セビリ物語3

 

 

「そんな言い方をしなくてもいいじゃない!!」
 セビリは大声を出して泣き出した。
「…またこの出だしか」
 内心、シェゾはげっそりした。

 

 森の中で女の子の泣き声がしていた。泣き声の聞こえる方に行くと泉があり、泣いているうろこさかなびとの姿が見えた。そして、そのそばに陰湿そうな黒衣の男。
「何をしているんだ!!女の子をいじめるなんて!!!」
 びくうと跳ね上がるようにして振りかえった黒衣の男は、俺の姿を認めた瞬間にげんなりとして脱力した素振りを見せた。
「何だ、えせ勇者か」
 ぼそりと、しかし聞こえるようにつぶやく。
 闇の魔導師シェゾ、…そのやり方が陰湿だ。

 

 えせ勇者と呼ばれてしまったラグナスがシェゾに噛み付く。
「なんだと!人の気配にも気づかぬ変態のくせに!!」
「それはどう言う言いがかりだ!?どうしてここで変態が出てくる!!」
 シェゾは変態と言う言葉に敏感に反応した。
「変態に変態と言って何が悪い」
「だぁ〜っ!!俺のどこが変態だっ、このチビ!!」
「チビといったなぁ〜!!」
 逆上して、ラグナスが剣に手をかける。緊張感があたりを包み,空気がぴんと張り詰めた。
 瞬間。
「まあまあ、醜い争いはこの辺にしとかねえか」
 割り込む声に二人が振りかえると、巨大な魚の体に人間の手足の生えた変な奴、すけとうだらがいた。
 ……。
「いったい、いつの間に…」
 シェゾとラグナスは同じ思いを抱いた。
「何でおまえがここにいる」
 シェゾはラグナスに背を向けるようにして、すけとうだらに話し掛ける。ぶっきらぼうな調子だが、ラグナスとの不毛な言い争いにも飽いていたのだろう。
 シェゾにとっては、すけとうだらの登場は良いタイミングだったのだ。
 しかし、シェゾの態度にラグナスの方はカチンと来た。シェゾに噛み付かんばかりの勢いで叫ぶ。
「きさま、俺を無視してぇ〜!!」
 が…。
「セビリちゃん!!また新しいぷよまんが出てたんだ。一緒に食べようと思って買ってきたんだよ(はぁと)」
「わぁ!!ありがとう。すけとうだらさん!!」
 …シェゾも無視されていた。
「そうか、そういうことだよな」
 シェゾは、すけとうだらの登場の意味に気づいてつぶやく。その背は少しだけ寂しい。
『セビリがいるから来たわけだ。セビリの奴もさっきまで泣いていやがったのに、気持ちの切り替えが早いやつだな…』
「や〜い!おまえも無視されていやがんの」
 シェゾが物思いから帰ってきた途端に、ラグナスの声が響いた。
 その声になんだかむかつく。すぐに言い返そうとして、ふと思いついた。
 その思いつきがうまい具合に行ったときの展開を思って、口の端がにやりとあがる。
「やかましい、チビ」
 からかうラグナスに言い置いて、セビリに話しかける。
「そう言えば、セビリさっきの事なんだが…」
 びくぅ。と、セビリが体を震わせる。
「はい」
「良いぜ」
 シェゾがちょっと無理をして笑ってみせると、せびりの顔がぱあっと明るくなった。
「ほ、ほんとですかぁ〜?」
「ああ」
と、すけとうだらが二人の会話に面白くない様子をあらわにした。セビリと話ながらすけとうだらの様子をうかがっていたシェゾは、スッとすけとうだらに耳打ちした。
 めずらしく素直にふんふんとシェゾの話に耳を傾けていたすけとうだらの表情は話が終わる頃には明るくなった。
「おう、それはいい考えだ、変態にしてはよく考えたな」
「変態は余計だ」
「い、いったいなんなんだぁ〜?」
 わからないのは、ラグナスひとり。
「気にするな」
 シェゾが言う。
「貴様に言われると余計に気になる」
「セビリちゃん、行こう。俺がエスコートするよ」
 どうしても不毛な会話になってしまうシェゾとラグナスをよそに、すけとうだらはとっととセビリを連れ出していた。
「ったく…」
 シェゾはつぶやいて、ラグナスを無視し、すけとうだら達のあとを追った。そして訳のわからないまま、なぜかラグナスも付いて来ていた。

 

「さあ、セビリちゃん着いたよ」
 着いた先は、ちょっとこじゃれたカフェ。
「わあ、ここが最近オープンした、ぷよまん本舗のカフェなんですね」
 セビリが、満面の笑顔で、はしゃいでいる。
 そして見掛けはともかく、キャラクター的にカフェというところに似合わない男が 3人。
「だいたい、こんな田舎にオープンカフェなんてもんを作ってどうしようってんだ。ピクニックでもしている方が、マシじゃないか」
 ひとり毒づく。
「何か言ったか?」
 すけとうだらが、毒づく男を睨みつけた。
 その後ろである意味怖い、泣きそうな顔…。
「おまえは、またそうやって女の子をいじめるのか」
「いじめる、いじめるって、今俺がそいつに何を言った?」
「そんな、そいつだなんて」
 ビクビクッと尾ひれ(?)が震える。
「ああ、違う違う。それより、注文しろよ」
 シェゾは、メニューの内の1冊をセビリに渡した。
 そして、残り1冊を自分で見る。その横からラグナスが、こっそりとのぞきこんできた。
「…結構なお値段じゃないか」
 思う。
「こんな田舎で、都会並に取りやがって…」
「いらっしゃいませでござるぅ」
 思っているうちに、ぶ〜んと、ハニービーが注文を取りにやってきた。
「だーっ、てめえはっ!!」
 シェゾが、ずずっと腰を浮かす。
「あ、その節はお世話になったでござる」
「世話になったじゃねえ、迷惑だ」
「人の頭に…」
 みんなの視線を感じて、シェゾは口篭もる。その方が、余計に怪しげなのだが…。
「とにかく注文を取れ」
「私はこれを…」
 セビリは、メニューの中を指差す。
「俺はこれだ」
 同じように、すけとうだらも指差した。

「俺は…」
 ラグナスは言おうとして、ぐるりをメンバーを見渡す。
 誰もラグナスが注文しようとするのを止める者はいない。
「俺はオレンジジュースで…」
 シェゾは一言だけ言った。
「コーヒー」
 ハニービーは伝票に書きこむ。
 その様子を見ながら、シェゾは言った。
「おい、そんなに世話になったというなら、おごれ」
「ななななな、拙者は、バイトの身の上でござる。そのような真似はできぬでござるよ」
 慌ててハニービーが言う。
「その代わり、おかわり自由の…」
 ハニービーは巨大な注射器をどこからともなく取り出した。
 それには、たっぷりと茶色い液体が、入っている。
「コーヒーを…」
 間合いをつめるハニービー。
「やめれ、コーヒーはっ!口で飲むもの…だっ!!」
 叫びながらシェゾは走り出した。
「ああっ!人の好意は素直に受けるでござるよ〜」
 ハニービーは、伝票をマスターのもももに放り渡すと大急ぎでシェゾを追いかけた。

 

「何やってんだぁ、奴ら」
 事態をよくは把握していないすけとうだらが、呆れたように言う。
 うろこさかなびとにすけとうだら、そしてラグナス。シェゾがいた時点でも変なメンバーだったが、シェゾが抜けた事でさらによくわからない組み合わせになってしまっていた。
「ももも〜、おまたせしたの〜」
 ハニービーが居なくなってしまったので、ももも自らが注文の品を持ってきた。
「こちらが、新メニューのぷよまん・パフェなの〜」
「そしてこちらが、おお甘口のチョコレート・パフェで、オレンジジュースなの〜」
「コーヒーの人がいないの〜。…注文は以上なの〜」
 そして、伝票をおく。
「ごゆっくりなの〜」
 もももは席を離れた。
「…意外とかわいい趣味なんだな」
 ラグナスがすけとうだらの注文の品を見て言った。
「余計なお世話だ、それよりセビリちゃん、早く召し上がれ」
「ありがとう、すけとうだらさん」
 セビリはにっこりと微笑んだ。そして、ひとくち口に運ぶ。
「うわぁ、おいしい!!」
 セビリが飛びあがらんばかりにして、喜ぶ。その姿を見て、すけとうだらもダンシンしかねないほど、舞い上がった。
「セ、セ、セビリちゃんに喜んでもらえて俺はッ、俺はっ!」
 くくーっと噛み締めて、涙を流さんばかり。
 そんな二人の様子を不思議な気分で眺めながら、ラグナスは自分の分を飲んでいた。
 手持ち無沙汰にメニューの細かい項目をマジマジと見る。
「!!!!!?」
『このソースには、最高級の○を使い、クリームには○牛の牛乳を使っています。このまろやかな味をご賞味下さい。そして、まるでぷよまんの皮のように見える…』
「…でっ!なんでこんなに値段を小さく書いてあるんだっ!?」
 そこには、高級料理店ほどの値段が書かれていた。ま、ラグナスが高級料理点に行った事があるかどうかは謎だが。
「おいおい、すけとうだら」
 ラグナスは浮かれているすけとうだらを現実に引き戻す。
「なんだ」
 不機嫌な顔になってすけとうだらは、ラグナスを見た。
 セビリは、ただただうれしそうにパフェを食べる。
「ここの値段…、払えるだけ持っているんだろうな」
 すけとうだらは、ラグナスをじっと見る。
「ふぃーしゅ!!」
 いきなりの雄たけびにラグナスはのけぞった。のけぞったラグナスをすけとうだらは店の隅に引っ張っていく。
「俺は一円だって持っていないぜ」
「なにっ」
「じゃあ、セビリ…」
「セビリちゃんには払わせないぜ」
 ラグナスの言葉を先取りしてすけとうだらが言う。
「割り勘…」
「ちっちっち」
 すけとうだらが、指を振る。
「男らしくねえなぁ」
「金がないのなら、どうしてこんな所に来たんだよ」
 言ってラグナスは、はっとした。
「そう言えば、あの変態魔導師がすけとうだらになにか耳打ちしていたな…」
「あいつが払うって言ってたんだが、どっかに行っちまったし」
 ポン。
 肩を叩かれる。
「おめえが、払ってくれるのが一番いい事だ」
 すけとうだらがうんうんとうなづく。
 にっこり。
 セビリが後ろで笑っていた。
 笑顔というものはある意味恐ろしい。

 

 ラグナスのような正義の味方にとっては特に…。
 そっとラグナスは持ち合わせを見る。
 ギリギリ事足りそうなお金を見て、はたと気づいた。
「変態魔導師に、はめられたぁ〜?」

 

 

 

 あまり疑いすぎるというのもラグナスのキャラじゃない気がしますが…。 
 ところでシェゾは、どうなったのでしょうね。くすっ。

 

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