■虹の色数の話

 ここを読んでいる皆さんに、「虹は何色ですか?」と尋ねたら、ほぼ十人中十人が「七色です」と答えるのではないかと思います。

 私たちは、虹を七つの色だと思っています。レインボーカラーと言えば七色、それが常識。けれども、これは文化が作り出した、その文化内での常識であり、”絶対的事実”ではありません。国により、文化により、虹の色数は異なるのです。

 そもそも、”色”の捉え方自体が、文化によって異なります。例えば、パソコンで使用できる色数にしても256色から数万色ありますが、その全てに”名前”が付いているでしょうか? 色そのものは多彩であり、無限に存在しますが、それに付けられて認識される名前は各文化ごとに異なります。#FF0000を”RED”と呼ぶか、”赤”と呼ぶかのように。

 

 ところで、日本では”あお”と”みどり”の区別は曖昧で、時には同一視されたりしていますよね。青々とした葉っぱと呼ばれているものは、本当は緑色です。もしも緑という名前が無かったら、日本ではは同じ色、一色として数えられ、虹の色も六色になることでしょう。更に、藍色の区別を付けなかったら、五色になってしまいますね。

 この世に色は溢れていますが、その全てに名前は付けられていません。文化によっては、色を表す言葉が二つ三つしか存在していなかったりもします。名前の無い色は、概念上、存在しません。存在しない色は数えられないので、文化によって虹は五色だったり三色だったり、時には二色だったりもするのです。

 日本でも、古代では殆ど色の認識はされていなかったようです。”あか”は明るく、あかあかと燃え輝く火や太陽の色。”あお”は薄暗いぼうっとした感じ、または草木染めの色。”しろ”は夜が白けるときの色。”くろ”は日暮のときの暗い色。こんな曖昧な、明度の差程度の認識しか、最初は無かったようなのです。五世紀ごろに中国から五行思想とそれに対応した青・赤・黄・白・黒の五色が伝わり、色の区別が明確に認識されるようになったとか。

 

世界の虹の色 正しいのかどうか、古い考えか現在も一般的なのかイマイチ不明。
地域/民族/文化圏 色数 こんなの?
アフリカ アル部族 8
日本 7 赤・橙・黄・緑・青・藍・紫
*古くは五色とされていた
             
韓国 7 *古くは一〜五色とされていたらしい
オランダ 7
アフリカ ドゴン族 7
イギリス、アメリカ 6 赤・橙・黄・緑・青・紫
*民間では六色とされるが、学術的な分野では藍を加えて七色とするらしい。
             
フランス 5 *七色、三色との話もあり。
ドイツ 5 *三色との話もあり。
中国 漢族 5 *四色との話もあり。
シベリア ソロン族 5
メキシコ マヤ族 5 黒・白・赤・黄・青
*青と緑を区別しない。
             
ロシア 4 *五色または七色との話もあり。
東南アジア シェルドゥクペン族 4 白・黒・黄・赤
             
インドネシア・フローレス島 4 赤地に黄・緑・青の縞
*または、赤と緑
             
イスラム教 4 赤・黄・緑・青
*七色のアラーの帯、という話もあり。
             
アフリカ ショナ語族 3
台湾 ブヌン族 3 赤・茶・青、または赤・黄・紫
             
ブリヤート・モンゴル族 3 赤・黄・青
             
北米 プエブロ=テワ族 3 *夏の虹は三色だが、冬の虹は白一色だと言う。
日本・沖縄地方 2 赤・青、または赤・黒
*東南アジアのクキ諸族や中国少数民族のイ族アシ人も、虹を赤(紅)と黒(緑)とイメージしているようである。
             
シベリア エヴェンキ族 2 赤・青
             
南アジア バイガ族 2 赤・黒
             
アフリカ バサ語族 2
ペルー - *虹の色は人それぞれで定まらないが、赤と青が基本。
アフリカ マサイ族 - *虹の色は多数だが、基本は赤と白。

 また、その文化によって尊い・神秘的とされる数に合わせて色数を設定したこともあるようです。基本的に、古くは東アジアでは五色、西欧では三色とするのが普遍的だったらしいですが、それは五行思想や三位一体思想からの発想だったろうと言われます。

 しかし一方で、現代でも単に明(赤)と暗(緑〜黒)の二色としている民族もかなり多いようです。

 

 では、現在 日本や西欧で七色とされることが多いのは何故なのでしょう?

 まずは、イギリスの科学者・ニュートンが太陽光をプリズムで虹色の帯に分解したとき、聖数七(音階など)にちなんで それを七色に数えた、ということが始まりのようです。このために、イギリスやアメリカの学術分野では虹を七色と定義するようになり、そして日本でも恐らくはそれを受けて、明治八年発行の教科書『小学色図解』で「太陽の光は七色」と書かれたことから、虹を七色とする認識が一般に広まった、のだとか。

 

 さて。伝承で語られる虹を見ていくと、虹は飛び散った”血”が変化したものである、と捉えているものがかなり多いです。ということは、元々、多くの文化において、虹は血の色一色であると考えられていたのでしょうか?

 これは、虹そのものよりも、ガラスなどを日溜りに置いたときに出来る、虹に似た光の縁の滲み(暈)を見ていると、感覚的に解る気がします。光の縁の滲みは毒々しい赤色で、縁に僅かに青系の色が付いています。赤は流れる血の色。青(緑)は、肌の下で固まりかけた静脈の血を想起させるかもしれません。虹の緑色は、死んだ男の破裂した胆嚢から溢れた胆汁だ、としている民族もあります。(ニューギニア・ブカウア族) いずれにせよ、不幸な死に方をした者の体液です。綺麗なグラデーションではなく、不気味な色の組み合わせと考えられていたようです。

 文化の中で多くの色に名前が付き、色数が増えていくに従って、虹の色数も増えていったのでしょう。けれども、最も原初においては、虹は”赤い色、端がちょっと青(暗)っぽい”と捉えられていたのではないか、と思っています。



03/04/07

参考文献
『銀河の道 虹の架け橋』 大林太良著 小学館

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