>>参考 【雀報恩
     「継子の栗拾い」「継母と継娘」「バヴァン・プティとバヴァン・メラー」「月になった金の娘」「竜王と賢女ワシリーサ

 

舌切り雀

 これは、完全に日本独自の民話のようである。部分部分は国外でも見られるものなのだが、こういう組み合わせ方になっているものを寡聞にして他国の伝承では見たことが無い。

 死んだ可愛いペットを追って不思議な旅をし、竹林の奥の冥界にたどり着くという幻想的で物悲しい前半部、宝の入ったつづらと毒虫の入ったつづらという勧善懲悪的で愉快な後半部が印象深い。

 なお、恐らくはこの話の外郭や後半部に影響を与えているのだろう【雀報恩】は、日本だけではなく、中国やシベリアでも類話を見る事が出来る。

 

 非常に大雑把に書くと、

  1. 爺の可愛がっている雀を婆が殺す
  2. 爺は雀を探し、大飲の試練を経て、竹やぶの雀のお宿に着く
  3. 雀は爺をもてなし、箱を土産にくれる。中から宝が出る。婆が真似をするが、土産の箱からは毒虫が出る

という三つの主要エピソードから成っている話。これを、私は

  1. 主人公が獣(神)と愛し合うので、(嫉妬/心配)した家族が獣を殺す >>【魚の恋人
  2. 主人公の愛する獣(神)が異界に去る。それを探して冥界の城へ行く >>「エロスとプシュケ
  3. 冥界神の家を訪ねる試練。善い者は幸を得るが、悪い者は災いを受ける。 >>[善い娘と悪い娘

の三つの話型を合成したものだと考えている。

 

 婆は雀の体を切って追放する。(観念的には、殺す。)物語上では、雀が婆が作っておいた糊を食べたから、という理由が挙げられているのだが、物語を聞く多くの人が、それ以上の隠された理由を薄ぼんやりと思い浮かべているのではないだろうか。婆は、あまりに爺と仲のよい雀に嫉妬していたのだ、と。

 類話を並べて見ていくと、川で雀を拾った婆が「綺麗な娘子一人拾った」と言ったり、爺が雀のお宿に着いた時、雀が赤いエプロンをして機を織ったり米を搗いたりしていたと語られたり、ズバリ女の姿に化けて現れたり、雀は《若い女》であるというイメージが色濃い。雀を探して大飲の試練を越えて竹やぶに行く爺には、失われた恋人を求めて冥界へ下る英雄のイメージが仄見える。

 しかし、同時に雀は爺の養女のようなニュアンスも持っている。失われた恋人を探して冥界に来たならば、その恋人を現界に連れ戻すのがセオリーなのだが、爺は雀のお宿で一人前に暮らしている雀を見ると満足して、もてなされて土産を持って帰っていく。雀の方も、例えば乙姫のように彼を引き止めて夫婦になる、などということはしない。親が訪ねてきたときの子供のような対応である。

 

舌切り雀  石川県

 爺と婆が屋根葺きをし、穂を一本見つけた。それで婆が糊を作り、冷ましておいた。すると舌切雀と羽切雀が来てぺちゃぺちゃと糊を舐めたので、怒った婆は舌切雀の舌を切り、羽切雀の羽を切った。

 爺が「糊はどうしたいのう」と訊いたので、婆は

「爺ね、舌切雀ぁ来てべちゃべちゃと舐めて行ったさけ、舌切雀の舌切ってやったし、羽切雀の羽切ってやったわいの」と言った。爺は

「どうで そういうことするのじゃいや、可哀想ね。おら謝ってくるわいの」と言って家を出た。

 なにしろこの雀は爺の可愛がって育ててやった雀だったので、

  舌切雀どっちゃへ行った 来い来い来い

  羽切雀どっちゃへ行った 来い来い来い

と言い言い訪ねて行った。そしたらそこに馬洗いどんがいて、馬を洗っていた。

「馬洗いどん、馬洗いどん、舌切雀 羽切雀どが来なんだかいの」と爺が訊くと、馬洗いどんは言った。

「おお行ったぞの。馬の洗い汁三ばい吸わっしゃい。教えてしんぜるわの」

 それで爺が馬の洗い汁を三杯飲むと、「あっちゃに牛洗いどんがおるさけ、その人に訊かっしゃいの」と言った。

  舌切雀どっちゃへ行った 来い来い来い

  羽切雀どっちゃへ行った 来い来い来い

と言い言い爺が行くと、牛洗いどんがいた。

「牛洗いどん、牛洗いどん、舌切雀 羽切雀どが来なんだかいの」と爺が訊くと、牛洗いどんは言った。

「おお行ったさけ、牛の洗い汁三ばい吸わっしゃい。教えてしんぜるぞの」

 それで爺が牛の洗い汁を三杯飲むと、「あっちゃに竹やぶがある。竹やぶに、一人ゃ赤い前掛けして機織っとるし、一人ゃ赤い前掛けして米搗いてるわの」と言った。

  舌切雀どっちゃへ行った 来い来い来い

  羽切雀どっちゃへ行った 来い来い来い

と言い言い爺が行くと、はたして竹やぶで二羽の雀に会った。

「おぉ お前らここにおってかいの。ウチの婆、お前らの羽や舌を切ったてて、爺ゃ、謝りに来たわの」

「爺 よう来てくつさった。謝りなんぞに来てくつさらいでもええのに、よう来てくつさった。まん入って、まま食うてくつさい」

 そう言って雀は爺を家の中に入れて、金のおはしと金のお茶碗で、白いご飯に魚を添えて出してくれた。そして帰り際に、

「お前ぁ 赤い箱欲しか、黒い箱欲しか」と訊いた。

「おら男やさけ、黒い箱 欲しいわの」

と言うと雀は爺に黒い箱をくれて、「途中で開けて見さっしゃんなの」と注意した。

 爺は、言われた通り帰り道で箱を開けたりしないで、家に帰ってから開けた。すると、一分小判やら何やら、宝物が沢山入っていた。

 これを見た婆は、「お前ぁええことをした、おらも謝りに行く」と言って、爺のした通り、馬洗いどんや牛洗いどんのところを通って竹やぶに行った。雀の家からの帰り際、「お前ぁ 赤い箱欲しか、黒い箱欲しか」と雀が訊くので、「女やちけ赤い箱欲しいわの」と言って、赤い箱をおみやげにもらった。雀はやっぱり、「途中で開けて見さっしゃんなの」と注意した。

 婆は我慢できなくて、家の前まで帰って来ると、箱を開けてしまった。すると中から蛇やらムカデやら牛の糞やら馬の糞やら化物が出て、婆を殺してしまった。



参考文献
『日本昔話集成(全六巻)』 関敬吾著 角川書店 1950-

※「舌切雀」というと、《優しいお爺さんと意地悪なお婆さん》が定番だが、日本全国に伝わる異伝を読むとそうとも限らない。《婆が川に洗濯に行くと二つの鳥かごが流れてきて、婆はその美しい方を拾う。中に雀が入っていたので「綺麗な娘子一人拾った」と言って持って帰る。すると雀が糊を食べたので、爺が雀の尾羽を切る。婆はいなくなった雀を探して旅に出る…》という話もある。(青森県)

なお、《舌切り》に限らず《羽切り》《尾切り》《耳切り》《鼻切り》と色々ある。



参考 --> 「爺と蟹」「継子の栗拾い」「バヴァン・プティとバヴァン・メラー」「継母と継娘




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