>>参考 [三つの愛のオレンジ][狼ばあさん
     「瓜姫物語」 『遠野物語』の山母の話

 

瓜姫(ハッピーエンド型)  日本 広島県庄原市峰田町

 昔、爺さんと婆さんとおりましてのう。ほえから、爺さんは山へ行くし、婆さんは川へ洗濯に行ったんじゃ。そしたところが、かみから瓜が うかん うかん 流れてきた。ちょっと取って食べてみたら、非常に美味しい。こりゃあ美味しいけえ、お爺さんに持っていんであぎょう思うて、そうして持って戻って、ひつへ入れてえた。へからお爺さんが戻ったで、その櫃を開けてみたら、中で綺麗きれえな娘の子が機ぁ織りょうる。ほいから、「こりゃあ瓜から生まれたで、瓜姫という名を付きょう」いうので、みんなで瓜姫という名を付けて、「ええ娘よ、姫よ」と言うて、毎日可愛がりょうる。

 で、その瓜姫は、

「姫よ、あんたぁ何を一番喜んで食う」

「わしゃあ むかごの飯を一番喜んで食う」

「むかごの飯を どのくらい食う」

「針の先ぃ、ちいちと食う」

「へえじゃあ、今日ものう、むかごを採りぃ山へ行くから、あまんじゃくが来ても戸を開けんように。けっこう留守番しようれえ」

 へえから、瓜姫は家で チャンチャン チャンチャン 機ぁ織りょうる。そしたら庭の口ぃ、あまんじゃくが来て、

「姫さん 姫さん、ちいと ここを開けてくれんか」言うて、

「いや、開けん。開けりゃあ、爺さん婆さん、叱ってじゃけえ 開けん」

「まあ、手がはあるだけ開けてくれえ」言うて頼むもんじゃけえ、瓜姫も負けて、「ほいじゃあ、まあ、開けちゃろう」言うて、手が入るだけ開けたいう。そいたら、あまんじゃくが、

「どうぞ、頭が入るだけ開けてくれえ」

「いや、あがんこたぁせん。爺さん婆さん、叱ってじゃけえ」

「爺さん婆さん叱ってなら、わしが断りゅうしちゃるけえ、開けてくれえ」言うて、うまいことを言うもんじゃけえ、姫さん、頭の入るだけ開けた。ほいたら、すうっと入ってきた。入ってきて姫さんに、

「何と姫さん、このそらの柿の木にゃあ 美味い柿が沢山えっとなっとるんじゃ。あれを取りぃ行こう」

「行かん、わしは。爺さん婆さん、叱ってじゃけえ」

「いや。叱ってなら、わしが断りゅうしちゃるけえ、行こう」

 聞かんもんじゃけえ、まあ姫さん言うても子供みたような人じゃけえ、それへ付いて柿ぅ取りぃ行った。山のそらへ。ほいから姫さんに、

「下で居りんさい。わし、上から柿を取って投げたげますけえ」言うて、そいから上から柿ぅ投げて、

「それ、それ、落ちた」

 ところが、渋柿しびたばっかり。

「こりゃあ、しんしんしびた」

「そうか。はあ、それ落ちた」

 今度こんだぁ、食うてさねを落とす。

「こりゃ、さんさんさねじゃ」

「どういう姫さんは、『さねじゃあ、渋柿しびたじゃ』ばっかり言う。あんたぁ、へえじゃあ、上がって取って食え」

「いや、わしゃ上がりません。この絹の着物が破れるけえ。爺さん婆さん、叱ってじゃけえ」

「そりゃあ、容易みやすいこっちゃ。わしの着物と替えことしちゃるけえ、登るなかは、わしの着物を着て上がれえ」

 ほいから姫さん、柿が欲しいけえ、今度ぁ自分の着とった着物を あまんじゃくにやり、あまんじゃくの着とったわりい着物を自分が着。ほいから、柿の木を登ろう思うてから。そりょ、あまんじゃくが綱をもって、じいっと木ぃいつけてしもうた。姫さん動かれん。そうしといて あまんじゃくは、姫さんの着物を着て戻ってきて、機ぁ織りょうった。

爺さんサイがねえ 婆さんクダがねえ

チャンコ チャンコ チャンコ チャンコ

 そこへ爺さんと婆さんがようよう戻って、

「あまんじゃくは来ゃあはったか」

「いや、あまんじゃくは来ゃせなかった」

「そりゃあ よかったのう。今日、むかごの飯を炊ぁてやるが、お前、なんぼぅほど食やあ」

「杵の先へ乗せてそって食う」

 ありゃ、こねえだは針の先ぃ乗せて食う言うたが 思うておったら、「ワーンワンワンワンワン」いうて、外で泣き声がする。

「おかしい泣き声がする。どしたんか」

 よう聞いて、我家わがたの裏の方で泣きよる。ほいから爺さんが行ってみりゃあ、瓜姫をいつけてある、あまんじゃくと着物を替えて。ほいから、爺さん行って瓜姫を連ろうて、それからあまんじゃくを ひっつかまえて、

「わりゃあ、ウチの可愛い娘を ようもこうも、あがなことをした。しごうしちゃるけえ」言うて、その家に牛と馬とおったんじゃが、馬の背にあまんじゃくの足を片ひらいつけた。牛の背に片足 いつけた。そして爺さんと婆さんが馬を追うてしたら、谷に行って放した。そしたら、馬は「尾根そねへ行って笹を食う」言うて尾根へ上がる、牛は谷ぃ降りて水ぅ飲みぃ下へ降りる。とうとう、牛と馬が引っ張って、あまんじゃくを引き裂あてしもうた。そうしたもんじゃけえ、今度ぁ 片足は山の萱の中に、片足は蕎麦畑に投げ込んだ。そのために あまんじゃくの血で染まって、蕎麦の根元ねとは赤い。萱の根元ねとは赤い。

 これで 昔かっぷりこ



参考文献
『日本の民話9 山陽』 稲田和子/立石憲利編 株式会社ぎょうせい 1979.

※その他の類話を列記する。

岡山県

 爺は山へ柴刈りに、婆は川に洗濯にいく。婆は川で瓜を拾い、戸棚の中へ入れておく。夜に爺が帰ってから包丁で割ろうとすると、ぱっと割れて女の子が生まれる。瓜姫と名付けて大事に育てる。

 成長した瓜姫はいい娘になり、「爺さん、さいがない 婆さん、くだがない スットントンや」と歌いながら上手に機を織る。

 そのうちに役人へ嫁入りすることが決まる。婚礼の日、爺と婆は姫の好物のむかご飯を作るために山にむかごを採りに行く。その留守中にあまんじゃくが来て、可愛い作り声で「瓜姫さん、瓜姫さん、ここをちょびっと開けておくれぇな」と言う。

「いいや、爺さんや婆さんの留守には開けられん」
「まあ、そねぇ言わずに、ほんのちょびっと爪が入るほど開けてくれえ」

 気の毒になって少し開けてやると、「もうちょっと、指の1本入るほどでええけえ、開けてくれえ」と言う。また少し開けると、「もう少し、手が入るだけでええから開けておくれえ」と優しい声で頼むので、ついもう少し開けたところが、片手をつっこんでガラリと戸を開けて入ってきた。

 あまんじゃくは姫を無理やり引っ張り出して柿取りに連れて行く。自分だけ木に登って柿を食べ、一つも姫にはやらない。それから姫に自分の汚い着物を着せて無理やり木に登らせて縛りつけ、自分は姫の着物を着て手ぬぐいで顔を隠し、家に戻った。爺と婆が帰って むかご飯を出すと、顔を隠したまま、それを掻き込んで食べるのだった。

 それから嫁入りの駕籠に乗って出発し、柿の木の下を通って行くと、高い所から、

瓜姫御寮は木の梢に
あぁまんじゃくは駕籠の中
瓜姫御寮は木の梢に
あぁまんじゃくは駕籠の中

という声が聞こえる。見上げれば、きれいな娘が柿の木に縛られてあり、駕籠を開けると、あまんじゃくが乗っていた。泣いている姫を下ろして綺麗な着物を着せてやり、あまんじゃくは駕籠から引きずり出して二つに引き裂いた。片方の体は萱の中へ、もう片方は蕎麦畑へ投げ込んだので、あまんじゃくの血で、今でも萱の根元と蕎麦の根元は赤い。

鹿児島県

 子供のない夫婦。妻が川で拾った瓜を食べて妊娠し、姫を産む。うるひめと名づけ、娘に成長する。

 両親の留守に天のさぐめが来て、姫を捕らえて柿の木に縛り付け、目に芋串を刺す。姫に化けて乱暴に機を織る。怪しんだ両親が「甘いもの少し食うか、甘くないもの大ごと食うか」と尋ねると、ニセうるひめは「甘いもの大ごと食う」と答える。駕籠に乗せて芝居見物に行き、途中でうるひめの縛り付けられた柿の木の側を通ると、うるひめが歌を唄っている。これにより、偽者だとわかる。姫の目は神に祈願すると治った。


参考文献
『日本昔話集成(全六巻)』 関敬吾著 角川書店 1950-

※瓜の中から姫が出たのではなく、水を流れてきた果実を食べることにより妊娠した点に注目。

宮城県

 爺の拾った柴栗から生まれた栗こ姫。隣の家の娘に化けた山姥に、松の木に縛り付けられる。

 姫に化けた山姥は長者に嫁入りしようとするが、嫁入りの道中、何十羽もの鳶が現れて報せる。馬が驚いて立ったので山姥は落ち、逃げる。

 婿は縛られていた姫を見つけて助け、谷地の茅野に隠れていた山姥を斬って怪我をさせた。この時流れた血のために茅の根元は赤い。


参考文献
『日本昔話集成(全六巻)』 関敬吾著 角川書店 1950-

 この他、山陽地方のハッピーエンド型でまれに見かけるもので、天邪鬼が瓜姫に化けて嫁入りするとき、「柿の木谷を通るか、梨の木谷を通るか」などと問われ、瓜姫は柿の木谷に縛り付けてあるので梨の木谷を通らねばならないのに、何でも反対にせねば気の済まない天邪鬼はつい「柿の木谷がいい」と言ってしまう…という愉快なモチーフが入るものがある。




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