【炭焼長者】は、貧しく教養のない男が 神意によって 高貴な妻を得、幸運を手にして裕福になるという栄達譚で、下世話な言い方をすれば《あげまん》の話である。この妻を大事にした男は富み栄え、追い出した男は落ちぶれる。この点は【竜宮童子】と共通する。また、落ちぶれた前夫が惨めな死に方をして神になったと語られることがあり、その場合は、特に[竈神の縁起]譚と結びついている。

日本以外にも朝鮮半島(韓半島)、中国、東南アジアに類話が分布し、近いものはフランスやイギリスにも見られる。大まかには[初婚型][再婚型]、そしてそれらのミックスのような味わいのある[父娘葛藤型]の三種に分けられる。

>>参考 【塩のように大事】【手無し娘】【運命説話】【竜宮童子

炭焼長者:初婚型>>物語を読む

結婚の縁に恵まれない富家の娘が、神意に従って一見つまらない男と結婚するが、幸運を得て夫婦で富み栄える。

  1. <運命の結婚>高貴な女の容姿が醜く変わり、相応の縁談がなくなる。女は神意に従って家を出て、a.神託のままに b.牛馬に導かれるまま進んで)貧しい男の家にたどり着き、押しかけ女房になる
  2. <幸の獲得>女が財宝をもたらし、夫婦は裕福になる
    1. 女が実家から財宝を持参する
    2. 男は元々沢山の金銀を持っていたが、その価値を知らずにいた。女が価値を教える
      • [愚かな男]女が持参の金を男に渡して買い物に行かせるが、金の価値を知らない男はそれを石代わりにして水鳥に投げつけ、失ってしまう。
  3. <シンデレラ的変身>醜かった女が美しくなる。(共に、夫も美しくなった)

炭焼長者:星霜寡婦型

朝鮮地域独自の型。初婚ではなく再婚なのだが、落ちぶれた前夫や父と再会する結末部がなく、構造としては[初婚型]に含まれるとみなす。

朝鮮民族には寡婦の再婚をはばかる風潮があり、若くして寡婦になった妻は生涯再婚せずに婚家に仕えねばならなかった。しかしa.憐れんだ舅が便宜を図ってやって b.嫁自身が耐えきれず)、婚家を密かに逃げ出して、放浪の果てに(占い等の神意を得て)貧しい炭焼きと出会い、押しかけ女房になった後に黄金を発見して裕福になる。

炭焼長者:再婚型>>物語を読む

夫に離縁された富家の妻が、神意に従って一見つまらない男と再婚するが、幸運を得て夫婦で富み栄える。一方、前夫はおちぶれて前妻に憐れまれる立場になる。

前夫を中心にして物語を見た場合、構造的に【竜宮童子】と類似した部分がある。驕りたかぶって《福運持ち》を粗末にしたため、それによって得ていた幸を失ってしまうのである。

  1. <運命の結婚A>福運のない男と福運に恵まれた女が結婚する
    1. 産神が問答して、生まれた男女の運を定める。富家の息子は貧乏の運、貧家の娘は富貴の運。二人が結婚すれば幸せに暮らせる、と。それを知った二人の親は成長した子供たちを結婚させる。→[男女の福分(朝鮮地域、日本)
    2. 金持ちの男が息子の運を占うと、福運が無いと出る。福運を持つ娘を探し出して結婚させるが、女は(貧乏人/最下層の身分)出身者だった(中国、朝鮮地域)
    3. 夫婦が戯れに自分たちの運勢を占ったところ、夫には福運が無いが妻にはある、と出た(中国)
  2. <夫婦別れ>夫婦は離縁し、妻は家を出る
    1. 夫が妻を追い出す
      1. 夫が吝嗇家だったため〜妻が気前よく慈善活動を行った、新米でご飯を炊いたことに夫が怒る
      2. 妻が失敗したため〜妻が新年に黍飯・粟飯など粗末な食事を出した、新年に寝坊したことに夫が怒る
      3. 夫が浮気して別の女と再婚した
      4. 妻の出自が最下層の身分(白丁)、貧乏人であることを忌んで追い出す
      5. 自分に福運が無く、妻の福運に頼っていると言われて腹を立てて追い出す
    2. 妻が家を出る
      1. 神が「ここにいても幸せはないから、誰某のところに行け」と夢で告げたから
      2. 家に住む福の神たちが夫の横暴に呆れ果て、「この家を出て誰某の家に行こう」と問答しているのを聞いたから
      3. 夫から最下層の身分(白丁)、貧乏人の出自であることをなじられたから
    3. 家が破産し、食べるものもなくなったため
      1. 怠け者の夫が家に居着いていた福の神の片目を矢で射抜いて追い出してしまい、裕福だった家が没落した
  3. <運命の結婚B>妻は神意に従ってa.神託のままに b.牛馬に導かれるまま進んで)貧しい男の家にたどり着き、押しかけ女房になる
  4. <幸の獲得>女が財宝をもたらし、夫婦は裕福になる
    1. 女が財宝を持参する、女に福の神が付いてきている
    2. 男は元々沢山の金銀を持っていたが、その価値を知らずにいた。女が価値を教える
    3. 泉から酒が湧いているのを女が発見する
  5. <妻の才覚>妻は発見した金塊を売る方法を事細かに夫に指示する。市場で神仙的な存在に売るか、長者を騙して大金をせしめ、長者を破産させる。)※朝鮮地域に顕著。日本では無い
  6. <前夫の零落>女が出て行ったあと、前夫は落ちぶれる。
    ※ここで話が終わる場合もある
  7. <前夫との再会>落ちぶれて(乞食/物売り)になった前夫が、そうと知らずに女の家に来る。(朝鮮地域の類話では、前夫が零落したことを知った妻が故意に招き寄せる。)
    女は哀れんで食べ物や金を恵む
    1. [愚かな男]女は食べ物の中に金を隠して前夫に渡すが、それに気付かずに石代わりに犬や水鳥に投げつけたり、捨てたり、別の者にやってしまったり、別の食べ物と交換したりする
    2. [愚かな男]男は相手が前妻であると気付かない。「奥様」と媚びたり、「こんなに金をよこすとはバカなヤツだ」と内心で嘲る
  8. <前夫の結末>
    1. 前夫は相手が前妻であることに気付き、恥じて去る
    2. 前夫は相手が前妻であることに気付き、恥じて自ら、あるいは驚きのあまり死ぬ。女は前夫を祀る。 →[竈神の縁起
      • 前夫は相手が前妻であることに気付かないまま横死する。女は箕売りの前夫から買った沢山の箕で屋根を葺いて寺を建てる。箕寺→三井寺の縁起
    3. (日本独自のパターン)前夫は相手が前妻であることに気付かないうえ、何度こっそり金を与えても気付かずに捨ててしまうので、とうとう女も諦めて接待しなくなる。富縁の無い男はとことん無いのだ、という話
    4. (日本独自のパターン)前夫は何も気付かないまま、女の家の使用人として養われて一生を飼い殺される
    5. (朝鮮地域独自のパターン)妻は前夫の財産を買い戻してやる
    6. (朝鮮地域独自のパターン)妻は前夫を母のように養い、家を建ててやり結婚させる
    7. (朝鮮地域独自のパターン)妻は財産を半分に分け、または財産を捨てて前夫の元に戻り、再び共に暮らす(前夫との間に子供がいるから/両親の決めた夫だから)
    8. (朝鮮地域独自のパターン)妻は二人の夫の間を一年ずつ交代して暮らす

男女の福分>>物語を読む

再婚型]のうち、冒頭に【運命説話】のモチーフが入っているもの。

  1. 金持ちの家に男児が産まれたとき、運命の神々が「この子には福運がないが、貧乏人の家に生まれた福運持ちの女と結婚すれば幸せになれる」と話している。これを男児の親が知って、成長すると夫婦にする。
  2. 《王》が産まれたばかりの息子の運勢を見たところ、福運を持つ女と結婚させれば幸せになると出るが、運命の女はひどい貧乏人(最低位の身分階層出身)であった。

以降は通常の[再婚型]と同じ。

竈神の縁起>>物語を読む

内容的には[再婚型]または[男女の福分]とほぼ同じだが、前夫、あるいは妻や今の夫までもが死して竈神になったと語られるなど、物語の結末が竈神の縁起譚になっているもの。

中国を中心に、日本やベトナムでも見られるが、朝鮮地域には存在しないようだ。

炭焼長者:父娘葛藤型>>物語を読む

父の逆鱗に触れて家を追い出された娘が、(神意に従って)一見つまらない男と再婚するが、幸運を得て夫婦で富み栄える。一方、父は裕福になった娘を見て己の所業を悔い、父娘は和解する。

初婚型]と[再婚型]がミックスしたような感じで、[再婚型]の前夫の位置に実父が据えられている。構造的には 【塩のように大事】とよく似ている。中国と朝鮮地域には多く見られるが、日本では全く見られない。

  1. <父娘別れ>富家の娘(三人姉妹の末)が、父の怒りを買って家を追い出される
    1. 父が娘に自分への尊崇を要求するが、娘が逆らったので
    2. 娘が不義を犯したと誤解したため
    3. 父の決めた結婚に娘が従わなかったので
  2. <結婚>
    1. (牛馬に導かれての)放浪の末、娘は貧しい男と結婚する
    2. 父がわざと、最も貧しい男に嫁がせる
  3. <幸の獲得>女が財宝をもたらし、夫婦は裕福になる
    1. 男は元々沢山の金銀を持っていたが、その価値を知らずにいた。女が価値を教える
    2. 男の掘った穴から砂金が出たのを娘が発見する
  4. <父との再会・結末>
    1. 裕福になった娘を見て父は前非を悔い、父娘は和解する
    2. 父は落ちぶれて乞食になり、そうと知らずに娘の家に物乞いに来る。娘は父に孝養を尽くし、養う
    3. 父は落ちぶれて乞食になり、そうと知らずに娘の家に物乞いに来る。相手が娘と知って恥じて死ぬ
    4. 父は娘夫婦が裕福になったのを見て、妬みのあまり死ぬ


炭焼長者のあれこれ ※未完成

炭焼長者に関する雑学あるいは考察?



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