越冬卵

 唐突過ぎる登場に、この俺が驚かされたなんてことは断じてない。

「シェゾ! 見つけたっ!」
「どぁっ!? なっ、なんだイキナリ!」
「誕生日、おめでとう!」「ぐー!」
「は……?」
「いやぁー、すっかり忘れててさぁ。今、危うく思いだしたんだよねぇ。だからプレゼントとかはないんだ。ごめんね」
「フン。いらんわ、そんなもの。俺は闇の魔導師だぞ。そもそも、誕生日などというものに浮かれるほどガキでもないっ」
「ふーん。品物がない分、キミさえよければウチでゴハンを一緒にどうかなって思ってたんだケド」
「……」
「そんなに嫌なら仕方がないね。昨日から仕込んでおいた特製カレーがあったのになぁ」
「………」
「シェゾが好きなー、玉ねぎを飴色になるまで炒めて作ったヤツだったんだけど」
「…………、……」
「ぐー、ぐぐーぐっぐー」
「そうだねカーくん。いっぱい作ったけど、カーくんが食べてくれればいいか」
「あ」
「あっ、ねえねえ、そういえばボク、前から気になってたことがあるんだけど」
「な、なんだっ」
「冬になると、木の枝に小さい卵みたいな、壺みたいなのがくっついてるのを見かけるでしょ。アレって何なのかなぁ。あ、ほら、こういうの!」
「何かと思えば……。ソレは越冬卵だ」
「越冬卵? やっぱり卵なの?」
「虫が冬ごもりするためのものだな。それは蛾のヤツだから、中に毛虫が入ってるぞ」
「へぇー。……可愛いね!」
「は?」
「だって、冬のお家ってコトでしょ。丸いし、ちっちゃいし」
「……相変わらず感性が並みじゃない女だぜ……」
「あれ、でもこの卵は、中がカラッポだね」
「もう孵化したんだろう」
「ふーん。もしかしたら、今日生まれたのかもしれないね」
「そうかもな。厳密に言うと、《生まれた》というのも少し違うんだろうが」
「じゃあ、この毛虫とシェゾは、誕生日が一緒なんだね」
「は?」
「あはははっ。まあとにかく、気が向いたらカレー食べにおいでよ。急がないと、カーくんがみんな食べちゃうだろうけどね」
「ぐぐー!」
「……なんなんだ」

 呆気にとられて、俺は風のように立ち去ったあいつを見送った。

多分行く。

'08年のシェゾの誕生日に別館の日記に書いたもの…だった気がする。

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