雪が降っている。
積もるだろうか。だとすれば、いわゆるホワイト・クリスマスだ。
今日はクリスマス。正確にはクリスマス・イブ。
このお祭りの由来は、結局のところ誰も正しいことを知らない。遥か超古代のエライ人の誕生日だって言う人もいるし、冬至を迎えて、お日様の力が復活するのを景気付けるお祝いだと言う人もいる。
まあ、由来なんて大した意味は無い。この日ばかりは、誰も彼もが一様に浮かれ騒いで、楽しく過ごすことには変わりは無い。
勿論、ボクだってその例には漏れずに、このお祭りは大好きなんだけど……。一度だけ、子供の頃のこの日に、泣いてしまったことがある。
その年。
初めて、食卓の椅子が一つ――ぽっかりと空いたままになってしまったクリスマス・イブのその夜。
ボクのところにサンタクロースは来てくれなかった。
ううん、贈り物はもらったんだ。でも……それまで、ボクが寝ぼけまなこに垣間見ていた、「サンタのおじさん」は現れなかった。
だから、ボクは知ったんだ。
サンタクロースは、本当は「おとうさん」だったんだってコト。
そして、今年からはもう――二度とサンタは現れないんだってコトを。
その年はホワイトクリスマスじゃなかった。
クリスマスの朝に、ボクが空いた椅子に座って赤い目をしていたので、おかあさんもおばあちゃんも困った顔をしていた。でも、何も言わなかった。
それから、ボクはクリスマスに泣いた事はない。
今年、おかあさんはどんなツリーを飾ったんだろうか。
魔導学校に入学して、今年はボクは家には帰れない。クリスマスはいつも家族で過ごしてきたけれど、今年は違う。クリスマスに余所のパーティーに出るのは、実は初めてだ。……あのサタンの主催するパーティーなんて、ただではすみそうに無い気もするケド。きっとすごく賑やかだよね。
魔導学校に入学するために旅だって、今年、本当に色んなことがあった。沢山の人にも会った。おかしな人たちばかりだケド……みんなパワフルで、退屈しないのだけは確かだ。昔のコトを思い出している暇なんかないくらいに。
「ぐぐーっ」
出会った中でも特に大切なボクの友達。カーくんが、ボクの左肩の上でちっちゃなしっぽをピコピコさせた。
ボクは結構長いことぼんやりしていたみたいだ。
「ごめんごめん。早くパーティーに行こうね、カーくん」
「ぐー!」
「うん。ご馳走は沢山ありそうだよね」
「ぐっぐぐー!」
「そんなに慌てなくても大丈夫だよ……そう簡単に無くならないと思うし。それにサタンは絶対カーくんの分はとっといてくれると思うよ?」
「ぐぅう?」
雪の向こうに、暖かい灯が見える。
ボクはそこに向かって歩き始めた。