>>参考 [基本のシンデレラ]「蛙の騎手

 

魔法の馬  ロシア

 昔、三人の息子を持った年寄りがいました。上の息子二人は働き者で、遊びもよくするし、なかなかのおしゃれでした。けれども、末の息子のイワンの馬鹿は取り得なしで、趣味といえば森でキノコ取りをすることくらい。家では、大抵ペチカの上に寝そべって過ごしていました。

 やがて年寄りは重い病気にかかり、もう助からないと悟ると、三人の息子に言いました。

「いいか、わしが死んだら その夜から一人ずつ、三晩の間、夜中にわしの墓にパンを持ってきておくれ」

 間もなく年寄りは死んで、墓に葬られました。

 夜になりました。まず、上の息子が墓に行かねばなりません。ところが、上の息子は怖いのか面倒なのか、末のイワンに言いました。

「なぁイワン、今夜、俺の代わりに親父の墓に行ってくれよ。蜜菓子を買ってやるからさ」

「いいよ、兄ちゃん。僕が行くよ」

 イワンはお父さんの墓へ、パンを持って行きました。墓の前に座って待っていると、きっかり夜中の十二時にゴッと地面が割れ、墓の中からお父さんが起き上がりました。お父さんは口をききました。

 そこにいるのは誰だ? わしの上の息子かね?

 教えておくれ、ロシアはどんな様子だ?

 犬たちは吠えているか?

 狼たちは唸っているか?

 わしの息子たちは、泣いているか?

「僕だよ、お父さんの息子だよ。ロシアは、どこも静かだよ」

 お父さんはパンを食べて墓に寝ました。イワンは、キノコを取りながら家に帰りました。上の息子が出迎えて尋ねました。

「親父に会ったか? 親父はパンを食べたか?」

「会ったよ。綺麗にたいらげたよ」

 また夜になりました。今度は中の息子が墓に行かねばなりません。ところが、中の息子も怖いのか面倒なのか、末のイワンに言いました。

「なぁイワン、俺の代わりに親父の墓に行ってくれよ。靴を編んでやるからさ」

「いいよ、兄ちゃん。僕が行くよ」

 イワンはパンを持ってお父さんの墓へ行きました。墓の前で座って待っていると、きっかり夜中の十二時にゴッと地面が割れ、墓の中からお父さんが起き上がって尋ねました。

 そこにいるのは誰だ? わしの中の息子かね?

 教えておくれ、ロシアはどんな様子だ?

 犬たちは吠えているか?

 狼たちは唸っているか?

 わしの息子たちは、泣いているか?

 イワンは答えました。

「僕だよ、お父さんの息子だよ。ロシアは、どこも静かだよ」

 お父さんはパンを綺麗に食べて墓に寝ました。イワンは、キノコを取りながら家に帰りました。中の息子が出迎えて尋ねました。

「親父はパンを食べたか?」

「ああ、綺麗にたいらげたよ」

 三日目の夜が来て、イワンがお父さんの墓に行く番になりました。イワンは兄さんたちに言いました。

「僕はもう、二晩も行ったんだ。今夜は兄ちゃんたちが行ってくれよ。僕はゆっくり寝たいんだ」

 けれども、兄さんたちは言いました。

「何を言うんだ、イワン。お前はもう墓に慣れてるじゃないか。お前が行く方がいいのさ」

「分かったよ。じゃあ、僕が行くよ」

 イワンはパンを持って出かけました。きっかり夜中の十二時にゴッと地面が割れて、お父さんが墓から起き上がりました。

 そこにいるのは誰だ? わしの末息子のイワンかね?

 教えておくれ、ロシアはどんな様子だ?

 犬たちは吠えているか?

 狼たちは唸っているか?

 わしの息子たちは、泣いているか?

「僕だよ、お父さんの息子のイワンだよ。ロシアは、どこも静かだよ」

 お父さんはパンをたいらげると、イワンに馬のくつわを渡して言いました。

「わしの言いつけを守ったのは、イワン、お前だけだった。よく怖がらずに成し遂げた。ありがとう、礼を言うよ。

 いいかね、イワン。広い野原に出て、大声で叫ぶのだ。『魔法の馬、不思議の馬! 私の前に立て! 草の前の木の葉のように!』とな。すると、一頭の馬が駆けてくるだろう。そうしたら、馬の耳の右に潜り込んで左の耳から這い出て来い。例えようもない立派な若者になれるだろう。そこでお前は、馬に乗って出発するのだよ」

 イワンは轡を受け取ると、お父さんにお礼を言って帰りました。相変わらず、道々キノコを取りました。兄さんたちが尋ねました。

「親父に会ったか? 親父はパンを食べたか?」

「会ったよ。綺麗にたいらげた。もう墓に来いとは言わなかったよ」

 

 さて、ちょうどその頃、王様がお触れを出しました。一人前の若者で、まだ結婚していない者は、一人残らず宮殿に集まれ、というのです。

 王様の一人娘の"うるわし姫"が、十二本の柱に十二段の丸太を組んだ塔を作らせました。姫は塔の天辺に座り、馬に乗ったまま一気に姫のところまで飛びあがり、唇にキスできる若者を待っています。もしやり遂げられたなら、それがたとえどんな身分の者であろうとも麗し姫の夫に迎え、国の半分をも授けよう、というのでした。

 このお触れを聞いて、イワンの兄さんたちも「おい、運試ししてみようぜ」と勇み立ちました。よい馬を選んでカラス麦をたっぷり食べさせ、小奇麗な服を着込んで念入りに髪の毛をセットしました。イワンはその様子をペチカに座って見ていましたが、兄さんたちに言いました。

「ねぇ、僕も一緒に連れてって、運試しをさせておくれよ!」

「馬鹿が何言うんだ。お前は森でキノコでも取ってりゃいいんだ。進んで人の笑いものになるなよ」

 兄さんたちは帽子を横っちょに被ると、立派な馬に乗って口笛を吹き鳴らし、「ヤァッ」と掛け声も勇ましく、土煙を立てて行ってしまいました。

 そこでイワンは、轡を持って広い野原に行きました。その真ん中に立って、お父さんに教えられたように叫びました。

魔法の馬、不思議の馬! 私の前に立て! 草の前の木の葉のように!

 すると、地面がドロドロドロ……と鳴り響きました。どこからか一頭の馬が地を唸らせながら駆けてきます。その鼻からは炎の息が燃え上がり、耳からは煙が吹き上がっています。馬はイワンの前にピタリと止まり、口をききました。

「何の御用でしょう?」

 イワンは馬を撫でてやって轡をはめると、右の耳から潜り込み、左の耳から這い出しました。と、たちまちイワンは絵にも描けないような凛々しく美しい若者になりました。彼は馬にうちまたがり、王様の御殿を目指しました。――その速いことと言ったら! 大地を震わせ、丘も谷もヒューーンとひとまたぎです。

 御殿についてみると、そこはもう黒山の人だかりでした。十二本の柱と十二段の丸太を組んだ高い塔の頂、小さな窓辺に、麗し姫の美しい姿が見えています。やがて王様が出てきて、人々に呼びかけました。

「若者たちよ、お前たちの誰でもよい、馬に乗って塔の窓まで跳び、わしの娘の唇にキスできたならば、娘の夫に迎え、国の半分を譲ろう」

 早速、元気のよい若者たちが次々に跳びはじめました。けれども、塔の高いこと! とても届きません。イワンの兄さんたちも挑戦しましたが、半分も跳べませんでした。やがてイワンの番になりました。

 イワンは魔法の馬を追い立て、エイヤーッと、掛け声も勇ましく跳びました。僅か丸太二段分届きませんでした。もう一度馬を走らせ、跳びあがりました。あと一段届きません。イワンは諦めないで、馬に助走させてはずみをつけ、燃える火のような勢いで跳びました。

 窓まで跳んだイワンは、麗し姫の甘い唇に口付けました。姫は、素早く指輪でイワンの額を叩いて、印をつけました。

 御殿の前の人々は口々に叫びました。

「捕まえろ、捕まえろ!」

 けれども、イワンの姿は煙のように消えていました。もう、広い野原に駆け戻っていたのです。

 魔法の馬の左の耳に潜り込んで右の耳から這い出すと、また元の馬鹿のイワンになりました。イワンは馬を放してやると、キノコ取りをしながら家に帰り、額にボロきれを巻きつけてペチカに横になりました。

 兄さんたちが帰ってきて、自分たちの見たことを話して聞かせました。

「みんな立派な連中だったけど、中でも一人、スゴイ奴がいて、ホントに馬で跳びあがって王女の口にキスしたんだぜ。一体、あれはどこの誰なんだろうな」

 イワンはペチカの煙突の陰に座って言いました。

「そいつ、僕じゃなかったかい?」

「馬鹿が、ふざけたこと言うな! ペチカの上でキノコでもかじってろ!」

 兄さんたちが腹を立てて怒鳴りつけると、イワンは額のボロきれをそっと取りました。たちまち、家中がパッと明るくなりました。麗し姫の付けた印が星のように輝いていたからです。兄さんたちはイワンが火を出したのかと思い、「馬鹿! 何するんだ、うちを燃やす気か!」と慌て騒ぎました。

 

 次の日、王様は宴会を開いて、国中のあらゆる人を招待しました。身分の高い人低い人、お金持ちに貧乏人、年寄りも子供も、みんな王様の宮殿に集まりました。イワンの兄さんたちも宴会に出かけました。イワンは兄さんたちに頼みました。

「僕も連れてってくれよ」

「馬鹿! お前が行っても皆に笑われるだけさ。ペチカの上でキノコでもかじってろ」

 兄さんたちは立派な馬に乗って出発しました。イワンは、後から歩いて宮殿に行くと、部屋の片隅に座りました。

 麗し姫は蜜酒を持ってお客の間を回り始めました。額に印のある人を探し出そうとしたのです。姫は一人残らずお客に会って、最後にイワンの側へ行きました。不思議なことに、姫の胸が締め付けられたように切なくなりました。髪はボサボサ、すすだらけのみすぼらしい若者なのに。姫はイワンに色々と尋ねました。

「あなたは誰? どこから来たのですか? どうして額に布を巻いているのです?」

 イワンは、素っ気無く「怪我をしたので」と答えました。けれども、姫はさっと手を伸ばすと、イワンの額のボロきれを取りました。隠されていた星が輝き、たちまち、宮殿中がパァッと明るく輝きました。

「これは私の付けた印。私の夫はここにいたわ!」

 王様が急いでやってきましたが、みすぼらしいイワンの姿を見て嘆きの声を上げました。

「なんという婿だ! 間抜けのすすだらけとは!」

 イワンは王様に言いました。

「王様、顔を洗ってきてもよろしいでしょうか」

 王様が許すと、イワンは庭に出て叫びました。

魔法の馬、不思議の馬! 私の前に立て! 草の前の木の葉のように!

 どこからか一頭の馬が地面を震わせて走ってきました。鼻から火を吹き、耳から煙を吐いています。イワンは馬の右の耳に潜り込み、左の耳から這い出して、絵にも描けないような美々しい若者になりました。人々はどっと どよめいて驚きました。

 あとはもう、言うことなし。めでたい結婚式とお祝いの宴が、いつまでも続きました。



参考文献
『ロシアの昔話』 内田莉莎子編訳 福音館文庫 2002.

※この話はシンプルであるが故に、女性版のシンデレラとの相似が認識しやすい。三人兄弟の末で馬鹿にされ、いつもかまど(ペチカ)の側ですすにまみれている主人公が、亡き親の魔法で美しく変身し、イベントに出かけて見初められ、しかしその場から逃げ帰る。後にある証拠によって見出され、再び変身して結婚する。構造的には全く同じである。

 ただ、類話には[金髪の男]的になって もう少し複雑化しているものがある。次に、同じロシアの類話を紹介しよう。

金のたてがみの生えた馬、金の毛の生えた豚、金の角を持つ鹿  ロシア

 老いた勇士にダニーラ、ガブリーラ、イワンという三人の息子がいる。末のイワンは馬鹿と呼ばれ、普段は鼻水で顔を汚しボロを着てつぼを頭に載せてペチカの上に座っていたりするが、実は誰よりも優れている。

 父は「わしが死んだら、三日目の夜まで毎晩墓に来ておくれ」と言って死に、墓に葬られる。

 最初の晩、長兄ダニーラはイワンがいくら言っても墓に行かず、仕方なく代わりにイワンがパンと棍棒を持って墓に行く。

「お父さん、いますか?」
「誰が来たんだ、ダニーラか?」
「違います」
「ガブリーラか?」
「違います」
「イワンか?」
「僕です、お父さん」

 真夜中、父は墓から出てくる。そして口笛を吹き鳴らして「我がブルカよ、ここへ来い!」と叫ぶ。栗色の馬ブルカが野や川をひと跳びにして現われ、大地は震えて森は割れそうになり、草はひれ伏す。ひづめの下からは火の粉が散り、鼻からは火が、耳からは煙が噴き出している。父は馬を叩き、野に放して「わしに仕えたように、イワンにも仕えよ!」と言う。それが終わると再び墓に消える。イワンが家に帰ると長兄ダニーラが訊く。

「お父さんはお前に何かくれたのか?」
「なにも。行っても脅かされるだけさ」

 二日目の晩、次兄ガブリーラも「昨夜お前が行って何もなかったんだから、俺にも何もないさ」と言って墓に行かない。代わりにイワンがパンと棍棒を持って墓に行く。棍棒で墓を叩いて父に呼びかける。

「お父さん、いますか?」
「誰が来たんだ、ガブリーラか?」
「違います」
「イワンか?」
「僕です、お父さん」

 しんとした真夜中、父は墓から出てくる。威勢良く口笛を吹き鳴らして大声で「我がブルカよ、ここへ来い!」と叫ぶ。栗色の馬ブルカが現われると、大地は震えて森は割れそうになり、草はひれ伏して、緑の草原が尻尾の毛で覆われたようになる。ひづめの下からは火の粉が散り、鼻からは火が、耳からは煙が噴き出している。馬はピタリと父の前に止まる。父が馬の右の耳から入って左の耳に抜けると、父も馬も立派な衣装と馬具を身に着けている。馬の背には敷物が重ねられ、その上には腹帯十二枚のついた鞍が置かれ、父の腰にはピカピカした銀の剣がある。勇士の姿となった父は馬を鞭打ち、馬は猛って森の上を跳び駆けていく。やがて父は戻り、馬の左の耳から右の耳に抜けて元に戻り、馬を叩いてから野に放して「わしに仕えたように、イワンにも仕えよ!」と言う。それが終わると再び墓に消える。イワンが家に帰ると次兄ガブリーラが訊く。

「お父さんはお前に何かくれたのか?」
「なにも。行っても仕方ないさ」

 三日目の晩、イワンは誰にも行かせずに自らパンと棍棒を持って墓に行く。棍棒で墓を叩いて父に呼びかける。

「お父さん、いますか?」
「誰が来たんだ、イワンか?」
「僕です、お父さん」

 静まり返った真夜中、父は墓から出てくる。威勢良く口笛を吹き鳴らして大声で「我がブルカよ、ここへ来い!」と叫ぶ。栗色の馬ブルカが現われると、大地は震えて森は割れそうになり、草はひれ伏して、緑の草原が尻尾の毛で覆われたようになる。ひづめの下からは火の粉が散り、鼻からは火が、耳からは煙が噴き出している。馬はピタリと父の前に止まる。父はイワンに自分が昨夜したように馬の耳を潜れと命じる。潜ると、イワンも馬も立派な衣装と馬具を身に着けている。馬の背には敷物が重ねられ、その上には腹帯十二枚のついた鞍が置かれ、イワンの腰にはピカピカした銀の剣がある。勇士になったイワンは馬を鞭打ち、馬は猛って森の上を跳び駆けていく。やがてイワンは戻り、馬の左の耳から右の耳に抜けて元に戻る。父は馬に「わしに仕えたように、イワンにも仕えよ!」と言う。それが終わると父子は永久に別れる。イワンが家に帰ると兄たちは「お父さんはお前に何かくれたのか?」と訊く。

「なにも。まったく何もなかったよ!」

 

 王のお触れが出る。「城の三階に住んでいる王女に触れることができた者を婿にする」と。

 イワンの兄たちは髪をセットして出かける準備をし、イワンが連れて行ってと頼むと嘲笑う。イワンは食い下がる。

「でも、僕にメス馬を貸してよ。おばさんたちにキノコでも採るよ」
「それなら貸してやるよ。あのボロ馬でもなんとか歩けるだろうよ」

 兄たちが出かけると、イワンはメス馬に後ろ向きにまたがって尻尾をくわえ、野菜畑に行く。そこで尻尾を引っ張って皮を剥ぎ取り、肉をばら撒く。

「カササギどもよ、食ってくれ。お父さんの供養だ!」

 そして広い野原に行って口笛を吹き、力強く馬を呼ぶ。「我がブルカよ、ここへ来い!」馬の耳を抜けて装束のそろった立派な勇士になり、天駆けて王様の城に着く。兄たちを追い越してさっと城の一階に飛び込み、人々を沸かせるが、そのまま逃げ去ってキノコを採りながら家に帰り、元の姿に戻ってペチカの上に寝ている。兄たちが帰ってきて「立派な勇士がいた、あれは誰だろう」と言う。

「それ、僕じゃなかった?」
「この大ばか者! お前のはずがないだろう」
「でも、僕は行ったんだよ」

 翌日も同じことが起こり、イワンは兄たちに借りた老いぼれ馬を野菜畑で殺してばら撒き、勇士のイワンになって城の二階に飛んでキノコを採りながら逃げ去る。

 三日目には狼に噛まれた子馬を野菜畑で殺してばら撒き、勇士になって城の三階に飛び込む。王女の金の指輪が彼の額に当たって額が輝く。あらゆるキノコを採りながら家に帰って、額の印を布で隠す。

 王様は国中であの勇士を探すがいつまで経っても見つからない。そのうち、「いつもペチカに座っているという若者がそうじゃないか」という噂が立ち、王様と王女がイワンのところに訪ねてくる。王女がイワンの布をはずして顔を洗うと、額が星のように輝きだす。

「お父様、怒らずに聞いてね。この人が私のお婿さんよ!」

 途端に、イワンは素晴らしい美青年になる。

 

 王様は娘が"馬鹿"の嫁になるのが気に入らず、イワンと兄たちを呼んで

「ある山の向こう森の向こうに、金のたてがみのメス馬が十二頭の子馬を連れて住んでいるという。それを捕まえてきた者に国の半分を譲り渡すが、連れて来れなかった者の首はわしの剣で刎ねてやろう」と言う。

 兄たちは出かけるが何も見つけられない。

 イワンは魔法の馬に乗って老婆の住む銅の御殿に行く。老婆は話を聞いて「もっと遠くの銀の御殿に住む私の姉なら知っているかもしれない」と言い、紹介状代わりに銅の小箱をくれる。銀の御殿に着くともっと年取った老婆が出てきて、銅の小箱を受け取り、たっぷり飲み食いさせてくれる。それからイワンの話を聞いて、「私は知らないが、金の御殿の私の姉なら知っているかもしれない」と言い、紹介状代わりに銀の小箱をくれる。金の御殿のとても年取った老婆は箱を受け取ってイワンにたっぷりの食事を振る舞い、それからイワンの話を聞いて答える。

「日の沈む方角に十日進むと、鬱蒼とした森にその馬がいる。お前は自分の馬を放し、樫の木に腰を下ろして待つのだ。そのうちに金のたてがみの馬がやってきて樫の木の幹に体をこすり付けるから、馬に飛びついてしっかり押さえつけ、決して放さずにいるんだよ」

 それから、老婆は開けると家具調度と食器付きでご馳走の出てくる金の小箱をくれる。礼を言って出発する。

 十日後に森に着き、老婆に言われたとおりにすると、金のたてがみの馬は観念して

「多くの人が私に乗ろうとしたが、あなた以外には誰もできなかった。あなたの馬になります」と言う。

 帰る途中で金の小箱から出した食事を食べて一眠りしていると、二人の兄と出会う。兄たちは勇士の姿のイワンが弟だと気づかず、金のたてがみの馬を譲ってくれと頼む。イワンは交換条件として兄たちの手足の指を切り落とす。兄たちは金のたてがみの馬とその十二頭の子馬を王様に渡すが、イワンの馬鹿はどこにも出かけさえしなかったかのようにペチカに座っている。

 

 王様は国の半分を譲るのが惜しくなり、今度は金の毛の生えた豚と金の角のある鹿を要求し、それを連れて来れた者に国の全てと王女を渡そうと約束する。兄たちは出発したが何も見つけられない。イワンは魔法の馬に乗って出発し、再び例の三人の老婆を順に訪ねて、それを手に入れる。(どんな風に捕まえたかは原話でも語られていない。)帰途、再び兄たちと出会う。引き換えに兄たちの背中から尻にかけての皮を一筋 剥ぎ取る。

 王様は兄たちに褒美をやろうと言うが、イワンには「首を刎ねてやる」と言う。イワンは「死ぬ前に風呂に入って体を清めたい、その風呂に王様と兄たちと一緒に入りたい」と願い、王様は聞き届ける。ところが、兄たちはいくら呼んでも風呂に入ろうとしない。とうとう王様が自ら連れに来たので、仕方なく服を脱ぐと、手足の指が欠けていて、背中から尻の皮が一筋剥がれている。王様が理由を問うと、イワンが代わりに答える。

「王様、その指は十二頭の子馬を連れた金のたてがみの生えた馬と、背中の皮は金の毛の生えた豚と金の角を持つ鹿と交換されたのです。僕がそれらを切り取りました。ほら、これを見てください」

 王様は真の勇士が誰であったかを悟り、イワンに国を譲ることを決めた。そして兄たちの首を刎ねようとするが、イワンはそれを押しとどめて願った。

「僕が彼らを笑い者にしたのは、僕が全てを見つけたことを証明するためです。僕は二人を許しますから、王様も許してあげてください!」

 王様は願いを聞き届け、兄たちは許された。そして、王様とイワンはいつまでも幸せに暮らした。


参考文献
『バイカル湖の民話』 N.I.エシペノク編、佐藤利郎訳 恒文社 1994.

※最後の一文、ホントにそう書かれていた。普通「王女と」幸せに暮らすんじゃないのか…。何かがずれているよーな。

 イワンの性格がものすごく悪い気がするのは、気のせいだろうか……。

 

 イワンが勇士になる前に駄馬を殺して野菜畑にばら撒く点に注意すべきだろう。殺され切り刻まれ、ばら撒かれて大地に豊穣を与え、より素晴らしく転生する生贄神の信仰が見える。また、十二頭の子馬を連れた金のたてがみの馬は、星々と太陽を表していると思われる。

 

 次に紹介する類話は、逆にシンプルで、より【シンデレラ】譚的である。

ヴィラたち、馬に黍畑を食べさせる  クロアチア

 昔、三人の息子を持つ老人がいた。彼は畑に黍を植え、それが大きく育った頃に様子を見に行った。すると黍が食い荒らされている。彼は家に帰って子供たちに「このままでは何も収穫できないかもしれないぞ」と訴えた。すると一番上の息子が言った。

「母さん、俺に少し早めに夕飯をこしらえてくれよ。黍の番をしに行くから」

 しかし彼は畑へ行くと、上着にくるまって眠りこんでしまった。そこへ馬たちがやって来て、前以上に黍を食い荒らした。次の日に畑を見に行った老人は言った。

「息子よ、お前は一体どんな具合に黍の番をしてたんだ? この前よりもっとひどくなってるじゃないか」

「それが父さん、ひどく眠くなってきて起きていられなかったんだ。足音は聞こえなかったもんだから」

 その次の日は中の息子が黍の番に行った。けれど彼も畑に行くと起きていられず、黍はもっと食い荒らされた。

 三日目に、いつも台所の灰の中に座っている末の息子が言った。

「母ちゃん、俺にパンの耳を一つくれよ。今度は俺が行って番をするよ」

 それから畑に行って、蟻塚の上の一番蟻がいるところに腰をおろした。こうすれば蟻に噛まれて痛い。眠り込んでしまわないための用心だった。

 夜中の十二時頃になると、三頭の馬が黍畑に現れた。末の息子は近づいて三頭共に手綱を掴んだ。すると一人のヴィラがやって来て言った。

「この馬たちをどうする気だね?」

「みんな家に連れて帰る。黍を食い荒らしていたのが何者だったのか、親父に見せてやるんだ」

 するとヴィラは言った。

「私と一緒に、あのうろのあるかしわの木まで行っておくれ。手綱は三本とも外してその中に隠すのだ。もし何か困ることがあったら、この柏の木まで来て銅の手綱を振っておくれ。もう一度困ることがあったなら銀の手綱を振っておくれ。三度困ることがあったなら金の手綱を振っておくれ」

 末の息子はそうすることにして家に帰った。父親は翌日に畑の様子を見に行って、畑が少しも食い荒らされていないのを確認して感心し、上の二人の息子たちに言った。

「お前たちは弟を《灰かぶり》なんて呼んで馬鹿にしていたが、どうして、なかなか良く黍の番をしてくれたぞ。昨夜はどこも食い荒らされてない」

 

 時を経て、皇帝ツァーが全土にお触れを出した。これこれの日に、わしは我が城の屋根の先端に金の林檎を一つ据え付けさせよう。我こそと思う者は城の中庭で行う観閲式に出席するがよい。大胆にも空からそれを取ってきた者に、我が娘を妻として与えよう、と。この噂でどこでも持ちきりになった。

 ところで例の三人兄弟のうち、観閲式を見に行ったのは上の二人だけで、《灰かぶり》はいつも通り、台所の灰の中に座っているだけだった。しかし兄たちが出掛けてしまうと、彼は体の灰を払い落として、あのうろのあるかしわの木まで行って、洞の中から銅の手綱を取って振った。すると、全身銅に包まれた見事な馬に乗ってヴィラが馳せ参じた。ヴィラは《灰かぶり》に銅の具足を与えて乗馬を手伝い、そのうえ馬に天空を駆けさせたので、彼は軽々と城の上を飛んだ。窓から見ていた皇帝の娘にお辞儀をすると取って返し、何もかもを柏の洞の中に隠すと、気位の高い兄たちが帰ってこないうちに我が家の灰の中に座った。

 兄たちは家に帰ってくると言った。

「おい《灰かぶり》、今日皇帝の中庭で行われたあの観閲式だけは、お前にも見せてやりたかったな! えらく立派な男が来たんだ。銅の馬にまたがって、自分もすっかり銅の装具で身を固めた男が、皇帝の中庭に現れたんだぜ」

 すると《灰かぶり》が言った。「その観閲式なら、俺も見たよ」。

「一体どこから見たんだ? そもそもお前、どこにいたんだよ」

「ウチの高い木の上に登ってさ、そこから見たんだ」

 それを聞いて、兄たちは「あの木を切り倒そう。そうすりゃ、こいつは明日のもっと素晴らしい観閲式は見られない」と言って、本当に木を倒してしまった。

 あくる日の朝、兄たちは起きるとすぐに観閲式へ出かけて行った。《灰かぶり》はまた例の柏の洞へ行くと、今度は銀の手綱を振った。ヴィラが乗って来た銀の馬具の馬に、自分も銀で装って乗り、皇帝の中庭まで天空を駆けて行って、皇帝の娘に一礼してから駆け戻った。そのあと全てを元通りに隠し、兄たちが帰る前に灰の中に横になった。帰ってきた兄たちは言った。

「今日の観閲式は見事なものだった。昨日に数段勝る。あいにくお前は全然見られなかったがな!」

 すると《灰かぶり》は言った。「でも見たよ」

「どこで見たって?」

「納屋の上から見たよ」

 すると高慢な兄たちは、納屋に火を放って燃やしてしまった。

 三日目にも、兄たちは起きるとすぐに観閲式を見るために出かけて行った。《灰かぶり》は柏の木のところへ行って、洞の中から金の手綱を取り出して振った。ヴィラが金の馬具で飾られた馬に乗って現れ、《灰かぶり》に金の装具を着せて送り出した。彼はまたも天空を駆けて皇帝の中庭へ行き、しかし今度は屋根の金の林檎を取って、一礼してから駆け去った。それからいつものように装具と手綱を隠したが、金の林檎だけは肌身につけて持ち帰った。

 

 四日目、皇帝はお触れを出した。全ての者が皇帝の中庭に来るように。そして金の林檎を持っている者はそれを持参するように、と。

 みんながそこにやって来たが、林檎を持ってきた者はいなかった。皇帝は尋ねた。

「他に家に居残っている者はいないのか。金の林檎を持つ者を知っている者はおらぬか」

 すると《灰かぶり》の父親の老人が言った。

「わしらは存じません。ただ、わしにもう一人息子がおりまして、それが家に居残っております。しかしこれがいつも灰の中にいるような奴でして。あれが林檎を持っているはずがありません」

 すると皇帝は家来を二人派遣して《灰かぶり》を調べさせた。彼が灰の中から立ち上がるとその下から金の林檎が出てきたので、家来は怪しんで詰問した。

「これをどうした。どこから持ってきたのだ!」

「別に、どこから持ってこようといいじゃないですか。一緒においでください。どんな風に手に入れたかお見せいたしましょう」

《灰かぶり》は家来たちを柏の木の所まで連れて行って、銅、銀、金の三つの手綱を一度に振った――途端に、三人のヴィラが馬に乗って馳せつけてきた。一人は銅の馬にまたがって、もう一人は銀の馬、三人目は金の馬で、《灰かぶり》のための装具も用意していた。《灰かぶり》は金の装具をまとい金の馬に乗って、右手に銀の馬、左手に銅の馬を従え、三頭の馬で皇帝の城の塀を飛び越えた。皇帝の娘は窓からこれを見ていて、いたく彼がお気に召した。それから彼が地面に降り立つと、皇帝やお妃や王女がやって来て尋ねた。

「あなたは何者ですか? どうしてこの林檎を手に入れることが出来たんですか」

「全てをお話し申し上げる機会は、また後ほどにいくらでもございます」

 彼がそう答えると、ヴィラたちが再び彼を天空に連れ去り、彼は家に帰った。

 あくる日、皇帝は《灰かぶり》に使者を送って午餐に招いた。その席で彼は自分に起こった全てを物語った。


参考文献
『世界の民話 アルバニア・クロアチア』 小沢俊夫/飯豊道男編訳 株式会社ぎょうせい 1978.

※ヴィラとは妖精の一種で、山中に存在し、あまり人間に危害を加えない。


参考 --> 「灰かぶり」「陸を走る船」「楽園の林檎


参考--> [金髪の男]「アラタフとモンゴンフ」[命の水]<眠り姫のあれこれ〜墓の中の馬




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