太陽の子2〜太陽に連れ去られた人間が現界に帰還する話

おひさまの授けた娘  ギリシア

 子供の無い女が「子を授けてください、十二歳になったら取り上げても構わないから」と太陽に祈って女児を得た。

 レティコと名付けられた娘が十二歳になったとき、山へ薬草取りに行くと、太陽が「お母さんに約束忘れちゃいけないよと言いな」と言う。母に言うと母親は真っ青になって、家中の隙間を塞いで娘を閉じ込めたが、太陽は鍵穴から差し込んで娘を連れていった。

 太陽のもとで暮らし始めたレティコは、ある日小屋に藁を取りにやらされたとき、藁の上に座り込んで

「藁が足の下で溜め息を吐くように、私の心臓もお母さんに会いたがって溜め息を吐いてるわ」と嘆いたので、帰りが遅くなった。不審がって太陽が叱ると、レティコはスリッパが大き過ぎて歩きにくいから、と言う。太陽はスリッパを切って短くしてやる。泉に水汲みにやらせると、座り込んで嘆く。それで遅くなり、上着が長すぎて歩く邪魔になると答える。太陽は上着を切り落とす。サンダルを取りにやらせると、嘆いて遅くなる。赤頭巾が大き過ぎて目の上まで落ちるから、と答え、太陽は頭巾を小さくしてやる。それでも太陽はもう一度藁を取ってこいと命じてそっと様子を見、娘が嘆いていると気づく。

 そこで二匹の狐を呼んで「レティコを送ってくれるか」と尋ねると、狐は承知するが、太陽が「途中で飢渇したら何を食べるか」と聞くと「レティコの血と肉を」答えたので止めにし、ウサギ二匹に頼む。

 途中でウサギ達は草を食べ、レティコを木の上に座らせておくが、そこに一人のラミア(子供の血を吸う半女半蛇の魔物)が来て、きれいな靴を見せてやるから下りといで、と誘う。レティコは自分の靴の方がきれいだ、と断る。

「そんなこと言わないで、私は家の掃除が済んでないから気が急いてるんだ」

「だったら早く帰って掃除すればいい」

 次に前掛けで誘い、自分の前掛けの方がきれいだ、と断わると、怒って「木を切ってお前を喰ってやる」と言う。

「どうぞお好きなように」とレティコは言い、本当は木を切り倒せないラミアは「赤ちゃんに乳をやらなきゃいけないから早く下りてこい」と言う。

「だったら早く帰ればいい」

 ラミアが帰った隙に、レティコはウサギを呼び、急いで逃げる。後を追うラミアは途中の畑にいた人々に

「ここを誰か通りませんでしたか」と尋ねるが、人々は「えっ、わしらの蒔いてるのは豆だよ」と答えるばかり。その間にレティコが家の側まで来ると、まず犬が、次に屋根の上の猫が、三番目にオンドリが、「レティコが帰ってきた」と騒ぐが、母親は信じずに怒る。しかしついにレティコは家に入り、ラミアに掴まれたウサギの尻尾は間一髪で千切れる。母親はお礼にウサギの尻尾を銀色にする。



参考文献
『世界むかし話3 ネコのしっぽ』 木村則子訳 ほるぷ出版 1979.

※「太陽の子」系統の話としては変りダネである。一度は子供を我が元に引き取りながら、子供が嘆いているのに気づくと送り返してやる太陽が優しい。子供自身も、嘆いていることを父に気づかれないように気を遣っているし。

 子供の無い人間が「一定の年齢に達したら奪っていいから」と神魔に子宝祈願し、成就する。成長した子供は本当に神魔に捧げられて、しかしそこから逃げ出して帰ってくる。この話に現われているのはそのモチーフなのだが、通常、神魔は恐ろしい存在で、子供はそこから命からがら逃げてくるのに、この話では神魔は好意的である。その代わりにラミアという敵役が現われている。

 子供が木の上に、下に人食いがいて、人食いが木を切り倒そうとする辺りは、「天道さん金の鎖」を思わせる。「天道さん金の鎖」では人食いに追い詰められた子供が月や太陽に祈って昇天するのだが、この話では太陽のもとから降りてきた子供が人食いに襲われるという、逆構造になっている。


参考 --> [ラプンツェル] [呪的逃走]【赤ずきんちゃん



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