>>参考 「ババ・ヤガー」「森の三人の小人」「糠福と米福」「米福粟福
     [善い娘と悪い娘〜継娘の償い][善い娘と悪い娘〜野に捨てる][善い娘と悪い娘〜親切な実娘

 

十二の月  チェコ

 自分の娘と継娘を持った母親がおり、自分の娘は可愛がったが継娘は苛めた。なぜなら自分の娘は醜いのに継娘は美しく気立てが良かったからだ。掃除も洗濯も炊事も、裁縫機織り糸つむぎ・草刈りや牝牛の世話まで継娘の仕事だった。継母は継娘のマルーシカがいれば実の娘のホレナの縁談にさしつかえると考え、ますます苛めて、食事をろくに与えなかったりったりしたが、マルーシカはますます美しく、ホレナは醜くなるのだった。

 ある冬の日、ホレナがすみれの花束を欲しがって、森に探しに行くようにマルーシカに言った。マルーシカは「雪の下にすみれが咲くなんて聞いたことがないわ」と断わったが、ホレナは「私に逆らうな、持ってこなければひっぱたくよ!」と怒り、継母がマルーシカを家から締め出してしまった。

 泣きながら森に入ってさ迷ううちに、マルーシカは山の頂上に火を見た。それは大きな焚火で、周囲に十二人の人が車座になって、石に座っていた。三人は白髪の老人、三人は中年、三人はもっと若く、最後の三人は最も若く美しかった。何も言わずに火を見つめている彼らは十二の月で、髪も髯も雪のように真っ白の《氷の月(一月)》が上座に座り、杖を持っていた。

 マルーシカはしばし驚いて立っていたが、やがて挨拶して火に当たらせてくれるよう頼んだ。頷いて、一月は「何か探しているのか」と尋ねた。マルーシカが訳を話すと、一月は席を立って三月に杖を渡し、上座に着くように言った。三月が上座に着いて杖を振ると、焚火が燃え上がって辺りはたちまち春になった。マルーシカはすみれで大きな花束を作り、お礼を言って帰った。どこにあったのかと尋ねられたので高い山の上にどっさりあったと答えたが、受け取ったホレナは母親だけに匂いをかがせ、とうとうお礼を言わなかった。

 翌日、ホレナは「いちごが食べたい」とマルーシカを森へやった。同じことになり、一月の向かいに座っていた六月が上座に立つと、みるみる花が咲いてイチゴが生った。前掛けに摘んで帰ったが、ホレナは継母だけに分け与えてマルーシカには「おあがり」とも言わなかった。

 三日目、ホレナはリンゴを取ってくるよう命じた。マルーシカは今度は迷わず山の頂上に行き、中年の九月が上座に着いた。杖を振ると葉が落ち、あらゆる秋の花が咲き、紅葉し、リンゴが生った。木をゆさぶると二つリンゴが落ち、九月はそれだけで取るのを止めて帰るように促した。マルーシカは礼を述べて家に帰った。

 ホレナは「何故もっと取ってこなかった、途中で食べたんだろう」と責め、母親とだけリンゴを食べた。それがあんまり美味しかったので、自分でもっと取りに行くことにし、毛皮のマントを着込んで、母親の制止を振り切って出かけていった。道に迷って長くさ迷った後、火を見つけた。そこに行って火に当たったが、当たらしてくれともなんとも言わなかった。一月が不愉快そうに「何か探しているのか」と尋ねたが、それも「よけいなお世話だ」と突っぱね、リンゴの木を探して立ち去っていった。一月は杖を振りたて、途端に大吹雪になって、ホレナは凍え死んでしまった。母親はホレナが帰らないので、きっと美味しすぎてリンゴの木から離れられないのだろう、と捜しに行き、やはりそのまま帰らなかった。

 マルーシカはずっと家の仕事をしながら二人を待ち続けたが、二人はとうとう戻らず、やがて下男と結婚して、女主人として幸せに暮らした。



参考文献
『世界のシンデレラ物語』 山室静著 新潮選書 1979.
『世界むかし話集〈上、下〉』 山室静編著 社会思想社 1977.

※ロシア童話「森は生きている」として有名な話。しかし、中国、朝鮮、日本にも同様の話が伝わっている。中国では花、朝鮮では青菜やイチゴ、たけのこ、日本ではイチゴを採りに行かされる。

ヨニと楊の葉  韓国

 昔、ヨニという名の美しい娘が、意地悪な継母と一緒に暮らしていました。ある冬の日、継母は山から青菜を採ってくるように命じました。ヨニは山に行って、雪をかき分けて青菜を探しましたが、全く見つけられませんでした。山奥をさまよううち、ヨニは大きな岩穴を見つけました。石門にさわると開いたので、中に入ると、そこは春のような別天地でした。花が咲き、小鳥が歌っています。一人の少年が青菜を摘んで、ヨニに差し出して言いました。

「私の名前はやなぎの葉です。今度私を訪ねて来るときは石門の外で、

枝垂れ楊、楊の葉よ
ヨニが来たから門を開けておくれ

と言って下さい」

 それから、楊の葉はヨニに白と赤と青の瓶を渡して言いました。

「白い瓶の薬を骨になった人の上にまけば骨に肉がつきます。次に赤い瓶の薬をまけば血が巡ります。最後に青い瓶の薬をまけば生き返ります」

 ヨニが青菜を摘んできたのを見て驚いた継母は、翌日もヨニを青菜摘みに行かせましたが、ヨニはまた青菜を摘んで戻ってきました。不思議に思った継母はヨニを青菜摘みに行かせて、そのあとをつけて行きました。そして、ヨニが「枝垂れ楊、楊の葉よ、ヨニが来たから門を開けておくれ」と言って少年に迎えられて門の中に入り、青菜を持って出てくるのを見てしまいました。

 翌日、継母は少年を訪ねて行き、石門の外で「枝垂れ楊、楊の葉よ、ヨニが来たから門を開けておくれ」と言いました。そして、ヨニを迎えに出てきた少年に飛びかかると、「お前はウチの娘におかしな事をしたんだろう!」と散々叩いて、家に閉じ込めて火を放ちました。それから家に戻って、ヨニに青菜を摘んでくるように言いました。

 ヨニは石門の外で「枝垂れ楊、楊の葉よ、ヨニが来たから門を開けておくれ」と言いましたが返事がありません。ヨニが自分で石門を押して、なんとか少し開けて中に入ってみると、楊の葉が骨になって倒れていました。ヨニは驚き悲しみましたが、その時、柳の葉のくれた薬のことを思い出しました。大事な物だからといつも持ち歩いていたのです。白い瓶の薬をまくと、骨の上に肉がついて生前と同じ身体になりました。次に赤い瓶の薬をまくと、楊の葉の身体に血が巡りました。最後に青い瓶の薬をまくと楊の葉は生き返りました。楊の葉はヨニの手をとって言いました。

「私は天上で雨を降らせる仙官でしたが、上帝の命令であなたを助けるために地上に降りてきていました。あなたは私の花嫁になるのです」

 こうして、二人は虹に乗って天に昇っていきました。継母はヨニが帰ってこないので、もう一度あの石門に行きましたが、門は二度と開くことはありませんでした。


参考文献
決定版 世界の民話事典』 日本民話の会編 講談社+α文庫 2002.

※別伝では取りに行かされるのはイチゴだった。「十二の月」や「森の三人の小人」にも似ている。

 苛められている継娘が合言葉を唱えて秘密の存在に逢っていて、それを知った継母が相手を殺してしまうくだりは、[魚とシンデレラ]や【魚の恋人】の話群の魚殺しと同一モチーフだ。ここでは洞窟(岩)の中で逢っているが、「南の島のシンデレラ姫」で魚が飼われているのは洞窟の前の水盤である。(洞窟、開く岩は冥界の表象。)

 ところで、アイヌには《楊…柳》の葉が水に落ちてシシャモに変わったという伝説がある。《楊の葉》という名前は《魚…水神》の符牒かもしれない。事実、彼は自らを《雨の神…水神》であると述べている。

 順番に使う白と赤と青の薬は、生命の水と死の水の変形だろう。ロシアの民話では、バラバラにされて殺された人間にまず死の水をかけると肉体が繋がって治り、治った死体に生命の水をかけると生き返るというモチーフがよく現われる。この順番を間違えると生き返らない。

 骨になった死体に、まず肉をつけ、血を通わせ、息を吹き返させるといった段階的に甦らせるエピソードは、「プチュク・カルンパン」にも現れている。



参考 --> 「森の三人の小人



地の果ての井戸  イギリス スコットランド

 昔、王様とお妃様がありました。王様には娘が一人、お妃様にも一人ありました。王様の娘は気立てがよく、みんなから好かれていましたが、お妃の娘は気立てが悪く、みんなから嫌われておりました。お妃は王様の娘が妬ましく、どこかに追いやってしまいたいと考えていました。それで、ある日王様の娘に言いました。

「地の果てにある井戸に行って、ビンに水を汲んでおいで」

 そんなこと、できるはずがない。二度と帰ってこれまいと思って言ったのです。

 けれど、王様の娘は決心して、空のビンを持って出かけました。何日も経って、一本の高い木の下にやってきました。その木には小馬が繋がれていて、娘を見ると言いました。

お嬢さん、僕を自由にしておくれ

こうして、もう七年間ここに繋がれているんだよ

 娘は小馬を放してあげました。小馬が言いました。

「僕の背に乗りなさい。この先の野原はトゲがいっぱいだ。乗せて行ってあげましょう」

 娘は小馬の背に乗ってトゲの野原を通りすぎ、別れて先へ進みました。それから、口では言い表せないほど遠くまで旅をして、ついに地の果ての井戸に辿りついたのです。

 けれど、井戸はとても深くて、到底ビンで水を汲むことはできそうにありません。娘が途方にくれて井戸を覗きこんでいると、暗い水の底から何かが浮かび上がってきました。

 それは、首でした。気味の悪い生首が、ひとつ、ふたつ、三つも。それらはゆらゆらと娘を見上げながら、口を開きました。

お嬢さん、わしらを洗っておくれ

そのエプロンで綺麗に拭いてくれ

 王様の娘は、その気味の悪い首を洗い、エプロンで綺麗に拭いてやりました。

 すると、三つの首は娘のビンを取って水を汲み、更に相談を始めたのです。

「なあ、贈り物をしてやろう。何にするか」

「けっこう綺麗な娘だが、今の十倍も綺麗にしてやろう」

「わしは、あの娘がものを言うたびに口からルビーとダイヤと真珠が出るようにしてやろう」

「では、わしはあの娘が髪をとかすたびに、金貨と銀貨がどっさり出るようにしてやろう」

 そして、王様の娘はお城に帰ってきました。以前の十倍も綺麗になり、口を開いて何か言うたびにルビーとダイヤと真珠が出てきます。また、髪をとかすたびに金貨と銀貨がどっさり出てきます。

 お妃は腹立ちのあまり口もきけません。そこで、自分の娘も地の果ての井戸に向かわせることにしました。同じような幸運が舞い込むと思ったのです。ビンを渡して、水を汲んでおいでと言いつけました。

 お妃の娘がしばらく歩いて行くと、木に繋がれた小馬のところへやってきました。

お嬢さん、僕を自由にしておくれ

こうして、もう七年間ここに繋がれているんだよ

「いやよ。誰にものを命じているの。わたしはお妃の娘なんですからね」

「いいよ。じゃあ、トゲの野原を勝手に歩いてお行き」

 お妃の娘ははだしでトゲの野原を越えて行きましたが、トゲに引っかかれ、石につまづき、散々な目に遭いました。それでも歩きつづけ、口では言えないほどの長い長い旅をし、とうとう、地の果ての井戸につきました。ところが井戸は深すぎて、とてもビンが届きません。困ったなと思って井戸のふちに座っていますと、井戸の底から気味の悪い首が三つ浮かび上がってきました。

お嬢さん、わしらを洗っておくれ

そのエプロンで綺麗に拭いてくれ

「うわ、気持ち悪いわね。私はお妃の娘よ。何であんたたちを洗ってやらなきゃならないのよ」

 娘は首を洗ってやらず、ビンに水を汲めませんでした。三つの首は相談しました。

「なあ、バチを当ててやろう。何にするか」

「けっこう醜い娘だが、今の十倍も醜くしてやろう」

「わしは、あの娘がものを言うたびに口から青ガエルとヒキガエルが出るようにしてやろう」

「では、わしはあの娘が髪をとかすたびに、ノミとシラミがたっぷり出るようにしてやろう」

 そして、お妃の娘はお城に帰ってきました。以前の十倍も醜くなり、口を開いて何か言うたびに青ガエルとヒキガエルが出てきます。おまけに、髪をとかすたびにノミとシラミがたっぷりと出てくるのでした。

 こんな娘を置いておくわけにいかないと、とうとうお妃の娘はお城を追い出されてしまいました。

 やがて、王様の娘は立派な王子様と結婚しました。でも、お妃の娘は、自分と同じように醜くて性悪な男の妻になって、毎日なぐられながら生きていくことになったのでした。



参考文献
『世界の民話 イギリス』 小澤俊夫/川端豊彦/田畑和子/横田ちゑ編訳 株式会社ぎょうせい 1977.

※「地の果ての泉」「井戸の中の三つの頭」などといったタイトルが付けられることもある。

口をきく頭  イギリス イングランド

 昔々、アーサー王と円卓の騎士の時代よりももっと古い時代に、一人の王がイギリス東部を支配していた。彼の館はコルチェスターにあった。

 王は知恵と勇気に優れて万民を穏やかに暮らさせていたが、王の威勢が盛りの頃に、妃が一人娘を遺して死んでしまった。姫は十五歳になっていたが、大変しとやかで美しく、誰からも愛されていた。

 そのうちに王は、醜いが非常な金持ちの女のことを聞いて、家来の反対を押し切って結婚した。女には娘が一人あったが、これも母親に劣らず、醜く妬み深く邪険な性質であった。母子は王宮に乗り込んでくると、色々と讒言をしては美しい姫を王が憎むように仕組んだ。

 父王の愛情がどんどん薄らいだので姫は城に居辛くなり、他国に行って運命を試したいのですと言って資金を無心した。ところが、彼女が継母から受け取ったのは、布袋に入れられた少しばかりの黒パンとチーズと、ビール一本だけだった。姫はそれを持って、どこへ行くとも知れない旅に出た。

 森を抜け谷を越えてどこまでも行くと、一つの洞穴の前に出た。その入口の前の石に一人の老人が腰かけており、姫に尋ねた。

「そんなに急いでどこへ行くのかね」
「幸運を探しに行くのです」
「その袋とビンには何が入っているのかね」
「黒パンとチーズとビールですわ。どちらでも、お好きな方を召し上がりませんか」
「ありがとう。それじゃ、馳走になろうか」

 老人は言って、姫の出したパンとチーズを食べた。そして幾度も礼を述べてからこう言った。

「お前さんの行く手には、こんもり茂った茨の垣がある。ちょっと見には通り抜けられそうにないが、この杖で三度茨を叩いて、『垣根よ、垣根よ、私を通しておくれ』と言いさえすれば、すぐに通り抜けられる道が開く。その先に泉があるが、その端に座っていると、金の頭が三つ出てくる。その頭がお前さんに何か頼んだら、それをしてやるがいい」

 姫は「ありがとう、きっとそのようにいたします」と言ってその場を去った。

 しばらく行くと、果たして茨の垣があったが、老人にもらった杖でそれを三度叩いて、姫は教えられた文言を唱えた。

 垣根よ、垣根よ、私を通しておくれ

 すると垣根は自ずと二つに分かれた。

 そこを通り抜けてまたしばらく行くと泉があったので、その傍らに座った。すぐに、金の頭が一つ、次のように歌いながら転がって来た。

『洗ってくれ、梳かしてくれ、それから静かに寝かせておくれ』

 姫は「いいわ」と答えてその頭を取り上げ、洗って銀の櫛で髪を梳いて、桜草の咲いている土手の上にそっと寝かせてやった。するとまた一つ、もう一つと頭が出てきて同じように言うので、これらも同じように洗ってくしけずって桜草の土手に寝かせて、それから自分もそこに座って、袋からパンとチーズを出して食事をしていた。すると、土手の上の三つの頭が話し始めた。

『この娘はわしらに親切にしてくれたから、何かお礼をやらずばなるまい。
 わしは、世界で一番強い王子の心すらを惹きつける美しさを授けてやろう』
と、第一の頭が言った。
『わしは、どんな良い花にも勝る香りが、この娘の体や息から香るようにしてやろう』と、第二の頭が言った。
『わしは、世界で一番偉い王子の妃になる幸運を、この娘に与えよう』と、第三の頭が言った。

 それから三つの頭は声を揃えて「どうかわしらを泉に入れてくれ」と言うので、姫は静かに入れてあげた。

 姫は泉を後にして歩き出したが、とある森に差し掛かった時、大勢の家来を連れて狩りに来ていた王と出会った。王は姫を見ると訊ねた。

「そなたは何者か。こんな淋しい場所を一人で歩いているとは、何か訳があるのだろう」
「私は身分の卑しい者。ただ、少し訳があって一人旅をしているのです」

 姫はそう答えただけだったが、王は彼女を放っておくことができずに自分の城へ連れて行き、立派な服を着せて豪華な食事を食べさせたうえで、どうか隠さずに身分を明かしてくれと懇願した。こうなると姫も拒みきれずにコルチェスターの王女であることを打ち明けたので、王は早速コルチェスターの王宮を訪ねることに決めて、美々しく飾り立てた馬車に姫を伴って乗り込んだ。

 コルチェスターの王は、娘が立派な夫を連れ、しかも輝くほど美しくなり、香気すら漂わせながら城に入ってきたのを見て、心から喜んだ。しかし、お妃とその娘は嫉妬で気も狂わんばかりだった。王宮では祝いの宴が何日も続き、姫は沢山の土産を持って、夫と共にその国へ帰って行った。

 

 さて、お妃の娘は妬ましくてたまらず、負けてたまるかとばかりに自分も運試しの旅に出ることにした。母親は、果物やらお菓子やら白ワインのビンやらを充分に持たせて送り出した。

 けれど娘は洞穴の前に座っていた老人に何も分けてやらず、そのため茨の垣を越える時には傷だらけになった。泉の三つの頭が『洗ってくれ、梳いてくれ』と言うと、ワインのビンで殴りつけた。三つの頭は顔を突き合わせて娘を呪った。

『あの女の顔にライ病が出るように!』と、第一の頭が言った。
『あの女の息がもっと臭くなるように!』と、第二の頭が言った。
『あの女が田舎の貧しい靴直しと結婚するように!』と、第三の頭が言った。

 娘が泉を後にして町へ入ると、みながライ病を恐れて逃げ惑った。ただ一人、貧しい靴直しの男を除いて。というのも、彼は少し前にある僧侶の靴を直し、代金の代わりにライ病を治す薬と臭い息を消す酒を一本もらっていたからだ。彼はつかつかと娘に歩み寄って、「もしその病気を治し、臭い息も止めてやったら、俺の嫁になるか」と訊いた。娘はその申し出を受けるよりなかった。

 こうして二人は結婚し、コルチェスターの城館に帰って来た。お妃は、たった一人の血のつながった娘が貧しい靴直しと結婚したと聞いて、首をくくって死んでしまった。


参考文献
『世界のシンデレラ物語』 山室静著 新潮選書 1979.

※洞穴の前に座っている老人は、洞穴〜冥界を支配する冥界神の一形態かと思われる。中国の「たから山のたから穴」でも老人が洞穴の前に座っており、善良な主人公に幸を授けている。行き会った老人に袋の中の食料を分け与えると援助してくれるエピソードはノルウェーの「陸を走る船」にあるものと同じで、日本民話で言えば《桃太郎のきび団子》である。

 別の類話では、井戸の中にいるのは《三匹のうに》であったり、《三匹の金の魚》のこともある。

 グリムに「森の三人の小人」という類話があるが、三つの頭は冥界の奥に座す霊であり、即ち運命と霊感(神託)の神である。北欧神話に登場する、知恵の泉の番人ミーミル(時に、生首とされる)と関連するのはほぼ間違いあるまい。また、首が三つなのは、運命の女神が三人なのと関わるだろう。首が《相談して》娘の運命を定めるくだりは、世界に広く伝わる【運命説話】のモチーフである。また、首が三匹の魚として描かれている場合、ケルトの《知恵の木の下の泉》に住む知恵のサケを思い出さずにはいれない。



参考 --> 「森の三人の小人」【運命説話】「金樹と銀樹



 水車小屋の亡霊  ポーランド

 それぞれ娘を一人持ったやもめ男とやもめ女が結婚する。男の娘はマリューシャ、女の娘はアグニシアといった。

 継母はアグニシアをひどく甘やかしていたが、マリューシャは扱き使われ、虐待されていた。継母はマリューシャが美しく気立てが良く、村の男達に好かれているのに、自分の娘がそうではないことを憎んでおり、マリューシャを片付けて財産を奪い、それでアグニシアにいい夫を見付けようと考えていた。

 村の外れの小川の側に荒れ果てた水車小屋があり、ここにはお化けが出るという噂があった。昔、ここで首吊りした男がいて、以来勝手に明かりが点いたり、音楽や怪しい物音が聞こえるのだという。継母はマリューシャに糸繰り竿と亜麻を渡し、その小屋で夜明けまでにどっさり糸を紡いでくるように命令する。

 泣き通してから、マリューシャは小屋に行った。真夜中になると風が吹き、車の近付いてくるような音がして、ドアも開かないまま、突然、燕尾服に色の付いた袖、黒い房付き帽子といった出で立ちの二人の紳士が現われた。目は石炭のように燃え、地獄のロンドに合わせて踊り出した。

みどりの袖に

赤い袖

踊ろうよ、兄弟、踊ろうよ。

 しばらく踊ってから、紳士達は娘に言った。

みどりの袖に

赤い袖

踊ろうよ、兄弟、踊ろうよ

かわいい素直な娘さん

おいらにあんたの手をおかし。

 マリューシャは、踊るには靴がないといけないと言い、赤くて軽い靴を持ってこさせた。次に長靴下、刺繍の付いたブラウス、下着五枚とスカートを一回ずつ別々に、ケープ、別のケープ、珊瑚の首飾り、扇、手袋、絹のハンカチ、鏡、金貨を詰めた財布など。紳士達はそれらを取ってくる行き帰りにも絶えず例の歌を歌い、娘は何か持ってこさせるものを考えた。ついに紳士達は「もうこれで終わりだ、立っておいら達と踊るんだ」と言うが、娘は顔も洗わずに踊れない、と言い、ふるいを渡して水を汲んでくるよう命じる。何度やっても水が汲めないうちに朝になり、紳士達は呪いの言葉を吐きながら消えていく。溶けたタールのような嫌な匂いが残る。

 継母がほくほくしながら糸繰り竿と紡いだ糸を取りに来てみると、マリューシャは死ぬどころか美しく着飾って眠っていた。継母は話を聞いて妬み、アグニシアに同じことをするよう命じる。

 同じように事が起こるが、アグニシアは全ての品物を一度に頼み、穴の開いた牛乳桶で水を汲ませようとした。紳士達は指で穴を塞いで水を汲み、アグニシアは支度をして立ち上がった。紳士達はアグニシアの懇願も構わず一晩中くるくる回って踊り続け、最後に一人が首をねじ切って窓の穴にはめ、一人が胴体を川に投げ込んだ。持ってきた品物は彼女の魂と共に彼らの国へ持ち去った。

 朝、やってきた継母は遠くからアグニシアの首を見て、「娘や、娘や、お前は窓辺で私が来るのを待っているのかい。赤い珊瑚が首から垂れてるし、お前の顔は喜びで輝いてるよ」と言う。そのとき小屋の上に枝を垂れた木にとまっていた小鳥が言った。

頭は窓の中だし

足は川の中だよ。

 継母は自分の言いつけが娘にどんな結果をもたらしたかを知った。



参考文献
『世界むかし話集〈上、下〉』 山室静編著 社会思想社 1977.

※無残な話。



参考-->「継母」「金の履物」「うるわしのワシリーサ




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