'01年頃にテレビに流れていた、赤いラベルの発泡酒のCMをご存知でしょうか。
「今日の分の本ナマ、明日の分の本ナマ、あさっての分の本ナマ……」
若い夫が、妻の冷静なツッコミを受けつつも、店の冷蔵棚からどんどん発泡酒の缶を取っていきます。
最後に
「やのあさっ……」
と言っているところでCMは切れて終わってしまいます。
この、最後に言っているセリフが「やのあさっての分の本ナマ」だと解っている人は、果たしてどのくらいいるのでしょうか?
え、そんなの当然、みんな解っているって?
そうかもしれません。でも、解っていても「なんで?」と思っている人もいるはずです。
何故なら、「やのあさって」は日本の全国区で使われる言葉ではないからです。
そもそも、日本には様々な地方語があって、それらの上位に「共通語」たる正しい日本語が存在します。共通語は絶対です。共通語で「りんご」と言ったら果物のりんごのことだし、方言で別の名が与えられていたとしても、「りんご」と言えば日本人なら何のことを指すのかすぐに判るでしょう。
ところが、中にはそれが定まっていないものもあります。
「明日」の次は「あさって」、あさっての次は「しあさって」……
これは「共通語」ではないのです。地方ごとに違っていて定まっていません。場合によっては「しあさって」は四日後のことを指したりします。
ですから、異なる地域の人間同士でこれらの言葉を使って約束事をすると混乱します。時と場合によってはシャレになりません。地域ごとに人間が固まって移動しなかった昔はともかく、人間が流動しまくっている現在では結構厄介な問題ではないでしょうか。
ちなみに、私の住んでいる地域では
「明日」→「あさって」→「しあさって」→「ごあさって」→「ろくあさって(?)」です。
これは親に訊いてみたもの。兄に訊いたら「明日」→「あさって」→「しあさって」→「さきあさって」だと言っていました。んんん?
しかし、双方口をそろえて言うには、しあさって以降の言葉は使わない、日付で言う、と。
実際、私もウン十年生きてきて、これまで「やのあさって」だの「ごあさって」だの使った事はないし、人が使っているのも聞いたことがありません。本で読んで知識として知っていただけです。死語なのだと思いますが、しかしネット上を検索すると、実際使っていて違う地域の人と噛み合わなくて困ったという体験談が幾つも出てくるので、使っている人はまだまだ多いようです。
私の住んでいるのは西日本なのですが、東日本の方は
「明日」→「あさって」→「やのあさって」→「しあさって」
となるらしいです。西日本では「今日から数えて四日目」になる「しあさって」が五日目になっています。(「明日」から数えれば四日目ですが…。)これが最大の問題です。ただ、関東でも東京だけは西日本と同じ「明日」→「あさって」→「しあさって」となるらしく、五日目が「やのあさって」になります。これは東京が家康によって開かれた時、従って関西から多くの者が移住してきたためだそうです。その他、岐阜や三重では「明日」→「あさって」→「ささって」→「しあさって」となるとか。
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「あさって」は漢字で書くと「明後日」であり、「しあさって」は「明々後日」になります。「あさって」は「明日去りて」もしくは「明日果て」が詰まったものと言われ、「しあさって」は「再明後日」「過明後日」もしくは「重明後日」が縮まったと言われています。ただ、西日本では続いて「ごあさって」と言うことから「四明後日」ではないかという説もあります。もしそうなら、東日本で五日目に「しあさって」と言うのは、結局「今日」を一日目として数えるか、それとも「明日」から数え始めるかの差になるのでしょうか?
では、「やのあさって」はどうかというと、「彌の明後日」らしい。「彌」つまり「
「ささって」は「再明後日」でしょうか。岐阜の外に屋久島や種子島でも使うらしいです。(何日目を指すのかは分かりませんが。)
というわけで、例のCMの舞台は東京限定であり、普遍性を欠くと判断できるのでした。全国区のCMとして考えれば。
余談。
未来はこんな感じですが、では過去はどうなっているのでしょうか?
私の地域では「昨日」→「おととい」→「さきおととい」です。
これはどこも変わらないのだろうと思っていたのですが、念の為ネットで検索してみると、実際に日記で「やのおととい」と書いているものが何件かありました。うーん…? 調査してみたら面白いのでしょうか。
ちなみに「おととい」は漢字で書くと「一昨日」。「さきおととい」は「一昨昨日」。「おととい」の方がなまりで、「おとつい」というのが正確のようです。語源がよくわからないのですが、想像してみるに「
01/10/16