「どうしてキミは立って、ぼくはいつも地べたに這いつくばっているんだろう」 そう言われて、女の子はとても驚きました。生まれたときからいつも一緒にいたけれど、そんなことを言われたのは初めてだったからです。 「だって……キミはボクの影でしょう」 「そうだけど。でもぼくだって好きで影をやってるわけじゃないよ。同じぼくなのに。キミはいつもまっすぐ地面に立っているのに、ぼくは地面に倒れて、キミに引きずりまわされているだけなんだ」 「そう言われるとかわいそうな気もするけど……ボクにはどうすればいいのかわからないよ」 女の子がそう言うと、女の子の影は言いました。「いい方法がある」と。 「ぼくとキミが入れ替わればいいんだよ」 「え〜っ? そんなの嫌だよ。だって、ボクだって引きずりまわされるのは嫌だもん」 「大丈夫。……一日だけでいいんだ。他の日は全部キミにあげる。一日だけでいいから、ぼくも地面に立って走り回りたいんだよ」 そう言われると、女の子は影の申し出を断ることはできませんでした。女の子は優しい性格をしていましたし、なにより影とは生まれた時からずうっと、誰よりも長く一緒に過ごしてきたのですもの。
こうして、一日の間、影と女の子は入れ替わりました。影の女の子は思い存分地面の上で動き回り、二人が入れ替わっていたことに、他の誰も気づくことはありませんでした。影の女の子は、女の子にそっくりだったのです。なにしろ、本人の影ですからね。
その一日は無事に終わりました。
けれども、一日だけでも地面の上での生活を体験した影の女の子は、もはや地べたに這いつくばっているだけの影でいることは、我慢できませんでした。 影は再び女の子に頼み込みました。一日だけの約束が一週間に一度になり、三日に一度になり、とうとう一日おきになりました。
「……それで、今はどっちなんだ?」 話を聞き終わって、青年は尋ねました。 「さぁね。ボクにもどっちなんだか判らなくなっちゃったよ。 まぁ、でもどっちもぼくなんだしね」 軽く笑って、女の子は言いました。
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