>>参考 「三公本解」「藺草ずきん

 

塩のように大事

 父が、三人の娘に自分をどれほど愛しているか尋ね、上の二人の娘は「黄金ほど」などと言うが、末娘は「料理に使う塩ほどに」と言う。怒った父は娘を追い出す。部下に殺せと命じ、証拠として肝を取ってくるよう命じるものさえある。最後に《王子》と結婚した娘は披露宴に父を招き、塩抜きの不味い料理を食べさせて塩の重要性を解らせる。

 このモチーフは、[火焚き娘]【手無し娘】【炭焼長者】話群の発端としても現れる。

 

 シェイクスピアの『リア王』の冒頭に類似のエピソードが見られるが、父への愛を塩に例えるくだりはない。

 わざと不味い料理を食べさせることで自分の正当性を主張する筋立ては、かなりシチュエーションは違うが、沖縄の「按司の身代わり花嫁」にも現れている。

 

塩のように大事  ドイツ

 昔、あるところに一人の王様があって、娘が三人いた。三人はみな父をとても大事に思っていた。

 ある晩のこと、王様は娘たちに尋ねた。

「お前たちのうち、誰が一番私のことを思っていてくれるかな?」

「父さま、私は父さまを宝石のように思っていますわ」一番上の娘が言った。

「あら、私は真珠のように!」二番目の娘が言った。

 ところが、ローゼという名の末娘はこう言った。

「私も父さまを大事に思っていますわ。塩のように」

 これを聞くと王様はひどく怒って、怒りのあまり「こんな娘はすぐさま目の前から消えてしまえばいい」とまで言い出した。そして本当に二人の狩人に殺害を言いつけて、ローゼは彼らに連れられて深い森の奥へ行った。

「あなたは死ななければなりません。王様が、殺してしまえとご命令になったのです」

 これを聞くとローゼはさめざめと泣いて、狩人たちに「命だけは助けて」と言った。

「命を助けてくだされば、もう二度とこの国に姿は見せませんから」

 狩人たちは同情し、娘を逃がしてやって、王様には小犬の舌を切りとって、証拠として渡した。王様はこれを見て、本当に子供が死んでくれたものと思いこんだ。

 

 ローゼは散々森の中をさまよって、とうとう見知らぬ国に着いた。勤め口を探したがなかなか見つからず、やっとお城の下働きに雇われた。水汲み、薪運び、菜園の手伝いと、あらゆることをやり、またよく働いた。あちこちで働くローゼはよく王子と行き会い、その目にとまるようになり、王子はローゼを深く愛するようになった。

 ある日のこと、王子が母と庭園を散歩していると、母が尋ねた。

「息子や、この庭の中でどの花が一番気に入っていますか?」

「このバラ(ローゼ)です!」

 そう言って、折りから花に水をやっていたローゼを指差した。母は怒って、庭番の娘が好きだなんてとんでもない、と叱り付けた。

 王子はしかし美しいメイドのことが諦められず、ローゼにこれまでの身の上を尋ねた。するとローゼが王族の出だとわかったので、大変喜び、またローゼも王子に思いを寄せて、二人の結婚がまとまった。

 婚礼のしたくが整うと、あらゆる国から客が招待された。中には、ローゼの父の国王の姿も勿論あった。

 披露宴にはご馳走が用意されたが、それはひどく味気がなかった。何故なら、王子が料理に一つまみの塩も入れないように指示していたからだ。すると、年取ったローゼの父王が、フォークとナイフを置いて悲しげに言った。

「塩抜きのご馳走というのは、どんなに素材が上等でも味気ないものですな。よくわかりました――が、遅すぎました。

 実は私に娘が三人おりまして、いつぞやその子らに、どんなに私を大事に思ってくれているか尋ねたことがあります。すると上の娘は「宝石のように」と申し、次の娘は「真珠のように」と申しました。けれども末の娘は「塩のように」と答えたのです。私は愚かなことに、この答えにカッとして、怒りに目がくらんで、我が子を殺させてしまいました。もしもあの子が生きていてくれたなら、なんでもしてやりたい思いですが!」

 年老いた王はさめざめと泣いた。

 この時、広間の扉が開かれて花婿と花嫁が入ってきた。王様は花嫁を一目見るなり、それが紛れもない我が子のローゼであることを悟った。恥ずかしさと後悔で、王様は心臓も破れそうなほとだったが、ローゼはさっと父王に駆け寄って、その首にかじりついて心からキスをした。そして、父娘は喜びのあまり泣き崩れた。

 こうして婚礼はいやがうえにも輝かしく執り行われ、若い王様とお妃は末長く幸せに暮らした。



参考文献
『世界むかし話7 メドヴィの居酒屋』 矢川澄子訳 ほるぷ出版 1979.

※父王は短気すぎる。そして王子はメイド萌え。



参考--> 「藺草ずきん」「三公本解」【手無し娘




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