>>参考 「酒呑童子」「八俣の大蛇」[さらわれた娘B

 

天まで届く木  ハンガリー

 昔、七つの国を七回越えた果てに王がいて、王にはこの世にまたとない美しさの素晴らしい妻がいた。二人の間には一人娘がいて、母に劣らず美しかった。夫婦は娘をたいそう可愛がっていた。

 娘が賢い少女に成長した頃、母は病を得て亡くなった。王は悲しみのあまり幾日も飲みも食べもせず、妻の死を嘆くばかりだった。しかし娘がいつも明るく父を力づけた。

「だって一緒に生まれたわけではありませんし、死ぬのも一緒などありえないことはよくご存知でしょう。神様が望まれたことなのですもの。お心を鎮めなければ」

 この娘はなんと若く健やかなのだろう。王は嘆くのをやめた。泣いても死者が甦るわけではない。それでも、ある日こう言った。

「娘よ、私は二度と結婚しないことを誓う。お前の母のような女性ひとに再び出会えることなど、ありはしないのだから」

「お父様、お独りではいないで下さい。わたくしとて永遠にここにいるわけにはまいりませんわ」

「構わぬ。二度と結婚せずに、このままやもめでいることにしよう」

「お父様。でしたら わたくしもお嫁には行きません。こんなに悲しんでおられるお父様を一人にしてはおけませんもの」

 

 王の庭園にはこの世にまたとない花壇があり、世界中のありとあらゆる花が咲き乱れていた。その庭の中心には梢が天に届くほどの高い木がある。ある土曜日、王女は庭を歩きながらこんなことを呟いた。

「どうしてわたくしがお嫁に行くことがあるでしょうか。わたくしには こんなに美しい花園がありますのに」

 彼女がそれを口にした途端、木が根こそぎ倒れるかと思うほどの突風が吹き抜け、王女を木の梢まで連れ去ってしまった。しかし、この様子を目撃した者は誰もいなかった。

 王は娘の帰りを待ったが、夕刻になっても戻らなかった。人を探しにやらせ、庭をくまなく探し回り、ついには軍隊を町に送って通りという通りを調べさせたが見つからなかった。最早どうしていいか分からなくなった王は、民衆に告示を出した。王の娘が行方不明になった、彼女に関して何か知っている者は出頭するようにと。だが全てが無駄だった。王は胸が張り裂けるほど泣き続け、顧問官たちを集めて相談したが、誰も王女の居場所を探り当てることは出来なかった。

 ある夜、王はベッドの中で夢うつつに、竜巻が王女をあの木の梢に連れ去る光景を見た。娘は今、頭が二十四ある竜の館にいる。そんな夢だ。目覚めると、王はそれが正夢だと確信していた。

 王は新たな告示を出した。娘を木の頂上から連れ戻すことのできる勇者が現れたなら、その勇者に娘と王国の半分を与え、王の死後には全領土を与えようと。この告示が出るなり、諸国の王子たち、公爵たち、男爵たち。仄めくロウソクの焔のように美しい貴公子たちが続々とやってきた。彼らは自分こそが王女を連れ戻して見せると意気込んだが、あの木を登れた者は誰一人としていなかった。全員が途中で滑り落ち、ある者は腕を折り、ある者は足を折り、ある者は首を折った。王は悲しんで泣き続けた。もはや娘を再び目にすることはかなわぬのかと。

 

 王に仕える使用人の中に、ヤーノシュという十五、六歳の少年がいた。彼は豚飼いで、毎日豚を連れて森に出かけるのが仕事だった。その日も豚を連れて森に行ったが、ヤーノシュは悲しい気分で立ち止まり、豚を追うための杖にもたれかかった。

「あーあ……。あの優しくて気高いお姫様には、もう二度と会えないんだ……」

 すると小豚が一匹やって来て口をきいた。

「ヤーノシュ、悲しまないで。あんたが王女を連れ戻すんだよ」

 ヤーノシュはまじまじと小豚を見つめた。豚が口をきけるなんて聞いたことがなかった。

「何言うんだ、ブタのくせに。出来もしないことを」

「オイラは出来ないことを話しちゃいないさ、ヤーノシュ。オイラの言うことを最後まで聞くんだ。まず王様のところへ行って、自分が王女を連れ戻すと名乗り出る。そうすれば王はあんたに娘を嫁によこさなきゃならなくなるのさ。ただ、出発する前に王にこう言うのを忘れちゃならない。

『王様、私が連れ戻します。まず野牛を殺させて、その皮で私に七足のサンダルと七着の揃いの服を作らせて下さい。その全てが破れた時、私はここに戻ってきます』とね。

 ヤーノシュ、その次のことも言っておくよ。木の真ん中辺りまで登ったら、細い枝になる。その枝は世界の1.5倍くらい長いけど、あんたはそれを端まで滑って行かなけりゃならない。そこを越えられれば、きっと木のてっぺんに登れる。ただ、落ちないように気をつけること。そこから落ちたら骨が粉々になるからね。

 そこを越えると、やっと木の葉がある場所になる。それぞれに国が一つ収まるほど大きな葉が何枚かある。そこまで行けば、王女を見つけ出すことも出来るさ」

 ヤーノシュは小豚に礼を言い、その夜のうちに王の元に出向くと、ひざまずいて丁寧に挨拶をした。

「豚飼いか。どうしたというのだ」

「王様、気を悪くなさらないなら一つお願いがあります」

「何だ? 言ってみろ、ヤーノシュ」

「もしお許しがいただけるのなら、王女様を探しに、私が木のてっぺんまで登ります」

 王は妻が死んで以来けっして笑うことがなかったのだが、その時は笑い出した。

「お前、ヤーノシュ! 随分と大それた考えを持って私のところに来たな!」

「私は木に登って王女様を連れ戻したい。行かせて下さい」

「いやはや。どれほどに立派で勇敢な勇士でも果たせなかったと言うのに、お前のような子供がか! そんなことが出来ると思っているのか!」

「それは私が考えることです。行かせて下さい」

「……それほどまでに言うのなら許す。だが、木から落ちればその場で死ぬのだ。これほど私に強く迫ったのだからな」

「それでは王様、野牛を殺してその皮で七足のサンダルと七着の揃いの服を作らせて下さい。私はそれを着て王女様を連れ戻します。神のご加護によって」

 そこで王は野牛を殺させ、少年のために七着の揃いの服と七足のサンダルを作らせた。ヤーノシュは一揃い目の服とサンダルを身に着け、他は荷物にした。王は食料をも持たせてくれた。

 いよいよ出発という時、王はヤーノシュに言った。

「ヤーノシュ、神のご加護のあらんことを。娘と一緒に戻ってくるならば、お前も幸せになれるぞ」

 ヤーノシュが挑戦するという話を聞いて、大勢の人々が見物に集まっていた。ヤーノシュは木の根元に行くと、いつも持ち歩いている斧を幹に打ち込んで登り、また引き抜いて打ち付けて足場にして、猫のように登っていった。

 

 幹は恐ろしく高く、枝は見えなかった。長い時間の果てに、ヤーノシュは小豚が「長い枝」と言っていた場所に辿り着いた。その枝はとても細く、ヤーノシュは腹ばいになって、毛虫のように貼ってそこを渡った。葉が茂っている場所に着くと立ち上がり、瞑目して「地上とはお別れだ」と呟いて、蛙のように葉に跳び乗った。

 とても疲れたので少し休憩したが、そこはまるで地上と変わらないようだった。二十階もあるような立派な建物が建ち並ぶ大きな町で、耕作された畑もある。けれども、誰の姿も見えなかった。探索を続けるうち、上から呼ぶ声がした。

「ヤーノシュ、どこへ行くのです」

 見上げれば、二階から王女が見下ろしているではないか。

「あなたを探しに来たんです、王女様」

 すると王女は慌てて声を潜めた。

「シーッ、静かに。主人に聞こえたらすぐに殺されますわ。主人は留守だから、中にお入りなさい。帰ってくるまで少しお話をしましょう」

 王女は降りてきてヤーノシュを中に招き入れた。

「ああ、ヤーノシュ。あなたはわたくしの夫が頭が二十四ある竜だと知っていますか? わたくしを連れ戻すために来たと知れたら、あなたはその場で殺されます。――お父様はどうしているの?」

「神様もご存知の通り、涙の乾く間もありません」

 ヤーノシュはこれまでのことを手短かに話した。何人もの貴公子が王女を救おうとしたが失敗したこと。それに、王が王女を連れ戻した者に王女を与えると言ったことも。

「私も挑戦したんです。神様のご加護でここまで来れました。私は、あなたを連れ戻さないうちには帰りません」

「お願いだからヤーノシュ、その話を竜に聞かれないように静かにしておくれ」

 王女はそう言って、手早く食べ物と飲み物をヤーノシュに勧めた。

「今度はわたくしの話す番ですね、ヤーノシュ。主人が帰った時に見つからないように、あなたを隠してさしあげますわ」

 王女はヤーノシュを洗い桶の下に隠した。「夫が戻ったら、先に誰が来たのかを話しましょう。その後で出してあげます」。

 やがて竜が帰ってきた。七マイル離れたところから投げた鉄棒で門を両開きさせるほどの怪力を見せつけて。

「ほら、帰ってくるわ、ヤーノシュ。鉄棒が投げつけられたから」

 家に入ってくると、竜は大声で吼えた。

臭いぞ、臭いぞ、やって来たのは何者だ?

よそ者がやって来たのは帰る途中から分かっていたぞ!

「怒らないで下さい、あなた。私がいなくなったのを心配して、うちの豚飼いが下界から登って来たんです。これから ここでわたくしに仕えるというのです」

「どこにいるのだ? 連れて来い!」

「連れてきますけど、哀れな豚飼いを苛めないで下さいね。これからずっとここで奉公するのですから」

 王女は洗い桶を持ち上げてヤーノシュを外に出した。龍はヤーノシュの前に立って眺め、そしてパクリとやり、呑み込んだ。それから吐き出し、またパクリとやり、呑み込み、そして吐き出した。三度同じことをした。

「王女に仕えるためにやって来たそうだが、お前に無駄飯を半分食わせることになるのか、それとも全部無駄飯になるのか、その働きぶりでいずれ分かるというものだ」

 ヤーノシュと竜は一緒に食事をし、二人で厩舎うまやに出向いた。竜は馬と牛を見せて仕事を説明した。

 沢山の馬に混じって、一番奥に小馬が一頭いたが、立ち上がることが出来ないほど痩せていて、足を踏ん張ることも出来なかった。他の馬は太りすぎてヨロヨロしているくらいなのに。竜はヤーノシュに言った。

「ヤーノシュ、この馬たちに水と餌をやり、綺麗にしろ。だが、あそこにいる小馬は放っておくのだ。こっちの馬と同じ餌を与える必要はない。干し草を欲しがったらカラス麦をやれ。カラス麦を欲しがったら水をやれ。決してあれが欲しがるものをやってはいかん」

 ヤーノシュは厩舎に残り、竜は出て行った。

 

 こうして今日も明日も過ぎていった。若者はそこに一ヶ月居座って、よく働いた。竜が言うとおりに働いてすっかり信頼されてしまった。まるでそこに生まれ育ったように馴染んで、ヤーノシュは居心地よく過ごした。

 そんなある日、竜が狩に出かけた留守の間、ヤーノシュは厩舎で牛や馬に餌をやっているうち、ふと痩せた小馬の前に立ち止まった。

「可哀想な馬っ子。どうしてそんなに痩せているんだ? お前は立てないのかい?」

 すると、小馬が口をきいた。

「ヤーノシュ、あんたは優しい人だ。今はこれ以上話す時間がないけど、いずれ色々話してあげる」

 程なく、竜が帰ってきた。竜はあれこれ見回し、何でもきちんとしているのを見て、ますますヤーノシュを気に入った。

 あくる日も竜は出かけ、ヤーノシュも厩舎に行って牛の世話をした。その時また小馬が口を開いた。

「ヤーノシュ、私が見たところ、あんたは優しい若者だ。ここへ来た理由は知っているが、王女をここから連れ出すのは難しい。でもあんたが私の言うことを聞けば、好運はあんたのものだ。

 ヤーノシュ、明日は日曜日だ。これからあんたは館に行き、王女にこう言うのだ。ご主人をどうにかたぶらかして、どこに力の源を蓄えているか聞き出すように、と。聞き出すだけでいい。竜は言わないだろうが、甘い言葉でくすぐって探り出すように、と。聞き出したら、あんたがそれを私に伝えるんだ!」

 ヤーノシュは従うと、館に行って王女に頼んだ。

「王女様、ご主人がどこに力の源を蓄えているか聞き出して下さい。お父上にもう一度会いたいのなら、どうしても」

「ああ、ヤーノシュ、それは難しいことよ。主人は言わないでしょう」と言って、王女はこう言い足した。

「でも何か甘い蜜のような言葉で探り出してみましょう」

 やがて、竜が彼方から投げた鉄棒が門扉を開ける大音響が響いた。近付いてくるにつれて竜の喉からは七尺ほどの炎が吹き出した。その日は何事もなく、夫婦はいつものように夕食を食べた。

 そのあくる日のことだ。竜が出かけようとすると、王女がこう言った。

「あなた、今日は狩に行かずに家で休んでください。わたくしはいつも一人なんですもの。一日でいいから、私とずっと一緒にいてくださいませ」

 竜にしな垂れかかり、そっと愛撫しながら辛そうな顔をしてみせると、竜はすっかり喜んだ。自分を愛してくれていると思ったからだ。

「ねえ、あなた。あなたがわたくしを愛しているのなら、これから尋ねることを拒まないで下さいね」

「何をだ? 可愛い妻よ。俺に何を訊きたいと言うのだ?」

「他でもないわ。あなたが力の源をどこに蓄えているのか知りたいだけなの」

「ああ、愛しい妻よ、お前は何故それを知りたいのだ? そんなこと今まで一度も口にしたことはなかったのに。俺以外は誰も知らぬことなのだぞ」

「ではわたくしにも言えませんの? あなたの妻なのに」

「言わん。他のことなら何でも教えるが、それだけは言うわけにはいかん」

「だったら、あなたはわたくしを本当には愛していないのですわ! だから言わないんですのね。だって愛しているなら、嫌だと言うはずがないでしょう」

 そう言って泣き崩れた妻を見ると、竜は哀れに思った。

「さあ、泣くんじゃない、お前」

「わたくしを愛してなどいないと白状されたのに、泣かずにいられませんわ」

「とんでもない、愛している」

「もし愛しているなら、教えてくださるでしょう?」

「分かっておくれ、愛しい妻よ。これは最大の秘密なのだ。誰も知ってはならないことなのだ」

「女が一度夫と連れ添う誓いをすれば、心も一つになるべきだと聞きましたわ。それなのに、何故わたくしに言おうとしないのですか」

「分かったよ、大切な妻よ。だが、誰にも知られないようにするんだぞ」

「勿論です。それで、どこに?」

「それでは打ち明けてしまおう。俺の森があるだろう。あの森に銀の熊がいて、そこに小川がある。熊は昼になるといつもその小川に水を飲みに来る。その熊を誰かが撃って頭を二つに割ると、中から猪が一匹飛び出す。その猪を誰かが撃って頭を二つに割ると、中から兎が一匹飛び出す。その兎を誰かが撃って頭を二つに割ると、中から箱が一つ飛び出す。その箱を誰かが二つの石で割ると、中に九匹のスズメバチがいる。それが俺の力の源なのだ。九匹のスズメバチが殺されてしまうと、俺は病気の蝿ほどの力もなくなってしまう。だからこれは最大の秘密なのだ」

「そういうことなのね」と妻は言い、竜にキスをした。

「私がこのことを密告したくなるような人は、この世にはいませんわ。さああなた、お酒を飲みましょう」

 王女は一番強い酒の入ったビンを持ってきて腰を下ろし、竜に勧めた。

「あなたの健康を祝して!」

 グラスを合わせて飲んだが、王女は飲むふりをして床にこぼしていた。

「お前の健康を祝して!」

 今度も竜は飲み干していたが、王女はやはり床に捨てていた。

「私たちが長生きするように、もう一杯飲みましょう!」

 それも飲み干してしまうと、竜は丸太のようにひっくり返って大いびきをかき、眠り込んだ。

 王女は部屋を抜け出すと、ヤーノシュを呼び出した。

「ヤーノシュ、力の源がどこにあるのか分かったわ。上手く聞き出せたの」

 王女から話を聞くと、ヤーノシュはすぐに厩舎の小馬のところへ行って伝えた。聞き終わると小馬は言った。

「さあヤーノシュ。薪一山を燃やして納屋三軒分の灰を作り、それを私に食べさせておくれ」

 ヤーノシュは駆け出していくと大きな火を燃やし、その中から混じり気のない灰を納屋三軒分、小馬のところへ持っていった。小馬はそれを舐めた。たちどころに脚がしっかりして立ちあがった。

「今度は私を厩舎から出しておくれ!」

 外へ連れ出すと、小馬は残りの灰を全て舐め尽くした。すると小馬は黄金の毛並みの駿馬――神馬パリパになった。そのうえ、脚が五本あった。

「さあ、ヤーノシュ、地下倉庫に急ぐんだ! 鍵のありかは知っているだろう」

「知っているとも」

「急いで行くんだ。地下倉庫には金の鞍と、あんたのための金の礼服が一揃い吊るされてる。あんたは急いで金の服を着て、金の鞍は私の背に着けるのだ。壁に剣が一振り掛かっているから、それも取っておいで!」

 ヤーノシュは小馬に言われたとおりに鞍と剣を取り、金の服に着替えた。

「さあ、私の背に乗って出かけよう!」

 小馬とヤーノシュは森を目指した。小馬は道をよく知っていた。そこに着くと、ちょうど銀の熊が小川で水を飲んでいるところで、ヤーノシュたちを見ると唸りながら襲い掛かってきた。小馬が言った。

「ヤーノシュ、勇気を出すんだ!」

 小馬は五番目の脚で熊を蹴り倒し、ヤーノシュは熊に飛びかかると剣で頭を二つに切り裂いた。中から飛び出した猪がヤーノシュに襲いかかってきたが、またも小馬に五番目の脚で蹴り倒され、ヤーノシュは素早く駆け寄って剣で頭を二つに切り裂いた。すると中から兎が飛び出して逃げ出したが、小馬の方が早く、蹴りを入れたのでひっくり返った。その機を逃さずに兎の頭も二つに切り裂くと、箱が一つ飛び出してきた。それは飛び去ろうとしたが、ヤーノシュは大きな石を二つ取り出して粉々に打ち砕いた。中からはもう何も出てこなかった。

「よし、胸を張って戻れるぞ。もう恐れるものはない」と、小馬が言った。

 ヤーノシュと小馬が竜の館に戻ると、竜は倒れて動けずにいた。彼は横たわったままこう言った。

「ヤーノシュ、俺の力の源を取り除いてしまったな。こうなっては仕方がないが、せめて命だけは助けてくれ」

「命を助けろだって?」

 ヤーノシュは剣をぎゅっと掴むやいなや、二十四の頭全てに突き刺した。こうして竜は息の根を止められ、死んだのだった。

 小馬が声をあげた。

「さあヤーノシュ、あんたの望みを言うんだ! この国で王様になりたいなら、それもお望み次第。もうこの国はあんたのもんだ」

「ありがとう。でも僕はここに残る気はない。帰りたいんだ。年老いた王様がとても気の毒だ。王女を連れて戻りたい」

「王女を連れ戻したいなら、それもお望み次第さ。財宝を持てるだけまとめるんだ。ここにはざくざくあるからな。二人とも私の背に乗れば連れて帰ってやるよ」

 二人が背に乗ると、「目をつぶって」と小馬は言った。

「ホップ、ステップ、望む場所!」

 そう小馬が言ったか言わないかのうちに、二人は王宮の中庭に着いていた。

 二人は部屋に入っていった。年老いた王は、悲しみのあまり床に就いていて、今、まさに死ぬところだった。

 ヤーノシュは歩み寄り、帰還を告げた。

「王様、あれほどまでに王様を悲しませた王女様をお連れしました」

 王は目を開けた。

「どこにいるのだ?」

「ここにいます、お父様」

 王女は父に抱きつき、二人は喜びの涙にくれた。いや、三人ともだった。

「ヤーノシュよ、お前は娘を連れ戻してくれた。今日からお前がこの国の王だ。我が娘と我が国をお前に与える。全てをお前に手渡すとしよう」

 王はこう言い終えると祝福を与え、間もなく息を引き取った。ヤーノシュは王女を妻に迎えた。二人が死んでいなければ今も生きていることだろう。



参考文献
『ハンガリー民話集』 徳永康元・石本礼子・岩崎悦子・粂栄美子 編訳 岩波文庫 1996.

※天まで届く木の信仰はハンガリーでは(きっと日本人にとっての彦星と織姫並みに)ポピュラーなもので、日常会話や広告文にも入り込んでいるものだそうだ。とても古い信仰で、シャーマンの太鼓にも図案として描かれている。ドイツにも「魔法の木」「天まで届いた木」という類話があるが、東欧に浸透した信仰なのだろう。

 高い木の枝先の葉に一つずつ国がある様子は、北欧神話の世界樹ユグドラシルを思い起こさせる。

 世界樹は異界を結ぶ道筋である。つまり、木の上にあるのは天の国であり、神の国であり、冥界である。木の上の葉の茂っている場所…冥界へ到達するためには《細く長い枝》を渡らねばならない。多くの勇士がこれを渡れずに落ちてきた。これは「賢いモリー」に出てくる《髪の毛一本橋》や「魔女カルトとチルビク」に出てくる《灰の橋》と同じ、この世とあの世のさかに架かった橋を意味していると推測する。この橋を渡ると《向こう岸》…彼岸の世界だ。

 その冥界を支配しているのは竜王である。山幸彦浦島子が竜宮へ行くと壮麗な建物が建ち並んでいたものだが、やはり立派な町がある。しかしその町に人の姿はなく死んだように静まり返っていた。「クワシ・ギナモア童子」にも同様のシーンがあるが、冥界は死者の世界だからなのだろう。「魔法のつぼ」や「お天道さまに届いた豆」でも、豆の木を伝って天に昇ると、水車が動いたり宝やお菓子が溢れているのに誰もいない。

 このイメージは、日本に伝わる《迷い》にも繋がるだろう。山で迷った者が大きな屋敷を見つけるが、宝や食べ物が溢れているのに誰もいない、というイメージである。これは海外の民話でもよく見かけるもので、「美女と野獣」の冒頭などが思い浮かべやすいだろうか。主人公の父親が道に迷って大きな屋敷に入ると誰もいないのに暖かいご馳走が用意してある、というシーン。この民話想に収めた例話の中では「白雪姫」や「森の中の蛙」、「三人の従者」などにも同様のモチーフがある。

 これらは、恐らく《冥界》を暗示する世界的なパターンの一つである。豊かで美しいのに誰もいない。富の世界でありながら死の世界なのだ。

 

 竜は帰宅する時、七マイル離れた場所から鉄棒を投げてすぐにやって来ると言う。ナンノコッチャと思えるが、竜とは即ち雷雨神だと考えれば分かり易い。つまり、鉄棒が門扉に投げつけられて轟く大音とは雷鳴のことであろう。北欧神話の雷神トールは大槌を持っていてそれを投げつけるし、ギリシア神話のゼウスも雷を投げつけると表現されるものだが、ハンガリーの雷神もそういう「重いものを投げつけてくる」イメージなのだと思われる。

 ヤーノシュが小豚に言われて用意する七足の革のサンダルと七着の革の服は、「冥界への旅は無数の靴や服が擦り切れるほど遠く険しい」と暗示するお馴染みのモチーフだが、この話では語り手が途中で忘れてしまったのか、意味がなくなってしまっている。小豚は「牛飼いと織姫」の牛に相当する存在で、本来はこの小豚の皮を剥いで、それをまとって異界に渡るのだったのだろう。

 竜はヤーノシュを呑み込んで吐き出す。これは胎内潜り…冥界に入って生み直されることを意味する。みすぼらしい豚飼いの少年だったヤーノシュが、ここで逞しい一人前の男に…王女を娶るに相応しい王者に変身するという暗示である。「ジャックと豆の木」や「賢いモリー」では、主人公たちは盗みと逃走を三度繰り返すが、ヤーノシュも三度呑まれて吐き出される。

 なお、ヤーノシュが竜を倒して現界に帰ると、今しも王が死のうとしている点は、注意すべきかもしれない。恐らく、「ヘンゼルとグレーテル」で子供たちが魔女を倒して帰ると継母が死んでいることと同じ暗示が潜んでいる。つまり、観念上は「王女を連れ去る竜」と「王女の父王」は同一の存在で、「父親が娘を溺愛して手放さなかったが、第三者の若者が父親を殺して王女と財産を奪った」という読み方も出来るのだ。冒頭で王妃が亡くなり、王女が「お父様を一人に出来ないから私はお嫁に行きません」と断言している点にもそれが暗示されている。

 とはいえ、ここですぐさま「父娘の近親相姦だ!」「親殺しだ!」と騒ぐのは待って欲しい。ギリシア神話に娘ヒッポダメイアに求婚する若者たちに二輪戦車競争を挑んでは首を切っていたオイノマーオス王の物語があるが、彼と娘が道ならぬ関係にあったと語る説もある。人はそういう邪推をしたがるものだが、そういうことではない…それは観念上のことだと思うのだ。もっと軽い「私、大きくなったらパパのお嫁さんになるー」「よーし、パパはお前をお嫁になんかやらないからな」というやり取りのような、どこにでもある父娘の関係、そして親から子への代替わりの葛藤が語られているに過ぎないのだと。

 父親が娘と癒着して、娘に求婚する若者に難題を与える物語は世界中にある。「難題婿」と呼ばれるモチーフである。たとえば「牛飼いと織姫」「桃の子太郎と魔法師の娘」や、日本神話のオオクニヌシの根の国下りにも見て取れる。

 

 以下は類話。《人食い》の館に王女を取り戻しに行くのではなく、王女の命令で宝を盗みに行くことになっている。ここでも《人食い》は竜である。

名高いドラコス  ギリシア

 昔々のこと、ある王に並ぶもののないほど美しい一人娘があった。王子という王子が彼女を妻にするため競い合ったが、王女には嫁に行く気はなく、結婚を避ける口実を千と考え出したものだった。

 彼女に求婚する王子の中に、一人大変な美男子がいた。その王子を見ると王女の心は少しときめいたのだが、またも結婚の決意はつかず、代わりに王子が美貌と同じくらいの勇気を持ち合わせているか、自分の願いを叶えてくれるほどの強い愛情を持っているかを確かめようと思った。

 ある日のこと、王女は名高い竜魔人ドラコスの持っている黄金の杖を取って来た者と結婚すると宣言した。それはドラコスが戸に立てかけて戸の開け立てに使っている心張り棒なのだ。

 それを聞くと王子という王子は恐怖で血を凍らせた。名高いドラコスはあらゆる人食い鬼の中でも最も獰猛で最も強い。一つ目で、寝ている時も起きている時もいつも目を開いている。だから近付く者は誰でも食われてしまうし、王女の望みを叶えようとすれば身の破滅になると誰もがよく知っていた。

 しかし美男の王子は王女をことのほか愛していたので、王女のために杖を取ってくるか身を滅ぼすか、二つに一つの決心をした。

 かくして王子は誰にも何も告げずに運試しの旅に出た。どことも知れぬ地を昼も夜も歩き続け、谷を越え荒地を通って歩いていった。そして疲れて、とある木の下に座って眠り込んでしまった。

 目が覚めると、遠くに一人の老婆の姿が見えた。老婆は大きなフライパンの中に粉をふるい入れていたが、粉はフライパンの中に落ちないで地面にこぼれてしまっていた。王子は老婆に近付いて、彼女が盲目であることに気づいた。

「お母さん、おやめなさい粉をふるうのは。地面にこぼれているではありませんか」
「そうかい、お若い方。私は目が見えないのだよ」
「さあお母さん、僕がふるい入れてあげましょう」

 王子は粉をふるってやり、それを近くにあった袋に入れてから言った。

「お母さん、これをどこへ持って行くんです。運んであげますよ」

 老婆は何度も何度も王子に礼を述べて、こう言った。

「お若い方、お前さんは私に善いことをしてくれたね。何をお礼にしてあげたらいいだろうか」
「お母さん、僕のためにただ祈ってください。何故って、僕の探し物を手伝ってもらうことは出来ないでしょうから」
「いいから、お前さんが探しているのは何だい。言ってくれなきゃ手伝えるかどうか分からないだろう」
「お母さん、僕は一人っ子の王子です。噂である王女様の話を聞きました。とても綺麗で、沢山の王子が求婚しにきたのに、気に入った男性が見つけられなかったと。母上の願いを聞き入れて、僕は王女様を一目見てすぐ帰るだけのつもりで出かけました。ところが彼女を見るやいなや、僕は夢中になってしまったのです。ある日のこと、王様が王女様に『もうお嫁に行かなくてはいけないよ』と仰いました。そこで王女様は『私は名高いドラコスの黄金の杖を取って来てくれるような男の方と結婚しますわ』と仰ったのです」

 すると老婆が言った。

「お若い方、お聞きなさい。お前さんはひどく厄介なことに巻き込まれたのだよ。でもご両親も私も祈ってあげるから勇気を出すんだ。今来た道を進むと、道は草の中に埋もれてしまう。人間は誰も足を踏み入れたことがないからね。それから先もずっと進むんだよ。次に坂を上ると、山とも岩ともつかぬものが見えてくるだろう。そこに近付くと遠くに大きな洞窟が見えるから、その側に近付くのだ。もし いびきが聞こえたら、それはドラコスが中で眠っているという印だよ。その時は洞窟の扉が開くまで遠くでじっとしていなさい。

 ドラコスは洞窟の中で羊の群れを飼っていて、洞窟の前には誰にも動かせないほどの大岩を置いているのだよ。だから、ドラコスが羊の群れを出すために岩をどけるまで待って、それから上手く中に入るんだ。

 ドラコスは夕方に羊を連れて帰ってきて、また岩で洞窟を閉じて眠るから、いびきに注意するんだ。それが聞こえたら眠っているのだから、そっと近付くといい。ドラコスの髭に黄金の鍵が結び付けてあるから、このハサミで髭ごと切り取るんだよ。朝になってドラコスが羊を出すために岩をどけたら、お前さんも逃げるんだ。

 それでお若い方、上手く逃げられたら前と同じ草に埋もれた道を引き返してごらん。どんどん行くと大きな宮殿が見えてくる。宮殿の扉は例の鍵で開くから、恐れずに中に入りなさい。すると大きな部屋に馬が一頭と犬が一匹いて、馬には骨が、犬には藁が与えられている。お前さんは何も言わずに餌を取り替えておあげ。後のことは馬が教えてくれるだろうさ」

 王子は老婆に心からのお礼を言って、何枚かの銀貨を与えた。そして老婆のくれたハサミを持って先へ進んだ。草の生い茂った道を行くと岩山に着き、大きな洞窟が見えた。近寄ったがいびきは聞こえなかった。中には誰もおらず、けれどミルクがいっぱい入った大鍋と脱穀場ほどもある堅パンが一切れあった。それを見ると王子はもう何日も食事をしていないことを思い出し、パンを割り取ってミルクに浸して満腹するまで食べた。それから辺りを見回し、岩壁の上の方に穴を見つけて潜り込んだ。

 ほどなくして鈴の音が聞こえ、ドラコスと羊の群れが帰ってきた。ドラコスは岩で洞窟を塞いで腰を下ろし、パンとミルクを食べたが、どういうわけか満腹しなかったのでこう言った。

「変だな、今日はなんて食欲があるんだろう。ミルクもパンも俺には足りなかった」

 ドラコスは食事を終えると火を落として横になった。(王子は老婆に何かの粉をもらっていて、それを水筒の酒に混ぜておいたので、それを飲んだドラコスは深く眠り込んだのだと言う。)王子は降りてきてドラコスの髭を切って鍵を取ると隠れ場所に戻ったが、ドラコスが目を覚まして鍵がないことに気付いたら探し始めるだろうと考えた。そこで再び降りると、大きな丸太の先を尖らせて火に突っ込み、充分に焼けたそれをドラコスの目に差し込んだ。

 ドラコスは大声をあげて辺りの全ての者を起こしたが、駆けつけた他のドラコスたちは洞窟を塞ぐ岩のせいで中に入れず、入口がしっかり閉ざされているのならば敵ではない、自分たちの首領は酔っているのだろうと考えて帰ってしまった。

 あくる朝になるとドラコスは岩をどけ、羊を外に出し始めた。目が見えないので、戸口に座って羊を一匹ずつ手探りしてはだ。洞窟の中にいるのだろう目潰しの犯人を逃がさないためだったが、王子は羊の中の特に大きくて毛のふさふさしたものの腹の下に掴まり、まんまと洞窟を抜け出した。

 

 王子は老婆に教えられたとおりに進み、宮殿に辿り着いて例の鍵で開けて、鎖でつながれた犬と馬を見つけた。馬の前には沢山の骨が転がり、犬の前には沢山の藁が積んであった。鎖を外そうとしたが出来なかったので、犬に骨を、馬に藁を投げてやった。食べ終わった途端に、犬と馬は口をきいた。

「お若い方、どうやってここを見つけたのです。今に名高いドラコスがやって来て、あなたを食べてしまいますよ」

 そこで王子はこれまでのことを物語った。不思議な老婆の話を聞くと、馬は言った。

「お若い方、その老婆は美しいミラ(運命の女神。モイラのこと)なのです。美しい人は誰にも悪いことをしなかったので、他のミラたちに盲目にされてしまったのです。そして美しいミラに同情したり愛したりする者がいないよう、目が治らないように呪いをかけたのです。ですから今までミラに同情して親切にした者は誰もありませんでした。
 お若い方、あなたは今からこれこれの道を通って一つの部屋に入るのです。その中には囚われの王女が二人いますから、彼女たちを解放してあげて下さい」

 王子は言われたとおりの道を通ってその部屋に入った。そこにはとても美しい二人の王女がいて、王子を見るとどうやってここまで来たのか訊ねた。王子が一部始終を物語ると王女たちは言った。

「私たちが黄金の杖を差し上げましょう。その代わり、私たちを自由にして下さい」

 黄金の杖を受け取り、王子は二人の王女を連れて階段を下りると、馬と犬に杖で触れた。すると馬も犬も解き放たれた。王女たちを馬に乗せて連れ出そうとすると、彼女たちが言った。

「行く前にもう一つやらなければならないことがあります。王子様、窓から下を見てごらんなさい。そこに見える動物は全て人間なのです。中には王子様もいます。みんなはある日狩に来てここを通り、扉が開いているのを見て中に入ったのです。ところがその人たちをドラコスが見つけ、水を振り掛けて様々な動物に変えてしまったのです。さあ、急いで黄金の杖で動物の背中を軽く叩いて下さい。そうすれば元の姿に戻るでしょうから」

 王子はすぐに降りて行って、黄金の杖で一匹ずつ動物に触れた。するとたちまち人間に、それも立派な若者になった。彼らは王子を抱きしめて感謝のキスを贈った。王子はこの仕事を終え、全ての人が出てしまうと宮殿にしっかり鍵をかけた。

 人々はそれぞれの国へ立ち去り、王子は馬と犬を連れて、二人の王女を両親のもとに送り届けに行った。父王と母后は歓喜し、王子に姉妹のうちどちらかを妻にして国を継いでほしいと申し出た。けれども王子は、自分には愛している姫がおり、彼女のために黄金の杖を得たのだと断った。

 その時、犬と馬が自分たちにも黄金の杖で触れて下さいと願い出た。王子がそうすると、それらは立派な王子たちに姿が変わった。馬だった王子が驚く父王に向かって言った。

「尊敬する王よ、私たちを婿にしてはいただけないでしょうか。お慕い申し上げていた王女様をドラコスが盗み出した時、私たちはお助け申し上げようと出かけました。ところが私は馬にされ、私の友は犬にされてしまったのです」

 王は二人を抱擁し、喜んで婿にしようと言った。

 王は美男の王子に沢山の贈り物を積んだ馬車を与えた。王子は二人の王女に見送られながら帰途についた。

 

 さて、黄金の杖を所望した王女の方はどうなっていたか。

 彼女は美男の王子が杖を取りに出かけ、もう会えないと知るや、悲しみで病気になり、瀕死になってしまった。医者や巫女も何も出来ない。

 王子が宮殿に着くと、王女の病を悲しんで扉という扉が閉ざされていた。王子は黄金の杖で触れて、歩く先にある扉を一つ一つ開き、前触れもなく王女の前に現れた。王女は彼の姿を見るなり起き上がり、抱きついて言った。

「あなたと結婚します。どれほどあなたをお待ちしたことでしょう。あなたが行ってしまった悲しみで、私は死んでしまうところでした」

 王子は王女にこれまでの冒険を語り、黄金の杖を渡した。婚礼は楽器や太鼓を使った大祝宴だった。それから王子は王女を連れて自分の国へ帰り、そこでも婚礼が行われ、二人は幸福に暮らした。

 けれども、私たちはもっと幸福なのだよ。


参考文献
『バルカンの民話』 直野敦・佐藤純一・森安達也・住谷春也 共訳編 恒文社 1980.

※主人公が高い場所に隠れて人食いが下にいるお馴染みのモチーフや、人食いの食べ物を盗み食いする「牛片山姥」にもあるモチーフが見える。

 人食いが洞窟に住む一つ目の巨人で、主人公がその目を潰し、羊に化けて脱出するくだりは、ホメロスの『オデュッセイア』にほぼ同じものがある。

 名高いドラコスの「名高い」と訳された部分は「Polyphoumismenos ポリフミズメノス」だそうで、『オデュッセイア』の一つ目巨人「Polyphemos ポリュペーモス」に引っ掛けられており、語り手が『オデュッセイア』のエピソードを意識していたことは明らかである。

 ちなみに、人食い鬼の首領が洞穴に捕らえていた人間に逃げられて手下の鬼たちを呼び集めるモチーフは、日本の「鬼の子小綱」にもある。


参考 --> [一つ目巨人


参考--> 「魔法の木」「天まで届いた木」【心臓のない巨人】「笙の笛の物語」「梵天国」「もの言う馬




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