>>参考 「月になった金の娘
     [善い娘と悪い娘〜悪意の派遣][善い娘と悪い娘〜継娘の償い][善い娘と悪い娘〜親切な実娘

 

可愛いヘンナ  イエメン

 女がヴライカ・アル・ハナ(可愛いヘンナの葉)という美少女を生んで死に、後妻がジャッラム(もじゃもじゃ)とみんなから呼ばれる醜い少女を生んだ。継母はヴライカを憎み、夫にあることないことを吹きこんだ。ついに父はヴライカを乗せて馬を駆り、無人の荒野に行って、トイレに行くと言って置き去りにして逃げ帰った。娘は長い間待ち、待ちながら歌った。

父さん、ああ、父さん

どれくらいおしっこしなければならないの

涸れ谷を、平地を全部いっぱいにしたのに!

 アル・ハドル・ビン・アバースが来て歌を聞きつけ、わけを聞いて、一緒にいてやろうと言う。

「馬はどこに繋いだらいいだろう」

「私の足に繋げばいいわ」

「どこで寝たらいいだろう」

「私を膝枕にして寝ればいいわ」

 アル・ハドル・ビン・アバースは、「明朝、日の出の最初の赤い縁取りが出たら私を起こせ」と言って寝た。娘は言う通りにした。

おじさん、ああ、おじさん

光の筋が空に赤く射してきたのが見えるわ

起きてよ、後生だから起きて!

 目覚めたアル・ハドル・ビン・アバースに導かれて、少し行ったところで川に出た。

「川で好きなだけ泳いでおいで。私は待っていてあげるから」

 泳いで岸に上がると、全身に金のアクセサリーがついている。

「お前は帰り道がわかるかね?」「わかりません」

 アル・ハドル・ビン・アバースは方向を示し、

「目を閉じて、家の屋根に着いたと思ったら開けなさい」と言った。娘はその通りにし、屋根の上で叫んだ。

父さん、ああ、父さん

どれくらいおしっこしなければならないの

涸れ谷を、平地を全部いっぱいにしたのに!

 声と共に金が落ち、継母が夫に屋根を調べさせると娘がいた。

 継母は妬み、我が子を同じように荒野に捨てさせた。娘が泣いているとまたアル・ハドル・ビン・アバースが来る。娘は、馬は向こうの木に繋ぎ、寝るのは向こうの平野にすればいいと跳ねつけた。アル・ハドル・ビン・アバースは「明朝、黒い雲が見えたら私を起こせ」と言う。

 翌朝に起こすと、彼は娘を川に連れて行った。川で泳ぐと、体中に蛇やノミや、あらゆる嫌な虫がびっしりついた。アル・ハドル・ビン・アバースは娘に目をつぶらせて後ろから押した。すると家の屋根の上に着いた。

 虫が降ってきたので、継母が屋根の上を探させると、娘が虫だらけになっている。みんなで虫を取ってやった。

 

 やがてヴライカが結婚することになったが、婚礼の日、継母はヴライカとジャッラムを入れ替えて、ヴライカを台所に押し込んだ。しかしヴライカは賢い娘でもあり、継母が忙しくなったのを見計らってジャッラムのところへ行き、言った。

「シーディル(ヴェール)を私に被せて台所へ行きなさい。ご馳走が沢山あるわよ」

 ジャッラムは喜んで台所へ行き、ヴライカは無事に嫁入りした。

 気付いた継母は一晩かけてヴライカの夫の家に行き、夜明けに家の門を揺すった。ヴライカと夫は屋根の上に逃げ、日が昇ると石を落として殺した。



参考文献
『世界の民話 イエーメン』 小沢俊夫/飯豊道男編訳 株式会社ぎょうせい 1986.

※ヘンナ(ヘナ、メヘンディ)は日本では染髪料として知られる。ミソハギ科シコウカ属の常緑低木で、甘く強い香りの白〜薄桃色の花を咲かせる。これはヒンドゥーの女神ラクシュミーに捧げられる花である。乾燥させた葉から褐色の染料を作り、インドや中東では結婚式や祭の際に手足にそれで精緻な文様を描くこともある。模様は肌に染みつき、自然に薄れて消えるまで二週間ほど残っている。

 

 アル・ハドル・ビン・アバースとは何者なのだろう? 恐らく、荒野の魔神のようなものなのだろう。

 魔神が娘に川に身を浸すよう命じ、善い娘は黄金になるが悪い娘は汚くなるモチーフは「月になった金の娘」にも見られる。妬んだ継母が婚家まで押しかけて来たのを夫と共に殺す結末は「金の履物」にもある。ここでは、訪ねてきて戸口を揺する継母は、人食い鬼〜山姥的なイメージなのだろう。日本の【瓜子姫】の類話の中には、住処の入口の上から石を落として、殺された姫の父が天邪鬼を殺す結末のものがある。

 

 ジャッラムがそんな悪い子に見えない。「馬はどこに繋ごうか」だの「私はどこで寝よう」だのと見知らぬおじさんに言われて、「私の足に繋いで、私の膝枕で寝て」と言うヴライカは、逆に軽率すぎやしないだろうか。婚礼の夜に花婿よりご馳走を選んだジャッラムは、色気より食い気の、子供っぽいだけの少女だと思える。そんな彼女を家の人々はジャッラム(もじゃもじゃ)と呼んで、いわば蔑んでいるわけで、本当に苛められていたのは誰なのか、という気もする。頼りにしていた母が殺されて、この後ジャッラムはどうなったのかなぁ……。



継母と継娘  マケドニア

 昔、継母がいたが、とてもひどい女だった。継娘と実の娘が一人ずついたが、どうしても継娘を愛することが出来ず、何とかして亡き者にしようとばかり考えていた。そしてついにこう呟いた。

「あの子に菓子パンを焼いてやって、山に追っ払い、野獣に食わせてやろう」

 そして菓子パンを焼くと、継娘を連れて山の中へ行った。山の頂上まで来ると継母は菓子パンを落とし、パンはコロコロと転げて行った。

「お前、追っかけて取っておいで!」

 菓子パンは山や谷を越えて転がって行き、継娘は一生懸命に後を追いかけた。やっと止まったのは、どこかの谷間の小屋の前だった。

 小屋の中から、一人のおばあさんが出てきた。おばあさんは菓子パンを拾うと、「これはどういう菓子だね、お前はまたこんなところまで何を探しに来たのさ?」と継娘に訊いた。継娘がいきさつを話すと、おばあさんが言った。「来な、娘さん。私と一緒にここで暮らそう」

 継娘が一緒に小屋に入ると、おばあさんが「私の頭のしらみをとっておくれ」と言った。娘は座っておばあさんの頭の虱を取り始めた。そうやって小さな虫たちをピチピチつぶしていると、おばあさんが訊いた。

「何がそんなにピチピチいっているのかね?」

「お婆さん、真珠や金ですよ」

 するとおばあさんが言った。

「お前の前がそうなるように、お前の後もそうなるように!」

 おばあさんは三度同じことを訊き、継娘は三度同じように答えた。おばあさんは夕方まで継娘を引きとめた。

 夕方になるとおばあさんは言った。

「娘や、あそこの壺にフスマが入ってるから、それをめんどりやヒヨコにやっておくれ」

 継娘はフスマを取ってニワトリ小屋へ行った。ところが、中にいたのはニワトリではなく、トカゲや毒蛇や、あらゆる嫌な虫だった。

 それでも、継娘は怯えなかった。怯えたとしても、それをおもてには出さなかった。

 エサをやって戻ると、おばあさんが尋ねた。

「娘や、ヒヨコたちにエサをやったかい?」

「やりましたとも、おばあさん。なんて可愛いヒヨコたちかしら」

「お前、びっくりしなかったのかい?」

「いいえ、ちっとも」

 最後に、おばあさんは娘を連れて梯子を登り、一つの部屋に案内した。部屋には古いのや新しいの、綺麗なのや汚いのなど、色んなつづらがぎっしりと並んでいた。

「さぁ娘や、どれでも気に入ったのをお取り。それから家へ帰ってもいいよ」

 娘は部屋に入ると、とても古ぼけた汚いつづらを選び、背中にしょって家に帰った。継母はそれを見ると「あれ、疫病神がまた帰ってきた」と怒鳴って家へ入れようとしなかったが、隣の家の人がとりなしてくれて、中へ入ることが出来た。継娘が家に入ってつづらを開くと、中は真珠や金銀財宝や、その他の宝物で一杯だった。

 継母はこの宝物を見ると、妬みの心で一杯になった。

「待ってろ、私の娘を出してやれば、あの子はもっと立派なつづらを持って帰ってくるから!」

 それで前と同じように菓子パンを焼き、同じように転がして後を追わせて、あのおばあさんの小屋に娘は辿りついた。

 散々抵抗した挙句、娘はおばあさんの虱を取らされた。

「そんなにピチピチいってるのは何だえ?」

「何がピチピチいってるかだって!? あんたは虱やキビスだらけじゃないか。世界の誰だって、あんたの頭を綺麗にするなんてできっこないさ」

 こう言われて、おばあさんは黙ってしまった。

 夕方になると、おばあさんはニワトリ小屋へエサをやりにいけと言った。娘はそこを覗くなり、ギャッと叫んで走り戻った。

「あれは何よ、ばあさん。あんたはめんどりやヒヨコだと言ったのに、いるのはトカゲや毒蛇じゃないか。あんなもの、みんなくたばればいいんだ!」

 最後に、ばあさんは娘を二階の部屋へ連れていったが、娘は一番大きくて綺麗なつづらを選んだ。そうして帰ってきた娘を母親は大喜びで出迎えて、継娘に言った。

「ごらんよ、私の娘がどんなつづらを持ってきたか。お前の持ってきた古い腐れかけたのと違って、いかにも新しくて綺麗じゃないか!」

 ところが、それを開けると中からトカゲや毒蛇や、その他イヤな化物が沢山出てきて、娘と母親に取りついて食べてしまった。



参考文献
『世界のシンデレラ物語』 山室静著 新潮選書 1979.

※日本人なら誰しも「舌切り雀」を思い出すであろう。目的地に着く前に複数の男に出会って道を尋ねるところも似ている。

 冒頭、転がった菓子パンを追って谷の底〜異界へ下るくだりは「ミルシーナ」や 「月になった金の娘」などにも見えるが、日本の民話では【鼠の浄土(おむすびころりん)】に相当するモチーフである。それは老人が団子や握り飯を追って地下の異界へ行く話だが、「糠福と米福」やその類話「継子の栗拾い」では、継娘が転がる栗を追って谷底の異界へ行き、母の亡霊か山姥、もしくは地蔵や観音に出会う。

継子の栗拾い  日本 徳島県

 継母が、継娘と実娘の二人にそれぞれ籠を持たせ、山に栗拾いに行かせた。ところが継娘の籠の底は抜けていたので、実娘はすぐに籠いっぱいに拾って家に帰ったのに継娘は少しも拾えず、山の中で夜になってしまった。

 継娘が暗い山の中で灯りを見つけて行ってみると、そこは鬼の家で、やまんばがのんのんと火を焚いていた。やまんばは継娘を憐れんで縁の下に隠してくれ、鬼が帰って来て「人臭いぞ、人臭いぞ」と言うと、「こななやまんばの家に、なんの人臭いことがあるか」と誤魔化してくれたので、鬼は黙って寝てしまった。

 あくる朝、鬼が仕事に出かけてしまうと、やまうばは継娘を縁の下から出して、籠に底を付けてくれ、更に桐の箱をくれて「広い所で広げてみよ」と言った。継娘が帰り路の広い所で開けてみると、中には金や着物が入っていた。

 これを妬んだ継母は、今度は継娘に底の付いた籠、実娘に底の抜けた籠をやって栗拾いに行かせた。実娘は同じようにしてやまんばの家に泊まり、あくる朝に「狭いところで広げてみや」と桐の箱を貰った。帰り路の狭いところで開けてみると、恐ろしいものが沢山出てきて、実娘を食い殺してしまった。


参考文献
『決定版 日本の民話事典』 日本民話の会編 講談社α文庫 2002.

※娘たちが山に取りに行かされるのは、栗の他に、椎や樫の実(どんぐり)、松笠、柴、わらび等がある。

参考 --> 「糠福と米福」「米福粟福


参考 --> 「バヴァン・プティとバヴァン・メラー」「月になった金の娘




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