「鬼はー外ぉーっ、福はー内っ!」

「わぷっ! 何しやがる、アルル。イキナリ人の顔に豆をぶちまけやがって」

「だって、今日は節分なんだよ、シェゾ。だから豆をまいてるんだよ」

「豆は鬼にぶつけろ」

「鬼役はサタンがやってくれてたんだけど、なんか、泣きながらどっかに行っちゃっ」

「サタン様に豆をぶつけたですってぇ〜〜!?」

「わっ、ルルー!」

「許せないわっ、なんて無礼な女なのっ。あんたが鬼になんなさい!」

「いや、だって、サタンが豆まきセットを持ってきたんだよ〜、一緒にやろうって。それで、豆は鬼にぶつける物だって言うから。鬼って、角の生えた魔物なんでしょ? サタンじゃん」

「……そりゃ、サタン様はご立派な角を持ってらっしゃるケド……」

「フン。ところでアルル、お前は節分の豆まきのいわれを知っているのか?」

「へ? 知らない。厄を祓う行事なんでしょ?」

「そうだ。その昔、人々は世の災厄を祓う名目で一人の人間をイケニエに選んだ。その人間によってたかって石を投げて追い払い、苛め殺したのだ。それが、豆を鬼にぶつけて追い払う形式になって残ったのだな」

「……え?」

「まだ続きがある。石で打たれ、村を追われて死んだ人間の魂は魔物化し、”鬼”となって人々を虐殺したのだ。だからこそ、今でも鬼の復讐を恐れ、人々は豆をまいて鬼を追い払おうとする。自分たちの罪は見て見ぬふりをして、な」

「え、え……」

「なんとも残忍だとは思わないか。そんないわれも知らず、楽しそうに鬼に豆をぶつけている奴も……」

「そ、そんな……。ボク、そんなつもりじゃ……っ。

 うわああぁ〜ん!」

「アルル! ……泣きながら逃げてっちゃったわ」

「つくづく騒々しい奴だな」

「……ところで、今の話、本当なの?」

「ウソだ」

「……やっぱりね」



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2002年の節分の「毒つぼ」より


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