[眠り姫]もまた、最もよく知られている"おとぎばなし"の一つである。しかし、知られている割には誤解をされていることが多いように思う。

この物語を、「眠って運命の王子様を待っているだけの弱々しいお姫様」と「苦難を乗り越えて姫を手に入れた英雄的な王子様」しか登場しない、可愛らしくもロマンチックなものだと思うのは間違いだ。類話を並べていけば、「眠りについている勇ましい女戦士」や「何の苦労もなしにお姫様を手に入れた王子様」、果ては「眠っているお姫様に性的悪戯をして、妊娠させてトンズラする王子様」「眠ったまま出産するお姫様」までもが現れてしまうのだから。

また、成年の通過儀礼と、巫女と神の神婚のニュアンスも色濃い。

いばら姫>>物語を読む

最も知られているタイプ。茨の垣の奥の城で、死の代わりの永い眠りについた姫は運命の王子を待つ。前半は【運命説話】型。

  1. <前段>子に恵まれなかった王夫妻に待望の娘が産まれる
    1. カエルまたはザリガニの予言
  2. <運命の予言>占い師または運命の女神たちの予言。娘は糸巻きのつむにより災いを得るという
    1. 出生の祝いに呼ばれた運命の女神たちのうち、食事や食器を与えられなかった年長の女神が呪う
  3. <妬む女による不幸1>(招かれなかった女神の呪いによる)娘の仮死、百年の眠り(娘の指にトゲ状のものが刺さる)
    1. 全ての家人が娘の眠る城から立ち去る
    2. 両親は立ち去るが使用人は一緒に眠る
    3. 両親も使用人も皆一緒に眠る
  4. <王子の侵入>王子が城に入り込み、眠っている娘を見初める
    1. 狩の途中、たまたま立ち寄る
    2. 眠る姫の噂を聞いて
  5. <別離・忘却>王子は自分の城に帰って娘のことを忘却する。または通い婚。その間に娘は二人の子供を生む)
  6. <結婚>王子が娘を呼び寄せ、二人は結婚する
  7. <娘と子供たちの死と再生>妬む女が娘と子供たちを殺して食べようとするが、身代わりによって救われる
  8. <妬む女の死>妬む女が惨殺される


命の水>>物語を読む

老いた父のために命の水を求め魔法の城へ入った王子は、眠っている勇ましい戦乙女に性的悪戯をする。

  1. <父の与えた試練>年老いた父王と三人の王子。父王の望みを叶える(a.病気の治癒 b.若返る)ため、マジックアイテム(a.命の水 b.黄金の果実 )を求めて旅立つ。試練。兄二人は失敗する
  2. <王子の侵入>弟は超自然的援助者の助力で魔法の城に侵入、マジックアイテムを奪ったうえ、眠っている女王を愛す
    1. 眠る女王を愛した証として、証拠の品(歯型、ベルト、署名など)を残していく
  3. <別離・忘却>王子は自分の城に帰る。女王のことは特に思い出さない
  4. <王子の死と再生>嫉妬した兄たちが弟を殺し、手柄を奪う。弟は地底の冥界から地上に戻ってくるが、みすぼらしい姿になる(死の状態)
    1. 地底の国に落とされ、鳥に乗って帰還
    2. 塔に閉じ込められ、後に解放
    3. 森に隠れ、後に森から出てくる
  5. <復讐と結婚>女王は息子たちを産み、軍勢を率いて訪ねてくる。兄二人の嘘は明かされて罰される。弟は女王の夫となり即位する(転生)
    1. 真の夫は黄金の道を臆せず通ってくる

ニーベルンゲン伝説>>物語を読む

本来、北欧の断片的な伝承をつなぎ合わせたもので、ドイツで抒情詩となり、ワーグナーの歌劇としても有名になった。身内同士が殺しあう無残な年代記で、中に眠り姫のエピソードが出てくる。

父神の罰により炎の垣の奥で眠りについた戦乙女は、運命付けられた英雄に目覚めさせられ、愛を誓うが……。悲劇。

恐らくは、[命の水]の民話群の原型であろうと思われる。


白雪姫>>物語を読む

この話群も実は[眠り姫]の系統に分類することが出来るのは明白だろう。

運命の予言や父の与えた試練、別離と忘却の要素はないが、「王子の侵入」「娘の死と再生」「結婚」「妬む女の死」はある。

他の眠り姫はベッドや椅子で眠り、いかにも"仮死"の様相だが、【白雪姫】の場合は美しいとはいえ棺の中で眠り、"死"の色合いが濃い。

その他のもの

以上のもの以外で、「魔法の眠り(死)からの再生と結婚」を語っている民話群を簡単に紹介する。

  1. 黒い王女〜呪われて産まれた黒い王女は、年頃になると死ぬが、夜毎に柩から起き上がって墓守の男を殺す。一人の(老いた、貧しい)男が超自然的援助者の助言で三晩の墓守を成し遂げて呪いを解き、王女は白く転生して墓守と結婚する。-->グリム童話『真っ黒けな三人のお姫様』(KHM137)
  2. 妖精の花婿〜妖精に愛された若者はその呪いで死んで葬られる。妖精は夜毎に墓に飛んできて、若者の死体を生き返らせて、墓穴で愛を語る。または、自分の愛を受け入れよと口説く。朝になると妖精は再び若者を死体に戻して立ち去る。この秘密を一人の人間の娘が知り、妖精を出し抜いて若者の呪いを解き、生き返らせて結婚する。-->『リニ王子と少女シグニ
  3. ガラスの柩〜【白雪姫】とは違い、悪人によって娘が目覚めたままガラスの箱の中に閉じ込められている。それを発見した若者が彼女を解放する。-->グリム童話の『ガラスの柩』(KHM163)、『なくした金の靴


眠り姫のあれこれ>>文章を読む

眠り姫に関する雑学あるいは考察?



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