昔、お爺さんとお婆さんがおりましてなあ、お爺さんは山へ柴刈りに行きます。お婆さんは川へ洗濯に行きました。そしたら、大きい桃がドンブリドンブリと流れてきて、
「まあこりゃあ珍しい桃じゃなあ。こりゃあ、拾うて
「お爺さん、まぁこの桃ぅ見てつかあさい。こういう桃が川上から流れてきた」
「はあ、珍しい大けな桃じゃなあ。そんなら切ろう」
言うて切りかけたら、「痛い」言う。また切りかけたら「痛い」言うて、そん中から小さい子供が出てきた。そいでお爺さんが
「こりゃあ、桃から出てきたけん、桃太郎いう名をつけよう」言うて、そいからまあ、お爺さんとお婆さんと二人で大きょうしようりなったん。
そうしたところが、お婆さんが唐黍ゅう挽いて団子をして食べさせたら、
「お婆さん、こりゃあ美味しいなあ」と桃太郎さんが言うて、
「お婆さん、こりょうお餅に作っておくれぇ。鬼が島へ
「ふんそうか。そんならしてあげる」言うてして、そいからお婆さんが ゆたん(風呂敷)へ包んで腰ぃ結わえつけて、「そんなら行っておいきぃ」言うて、そして行きょうりましたら、そこへ牛ぐそが出てきて、
「桃太郎さん、どちらへお越しでござんすりゃあ」
「鬼が島へ鬼退治に行きょうる」
「そうですか。そのお腰のもなぁ何でござんすりゃあ」
「こりゃあ日本一のきび団子」
「そうですか。そりょう一つくだされえ、お供をいたしますらぁ」言うた。
「そりゃあ、そんならあげよう」言うて、そがんしょうったら また今度ぁひき臼が出てきて、
「桃太郎さん、どちらへお越しでござんすりゃあ」
「鬼が島へ鬼退治に行きょうる」
「そうですか。そのお腰のもなぁ何でござんすりゃあ」
「こりゃあ日本一のきび団子」
「そうですか。そりょう一つくだされえ、お供をいたしますらぁ」言うた。ほんなら言うて一つあげて、また そねにしょうったら、今度ぁ、鉄砲玉が出てきて、
「桃太郎さん、どちらへお越しでござんすりゃあ」
「鬼が島へ鬼退治に行きょうる」
「そうですか。そのお腰のもなぁ何でござんすりゃあ」
「こりゃあ日本一のきび団子」
「そうですか。そりょう一つくだされえ、お供をいたしますらぁ」言うた。そいから今度ぁまた
「桃太郎さん、どちらへお越しでござんすりゃあ」
「鬼が島へ鬼退治に行きょうる」
「そうですか。そのお腰のもなぁ何でござんすりゃあ」
「こりゃあ日本一のきび団子」
「そうですか。そりょう一つくだされえ、お供をいたしますらぁ」言うて、そねぇしょうりましたら、今度ぁ蜂が出てきて、またそうように尋ねまして、
「桃太郎さん、どちらへお越しでござんすりゃあ」
「鬼が島へ鬼退治に行きょうる」
「そうですか。そのお腰のもなぁ何でござんすりゃあ」
「こりゃあ日本一のきび団子」
「そうですか。そりょう一つくだされえ、お供をいたしますらぁ」言うてもろうて、そいでまあ、ひき臼と牛ぐそと、蜂に蟹に鉄砲玉と、こう五人出て、お弁当を「美味しい、美味しい」言うて食べて、そいから、「鬼が島はどこならな」言うて鬼の家に行たところが、お婆さんがそこにおって、
「お婆さん、鬼はどこへ行っとりますりゃあ」言うたら、「鬼ゃあ寒いから、山ぁ(山仕事)しに行っとる」言うた。
「ああそうかな。そんならみんな隠れとろう」言うて、
「牛ぐそは敷居の陰へ隠れ、臼は敷居の上の二階へ隠れとれぇ。蟹ゃあ ぬかみその中へ入っとれぇ。蜂は水がめの中へ入っとれぇ。そいから、鉄砲玉はくど(かまど)の中へ入っとれぇ」
そうしょうったら、「ああ、寒い寒い」言うて鬼が帰ってきて、「まあ寒いから、お茶でも焚いて飲もうか」言うて、水がめの蓋を取ったら、蜂が出てブンブン目の方を刺した。
「こりゃあまあ何事だろうか。こねぇなもんが来てから」言うて、「まあ ひとくべ お茶ぁ焚いて飲んで」思うたら、鉄砲玉がドーンと出て、目をくりぬいた。
「こりゃ何事なら。隣のお婆さん、早う来ておくれえ」言うて、まあ ぬかみそでも
「まあこりゃあ、ええ具合に死んでしもうたわい。まあそんなら、倉ぁ開けてやろう。宝もんがあろうかもしれん」
言うて倉ぁ開けたら、宝もんがいっぱいいっぱいあって、そいからそりょう、みんな五人して車ぃ積んで荷物をして、みんな、
「桃太郎さんのお手柄もん、桃太郎さんのお手柄もん」
言うて、ようけぃ(沢山)持って戻りょうった。そいたらお爺さんやお婆さんが出てみて迎いに出た。
「ああ桃太郎、帰ったかなぁ」言うて、
「お爺さんお婆さん、これを見てつかあさい。宝もんがこうように倉へ入れてありましたぜ」
宝もんを取て戻って、そいでまあ ひとむかし。
参考文献
『日本の民話(全十二巻)』 株式会社ぎょうせい
※このタイプの桃太郎は、中国地方を中心にかなりの数が伝承されているという話なのだが、基本型や寝太郎型に比べて軽視される傾向にあるようで、一般の民話集ではあまり見かけない。
この話では、桃太郎が「鬼が島へ
ついでに、鬼を殺した後、仲間達が「桃太郎さんのお手柄もん、桃太郎さんのお手柄もん」と言いながら宝物を車に積んで運ぶが、桃太郎は何もしてないんだがなぁ……。しかし作戦を立てて指示したのは桃太郎らしいので、この桃太郎は武将タイプではなく参謀タイプで、人を使うことで手柄を立てたということなのだろう。
昔々のこと。お婆さんが川に洗濯にいくと、上流からプカプカと桃が流れて来ました。拾って食べたら甘いので、「もう一つ来ーい」と唱えますと、本当にもう一つ流れて来ます。それを拾って、持って帰って戸棚にしまっておきました。そのうちにお爺さんが山から帰ってきましたので、一緒に食べようと思って戸棚を開けると、なんと、桃が割れて子供が生まれています。お爺さんとお婆さんは驚いて、でも子供がなかったので喜んで、桃太郎という名前をつけて可愛がりました。
さて、桃太郎は大きくなると、お婆さんに黍団子を拵えてもらって鬼退治に出かけました。途中でムクロジ(直径2cmほどの果実。昔は石鹸代わりに使われた。種は羽つきのシャトルに使う)に会いました。
「桃太郎さん、どこへ行く」
「俺は鬼退治に行く」
「そんならその黍団子を一つおくれ。助太刀しよう」
ムクロジは団子をもらって後に付いてきました。それから、二人は針に会いました。
「桃太郎さん、どこへ行く」
「俺は鬼退治に行く」
「そんならその黍団子を一つおくれ。助太刀しよう」
針は団子をもらって後に付いてきました。それから、三人はムカデに会いました。
「桃太郎さん、どこへ行く」
「俺は鬼退治に行く」
「そんならその黍団子を一つおくれ。助太刀しよう」
ムカデは団子をもらって後に付いてきました。それから、四人は馬糞に会いました。
「桃太郎さん、どこへ行く」
「俺は鬼退治に行く」
「そんならその黍団子を一つおくれ。助太刀しよう」
馬糞は団子をもらって後に付いてきました。それから、五人は石臼に会いました。
「桃太郎さん、どこへ行く」
「俺は鬼退治に行く」
「そんならその黍団子を一つおくれ。助太刀しよう」
石臼は団子をもらって後に付いてきました。それから、みんなは鬼の家に着いて、素早く家のあちこちに隠れました。
やがて鬼が帰ってきて、ああ寒い寒いと囲炉裏の火に当たりました。途端に、ムクロジが弾けてパチンと鬼に当たったものですから、ビックリ仰天。ストンと尻餅をつくと、お尻にぶすっと針が刺さります。「痛い、痛い」と水桶に行くと、ムカデがザワザワと出てきてチクリ。「痛い、痛い」と走って逃げようとして、戸口でずるりと馬糞に滑りました。そこへドーンと上から石臼が降ってきて、鬼はぐちゃっと潰れて死んでしまいました。
桃太郎は鬼の宝物を取って帰り、お爺さんとお婆さんに一生楽な暮らしをさせたということです。これでおしまい。
参考文献
『日本昔話集成(全六巻)』 関敬吾著 角川書店 1950-
※これは、概略が載せられていたのを自分なりに開いて書き下したものである。
以下、類話の幾つかを簡単に記す。
東京都 北多摩郡小金井村
婆が川で桃を拾って帰り戸棚に入れる。山から帰った爺と割ると子供が出る。その子は尾籠に日本一の黍団子を入れて鬼ヶ島へ宝探しに行き、途中で蟹、立臼、糞、蜂、卵、水桶が黍団子をもらって家来になる。チームプレイで鬼を退治し、宝物を持って帰って爺婆を喜ばせる。(※「鬼退治」ではなく「宝探し」に行ったと明言されているのが興味深い。)
参考文献
『日本昔話集成(全六巻)』 関敬吾著 角川書店 1950-
広島県
発端は一般の桃太郎。鬼ヶ島征伐に出かけ、唐黍団子をもらって臼、栗、蟹が参加する。栗はかまどの中、蟹はどんぶり桶の中、臼は勝手口の上に隠れて、鬼を退治して宝物を取り、爺婆のところに帰る。
参考文献
『日本昔話集成(全六巻)』 関敬吾著 角川書店 1950-