蛇婿には複数のバリエーションがある。

神婚型〜蛇が分限者を脅し、娘たちのうちの一人を嫁によこせと要求、一人の娘だけが承知する。結婚すると蛇は皮を脱いで立派な青年になり、神であることを明かす。しかし、嫉妬した姉妹か心配した母・乳母にそそのかされて禁忌を破り、夫は冥界に去る。娘は夫を追って冥界へ渡り、夫の親の出す難題をクリアし、そのまま冥界の住人になる。日本では七夕の縁起に結びついている。
>> 「天稚彦の草子」「七夕女」「カンダ爺さん

偽の花嫁型〜水や植物(農耕の利)と引き換えに、親が娘たちの一人を蛇の嫁にやる約束をし、三人姉妹の末または二人姉妹の上だけが承知して嫁入りする。結婚すると夫は皮を脱いで立派な青年になり、幸せに暮らすが、結婚しなかった姉妹が妬み、娘を殺して入れ替わる。娘は鳥(魚)、植物を経て人間に再生し、貧しい老婆の養女になり、夫の元に帰って再び幸せに暮らす

退治型〜日本民話。水や植物(農耕の利)と引き換えに、親が娘たちの一人を蛇の嫁にやる約束をし、三人姉妹の末だけが承知する。娘は針を刺したひょうたんを蛇に沈めさるなどして退治してしまう。蛇が水神から魔物に零落している。(この後「姥皮(蛙報恩)」に繋がることが多い)

苧環型〜日本民話。娘のもとに毎夜見知らぬ男が通う。身元を語らないので怪しんで糸をつけた針を裾に刺しておくと、糸は水の中に消え、蛇婿だったことが分かる。以降の展開は大きく二つに分かれ、蛇神の子が部族の始祖になったと祝福して語るものと、蛇を退治して子を堕胎したと妖異譚として語るものがある。古い信仰が忘れ去られるにつれ、蛇の姿の神霊はおぞましいだけの魔物に零落していったようだ。

 

 このページの以下では[偽の花嫁型]を紹介する。

 

蛇婿〜偽の花嫁型

>>参考 「小さな太陽の娘
     [偽の花嫁][その後のシンデレラ〜偽の花嫁型][三つの愛のオレンジ
     「姥皮(蛇婿〜退治型)」【金のなる木】【猿婿入り

 

翠児と蓮児  中国

 昔、翠児ツイアルという娘をもった百姓夫婦がいました。父さんは野良仕事、母さんは機織りをして暮らしていましたが、突然、母さんが病気で死んでしまいました。

 その後、父さんは新しい奥さんをもらいました。この人は意地悪で妬みの強い人でした。すぐに女の子が生まれ、蓮児リエンアルと名付けられました。

 翠児と蓮児はすくすく成長し、翠児は近所でも評判の器量良しの気立て良し、働き者でなんでも良く出来る娘になりましたが、蓮児は醜いあばた顔で何も出来ない怠け者になりました。継母さんは、翠児ばかり誉められて蓮児が嫌われるのを見てひどく恨みに思い、翠児を苛めるようになりました。

 

 ある年の春、父さんが山に芝刈りに行くとき、蓮児が言いました。

「父さん、山で奇麗な花を見つけたら一本つんで来て、私の髪にさしてちょうだいね!」

「よしよし」

 父さんは山で芝を刈ってから奇麗な花はないかとあちこち探し回り、草地に一輪のとても奇麗な赤い花を見つけました。早速摘み取った途端、草の陰から声がしました。

「俺の花を髪に飾った人は、俺の嫁さんになるんだぞ!」

 よくよく見ると、花のすぐ脇に大きな蛇がいたのです。父さんは恐怖のあまり、娘を嫁にやると約束させられてしまいました。

 家に帰ってこのことを話すと、継母さんは怒り、赤い花を父さんの手からひったくって、無理に翠児の髪にさしてしまいました。

 次の日、翠児は父さんに連れられて山の蛇に嫁入りしましたが、継母さんの持たせてくれた嫁入り道具ときたら、壊れたすき一本だけでした。

 

 父さんが帰ってしまうと、蛇は打ち明けました。自分は元は人間の男だったが、蛇になってしまった。ただ、蛇と知りながら心から愛してくれる人が現れて、その人が自分の顔から流れた汗で蛇の顔を洗ってくれれば、元の姿に戻れるのだが、と。

 翠児は自分の夫に心から同情しました。そして継母さんにもらった壊れた鋤で山の荒れ地を耕し始めましたが、しばらくするうちに額に玉の汗が流れ出しました。翠児が急いで蛇のところに行って、自分の汗を手に受けて蛇の顔を洗いますと、ヘビはすぐに立派な若者に変わりました。

 二人ともそれはそれは嬉しく思い、その日のうちに小さな小屋を建て、若者は野良仕事や狩りに精を出し、翠児は糸を紡いで機を織って暮らしを立てるようになりました。

 

 その後、翠児は父さんの誕生祝いに里帰りしました。父さんは翠児の暮らしがうまくいっていると聞いて心から喜びましたが、継母さんと蓮児は面白くありませんでした。

 蓮児が翠児に言いました。

「姉さん姉さん、二人一緒に鏡に映して、どっちが奇麗か見てみましょうよ」

 鏡を手にして一緒に映すと、翠児の方がずっと奇麗でした。蓮児は負けん気を出して言いました。

「姉さん姉さん、二人一緒に水瓶の水に映して、どっちが奇麗か見てみましょうよ」

 水瓶の水に映しても、翠児の方がずっと奇麗でした。蓮児がまた言いました。

「姉さん姉さん、二人一緒に井戸の水に映して、どっちが奇麗か見てみましょうよ」

 井戸の水に映った翠児は、水瓶の時より一段と美しく見えました。蓮児は言いました。

「姉さん姉さん、服を取り替えっこして見てみましょうよ」

 そして、翠児が井戸を覗き込んだ時、後ろから押して突き落としてしまいました。

 

 次の晩、蓮児は姉の服を着たままその家へ行き、油が勿体無いといって灯りを点けさせず、そのまま一緒に寝ました。

 翌朝、若者はとなりに寝ている女が翠児とは似ても似つかないのに驚いて尋ねました。

「お前の口は、なんでそんなにでかいんだ?」

「ケーキを食べるためよ」

「お前の手は、なんでそんなにでかいんだ?」

「ケーキを焼くためよ」

「お前の目は、なんでそんなにでかいんだ?」

「ものをハッキリ見るためよ」

「お前の足は、なんでそんなにでかいんだ?」 

「しっかり歩くためよ」

「お前の顔は、なんでそんなにあばたになってるんだ?」

「昨日、実家で豆蔵の豆の上に寝たからよ」

 若者は翠児の実家まで行ってみました。すると、井戸の中から小鳥が一羽、バタバタと飛び出してきました。

「お前が俺の女房なら、上着の袖の中に入れ!」

 すると鳥が入ったので、若者は小鳥を連れて帰り、木の枝で奇麗な籠を作って、大事に大事に飼って可愛がりました。蓮児は、若者が小鳥にばかり構うので面白くありません。

 ある朝、蓮児が窓辺で髪をとかしていると、小鳥がさえずりました。

あばた娘は恥知らず

私の鏡に ヤな顔 映してる

あばた娘は恥知らず

私の櫛で ヤな頭 とかしてる

 蓮児は、夫の留守を見計らって小鳥を籠からつかみ出すと、地面に叩き付けて殺してしまいました。

 帰って来た若者は死んだ小鳥を見て悲しみ、戸口の前に埋めました。すると大きなナツメの木が生えて美味しい実が生りましたが、蓮児が近付くと毛虫が落ちてひどく刺されます。蓮児は木を切り倒しました。若者はその木で敷居を作りましたが、蓮児が通ろうとすると転んだので、叩き壊しました。若者は木屑から糸車を作りました。この糸車を使うと細かくむらなく紡げるので、村中の人が借りにきましたが、蓮児が使うとこんがらがって切れてばかり、おまけに手に大きなまめがいくつもできたので、怒って火にくべてしまいました。

 

 村のワンおばさんが糸車を借りに来て、燃やしたと聞いて残念がりましたが、かまどに糸玉が一つ転がっているのを見つけて、勿体無いと思って拾って帰りました。

「ここのおかみさんときたら、だらしないったらありゃしない。糸玉をかまどに捨てるとは、なんと勿体ないことをするんだろ」

 ワンおばさんは畑仕事と機織りをして生活している、一人暮らしの後家さんでしたが、その日から、畑仕事から戻ると家の中が片付き、織りかけの布がぐっと長くなるようになりました。こんなことが何日も続いたので、ワンおばさんはとても不思議に思い、とうとうある日、畑に行くふりをして窓の外に隠れ、家の中の様子をうかがいました。やがてはたの音が始まって、娘の歌声か聞こえてきました。

ワンおばさんはお留守です

鍋や茶碗は片付きました

さて今日もパタパタと

一丈八尺織りましょう

 ワンおばさんが窓の穴から覗いてみると、奇麗な娘が機の前に座って布を織っていました。ワンおばさんは急いで戸を押し開けて、さっと娘を捕まえ、名前を尋ねました。娘は、翠児という名で、どんなひどい目に遭い、夫はだれだれと、ワンおばさんにそっくり打ち明けました。ワンおばさんも、

「あたしゃ、子もない一人身だし、お前さんもおっかさんのいない可哀相な子だ。あたしの娘になっておくれ」

と言いました。

 次の日、さっそくワンおばさんは若者を連れて来て、翠児に逢わせてやりました。元通り一緒になれた二人は、揃って家に帰りました。

 これには蓮児も驚くやら恥ずかしいやらで、慌てて実家に逃げ帰りましたが、生き恥さらすのもみっともないと、そのまま、例の井戸に飛び込んでしまいました。

 こうして、蓮児は一匹のガマガエルになりました。いつも井戸の中で

姉にはかなわぬ、グワッ グワッ グワッ

姉にはかなわぬ、グワッ グワッ グワッ

 と鳴いているということです。



参考文献
『世界むかし話4 銀のかんざし』 なだぎりすすむ訳 ほるぷ出版 1979.

※最後に偽の花嫁が虫やカエルや貝のような小さなもの、特に水棲生物に変わってしまうのは、日本のシンデレラ系話群と共通している。

蛇郎  中国

 昔、ある山の麓に、老いた父親と大蘭、小蘭という二人の娘が住んでいた。姉妹はよく似ていたが、姉の大蘭には顔に小さな丸い傷が二つ付いていた。 

 ある日のこと、父親は山で柴を刈っていて足を滑らせ、谷底へ落ちて上がれなくなってしまった。すると一人の若者が現れ、父親を谷から引き上げてくれた。父親はたいそう喜んで礼を言い、若者が蛇郎という名で、山の中で一人で暮らしていることを知ると、

「わしには二人の娘がいるが、一人をお前さんの嫁さんにあげるから、三日経ったら山の麓のわしの家に、娘を迎えに来ておくれ」

と言った。蛇郎は「本当ですか」と喜んだが、なんと、その姿が蛇になったではないか。蛇が山奥に消え去ってから、父親はようやくあれは蛇の精であったのだと悟ったが、もはや後の祭りであった。

 父親はくびくびして家に帰って、すぐに娘たちにこの話をした。すると姉の大蘭は、

「蛇と結婚するなんて嫌。私はお金持ちの人間と結婚するわ」

と言った。父親は蛇郎と約束してしまったので、困り果てて床についてしまった。すると妹の小蘭が、

「おとっつあんが約束したのなら、私が蛇郎さんと暮らします。蛇の精でも貧乏でもかまいません」

と言ったので、父親はやっと安心して起き上がることができた。

 三日目に蛇郎が小蘭を迎えに来て、一緒に蛇郎の家へ連れて行った。蛇郎と小蘭の夫婦はよく働き、日増しに暮らしが楽になっていった。

 やがて小蘭は父親と姉に沢山のお土産を持って里帰りをした。大蘭は小蘭の綺麗な着物や美しい姿を見て羨ましくなり、小蘭が帰るのを送って行くと言って付いて行った。河まで来ると、大蘭は妹に言った。

「小蘭、あんたはとても綺麗になったわね。私たち二人は同じように育ってきたのに、今はあんたは私より沢山着物を持っているのだから、あんたの着物を私に頂戴よ」

 優しい小蘭は大蘭の話を聞いて、着ている着物を取り替えてやった。大蘭は

「小蘭、河の水に私たちを映して、どっちが綺麗か見てみよう」

と誘い、小蘭が河の岸に立つと、いきなり後ろから河の中へ突き落とした。それから小蘭になりすまして蛇郎の家へ行った。蛇郎が大蘭の顔の二つの小さな丸傷を見つけて「小蘭、顔の二つの丸い傷はどうしたんだい」と訊くと、小蘭になりすました大蘭は「枕に豆が二つあって、寝ている間に豆の痕が残ったのよ」と嘘をついた。

 蛇郎は、妻が里から戻ってからというもの、少し不精になったと気がついた。

「お前は少し変わったね。前はあんなによく働いたのに」
「私も働きたいんだけど、実家から帰ったあと、体の具合が悪いのよ」

 大蘭がそう言うと、優しい蛇郎はそれ以上は何も言わなかった。

 ある日のこと、蛇郎が河へ水汲みに行くと、一羽の小鳥が飛んで来て、いくら追っても蛇郎から離れようとしない。蛇郎は小鳥を連れて帰って鳥籠を作り、窓に掛けておいた。

 あくる朝、大蘭が起きて髪を櫛でとかしていると、籠の中の小鳥が鳴いた。

  恥ずかしくないの、恥ずかしくないの
  わたしの櫛で髪をとかして

 大蘭は驚いて、すぐに小鳥を締め殺し、ナツメの木の下に埋めた。そして蛇郎が帰って来ると「小鳥は猫がくわえて行ってしまったわ」と嘘をついた。

 ところが、不思議なことは再び起こった。蛇郎が留守の時、大蘭がナツメの木の下を通ると、木の枝が棘のように垂れてきて大蘭を刺したのだ。大蘭は怒ってナツメの木を切り倒し、それでも気が治まらずに火を放った。すると火花が飛び、大蘭の体に燃えうつった。どんなに消そうとも鎮まることなく、とうとう大蘭は焼け死んでしまった。

 帰ってきた蛇郎は、妻が焼け死んでいるのを見て泣いた。嘆き悲しみながら土に葬り、また一人で暮らしはじめた。

 そんなある日のこと、蛇郎が河へ水を汲みに行くと、再び一羽の小鳥が飛んで来て蛇郎の周りを飛び、どうしても離れない。小鳥はそのまま蛇郎に付いて一緒に蛇郎の家へ帰った。蛇郎が汲んで来た水を瓶にあけ、後ろを振り向くと、そこに小蘭が立っていた。蛇郎は、まさかと目を強くこすって見直したが、やはり本当の小蘭だった。小蘭が今までのことをすっかり蛇郎に話すと、蛇郎は「ああ、悪は悪で報われるのだ」と言った。

 それからは、二人は幸せに暮らしたということだ。


参考文献
蛇郎」/『ことばとかたちの部屋』(Web) 寺内重夫編訳



神の蛇  ベトナム ミャオ

 あるところに、とても高い山があった。とても高くて、たくさんの籐もそのふもとにあるだけだった。山の上には青々とした樹木が、また川がさらさらと流れていた。

 山の頂上にはミャオ族の老人の家があった。妻は三人の娘を残して既にこの世になかった。三人の娘は皆美しく、適齢期を迎えていた。特に三人の中で、末娘が最も美しく、従順だった。

 ある年の畑の季節に、老人が畑を開墾しに行くと、一本の非常に大きな木が目の前に立ちふさがった。生い茂った木の葉は広々とした畑を覆い尽くすほどだった。彼は一番良い斧を取り、その木を切ることにした。三日三晩切り続けてやっとその木の幹の半分にまで刃が入った。四日目、食事をし終えてその場所を見ると傷は跡形もなくなっていた。木は元通りになり、枝葉はカサカサと音を立て木を切るものをバカにしているようだった。しばらく座って心を静めると、大きな赤マムシが這ってくるのが目に入った。蛇は彼に尋ねた。  

「どうして泣いてるんだい?」

 老人は答えた。

「儂はこの木を三日三晩切り続けてやっと半分まで切ったのに、今日、来てみると元通りになっているのだ。これではどうやって畑を開けばいいのだ? 我慢すれば飢え死にするだけだ」

 蛇は言った。

「僕に手伝わせて!」

 老人は告げた。

「儂には三人の娘がいる。もし助けてくれるなら一人お前が娶って妻にしてもいい。」

 蛇は言った。

「家に帰って! 僕がきっと助けてあげるよ」

 老人が去ると、蛇はそばの巨木に這い上がり、それに巻きついて切り、それから尾でその奇っ怪な木を三度力強く叩いた。大きな木は揺れ動き、それから全ての根が切れ倒れた。倒し終えると、木の根にうずくまって老人を待った。

 翌日、老人が畑に来ると、あの木が倒れているではないか。すぐに叫んだ!  

「最高だ! 最高だ! ありがとう、蛇さん!」

 それから老人は言った。

「儂のために木を倒してくれた。今度は玉蜀黍が蒔けるように燃やしておくれ」

 そう言うと、老人は帰路についた。蛇は大きく口を開き、みずみずしい木に向かって火を吐きだした。木全体が燃え上がった。強風が吹き、火は四方に広がりそばの森全体にまで及んだ。そして広々とした畑ができた。火が消えて数日後、老人と蛇は玉蜀黍を蒔くため畑の準備をした。

 仕事は順調に終わり、老人は蛇を連れ家に帰った。家はまだ閉まっていたので、老人は声をかけた。長女が戸を開いたが、蛇を見るとすぐに戸をまた閉めてしまい言った。  

「蛇は臭いわ。決して開けないわよ。」

 三女の番になり、彼女は父の言葉に従い戸を開け蛇を入れた。夜になると、蛇は寝るので箕をくれと言った。老人はすぐに子供たちに箕を取るように言った。長女は言った。  

「蛇は臭うわ。そのままでいいじゃない!」

 次女は言った。

「蛇は汚いわ。そのままでいいじゃない!」

 ただ三女だけが箕を取り蛇を寝かせた。蛇は礼を言うかのごとく頭を下げ、囲炉裏のそばの箕の中でとぐろを巻いて寝た。その夜、三女は眠れなかった。彼女は蛇の寝ている所が輝かしい光輪を発するのを見て、密かに思った。

「きっとこの蛇は神様よ。私たちの家に来てみたのよ」

 翌朝、老人は三人の娘達を呼び教え諭した。

「蛇は儂のために木を切り、畑を焼き、玉蜀黍を蒔いてくれたのだ。だからお前たちのうちの誰かに蛇のところに嫁いで欲しい。誰か同意してくれればござを抱えて蛇と一緒にその穴に行くのだ。」

 二人の姉は父の言葉を聞いて拒絶した。ただ三女だけが父の言葉にうなずき、服を整理すると蛇についてその穴に帰った。

 川岸に着くと、蛇は三女に告げた。  

「僕の首に赤い紐を結びなさい。そしてそこに立ってちょっと待ってなさい。あとで首に赤い紐をつけた者をみたら、それは僕だからね」

 そう言うと蛇は這って森に行った。

 しばらくして、森で鳥達が競い合いさえずった。小川は石のすき間で音を立てた。そしてとてもハンサムな若者が現れた。彼女はまだあっけにとられその若者を見ていた。その若者は笑い、首にある赤い糸を彼女に見せた。彼女は自分の夫であることに気づきとても喜んだ。 蛇はまた妻を連れて進んだ。大きな川岸に着いた。その川の水は澄み、両岸は樹木が生い茂っていた。彼は妻に告げた。

「目を閉じて! 僕が背負うから。もし鶏かアヒルの鳴き声を聞いても、目を開けてはだめだよ。まだ家に着いてないから。犬が吼えるのを聞いたら目を開けなさい」

 そう言うと、蛇は彼女を背負い水の中を進んだ。しばらく進んだ。鶏やアヒルがうるさく鳴くのを聞いたが、彼の言葉を忘れず目を開けなかった。もうしばらく進み、犬が吼えるのを聞いてやっと目を開けた。するとそこは豪華な家だった。その家は全て金銀で輝いていたが、全く人影がなかった。ただ金の柱のどの柱にも非常にたくさんの蛇が巻きついていた。

 彼女が怖がっていると、夫が大声で呼んだ。

「父さん! 家の者たちみんな! 家に入って服を着替えて」

 蛇の群れは家の中に入った。しばらくしてまだらの服を着た老人と数人の男性が現れた。それは夫の父と夫の兄弟だった。

 義父が夫に尋ねた。

「お前こんなに長い間どこに行っていたんだい?」

 夫はあらゆることを話し、彼女を家の人たちに紹介した。蛇の一族はとても喜び、すぐに嫁を迎える宴会を開いた。

 

 三年後、彼女は非常にハンサムな男の子を産んだ。ある日、蛇は妻子を連れて妻の父を訪ねた。家に着くと、妻の父は一年前に既に亡くなっていた。父が死に もう会えないと分かり、妻は悲痛に泣いた。二人の姉は父を思わないばかりか妹に対しても嫉んだ。というのも彼女がハンサムな夫を得たからであった。二人は彼女を殺そうと相談した。次女は渓流に水を汲みに行こうと妹を誘った。まじめな彼女は子を抱えて姉と一緒に行った。川に着くと、次女は言った。  

「その子を抱いてあげる。私に水をくんでちょうだい」

 彼女は子を預けて、川に行き水をくんだ。次女はこの隙に乗じて妹を川に突き落とした。流れは彼女を巻き込み連れ去り、そして滝で渦巻いた。妹は死んだ。次女は子を抱えて家に帰り、自分が蛇の夫の妻であるかのごとく振る舞った。まじめな夫が帰ってきた。何も気づかず妻だと思って次女を家に連れ帰った。

 家に帰り、妻のあばた顔を見た夫はすぐに尋ねた。

「なぜたった数日出かけただけでそんなあばたの顔になっちゃったんだい?」

 次女は露見を恐れて嘘をついた。

「家に帰って脂肪を煮てたらその油が顔にかかっちゃったの。だから顔がこんなになっちゃったのよ」

 夫はそう聞いて、もう尋ねなかった。

 夫はその日から妻が以前のようにしとやかでなくなり、かつ美しくなくなったと感じて、心は晴れなかった。

 死んだ三女はというと、一羽の青い鳥に変身した。どんな日でも、夫の馬飼は鳥が垣根の上に飛んで帰るのを見た。その鳥は尋ねるのだった。  

私の子は元気? 元気?

 このことを馬飼は夫に話した。夫は垣根にでて鳥に尋ねた。

「鳥よ! お前は私の元の妻かい? どうしてそんなことを聞くんだい?」

 鳥はすぐにとても悲痛な鳴き声を発して、飛んできて夫の肩にとまった。夫は心を休めるため日夜寝床の上に鳥を連れていった。そして次女を目にすると、その鳥は鳴いた。

ひどいわ! ひどいわ! 私の夫をとったわね

 次女はそれを聞きとても怒った。夫が留守のうちに、彼女は鳥を捕まえ食べてしまった。たくさんの鳥の羽根と骨を畑に捨てた。

 その畑からすぐに竹が生えてきて、枝葉で生い茂り、幹はまっすぐだった。

 竹は次女をとても嫌った。彼女が服を持ってそこに刺繍に来ると、竹は倒れてきて枝に布を引っかけ竹の梢に持っていってしまった。彼女はもう刺繍できなかった。

 次女は竹をひどく恨んだ。彼女は召使いに命じて竹を切り枝葉を落とすと、寝床に敷いてしまった。

 しかしその寝床もまた彼女を好きではなかった。夫が寝るときは非常に心地よかった。まるで綿の敷布団のようであった。しかし次女が寝るとでこぼこになり、彼女は背をひどく痛め、その上寝床の四本の足は折れるかのごとく揺らいだ。

 それで彼女は寝床を燃やしてしまった。まだ一本の竹が赤く燃えているときに馬飼がやって来て火を下さいと言った。それで次女はすぐにやった。馬飼はその竹をつかむと家に持ち帰った。帰ると竹は破裂し潰れた。火が消えた。そして竹の中から銀の指輪が飛び出した。馬飼はその指輪を蛇の夫に持って行った。

 鳥が消えた日から、蛇の夫は悲しみを和らげるためのものを何も持っていなかった。今、美しい指輪を得て、彼は非常に大切にした。

 朝、指輪の表面に、滝の中で座っている三女の妻の姿が現れた。今やっと夫は自分の妻が殺されたことを知り、すぐにその滝に向かった。そして大きな水桶で一杯水をすくうと、指輪をその水の中に三日九晩の間つけた。その後、三女が現われた。彼女は以前より数倍美しい人間になって戻ってきた。三女が戻ったのを見て、家中が大変喜んだ。次女は彼女が以前より美しくなって戻ってきたのを見てすぐに尋ねた。  

「あなた、何をしたらそんな奇麗になったの?」

 三女は答えた。

「あら、家の近くの滝で水を浴びただけよ」

 それを聞いた次女は本当だと思ってすぐに滝に降りて浴びた。流れが非常に強く巻いているとは思ってもいず、彼女は渦に巻き込まれ溺死してしまった。

 再会でき、蛇の夫と三女は焼き畑をして子を育てた。三女は子だくさんで、成長するとどの子も美しく、また農作業がうまかった。



参考文献
『ヴェトナム少数民族の神話 チャム族の口承文芸』 チャンヴェトキーン編、本多守訳 明石書店 2000.

※蛇婿が獣の姿で現れる神霊であることが明確化している。

蛇郎君  台湾

 李遠月という二人の娘を持った男が、花の好きな娘の為に金持ちの庭園に忍んで花を摘んでいると、立派な若者に見咎められて娘の一人を嫁にやる条件で許してもらう。家に帰ってなかなか話せずにいたが、娘の心配に誘われて話す。妹娘は怒ったが、姉娘は承知する。

 一ヶ月後の約束の日、若者が伴を大勢つれて迎えに来る。その夜は泊まったが、遠月が見るとみな蛇体になっている。姉娘に告げるが、「約束だから」と嫁いでいく。遠月も心配なので付いていくが、婿君は立派な邸宅で豪華に暮らしていて安心する。

 話を聞いた妹娘は妬ましくなり、蛇婿の留守の時 姉を訪ね、酒に毒を入れて殺す。死体を家の裏に埋め、姉の着物を着て成り代わる。戻った夫は気付かずにそのまま暮らす。

 数ヶ月後、一羽の雀が庭木にとまって、妹が姉を毒殺したことを唄う。妹は怒って雀を殺し、井戸端に埋める。そこから竹が生えて水汲みの邪魔になる。切って竹椅子を作らせるが、妹の座った時だけひっくり返るので怒ってかまどにくべる。

 隣の婆が灰をもらいに来て、灰の中に大きな餅を見つけ、息子に食べさせようと持って帰り、布団の中に入れて保温しておく。すると女の赤ん坊に変わっていたので、養女にして育てた。

 十数年後、婆が雇われ先で草を刈っていると蛇婿が馬に乗ってやって来て、「朝から晩までの間に何本の草が刈れるのか」と問うた。婆は答えられず、帰ってから娘に聞いた。翌日、婆は娘に言われた通り、「では、あなたは朝から晩までの間に何回花園を馬で巡れるのですか」と問うた。蛇婿は感心し、この知恵を出したという娘に会いに来た。

 蛇婿は娘を見て自分の妻に似ているのに驚く。娘は自分が殺された妻の生まれ変わりであると告げ、二人は再婚した。

 妹は戻って来た姉を見て驚き、恥ずかしさのあまり毒を飲んで死んだ。



偽の花嫁  日本  鹿児島県 奄美大島 大島郡笠利町

 母が畑に芋掘りに行った帰り、雨で橋が流されて川を渡れなくなる。渡してもらう代償に、赤マタ蛇マッタゴに娘の一人を嫁にやる約束をしてしまう。長女は嫌がるが次女は承諾し、夫の蛇に連れられていく道々に豆を蒔いて嫁入りした。

 豆の芽の萌えた頃に母が娘を訪ねていくと、娘はとても幸せに暮らしていた。夫はこちらに一週間、太陽に一週間ずつ居る、神だという。

 その話を聞いた姉は妬ましくなり、自分も妹を訪ねていって、風呂に誘い、焚き殺して、妹の服を着てすり替わった。夫は妻の顔が少し変わったと思ったものの、そのまま暮らしていた。

 ある日、按司夫婦は隣家から食事に招待され、半炊きのご飯と不味い汁を出された。不味くて食べられないと言うと、「食事の味が分かるのに、嫁の入れ替えが分からんか」と言われた。その料理を作ったのは蘇生した妻だった。姉は妹を見るとメラベ虫になり、逃げていった。



参考文献
『南島説話の研究 ―日本昔話の原風景』 福田晃著 法政大学出版局 1992.

※蛇婿が赤い蛇である点など、ベトナムの「神の蛇」に細部までよく似ている。沖縄地方では赤まだらの蛇は虹となって天の水を飲み干すとも考えられている。

按司加那志  日本 鹿児島県 奄美大島 大島郡大和村

 一人で三人の娘を養う母が、芋掘りの帰り、行きは涸れていた川が氾濫していて渡れなくなり、泣いていた。殿様が来て、娘の一人を嫁にやる条件で担いで渡してくれた。

 長女と次女は「老人の背骨なぞ踏み折って、放っておけ」と冷たく断わるが、末娘は「親に産んでもらったのだから」と承諾して、目印の菜種を蒔きながら、車に乗って山寺に嫁入りした。

 菜の花が咲いた頃、長女がそれを辿って妹を探しに行くと、殿様は本土に行って留守中で、妹は立派な屋敷に住んで豪華な着物を着て幸せにしていた。

  奇麗な川に案内された姉は、妹を川に押し込んで殺し、妹の服を着て成り代わる。戻った殿様は妻の変化を不思議に思うが、そのまま暮らしている。

 家に白い鳥が来て、食べ物を荒らした。妻の勧めで打ち殺し、料理して食べて、骨は地炉に投げ込んだ。

 火種をもらいに来た隣の婆が燃えさしを持って家に帰ると黄金に変わり、床下に隠しておくと、留守の間にそこから何者かが出て来て、素早く機を織る。婆が捕まえて「元の姿に戻る方法があるのか」と尋ねると、「隣の殿様夫婦を食事に招待すればいい」と言う。その通りにすると、殿様は「何故そんなに速く機織りができるのか」と尋ねた。すると側から女の霊が「殿様は古い妻と新しい妻の区別ができないのですか」と尋ねた。

 女の霊は元の娘に復活して夫と再婚し、姉は恥じて臼の前に隠れて、トドラ虫になった。


参考文献
『南島説話の研究 ―日本昔話の原風景』 福田晃著 法政大学出版局 1992.

按司の身代わり花嫁  日本 沖縄県 八重山諸島 竹富島

 爺と婆の夫婦。二人の娘がいる。

 山に芝刈りに行った婆は、重過ぎる芝を運んでもらう代償に、村の按司様に娘を嫁にやる約束をしてしまう。長女は分不相応だと嫌がるが、次女は承知して嫁に行く。

 長女は次女の幸福を見るにつけ妬むようになり、「爺と婆が井戸掘りをしているから会いに行こう」と井戸に誘う。「かんざしを取ってくれないと、眩しくて、爺と婆にあなたが見えない」「着物を脱がないと見えない」と嘘をついて豪華な衣装を脱がせていき、しまいに「井戸の底の爺と婆を呼んでみなさい」と井戸を覗かせて、その隙に井戸に突き落とした。姉は妹の着物とかんざしを身に着けて按司の家に帰った。

 その頃、留守にしていた按司は郷里へ向かう船に乗っていた。すると一羽の小鳥が船のともにとまって、

按司ぬ船とむ タシキャー、タシキャー

と鳴いた。按司は珍しく思って、捕らえて連れ帰り、家で飼うことにした。

 ところが、小鳥は按司が書を書くと足で掻き破り、妻が糸を紡ぐと引っかきまわす。妻は怒って、夫に言って小鳥を殺し、料理して食べてしまった。

 骨が埋められたところから松の木が生え、二、三年で大きくなった。妻はその木で機織り機を作ったが、悪い布しかできないので斧で割って火中に投じた。

 隣の婆が火鉢に火種をもらいに来、もらって帰ると黄金になっている。喜んで誰にも言わずにたんすにしまいこんでいると、四、五日後に娘に変わって反物を織っていた。婆は娘を養女にした。

 ある日、娘は「按司様にご馳走したいから呼んで来てください」と婆に頼む。婆は喜んで按司を招待した。しかし、娘は半煮えのご飯に生葉を水煮した汁など、わざと不味いものを作って出した。按司が文句を言うと、娘は「ご飯の不味いことは知っているのに、自分の妻の違うことには気付かないのですか、情けない」と笑った。

 按司は家に帰って心から妻を見て、すり替わっていたことに気付いた。そして娘を認めて、第二の妻に迎えた。

 偽の妻は娘を見ると恥ずかしさのあまり縮み、軒下に隠れて足が沢山生えて雨垂れの虫になり、逃げていった。


参考文献
『南島説話の研究 ―日本昔話の原風景』 福田晃著 法政大学出版局 1992.

※異伝によっては、蘇生した妹は按司の妻になっている姉の料理を邪魔した上、「本物の妻が分からずに別の女を妻にしている」と按司を罵って逃げていったことになっている。[偽の花嫁]系の話では、夫は今まで暮らしていた妻が偽者だと知った途端、容赦なく殺してしまうことが多いが、この話では偽の妻にも愛着が湧いているようで、自ら罰することはない。ただ、偽の妻の方が自主的に恥じて逃げていくのである。この辺が沖縄人の美意識らしい。

 ところで、この話の別題は「正しき道は勝つ」という。……分かり易い。(笑)



三人姉妹  グルジア共和国

 貧乏な男が棚で三粒の麦を見つけ、蒔く。実りが畑一杯になって喜ぶ。ところが、収穫した麦の山の周りを巨大な蛇グブェレシャビがとりまき、しっぽをくわえていた。男には三人の娘があったが、長女は逃げ帰り、次女は何とか話を聞こうとしたもののやはり逃げ帰り、三女が蛇に話を聞いた。

 蛇が言うには、「娘を一人嫁にくれ。でなければ麦は渡さない」と。

 男は娘一人一人の意志を聞いた。上の二人は嫌がったが末娘は承知し、蛇と結婚して、先に行く蛇の後を急いで付いていった。

 

 村から出ると、蛇は皮を脱いで美青年に変身した。そして自分の家に連れていって、娘に

「僕の国ではカジェト語(伝説上の英雄的種族ナルト人の秘密の言葉)を使う。なんでも、言われる反対のことをするんだ」

 と教える。その通りにして、娘は婚家の人々に気に入られる。

 

 幸せな生活の中で娘は懐妊し、子を産むために実家に戻って来た。姉達は妹が幸せなのを知って妬んだ。無事に子を産んだ娘は迎えに来た夫と一緒に帰ろうとするが、長女は自分も行きたいとせがんだ。「姑は悪い女だから、きっと姉さんは我慢できないわよ」と娘が言ったが、それでもと食い下がって同行した。

 道中、姉は口実を作って、妹の夫だけを先に行かせた。やがてりんごの木が生えたところに来ると、妹に言った。

「りんごの実をとってらっしゃい。でもあなたの着物が駄目にならないように、私のと取り替えて。子供は私が抱いていてあげる」

 しかし、姉は妹を高い果樹の上に残して逃げ去った。妹は降りられず、木の上に取り残された。

 

 姉は妹に化けて夫の家に行った。しかし「言われたことの反対にする」のが出来ずに、家人に不審がられた。だがそれ以外は何事もなく、子供は牝牛の乳で育てられて大きくなった。

 一方、取り残された娘――母は涙と血を流し続け、い草が生え、森となり、あらゆる植物が生えていた。子供はそこに行って牝牛を放牧し、りんごの木の側のい草で笛を作った。その笛を吹くと、こんな音色を奏でるのだった。

チャルメラよ、お前のうめき声はどういう意味なの?

チャルメラはどうしていつも泣いているの?

それは、あなたの母が泣いているのよ、可愛い坊や!

私の可愛い息子、私の最愛の子!

 子供はこの笛が気に入り、いつも吹いていた。姉――いわば継母は笛の音を聞きつけて怒り、打ち壊した。しかし、壊れて尚、笛は歌い続けたので、かまどの火の中に放り込んだ。すると、かまどの灰が母の姿となって壁に貼りついた。継母は灰を引っかきまわして、風呂の屋根の上に撒いた。すると立派なポプラの木が生えた。父は喜んで、ベッドを木の側に持ち出して眠るようになった。彼が眠ると、ポプラは枝を下ろし抱きしめ、髪を愛撫する。継母は嫉妬で死にそうなほど怒り、「あのポプラの木を切って私の水浴び桶を作ってくれないと死んでしまう」と訴えたが、夫は取り合わなかった。それで、夫が狩りに行っている間に、木を切って水浴び桶にしてしまった。

 切り刻まれたポプラの木の切れ端が、どこかの老婆の家の屋根に落ちた。老婆は木屑をパンこね鉢のフタにした。ところが、それ以来、老婆の留守の間に家事がしっかりされているようになった。近所の人がしてくれたのかとお礼を言うと、「私達じゃありませんよ。今度、隠れて見ていなさい」と言われる。それで隠れて見ていると、木屑が女に変わって家事を始めた。老婆は女を捕まえ、「私の娘になりなさい」と言った。女は喜んで養女になった。

 その後、女は老婆に頼んだ。

「優しいお母さん、この国に妻と息子と一緒に暮らしている、あのグブェレシャビを、この家へお客にお招きしてください」

 老婆はその通りにしてやった。食事が終わり、ワインを持って乾杯するためのスピーチが始まった。女は言った。

「皆さんの健康を祈って。私の夫よ、私の息子よ、そして私の姉よ」

 この言葉で夫は全てを悟った。続けて、女はこれまでのことを話した。

 こうして女は夫と息子の許へ帰り、姉は二頭の馬のしっぽに縛られ、引き裂かれた。



参考文献
『世界の民話 コーカサス』 小澤俊夫編訳 株式会社ぎょうせい 1977.

※何でも言われるのと反対にするのは、死者(の国)は生者(の国)と何もかもが反対だという思想が根底にあるからだと思われる。例えば、韓国の小鬼トッケビの踵は反対に付いているとか、日本でも股の間から逆さに覗くと魔物の正体が見えるだとか言われるのは、この思想を下敷きにしているからであろう。

 娘が木の上に取り残されて動けなくなり、"死"の状態になるのは、世界樹信仰〜木の枝の上に冥界がある、という思想からきているのだろう。

賽玻謨サイポモ(蛇と人間の夫婦)  中国 

 太古、彝族の祖先は最も大きく高い山に住み、最も大きな川には龍王が棲んでいた。ある日 龍王は蛇郎を連れて地上へ行った。蛇郎は地上の美しさに惹かれて居住を望むが、龍王は許さずに大洪水を起こして世界を水没させた。

 天に近い山で生き残った二人の人間がやがて結婚し、一男七女をもうけた。蛇郎は末娘を見染め、ミツバチに仲人を頼む。ミツバチは姉妹の一人一人に意志を問うたが、結納の品を受け取ったのは末娘だった。六人の姉達はそれぞれ、貂(テン)、猿、兎、雉、豹、虎の嫁になった。両親は末娘を蛇郎の家まで送り、十日間滞在して満足して帰った。

 蛇郎は農業、七妹は放牧して豊かに暮らし、二人の子ももうけて、巳年に里帰りした。他の姉達も里帰りしたが、豹やら虎やらで大騒ぎになり、七妹を羨んだ。

 長姉は蛇郎が畑の出小屋に行って留守の間に七妹を訪ねて来て、子供をあやすふりをして泣かせて、「あなたの着物を着ないと守りができない」と言って着物を取り替えさせた。それから七妹を枯れ枝のある果樹に登らせ、七妹が落ちて死ぬと死体を井戸に隠して成り代わり、三年過ごした。

 七妹は鳥になって真相を訴え、蛇郎に飼われる。姉に焼き鳥にされるが、真っ赤な炭になって火花を散らしたので、肥え桶に捨てられた。蛇郎が肥えを畑に撒き、立派な白菜ができた。姉はその白菜を食べて喉を痛め、水を飲もうとして井戸に落ち、死ぬ。

 七妹は生き返って、幸せに暮らした。



リンキタンとクソイ  インドネシア

 八人姉妹がいて、みな夫がなかった。ある日、クスクスが嫁取りにやってきた。クスクスは娘達一人一人に意志を問い、末娘のリンキタンだけが承諾した。

 結婚してから、リンキタンは夫が皮を脱いで人間になることを知った。数日後に皮を隠し、以来 夫は人間のままでいるようになった。彼の名はクソイといった。ここにきて、姉達はリンキタンを妬んだ。

 クソイは商売の為、遠くへ船出していった。いよいよ彼が帰るという日、姉達はリンキタンをブランコに誘い、大きく揺さ振った。揺さぶられ過ぎて、リンキタンは海に突き出した木に引っかかった。髪の毛が絡んで動けなくなったが、姉達は彼女をそこに残したまま帰っていった。

 リンキタンの下を、木の船が通っていく。リンキタンは歌った。

ああ、木の船をお持ちのあなた

可哀相な私を哀れんでください

私の夫 クソイはどこに?

「クソイはずっと後ろだよ」

 木の船の主はそう答えて去って行った。その後、彫刻した木の船、銅の船、錫の船、銀の船が通ったが、同じように答えて去っていった。最後に金の船が来たが、リンキタンの歌声を聞くとスピードを落とし、中からクソイが出て来た。リンキタンはクソイに救われた。

 クソイが帰ると、大勢の人が彼の家に集まって祝宴になった。その中にはあの姉達もいたが、クソイは何も知らぬふりをして、道中で女の人を助けた話をし、最後に着飾ったリンキタンを連れてきた。しかし、「犯人は分かっているが、その者達はきっと反省する。仕返しはしない」と犯人を言わなかった。姉達は自ら告白し、許しを乞うた。

 以降はみな幸せに暮らした。



参考文献
『世界の民話 アジア[U]』 小澤俊夫編訳 株式会社ぎょうせい 1977.

※これは蛇婿ではないが、異類婚姻譚からはじまる[偽の花嫁]ということで、ここに紹介した。

 妬む女たちがブランコに誘って娘を害するモチーフは「白檀の木」にもある。あちらでは水に落とされるが、こちらでは木の上で動けなくなる。水に落とされるもの共々、娘が木の上に取り残されたり縛られたり、はては墜死させられる話は、中東以東のシンデレラ系話群では非常にしばしば見られる。

 木の上で娘が動けなくなり、それを《死》の暗示とするのは、世界樹信仰〜木の上に冥界がある、という観念が根底にあるのだろう。「三人姉妹」や「瓜姫」でも同様に、《妬む女》によって木の上から動けなくされた女が歌で下界にそれを報せる。霊は基本的に姿の見えないもので、歌声のみで生きた人間に働きかけるのが相応しい。



参考 --> <小ネタ〜ブランコ娘と吊られた屍肉




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