こんび太郎  日本 岩手県

 昔、あるところに途方もなく無精者の爺と婆があった。どのくらい不精かというと、体も洗わないので、年がら年中 垢だらけになっていたほどだった。

 二人の間には未だに子供がなかったが、

「どうせこの歳になっては子供が出来るわけもねぇ、オラたちのこんびでも集めて、人形でもこさえてみるべ」

と、身体中の垢を集めてみると、その出ること出ること。きのこみたいに寄り集まって、垢がポロポロと落ちてきた。それで子供の形の人形を作って、名もこんび太郎と名付けた。すると、不思議にも人形は普通の子供みたいに命を得て動き始めた。爺と婆は喜んで、せっせと飯を食わせて養った。

 この子は なんとも大食いで、一升米食わせれば一升だけ、一斗米食わせれば一斗だけ、づんがづんがと大きくなる。そのうち、一度に片馬飯(三斗五升)ペロリと食うようになった。

 貧乏たれな爺婆は たちまち困り果てた。一食で片馬飯食われるようでは、なんぼなんでもやりきれねぇ。そうこぼすと、こんび太郎は

「爺な爺な、心配しなさんな。オラは武者修行の旅に出るから、百貫目(約375kg)の金棒コ一つ作ってけろ」

と言った。爺はたまげて「百貫目の金棒コで何するんじゃ」と尋ねると、「何、杖コの代わりにするんス」と言う。爺も仕方がないから、なけなしの財布をはたいて、鍛冶屋どのに百貫目の金棒を拵えてもらった。こんび太郎はそれを貰うと、片手でブンブン振り回しながら、喜び勇んで修行の旅に出かけていった。

 

 行くが行くが行って、街道をぢゃんがぢゃんがと歩いていくと、向こうから大きな赤い御堂を、ギシギシ ギシギシと背負ってくる大男に行き会った。こんび太郎が金棒でチョイとつつくと、赤い御堂は木っ端微塵に壊れてしまった。御堂を背負っていた大男は怒って、

「やいやい、この俺様を誰だと思う。天下一の力持ち、御堂コ太郎ってのは俺のことだぞ! その金棒を一捻りしてやるべ」

と、こんび太郎に飛び掛ってきた。こんび太郎も「歯ごたえがありそうだ」とばかり、金棒に掴まってきた御堂コ太郎をば、ブン、と一振りで空に投げ上げてしまった。もう落ちてくるか落ちてくるかと待っていたが、サッパリ落ちてこない。そのうち「助けてくれぇ、助けてくれぇ」と空の方で泣き声がするので、上を見ると、街道の松の木の枝に引っかかってジタバタしていた。

「どうだ、恐れ入ったか」

 こんび太郎はその松の木を根っ子ごと引っこ抜いて、御堂コ太郎を助けてやった。

「こりゃとても敵わねぇ。このうえは、どうか俺を家来にしてくれぇ!」

 こうして、御堂コ太郎が一の家来になった。

 それから、峠の石切場まで進んでいくと、一人の大男が手のひらで石をガギン、ガギンと研いでいた。その大きな石がこんび太郎の方に飛んできたので、ぶーっ、と口で息を吹きかけると、さかさまに石が飛んでいって、ごきんとその男の額にぶち当たった。もう怒ったのなんのって。

「誰だぁ、天下一の石コ太郎に、こともあろうに石ぶつけた奴ぁ!」

 そう怒鳴って、真っ赤になって向かってきた。

「いや、天下一ばかりよくよくあるもんだな」

 こんび太郎は肩をすくめて、御堂コ太郎に「お前、勝負してみろや」と言った。かしこまったとばかり、御堂コ太郎は石コ太郎と うんすらうんすら揉み合ったが、なかなか勝負がつきそうもない。

「そんなら俺が出る。御堂コ太郎、あっちに退け」

 こんび太郎が御堂コ太郎と代わって、石コ太郎の首をちょんと掴んでブンブン振り回すと、石コ太郎はぽーーんと飛んで、石切山の石屑の中に、ズボッと首まで埋まってしまった。

「こりゃとても敵わねぇ。このうえは、どうか俺を家来にしてくれぇ!」

 こうしてまた、石コ太郎が家来になった。

 

 こんび太郎が二人を引き連れて行くが行くと、城下町に出た。ところがこの町ときたら不思議なもので、昼間だというのにどの家もどの家も戸をぎっちりと閉めて人の影すらない。町一番の長者らしい館の前に来ると、美しい娘が一人でしくしくと泣いていた。

あねコ娘コ、何で泣いてるんじゃ」

「何でもかんでも。おっかねぇ化け物が近くから出てきて、月の朔日ついたちになると、一人ずつ町の女子おなごを取っていきます。今日は私の番なので、それで泣いているのです」

「そんならば、オラたち三人で化け物を退治してやるべ」

 こんび太郎は娘に案内させてその館に入ると、家の人たちに指示して娘を唐櫃の中に忍ばせ、「御堂コ太郎は庭にいろ」、「石コ太郎は戸口にいろ」と命じて、自分は座敷の唐櫃の前にじゃかんと腰を下ろして、化け物の出てくるのを今か今かと待っていた。

 待つうちに夜中になると、

オラの嫁御ぁいるか。逃げたら焼いて食っちまうぞぉ!

と、大声を立てながら化け物がやって来た。まるで割れ鐘のような声で、背の高さといえば、この屋敷の屋根も突き抜けるほどであった。

 まず庭で御堂コ太郎とやり合っていたが、見ている間にげろっと呑まれてしまった。次に戸口の石コ太郎が掛かっていったが、指の先でちょいと掴み上げられると、またげろりと呑まれてしまった。

 一の家来 二の家来までも呑まれてしまった こんび太郎は怒って、百貫目の金棒をぶんぐるぶんぐると回すと、

「よし、それじゃオラが相手だ!」

と、化け物に掛かっていった。化け物は暫くあしらってから金棒を掴むと、真ん中から捻り曲げてしまった。

「そんなら、取っ組み合いの勝負じゃ」

 こんび太郎は金棒を投げ捨てると、えんさえんさと揉み合った。これもまた勝負がつき難くて、ともすればこんび太郎の方が危なっかしかった。これじゃあどうにもならねぇ。こんび太郎は最後の手段とばかり、化け物の四斗樽ほどもある大金玉ふぐりを"ぐわん"と足で蹴飛ばした。

 流石の怪物も、急所をやられてはたまらない。右の鼻から御堂コ太郎、左の鼻から石コ太郎を吹き出すと、そのままくたりと伸びて死んでしまった。

 化け物がくたばったのを見て、家の人達がゾロゾロと出てきた。長者は手を合わせて頭を下げて喜んで、

「おかげで、娘もオラたちも助かりました。お礼には何をしたらよかべぇ」

と言う。こんび太郎は、

「お礼などいらんから、麻を煮る五斗釜いっぱいに飯を炊いてくれぇ」

と頼んで炊かせると、三人でペロッと食べてしまった。長者は ますます感心してこう言った。

「なんたら欲のねぇ人たちだべ。欲のねぇところが気に入った。どうかオラとこの娘達の婿になってくんなせ」

 こうして、こんび太郎は助けてやった一番娘の、あとの二人は二番娘、三晩娘それぞれの婿になり、こんび太郎の里の爺婆まで引き取って、一生安楽に暮らしたとさ。どんどはれ。



参考文献
『日本昔話集成(全六巻)』 関敬吾著 角川書店 1950-

※「力太郎」のタイトルで知られる話。

 ところで、子供のころ愛読していた絵本『力太郎』では、御堂コ太郎の肌は真緑色に塗られていて怖かった。子供心に、なんという異様な体色の人であろうと思っていたが、今思えば"みどう"と"みどり"を掛けたシャレだったのネ。



雉の子太郎  『いきがポーンとさけた』 著:水沢謙一 日本 新潟県十日町市

 あったてんがな。

 あるところに、爺さと婆さがあった。爺さが山へ柴刈りに行って、雉の卵三つ見つけたんだんが、着物綿にくるんで家へ持ってきた。ほうして婆さに見せて、火(囲炉裏)の傍に並べておいたれば、その卵が一つ、ピチャンと言うて潰れた。また一つ、ピチャンと言うて潰れた。三つ目の卵は、ハッチンと、たいそうでっかい音で潰れたれば、中から男の子が生まれてきた。子持たずの爺さと婆さは、ばかに喜んで、お湯をつかわせるやら大騒ぎした。

 ほうして、雉の子太郎という名を付けて大事に育てた。雉の子太郎はドンドンでっかくなって、ある日、鬼ヶ島へ宝物取りに行くとて、黍団子をこさえてもろうて、腰にぶら下げて出かけた。

 その道で、でっかい岩に腰掛けて休んでいたれば、その岩がサックリと二つに割れて、中から大男が出てきた。

「雉の子太郎、どこへ行ぐ」

「鬼ヶ島へ鬼征伐に」

「腰のものは何だ」

「日本一の黍団子。一つ食えば千人力、二つ食えば万人力」

「一つ、下され。お供申そう」

 ほうして、その大男は雉の子太郎のお供となって、岩の子太郎と名を付けた。

 それから、岩の子太郎を連れて行き、でっかい石の上に腰掛けて休んでいたれば、また、その石がサックリと二つに割れて、中から大男が出てきた。

「雉の子太郎、どこへ行ぐ」

「鬼ヶ島へ鬼征伐に」

「腰のものは何だ」

「日本一の黍団子。一つ食えば千人力、二つ食えば万人力」

「一つ、下され。お供申そう」

 ほうして、その大男は雉の子太郎のお供となって、石の子太郎と名を付けた。

 それから、雉の子太郎は、岩の子太郎と石の子太郎を連れて行き、今度は、よし野に休んでいたれば、葦野がサックリと二つに割れて、中から大男が出てきた。

「雉の子太郎、どこへ行ぐ」

「鬼ヶ島へ鬼征伐に」

「腰のものは何だ」

「日本一の黍団子。一つ食えば千人力、二つ食えば万人力」

「一つ、下され。お供申そう」

 ほうして、その大男もお供になって、よしの子太郎と名を付けた。

 雉の子太郎は、岩の子太郎、石の子太郎、葦の子太郎の三人を連れて、いよいよ鬼ヶ島へ行った。ほうしたら、鬼の子供が遊んでいて、

「いいさかなが来た」

と言うて、みんな門の中へ入った。門は、くろがねの門で、岩の子太郎と石の子太郎と葦の子太郎と三人で開けようとするども、開けることがならん。けれども、雉の子太郎が足で蹴ったらスッと開いた。ほうして、四人で鬼どもを片っ端から投げ飛ばしたれば、鬼の大将も

「どうか、命だけは助けてくれ」

と謝って、大判小判、隠れ蓑、隠れ笠、打ち出の小槌を出した。

 雉の子太郎はその金と宝物を持って、岩の子太郎、石の子太郎、葦の子太郎と一緒に帰ってきた。ほうして、葦の子太郎は、葦野のとこまで来ると、

「さらば、さらば」

と言うて、葦野にえてしもた。石の子太郎も、大石のとこまで来ると、

「さらば、さらば」

と言うて、大石の中へ消えてしもた。岩の子太郎も、大岩のとこまで来ると、

「さらば、さらば」

と言うて、大岩の中へ消えてしもた。

 ほうして、雉の子太郎は鬼退治して家へ帰って、一生安楽に暮らした。

 いきがポーンとさけた、なべのしたガラガラ。



参考文献
『新・桃太郎の誕生 日本の「桃ノ子太郎」たち』 野村純一著 吉川弘文館 2000.

※「こんび太郎」と「桃太郎」がちょうどミックスしたような話である。最後に、三人の仲間たちが「さらば、さらば」と消えていくのがもの儚げで神秘的な印象を与える。彼らは雉の子太郎を救うためだけに現れた、神の使いのようである。石や割れた大地の中から現れる点も、冥界との関わりを思わせて興味深い。

 なお、三つの鳥の卵のうち二つが潰れ、最後の一つから「誕生」するというのは、たとえばジプシーの「三つの卵」やドイツの「たまご姫」でも見られるモチーフである。[三つの愛のオレンジ]でも同様に、三つの果実のうち二つは死んでしまい、最後の一つから美しい乙女が誕生する。してみると、卵と果実は入れ替え可能のものであり、「三つの雉の卵」は「三つの桃」に入れ替えても、観念的には問題ないはずである。

 ちなみに、結句の「いきがポーンとさけた」は、本来は「息が裂けた」のではなく、「一期いちご栄えた(一生幸せに暮らしました)」→「いちごさけた」→「いきがさけた」と変化したものである。

桃内小太郎  日本 秋田県

 川に赤い箱と白い箱が流れてくる。婆が赤い箱を拾って明神様に供えておくと、箱の中の桃から赤ん坊が生まれている。桃内小太郎と名付ける。竹から生まれた竹なり子、あしなり子を連れて鬼ヶ島征伐に行く。二人の仲間は鬼に呑まれるが、桃内小太郎が鬼を倒す。小太郎は鬼に二人を吐き出させ、その後で鬼の首を取った。帰り道で、葭なり子は「俺は実は不動様だ」、竹なり子は「俺は実は産土神だ」と言って消え去る。小太郎は家に帰って両親を喜ばせた。(宝物については語られていない。)


参考文献
『日本昔話集成(全六巻)』 関敬吾著 角川書店 1950-



参考--> 「桃太郎と鬼の牙



四巨人  朝鮮

 昔、北の国に飢饉が起こって沢山の人が死んだ。あるきこりの妻も死んでしまった。二人には子供がなかったので、後に残された樵は、せめて子供があれば……と、そればかり言いながら寂しく暮らしていた。

 ある朝のこと、赤ん坊の泣く声で目を覚ますと、天地も震える轟音がトイレの辺りに鳴り響いた。不思議に思って行ってみると、玉のような男の赤ん坊がいる。さっきの轟音はこの子のおならの音だったのだ。樵はこの子をチャングィショエと名付け、育てることにした。

 チャングィショエを乳の出る人に預けたが、乳を少しも飲まない。試しに飯を与えるとモリモリ食べて、たったの二ヶ月で子牛のように大きくなり、一人前に喋るようになった。

 ある日のこと、父が山へ行こうとすると、「オラも薪取りに行くから、でっかい背負子チゲを作っておくれ」と言う。父は(まだ子供のくせに一人前のことを言って)とおかしく思って、そこらにあったとうもろこしの茎で、おもちゃのようなチゲを作ってやった。

「こんなの、駄目だよ」

 チャングィショエは片手でそれを握りつぶした。そこで、硬い樫の木でしっかりしたチゲを作ってやった。

「こんなの、駄目だよ」

 それもへし折ってしまう。父は驚いて、町の鍛冶屋に頼んで鉄のチゲを作ってもらった。これは非常に重く、何人もの男に運んできてもらわねばならないほどだった。

「うん、これならいい」

 チャングィショエは鉄のチゲをひょいと背負うと山に行き、山中の木をむしりとって全部担いで帰ってきた。

「おとう、ついでに大きな家を建てようよ」

 そう言うと、チャングィショエは素手で木を切り、板にして、釘を手で打ち込んで、たちまち一軒の家を建ててしまった。

「おとう、ついでに石の門も建てようよ」

 そう言って、その辺の山から大きな岩を持ってきて、手で砕いたり尻で磨いたりし、立派な石の門を作ってしまった。おかげで樵は安楽に暮らせるようになった。

 

 そうこうするうち、他所の国の軍隊がチャングィショエの国に侵略を開始した。噂を聞いたチャングィショエは怒りに震え、父の止めるのも聞かずに敵軍討伐に向かった。

 どんどん山を越えていくと、大木がグラグラ揺れているのを見かけた。木の根元で一人の男がいびきをかいていて、その鼻息で木が揺れているのだ。見ている間に木はバラバラになってしまった。チャングィショエは感心し、寝ている男の鼻をつまんで起こした。男はチャングィショエを眺めて感心した様子で言った。

「ふむふむ、お前のような大男も、まだこの世の中にいたのか。気に入った、兄弟になろう。オラは荒息の大男だ」

「オラはチャングィショエだ」

「お前、これからどこに行く?」

「敵軍討伐に行く」

「面白ぇ、オラも行くど!」

 こうして二人が連れ立って行くと、突然、目の前の山が地響きを立てて崩れ始めた。一人の大男が鉄の熊手で山を崩して平らにしていたのだ。チャングィショエは面白くなって、その男の熊手に座って動きを止めてみた。

「ひゃあ、重てぇ大男だな」。熊手を放り出して、大男は笑い出した。「お前のような大男も、まだこの世の中にいたのか。気に入った、兄弟になろう。オラは鉄熊手の大男だ」

「オラはチャングィショエだ」

「お前、これからどこに行く?」

「敵軍討伐に行く」

「面白ぇ、オラも行くど!」

 こうして三人でどんどん行くと、広々とした平野に出たが、そこにいきなり大川が流れ出した。三人は驚いて丘に駆け上がり、遥か川上を眺めると、なんと、一人の大男が立小便をしている。川は、そいつの小便だったのだ。

 チャングィショエは面白くなって、その大男の首をつかむとポーンと放り上げた。小便が天から滝のように降り注いだ。

「ひゃあ、恐れ入った。お前のような大男も、まだこの世の中にいたのか。気に入った、兄弟になろう。オラは大水小便の大男だ」

「オラはチャングィショエだ」

「お前、これからどこに行く?」

「敵軍討伐に行く」

「面白ぇ、オラも行くど!」

 こうして、四人の大男は戦場になっている都へ向かった。そこは火の海で、男は殺され、女はさらわれ、年寄りや子供は泣き叫んでいる。四人は怒りを新たにし、まずは大水小便の大男が敵軍めがけて立小便をした。敵軍は総崩れして押し流される。次に荒息の大男が息を吐き出すと、ゴーッと冷たい北風が荒れ狂って、海のようだった小便が全て凍りつく。次に鉄熊手の大男が氷の上を熊手で掻くと、氷の上に出ていた敵兵の頭や手足はみんなもげてしまった。

 チャングィショエの出番はなかった。そこで、チャングィショエは辺りの山から木を根こそぎにしてくると、焼け野原に素手で何軒も家を建てて、見る間に町を作ってしまった。鉄熊手の大男は山をならして死んだ人の墓を作り、荒息の大男は血に染まった友軍の旗を拾い集めて、つなぎ合わせて大きな旗にしたものを墓の上に立てた。そして息を吐くと、旗はハタハタと翻った。それを見ると、四人は悲しい気持ちになって天を仰いだ。それから、大水小便の男が立小便をして西の海に注ぐ大川を作り、戦争の後片付けも終わった。

 

 四人の大男は故郷へ帰り始めたが、太白山に差し掛かった辺りで道に迷ってしまった。日がとっぷり暮れた頃に小さな村を見つけたが、その小さな家の前で、娘が一人、悲しげに歌っていた。

近い山では雨が降り 遠い山では雪が積む

母さん 母さん 呼んだけど

山のこだまが鳴るばかり

 その歌を聴くと、四人は悲しい気持ちになった。娘にわけを尋ねると、西の山の御殿に住む怪物が母親をさらっていったと言う。

「よし、オラたち、今度は怪物退治だ」

 四人は西の山に向かった。その頂にあった御殿の入り口に立ち、チャングィショエが

「やあやあ、怪物ども、よーく聞け。四巨人の怪物退治だぞ」と声を張り上げると、御殿の中からものすごい声が聞こえた。

「おお、お前達か。よく来たな!」

 怪物どもが躍り出し、四人を真っ暗な深い穴の底へ放り込んだ。

「なぁに、オラに任せろ」

 大水小便の大男がザボザボと小便をする。穴は水でいっぱいになり、四人は外に出た。しかし怪物どもは素早く襲い掛かって、今度は大きな牢屋に閉じ込める。

「なぁに、オラに任せろ」

 今度は鉄熊手の大男が、牢屋の格子を鉄熊手でバラバラに破壊する。しかし怪物どもは素早く襲い掛かって、今度は大きな鉄の箱に閉じ込める。

「四巨人を丸焼きにしてしまえ!」

 怪物の大将の指示で箱の周りに薪が山と積まれ、すぐに火がつけられた。鉄の箱が真っ赤に灼けてくる。中で四人が悲鳴をあげたので、怪物どもも安心して御殿に引き上げ、眠ってしまった。

 さて、箱の中では荒息の大男が「泣くのはまだ早いぞ。なぁに、オラに任せろ」と、冷たい大息を吐き出していた。たちまち鉄の箱は冷えてしまい、逆に冷えすぎて凍えたほどだ。それから四人は横になり、いい気分で朝まで眠ることが出来た。

 夜が明けると、一つ目の巨人がやって来て鉄の箱のふたを開けた。途端に四人は襲い掛かって、巨人をバラバラにして、骨で碁盤を作った。次に三つ目の巨人が覗いたので、これもバラバラにして骨で碁石を作った。のんきに碁で遊んでいると、再び怪物どもが襲い掛かってきた。

 しかし、日の光の下ではこちらのもの。怪物を荒息で吹き飛ばし、鉄の熊手でなぎ倒し、大水小便で押し流す。チャングィショエは怪物どもをちぎっては投げ、ちぎっては投げ、ついでに丸めて団子にすると、怪物の大将めがけて投げつける。

「おのれ、小僧ども。空で勝負だ」

 怪物の大将は脇の下の羽を広げ、怪鳥のように空へ舞いあがった。

「荒息、頼むぞ」「おう!」

 荒息の大男はチャングィショエを空へ吹き上げた。だが、怪物の大将はめっぽう強い。たちまちチャングィショエの片腕を食いちぎって地に投げ落とした。すると怪物の大将の妻が藁灰の壷と粘り粉の壷を抱えて飛び出し、チャングィショエの腕に藁灰を擦りこもうとする。鉄熊手の大男が素早く熊手で腕を引き寄せ、粘り粉を塗って空へ放った。片腕はピタリとチャングィショエに貼り付いた。

「ありがとうよ」

 元気を取り戻し、チャングィショエは両手で怪物の大将の首にしがみつくと、グルグルねじって引き抜いた。ポーンと地に落ちてきた首に、妻が粘り粉を塗ろうとする。三人の巨人は躍りかかって、首に藁灰を擦り込んで空へ放った。首は二度と胴体に貼り付かず、大将は煙を噴いて地に落下し、轟音を立てて黒い岩に変わってしまった。

 大将が死ぬと、妻は九尾の狐となって逃げ出した。四人が捕まえてバラバラに引き裂くと、裂けた腹から二つの血の塊が飛び出した。地の塊は地面を転がりながら、恨めしそうに

「もう三日だけ我らの命があったなら、父の仇を討ったのに」

と言って、パチン、パチンと弾けて消えてしまった。

 四人の大男は怪物の御殿の蔵を開いた。中には、金銀に米、山ほどの宝物がびっしりと詰まっていた。怪物にさらわれた人たちも残らず助けることが出来た。



参考文献
『朝鮮の民話2 天の童子と少女ヨニ』 松谷みよ子、瀬川拓男著 太平出版社 1972.

※朝鮮の「力太郎」。類話には、後半の怪物退治を盗賊退治にしているものもあるようだ。

 この他、ベトナムにも「巨人ポー・ドング」「神将ジオン」というよく似た話があるという。母が巨人の足跡を踏んだことで身ごもって産んだ子が、喋りも立てもせずに長い間 揺り篭に寝て、天秤籠で運ばれていたが、ある日突然立ち上がって大きな鉄の棒と鉄の馬を要求し、異常に食べて見る間に巨人になって、怪力を発揮して侵略軍を退ける。
 中国の[怪兄弟]系の話を見るにつけても、朝鮮半島(韓半島)、中国、ベトナムといった東アジアでは、侵略軍や横暴な役人といった、民衆を苦しめる不条理な権力に立ち向かう英雄として、力太郎の姿が描かれることが多いようだ。




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