■つまの話

 一昔ほど前に若者の間で新たに誕生した言いまわしがあります。”パセリちゃん(くん)”というもので、いわゆる”オマケ”の意味。

 多くの料理の皿に添えられるパセリですが、決して料理の中心にはなれません。それどころか、食べてももらえないことがしばしばです。そこから、”いろんな場に必ず顔を出すけれど決して中心にはなれない奴”を指して”パセリ”と言うわけで、つまり侮蔑語なのですね。

 しかし、ほぼ同じ意味の言葉が、日本にはもっと古くから存在していました。”刺身のツマ”という言葉です。

 刺身のツマは、ご存知の通り、お刺身の下に敷き詰められた大根の細切りや海草、その他の添え物です。これもパセリと同じように料理の中心になるものではなく、口にされないことも多い。そこで、中心人物ではない付け添え的な人物のことを”刺身のツマ”と言ったりする場合があるわけでした。

 

 ところで、刺身のツマの”ツマ”って、一体何なんでしょうね?

 辞書で調べてみると、”ツマ”とは、本体に対して付属するもの、添うもの、付け添え、端っこというほどの意味らしいです。漢字では妻・夫・端などが当てられます。

 ”ツマ……妻”というと、現代では男が自分の配偶者たる女を指して言う言葉ですが、古代では男の方も”ツマ……夫”だったんですね。

 女だけをツマ(添う者)と呼ぶとは男女差別だ、と思う人もいるかもしれませんが、昔は夫婦のための部屋を家屋の端――ツマに作ることがあり、そこにいる者、として配偶者の女性を”ツマ”と呼んだと言うこともあるようです。同じく女性の配偶者を指す”奥さん、奥方”という言葉が、江戸時代、それらの女性が実際に奥屋敷に住んでいたことからきているのと同じですね。

 

 さて、私は刺身に付け添えられているものと言えば”ツマ”だと思っていたのですが、”ケン”という言葉もあるのだそうです。関東では”ツマ”といい、関西では”ケン”というという説もあるようですが、私は一応西日本の人間なのに”ケン”という言葉は使っていませんでした。ありゃりゃ。

 一説では、”ケン”は”ツマ”を含む日本料理の付け添え全般のことを指すそうですが、また別の説では、大根やにんじんを細く切ったものを特に”ケン”という、と言ったりします。

 さてさて?

 

 なお、刺身の添え物である植物類には、殺菌・解毒の意味合いもあるのだそうです。ナマモノですからね。冷蔵庫の無い昔は、特に神経を使っていたのでしょう。

 であれば、やっぱりちゃんと食べるのが本筋なハズ。

 パセリも健康にいいし、付け添えは実は”オマケ”なんかじゃなく、重要な存在なのでした。




02/04/23

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