>>参考 [食わず女房][ヘンゼルとグレーテル][賢いモリー][王の命令]
「シン・シン・ラモと月」「カチカチ山(A型)」
ピエリーノ・ピエローネの通学路に梨の畑がありました。学校へ行く途中で、ピエリーノ・ピエローネが木に登って実を食べていると、木の下を通りがかった魔女のストレーガ・ビストレーガが言いました。
ピエリーノ・ピエローネ、梨の実を一つもいでおくれ
お前のその小さな白い手で。
ホントにまあ、梨の実を見ていると、よだれが垂れちゃいそうだよ!
ピエリーノ・ピエローネは思いました。(よだれが垂れそうなのは梨の実のせいじゃない。僕を食べたいからだな)。それで木から下りずに、実を一つもいで投げ落としてやりました。梨の実はストレーガ・ビストレーガの鼻に当たって、遠くへ跳ね返りました。
ストレーガ・ビストレーガは繰り返しました。
ピエリーノ・ピエローネ、梨の実を一つもいでおくれ
お前のその小さな白い手で。
ホントにまあ、梨の実を見ていると、よだれが垂れちゃいそうだよ!
けれどもピエリーノ・ピエローネは木から下りませんでした。そしてもう一つ実をもいで投げてやりました。梨の実はストレーガ・ビストレーガの片方の目に当たって、遠くへ跳ね返りました。
ストレーガ・ビストレーガはまた同じように頼みました。
ピエリーノ・ピエローネ、梨の実を一つもいでおくれ
お前のその小さな白い手で。
ホントにまあ、梨の実を見ていると、よだれが垂れちゃいそうだよ!
それでとうとうピエリーノ・ピエローネは根負けして、木を下りて梨の実を一つ差し出してやりました。ストレーガ・ビストレーガは持っていた袋の口を開くと、その中へ、梨の実ではなくピエリーノ・ピエローネを入れてしまいました。そして袋の口を縛ると肩に担ぎました。
しばらく歩くうちに、ストレーガ・ビストレーガはキノコのいっぱい生えた草原に出ました。袋を置いて晩のおかずのキノコを採り始めた隙に、ピエリーノ・ピエローネはネズミのような歯で袋の口紐を噛み切って外に飛び出し、袋には代わりに石を入れて逃げました。ストレーガ・ビストレーガは少しも気づかず、再び袋に手を掛けて担ぐと言いました。
「やれやれ、ピエリーノ・ピエローネめ、お前は石ころみたいに重たい奴だよ!」
ストレーガ・ビストレーガは家に帰り、戸が閉まっていたので娘を呼びました。
マルゲリータ・マルゲリトーネ、降りてきて戸を開けておくれ
釜の用意をしておくれ。
ピエリーノ・ピエローネを煮るのだから
魔女の娘のマルゲリータ・マルゲリトーネは戸口を開いて、水をいっぱい入れた釜を火にかけました。お湯が煮立つと、ストレーガ・ビストレーガは袋の中身を空けました。
ドシン!
重たい石が落ちて釜の底が抜けてしまいました。熱湯が辺りに飛び散って、ストレーガ・ビストレーガは足に大火傷を負いました。
「お母さん、どういうつもりなの。石を運んできて煮るなんて?」
マルゲリータ・マルゲリトーネがそう言うと、ストレーガ・ビストレーガは火傷の痛みに呻きながら言いました。
「娘や、もう一度火を点けておくれ。すぐに戻ってくるから」
魔女は服を着替え、金髪のかつらをかぶり、袋を持ってまた出かけました。
ピエリーノ・ピエローネは学校へは行かないで、梨の畑に戻っていました。変装したストレーガ・ビストレーガは素知らぬ顔で近付いて呼びかけました。
ピエリーノ・ピエローネ、梨の実を一つもいでおくれ
お前のその小さな白い手で。
ホントにまあ、梨の実を見ていると、よだれが垂れちゃいそうだよ!
けれどもピエリーノ・ピエローネは魔女の正体を知っていましたから、用心して木から下りません。
「ストレーガ・ビストレーガ、あんたには梨の実を取ってあげないよ。どうせまた僕を捕まえて、袋の中へ入れてしまうんだから」
するとストレーガ・ビストレーガは猫撫で声で言いました。
ピエリーノ・ピエローネ、梨の実を一つもいでおくれ
お前のその小さな白い手で。
ホントにまあ、梨の実を見ていると、よだれが垂れちゃいそうだよ!
そうして何度も繰り返して頼んだので、ピエリーノ・ピエローネもしまいに木から下りて、梨の実を一つあげました。ストレーガ・ビストレーガはすぐに少年を袋に放り込みました。
あの草原に着くと、魔女はまた袋を置いてキノコを採り始めました。しかし今度は袋の口がきつく縛ってあったので、ピエリーノ・ピエローネは逃げ出せません。そこで、少年は
ストレーガ・ビストレーガが戻って来て袋を担ぎ直すと、中で犬が暴れて吠え声を立てました。ストレーガ・ビストレーガは言いました。
「ピエリーノ・ピエローネめ。犬ころみたいに暴れ回って、いくらでも吠えるがいい」
魔女は家の戸口に着いて娘を呼びました。
マルゲリータ・マルゲリトーネ、降りてきて戸を開けておくれ
釜の用意をしておくれ。
ピエリーノ・ピエローネを煮るのだから
けれども煮立ったお湯に袋の中身を空けようとすると、怒り狂った犬が飛び出してきて、魔女のふくらはぎに噛みつきました。犬は中庭へ走り出て、めんどりを次々に噛み殺しました。
「お母さん、どういうつもりなの。晩ごはんに犬を食べるなんて?」
マルゲリータ・マルゲリトーネがそう言うと、ストレーガ・ビストレーガは言いました。
「娘や、もう一度火を点けておくれ。すぐに戻ってくるから」
魔女は服を着替えて、赤毛のかつらをかぶり、梨の木のところへ戻って行きました。
やはり梨の木の上にいたピエリーノ・ピエローネは、何度も頼まれると今度も木から下りて、魔女に捕まってしまいました。三度目の正直で、魔女は道草をしたりせずにまっすぐに家へ帰りました。戸口にはマルゲリータ・マルゲリトーネが待っていました。
「さあ、掴み出して、檻の中へ閉じ込めておやり。明日の朝早く、私が出かけている間に、キノコと一緒に刻むんだよ」
ストレーガ・ビストレーガは娘にそう言いました。
翌朝、母親が出かけると、マルゲリータ・マルゲリトーネはまな板と三日月形の包丁を出して、檻の戸を少し開けました。
「ピエリーノ・ピエローネ、
良い子だから、このまな板の上に首を乗せてごらん」
すると少年が答えました。
「どういう風にするの? ちょっとやってみせてよ」
マルゲリータ・マルゲリトーネがまな板の上に首を乗せてみせると、ピエリーノ・ピエローネは三日月型の包丁を取って、ストンと娘の首を切り落とし、フライパンに入れて
ストレーガ・ビストレーガは帰って来て、この惨状を見て叫び声をあげました。
「マルゲリトーネ、私の可愛い娘!
誰がお前をフライパンの中に入れたの?」
「僕だよ!」と、ピエリーノ・ピエローネが天井の煙出しのところから言いました。
「どうやって、そんな高いところまで登ったんだい?」
「お鍋をたくさん積み重ねて登ったんだよ」
するとストレーガ・ビストレーガも鍋を積み重ねて、その階段を登って少年を捕まえようとしました。ああ、もう少しで手が届く! その瞬間。
積み上げられた鍋が大きく揺らぎました。鍋の階段はガラガラと崩れ落ち、魔女もフライパンの中へ落っこちて、ジャーッと音を立てて
参考文献
『岩波世界児童文学集16 みどりの小鳥』 イータロ・カルヴィーノ著 河島英昭訳 岩波書店 1994.
二人の若者が八匹の犬を連れて森に入った。するとパンの木ほども大きくて実が鈴なりになったウォレプの大木があったので、一人が木に登って実を採り、もう一人が下で実を受け取ることにした。けれども、木の上の男が竹のナイフで実を採って投げ落とすと、下の男が言った。
「駄目だ、駄目だ。お前は豚の糞の上に実を落としたぞ」
そうか、ともう一つ投げ落とすとこう言った。
「これも駄目だ、火食い鳥の糞の中に落ちた」
また投げ落す。
「それも駄目だ。森カンガルーの糞に落ちたぞ」
また一つ。
「犬の糞に落ちたぁ」
また。
「駄目だ駄目だ、鳥の糞だ」
とうとう、木の下の男が言った。
「こりゃ駄目だ。投げ落とすんじゃなく、お前が持って降りてこいよ。みんな獣の糞の上に落ちてしまった」
仕方なく、木の上の男は何個か実を持って木から下りた。するとそこに図体のでかい老婆がやって来て、愛想よく言った。
「おや、お二人さん、ウォレブの実を食べるのかい? そうかい、そうかい」
ところが、実を持った男が近寄ると、老婆はひょいと掴んで、背に負っていた長い長い巨大な網袋に投げ込んだ。男はザーッと滑って袋の底へ落ちていき、もう一人の男は逃げ去った。
老婆は、人食い女レトモクウィプだったのだ。彼女は袋を担ぐと、住処のある
袋の中の男はせっせと糞を垂れ、袋の中をいっぱいにしていた。それから竹のナイフで網袋を切って転がり出した。人食い女は気付かずに歩いて行き、村の集会場に入ると袋を下ろして壁に掛けた。
集会場の下に、一人のひどく年取った老婆が住んでいた。もはや老いぼれすぎてヨイヨイで、森の木にぶら下がるつる草のように役に立たないのだ。人食い女はこのつる草婆さんに言った。
「すまないが、上の集会所に置いてある肉をちょっと見ていておくれ。今日はいい肉が手に入ってね。私はこれから水汲みに行って来る。それから肉を食べて歌うのさ」
人食い女は大きな竹筒を持って水汲みに行き、爪を伸ばして鋭く研いだ。爪は自在に伸縮できるのだ。伸ばしたこれをブンと振れば、パンの木ほどに大きな木も簡単に切り倒されてしまう。
村に戻ると、人食い女は壁の外から爪を伸ばして網袋を突き通した。ところが手応えがない。建物に入って覗きこめば、中に詰まっていたのは糞である。
「ありゃあ、上肉が逃げてる。そうか、婆さんがこいつと喋くって、戸口を開けてやったんだね」
人食い女は降りて行ってつる草婆さんに毒づいた。婆さんは言った。
「誰とも喋っておらんよ。考えてもごらん、そんないい肉を逃してどうするかね。この通り、わしは骨と皮で、お前のおかげで食うておる。気の毒ではあるが、わしが逃がしたんじゃないよ」
「いいや、お前だ。お前があいつと喋くって、その間に逃げられたんだよ。いっそお前を殺してやろうか」
「私はもう何もできない。目も見えず足は萎えて、一日ここに座っているだけじゃ」
そう言われると、人食い女も考え直した。
「よし、分かった。それならここで待ってるがいい。わしが行って探してくるからね」
人食い女は撲殺用の棍棒を持つと、あちこち探し回って例の草原まで行った。そこで匂いを嗅ぎつけて辿り、とうとう男の住む村まで追って行った。
けれども、そこには男以外にも人間がい過ぎた。
「こりゃ駄目だね。出直そう」
人食い女はそう独りごちて、村へ引き上げたという。
また、こんな話もある。
一人の男が森へ猟に行き、実の鈴なりになったウォレプの木を見つけて木に登って食べていた。そこに風雨を起こして人食い女が飛来した。しかし男は雨の音のせいで異様な気配に気づかなかった。人食い女は木の下から声をかけた。
「おや、お前さん、何をしているんだい?」
「なぁに、ちょっとこのウォレプの実を採って食べているだけさ。おかみさん、あんたもいるかい?」
「そうだね、二つ三つ投げてもらおうか。私も腹ぺこだからね」
男は実を一つもいで投げた。女が下から「豚の糞に落ちたよぅ」と言った。次に投げたのは火食い鳥の糞の上に落ちた。
「お前さんが実を持って降りておくれ。投げても投げても糞の中だ」
そこで男は木から下りたが、実を抱えていたので、ナイフだけを先に木の根っこに投げ落しておいた。そこを人食い女に捕まえられたので、ナイフで網袋を破って逃げることが出来なかった。
人食い女は網袋を集会所の壁にぶら下げると、つる草婆さんに見張りを頼んで水汲みに行った。伸ばした爪の切れ味を試し、戻ると大きな土鍋を出して湯を沸かした。それから男を袋から出して連れて来て、「湯が沸いたかどうか、鍋の中を見ておくれ」と頼み、男が覗きこんだところで伸ばした爪で男の首を切断した。男の首はボチャンと鍋の湯の中に落ちた。
男の首が煮えると、男の体を捌いて煮込んだ。糞の詰まった内臓と性器は全部つる草ばあさんにやって、自分はいい肉を食べて、笛と太鼓で一晩中歌い踊った。夜が明けると、今まで食べた他の人間たちのそれと並べて、頭蓋骨を竹竿にぶら下げた。
その後、人食い女が畑仕事に出た時、川の石がゴロゴロと大きな音を立てて鳴り響いた。人間の村から、川を渡って二人の女がやって来たのだ。一方の女は食い殺された男の妹で、行方不明になった兄を探しに来たのだった。
「誰だい、そこにいるのは。その石の下にあるのはわしの糞と小便ばかりだよ。誰だい?」
二人の女が答えた。
「私たち二人です」
「何をしている?」
「男の人を探しています。お婆さん、見ませんでしたか」
「さあ、見なかったねぇ。余所にいるんじゃないのかい? まあ、こっちへ上がっておいで。お腹もすいているだろう。何か食べさせてやろう」
人食い女は二人を連れて
「さっき大きな音が聞こえたわ。何だったんでしょうか」
「ああ、あれかい? 木が一本倒れただけさ」
そんなわけで、二人の女はしばらくその家に留まって、煮炊きなど家事をするようになった。そんなある日、人食い女が「今日は私が炊事をしようかね」と言った。
「あんたたち、ちょっと見ておくれ。お湯はもう沸いているかい?」
二人の女は鍋の向こうとこっちに立ってそれぞれ覗き込んだ。その首を、人食い女の長い爪が一息に切り落とした。首は鍋の中に落ちた。
人食い女は女たちの体を捌き、糞と内臓を抜いてつる草婆さんにやった。人食い女は二人の女を食って、笛太鼓に合わせて歌い踊り、夜が明けるまで歌って歌って歌い狂った。
話はこれで全部だよ。
参考文献
『世界の民話 パプア・ニューギニア』 小沢俊夫/小川超編訳 株式会社ぎょうせい 1978.
※鍋を覗き込ませたところで首を落とし、煮込んで食べてしまうというくだりは、「杜松の木」を思わせる。
「ヘンゼルとグレーテル」では、人食い魔女が燃えるかまどを覗き込ませようとすると、妹は逆に魔女を騙して覗き込ませて殺してしまい、囚われていた兄を救い出す。しかしこの物語では妹は愚かで無力である。「賢いモリー」では、人食いに袋に詰められて食い殺されそうになった人間は、留守番して見張っていた人食いの家族を騙して身代わりに殺してしまう。しかしこの物語では、つる草婆さんは何の被害も受けない。人食い鬼側の完全勝利バージョンである。
※類話はインドにも見える。
参考--> 「魔女カルトとチルビク」「ダニーラ・ゴヴォリーラ王」