民話の中には人食いの魔物が登場するものが沢山ある。

魔物が主人公を訪ねてくる場合もあるが、多くの場合、主人公は魔物の棲家に迷い込むか自ら出かけていく。英雄が姫君を救うべく乗り込んで魔物退治する正統派の話群もあるが、一方で目を引くのは主人公が「小人」か「子供」であるものだ。一見して非力な彼らは狡猾で、魔物の家族をだまして財宝を奪い、時には惨殺して嘲り笑うことすらある。対して魔物は「巨人」か「老人」とされるが、恐ろしい人食いである反面、主人公にだまされる愚鈍な面を持っている。

ここではそんな「だまされ、奪われ、殺される人食い」たちの物語と、人食いから逃れる「呪的逃走」譚を中心に集め、そこに共通して見えてくる「冥界とその住人」への認識を掘り出してみようと思う。

>>参考 【親指小僧】[一寸法師]【赤ずきんちゃん】【瓜子姫】【カチカチ山

童子と人食い鬼

一見して非力な主人公が、勇気と知略によって強大な「人食い鬼」を倒し、その宝を奪い、散々翻弄して嘲り笑いすらする。西欧からアフリカ、トルコ、インド、シベリア、アメリカにまで広く分布する物語である。

この話群の主人公は「子供/若者」か「小人」で、「若く貧弱なもの」である。対して敵は、「老人」か「巨人」で、「老いて富んだもの」である。主人公は君命によって敵の宝を盗むことも多く、敵には「人食い」の要素が付け加えられている。「童子」とは子供を意味する言葉だが、年齢は無関係に「下位の召使」の意味もある。そんな意味を込めてこの章題とした。

 

この系統の話には、大きく分けて二つの枠があると思っている。

  1. 主人公が「人食い鬼」の家を訪ね、その宝を盗んで逃走する
  2. 主人公が「人食い鬼」の家に囚われて食べられそうになるが、逆に「人食い(の家族)」を殺す

それぞれが独立して語られることもあるし、組み合わされることも多い。

なお、「逃走」の部分に比重がかけられて語られることも多いが、そちらはまた異なったタイプの話群とみなすべきかもしれない。ここでは[呪的逃走]という枠にまとめた。

 

  1. a.小さい若者 b.醜い男 c.旅人 d.子供たち)が冥界に入り、「人食い鬼」の館を訪ねる
    • a.「人食い鬼」の妻 b.「人食い鬼女」)は食料を与えてくれ、優しくしてくれる
    • 帰宅した「人食い鬼」が『人臭いぞ』と鼻をクンクンさせて怪しむ

これ以降の展開は幾つかのパターンに分かれる。

ジャックと豆の木>>物語を読む

  1. 妻の取り成しによって「人食い鬼」は眠り、その隙に宝を盗んで逃走する
    • 盗みと逃走は三度繰り返される
    • 「人食い鬼」は「冥界と現界の境」を越えられない
  2. 「冥界と現界の境」を越えて主人公を追おうとした「人食い鬼」は、高所から落下して墜死する
    • その死骸が植物に変わった(豊穣をもたらした)暗示 -->【狼ばあさん
  3. 主人公は周囲に認められて王者になる

 

類話中でも最もシンプルであり、「宝を盗み、人食いの妻子を殺して嘲る」枝葉的な要素がないため、核の形が判り易い。冥界に下り、「豊穣」「武力」「霊力」等を手に入れて帰還する物語である。

日本神話のオオクニヌシの根の国下りや、[命の水]系民話のような、冥界の住民が眠り込んでいる間に宝を盗み出す物語とも同根なのだろう。盗んだのが「琴」であり、盗み出そうとするとそれが鳴り響く点も それらの話と共通している。

天梯樹>>物語を読む

異常成長した不思議な植物を伝って異界へ行く話色々。

「人食い鬼」に出会わず(出会っても襲われず)、「盗み、殺害」のモチーフも持たない・希薄なもの。

王の命令>>物語を読む

ジャックと豆の木]に近いが、主人公が王の傲慢な命令によって「人食い鬼」の家(冥界)へ行かされている点が異なる。主人公はジャックのように自分の運試しで冥界へ盗みに行くのではない。王の代理として行き、行かねば王に殺される。[賢いモリー]の後半だけのような話だ。

地上の権力者が英雄に「○○を持って来い」「●●を倒して来い」と無理難題を命じるモチーフは、ギリシア神話のヘラクレスの十二功業が有名だろう。日本神話の英雄ヤマトタケルの物語や、チイサコベのスガルの話もこれに属すると考えている。民話では無数に見ることが出来るが、少しずつ方向性が異なる。

  1. 王が英雄を恐れるか妬むかして、亡き者にせんと難題を与える
    →「ちびっこの甘露
  2. 王が美しい人妻に横恋慕し、奪おうと夫に難題を与える
    →「竜宮女房」「梵天国」【絵姿女房
  3. 王は自分の欲望を満たすために家臣に様々な宝の探索を命じる
    1. 王は難題を果たした主人公を賞賛して取り立てる
    2. 王は最後に冥界神(怪物)を連れてくるように命じ、それに殺される。主人公が後継者になる
    3. 王は最後に冥界女神(世界で一番美しい乙女)を連れてくるように命じる。しかし女神は実際に試練を越えた主人公を夫に選ぶ。主人公は美しく再生するが真似した王は死んで甦らない。主人公が女神と結婚して王位を継ぐ
      →グリム「誠実なフェレナンドと不誠実なフェレナンド」(KHM126)

 

この[童子と人食い鬼〜王の命令]に集めた話群は概ね「C-a」か「C-b」である。

賢いモリー>>物語を読む

この話群は、主人公が複数兄弟の末子たる子供であることが多い。非常にずる賢い子供で、そのしたたかさと、キリキリ舞いさせられる「人食い鬼」の哀れなまでの滑稽さを楽しむことに主眼がある。

また、後半は「横暴な王の要求で、英雄が探求の旅をさせられる」という、ギリシア神話のヘラクレスの十二功業や日本神話のヤマトタケルの討伐行でもお馴染みの要素が中心になっている。 --> [どこかへ行って、何かを取って来い

 

  1. 主人公は「人食い鬼」の家に泊まり、大事なもの(a.宝 b.「人食い鬼」の家族の命)を奪って逃走する
    1. 「人食い鬼」が眠っている間に宝を盗んで逃げる
    2. 「人食い鬼」は主人公を寝せ、夜中になると殺そうとするが、知略で危機を脱して逃走する
      • 「人食い鬼」は夜中に刃物を研ぎ、「寝たか」と声をかける。主人公はいちいち声を返す
      • 「人食い鬼」は自分の子供と区別がつくように冠や首輪等の印を与える。しかし主人公はそれを入れ替えておく。暗闇の中、手探りで主人公を殺そうとした「人食い鬼」は、間違えて自分の子を殺してしまう
        • 主人公は殺された「人食い鬼」の子に成りすまし、その肉を料理して「人食い鬼」に食べさせると嘲る
  2. 王が主人公に「人食い鬼」の宝を更に盗んでくるように命令し、主人公は知恵を用いてそれを果たす
    • 盗みと逃走は三度繰り返される
  3. (主人公は人食いを捕獲・または退治する)
    • 騙して箱に閉じ込める
  4. 主人公は周囲に認められて王者になる
    1. 王が後継者として認めたので
    2. 欲張った王が罰を受けて破滅したので

ヘンゼルとグレーテル>>物語を読む

この話群は、「逃走」の要素が希薄なのが特徴だ。主人公は[賢いモリー]とよく似て、狡猾な子供とされることが多い。

  1. 「人食い女」は主人公を家畜として大切に飼う
    • 籠または家畜小屋に入れて毎日ご馳走を与える
    • 「人食い女」は目がよく見えないので、手探りで主人公の太り具合を確かめるが、主人公は小枝などを触らせて太っていないように見せかける
  2. 「人食い女(の娘)」は主人公を(a.煮立った鍋 b.燃えるかまど c.臼の中 d.焚火の中)に入れようとするが、主人公は逆に「人食い女(の娘)」をそれらの中に突き入れて殺す
    • 続けて「人食い鬼」の他の家族や親族をも皆殺しにしたと語ることもある
  3. 主人公は「人食い女」の財産を奪って帰還し、裕福になる

 

主人公が入れられそうになる「a.煮立った鍋 b.燃えるかまど c.臼の中 d.焚火の中」は、全て「冥界…地獄の釜」を意味している。ここに入るということは「死ぬ」ことでもあるし、「冥界の女神に産み直される」ことでもある。燃えるかまどに突き入れられた魔女は焼け死ぬが、これは「老いた母(冥界の女神の死の相〜秋・冬)」が死んで「若い娘(冥界の女神の萌生の相〜春・夏)」に生まれ変わったという暗示でもあろう。

 

本来は神であった「人食い鬼」が力の殆どを失い、矮小な「魔物」に零落している。「人食い鬼」はもはや巨大ですらない。老いた弱々しい存在で、子供である主人公一人でも簡単に倒せてしまうのだ。

さらわれた娘A>>物語を読む

「人食い鬼」にさらわれて妻にされていた娘を奪還する話。もしくは、意中の娘と結婚するために「人食い鬼」の館に宝を盗みにいく話。

趣がやや異なる話ではあるが、【童子と人食い鬼】と共通モチーフの多いものを ここで紹介しておく。

 

後半が「人食い鬼」から逃れる呪的逃走になっている話もあり、そちらの方が【童子と人食い鬼】と共通する部分が多いかもしれない。--> [さらわれた娘B

呪的逃走

呪的逃走ないし魔法的逃走、すなわち「マジック・フライト」と呼ばれるモチーフは、世界中の伝承に見られる。呪具等を用いて追手の足を阻む面白さを描いたもので、日本人には日本神話でイザナギが黄泉から逃げ帰るエピソードが馴染み深いだろう。(物を投げて障害を作るタイプの呪的逃走としては、これが文献上最古という説もある。

  1. 呪具または援助者に代返をしてもらっている間に逃げる
    1. 呪具を(トイレ/柱)にセットしておき、それが「人食い鬼」に返事をしている間に逃げる
    2. 家に(大便/血/唾)を残しておき、それが「人食い鬼」に返事をしている間に逃げる
    3. 便所神/獣/果樹/門、かまど、家具などの喋る無機物)が「人食い鬼」に(a.返事をしている b.嘘をついている c.黙っている)間に逃げる
      • 反対に、(/門、楽器、家具などの喋る無機物)が「人食い鬼」に逃走を報せ、追われるモチーフもある
  2. 逃走しながら魔法で障害を作る(これが一般的に「呪的逃走」とされるモチーフ
    1. 逃げながら、呪具(櫛、ブラシ/布/鏡/火打石/呪符)を背後に投げる。それらは「冥界と現界の境を象徴するもの」(森、林/川、海、湖/深い谷/山、砂の山、剣の山/炎の川、炎の海、炎の湖)に変化し、「人食い鬼」の足を阻む。三度繰り返されることが多い。
    2. 逃げながら、食料(「人食い鬼」の家族の血肉/主人公の家族の血肉/連れていた家畜/自分の体/魚/果実)を背後に投げ、その供物を「人食い鬼」が拾い集めたり食べたりしている間に逃げる
    3. 逃げながら、排泄する。それが川などになった間に逃げる
  3. 逃走しながら果樹や花や川に次々と変身して身を隠す。または鳥や獣に変身して逃げる
    • これは調べるのが嫌になるほど、バリエーションを無数に見ることができる。神話でも多く見る。
      「死者の魂はあらゆるものに変身できる」ことを意味していると思われる。「死者を現界に甦らせるためには転生し続けるそれを捕らえて引き戻さねばならない」…という霊的知識の変形だろう
  4. (予め門や番犬や果樹やかまどを慰撫して味方につけておき、)逃走しながらそれらに匿ってもらう
  5. 草刈男、船大工等の「逃走中に行き会った労働者」に匿ってらう
    • 冥界に下る(天界に昇る)際のモチーフとして、こうした「行き会った労働者」に(何かの条件と引き換えに)道を教えてもらうパターンがあるが、その逆異相だろうか。
      また、更にそれが変形したらしきパターンとして、「追う人食いが途中で会った労働者に逃げる二人を見なかったか尋ねると、意図せず見当違いな世間話を長々とされ、足止めされる」というものもある。
  6. 「人食い鬼」を笑わせる。笑った「人食い鬼」は鎮まり、追わなくなる
    1. 女性の性器を露出させる。または性的動作
    2. 滑稽なしぐさや踊り

 

このようにして逃走した後、以下のような結末がつくことが多い。

 

  1. 逃走の際に現れた食料や水を無尽に呑み、「人食い鬼」は破裂死する。あるいは石や刃物を食べさせられて死ぬ
  2. 「人食い鬼」は騙され、「冥界と現世の境」を不適切な方法で越えて死ぬ
    1. 主人公は呪具または援助者によって水を渡る。真似をした「人食い鬼」は騙されて溺死する
      • 水面に映った像を本物だと思い込んで水に飛び込む
      • 水に浮かばない乗り物で渡ろうとして沈む -->【カチカチ山
    2. 主人公は高木に登る。真似をした「人食い鬼」は墜死する --> 「狼ばあさん
    3. 主人公は高木から天に昇る。真似をした「人食い鬼」は墜死する -->「天道さん金の鎖

 

この他、やや趣が異なった「呪的逃走」もある。娘が結婚を望む男から逃れるために行うもので、追ってくる男の前に宝や果実を転がす。しかしこれは滅多に見ない。大抵は構図が逆転しており、追う男の方が逃げる女を引き止めるために金の果実を転がしたり、隠れている女が男の気を引くために果実を転がす形になっている。このタイプのものは、ギリシア神話の女傑アタランテの物語から、「アタランテ・モチーフ」と呼ばれることもあるようだ。

構図が逆転している呪的逃走は他にもあり、追う「人食い鬼」(この場合、娘)の方が先回りして、林檎の木や湖に化けて待ち伏せているパターンがある。「コースチンの息子」のような、冥竜から太陽を奪って逃げる話群で見かける。

基本的な呪的逃走モチーフでは追跡してくる「人食い鬼」が魔法で出された食べ物を貪り食べたり川の水を飲み干そうとして腹を弾けさせて死ぬものだが、このモチーフでは逆に、「もしも主人公が、人食いが化けた林檎の実を食べたり湖の水を飲んだりしたら、裂き殺されていただろう」と語られる。

 

このように様々なバージョンがあり、このモチーフを含む話は数多くあるが、ここには[童子と人食い鬼]に共通の要素を持ち、かつ「呪的逃走」の部分にこそ物語の主眼を置いてある話をまとめてみた。

三枚のお札>>物語を読む

赤ずきんちゃん】の話群に近い。「人食い鬼」やその身内を殺して嘲る要素は無く、宝を奪う要素は全く無い。主人公(子供)はそんな余裕も無く命からがら逃げ出すのであり、その逃避行にこそ主眼がある。そして追って来る「人食い鬼」を退治する絶対的存在として和尚(親)が配置されているのが特徴的だ。

ちなみに、西欧の呪的逃走モチーフのある民話だと、最後に教会や司祭が出てきて「人食い鬼」を退けていることがままある。宗教的存在が「人食い鬼」を退けるのは、古い信仰への敬意を人々が失い、新しい信仰が上位になっていることを端的に示すものと考えられる。

 

  1. 子供(たち)が冥界に入り、「人食い女」の館を訪ねる
    • 多くの場合、花、山菜、栗、薪を取りに山へ行って道に迷うが、まれに和尚や親に追い出される例もある
    • 「人食い女」は食料を与えてくれ、優しくしてくれる
  2. 夜中になって、主人公は女が「人食い鬼」であることに気付く
    1. 「人食い女」は主人公を抱いて寝て、夜中に齧る --> [狼ばあさん
    2. 「人食い女」は夜中に出刃包丁を研ぐ --> 「魔女カルトとチルビク
    3. 「人食い女」は夜中にお歯黒をつけ始める --> 「クワシ・ギナモア童子
    4. 雨だれの音が歌って警告してくれる
    5. よく見ると家に人骨がある
    6. よく見ると鬼の姿をしている
    7. 触ると毛深かった --> [狼ばあさん
  3. 主人公は知恵を使って逃走する
  4. 呪的逃走。代返をしてもらっている間に逃げ、「人食い鬼」が追って来ると呪具を後ろに投げて障害を出す
    • 基本的に「三枚の札」だが、二枚、十枚など枚数の異なる場合もある。「山川火の札」「青赤白の札」と呼ぶ場合も。札以外の呪具となっている場合もある。「赤紙、青紙、櫛(徳島県)」「それぞれ林、竹、水と書いた紙(熊本県)」「三枚の紙袋(沖永良部島)」など。
    • 札を投げて出る障害物は、林、茨藪、山、砂山、剣の山、針の山、火、谷、川、海など
  5. 主人公は家に逃げ込む
    • 和尚の身支度が遅く、なかなか戸を開けてもらえない -->[桃太郎・寝太郎型
    • 主人公は戸棚の中、天井や木から吊るしたつづらの中、井戸の傍の木の上など、高い場所に匿われる
  6. 結末
    1. 主人公は助かった
      1. 「人食い女」は諦めて帰った
      2. 「人食い女」は呪具から出た炎に焼かれて死んだ
      3. 「人食い女」は呪具から出た川の水を呑み過ぎて破裂した
      4. 「人食い女」は呪具から出た谷に落ちて死んだ
      5. 「人食い女」は魔除けの植物のせいで主人公を追えなかった
      6. 「人食い女」は門に挟まれて死んだ
      7. 「人食い女」は(井戸の傍の木の上に隠れた主人公の)水に映った像を本物だと思い、飛び込んで溺死した
      8. 「人食い女」は主人公が隠れた木に登ろうとして墜死した
      9. 「人食い女」は和尚に騙され、小さく変身したところを一口で食われた
      10. 「人食い女」は和尚に騙されて(小さくなって)枡に閉じ込められ、釜で焼かれた(炉に投げ込まれた)
      11. 「人食い女」は和尚が経を唱えると消えた。または仏に祈る姿を見て黙って帰った
    2. 主人公は助からなかった
      • 和尚は「人食い女」に喰い殺され、石の唐櫃の中に隠れた主人公は白犬に変わった(岩手県紫波郡)
  7. 由来
    1. 門に貝殻ととべらの木を飾る由来(熊本県)
    2. 蓬と菖蒲が魔除けになる由来(福島県)

牛方山姥>>物語を読む

呪的逃走が物語前半に入っている話。後半は復讐譚になっている。

  1. <逃走譚>
    主人公が「人食い(神)」の領域を侵し、追われる
    1. 沢山の食料を得て家に帰ろうとしていると、人食いが追って来る
    2. 人食いの畑の作物を盗んだため、人食いが償いをしろと言って追って来る
  2. (人食いに捕らえられる)
    • 逃げられないよう縄を結びつけられるが、木に結び直して逃げる
  3. <呪的逃走>持っていた食料(その領域で得た獲物)、連れていた家畜、同行していた家族、自分の体などを少しずつ投げ与える
    ※ここで物語が終了する場合もある。
  4. <復讐>
    主人公は「人食い鬼」の家に忍び込む
    • 「人食い鬼」の食料を盗み食いする
    • 高所から棒で突付いたり声をかけたりしてからかう
  5. 「人食い鬼」は殺される
    1. 主人公は「人食い鬼」を騙して(箱/釜)の中に閉じ込め、火をつけたり熱湯を注いだりする --> 「ポットリ・トンドンの話」
      ※中国の[狼ばあさん]系の話群にも、同じモチーフを持つものがある。
    2. 主人公は高い木に登る。人食いは樹下の水に映った影を本物だと思って飛び込み、溺れ死ぬ
    3. 主人公は高い木に登る。人食いは登ろうとして墜死する
  6. <由来>
    1. 死体化生
      1. 「人食い鬼」は箱の中で溶けて血になる。それを撒くと、蕎麦の根元は赤くなった(愛知県/山口県/徳島県)
      2. 「人食い鬼」を殺した後、焼死体をとうきび畑に埋めると、とうきびの茎が赤くなった(広島県)
      3. 「人食い鬼」の死骸は松脂のようなものに変わり、それを売って大もうけした(徳島県)
      4. 「山姥の黒焼き」を売って大もうけした(香川県)
    2. 魔除けの由来
      1. 「人食い鬼」は菖蒲の臭いを嫌って帰った。五月五日に軒に菖蒲を吊るす由来(沖永良部島)

 

これも【赤ずきんちゃん】話群と共通したところが多い。「人食い鬼」は高所に隠れた主人公にからかわれ、騙された挙句に箱に閉じ込められて退治される。

妹は鬼>>物語を読む

血の繋がった実の妹が人食い鬼で(または、人食い鬼が妹を食い殺して入れ替わっていて)、その正体を目撃してしまった主人公が命からがら逃れるという話。

この話は日本では殆ど九州地方にしか伝承されていない。話の中に虎や孔雀が出てくるので、大陸から日本に移入された物語であることは確かであろう。

世界に目を転じれば、朝鮮半島(韓半島)、中国、ロシア(シベリア〜コーカサス)、ウクライナ、ハンガリー、トルコ、インドにも類話が見られる。特にロシアやウクライナに伝わるものは「鼠が楽器を弾いて時間稼ぎしてくれる」、「その鼠は両親の霊の化身である」など、細部のモチーフまで日本のものと共通していることがある。

なお、ロシア、ウクライナ、ハンガリーに伝わるものは結末が「月の由来」に結びつくことが多い。人食い鬼からの逃走、追い詰められたところで太陽が天に引き上げて星辰になるという筋立ては、「天道さん金の鎖」系話群との関連を思わせる。

 

似たような話で、中国や日本には「老いた実の母が(人食い虎/狼/化け猫)と化しており、それに気づいた息子が退治する」という話群もあるが、それには基本的に呪的逃走はないので、ここでは紹介しない。

妻が人食いだった、というバージョンには[食わず女房]がある。

魔法使いの娘>>物語を読む

「悪魔の娘」とも呼ばれるタイプの話。

若者が(宝を求め/金品の代償に/修行・奉公として)「魔法使い(人食い鬼)」の家に行き、様々な難題を課せられる。しかし魔法使いの娘が知恵や魔法で密かに助ける。全ての難題を解決した若者は娘と結婚する資格を得るが、「魔法使い」はそれでも若者を殺すつもりなのである。若者と娘は様々な手段を講じて逃走する。

 後日談として、現界に戻った若者が悪魔の娘のことを忘れてしまい、悪魔の娘が知略を用いて自分のことを思い出させるエピソードが付くことがある。

 

このタイプの伝承は非常に多く見られて、日本神話でオオクニヌシがスセリ姫の助けを得て根の国から逃げ出す話もこれに属するだろう。冥界から盗み出す宝に「結婚相手」が加わっている。

アポロニオスの叙事詩で有名な、ギリシア神話のアルゴー船冒険譚にもその要素がある。

王子イアソンは叔父に奪われた王位を取りもどすため、叔父が与えた「ポントスの海の向こうのアイエテスの館から金の羊の毛皮を取ってくること」という難題に挑むことになった。(これは、冥界へ行って先代の王…イアソンの父の魂を受け継いでくる、という試練である。)イアソンは巨大な船を建造させてアルゴー(快速)と名付け、多くの英雄たちを集めて旅立った。海を渡り、白鳩(霊)だけがすり抜ける打ち合う岩門を越え、アイエテス(太陽〜冥王)の支配する世界の果ての国に着くと、その国の王女メディアがイアソンに恋した。コルキス王はイアソンに次々と難題を課したが、メディアはそれを密かに魔法で助け、父が眠っていた夜中、見張りの竜を眠らせて、ついにイアソンに金羊皮を入手させた。イアソンとメディアはアルゴー船で逃げ出したが、目ざめた王の軍船が追ってきた。メディアは自分の弟を殺させ、切り刻んだ肉をばら撒いて、父がそれを拾い集めて繋ぎ合わせている間に逃げ延びたという。シベリアの民話「小さい男と魔物のマンギ」と同じ逃亡法である。(アポロニオスの叙事詩ではこの描写はカットされ、逃げ道を軍船で塞いでいた弟を騙し討ちにした、という形にアレンジしている。

バラバラになるのは魔法使いの娘本人の場合もある。彼女は「冥界の奥へ渡って宝(魂)を取ってくる」という最後の難題を果たさせるため、自らの体を切り刻ませ煮込ませる。試練を終えた若者が娘に指示されたとおりに骨を並べなおすと、娘は甦る。

(日本のお伽草子の「御曹司島巡り」だと、源義経が兵法の巻物を得るために長い航海をして千島へ行く。その島を支配する鬼の大王の娘、あさひ天女は義経に恋をし、彼の手引をして巻物を取得させるが、自分は逃げずに残り、父に八つ裂きにされて義経を逃がす。アルゴー船物語のメディアと比較すると面白い。八つ裂きにされたあさひ天女は甦らない。)

ラプンツェル>>物語を読む

最も有名なタイトルを使ってはみたが、『グリム童話』の「ラプンツェル」はこの話群の中では変形が強く、逃走のモチーフが非常に希薄なので注意してほしい。

ここに集めたのは、「『人食い鬼』に育てられた少女が、『人食い鬼』の意に背き、人間の若者と恋に落ちて共に逃走する」という話である。[魔法使いの娘]に似ているが、娘はあくまで人間であって「人食い鬼」との血縁は無いとされる。また、訪ねて行く若者が主人公なのではなく、冥界の塔に住んでいる娘に物語の視点があるのが基本だ。

 

  1. 親が娘を神(人食い女)に捧げる
    1. 冥界の富(果実/野菜/水)と引き換えに(神の領域を荒らした罰として)
    2. 名付け親にする約束を破った、名付け親になってもらった代わりに
    3. 預言によって
    4. 継母が継子を厄介払いするために
  2. (約束の時が来ると、「人食い女」は娘を引き渡すよう要求する)
    • 毎日、娘に「お前の母親に約束のものを渡すようにお言い」と言う。しかし娘はいつも伝言を忘れ、しまいに「人食い女」は娘が忘れないよう腕に噛み跡をつけたり耳たぶを切ったりする
    • 娘が母親に「人食い女」の伝言を伝えると、母親は(a.諦めて b.もう約束を忘れていて)「勝手に持って行けとお言い」と答えてしまう。娘がそれを「人食い女」に伝えると、そのまま髪を掴まれて魔女の家へ連れ去られる
  3. 「人食い女」は娘を自分の家に引き取る。冥界での転生
    1. 娘に自分の霊的知識を伝授する
      • 娘は高い塔に閉じ込められている
        ※そこでの暮らしが素晴らしかったので、娘は現界の親のことは忘れてしまう
    2. いずれ自分の身内の嫁にしようとしている
      1. 娘は他の「人食い鬼」から隠されて育てられている
      2. 娘は高い塔に閉じ込められている
  4. 娘は訪ねてきた人間の若者と恋に落ちる
    • 娘は長い髪を塔から垂らし、若者はそれを伝って登る
    • 娘は若者を「人食い女」から匿う
      • 魔法で若者を家具や針や帽子などに変身させて誤魔化す。しかしどうやら魔女は薄々勘付いていて、若者が変身した足台に足を乗せたり、針を爪楊枝代わりにして歯をほじったり、何日も帽子を被って歩き回ったりして嫌がらせするのである。--> 「天稚彦の草子
    • (オウム/小犬)が若者の来訪を告げ口するが、娘は誤魔化す
  5. 呪的逃走。娘と若者は逃げ出す
  6. 結末。現界での転生
    1. 娘は逃げ延び、若者と添い遂げる ※こちらが基本
    2. 娘と若者は死に、再生して結ばれる
      ※若者が娘を忘れる、娘が獣や醜い姿に変えられる、若者が盲目になる、追放されて荒野をさまようなど、「死」を暗示する描写が入り、その後に、回復するどんでん返しとめでたい結婚が語られる。脚色は実に様々で他の物語のモチーフが長々と入ることもあり、具体例は挙げづらい。個人的に、フランスに伝わるものにこの展開が多いように感じる。 --> 「ラプンツェル」「ペルシエット」「白猫」「金の髪と小さな蛙

さらわれた娘B>>物語を読む

「人食い鬼」にさらわれて妻にされた娘を奪還する話。「人食い鬼」から逃れる逃走エピソードが物語の主核になっている。

さらわれた娘A]で娘を救いに行くのは求婚者や夫であるのに対し、娘を救出に行くのは娘の親もしくは弟とされるのが基本。

 

誰の助けも借りずに娘が自力で逃走する場合もある。--> 「マオリ族の伝承」「豆投げの由来

「人食い鬼」との間に生まれた息子の助けで共に逃走する場合もある。--> [熊の子ジャン

青髭C 悪夢のような逃走>>物語を読む

娘が裕福な夫と正式に結婚するが、その後で実は人食い鬼(殺人鬼、盗賊)だったと知り、逃走する。

青髭】話群のうち、夫から逃走するエピソードが物語の主核になっているもの。

参考・怖い人食いの話

これまで挙げてきた例話に比べ、もっと単純で原型的なものを参考紹介する。

人さらい>>物語を読む

ある日、ばったりと「人食い鬼」に出会う。「人食い鬼」は主人公をヒョイと袋に入れ、担いで家に運んで行って食おうとする。その危機から命からがら逃げ出す話。

>>参考 <冥王は魂をさらう

なお、「人食い鬼」と出会う場面か「人食い鬼」から逃げる場面かのどちらかに、「主人公は高い木の上に隠れ、木の下で人食いが見上げている」という状況が現れることがしばしばある。何か根源的なイメージがあるのだと思われる。

>>参考 <赤ずきんちゃんのあれこれ〜木の上の悪童と木の下の人食い><枝にとまる魂

食わず女房>>物語を読む

「人食い鬼」の頭の上にもう一つ口がある話。

一つ目巨人>>物語を読む

多くの伝承で、冥界に潜む「人食い鬼」は一つ目、もしくは視力が弱いことになっている。その特徴がよく分かる話を集めた。

参考・優しい人食い鬼の話

これらは【童子と人食い鬼】に属するとは言いがたいが、部分的に共通する要素が多いため、参考紹介する。

継子と山姥

シンデレラ系の話群で見受けられるものである。

虐待された継子が森や山をさまよい、「人食い鬼」の家に宿を求める。その母または妻である山姥はa.主人公をテストする b.主人公をかくまう)。

※その後、山姥の息子または夫である「人食い鬼」に追われて呪的逃走するモチーフが入る場合もある。

山姥は主人公に(呪宝/美しさ)を授け、主人公はそれを用いて幸せな結婚をする。

>>参考 「米福粟福」「花世の姫」「バヴァン・プティとバヴァン・メラー

三本の金の髪の毛

主人公は運命に導かれて姫君と結婚するが、王はそれが気に入らず主人公に難題を課す。そのため、主人公は「三本の金の髪の毛のある魔物」のもとへ行き、その金の髪を取ってこなければならなくなる。

三本の金の髪の毛を持つ魔物とは太陽神であり、「人食い鬼」である。その母は主人公をかくまい、主人公が知りたがっている霊的知識を息子から聞き出してくれて、「人食い鬼」が眠ると金の髪の毛まで抜いてくれる。

人食い鬼退治をしないので、[継子と山姥]に近いだろう。

 

>>参考 「金の髪の毛が三本ある鬼

童子と人食い鬼のあれこれ>>文章を読む

童子と人食い鬼に関する雑学あるいは考察?



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