>>参考 [炭焼長者:初婚型][炭焼長者:父娘葛藤型][竈神の縁起][男女の福分
     「青竹一本に粟一石」「住友の起こり」「モハメッドの花」「蛇の王冠」「如願

 

炭焼長者(再婚型)  日本 岩手県

 昔、鍛冶屋に女房と三歳になる息子があった。この女房は面倒見がよく気前がよくて、弟子どもにまで何不自由ないように銭金を与えていたが、鍛冶屋は「こんな女房では金は貯まらない」と嫌って、とうとう息子ともども家を追い出してしまった。

 女房は、今更 実家に帰っても居場所がないと思い、当てのない旅に出かけた。そのうち道に迷って深い山に迷い込み、日が暮れて、灯りを頼りに炭焼き小屋に辿り着いた。覗いてみると、鍋が火にかかっているが誰もいない。小屋の前の石に腰掛けて待っていると、汚らしい爺さんが帰ってきた。けれども、爺さんは女房を見ると踵を返して またどこかに行ってしまった。すっかり夜になって寒くなってきたのでどうしようかと思っていると、ようやく爺さんが帰ってきた。爺さんは

「この変化物が、まだ そこにいたか!」と怒鳴った。女房は驚いて「私は決して変化物などではありません、旅の女です。どうか一晩泊めてください」と言った。すると爺さんは

「お前は本当に人間か、なら家に入ってもよい。ただ、この鍋の飯が、俺一人だったら明日の朝の分まであると思っていたが、今夜お前と二人で食べれば朝には何もなくなる」と言って困った顔をした。

「明日のものは私がどうとでもいたしますから」女房はそう言って、二人で鍋の飯を食べた。

 翌朝になると、女房は懐から金を出して、これで米を買ってきてくださいと爺さんに言った。ところが爺さんは馬鹿にして、

「そんな小石でどうして米が買える。炭ならともかく」と言う。

「いいえ、これは小石ではありません。小判という宝物です。これさえあれば米でも味噌でも着物でも、何でも買えるのですよ」

「はん、そんなものが宝物なら、俺が炭を焼く窯の辺りは一帯に小判だ」

 そう言って爺さんは笑うのだった。

「とにかく、このお金で買い物をしてきてくださいね」

 女房は「米と魚、古着二、三枚」と書いたメモを渡して、爺さんを買い物に出した。爺さんが出かけてから、さっき爺さんの言ったことを思い出して炭焼き窯の辺りを見に行くと、なんと、本当に黄金が積み重なっている。その金を小屋に運び込むと、入りきらずに外にあふれ出すほどだった。そうしているうちに暗くなったが、爺さんは帰ってこない。待っていると、何か独り言を言いながら帰ってきた。頼んだものを何一つ持っていない。

「一体どうしたのですか、こんなに遅くなって。それに、頼んだ米や魚は?」

「途中であんまり腹が減ってたまらんから、俵から米を取って食い食い帰ってくると、俺の後ろから付いてくる奴がいる。だから、そいつにも一掴みずつ投げてやりながら来たら、全部なくなってしまった」

「どこにそんな人がいるんですか」

「それ、そこにいる」

 爺さんが指さすのを見ると、それは彼自身の影だった。

 こんな抜けたところのある男であったが、女房はこの爺さんを嫌わなかった。二人はそのまま夫婦になって、炭焼き窯の黄金で人を雇って木を切ったり家を建てたり、ついには炭焼長者と呼ばれる身分になり、辺りは栄えて沢山の家が出来て町になった。

 さて、女房を追い出した鍛冶屋はと言うと、それ以来 何を作ってもまともに出来なくなった。鎌を打とうと思えば鉈になり、鍬と思えば斧になる。仕事はなくなり、ついには乞食になって、廻り廻って炭焼長者の門前に立った。女房がこの乞食の姿を見ると、どうにも見覚えがある。よくよく見れば前の夫であったから、可哀想に思って米三升を渡し、これが無くなったらまた来なさい、と言った。

 しばらくすると本当にまた来たので、女房が夫に相談すると、「そうか、それでは俺が出て話してもマズいだろうから、何気なくここにいるようにお前の口から言えばいい」と言うので、女房が乞食爺に「そうして世間をさすらうよりも、ウチの下男になって働いてはどうですか」と言うと、前夫は何も知らないものだから喜んで、炭焼長者のところで一生を送ったという。



参考文献
『日本昔話集成(全六巻)』 関敬吾著 角川書店 1950-

※この話では、一緒に家を出された三歳の息子がどうなったのか、語り手が失念していたようで すっぽり語られていない。だが、類話を見ていくと、後述のように、子供の存在は結末部への仕掛けになっている。

 再婚して幸せに暮らしている妻のところに、落ちぶれた前夫がやってくる。子供は前夫にまとわり付くが、前夫は何も気付かない。妻は「自分の子供も判らないとは」と嘆き、前夫は己を恥じる。【手無し娘】に近い結末である。(【手無し娘】の方は、夫が落ちぶれた姿をしているのは変装であり、妻も再婚していないため、何の障害もなくよりが戻る、曇りなきハッピーエンドになるのだが。)

 なお、[炭焼長者:再婚型]の朝鮮地域の類話では、妻が子供がいることを理由に、再婚相手と話し合って別れて、落ちぶれた前夫とよりを戻すことがある。子供を重視する民族性が見えるようで面白い。

 

 以下は類話。妻が神の姿を見ることのできる福運を持っていることが強調されている。

かねの神福の神  日本 岐阜県郡上郡西川村内ヶ谷

 昔、どえらい長者があって、みんな男衆も女衆も祭を見に行った。嫁さんが一人留守居に残っていると、奥の間でぶつぶつ話声がする。唐紙からかみ(美しい紙を張った障子)のあい(隙間)から見ると、火鉢にもたれて、お金の神様と福の神様が話してござる。

「ここの旦那は、あんまり せる(する)ことが荒うて、俺を粗末にする。ご飯をこぼいても(こぼしても)、踏んだり だだくさ(散らかったまま)にするで、俺は往く」

 福の神様が言うとお金の神様も、

「俺もりかねているで、一緒に行く」

 何処へ向かうと相談さっせる。大和やまとの平九郎は貧しけれど気のいい人じゃで行く、と言わっせるげな。嫁さんも、こりゃ俺も付いて行こうと思って、小さい風呂敷に着物を包んで行くんじゃって。そこはどえらい長者じゃで、馬は十二匹、男衆も七十五人もあったそうじゃが、その嫁さんは小さな風呂敷まくれを持って行くんじゃって。神様の通った後にはお金がこぼれていて、通らしたことが判ったげな。

 大和の国の平九郎を探いて行ったら、深山の奥じゃったげな。平九郎という人は年のいったひどい顔をした人じゃった。

「食うものは何にもないが、よく来てくれた」

 行った嫁さんがお金を出いて、「これでお米を買ってきてくれ」と言うと、「こういうものでお米が買えるのか。こんなもので買えるなら、今日、あえ(薪)伐りに行ったら、いくらでもひたっておった」

 かねの神がそこへ行かしたもんじゃでな。町へ行って米とたまりを買ってきて、二人で食べた。そこは金の神と福の神が行かしたもんじゃで、どえらい金持ちになった。

 嫁さまの行かした方は、旦那が芝居見に行って帰って来て次の日 馬を引き出そうとすると馬の脚が折れるし、障子でも何でも諸道具が、ちょっと構うとべしべしになってしまった。それでばたばたと潰れてしまった。やっぱり金の神や福の神が御座らっせんと、立っておられんものじゃて。おそがいもんじゃ。

 それでちょっぴり木のこあし。


参考文献
いまに語りつぐ日本民話集 動物昔話・本格昔話10 [大歳の客/長者] 長者になる秘訣』 野村純一/松谷みよ子監修 作品社 2001.



参考 --> 「男女の福分



丁香ティンシァン海棠ハイタン  中国

 老母と息子夫婦がいた。老母は倹約家、息子とその妻の丁香ティンシァンは働き者。真面目な生活のおかげで暮らしぶりもよく、丁香は姑に孝養を尽くし、一家は睦まじく暮らしていた。

 ある時、丁香は長く里帰りした。その隙に、近所に住む海棠ハイタンという遊び人の美女が、丁香の夫を誘惑した。夫は海棠の色香に惑い、それからというもの、丁香に対する態度がまるで変わってしまった。料理がまずいと言っては叩いたり罵ったり、どんどん態度が冷たくなって、ついには離縁状をたたきつけた。丁香が別れの挨拶に行くと、姑は大声で泣いて、喉に痰を詰まらせて死んでしまった。丁香は姑の葬式を済ませ、何度も何度も振り返りながら家を出て行った。

 実家に帰っても面目を潰して迷惑をかける。そう思って行く当てなく彷徨う丁香は、荒れた廟にたどり着いた。この廟には老母とその息子が二人で住んでいたが、貧しい暮らしをしていた。優しい老母は話を聞くと丁香をそこに住まわせてくれた。丁香は三丈二尺もの長い黒髪の美人で、働き者で賢く、外のことも内のことも上手なので老母にたいそう気に入られた。そのうちに老母の勧めで丁香は老母の息子と結婚し、ますますよく働いたので、暮らしぶりもだんだんよくなっていった。

 さて、丁香の前の夫は海棠と結婚してからは畑仕事もしなくなり、何年もしないうちに家財も何もかも食い潰してしまった。海棠は男がすっかり貧乏になると「仕方がない、私たちは別れましょう。私は私の道を行くから、あんたはあんたで一人の道を行きなさいよ」と振り払うように行ってしまった。こんな男は乞食になるよりしょうがない。

 ある日、男は丁香の廟にたどり着き、「哀れみを……一椀のお恵みを……」と哀願した。丁香が「おや、あの声は聞き覚えが……」と出てみると、何と離婚した前の夫ではないか。丁香の胸の中は煮えたぎるようだったが、あんなボロを着ている姿を見るとやはり哀れで仕方がない。熱いうどんを作って出してやって、自分のことを覚えているか試そうと、長い黒髪一本と、別れたときに身につけていた銀のかんざしを椀の中に入れておいた。ところが、男は髪の毛を見つけて捨て、かんざしも鶏の骨だと思って捨てして、まるで気が付かない。「ああ、あんたは私のことなどすっかり忘れているのね」と丁香は泣いた。

「あなたはどなたですか」

 男は頭を上げて丁香を見たが、まだ気がつかない。

「私は、あんたに離縁された丁香よ。海棠はどうしたの、あんたによくしてくれなかったの」

 ここまで言われて、やっと男は丁香の髪が三丈二尺あったことや、鶏の骨と思って捨てたのが、結婚した時に髪に挿してやったかんざしだったことに気が付いた。男は恥ずかしくなり、面目ないと廟の柱に頭をぶつけて自殺した。

 丁香は大きな声で泣いて、「海棠、海棠、あんたは私の前の夫を騙して殺したも同然だわ。私はあんたとはもう決して会わない」と言った。それで人は丁香(ライラック)と海棠を一緒に植えないようになったという。



参考文献
「丁香和海裳為什麼不在一起栽」/『中国民間文学集成遼寧巻撫順市巻上』
丁香と海棠」/『ことばとかたちの部屋』(Web) 寺内重夫編訳

※丁香、海棠という名前は中国のこの系統の類話に頻繁に出てくる。[竈神の由来]参照。

 ところで、丁香は前の妻の顔さえ判らない愚かな前夫を試し、かつ自分を報せるために、自分で作った温かいうどんの中に髪の毛と装身具を入れておく。このモチーフは他の民話でも類似のモチーフを見ることができる。

火焚き娘]たちは、自作のスープの中に金の装身具や金の髪を入れておく。皮を脱いで美しく変身した自分の正体に気付かない愚かな王子に気付かせるためである。[蛇婿]の妻たちは、妻が入れ替わったことにも気付かない愚かな夫に報せるため、自分の料理を食べさせる。

 彼らがいかに愚鈍であれ、スープの中の金を発見したとき、すぐさま真相に思い至る。ところが、丁香の夫はまるで気付かない。愚鈍の極みである。

 

張郎、妻を離縁  中国 河南省桐柏県程湾

 張という貧しい男が丁香という勤勉な嫁を娶った。彼女は、日があるうちは張と共に畑に出かけ、夜は遅くまで糸を紡いだ。おかげで張家の暮らし向きはよくなり、草葺き屋根の小屋を瓦屋根の家に建て替え、倉も建て、牛馬を沢山飼うようになった。そうすると、張は仕事をせず飲み食いして遊びほうけるようになり、もっと金持ちになりたいという欲だけは留まるところを知らなかった。

 そんなある日、張は街で駱駝を牽く人相見に出会い、自分の運勢を占ってもらった。すると「旦那の運命は良いが、どうも奥様の方に問題がある」と首を左右に振る。張は家に戻るなり、問答無用で妻を離縁して「すぐに出て行け」と言い放った。

 あまりのことに丁香は泣いて、「金貨も銀貨も一切要りません、あの古い車と黄牛と雄鶏一羽をください」と頼んだ。そして牛に語りかけた。

「牛よ、もしお前が私を金持ちの家に連れていったらお前を斬り殺す。もし貧乏人のところへ連れていってくれたら、ご褒美に美味しい草を食べさせてあげるよ」

 黄牛は首を下げ尾を振って、車を曳いて歩き始めた。いくつもの川を越え、村々を通り、暗くなった頃に壊れた窯の前で停まった。老婆が窯の中から出て来るのを見て、丁香は車を降りて一夜の宿を請うた。

 丁香は老婆に甲斐甲斐しく仕え、数日経って柴刈りの息子が町から戻ってくると、老婆の望みに沿って若い二人は天地を拝んで夫婦の誓いをした。

 勤勉な夫婦は雄鶏がときの声を聞くとすぐ起きて働いた。やがて古い窯を壊して瓦屋根の屋敷を構え、蔵には食糧が溢れ、家畜小屋には牛や馬が一杯になった。

 他方、張郎は丁香を追い出してから富豪の娘を後妻に迎えたが、その女は張同様に怠け者の遊び好きで、田畑も家屋敷も次々に人手に渡り、そうなると後妻は張を見捨てて出て行った。張は骨と皮だけになって物乞いをして歩き、そうとは知らずに丁香の家にやって来た。そしてその家の妻が離縁した前妻だと気付くと、恥じて丁香の鍋台(かまど)に頭を打ちつけて死んだ。


参考文献
「張郎休妻」 梁士東 記録、梁智権 語り/『河南省桐柏県巻V故事』 桐柏県故事集成総編集委員会 1987.
炭焼き長者の話 搬運神」 伊藤清司著/『比較民俗研究 21号』 2007.

※丁香が《牛に導かれて》《川を渡り》、《暗くなった時に》辿り着いた場所に窯があって、《窯の中から老婆が出てくる》点は興味深い。全て冥界との関連を思わせる要素である。[牛とシンデレラ〜異郷へ導く神牛]系のシンデレラ譚も思い出さされる。


参考 --> 「張郎と丁香」「青竹一本に粟一石」「竈神の起り」「[火土]神故事(乙)」「司命神

運気  中国 四川省甘孜州理塘県 蔵族(チベット族)

 国王が卑しい使用人の娘を王子の嫁にしたが、王が亡くなると大臣が「この女は王妃に相応しくない」と言って王宮から追放してしまった。

 王妃は唯一与えられた黄牛に向かって「南無阿弥陀仏。黄牛よ、私はお前の行く所に付いて行きます」と言い、尾を握って歩き出した。

 日が暮れた頃、牛は深い森の中で動かなくなった。誰もいない森で女は泣きながら眠りについたが、目覚めると、壷焼きの土工とその母が心配そうに覗き込んでいた。

 女は壷焼きと夫婦になり、黄金を発見してその地方の王と妃に推挙された。


参考文献
『蔵族民間故事下集』 巴登 語り、成衛東 採録 甘孜蔵族自治州文学芸術界聯合会 1990.
炭焼き長者の話 搬運神」 伊藤清司著/『比較民俗研究 21号』 2007.


参考 --> 「竈神の解説」「青竹一本に粟一石」「竈神の起り」「[火土]神故事(乙)」「司命神



参考--> 「張郎と丁香




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