>>参考 【塩吹き臼/魔法の壷

 

不思議なオンドリ

 貧しく善良な老人が、神から富の湧き出してくる呪宝と不思議なオンドリを授かるが、欲張りな金持ちが呪宝を盗む。オンドリは金持ちの家に行って「返せ」と訴える。何をしても死なないし、あらゆる物を呑み込んでしまう。とうとう金持ちは観念して呪宝を返し、老人はオンドリと幸せに暮らす。

 このオンドリは、イギリスの「ジャックと豆の木」に登場する《金の卵を産むニワトリ》と同類で、つまり黄金に輝いて朝を告げる太陽神の化身であり、また、あらゆる物を呑み込んで死なない冥界の化身であるとも思われる。

 

 卵の状態で天界からもたらされるオンドリは、桃太郎瓜子姫と同じ小さ子……神が子の無い老人に授けた特別の子供、という見方も出来るだろう。

 

魔法のつぼ  ポーランド

 物乞いの婆さんが、自分も裕福でない人から一掴みの豆を「蒔くように」ともらう。雪解けに蒔くと、春先に芽が出て蔓は天に届いた。登ると大きな納屋に出、脱穀機ががらがらと回り、籾と見えたのはみんな金で、無人だった。

「わしのような貧乏人の来る場所じゃないな。こんなに金があったっておらのもんじゃないんだからしょうがない」

 恐くなって帰ったが、地上に戻るといつのまにか小さな壺を持っていた。それは魔法の壺で、願えばなんでも出てくるのだった。

 老婆は牛乳を頼んで、部屋を掃き清めてからそれを飲み、寝た。

 壺の中には最初から卵が一個入っていたのだが、それを脇の下に挟んでおいたところ、きれいなオンドリが孵って朝に鳴きたてた。老婆は友達が出来たことを喜び、魔法の壺の力を無駄遣いすることもなかった。

 さて、噂は村中に及び、地主はこの壺とオンドリを得ようと画策した。最初は老婆ともども屋敷に招待したが、用心深い老婆が断わると、支配人に命じて、老婆を火事だとだまし、目の悪い老婆が朝の光にだまされてオンドリを抱えて避難している間に壺を盗み出した。そしてあらゆる上等の酒を出して近隣の飲んだくれを集めてどんちゃん騒ぎを始め、屋敷は最低の酒場と化した。

 ある日、オンドリは老婆に「母ちゃん、壺を取り戻してくるよ」と言って出かけ、お屋敷のベランダで叫んだ。

クックック、クックック!

お客の飲んでる酒は盗んだ酒

お屋敷の主人はぬすっとだ!

 怒った主人は下男にオンドリを村一番深い井戸に投げ込ませたが、オンドリは水を飲み干して再びベランダで叫んだ。今度はストーブに投げ込んだが、先刻飲んだ水を吐き出して火を消してしまう。そこで大きな金櫃に入れて窒息死させようとしたが、金貸を全部飲んでしまった。主人はオンドリを殺して料理させて食べてしまったが、今度は腹から声が聞こえて止まらない。しかも食べたもの全てオンドリが横取りして栄養にならずに痩せ衰え、医者が薬で吐かせると、オンドリは元の美しい姿で飛び出してきた。

 地主はついに観念し、壺を返した。帰ったオンドリは広げさせた敷布の上に飲んできた金貨を吐き出し、老婆はそれからも慎ましく幸せに暮らした。



参考文献
『世界むかし話集〈上、下〉』 山室静編著 社会思想社 1977.

※発端に「ジャックと豆の木」の他、日本で言う「迷い家マヨイガ」のモチーフも入っている。
 お婆さんの善良ぶりと、それを母と慕うオンドリの孝行ぶりが気持ちいい話。


参考 --> 「お天道さまに届いた豆



お爺さんのオンドリとお婆さんのメンドリ  ルーマニア

 オンドリを持った老爺と、その隣の家にメンドリを持った老婆がいる。

 メンドリは毎日卵を産み、老爺は羨ましがるが老婆は分けない。そこで毎日オンドリを打つ。オンドリはたまらず出奔し、老爺にあげるものを探して(というのも自分を緑の羽根の生え揃わぬひよこの頃から育ててくれた老爺を愛していたから)王宮に行って鳴いた。

「コケコッコー! 陛下、起きてください! 私の主人が私をぶつんです。何か主人のとこへお土産に持って帰るものをくださいよ!」

 朝寝を邪魔された王はオンドリを池に投げ込ませるが、オンドリは水を全て飲んで再び城壁で鳴く。王はオンドリをかまどに投げ込ませ、オンドリを池に投げ込んだ家来は土牢に入れる。オンドリは飲んだ水を吐き出して火を消し、台所中を水浸しにする。

 王はオンドリを御前に引き出させ、再び鳴くと大笑いしたが、何も与えずに城の鳥小屋で飼おうとした。オンドリは小屋中のメンドリとひよこを飲み込み、城壁の上で鳴いた。

 王は観念して金蔵に放り込み、好きなだけ取らせると、オンドリは金貨全てを飲み込んでしまった。怒った王はオンドリの腹を裂かせるべく召使達にオンドリをつまみ出させたが、わざと外まで大人しくして、急に召使達の手を突っつくと、オンドリは「ご機嫌よう!」と叫んで逃げ、二度と見つからなかった。

 そしてオンドリは老爺に並べさせた入れ物の中に金貨を吐き出し、吐き出されたメンドリ達はまぶしいほど美しい羽根のオンドリを見て大人しく鳥小屋に入った。

 隣家の老婆は激しく妬み、金貨を要求したが、老爺は卵を分けてもらえなかったことを恨んでそうしなかった。老婆は負けるものかとメンドリをぶって追い立てた。メンドリはあちこちのゴミためを漁ってやっと銅貨一枚見付け、老婆が家中の入れ物を並べた前で散々いきんだ後、やっと銅貨一枚生み落とした。老婆は怒ってメンドリを棍棒で打ち、以後尾羽根の無いメンドリが増えた。

 怯えたメンドリは老爺の鳥小屋に逃げ、以後二度と卵を産まなかった。老爺は老婆の悪い心情を叱ってから金貨を分け、二人はそれぞれトルコの役人のような家を建てて幸せに暮らした。けれどオンドリは相変わらずの暮らしを続けたという。



参考文献
『世界むかし話集〈上、下〉』 山室静編著 社会思想社 1977.

※メンドリが可哀想…。



金のひき臼  バルト諸国 リフランド

 一粒の豆を持っていた老人がそれを食べようとすると、食べないで土に埋めてくれと言う。鉢に植えると一晩で天井まで、屋根まで、三日目には天に届く。それを登ると天使がひき臼で金をひいていた。頼むと天使は臼をくれ、一日一度しか回してはならない、それ以上回せば塵しか出てこない、と注意する。

 老人は金持ちになるが、妬んだ人が臼を盗んでしまう。老人の持っていた一羽のオンドリが歌う。

「ひき臼が盗まれました。盗んだのは、お金持ちの百姓ですよ」

 その百姓は土地を買うために金が入り用になり、出たものはみな穴蔵に落ちるようにして毎日臼を回していた。しかし、覗いてみるとあったのは塵。その時オンドリが鳴く。

「けちな百姓よ、乞食百姓よ、貧乏なじいさんに臼を返してやりな!」

 百姓はオンドリを牛小屋に閉じ込めるが、夜にオンドリが戸を開いたので牝牛がみな狼に食べられてしまう。

 朝 再び歌を歌う。

「けちな百姓よ、乞食百姓よ、貧乏なじいさんに臼を返してやりな!」

 井戸に投げ込むと水を飲み尽くし、歌う。

「けちな百姓よ、乞食百姓よ、貧乏なじいさんに臼を返してやりな!」

 かまどに押し込むと水を吐き出して火を消し、歌う。

「けちな百姓よ、乞食百姓よ、貧乏なじいさんに臼を返してやりな!」

 料理して食べると腹の中で歌った。

「けちな百姓よ、乞食百姓よ、貧乏なじいさんに臼を返してやりな!」

 再び腹から出て、歌い続ける。

「けちな百姓よ、乞食百姓よ、貧乏なじいさんに臼を返してやりな!」

 百姓は観念して臼を返し、今でも老人は臼を使っている。



参考文献
『世界むかし話集〈上、下〉』 山室静編著 社会思想社 1977.




参考--> 「ジャックと豆の木」【塩吹き臼】「お天道さまに届いた豆



ララーシュ  チェコスロバキア

 ビエハリ村にパリチカさんというお百姓さんが住んでいました。

 ある日、コピドレノ村の市場へ行く途中のこと。パリチカさんは、畑の側の梨の木の下で、やせ細った黒いオンドリがびしょ濡れでぶるぶる震えているのに気がつきました。

「おやおや、可哀想に!」

 パリチカさんはオンドリをコートの下に包み込み、家に戻ると暖炉の火で温めてやりました。そうしてオンドリがふわふわに乾いてすっかり元気になると、中庭のオンドリの群れの中に放してやりました。

 その真夜中のことです。

 ドスン、ドスン、ドタタタタン!

 納屋の方から聞こえてくる大きな音で、パリチカさんは目を覚ましました。人のような、ニワトリのような声が聞こえます。

「親父さん、ジャガイモを運んできたよ!」

 パリチカさんは納屋に駆けつけました。すると、納屋にはジャガイモの山が三つもあって、その上を火のように赤いオンドリがピョンピョン飛び回っているではありませんか。

「ひゃーっ、何だぁ、ありゃ!」

 パリチカさんは仰天して、ドアを"バタン!"と閉じると、後も見ずにベッドに潜り込みました。けれども、その晩はとうとう眠れませんでした。

 ああ、ああ、気味が悪い!

 夜が明けると、パリチカさんは納屋のジャガイモを全て肥溜めに捨ててしまいました。

 その夜も、また同じことが起こりました。

「親父さん、小麦とライ麦と大麦を運んできたよ!」

 パリチカさんは、もう納屋へ行く気力もありませんでした。恐ろしくて木の葉のように震えていたのです。ただ、「神様、どうか悪魔を追い払ってくだせぇ!」と、ベッドの中で祈るばかりでした。

 夜が明けるや、パリチカさんはスコップで納屋の麦を残らず外に投げ捨てました。

 パリチカさんは、もうどうしていいか分かりませんでした。

 こんな不気味なことを近所の連中に知られたら、なんと言われるか。ああ、どうあっても秘密にしなければ。

 けれども近所の人はもう、パリチカさんの家で何かが起こっていることに気付いていました。

「ここのところ毎晩、パリチカさんの納屋に火の玉が飛んでいくよ。けれども火事が起こる様子もないし。ありゃあ、一体何かねぇ」

「そういえば、パリチカさんのニワトリの中に見たこともないような真っ黒いオンドリがいるのを、私ゃ見たよ」

「きっとそれは悪魔だよ! パリチカさんは悪魔に魂を売り渡したに違いない」

「なんて恐ろしい!」「なんとかしなくては!」

「まあ、ちょっとお待ち。あのパリチカさんが悪魔に魂を売ったりなんぞするものかね」「そうさ、あの正直者のパリチカさんが」

「とにかく、パリチカさんに話を聞いてみようじゃないか」「うん、それがいい」

 村人たちは連れ立ってパリチカさんの家にやって来ました。パリチカさんは今までのことを洗いざらい話し、「どうしたらいいだろう」とあべこべに相談しました。

「そりゃあ、決まっているさ。あんな化け物は叩き殺してしまえばいいんだ!」

 村の若者はそう言うと、棒を取って黒いオンドリに投げつけました。途端にオンドリは飛び上がり、若者の背をくちばしでつつきながら

俺はララーシュ、ララーシュ、ララーシュ!

と叫びました。

「こりゃあ、一筋縄じゃあいかん」「パリチカさん、あんたは悪魔に魅入られたんだ。いっそのこと この家を売って、あんたはどこかに引っ越してしまった方がいいよ」

 パリチカさんはすぐに家を売りに出しました。けれども、悪魔の憑いた家なんて誰も買い手がつきません。

 パリチカさんは途方に暮れましたが、とにかくも一刻も早くララーシュと離れるべきだと考えて、穀物も家畜も、売れるものは全て売り払って隣村に家を買い、そこに引っ越すことにしました。残った最低限の家財道具だけを荷馬車に積み、最後に、家に火を放ちました。隣近所とは離れていたので延焼する心配は要りませんでした。

「焼け死んでしまうがいい、薄気味悪い化け物め。もう二度と見ることもないだろう」

へ、へ、へ

 その時、後ろから変な笑い声が聞こえて、パリチカさんはぎょっとしました。荷物の上に黒いオンドリがとまっていて、羽根をバサバサ言わせているのです。

俺も引っ越すよ、もうここには住まん

ここには住まん、俺も一緒に行くよ

ここには住まん、一緒についてくよ

 パリチカさんは雷に打たれたようになって身動きも出来ませんでした。ヤケクソになって、おかみさんに

「ヤツに絞りたてのミルクとケーキをやっておけ」

と言いつけました。ララーシュは嬉しそうにそれを食べました。

 

 そんなある日の夕暮れでした。パリチカさんのところの小作人のバシェックさんが野良仕事から帰ってくると、階段のところにケーキが三つ置いてありました。パリチカさんのおかみさんがララーシュのために置いていったものです。

「あんな化け物に食わせるより、わしが食った方がいいんだ」

 バシェックさんはお腹が減っていたので、そんな独り言を言いながら一つ つまんで食べました。その瞬間、バシェックさんの背中にララーシュが飛び乗りました。

ケーキを一つ

ケーキを二つ

三つ目のケーキをバシェックが食べた

 ララーシュはそう叫びながらバシェックさんの背中をつつきました。

 次の日の朝、パリチカさんがバシェックさんを起こしにいくと、バシェックさんは体中青あざだらけにして、動くたびに悲鳴をあげていました。

「これは一体どうしたことだ!」

「旦那、これはあのララーシュのせいでさぁ。あいつがわしをつつきまわして、こんなに痛めつけたんです。ああ、あの化け物は全く恐ろしい悪魔ですよ!」

 それを聞くと、パリチカさんはララーシュのところにすっ飛んでいきました。

「いい加減にしてくれ! このままでは小作人も居付かなくなる。そうなったら、暮らしていけない。なあ、頼むから出て行ってくれ。わしらをこれ以上苦しめないでくれ!」

へ、へ、へ

 ララーシュは変な声で笑いました。

元のところへ置いとくれ、

これ以上お前さんを苦しめないよ

 パリチカさんは大喜びしてコートを着ると、その下にララーシュを入れました。そして、ララーシュと初めて出会った梨の木のところに行って枝に止まらせました。

 それっきり。それからというもの、ララーシュを見た人は誰もいないのです。



参考文献
『チェコスロバキアの民話』 大竹國弘訳編 恒文社 1980.

※このページに挙げた他の話では、人語を話す不思議なオンドリの恩返しは「善いこと」に定義付けられ、最終的にオンドリとその主人は仲良く幸せに暮らす。ところが、この話ではオンドリの恩返しは「悪魔の仕業」であり、主人はララーシュが持ってきたジャガイモや麦を肥溜めに捨ててしまう。

 日本の民話だと、例えば「笠地蔵」では、爺が雪の中の地蔵に笠をかぶせてやった晩、地蔵が食料品を担いで来て置いていくが、爺は地蔵に感謝するだけで、気味悪がってそれを捨てるようなことはしない。
 思うに、このパリチカさんは裕福なのだろう。少なくとも今日食べるものに困ったりしないので、食料を肥溜めに捨てるようなまねが出来るのだ。ものが豊かになると、心から「素直な感謝」というものが失われるのだろうか。

 このように、人間の方は「感謝の気持ち」を忘れ果てているにも拘らず、精霊たるララーシュの方は古い時代のまま、素直である。いや、精霊たちの中でも飛びぬけてお人よしかもしれない。心づくしを肥溜めに捨てられても恨みも怒りもせず、最後はパリチカの哀願を容れて「元の場所に捨ててくれ、もう迷惑はかけないよ」と どこかに消えていく。物悲しい。


 ララーシュには、キリスト教以前の土着の精霊神、いわゆる「妖精」の匂いが感じられる。絞りたてのミルクとケーキが与えられているのが証拠だ。古くは、精霊たちにそうして供え物をするものだった。
 かつては、土着の神々に愛されて恵みを受けるのは「善いこと」だったことだろう。しかし古い神々がキリスト教に押しやられて「悪魔」になってしまうと、彼らがどんなに善い事をしたとしても、「化け物の悪事」としか捉えられなくなってしまう。

 パリチカさんはララーシュに取り憑かれているのが嫌で引っ越すが、ララーシュはちゃっかり引越しについてくる。このモチーフは、ケルトの妖精伝承でも見られるもので、日本では「貧乏神」の話として語られる。貧乏神に取り憑かれた夫婦が引越しの算段をしていると、押入れの中からガサガサと音がする。戸を開けると貧乏神が引越しの時に履くための わらじを編んでいた、という話。




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