瓜姫(アンハッピーエンド型)  日本 宮城県桃生郡何南町

 むかしむかし、お爺さんとお婆さんがあったとさ。お爺さんは山へ柴刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行ったとさ。お婆さんが川で洗濯していると、大きな瓜が ざんぷりこ ざんぶりこ と流れてきた。

「なんだて大っけな瓜だべや。こいつを拾っていって おじんつぁんと二人で食ったら、なんぼか美味かんべや」

 お婆さんは「そっちの水ぁ苦いぞ、こっちの水ぁ甘いぞ」と唱えながら長い竹ざおで引き寄せて、瓜を持って帰った。夜になってお爺さんが帰ったので、

「おじんつぁん おじんつぁん、こんなに大っけな瓜コ拾ってきたから、なんぼか美味いか食べてみんべな」

と言って、包丁で切ろうとしたところが、ぱちんと割れて、なんと、中から丸々した女の児が出てきた。お爺さんとお婆さんは、この子を瓜子姫と名づけて、それは可愛がった。大きくなると、美しいので嫁入りの話が尽きることが無かった。

 そんなある日、お爺さんが山へ出かけた後でお婆さんが町に用事が出来て、

「これこれ瓜子姫や、俺ぁ町さ用足しに行ってくっから、誰が来ても戸を開けんな。戸を開けっと天の邪鬼にれっからな」

と言って、戸に鍵を掛けて出かけていった。瓜子姫は、一人で ギッコン バッタン ギッコン バッタン と機を織っていると、戸の外に天の邪鬼がやって来た。

「瓜子姫 瓜子姫、戸を開けてないか」

「おばんつぁんが誰が来ても戸を開けんなと言ったから、ダメでがす ダメでがす」

 けれども、いつまで経っても「開けてけろ」と言っている。瓜子姫は可哀想になってきて、ほんの少し開けてやると、たちまち もしゃもしゃと毛の生えた細い腕がぐっと入ってきて姫をつかみ、中に入ってきて喰ってしまった。

 夕方になると、山からお爺さんが、町からお婆さんが帰ってきた。

「瓜子姫や 瓜子姫や、今帰ったよ。誰も来なかったかね」

 すると「はいはい、誰も来なかったおや」と返事がして、天の邪鬼の化けた瓜子姫が鍵を開けた。偽の瓜子姫は、お婆さんのお土産のゴマキリやデンツを大口開けてムシャムシャと喰うので、お爺さんとお婆さんは、

(あんなに大人しい瓜子姫が、町さ行ってるひまに随分きかなくなって、一人で ばり食うな)

と怪しく思った。すると、屋根の上に雀がとまって、こんな風にさえずるのが聞こえた。

  瓜子姫のハダシさ 天の邪鬼乗さった。縁の下の骨見ろ

「こいつは天の邪鬼だ!」

 お爺さんがそう言って天の邪鬼の腕を押さえると、毛がもしゃもしゃと生えていたので、

ばん様、これゃ本物ほんもんだ。がすなよ!」

と叫ぶ。天の邪鬼はこれは敵わんと思ったか、角を伸ばして正体を現して、パッと外に逃げていった。

「うぬ、がすもんか。瓜子姫の仇!」

 爺さんと婆さんが二人して一生懸命追って行くと、天の邪鬼は蕎麦の畑の中に隠れた。

「うぬ、どこさ行ったってがさねえぞ。瓜子姫の仇、おべてろっ!」

と、お爺さんが棒を振り上げて叩きつける。お婆さんも殻竿で叩きつけたので、流石の天の邪鬼も真っ赤な血を流して くたばった。その時、蕎麦の根っこが天の邪鬼の血で染まったので、今でも蕎麦の根元は赤いんだとさ。

 よんつこ もんつこ、さけたのさ



参考文献
『いまに語りつぐ 日本民話集 動物昔話・本格昔話(7)』 野村純一・松谷みよ子監修 作品社 2002.

※爺さんと婆さんの復讐がパワー全開で、妙に印象深いものがある。

 

 その他の類話を列記する。

新潟県 古志郡四郎丸村

 昔、爺と婆があった。ある年、畑に巨大な胡瓜が一本だけ生り、種を取ろうと黄色く熟してから家に運ぶと、縦に割れて女の子が生まれた。「瓜姫」と名付けて可愛がって育てるうちに立派な娘になり、機織が大変上手になって爺と婆を富ませた。

 ある時、爺と婆が町へ出かけた留守に天邪鬼がやって来て、隣の家の娘の声で瓜姫を呼んだ。

「遊びに行こうかのし。よせてくれや」
「今日は、爺さま婆さまもおらんから遊ばんよ」
「ちよっと戸を開けてくれ」
「爺さま婆さまが、天邪鬼が来るから戸を開けちゃいかんというた」
「だら、指一本入るだけ戸を開けてくれや。顔が見えんと面白うない」

 指一本分開けると、もう一本分と言う。三本分開けると、爪を引っ掛けて戸を開け、天邪鬼が入ってきた。瓜姫は驚いて気を失い、目覚めると天邪鬼に乗り移られて人が変わっていた。

 やがて爺と婆が帰って、買ってきた姫の好物のところ芋を食べさせると、いつもは一本一本ヒゲをむしって上品に食べるのに、ひったくってそのまま貪り食った。しかも、いつも「てんからかん、てんからかん」と機を織っていたのに、乱暴に「じゃんがらじゃんがら」織るのだった。

 爺が不審に思っていると、裏の畑の側のいちじくの木に一羽のきれいな小鳥が飛んで来て、

瓜姫の機に天邪鬼がのったいよ
若衆おうてくりゃれ、ほーほー

と鳴いて家の方に飛んでいく。さては天邪鬼の仕業だったかと気付いた爺は、怒って姫のところに駆けつけたところ、その形相に驚いた姫は逃げようとして転び、ひどく顔と胸を打ってそのまま死んでしまった。瓜姫の体の下から鳩ぐらいの大きさの黒い鳥が一羽、気味の悪い鳴き声を立てて飛び去った。

 やがて、瓜姫の体は長い瓢箪ふくべに変わった。それからというもの、爺と婆の畑の胡瓜は、葉一枚ごとに必ず一本、大量に実るようになったという。


参考文献
『日本昔話集成(全六巻)』 関敬吾著 角川書店 1950-

新潟県佐渡郡

 川で拾った瓜を切ろうとすると、中から「婆さん」と呼ぶ。中から出てきた女の子を瓜姫と名付ける。

 爺婆が野老(山芋)掘りに行った留守に、隣のあまのじゃくが来て姫を殺し、柿の木に吊るす。

 爺婆はカラスの声でこれを知り、あまのじゃくの家の戸口に大石を吊るし、雨にふられて急いで帰って来たあまのじゃくはこの下敷きになって死ぬ。


参考文献
『日本昔話集成(全六巻)』 関敬吾著 角川書店 1950-

秋田県平鹿郡浅舞町

 ざっと昔、ある所に爺と婆といたけど。婆がある日 川に洗濯に行くと、箱が二つ流れて来たので、

実の無い箱は あっちゃ行け
実の有る箱は こっちゃ来い

と呼ぶと、重い箱が寄って来たので拾って家に帰って爺と二人で開けてみたれば、瓜が出てきた。瓜の中から女の子が生まれたので、瓜姫子と名付けて可愛めんこがっているうちに、だんだんと大きくなって美しい娘さんになったけど。

 そこである日、爺と婆は山に行く時、

「瓜姫子、瓜姫子、俺らは山に行って来るが、一人居ると天邪鬼という悪い女が来るかもしれないから用心せよ、天邪鬼は爪が長く、お前はとても敵わないから、返事をしないほうがよい」

と教えて、窓や戸に掛け金してくれだけど。それで瓜姫子は機織を始めた。

とっきん かたり きん かたり
管コ無いても七尋
とっきん かたり きん かたり

 すると、案のごとく天邪鬼が来て、「瓜姫子、瓜姫子、遊ばないか」と言った。瓜姫子は知らぬふりをしていると、天邪鬼はますます猫なで声を出して、この戸を少しでよいから開けてくれないかと言って聞かぬので、瓜姫子はとうとう「そんだらば」と思って戸を少し開けると、天邪鬼は その隙間に長い爪を挟んでガラガラと戸を開けて入ってしまったけど。

「瓜姫子、瓜姫子、長者殿の裏サ桃もぎに行くから草履はいてれ」
「草履がポンポン鳴るからんだ」
「そんだら下駄はけ」
「下駄コはけば、からんこからんこ鳴るからんだ」
「そんなら俺が おぶって行く」
「お前の背中には刺が有っからんだ」
「そんなら裏から はぞ桶を持って来るから、それを当てがってがれ(負ぶされ)

 そこで天邪鬼に はぞ桶を背負わせて、瓜子姫はその中に入って出かけた。そして長者殿の裏の桃の木に まず天邪鬼が登って、自分は美味いのを食い、瓜姫子には

かりっとかじって 耳くそ 鼻くそ
ぷっ ぷっぷ

と、汚いのばかり投げてよこすので、今度は瓜姫子が登ったば、天邪鬼は下の方から「もっと上の方がよい、それにはケラ虫が付いているから」とだんだん登らせてから、「そら長者殿の婆が来た」と脅かすと、瓜姫子は動転どてんして、その高い木から落ちて死んでしまったけじょん。

 そしたば天邪鬼は、たちまち瓜姫子の皮を剥いで自分は瓜姫子に化けて、知らぬふりしてその家に戻って機織をしていた。んでも その音は、

とっきん かたり きん かたり
管コ無くて織るよ無い
とっきん かたり きん かたり

と鳴っていた。そこへ山から爺と婆が戻ってきてみると、機の音が違って聞こえるので、「瓜姫子や、瓜姫子や、天邪鬼来ないけが」と訊ねたが、化けの瓜姫子は知らぬふりして、「来ないけ、来ないけ」と嘘をついていた。

 爺と婆は ね餅をこしらえて、「瓜姫子や、これを長者殿サ持って行ってけれ」と言いつけた。化けの瓜姫子は ね餅の重箱をさげて家を出たが、途中でみんな自分で食ってしまい、家に戻って「もう一重コ持ってきてくれれば、(長者殿が)俺ぁどこ 嫁にもらうけ」と聞かせたので、爺と婆は喜んで、また重箱に ね餅を詰めた。それを持って長者殿に行くと、「(爺と婆が)俺ぁどこ 嫁にもらってけれと言うけ」と嘘をついたらば、長者殿では本気にして、化け瓜姫子を嫁取りすることになった。そしたら その日になったら、家の側の木にカラスが飛んできて、

瓜姫子ぁ乗掛サ 天邪鬼乗ってゆく
かあ かあ

と啼くので、爺も婆も はてさて、ますます怪しいことだと思って、化けの瓜姫子を清水しずサ連れて行って顔を洗わせると、いつもの瓜姫子と違ってなづきの辺りばかり てらてら撫でているので、ごりごりと洗ってやると化けの皮が剥げて天邪鬼が現れだけど。爺と婆は なんてかんて怒って、天邪鬼を萱原の間を引っ張りまわして苛めぢけてやったら、散々と血を流したので、いまだに萱原の萱の根が赤く染まっているというごとだ。


参考文献
『日本昔話集成(全六巻)』 関敬吾著 角川書店 1950-

秋田県鹿角郡

 婆が川に洗濯に行くと、綺麗な箱が流れてきた。開けてみると瓜が一つ入っていたので、持って帰って綿に包んで戸棚にしまっておいた。やがて爺が帰ったので、食べようと包丁で割ると、中から可愛い女の子が出てきた。それで瓜子姫子と名付けて育てていた。

 瓜子姫子は機織が大好きで、大きくなると、毎日毎日

きちんこ たんの きんぎりや
くだコぁ無くて からんころん

と、機ばかり織っていた。

 ある日のこと、爺と婆が他所に出かけた留守の間に、アマノシャグがやってきた。

「機ァ織るのが上手だじゃ。なんたて見せてけろ」

 そう言って無理に家の中に入ってきて、しゃばん(まな板)と包丁を持ってこさせて、そのしゃばんに瓜子姫子を載せて、包丁で切って食ってしまった。それからアマノシャグは瓜子姫子の胴がらに入って、瓜子姫子に化けて機を織っていた。

 そこに、隣の人が瓜子姫子を嫁に欲しいと言ってきた。爺と婆は大喜びで承知して、駕籠に乗せて嫁入りさせた。その途中、木の傍を通りかかると、上から声がする。

瓜子姫子ァ乗さる駕籠サ
アマノシャグぁ乗さた
ホホーホケキョ

 それは木の上にとまった鶯で、瓜子姫子の魂が変じたものであった。こうしてアマノシャグの正体は見破られたという。


参考文献
『桃太郎の誕生』 柳田國男著 角川文庫 1951.

岩手県雫石村

 婆が川に流れてきた瓜を拾った。食べてみると大層甘いので、もう一つ流れて来いと唱えると、本当に流れてきた。

用のある瓜だら こっち来い
用の無い瓜だら あっち行け

 そう唱えると流れ寄ってきたので、これは爺様の分だ、と持って帰って戸棚にしまっておいた。そうしたところが戸棚の中で瓜が二つに割れて、中から姫子が生まれていた。

 この姫子は大きくなると、いつも

トギカカチャガカカ トギカカチャガカカ

と機を織っていた。

 ある日のこと、姫子が一人で機を織っていると、アマノジャクがやって来て、姫子に菜板サイバン(まな板)と包丁を出させた。そして「代わりばんこに虱取りをしよう」と言って姫子を菜板の上に寝かせると、そのまま切って食べてしまった。

 まもなく、姫子の嫁入りのための着物を買いに出かけていた爺と婆が帰ってきたが、アマノジャクは姫子に化けて、何食わぬ顔で機を織っていた。けれども、その機の音はいつもとは違い、

トダバタン トダバタン

と聞こえるのだった。

 いよいよ嫁入りになり、偽者の姫子が家を出ようとすると、一羽の鶯が飛んできて啼いた。

瓜子姫子だとて
アマノジャクが化けて嫁に行く
可笑しでや ホウホケキョ

 それは、食い殺された姫子の左手が変じたものであった。化けの皮がはがれ、アマノジャクは殺された。


参考文献
『桃太郎の誕生』 柳田國男著 角川文庫 1951.

岩手県

 爺は山へ木を切りに、婆は川へ水汲みに行く。川で拾った瓜を戸棚に入れておいて、爺が帰ってから包丁で割ると、中から可愛い女の子おなごぼっこが生まれる。瓜子姫子と名付けて大切に育てる。

 瓜子姫子が年頃になって嫁入りが決まり、爺と婆は町に綺麗な着物を買いに行く。瓜子姫子が一人で

キコパタトン カランコカランコ キコパタトン カランコカランコ

と機を織っていると、山母が来た。しつこくねだって ほんの爪先がかかるだけ戸を開けさせると、爪を引っ掛けて戸を開け、中に入って たちまち瓜子姫子を食い殺し、骨は糠室ぬかやの隅に隠して、瓜子姫子の皮を剥いでかぶって機を織っていた。その音は、

ドッチラヤイ バッチラヤイ

と鳴っていた。

 夕方に爺と婆が帰ってきたが、買ってきた赤い着物を見せても さして嬉しそうな素振りを見せないのだった。

 あくる日は瓜子姫子の嫁入りの日で、爺と婆が早くから目を覚ましていると、鳥小屋の上で鶏がこう鳴いた。

糠室のすみっこ見ろ
ケケエロウ
糠室のすみっこ見ろ
ケケエロウ

 はて、いつもと様子が違うなと思いながらも嫁入りの支度をして、鈴をつけた馬に乗せて家の門口から引き出すと、屋根の棟の上でカラスがこう鳴いた。

瓜子姫子ば乗せねぇで
山母 乗せたぁ ガアガア
瓜子姫子ば乗せねぇで
山母 乗せたぁ ガアガア

 ハッとして糠室の隅へ行ってみると、そこには本当の瓜子姫子の骨がじゃくじゃくとあった。

 爺と婆は なんてかんて怒って、あの馬さ乗ってるのが山母だと、土間にわからマサカリを持ってきて、馬の上の山母を切り殺してしまった。


参考文献
いまは昔むかしは今1 瓜と竜蛇』 網野善彦/大西廣/佐竹昭広編 福音館書店 1989.

やまんしゃんご  鹿児島県 南種子島町平山前田

 昔々ある所に、爺さんと婆さんと娘が三人で暮らしていました。娘は両親が年取ってから生まれた一人娘で、大変な器量良しだったので、爺さん婆さんはそれはそれは大事にしました。どこに行くにも自慢そうに連れて歩くのでした。

 ところがある日、爺さん婆さんだけ出かけなればならない用事が出来て、二人は仕方なく娘を留守番に残して出ることになりました。出かけるとき娘に、
「ひょっとすると、やまんしゃんごがやって来るかもしれん。もし来たら、かんまぁて(絶対に)戸を開けてはいけんど」
と言い聞かせました。

 娘は中からしっかり戸じまりをして、びくびくしながら留守番をしました。ところが案の定、やまんしゃんごがやって来たのです。そっと家に忍び寄ると、戸の隙間に手を差し込んで
「お前が戸を閉めるとき俺の手をはそうだもんじゃから痛うしてたまらん。指が引っ千切りょうごたる。もちっと緩めてくれぇ」
と哀れな声を出すのです。

 娘はドキドキする胸を押さえて、しばらく黙っていましたが、やまんしゃんごがあまり哀れな声を出すので、つい可哀想になって、雨戸を少し緩めてやりました。

 すると、やまんしゃんごはいきなり戸の隙間に毛むくじゃらの腕を突っ込んできたのです。娘は慌てて戸を閉めました。腕を挟まれたやまんしゃんごは「わあ、腕が折れる、痛か痛か」と悲鳴をあげるのです。娘はまた可哀想になって戸を緩めてやりました。するとその瞬間、やまんしゃんごは身体を半分ねじ込んできました。娘が慌てて戸を閉めた時にはもう遅く、身体半分を家の中に入れて、「あいた、あいた、五体がくゆる(崩れる)、はよぅ開けてくれぇ」と悲鳴を張り上げます。娘は用心しながらまた少し戸を緩めました。すると、あっという間もなく、やまんしゃんごは家の中に飛び込んできました。

 体中ふさふさと毛の生えた恐ろしい姿をして、目は火のように燃えています。娘は「わーっ」と叫んだなり、その場に立ちすくんでしまいました。

 その娘をやまんしゃんごは軽々と抱き上げて裏庭に出ました。娘はすっかり気を失っています。やまんしゃんごは、そこにある大きな柿の木のあの枝にもこの枝にも、娘の髪の毛を結びつけてぶら下げ、そして体中を蹴とばして殺してしまいました。

 やまんしゃんごは恐ろしい顔でにたりと笑うと、のっそりと家に入ってたちまち娘に化けました。

 やがて爺さん婆さんが帰ってきました。すぐ娘に「やまんしゃんごは来んじゃったか」と聞きました。やまんしゃんごの化け娘は、「そがぁなもんな来んじゃった」と娘の声色で答えました。

 婆さんがいそいそとお土産の餅やまんじゅうを出しますと、これにはやまんしゃんごの本性を現して、両手いっぱいに持ってがつがつ食い始めました。爺さんと婆さんはびっくりして、
「なしかぁそがぁにせぇて食うとか(どうしてそんなにして食うのか)
と尋ねました。
「留守番しとったもんじゃから、ひだるぅして(お腹が減って)たまらんとじゃあ」
と娘は答えて、いっそうむしゃむしゃ食べるのです。

 爺さんは「どうもおかしいぞ」と思って、こっそり裏に出てみました。可哀想に、本当の娘は、髪の毛で柿の木にぶら下げられて死んでいるのです。

「仇を討たんじぃ おくもんか!」
と、爺さんと婆さんは割木わりき(鉈)の大きなのを持って娘に忍び寄り、

「我こさぁ、やまんしゃんごじゃろう!(お前こそはやまんしゃんごだろう!)

と叫んで、必死の力でやまんしゃんごを叩き殺してしまいましたげな。


参考文献
 『日本の民話24 種子島篇』 下野敏見 未來社 1974.


参考 --> <小ネタ〜ブランコ娘と吊られた屍肉



参考--> 「ハイヌヴェレ神話」「三つの金のオレンジ」「ペポカボチャ姫」「隠元豆の娘




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