日本五大昔話の一つ。日本人でこの物語を知らない人はいないだろう。

「爺に捕らえられて狸汁にされかけた狸が、逆に婆を殺して逃走する」という前半部と、「ウサギが狸に復讐をする」という後半部に分けられる。本来は違う物語だったのを結合したのだろうと言われており、実際、後半だけが独立して伝承されていることも多く、後半部の類話は韓国、中国、東南アジアに広く見られる。

一方、前半部は[賢いモリー]や[親指小僧・童子と人食い鬼型]系の話を、主人公と敵の立場を逆転して語っているものと思われる。

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まずは基本。日本で一般的に知られる「カチカチ山」を紹介。

カチカチ山A型 (カチカチ山C型前半)
  1. 爺が畑を世話していると狸が来て悪戯をする
    1. 爺が祝福の言葉を唱えながら種を蒔くと、狸は呪いの言葉を唱える
  2. 爺は狸がいつも座る岩に(トリモチ/松脂)を塗っておき、くっついた狸を捕らえる
  3. 爺は狸を家に持ち帰って、婆に調理するよう言いつけて出かける。
    狸は「代わりに米を搗いてやる」などと言って縄を解かせ、婆を杵で殴り殺す。
    婆を調理し、婆に変装して「狸汁だ」と爺に食わせる。正体を現して嘲りながら逃げ去る
    >>参考 「小さい男と魔物のマンギ」「人食い女
(幕間)
  1. 爺の悲嘆。ウサギが仇討ちを引き受ける
カチカチ山B型 (カチカチ山C型後半)
  1. ウサギが狸をあの手この手でいたぶる。苦情を言われると「別のウサギだ」としらをきる
    1. 狸を萱刈りに誘い、帰り道でもう歩けないと言って、二人分の荷物もウサギ自身も狸に背負わせる。更に背負った萱に火打石でカチカチと火をつけ、狸が怪しむと「カチカチ鳥の声だ」と誤魔化す。狸は大火傷を負う -->【牛方山姥
    2. 遊びだと言って狸の手足を縛って山の上から転がり落とし、大怪我を負わせる
    3. 傷に効く薬だと言って(トウガラシ/カラシ/蓼味噌)を与える。狸はそれを塗ってひどいダメージを受ける
    4. ご飯を食べなくてもいい体にしてやると言って、狸の肛門を塞ぐ。狸は大便が出来なくなって七転八倒する
    5. 共に舟に乗るが、狸の船は泥船だったので(ウサギが竿で泥船を叩いて壊したので)、沈没して狸は溺れ死んだ
カチカチ山D型 (カチカチ山B型付属)
  1. ウサギは狸の死骸を、子供が留守番をしている人家に持っていき、図々しく狸汁を作って食べる。
    ウサギがわざといいところを残さなかったので、帰ってきた大人は腹を立て、ウサギを捕らえる
    1. 大人は子供に包丁を持って来させようとするが、子供はトンチンカンな間違いばかりする。大人が自分で包丁を取りに行った間に、ウサギは子供を騙してまんまと逃げだす。
    2. ウサギは満腹して眠っていたところを、大人に叩き殺された -->「狼と七匹の子ヤギ」「赤ずきんちゃん
  2. 大人が投げた包丁が当たって、これ以降ウサギの尾は無くなった

 

関敬吾は、カチカチ山をAからDまでの四つに分けて分析した。

A型は独立した形でも全国的に語られている。B型の独立したものはA型に比べれば採取例が少なめだが、東日本を中心に分布する。これには変種として狸退治後の追加エピソードが加わったD型もある。そしてA型とB型を幕間でつなげた形のものをC型とし、これが日本で最も数多く語られている、一般的な「カチカチ山」である。

なお、D型の独立したものとして[雉と狐の寄合酒]を挙げ、E型と呼んでいる。狐や雉が酒盛りしていたところにウサギが来たので、狐はウサギを捕らえて料理して食べようとする。しかし雉に包丁を取りに行かせるとトンチンカンな間違いばかりする。狐が自分で包丁を取りに行った間に、ウサギは雉を騙して逃げだす。狐は包丁を投げ、尾に当たって、これ以来ウサギの尾は短くなった。

 

柳田國男は「カチカチ山」を三つの話に分け、前半(第一話、二話)の狸が残忍で狡猾なのに対し、後半(第三話)ではウサギにた易く騙され手玉に取られてしまうのは奇妙であると論じて、三つの話は元々別の物語であり、特に第三話は、後に結合されたものだろうと推論した。

事実、後半部(B型+D型)のみが独立した類話は、中国や韓国、東南アジアなどに広く分布している。これにA型も合わさったC型…日本の一般的カチカチ山…の類話は、海外では見受けられないようだ。

 ただ、一世紀前にチベットのギャンツェでアイルランド人のオコナーが蒐集した民話の中に、構造的には同型のものがある。牡山羊と牝羊が狼を洞穴に追い詰め、角を研いで料理すると嚇して狼を怯えさせる。しかし牡山羊が留守にした隙に洞穴から狼が出てきて牝羊を食い殺してしまった。牡山羊は悲しみ、その願いを受けてウサギと狐が協力して知恵を働かせ、狼に仇討ちしたという。

 狼が洞穴に追い込まれているが、日本の「カチカチ山」の類話中にも、爺が狸を穴に追い込んで捕まえたという導入を語るものがある。

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中国、朝鮮半島(韓半島)、東南アジア、インド、アフリカ、南米等に広く分布しているもので、カチカチ山B、D、E型に相当する。類似の動物譚は西欧にも見える。

(小さくて非力だが)賢い獣が、(大きくて強いが)愚鈍な獣をあの手この手でいたぶって、もしくは出し抜いて、やりこめてしまう。

いたぶる方法は多数あり、組み合わせは雑多で統一性はない。

コミカルで痛快なのだが、現代では「残酷」と評されることが多いようだ。

  1. 前段。無いこともある
    1. 主人公は仲間を殺されたので仇討ちを誓う
    2. 主人公は食料を独り占めするために対抗者を騙す
  2. 主人公(ウサギ/蛙/青鷺)が、対抗者(虎/熊/狼/猿)をあの手この手でいたぶる。苦情を言われると「人違いだ」としらをきる。
    1. 対抗者を(草刈り/薪取り)に誘い、帰り道でもう歩けないと言って、二人分の荷物も主人公自身も対抗者に背負わせる。負荷に放火したので対抗者は大火傷を負う。(このために虎の体には縞模様が出来た)
    2. 対抗者と共に(刈ってきた草/伐ってきた材木)で小屋を作る。主人公は対抗者を小屋に入れ、外から放火する。(このために虎の体には縞模様が出来た)
    3. 大きな蜂の巣を(太鼓/銅鑼/ひょうたん)と偽って叩かせ、対抗者は蜂の群れに刺されてひどい目に遭う
    4. 晴れ着だと言って(綺麗な帯/衣装箱)を見せる。羨ましがった対抗者に貸してやるが、実は(帯ではなく蛇だったので/衣装箱ではなく貝だったので)、対抗者は(蛇に噛まれる/閉じた貝に首を切り落とされる)
    5. 氷の張った川の上に座って「釣りをしている」と言う。対抗者は真似をして尾を凍りつかせ、引きちぎってしまう。(これ以来、猿の尾は短くなり顔と尻が赤くなった -->【尻尾の釣り】)
    6. 強くなる方法だと偽って、対抗者を容器に入れて山の上から転がり落とす
    7. 傷に効く薬だと偽ってトウガラシの薬を与える
    8. 主人公は穴に落ちて出られなくなるが、「間もなく天が落ちてくる」と騙して敵対者を穴に誘い込み、それを利用して脱出する。
      (主人公は罠に捕らえられるが、口八丁で対抗者(もしくは第三者)と自分の立場を入れ替える)
    9. すぐに沈むものに乗せて水を渡らせる。対抗者は溺れ死ぬ
  3. 後段。無い場合が殆んど
    • ウサギは(人間/ワニ)に捕まって食い殺されそうになるが、奸智を用いて逃げ去る -->日本神話「因幡の白うさぎ

 

なお、ディズニーランド系列のアトラクション、スプラッシュ・マウンテンのストーリーである『南部の唄』の原作「うさぎどんときつねどん」(『リーマスじいやの物語』/ジョーエル・チャンドラー・ハリス著/黒人のリーマスじいやが語る小説中の挿話というスタイルのアメリカ南部民話)も、この話群に属するかと思われる。

 

ほぼ同じモチーフが使われていても完成した物語の雰囲気やテーマは異なり、大まかに二つのタイプがあるように思える。

  1. 主人公が利己的な理由でトコトン対抗者をいたぶる、または狙って来る対抗者の手からギリギリで逃れる様子をただただ楽しむ話。
    大義名分などはない。アニメ『トムとジェリー』のような感じ。
    雰囲気としては「魔女カルトとチルビク」「クワシ・ギナモア童子」のような【童子と人食い鬼】系の民話に近い。
  2. 仇討ちや自分の身を守るためなど、主人公に正当な理由が与えられている。完全な悪者である対抗者を、主人公が知恵を用いて倒す、勧善懲悪の物語。日本の「カチカチ山」はこのタイプに属する


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