参考--> [倒木、転落、落雷、縛り首などによる死][獣による死]

 

倒木による死の回避  日本 鹿児島県 喜界島

 二人の漁師が漁に行き、焚き火をして眠っていた。一人がふと目を覚ますと、神様が立ち話をしている。

「つぎの村に男の子が生まれるが、その子に俺は幸運の因縁を付けてやろう。この村にも女の子が生まれるが、その子には悪運の因縁をつけてやろう。

 つぎの村の男の子が二十一歳になったとき、この村の今夜生まれた女の子を嫁に取らせよう。嫁入りの途中で大雨に遭わせて、老木のうろに入ったところを殺してやる」

 その夜、眠っていたもう一人の漁師の家に女の子が生まれていた。

 

 二十一年が過ぎ、この時の漁師二人が道で出会った。女の子の父親の漁師は、今日、娘を隣村に嫁にやるんだ、と嬉しそうにしている。もう一人の漁師は神の話を覚えていたが、神の話を人に漏らすと罰が当たるというので何も言わず、ただ、黙って嫁入り行列についていった。果たして途中で大雨が降り、娘が大きな木のうろの中に入って雨宿りしようとしたので、漁師がうろから引きずり出すと、途端に木が倒れてしまった。そのままでは潰されて死ぬところであった。娘の命は助かり、無事に嫁入りしたという。



参考文献
『日本昔話集成(全六巻)』 関敬吾著 角川書店 1950-

※この地方では、神の悪因縁を祓うために、生まれた子の顔に鍋墨をつける。神の与える運命はキャンセル出来るものだと考えられているのである。

 インドや西欧の伝承では、運命の神が生まれた子供の額や手に運命の印を書き付ける。鍋墨をつけるのは、それを塗り潰して消すという意味かもしれない。

参考--> 「忠臣ヨハネス



落雷による死の回避  スウェーデン

 エスターラントに一人の領主がいた。彼は大金持ちだったが、息子がいなかった。やがて念願の息子が生まれたので、領主はあらゆる賢者を招いて息子の人生を占わせた。賢者たちは領主に言った。

「お子さんは成人する日にオスクに打たれて死ぬでしょう」

 領主は驚き、たとえ雷が落ちようとも打ち砕かれないほど頑丈な地下室を作らせた。

 息子が成人した日、巨大な雷雲が空に湧き起こった。領主は息子に翌日まで地下室に入っているように命じた。しかし息子は「死ぬように定められているなら、この場所で死にたい」と言って、地下室に入らなかった。

 突如として雷雨になり、雷が地下室に落ちて全てを打ち壊した。だが、地下室に入らなかった息子は無傷だったのだ。

 このように、神に守られている者は決して被害を受けないのである。



参考文献
『運命の女神 その説話と民間信仰』 ブレードニヒ著、竹原威滋訳 白水社 1989.

※この話型のパターンは大体こんな感じ。

(1)運命の女神または予言者が、子供が落雷で死ぬ運命を告げる
(2)親は子供を塔・砦・地下室など、頑強な建物に隠そうとする
(3)当日、子供本人が隠れ場所から抜け出したり隠れるのを拒む、または乞食や白衣の女が子供を連れ出す、または子供は隠れずに祈る。雷が落ち、隠れ場所は粉々に壊れるが、子供は助かる。

 異教の予言など信じるな、敬虔な者は救われる、などのキリスト教の教えがテーマになっている。



縛り首による死の回避  チェコ人とスロバキア人

 運命の女神スジェニツァたちがマルチンという名の男の子の運命をこう定めた。

「この子は十二歳になると、すぐに縛り首になるだろう」

 十年後に父親は息子を世間に送り出し、決して誰とも付き合うなと忠告した。悪い友達が息子を絞首台に送り出すかもしれないと思ったからだろう。

 けれども、少年は少し行ったところで乞食に名を呼ばれ、友達になった。二人は一緒にある町に行き、そこの有力者に自分たちは優れた画家だと吹聴した。

「お前たちがそれほど優れた画家だというならば、私が夢に見た素晴らしい光景を絵に描くがよい。それが出来れば報酬は弾むぞ」

 少年は困り果てたが、乞食は本当に素晴らしい絵を描いて沢山の報酬を得た。

 そうこうするうち、少年の十二歳の誕生日が近づいた。乞食は少年を教会に連れて行くと、祈るようにと命じた。その時、突然三人の魔女が絞首台を持って現れた。乞食は少年の身代わりに縛り首になった。

 魔女が去ると、死んだ乞食は打ち明けた。

「マルチンよ、実は私はお前の守護天使なのだ。今、悪い運命は成就され、お前は助かった。さぁ、両親の家に帰りなさい」

 乞食は姿を消し、マルチンは故郷に帰って自分の体験を人々に語った。



参考文献
『運命の女神 その説話と民間信仰』 ブレードニヒ著、竹原威滋訳 白水社 1989.

※この話型は、まとめると大体こんな感じ。

(1)絞首刑になると予言された若者が旅に出る。
(2)旅の中で若者は一人の友を得、彼と常に行動を共にする。(この友人は若者を悪の道に引き込もうとすることもある。)ある町で友人は有力者に大口を叩き、素晴らしい絵を描かねばならなくなる。友人は本当に素晴らしい絵を描いて、二人は報酬を得る。
 (3-a)眠り込んでいる(仮死状態の)間に若者の首は絞められる。(幻の絞首台、女神が現れて若者の首に金の鎖を巻く、友が若者を木に縛って首に金のひもを巻く)これにより若者の運命は回避される。または、友人が若者の身代わりに縛り首になって死ぬ。
 (3-b)若者は絵の報酬として有力者の娘と結婚するが、そこに友人が現れて、報酬の権利の半分は自分にもある、と主張する。若者が妻または子供を剣で半分に切ろうとした時、友人はそれを止める。若者の友情を試していたのだ。
(4)友人は実は若者の守護天使だった、と明かされる。運命を逃れた若者は故郷に帰る。

 幻の絞首台のモチーフは、独立した物語にもなっている。(ロシア、アイルランド、フランスなど)

(1)絞首刑で死ぬと予言されている若者がいる。(運命の女神は現れない)
 (2-a)運命の日、彼の母または妻が寝ずの番をしていると、突如見知らぬ男たちが入ってきて絞首台を建て、若者を吊るす。しかし若者は死んでおらず、その後も元気に生きた。
 (2-b)ある家に雇われた若者は、夢遊病のように夜毎にどこかに出て行く。家の主人は彼を不審に思う。後を付けると、教会で天使たちが彼を絞首台にかけている。目撃されて以降は夢遊病はなくなり、彼の運命も回避される

参考--> 「忠臣ヨハネス



首吊りによる死の回避  スロベニア人

 昔、運命の女神ロイェニツァたちがある男の子について予言した。

「この子は十一歳の始めに首を吊って死ぬだろう」

 両親はすっかり驚いて、どうすれば我が子をこの悪い運命から守ることが出来るかと考えた。そして「なにごとも神様の御名において始めなさい」と教え諭して子供を育て、その通りに子供は育った。

 運命の時が来たとき、男の子は習慣的に言った。「今、僕は神の御名において首吊り自殺をしに行きます」

 そして森に行ってひもで首をくくろうと三度試みたが、その度にひもはぷっつりと切れた。神の加護があったからだ。そうこうするうちに運命の時が過ぎ去り、男の子の魔がさした気持ちはなくなって、元気に家に戻った。



参考文献
『運命の女神 その説話と民間信仰』 ブレードニヒ著、竹原威滋訳 白水社 1989.



三重の死の回避  ギリシア人

 一人娘を持つ王妃に息子が生まれた。生後三日目の夜、三人の運命の女神モイラが現れた。姉は近くに横になっていて、女神たちの話を聞いた。

 一人の女神が言う。「この子は三歳で火に焼かれるだろう」

 もう一人は言う。「この子は七歳で岩から落ちるだろう」

 ところが三番目の女神は言う。「いや! この子は焼かれたり岩から落ちたりせず、二十二歳で結婚して若い妻と初夜の床に就いたとき、小屋根から落ちてきた蛇に噛まれるだろう」

 姉はこの予言をちゃんと覚えていて、常に注意を払っていたので、三つの定め全てから弟を守り通すことが出来た。



参考文献
『運命の女神 その説話と民間信仰』 ブレードニヒ著、竹原威滋訳 白水社 1989.

※一つの定めですら回避できないのが殆どなのに、三つも……。スーパー姉ちゃんだなー。

 大抵の運命の女神の予言では、最初の二つの予言は無効になるものである。しかし、ここではその全てが実現している。……いや、最初の二つを回避できたのは、三番目の女神が「この子は焼かれたり岩から落ちたりせず」と言ったからなのだろうか? だとすれば、本当の意味で回避できたのは最後の予言だけなのかもしれない。

参考--> 「忠臣ヨハネス



蛇に殺される運の回避  ジプシー

 ある老婆が、子供の誕生三日目に、三人の運命の女神の予言を聞いた。一人の女神は言う、「この子は十歳まで生きて窒息死するだろう!」。二人目の女神は言う、「この子は十五歳まで生きて自殺するだろう!」。すると三番目の女神が言う、「この子は二十歳になると、遠い国の娘と結婚するだろう。花嫁を故郷に連れて帰る途中、青年は休憩して長靴を脱ぐだろう。すると長靴の中に蛇が入り込み、再び靴を履いた途端に蛇に噛まれて死ぬだろう!」

 老婆は若者の側にいて、定められた時が来ると蛇を捕らえ、家に持ち帰って焼き殺した。こうして花婿を死の定めから救ったのだ。



参考文献
『運命の女神 その説話と民間信仰』 ブレードニヒ著、竹原威滋訳 白水社 1989.

※家に持ち帰って焼き殺しているところがポイント。多くの類話ではその場で焼き殺して、死に掛かった蛇だの焼けた蛇の体の破片だの残った蛇の骨だのが原因になって、結局 花婿は死んでしまうのだから。

参考--> 「蛇に殺される3



運命の女神との対決  インド グジェラート州

 昔、グジェラートは賢く優しいジャスワンタという王に治められていました。王は時折 身分を隠して町や村を訪れ、貧しい人や病人を見つけると、進んで援助の手を差し伸べていました。

 ある時、王は都から遠く離れた小さな村で行き暮れてしまい、一軒の貧しいバラモン階級の男ブラーミンの家に宿を頼みました。ブラーミンと妻は、粗末な身なりの男を快く家に上げ、出来る限りのもてなしをしました。この家には生まれたばかりの赤ん坊がいました。

 夕食を済ませると一家はすぐに休みましたが、王は目が冴えて、なかなか寝付かれませんでした。そうして夜も更けた頃、さらさらと衣擦れの音が聞こえて、見上げれば世にも美しい女が立っているのが見えました。

 月明かりでよく見ると、女はクムクム・インキ(額に赤い魔除けの模様を描くための花粉)の入った壷と、一本の筆を手にしていました。筆の柄には真珠がはめ込まれています。彼女は王には目もくれずに赤ん坊の寝ている部屋へ行き、揺りかごに近寄ると赤ん坊の手を取って、その小さな手のひらにインキで赤い線を描き始めました。

 細い線、太い線、交差している線を丁寧に描きました。最後に、生命を表す太い線を描き始めましたが、途中で筆がぽっきりと折れ、床に転げ落ちました。女は悲しげな顔で溜め息をつき、折れた筆を拾い上げるとその場を立ち去ろうとしました。一部始終を見ていた王は、女に声をかけました。

「あなたは誰です? ここへ何しに来たのですか?」

「私は先を急いでいるのだ。そこをどいてもらおう」

 女は威厳に満ちた声で言いました。王は怯まず、重ねて問いました。

「もう一度尋ねるが、あなたは一体誰なのです?」

「私は運命を司る女神、ヴィダタである。今晩、この男児に運命を授けに来たのだ。だが、筆は折れた。私はすぐにここを立ち去らねばならぬ」

「それはどういうことです」

「この子は若くして死ぬ、ということだ」

「死ぬって、それはいつのことですか」

「十八のとき。結婚式で彼と花嫁が護摩ホマグニの火の周りを七回巡るだろう。だが、四巡りしたとき、ライオンが花婿を襲い、殺すであろう」

 ヴィダタはそう言い終わると、姿を消してしまいました。

 王は呆然と立ち尽くしました。私に親切にしてくれた、このブラーミンの一家に降りかかる災厄を見過ごすのは忍びない。何とか力を尽くして運命の女神と戦わねばならぬ、と心に決めたのです。

 夜が明けて、ブラーミン夫婦に別れを告げるとき、王は身分を明かして こう言いました。

「あなたがたは、見も知らぬ私に本当に親切にしてくださった。実を申すと、私はあなた方の王、ジャスワンタだ。私はいつか、あなた方のご厚意に報いたい。だから、あなたの息子さんが結婚するときには、必ず私を招いて欲しい。何か贈り物をしたいのだ」

 これを聞くと夫婦は驚き、

「わたくしどものあばら家に ようこそお泊まり下さいました。身に余る光栄でございます」

と、王の足元にひれ伏し、「お言葉に甘えて、息子の結婚式には必ず招待させていただきます」と約束したのでした。

 

 早くも十八年が過ぎました。

 ブラーミンの息子は立派な若者になり、今日は晴れの結婚式です。都から王が臨席されるとあって、村中は喜びと興奮で沸き立っています。朝からお目出度いホラ貝が吹き鳴らされ、太鼓やラッパの音が鳴り響いています。人々がズラリと沿道に並んで見物する中、王の一行が村に入ってきました。薄く化粧を施した白象に乗った王を先頭にして、その後に象や馬に乗って鎧兜よろいかぶときらめかせた家来が続々と従ってきます。ブラーミンの家の前まで来ると王は象から降り、持参した数々の贈り物を花婿と花嫁に差し出しました。

 家来は王に命じられた通り、村の隅から隅までをぐるりと囲んで弓矢を構えました。結婚式の間にライオンが出たら射殺いころすためです。王は刀を抜いて火の側に立ち、辺りに目を凝らしていました。

 結婚式が厳かに始まりました。僧侶が経文を唱え、祝福を与えると、二人は手を取り合って、赤々と燃える護摩の火の周りを歩き始めました。一巡り、二巡り、三巡り、そして四巡り目を歩き終わったときです。突然、ものすごい吠え声がしたかと思うと、今まで誰も目にしたことがないほどの大きなライオンが飛び出してきて、あっと言う間も無く花婿の喉笛に噛みつきました。彼はどうと倒れ、息絶えてしまったのです。

 ライオンはどこからやって来たのでしょうか。実は、戸口に置いてあった大きな陶器の水差しに彫られてあった模様が抜け出していたのです。花婿を殺してしまうと、ライオンは再び元の彫り模様に戻りました。

 花嫁も、ブラーミン夫婦も、遺体にしがみついて泣き崩れましたが、どうするすべもありません。招かれた人々も、恐ろしさと悲しみで口もきけませんでした。

 ジャスワンタ王は、万全の策を講じたつもりで、結局はまるで役に立たなかったことを悔やみました。しかし、彼はまだ諦めていませんでした。悲しみに打ちひしがれるブラーミン夫婦に、

「そう悲しまないでください。私が、なんとしてでも あなたの息子さんを生き返らせてみせる」

と言うと、承諾を得て遺体を城に連れ帰り、自ら油と薬草の汁、香料を塗ってやり、腐らないようにして、大理石の台に安置しました。それから国中の名医や薬草学者、祈祷師や僧侶などを呼び集めて相談しましたが、これといって良い方策は見つかりませんでした。それでもなお王は諦めず、毎日毎日、森や野を歩き回っては薬草を探したり、寺院に行って祈祷したりしました。

 

 そんなある日のこと。王が森で薬草を探していると、向こうに火の手が上がっているのが見えました。「助けて! 助けてくれー!」と誰かが叫んでいます。王が駆けつけると、メラメラと燃える炎の中で、大きなコブラがのたうちまわっています。王は我を忘れて炎の中に飛び込み、コブラを救い出しました。

「ありがとうございます、王様。これで命拾いしました。あなたが助けてくださらなかったら、私は このまま永遠に火の中で苦しまなければならなかったでしょう。私はナラッド行者様に背いたために、このような呪いを受けていたのです」

 コブラは厚く礼を述べ、「何かご恩返しをさせてください」と言います。そこで王は、

「実は、私はライオンに噛み殺されたブラーミンの息子を生き返らせる方法を探している。あなたは何かいい方法を知ってはいないか?」と尋ねました。コブラは王の目をじっと見つめて言いました。

「それでは、私の巣にいらしてください。いいものを差し上げましょう」

 コブラはシュルシュルと滑って、森の奥深くにある巣に王を案内しました。それは石と石との隙間の穴で、中へ潜って入り、小さなビンをくわえて出てきました。

「これを差し上げましょう。中には命の飲料ネクターが入っています。私の曽祖父が蛇王から授かったものです。この一滴を、彼の口に含ませなさい。きっと甦るでしょう」

 コブラはビンを王に渡しました。

 

 城に帰ると、王は早速、冷たく横たわっているブラーミンの息子の唇へ、ネクターの一滴を落としました。すると、若者は長い眠りから目を覚ましたように起き上がり、辺りを不思議そうに見回しながら

「ここはどこ? 僕はどうしたんだろう」

と、訊きました。王は満面に喜びをみなぎらせて、

「心配することはない。ここはグジェラートの王城だ。君は死から甦ったのだよ」と言いました。

 その時、サーッと一陣の風が吹き、暗い部屋に光が差し込むと共に美しいヴィダタが現れました。

「ジャスワンタ王よ、そなたは運命に打ち勝ったのだ。運命の女神ヴィダタは、そなたの勇気と誠意に感服いたしたぞ。これからも永久とわにこの地を治めるがよい」

 女神はそう言うと消えました。

 ブラーミンの息子は村へ帰って、中断した結婚式を挙げなおし、それからは幸せに暮らしました。

 グジェラートの人々はジャスワンタ王の行いを讃えて、今なお、その名を忘れないということです。



参考文献
『人になりそこねたロバ インドの民話』 タゴール暎子編訳 筑摩書房 1982.

※ヘビが「復活させる力」または「聴耳(霊感)の力」を与えてくれる、というモチーフは、世界的に見受けられる。

 例えば、『グリム童話』の「三枚のヘビの葉」や、ギリシア神話のポリュエイドスの物語では、ある死者を甦らせぬ限り自分も死なねばならない状況に追い込まれた主人公が、蛇が とある薬草で仲間を甦えらせたのを目撃し、それを使って自分も死者を甦らせる。




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