>>参考 [ヘンゼルとグレーテル][王の命令][人さらい
     「シン・シン・ラモと月」「親指小僧(ペロー)

 

賢いモリー  イギリス

 むかしむかし、あるところに男とおかみさんがおりましたが、あんまり子供が沢山いて、みんなに食べさせることが出来ませんでした。そこで下の女の子三人を森の中に捨てたのです。三人はどんどん歩いていきましたが、どこまで行っても家一軒も見つかりません。そのうち辺りは暗くなり、お腹もすいてきました。

 その時、やっと明かりが一つ見えました。行ってみると家が一軒だけあります。三人が戸を叩くと、中から女の人が出てきて言いました。

「何か用かい?」

「お願いですから、中に入れて、何か食べる物をください」

「生憎だけど、うちの人は人食いの大男だからね。見つかったら殺されてしまうよ」

「ほんの少しでいいですから休ませてください。旦那さんが帰って来るまでには、きっと出て行きますから」

 そこで女の人は三人を中に入れて、火の前に座らせてパンとミルクをくれました。ところがパンを食べようとした瞬間、表の戸をガンガンと叩く音がして、恐ろしい声が響きました。

ぶるるる、ぶるるる、ぶるっ、ぶるっ

におう! におうぞ! 人間の血の匂いがする。

そこに誰かいるのか?

 おかみさんが答えました。

「いるにゃいるがねえ。ちっぽけな娘っ子が三人、腹をすかせて凍えているのさ。すぐ出て行くからね。お前さん、手は出さないでおくれよ」

 大男は何も言わないで、晩ご飯をどっさりたいらげると、三人に泊まっていくように言いました。この大男にも娘が三人いたので、その娘たちと同じベッドで寝る事になったのです。

 ところで、捨てられた三人姉妹のうち一番年下の名をモリーといって、とても賢い子でした。モリーはみんながベッドに入る前、大男が自分と二人の姉さんの首にわら縄を、大男の娘たちの首には金の鎖を巻いたのに気がつきました。そこで眠らずにいて、みんなが寝静まってしまうと、自分たちの首のわら縄と大男の娘たちの金の鎖を巻きかえておいたのです。

 真夜中のことでした。大男が起きてきて、手に大きなこん棒を握り締めて娘たちのベッドまで来ると、手探りで、わらを巻いてある首を探しました。真っ暗闇の中で、大男は自分の娘を引きずりおろし、こん棒で力いっぱい叩きのめしたので、娘たちはみんな死んでしまいました。大男はそうとは知らずに、上手くやったと笑いながら横になって寝ました。

 モリーは、ぐずぐずしていてはいけないと思い、二人の姉さんを起こして、音をたてないようにして三人でそこを抜け出しました。家の外に出た途端、三人は走って走って、朝まで走り続けました。

 

 辺りが明るくなって気がつくと、大きなお屋敷の前にいました。そこは王様のお城だったのです。モリーは中に入って、王様に自分たちの話をしました。王様はそれを聞くと言いました。

「モリー、お前はなんと賢い娘じゃ。それになかなか上手くやりおったわ。だがお前が戻り、もっと上手くやって大男の枕元に掛かっている刀を盗ってこれたなら、お前の一番上の姉とわしの一番上の息子を結婚させてやるのだが」

 それを聞いて「やってみます」とモリーは言いました。そして一人で戻り、大男の家に忍び込んでベッドの下に隠れました。

 大男は帰ってくるとすぐに晩ご飯をどっさり食べて、ベッドに入りました。モリーは大男が寝静まるのを待ち、大男の頭ごしに刀を掴みました。けれども刀を手元まで引き寄せた時、カチャっと音がして、大男が目を覚ましました。

 モリーは刀を持ったまま戸口から外へ飛び出します。どんどん走る後ろから、大男がどんどん走って追いかけてきます。やがて《髪の毛一本橋》に差し掛かると、モリーは橋を渡ることが出来ましたが、大男は出来ませんでした。

「くそっ!! モリー、二度と来るなよぉお!」

「いいえ、来るわ。あともう二回!」と、モリーは言い返しました。

 

 モリーは刀を王様のところに持っていき、モリーの一番上の姉さんは王様の一番上の息子と結婚しました。

 ところが、王様は言いました。

「モリー、上手くやったな。だがもっと上手くやって、大男の枕の下にある財布を盗ってこれたなら、お前の二番目の姉をわしの二番目の息子の嫁にしてやるのだが」

「やってみます」とモリーは言いました。モリーはまた大男の家に出かけて、忍び込み、ベッドの下に隠れました。そして前と同じように大男が寝てしまうのを待ちました。大男が眠るとモリーは這い出して、大男の枕の下にそっと手を入れて財布を引き出しました。ところがモリーが外へ出ようとした時に、大男が目を覚まして追いかけてきました。

 モリーはどんどん走り、大男もどんどん走ってきます。やがて《髪の毛一本橋》に差し掛かると、モリーは橋を渡ることが出来ましたが、大男は出来ないのでした。

「くそぉっ! やい、モリー! 二度と戻ってくるなっ」

「いいえ、来るわ。あともう一回!」と、モリーは言い返しました。

 

 モリーは財布を王様のところに届け、二番目の姉さんは王様の二番目の息子と結婚しました。

 そのあと、王様が言いました。

「モリー、お前は賢い娘じゃ。だがお前がもっと上手くやって、大男が指にはめている指輪を盗ってこれたなら、わしの末息子をお前の婿にやるのだが」

「やってみます」とモリーは言いました。この前と同じように大男の家に忍び込み、ベッドの下に隠れて、大男が眠るのを待ちました。這い出すと、手を伸ばして大男の手を掴み、指輪をぐいぐいと引っぱって、とうとう指から抜きました。

 その途端、大男は起き上がって、モリーの手をがっちりと掴みました。

やっと捕まえたぞ、モリー!

 さぁーて。お前がわしにした程ひどい事を、わしがお前にしたとしたら、お前なら、わしをどうするかねぇ?」

「あんたを袋に押し込んで、そこに猫と犬を一緒に入れて、針と糸とハサミも入れて壁に掛けるわね。それから森へ行って、太い棒を探してきて、壁から袋を下ろして、袋の上から死ぬまでぶっ叩いてやるわ」

「よーし、モリー。その通りにしてやるわい」

 大男はそう言うと、麻袋を取ってきてモリーを中に放り込んで、猫と犬と針と糸とハサミも一緒に入れて、壁に掛け、棒を探しに森へ出かけました。モリーは大きな声で歌うように言いました。

ああ、ああ。私の見ているものを、ちょっとでも見たら……

「へぇー。何が見えるんだね、モリー?」と、大男のおかみさんが訊ねました。

ああ、ああ。私の見ているものを、ちょっとでも見たら……

 モリーは歌うように繰り返しています。おかみさんは何が見えるのか気になって気になって仕方ありません。

「なんだい、気になるじゃないか。私を袋に入れて、モリーの見てるものを見せておくれ」

 モリーは内側から袋をハサミでジョキジョキ切ると、針と糸を持って床に飛び降りました。そしておかみさんを押し上げて袋の中に入れて、針と糸で縫って穴を塞ぎました。

 おかみさんは大人しく袋に入りましたが、何も見えません。そこで出しておくれと頼みましたが、モリーはそんなことに構っていられません。走って戸の陰に隠れました。……と、そこに大男がばかでかい木を一本、まるごと引っこ抜いて帰ってきました。そして壁から袋を下ろし、ばかでかい木でぶっ叩きはじめました。おかみさんは「あたしだよ、お前さん!」と言いましたが、犬はワンワン、猫はニャーニャー喚いていたので、大男にはおかみさんの声が聞こえません。

 大男が全てを悟ったのは、モリーが戸の陰から現れたのを見た時でした。逃げ出したモリーを大男は追いかけました。どんどん走って追いました。モリーもどんどん走って逃げました。やがて《髪の毛一本橋》に差し掛かると、モリーは橋を渡ることが出来ましたが、大男は出来ないのでした。

「くそぉおっ! やい、モリー! 二度と戻ってくるなよ!」

「ええ、来ないわ。もう二度と!」と、モリーは言いました。

 

 そしてモリーは王様のところに指輪を持っていき、王様の末の息子と結婚しました。それからというもの、二度と大男と会うことはありませんでした。



参考文献
『エパミナンダス 愛蔵版おはなしのろうそく1』 東京子ども図書館編 2004. 松岡享子訳
『決定版 世界の民話事典』 日本民話の会編 講談社+α文庫 2002.

※「三度の繰り返し」のリズムがよく効いていて、テンポよく面白い話である。この系統の話群に現れるモチーフの多くを網羅してもいて、そういう意味でも優等生的な例話だ。

 この話には天梯樹は現れないが、人食いの大男の家を訪ねて宝を盗み出す、という点で「ジャックと豆の木」の類話とされる。

 モリーと大男の追走劇の際に必ず出てくる「髪の毛一本橋」は何なのか。字義通り細い橋で、モリーは体の小さな女の子だから渡れるが大男は体が大きくて渡れない、と単純に解釈して終わってしまうのはつまらないことである。結論から言えば、これは三途の川に掛かった橋だ。大男は「あの世の存在」であるために橋を渡ることは出来ないのである。

 

 余談ながら。

 王はモリーに「刀」「財布」「指輪」を盗んでくるように要求する。これは「武力」「富」「権力(霊力)」の象徴であり、即ち「王に必要とされる力」である。通常ならそれらは王自身が試練を経て人食いの大男から――冥界の祖霊神から得なければならないものであるが、この王はモリーに代行させている。とは言うものの、自分の息子と結婚させているので、「王の代替わり(王の死と再生)」が暗示されてもいるのだが。

 この世とあの世を行き来するモリーは、王者であると同時に巫女である。


参考 --> <死者の歌のあれこれ〜煮えたぎる釜と髪の毛一本橋><カチカチ山のあれこれ〜ひっくり返った構図>「人食い女」「袋の中の男の子



魔女カルトとチルビク  ロシア アワール族 (コーカサス)

 昔、一人のお婆さんがいた。このお婆さんには三人の息子があった。上の二人の息子は賢くて素直で、まともな人間に育ちそうだったが、一番下のチルビクときたら、しらくも頭(頭皮の水虫。豆大の白い発疹が出て、掻くとフケが出る)で、着ている毛皮の服はしらみだらけで、まあ、この子を見た人は誰でも一発小突きたくなるような、そんな子だった。

 ある日のこと、三人の兄弟は森へ木を伐りに行ったが、帰りに道に迷ってしまった。日が暮れたが森からは出られない。兄たちはチルビクに命じた。

「お前、木に登ってどこかに煙が昇ってないか見てこいよ」

 一番高い木のてっぺんからチルビクは四方八方を眺め回した。すると真っ黒な煙が森の真ん中から渦を巻いて立ち昇っているのが見えた。三人兄弟はその煙を目指すことにした。

 それからどれほど歩いたことか、歩かなかったことか。三人は一軒の小屋に辿り着いた。中に入ると火が赤々と燃えていて、その前に魔女カルトが両足を左右に広げて座っていた。カルトの三人娘もそこにいた。

 カルトは三人兄弟を快く迎え入れ、腹がすいてはいないか、喉は渇いていないかと尋ねて食事を出してくれた。上の兄二人は恐ろしさのあまり何も口に入れることが出来なかったが、チルビクは兄たちの分まで平らげた。名誉に関わることだと考えたからである。

 チルビクと魔女の家族たちは存分に飲み食いして歓談したが、やがて魔女が娘たちのためにベッドを一つ用意し、もう一つのベッドを三兄弟に与えて、自分は暖炉の前で横になった。

 夜がかなり更けると、魔女はダイヤモンドの付いたガラス切りをビッチュラッチュと充分に研いだ。三人兄弟を殺す準備が整うと、魔女は声をかけた。

眠っているのは誰だい。眠っていないのは誰だい?

「僕は眠っているよ。僕は眠っていないよ」と、チルビクが答えた。

「どうしてお前は眠らないんだい、チルビク。まだ何か欲しいのかい?」

「ちょうどこのくらいの時間に、僕の母さんは小麦粉のお団子を作ってくれるんだよ。それを思い出しちゃったから眠れないんだ」

 魔女は改めて火を起こし、火に鍋をかけて、団子を作ってチルビクに食べさせた。

 それからしばらく経って、魔女はビッチュラッチュとダイヤモンド付きのガラス切りを研いでしまうと、またこう言った。

眠っているのは誰だい。眠っていないのは誰だい?

「僕は眠っているよ。僕は眠っていないよ」と、チルビクが答えた。

「どうしてお前は眠らないんだい、チルビク。まだ何か欲しいのかい?」

「今ぐらいの時間に、僕の母さんはお菓子をくれたもんだ。僕はお菓子が欲しくなっちゃったから眠れないのさ」

 魔女は起き上がってお菓子を出してきて、チルビクに食べさせた。それから二人とも横になった。

 それからだいぶ時間が経って、チルビクももう眠っただろうと思われた頃、魔女はまたまた声をかけた。

眠っているのは誰だい。眠っていないのは誰だい?

「僕は眠っているよ。僕は眠っていないよ」と、チルビクが答えた。

「おやチルビク、お前はなんと不幸せなんだろう。昼に寝るわけにはいかないのに、どうして夜の間に眠らないんだね? 私は明日畑に行かなければならない。心を穏やかにして眠りなさい」

 魔女はチルビクを叱った。けれどもチルビクはこう言い返した。

「どうして眠れるって言うの? ちょうどこの時間には、お母さんはざるで川から水を汲んできて、僕に飲ませてくれるんだもの。僕は水を飲まなければ目を閉じられないんだよ」

 魔女はざるを持って川に行った。魔女が出かけてしまうと、チルビクはカルトの三人の娘を自分の兄たちが寝ていたベッドに寝かせ、逆に自分と兄たちは娘たちのベッドに寝た。チルビクがそうやっている間に魔女は川に着いて水汲みを始めたが、どうやっても ざるでは汲めない。魔女はざるを川に投げ捨てて、ぷんぷんしながら家に帰った。

 カルトはそっと家に入ると声をかけた。

眠っているのは誰だい。眠っていないのは誰だい?

 チルビクはぴくりともしないで押し黙っていた。魔女はチルビクたちを寝かせているつもりのベッドに忍び寄ると、よく研いだガラス切りで眠っている子供たちを殺した。子供たちは喉をごろごろ言わせただけで事切れた。

 

 夜が明けると、魔女は畑へ行く用意をし始めた。そして自分の一番上の娘の名を呼んだ。

「『赤い胸』や。お母さんは今から畑に行くからね。そこの坊主たちの頭と足を煮て、お昼に私のところへ持って来ておくれ。お前たちも食べていいからね」

「持って行くわ、お母さん」と、チルビクは『赤い胸』の声を真似て言った。魔女は畑へ出かけていった。

 日が高くなるとチルビクは兄たちを家に帰らせ、自分は娘たちの足と頭を煮て、『赤い胸』の服を着て魔女の畑へ出かけていった。魔女はチルビクを娘だと思ってこう言った。

「陽に当たると日焼けするよ。風に当たると肌荒れするよ。早く家へお帰り、『赤い胸』や」

 畑のヘリに娘たちの足と頭の入った籠を置くと、チルビクは遠くに隠れて魔女の様子を観察していた。魔女は刈り入れを終えて畑を氷のようにまっ平らにしてしまうと、籠のところに来て腰を下ろし、嬉しそうに肉を食べ始めた。

「チルビクよ、お前がお団子とお菓子を食べたように、今度は私がお前を食べてやるからな」

 そう言って、次に籠に手を突っ込んで引き出したそれは、『赤い胸』の首だった。

 魔女カルトは大きな悲鳴をあげた。喚き、怒鳴り、頭をかきむしり胸をかきむしって飛び跳ね、地に倒れ転げて、歯をギシギシと噛み鳴らした。それからチルビクの足跡を追って駆け出した。

 魔女は追った。チルビクは逃げた。けれどもとうとう、チルビクは灰の橋を渡った。この世とあの世のさかにあるこの橋は、罪深い死霊は渡れないのである。それで、魔女は頭をかきむしりながらも自分の家へ帰っていった。

 

 チルビクは駆けて家に帰った。彼が魔女カルトを苦しめたことは人々に伝わり、ついには王様の耳にも入った。王様はチルビクを呼び寄せると言った。

「魔女カルトは百人の人間を包み込める掛け布団を持っているということだ。行ってそれを盗んで来い。そうしたらお前に褒美をやろう」

「そんなの、僕にはお団子を食べるくらい簡単なことですよ」と、チルビクは請け合った。

 チルビクは長い槍を持って出かけ、暗くなるまで森に隠れていた。夜になって魔女がベッドに入ると、チルビクは家の屋根に登って上から掛け布団越しに魔女をチクチクと突付いた。

「娘たちが死んでからというもの、この掛け布団は反吐が出るほど忌々しいものになっちまった! なんとまあ沢山のノミが付いているんだろう」

と、魔女は言った。チルビクが更に突付くと、魔女は腹を立てて「こんなものは捨てちまおう」と叫んだ。更に更に突付くと、魔女は罵りながら掛け布団を外に投げ捨ててしまった。

 ところが、やがて怒りが収まって魔女が掛け布団を取りに外に出てみると、どこにもない。キョロキョロ見回すと、掛け布団を担いで全速力で逃げていくチルビクの姿が見えた。

 魔女は追った。チルビクは逃げた。けれどもとうとう、チルビクは灰の橋を渡った。それで、魔女は喚き散らしながらも自分の家へ帰っていった。

 

 チルビクは駆けて戻り、王様の前に掛け布団を投げ出した。王様は言った。

「お前はこれを盗むことが出来たのだから、何でも出来るだろう。魔女カルトは百人分の食べ物を煮込むことの出来る鍋を持っているという。そういう鍋はこの掛け布団に相応しい。さあ、鍋を盗んでくるのだ」

 チルビクは河原の小石を詰めた袋を持って出かけ、一日中隠れていた。夜になって魔女が畑から戻ってくる頃になると、屋根に登って煙突から下を覗いた。かまどには例の鍋がかけてあって、とうもろこしの料理が煮えている。その鍋の前には魔女が両足を広げて座り、娘たちのことを思い出して泣いていた。

 チルビクは小石を一つ、煙突から鍋の中に投げ込んだ。すると鍋の中味が跳ねて魔女の足が火傷をした。魔女は怒った。チルビクはまた石を投げた。魔女は火傷した。魔女は言った。

「これはひどい。私は死んじまいそうだよ! お前なんかすぐに外に投げ捨ててやるからな! 娘たちが死んでからというもの、この鍋は吐き気をもよおすものになっちまった!」

 チルビクは袋が空っぽになるまで石を投げ落とし続けた。魔女はすっかり逆上し、大音響と共に鍋を外に投げ出した。

 やがて怒りが少し鎮まると、魔女は鍋を取りに外へ出て行ったが、何もなかった。キョロキョロ見回すと、鍋を腕に抱えたチルビクが向こうへ逃げていくところだった。

 魔女は追った。チルビクは逃げた。チルビクは灰の橋を駆け渡ってやっと逃げおおせ、魔女は頭をかきむしりながら戻っていった。

 

 チルビクは歩いて戻り、「ほら、ここにありますよ」と鍋を王様の前に投げ出した。王様は言った。

「魔女カルトのところには黄金の角を持った山羊がいるということだ。その山羊は朝に枡一杯の乳を出し、夕方にも枡一杯の乳を出すという。その山羊を盗んで連れて来い。そうしたらお前を重用してやろう」

 チルビクはもう沢山だと思ったが、仕方なく出かけていった。魔女の家に行き、夜になると家畜小屋の屋根に登って山羊を突付いた。山羊はめえめえと鳴いた。

「何を喜んでいるんだ? もうすぐ屠殺される獣めが。娘たちが死んでからというもの、お前のその めえめえ声が増えたぞ」と、魔女が山羊を叱った。チルビクはまた山羊を突付いた。山羊はめえめえ鳴いて跳び上がった。

「なんてことだ。狼にでも食われるがいい。お前の角を掴んで外に投げ出してやるぞ! お前は私を眠らせない気なのかい!」

 魔女は喚いた。チルビクはまた山羊を突付いた。山羊はめえめえ鳴き、魔女は山羊を外に放り出した。

 怒りが鎮まると、魔女は山羊を引き戻しに外に出た。けれど山羊はいなかった。

「まさかチルビクがまた来たんじゃあるまいねぇ?」

 そう魔女は言って、遠くの方に目をやった。するとチルビクが山羊を肩に担いで一目散に逃げていくところだった。

 魔女は追った。チルビクは逃げた。チルビクは灰の橋を駆け渡り、魔女は胸をかきむしりながら戻っていった。

 

 チルビクは歩いて戻り、山羊の角を掴んで王様の前に引いていった。王様が言った。

「私は魔女カルトについて様々なことを耳にする。それで、私は魔女カルトがどんなものなのか知りたいと思っている。お前が魔女カルトを私の前に引っ捕らえて来ないわけはあるまい。もしその偉業を成し遂げたなら、私はお前に我が娘を与え、私の王国の権力を委ね、お前を私の跡継ぎにするだろう」

 チルビクは辞退しようと思った。すると王様の側近たちがチルビクを責め立てた。ある者は突付き、ある者は叩き、ある者は「逃げるなんて恥ずかしいと思わないのか。臆病者め」と罵り、ある者は「王様は魔女カルトを見なければ死んでしまうだろう。気の毒に思わないのか」と非難した。彼らは口を揃えて言った。

「王様と王女様のために命を捧げた勇敢な若者は、今まで百人以上いたではないか」

 チルビクは勇気を奮い起こして承諾すると、しらくも頭をガシガシと掻きながら家に帰った。そして顔を塗りたくり、付け髭を付け、穴だらけの古絨毯をまとって、年老いて背中の曲がった乞食に変装した。

 チルビクは魔女カルトの家に行くと、戸を叩いて哀れっぽい声で言った。

「どうか少しばかりのパンを恵んでください。きっと報いがあるでしょう」

 魔女はまじまじと乞食の顔を見つめた。

「お前、ひょっとしてチルビクじゃあるまいね? 私の心が、お前は私に幸せをもたらしはしないと言っているよ」

「おお、チルビク!」と、乞食は嘆いてみせた。

「チルビクと奴の子孫には不幸が襲い掛かればいい。奴のおかげで私はこんな不幸な境遇になったのですから。奴は私の父親を殺し、母親を殺した。そして私の財産を全て奪い取って、私を乞食に貶めたのです」

 魔女カルトはチルビクが自分にした仕打ちの数々を思い出した。泣きながら乞食と悲しみを共にし、中に招き入れると食事を与えた。それから言った。

「ところで私は小麦粉を入れる箱が欲しいんだがね。あんたは器用に箱が作れるかい?」

「私が器用じゃないと言うんですか? 出来ないわけがないでしょう。私より上手く出来る者はいませんよ」

 打ったり叩いたりしているうちに、一時間ほどで乞食は箱を作り上げた。魔女は中に入って咳払いをした。

 エヘン!

 途端に箱は崩れてバラバラと飛び散った。

「もっとしっかりした箱を作っておくれよ。こんなの役に立ちゃしない」

 乞食は改めて箱を作った。今度はかんなをかけていない樫の厚い板を使っていた。魔女は中に入ってもう一度咳払いをした。

 エヘン!

 箱はびくともしない。乞食が訊ねた。

「蓋が上手く合うかどうか、閉じてみましょうか」

「閉じてみな」と魔女が答えた。乞食が訊ねた。

「蓋に鍵をかけてみましょうか?」

「かけてみな」と魔女が答えた。乞食は箱に鍵をかけた。

 しっかり鍵をかけてしまうと、チルビクは正体を現した。

「カルト、実は僕なんだ。チルビクなんだ!」

 するとどうだろう。魔女は大声で喚き、咳払いをし、暴れまわった。けれどどんなにやってみても箱を壊すことは出来なかった。

「あんまり暴れるなよ、綺麗なお嬢さん。あんたの美しさが駄目になっちゃって王様ががっかりするぜ。なにしろ王様は、あんたに恋焦がれて死にそうなんだから」

 チルビクは魔女に嘲りの声をかけながら箱を担いで歩き出した。灰の橋まで来ると、チルビクはこう言った。

「カルト、お前は今、灰の橋を渡るんだぞ」

 魔女は気を失って、まるで死んだようになってしまった。

 

 チルビクは歩いていって到着した。王様の前にその箱を置くと、土を詰めた袋を二つ持ってとても高い木に登り、そこでじっとしていた。

 王様は兵たちに命じて箱を開けさせ、魔女を引き出させた。途端に。

 魔女カルトは目の前に立っていた王様を呑み込んだ。王様の側近たちを呑み込み、兵士たちを呑み込んだ。そればかりか王国で口をきくもの、吠えるもの、動くもの、生きているありとあらゆるものを一つも残さずに呑み込んでしまった。

 それでもチルビクを呑み込むことが出来なかったので、魔女は満足していなかった。彼女はあちらこちらを眺め回していたが、やがて高い木の上のチルビクを見つけ出した。

 魔女は木を登り始めた。すぐそこまで登ってきて、引き下ろそうと片手を伸ばした、その時。チルビクは、土の入った二つの袋を魔女の顔めがけて投げつけた。

 それは、まるで大きな棟木が倒れたかのように。

 地響きを立てて落下し、棟木は真っ二つに裂けた。即ち、魔女カルトの腹が破裂した。大砲をぶっ放したかのような音が響き渡った。

 その瞬間に、魔女の胎の中からニワトリが時を告げながら飛び出し、犬が大声で吠えながら飛び出し、人間が大声をあげながら飛び出してきた。魔女カルトに呑み込まれていた全てのものが出た。ただ、王女の姿だけはなかった。

 チルビクは魔女の小指を切り開いた。すると王女が飛び出してきた。それでチルビクはすぐに王女と結婚した。

 

 人々は真鍮の太鼓を打ち鳴らし、革の笛を吹き鳴らした。――私は、埃を舞い上げて喜び騒いでいる連中のところから、ここへやって来たのだ。



参考文献
『世界の民話 コーカサス』 小沢俊夫編訳 株式会社ぎょうせい 1978.

※この話は非常に面白い。【童子と人食い鬼】系の話群にある殆どの要素が入っていて、破綻もしていない。語り手が記憶力と構成力に優れた方だったのだろう。魔女の心情の描写までされており、胸打たれる。

 全体的な構成は「賢いモリー」と同じだが、「殺害した肉をその身内に食べさせる」という、【赤ずきんちゃん】や【瓜子姫】やアジア系のシンデレラ譚、[継子と鳥]にも見える要素があり、「高い場所に上って棒で人食いをからかう」「人食いを騙して箱の中に閉じ込める」という[牛方山姥]と同じ要素があり、「木に登って人食いから逃れ、人食いは落下して死ぬ」という「天道さん金の鎖」や「狼ばあさん」と共通した要素があり。「夜中に人食いが刃物を研ぐ」のは、日本人にとっては「三枚のお札」でお馴染みだ。「人食いが夜中に獲物を殺そうとするが、声をあげて起きていることを主張するので果たせない」というモチーフは「鬼の子小綱」にも見える。

 他にも、「世界を呑み込む太母(竜/魔狼)〜日蝕を起こす魔物」のモチーフもあるし、「王が魔女を連れて来いと無理難題を言う」のは『古事記』にある、雄略天皇に仕えた小子部栖軽ちいさこべのすがるが雷神を捕らえて来る話や、ギリシア神話でヘラクレスがエウリュステウス王に命じられて冥界の番犬ケルベロスを連れてくる話にも通じるだろう。この民話想に収めている類話では「梵天国」や「竜宮女房」にも同様のモチーフが見える。大抵の場合、難題を言った王はひどい目に遭う。更に、「冥界から持ち帰った箱を欲張りな者が開けると、箱の中から悪いものが出て殺されてしまう」という部分は「舌切り雀」の大きなつづらと一脈通じるかもしれない。面白くてたまらない。

 また、魔女カルトが墜死する有様を、一見無関係の「大きな棟木が倒れるように」「倒れた棟木は裂けた」と比喩表現しているのも非常に暗示的で面白いものである。世界の原初にあらゆる富(水)を内包した大木があり、(それを管理していた女神を殺したことで)中身が溢れ、今の世界が始まったとする神話はオセアニアや南米などにあり、片鱗は世界各地の伝承に見て取れる。この語り手は博識で、かつ、「伝えよう」としているように感じる。

 

 この物語はかなり明確に伝えてくれる。

 迷い人を温かく受け入れて食事を与えてくれる母親で、豊かな宝物を持っていて、しかし同時に恐ろしい人食いでもある。そんな魔女カルトは、すなわち「冥界」そのもの。冥界の女王神である。彼女は「彼岸」の存在である。だから通常は灰の橋を渡ることは出来ないし、無理に渡ると気絶する――死ぬ。

 王はカルトの宝を次々欲しがったが、ついにはカルト自身を見たがった。カルトを支配しようとした――即ち、不死を得ようとしたのである。しかし、「冥界――自然の摂理」を支配するのは人間には分不相応なことであった。箱から飛び出したカルトを王は制御できない。王を含む王国の全てはカルトに呑み込まれる。即ち、世界は無力にも「死」に支配されたのである。

 けれども、「冥界」は死の世界であると同時に命(宝)の生まれ出る場所である。そして死と生は循環している。太陽が毎日「大地」に呑まれ「夜」に包まれて死に、けれど翌朝には再び大地から「生み出される」ように。

「冥界」の胎から世界は再び生まれる。だから、最初にニワトリが飛び出して鳴く。ニワトリは夜明けに鳴いて朝を告げるものだからだ。人間たちも大声で叫びながら出てくる。赤ん坊がオギャーと泣き喚きながら生まれるように。

 新しく生まれた者は、若く美しく、死んだ旧世代の者より優れている。物語の概念上では、チルビクはカルトに呑まれた王が生まれ変わって若返った姿である。(だから多分、チルビクはしらくも頭も治って、美しく凛々しい若者に変わっているはずだ。)古い王は死に(隠居し)、新しい王が生まれた(即位した)。

 チルビクはかねてからの約束どおり、王の娘を妻にする。けれどカルトが死んだ時、他の者は全て胎から出てきたのに、彼女だけはチルビクが魔女の小指を切り裂くことで現れる。[一寸法師]や【親指小僧】系の民話には、子供のない老婆が神に子宝を祈願すると、指や脛が腫れてそこから小さな子供が生まれてくるモチーフがある。そうして生まれた小人は、時には人食いや人さらいの家に行って、知略を用いてその宝を奪って帰ってくる。チルビク自身は小人だとは語られていないが、その妻は死んだ魔女の小指から生まれた。概念的には老いた醜い女(冥界の女神の死の相)が若く美しい女(冥界の女神の生の相)に変わり、不毛の冬は芽吹きの春に転じて、王者(太陽)の子を産みだす恵みの大地になったわけである。

 なお、勝手ながら、日本神話でスサノオが人食いの大蛇(ヤマタノオロチ)を殺した時、その尾を切り裂くと神剣が出てきたエピソードをも私は思い出した。大切なものは殺した「人食い鬼」の体から出てくるものらしい。殺された女神の死骸から五穀が生じ、竜を倒した後の洞穴から財宝が見つかるように。

クワシ・ギナモア童子  西アフリカ ガーナ アシャンティ族

 昔、クワシ・ギナモアという子供がいて、八人の姉がいた。姉たちは全員が独身だったので、夫を探すために旅に出ることになった。クワシ・ギナモアは「僕も一緒に行く」と言ったが、姉たちは嫌がった。ただ、一番上の姉だけが「連れて行きましょうよ。途中で棘が刺さったら抜いてくれるわ」と取り成した。

 みんなは河に差し掛かった。その河の一部は赤い粘土のように、一部は白い粘土のように、一部は黒い木炭のように流れていた。姉たちが「どうやって渡ればいいの」と嘆くと、クワシ・ギナモアは持っていた牛の尻尾で水を叩いた。すると水が分かれたのでみんなはそこを渡った。

 やがて大きな町に着いた。クワシ・ギナモアは言った。
「この町は静まり返ってる。セミまで静かだよ。誰かいないのかい」

 すると鳥が答えた。
「向こうの家に誰かいるよ。行ってごらん」

 行ってみると、そこには一人のオババがいて、自分の頭を外して膝に乗せて、しらみを取っていた。クワシ・ギナモアを見ると彼女は頭をあるべき場所にはめて訊ねた。

「孫や。誰もここへは来ないのに、どうしてやって来たのかね」
「僕にはお姉ちゃんが八人いる。でも結婚する男がいないんだ。だから探しに来たんだよ」
「おや、それはいいね。うちには男の子が八人いるからね」

 オババは子供たちを見合わせた。クワシ・ギナモアの姉たちが自分の夫を選んでしまうと、オババは外に出て呪具ドクムを持ってきて、それを息子たちの首に巻いて結んだ。それから夫婦はそれぞれの寝室に行った。クワシ・ギナモアはオババのところで寝ることになった。

 夜になると、オババは起き上がって歯を真っ赤に焼いた。嫁たちを殺すために。

「エー、エー、エー」と、クワシ・ギナモアが喚いた。
「どうしたんだい」と、オババは訊ねた。
「うちの村じゃ、眠れない時はお母さんがヤム芋を一つ焼いてくれるんだよ。それから穴だらけの瓢箪のひしゃくカレバッセに水をバチャバチャ汲んで飲ませてくれるんだ」

 オババは河へ行った。その間にクワシ・ギナモアは姉たちの寝室に行って、オババの息子たちの首からドクムを取って、姉たちの首に巻きつけておいた。やがてオババが戻ってきてクワシ・ギナモアに言った。

「水をバチャバチャ汲もうと思ったけどね、出来なかったよ」
「泥を取ってきて、葉っぱを二、三枚取って、みんな中に入れるんだよ。それから水をバチャバチャ汲むんだよ」

 オババはその通りにして水を汲み、ヤム芋を火から下ろして、クワシ・ギナモアにお食べと渡して水も飲ませた。飲み食いすると、クワシ・ギナモアは横になって眠り込んだ。

 オババは立ち上がった。「私だよ」と言って歯を真っ赤に焼いて、外に出てもう一つの部屋に入った。手探りで子供たちの首をまさぐり、首にドクムの巻きついていない方を焼けた歯で殺した。こうしてオババは自分の息子を全員殺してしまったが、それに気付かなかった。

 やがて夜が明けてくると、オババはまだ明けきれない早朝に畑に出かけた。クワシ・ギナモアも起き上がって姉たちに全てを話し、一緒に逃げだした。するとオババが畑から戻ってきたのが見えた。

オババよ、へっへーんだ。オババよ、へっへーんだ。
お前がそんなに馬鹿でなかったら、
自分の子供を殺しゃしなかったろうに。
僕たちは逃げるから。じゃーね!

「こんなことはどうってことないよ。近々お前を片付けてやるからね」と、オババは言った。

 

 クワシ・ギナモアと姉たちは村に帰った。それから間もなく、瓢箪で作ったガラガラを持った綺麗な娘が村にやって来て、
「この瓢箪を一矢で射た人と結婚するわ」と言った。村の男たちはみんな試してみたが失敗し、成功したのはクワシ・ギナモアだけだった。

「私、あなたと結婚するわ」
「僕はお前なんかと結婚しないよ」

 それで娘はクワシ・ギナモアの叔父と結婚した。けれど、実は娘はオババが化けた姿だったのだ。彼女はクワシ・ギナモアの叔父と寝る時に彼の目玉をくり抜くと、逃げながら嘲りの声をあげた。

「クワシ・ギナモアよ、私はお前の叔父の目玉をくり抜いて、持って逃げるよ」
「勝手にすればいいさ。だけど近々お前をやっつけてやるからね」と、クワシ・ギナモアは言った。

 

 あくる朝になると、姉たちが「クワシ・ギナモア。行って叔父さんの目玉を取り返してきなさい」と命じた。クワシ・ギナモアは行きたくなかったが、姉たちに責め立てられて、とうとう出かけていった。

 クワシ・ギナモアは、オババの孫娘の一人が身重なのを知っていた。そこでお腹に瓢箪を載せて布をかぶせ、孫娘に変装してオババの村に出かけていった。村外れまで来るとクワシ・ギナモアは泣き、オババがやって来て「どうしたんだい」と訊ねた。

「私は夫と一緒に来るつもりだったの。でも、夫は山の尾根で転んで目玉が二つとも飛び出してしまったの」
「大丈夫、大したことじゃないさ。ほら、ここに悪魔の生まれ変わりのクワシ・ギナモアの叔父の目玉がある。こっちが左ので、こっちが右のだよ。お前の夫のところに戻ったら『私の目玉は飛び回る、私の目玉はよく見える』と唱えるんだ」

 それを手にするやいなや、クワシ・ギナモアは正体を現して嘲った。

「オババよ。これは叔父さんからくり抜いた目玉だね。もらっていくよ」
「こんなことはどうってことないよ。近々お前を片付けてやるからね」と、オババは言った。

 

 クワシ・ギナモアは家に帰り、叔父の目玉を元の場所にはめ込んだ。叔父が教えられたとおりに「私の目玉は飛び回る、私の目玉はよく見える」と唱えると、彼の目は開いた。

 あくる朝になると、子供たちはみんな水浴びをして遊んでいた。クワシ・ギナモアは水に入らないようにしていたが、他の子たちに「お前のお尻には尻尾があるんだろう」とからかわれると、ムシャクシャして水に入ってしまった。途端にオババがクワシ・ギナモアを捕らえ、籠を持ってきてかぶせた。椰子の実を取ってきて火にかけて、

今から玉ねぎのところへ行くよ。
今から野菜のところへ行くよ。
帰ってきたら、クワシ・ギナモア童子を殺すのさ

と言って出かけていった。クワシ・ギナモアは小石を集めてププル、ププルと砕き始めた。オババの孫娘が訊ねた。

「そこで何を噛んでいるの?」
「虎クルミだよ」
「私にもちょうだい」
「だったら外に出してくれよ」
「そしたら逃げるでしょ」
「いいや、逃げないよ」

 そこで孫娘はクワシ・ギナモアを籠から出したが、クワシ・ギナモアは素早く抜け出すと、ちょうど孫娘が使っていた椰子の実を搗くための杵で、彼女を殴り殺した。それから彼女の皮をはいで、その皮を着た。

 やがてオババが野菜畑から戻ってきた。孫娘の生皮を着たクワシ・ギナモアを見て、「どうしてそんなに血で汚れているんだい」と怪訝な顔をした。クワシ・ギナモアは孫娘の声音を真似て言った。

「私はクワシ・ギナモアを殺したの。そして火にかけたの」
「クワシ・ギナモアを殺しただって? お前は立派になるよ」と、オババは歌い踊った。

 食事の支度が済んで、二人は座って食べた。オババはスープをプフェオ、プフェオと吸った。クワシ・ギナモアは呟いた。

「お前は孫娘の頭で作ったスープをピチャピチャ飲むね」
「何て言ったんだい?」と、オババが訊ねた。
「塩味が足りないね、って言ったのよ」と、クワシ・ギナモアは答えた。
「それじゃ、塩を取っておいで」

 クワシ・ギナモアは塩を取ってきて、二人は食べ終わった。

 オババは孫娘を呼び寄せると、とっておきの金のアクセサリーを出してきて、それで孫娘を飾り立てた。憎いクワシ・ギナモアを倒せたことが嬉しくてたまらなかったからだ。ところが孫娘をよくよく見て、ハッとした顔をした。

「あっ、お前の顔を見るとクワシ・ギナモアを思い出すよ」
「お婆ちゃん、どうしてそんなことを言うの。クワシ・ギナモアが私の身内を八人殺したことを知っているくせに。悲しくなるわ」
「お黙り!」

 その時、クワシ・ギナモアはその場でウンコをした。オババはすぐにそれを拭い取った。

「それをゴミ捨て場に持って行かせてよ」とクワシ・ギナモアは言い、家の外に出た。ゴミ捨て場まで行くと金のアクセサリーを外してひとまとめにして、大声ではやし立てた。

ヘーイ、オババやーい。
僕がここに来たのは二度目なのさ。
そして今度は、お前の金のアクセサリーも奪ってやったぞ!

 オババは言い返した。
「お前はクワシ・ギナモアに似ていると言っただろう。お前がどこに逃げても私は追っていくよ!」

 そうして二人はキリ、キリ、キリと追いかけっこを始めた。

 

 クワシ・ギナモアは自分の村に帰って、金のアクセサリーを親類に渡した。それから小道に戻って脇に隠れた。そこへオババがもう追ってきた。

 だから、今でも小道を行くと「ぺー」と音が聞こえるだろう。これは、クワシ・ギナモアを追いかけているオババの声なのさ。

 

 これが私のお話。面白くても面白くなくても、どこへなりとも運んでいって、少しは私のところへ戻しておくれ。


参考文献
『世界の民話 アフリカ』 小沢俊夫/中山淳子編訳 株式会社ぎょうせい 1977.

※「人食いの身内を殺す」要素のパターン違いを欲張って前半と後半の両方に入れてしまっているため、物語がやや混乱して、結末が尻切れトンボになってしまっている。

 とは言うものの、この話も面白い。最初に人食いオババの町に着いたとき、家まで導くのは鳥だ。「ヘンゼルとグレーテル」と同じモチーフである。「物をガリガリかじる音を聞いた子供が食べ物を欲しがる」モチーフは「天道さん金の鎖」や「狼ばあさん」にもあるし、孫娘を杵で殴り殺す展開は、アジア系のシンデレラで「偽の花嫁が自ら臼に入って母親に搗き殺される」結末を思い出させるし、何より、【カチカチ山】そのままである。そしてクワシ・ギナモアが「山姥の孫娘の皮をはいでまとい、孫娘に成り代わる」部分は、日本人ならアンハッピーエンド型の[瓜子姫]を思い出さずにはいられないだろう。この型の[瓜子姫]には天邪鬼が瓜子姫を殺害しその皮を剥いで着て姫に成り代わり、本物の姫の肉は鍋にして、帰ってきた爺婆に食べさせるという展開のもの(秋田県下閉伊郡岩泉町)もあり、非常に似ている。ちなみに、【瓜子姫】話群には逃げる天邪鬼(人食い)を爺が追っていくというモチーフが入っているものが結構ある。(爺が追いついて天邪鬼を叩き殺す場合もあるし、天邪鬼に逃げられる場合もある。)

 また、クワシ・ギナモアが逃げる手段として大便を用いている点も注目すべき点だろう。【赤ずきんちゃん】系の話や[三枚のお札]では、人食いから逃げる子供たちは「トイレに行きたい」という口実を使う。「鬼の子小綱」話群には、人食いの父から逃れる際、子供は「大便」をして、それに「代返」させて時間稼ぎをするのだった。[三枚のお札]で、小坊主が便所神や便所に貼ったお札に代返させて逃げ出すように。

 

 なお、冒頭でクワシ・ギナモアたちが渡る三色の川はこの世とあの世の境界――三途の川だと思われるが、それをクワシ・ギナモアが牛の尾の鞭で水面を叩いて割っている点は面白い。クワシ・ギナモアは「冥界へ渡る力」を持っているということである。「アンデ・アンデ・ルムト」では、末娘が椰子の葉の繊維の鞭で河を叩いて、水神たる大蟹すら退けてしまう。この《シンデレラ》も、クワシ・ギナモアの姉たちも、川向こうに夫を探しに行こうとしており、その点も共通している。また、鞭(杖)で川を叩いて道を作るモチーフは、朝鮮半島(韓半島)の神話や、『旧約聖書』のモーセのエピソードでも見ることが出来る。

 

 水浴びをした途端にクワシ・ギナモアがオババに捕まっている点は興味深い。水はオババ(冥界のモノ)の領域ということなのか。

 

 孫娘で作ったスープをクワシ・ギナモアがオババに食べさせるとき、「塩味が足りない」「塩を持っておいで」というやりとりがある。日本の大分県直入郡で採取された「カチカチ山」にも、婆で作った汁を狸に食べさせられた爺が「味が淡いから塩を持ってこい」と言いつけるシーンがある。(『日本昔話集成(全六巻)』 関敬吾著 角川書店 1950.)


参考 --> 「麦粒小僧とテリエル

鬼退治  日本

 昔、ある村に威勢のいい若者がいた。近頃、村に誰も来なくなった。もしや峠に化物でもいるのではないかと考え、家伝のやすりを持って化物退治に出かけた。

 峠道には明かりが見えた。一人の老人が火を焚いているのである。行く手の邪魔をするので腹を立てて蹴飛ばすと、老人は言った。わしには娘が三人ある。勇猛な男を婿にしたいとて探していたのだ。お前、婿になってくれないか。若者は承知して付いていった。

 老人の家の構えは立派であり、大きな門があったが、若者が中に入ると背後で閉まり、かんぬきのかかる音がした。もしや鬼の家ではないか。怪しんでよくよく周囲を窺えば、立派な家の前には優れた馬が二頭繋がれてあったが、裏手には人間のしゃれこうべがじゃくじゃくと積まれてあるのだった。

 若者は座敷に上げられ、三人の娘が現れてご馳走を出して歓待した。夜になると誰を嫁にするかと言うので末娘を選ぶと、では奥で休みなさいと寝室に案内された。若者に用意された布団は白い星の模様があり、娘に用意された布団には赤い星の模様がある。

 これは何かある。若者は考えて、娘がすっかり眠ってしまうと、そっと布団を入れ替えておいた。

 果たして、真夜中になると老人が鬼の正体を現して入ってきて、手にした槍で白い星の模様の布団を刺した。そして、料理するのは明日の朝だと呟いて戻って行ったのである。

 若者は起き上がって、今のうちに逃げようと思ったが、門には閂がかけられていた。そこでやすりをかけると閂は切れた。家の前につながれていた馬の一頭に乗って逃げ出す。間もなく、気付いた鬼がもう一頭の馬に乗って追いかけてきた。逃げ道には大木が倒れていて行く手をふさいでいる。若者の馬はそれを跳び越えた。しかし鬼の馬はそれにつまずき、鬼もろとも下の滝へと落ちていった。

 若者が見れば、倒れていた大木はさかきの木であった。よってこれ以降、若者は神を拝むときには榊を供えるようになったのだという。

参考文献
『日本の昔話5 ねずみのもちつき』 おざわとしお再話 福音館書店 1995.

※鬼の家の前には大きな門があって入るのは簡単だが出るのは難しい。家の表は立派だが裏には人間の骨が積んである。これらは、見事なまでに明瞭に「冥界」を表現した情景である。そこから逃げ出す道をふさいでいる大木は、髪の毛一本橋とおなじ「境界」で、いわば日本神話でイザナギがあの世とこの世を隔てるために置いたとされる千引の大岩である。

 この話では冥王は殆ど闇の面しか見せていないが、「雷神の婿になろうとした若者」と併せて読むと面白いかもしれない。

 

 この話は、『今昔物語』29-28の「清水きよみず南辺みなみわたりに住む乞食こつじき、女を以て人を謀り入れて殺せること」を思い出させる。

 昔、近衛の中将という若者が清水寺で美しい娘を見かけ、小舎人童ことねりわらわ(召使いの少年)に命じて住んでいる場所を突き止めて何度も手紙を送ったところ、迎え入れられて床を共にすることになった。その屋敷は清水の南の阿弥陀ヶ峰の北にあったが、壮麗であり、周囲を廻る土塀は頑強で、門は高く、庭には深い堀があって橋が渡されていた。

 中将は娘と床を共にし、幸せな気分で自分のことや二人のこれからについてをあれこれ話したが、娘はうち沈んでいる。訝しんで問いただすと、自分は元は都の名のある者の娘だったが両親が死んで一人暮らししていた。それをこの屋敷の主人が誘拐してここで養っているのだと告白した。この屋敷の主人は元は乞食であったが、今はこのように裕福になった。主人は時々自分を着飾らせて清水寺の参詣に行かせる。そうして誰か男が言い寄ってくると、屋敷に誘い込んで床を共にさせる。そして眠った頃に天井からほこを差し下ろす。これを娘が男の胸に当てると突き刺して殺し、金品を奪うのだと。こんなことが二度も繰り返され今後も続くだろう。もう耐えられない。私が身代わりに刺されて死ぬのであなたは逃げてくださいと。

 堀の橋は外されていたが、娘の助言に従って水門を渡り、中将は屋敷から逃げ出すことが出来た。他の従者は殺されていたが、例の小舎人童だけは、橋が外されたのを見て怪しみ隠れていたので無事であった。屋敷の主人は発覚を恐れたらしく、屋敷に火を放って逃亡した。中将は事件の顛末を言いふらすことはなかったが、あの娘のために毎年、盛大な仏事を行った。このことはいつしか人に知られ、屋敷跡には寺が建てられたという。

 山奥の壮麗な屋敷、周囲を厳重に囲む塀に深い堀、行きはよいよい帰りは怖いと、これも「冥界」の特徴を備えたシチュエーションである。この話、何故か小舎人童がチョコチョコ出てきては、(中将を助ける活躍をしたわけでもないのに)結末で「いと賢かりけり」と褒められているのだが、原話では主人公は身分低く機転の利いた少年だったのではないだろうか。

 

 夜中に天井から槍で刺したり石を落としたりして殺すというモチーフは、「お月お星」などの継子譚でも見ることが出来る。また、夜中に恋人の父親が鬼の正体を現して部屋に入ってきて槍で布団を刺すシーンは、フランスの「黒い山と三羽のあひる」にもある。



鬼と三人の子供  日本 山梨県西八代郡

 貧乏な家がありました。父親はとうに死んでしまい、母親一人で十一を頭に九つと七つになる男の子を抱えて困っていました。

 母親は「なんぼ稼いでも女手一つでは自分が食うのでさえやっとで、とてもこの三人の子供を満足に育て上げることは出来ぬ。今に惨めを見るのも恐ろしいから、いっそ今のうちに奥山へでも捨てて、何かけだものにでも取って食われれば、かえってその方が安気あんきでええ」と思案の挙句、とうとう捨てる気になりました。

 ある日、子供らを三人奥山に連れて行って、「わいらここで少しの間待ちていろ、今におっ母が菓子を買うてくるからな」とうまく騙して、子供をそこへうっちゃってきました。子供たちはそれを本当にしていつまでも待っていましたが、辺りが暗くなってきても、どうしたわけか、お母は帰っちゃこん。とうとう我慢しきれないで、大きい方の二人の子供はしくしく泣き出しました。すると七つになる一番末の弟が

あにぃんら、泣くばか泣いてもしょんない。どこかここいらに泊めてくれるような人家ひとやはないか見つけざあ。どれ、俺ン木ぃ登って見る」

と言って、近くの木に登って見ました。そうすると、ずっと向こうの方に火が一つ見える。

「あれ、あっちに火ン見える。さあ、あいべ」と、弟は木から下りて、二人の兄を励まして、その火を目当てにだんだん辿って行ってみると、山の中に一軒のあばら屋がありました。家の中に一人の婆さまが火代ひじろ(炉)に火をどんどん燃やしていました。

 子供たちはその家に入って「おいら道に迷って困るもんどおけれ、今夜一晩泊めてくりょう」と頼みました。婆さまは「泊めてやりたいはやまやまどうけんど、おらが家は鬼の家で、はいじきに鬼ン帰って来る頃だから、とても泊めるわけにはいかん。こっちの道を行けば鬼に行き会うけんど、そっちの道を行けば鬼にも会わんで行けるから、さあ、ちゃっと帰れ」と言って、道まで教えてくれました。けれども兄弟たちは帰りかねて、「そんでもこんなに暗くなってから、俺たちにゃとても帰れんから、是非なんとかして一晩泊めてくりょう」と、また頼んでみました。婆さまが「今に鬼が来れば、わいらぁ皆んな取って食うが、そんでもええか」と言っているうちに、もう裏の方でずしんずしんと足音がして、鬼が帰ってくる様子でした。婆さまは慌てて「それ見ろ、わいらンぐずぐずしているから、はい、鬼ン来たじゃないか、どうしるどう。さあ、ちゃっとこん中ぃ入れ」と言いながら、三人の子供をむろ(穴倉)に入れ、かたく蓋をしてその上にむしろをかけておきました。

 一足違いでもう鬼が裏口から入って来たが、急に鼻を《ふすふす》させて、「婆さん、どうも人っ臭い。きっと、誰か人間が泊まっているら」と言いながら、鬼は家の中をほうぼう探し始めました。婆さんは困って「今、表へ人間の子供が三人来て、今夜一晩泊めてくりょうと言ってたら、むしょう(急)にお前が裏から帰って来たもんだから、子供は慌てて逃げてってしまったどう。人っ臭いと言うんじゃ、きっとその子供らの匂いが残っているずらよ」と言うと、鬼は「ほうか、子供ン三人と聞いちゃこたいられん。今逃げようばかじゃ、たった一足追っかけろば捕まる。どれどれ」と言いながら、一足千里の靴を履いて、表口から鉄砲玉のように飛び出しました。

 ところが、鬼はなんぼ追っかけて行っても子供らしいのは見つからんので、「はてこりゃあ、子供らよりゃ、俺ン方が飛び過ぎたかもしらん。今にきっとこの道ぃ来るに違いないから、少し休んでいてみず」と、道端に座って休んでいるうちに疲れが出て、ついぐうぐう眠ってしまいました。

 婆さまは、鬼が飛び出すとすぐに、室の中から三人の子供を取ン出いて、「さあ、鬼ァ今、一足千里の靴ぅ履いて出かけたから、ずっと遠くの方へ行ったに違いない。わいら急いでこっちの道を逃げろ」と言って、子供たちを裏口から逃がしてやりました。

 だんだん行くうちに、まるで雷さまでも鳴るように、ごうごうというえらい音がするから、何だろうかと思いながら行くと、向こうの道の上に一匹のでっかい鬼が寝ていて、いびきをかいていました。子供たちはおっかなくておっかなくて、二人の兄ぃはまたしくしくと泣き出しました。すると末の弟が

「兄ぃンたちは、泣くばか泣いてもしょうんない。鬼ンよくよく眠ったら、そんとき通らざあ」と言いながら、抜き足差し足して、そーっと鬼の様子をうかがっていました。

 鬼は高いびきをかいてよく眠っていました。弟はふと鬼の足に目をつけました。「これン一足千里という靴に違いないが、なんとかしてこの靴ぅ欲しいもんだ」と思って、弟は鬼を起こさないように、そーっと靴を脱がせました。ようよう片足だけ脱がせると、鬼は足をびくっと動かして寝返りを一つうちました。弟はびっくりして息を殺していると、鬼は「うむうむ鼠の野郎共ン夜なべに行くそうどう」と寝言を言いました。それからまた鬼が寝静まるのを待ってもう片方の靴を脱がせると、鬼はまたその足をびくっとさせて寝返りをうちました。弟はまた息を殺していると、鬼は「うむうむ、鼠の野郎どまァ、帰って来たそうどう」と寝言を言って、またすぐによく眠ってしまいました。

 その隙に、弟は鬼の両方の靴を持って急いで帰ってきました。そして「兄ぃ、早くこれを履け」と言って、一番でかい兄にその靴を履かせ、後の二人は体を兄ぃの体に縛り付けて、「さあ、飛べ」と言いました。するとたちまち、ずしずしという音がして、三人は鉄砲玉のように飛び出して行ってしまいました。

 鬼はじきに目を覚まして「さては、餓鬼どもに逃げられとうか」と歯ぎしりして悔しがり、その後を追いかけました。けれども一足千里の靴を取られたので、とても追いつくことが出来ない。子供たちは見る間に人家のある所へ着いたので、鬼は仕方なくすごすごと山へ帰って行きました。

 鬼が山の家へ帰り着くと、婆さまは子供のことを案じて、それとなく鬼に子供は捕まったかと聞いてみました。すると鬼は「俺ン少し飛び過ぎて、休んでいる暇に靴取られて駄目なった」と答えました。婆さまもそれを聞いてやっと安心しました。

 子供たちは三人とも無事に家に帰り、それからはお母を助けてよく働いたそうです。



参考文献
『一寸法師・さるかに合戦・浦島太郎 ―日本の昔ばなし(V)―』 関敬吾編 岩波版ほるぷ図書館文庫 1957.

※フランスのペローの 「親指小僧」に非常によく似ている。ただ、鬼の子供たちと主人公たちを一緒に寝かせて、夜中に鬼が冠を手掛かりに殺しに来るエピソードがないが、日本の類話にそのモチーフが存在しないわけではない。大阪には、鬼が自分の娘には鬼の角のついた頭巾を被せ、けれど夜中に主人公の娘がそれを自分の頭に被っておいたので、鬼は我が子の方を殺してしまうという話がある。

 

 一足千里の靴は、ペロー版では七リーグ靴として登場してくる。この靴はギリシアのヘルメス神が履いている翼のある飛行靴と関連するとされる。この靴を履いている場合のヘルメス神は、神の世界と人間の世界を行き来する伝令神、死者の魂を冥界へ導く霊魂導師とされる。つまり、この靴を履くということは、この世とあの世を行き来する霊力を得たということを意味している。




inserted by FC2 system