をして牝牛を呼び寄せた。

「小川へ行き、下流で手足を、中流で体を、上流で髪を洗ってきて、私のお尻に手を入れてごらん」

 パッジが牝牛のお尻に手を入れると、美味しそうな食べ物が沢山手に触れたので、欲深な彼女は両手で引き出そうとして、抜けなくなった。すると牝牛が飛びあがって、たまらず、悲鳴を上げて両手を離すと、手は抜けたが、地面に落ちて血だらけになった。どんな土産をもらってくるかと門の外で待っていた母親は、怪我をして帰ってきた娘に驚いて、これもコンジのせいだ、として更に苛めた。

 

 隣村の親戚の家で盛大な祝宴の催された日、継母はパッジだけを連れて出かけようとした。

「お継母さん、私も連れていって」

「お前を連れていけだって? フン、仕事もせずに遊ぼうと思ったって許しゃしないよ。

 まずは、この麻五斤とカラムシ五斤を残らず布に織り上げるんだ。それから屋敷中をピカピカにして、全部の部屋の暖炉の灰をかき出して火をつけて、この底に穴の開いた水がめを水で一杯にし、稲の籾五石をみな搗いて、夕食の支度が終わったなら、お前も来てもいいさ」

 そしてパッジを連れて出かけて行った。

 コンジはさっそく仕事にかかったが、あまりに辛いので、とうとう泣き出した。――と。不思議なことに、雀が沢山飛んできて籾をついばんで真っ白にしてくれたし、カエルが水がめの底を塞いでくれたので、水汲みも難なく済ますことができた。その他の仕事も片付いたので、いよいよ祝宴に行こうとしたが、ここまできて、着ていける服がないのに気がついた。がっかりして泣いていると、天から牝牛が降りてきて、すばらしい晴れ着と花靴をくれた。コンジはそれをつけてうきうきと祝宴に出かけた。

 宴会に来ていた客たちは、コンジの姿を見て誉めそやした。継母とパッジは妬ましさのあまりコンジをたたき出そうとした。コンジは夢中で逃げたが、途中で花靴の片方を落としてしまった。

 ちょうどその折、監察使カムサが通りかかってこの靴を拾い、その持ち主を探し回った。パッジは「その靴は私のです」と言い張ったが、足に合わなくて嘘だとばれ、役人のお供に罰された。継母は諦めきれず、自分の足を包丁で削いで、無理に靴を履いてカムサの前に出たが、やはり嘘がばれて罰された。

 カムサはお供に家々を調べさせ、とうとうコンジを見つけて靴を履かせてみたところ、ぴったり合った。それで彼女を妻にめとることにした。



参考文献
『世界のシンデレラ物語』 山室静著 新潮選書 1979.

※牛が死んで変化する描写こそないが、肛門から排泄物として食べ物を出すくだりは、ハイヌヴェレ神話と同じ、体内に富を持つ豊穣〜冥界の女神のモチーフであり、やはり"死"に関わっている。

 また、コンジが牛の尻からご馳走を出す際に川で体や髪を洗うように言われるのは、「月になった金の娘」で、善い娘が森の老婆に命じられて黄金の川の水に体と髪を浸して宝を得るくだりを思い起こさせられる。

 類話によっては天から降りてくるのはひげを生やした仙人で、「葉限」にも似ている。



参考--> [牛の養い子][善い娘と悪い娘]




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